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不思議な短編集 ( 其の弐 ) 第 1 話 箱 第 2 話 あるトイレの出来事 第 3 話 拡散希望 第 4 話 意思を持っている! 第 5 話 管理者 竹島八百富

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不思議な短編集

(其の弐)

第1話「箱」

第2話「あるトイレの出来事」

第3話「拡散希望」

第4話「意思を持っている!」

第5話「管理者」

竹島八百富

(3)

第 2 話

「あるトイレの出来事」

【起】 九月半ば、深夜一時半。 フリーターの城島は、やることもなく、暇つぶしにアパートの窓から双眼鏡で真夜中の 街並みを覗いていた。部屋の明かりを消して、ビール片手に街の監視員になった気分だっ た。 駅前ということもあり、マンションや商業ビルが建ち並ぶが、さすがにこの時間になる と人影はない。暗い公園も街灯がまばらに立っているだけだ。公衆トイレだけがやけに明 るく、双眼鏡の視界がどうしてもそこに集中する。別に覗きの趣味があるわけでもない。 ただ、そこが明るく目につきやすかっただけだ。 十分ほど眺めていたころだ。さすがに、人影もない風景に見飽きて、もう止めようと思っ たときだ。一人のスーツを着たサラリーマン風の男が公園の公衆トイレに近づいてきた。(こ んな時間にわざわざ公衆トイレを利用するとは…) 自分なら避けるよな。ちょっと歩けば、コンビニあるし、そっちのトイレの方がきれいで 安全だろう…などと、どうでもいいことを考えている間に、その男はトイレに入っていった。 すると、彼が入った数秒後、黒い薄手のジャンパーを着た男が続けてトイレに入って行っ た。城島は胸騒ぎがして、本能的に携帯の時間を確かめた。 午前一時五十五分。もう夜中の二時だ。目を離したのは、この一瞬だった。 しばらく、トイレの入り口を双眼鏡で凝視していたが、その後、しばらく動きがない。 男のトイレにしては長すぎではないであろうか?三分はたったか、いや五分か、双眼鏡の目 を離すことができないので、正確な時刻を確かめることができない。二人そろって大便で あろうか、それとも酔っ払って中で倒れこんでいるのであろうか。もしくはトイレの中で悪 事が行われているのではないか? 真夜中の二時に二人の男が同時に同じトイレで長時間用を足すことなどありえない。城 島の心は予想から確信に変わりつつあった。ただごとではないことを察して、体を窓枠の 下の隠し、目より上だけが、出ているような姿勢をとった。この暗闇だから、この姿が向 こうから、裸眼で見られることはないだろうが、いやな予感がしたため用心をした。 やがて、後から入っていった男が先に出てきた。辺りを見回すこともなく、何の躊躇も

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なくトイレから出てきて、公園の出口方面に向かって歩き出し、そのまま闇に消えていった。 先に入った男は一体どうした?城島は双眼鏡の目を離すことなく、携帯を目の真横に持っ てきて右目だけで、時刻をチラッと覗いた。その間も左目は双眼鏡の接眼レンズから離さ ないように…。 午前二時十四分、あれから二十分近く経っている。しばらく覗き続けた。まばたきぐら いしか視界を遮ることはない。 (一体どうしたっていうんだ。ちくしょう、もしかしたら、とっくに出ているのか、気にせ ずにいた初めのうちに出たんじゃないのか?きっとそうだ、もしくは酔っ払って中で居眠り してるんだ。) 午前二時十九分。城島はとうとういてもたってもいられずに、公園まで行くことにした。 その間にもしかしたら、サラリーマンは出て行くかもしれないが、とにかく今は公園のトイ レに行こう。 走ってどれくらいかかるだろうか。フリーター引き籠りの城島にとってはとてつもなく遠 い距離に感じたが、小走りでかかった時間は実際には五分程度だった。 公園に着くとすぐトイレを探した。公園からアパートの方を見たが、逆にビルの明るさ に埋もれていたため自分のアパートの正確な位置さえ分からなかった。これなら自分が双 眼鏡で覗いていたことはわからないことを知って安心した。城島はたった二段のトイレの 階段を上がった。一メートル四方の場があり、左に洗面台、右にトイレ場がある。城島は いきなりトイレ場に駆け込まず、一旦出入り口の洗面台に備え付けられた鏡で中に映る風 景を見た。人の気配は感じられない。今度は鏡を背に、そっとトイレ場の正面を向いた。 何の特徴もないごく普通のコンクリートで建てられた長方形の公衆トイレ、防犯用の蛍 光灯がやけにまぶしく、たくさんの虫が群がっている。人の気配は感じられない。向かっ て左側に小便器が四つ、右側に道具入れと個室トイレが二つ。正面の天井近くに換気用 の高さ三十センチほどの窓がついているが、とても人が出入りできるような代物ではない。 城島は恐る恐る足を踏み入れた。誰もいない。そして、半開きになっている個室の扉を 足で押した。一つ目…音も無く扉は押された。誰もいない。そして、二つ目…ギーっと音 を立て開いたが、やはり誰もいない。 掃除道具などが入っているはずの幅三十センチほどの扉には鍵が掛っていて開けること はできない。城島は建具に飛びついて、懸垂をするように顔を建具上部にあげて中を見た。 蛍光灯の明るさのおかげで中をはっきり見ることができた。やはり、モップやほうき、バ ケツなどの道具類がぎっしり詰まっていて、人が入るようなスペースはない。 それを確認すると、城島はそこから飛び降りた。たったこれだけの動きなのだが、普段 全く運動に縁のない城島にとっては十分すぎる久しぶりの運動だったので、肩で息をした。

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やはり、アパートから走っている間に出たのだろうか? どちらにしてもここにいるのは気味が悪い。そのときは、結局何も結論が出ることなく、 部屋に戻ることにした。 【承】 次の日、城島は直にそのトイレを監視することにした。公園の端の方にあるベンチから、 ろうじてトイレが見える位置で監視した。 携帯ゲームやチャットで時間潰しをしていた。午前二時近くになった。今日は何もない のか…そう思ってベンチを立とうとしたとき、またもやサラリーマン風の男がトイレに近づ いてきた。城島は携帯を顔面の前に立てたまま、しかし目はトイレを凝視していた。男は 昨日と同じ様子でトイレに入った。表情まで分からないが、昨日見た男と同じ身なりだった。 城島は動悸が激しくなったのを感じた。数分が過ぎたが、男はトイレに入ったまま出てこ ない。 すると…来た!なんとあの黒ジャンパーの男も来たではないか。城島は得体の知れない 恐怖で硬直した。やはり、昨日のことは、偶然なんかじゃない。中で何かが行われている のだ。 しばらく、そのままの姿勢でベンチからトイレを監視していた。昨日と同じだ、かなりの 時間が経っている。あれから三十分近くになるはずだ。 動きがあった。トイレから人が出てきたのだ。黒ジャンパーの男だ。彼は昨夜と同じく 何の躊躇もなく、飄々とトイレから出てきて、やはり闇の方へ向かった。一瞬、こちらを 見たような気もするが、こちらの暗闇の中を気づかれるはずはない。 黒ジャンパーが出てから、しばらくしても昨夜同様、サラリーマン風の男は出てこなかっ た。 昨日は、自室から公園へ向かう間に監視できない時間があったが、今日はずっとトイレ を見たままだ。見失うはずがない。城島は、堂々と公園のまん中を通って公衆トイレに向かっ た。何かあったときのために、携帯の動画を録画モードにしておいた。 一分もせずにトイレの前まできた。昨日と同じように、一旦左手の洗面台の鏡で中を映 した。誰もいないようだ。トイレ場に足を踏み入れる前に、入口から全体を見渡した。誰 もいない。そんなはずはない。確実に二人の男が中に入って、一人だけが出てきているのだ。 絶対に一人は中にいなければいけないのだ。昨日同様に個室のドアを押しあけたが、やは り誰もいない。

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(どういうことだ。今日はずっと見張っていたんだ。一時たりとも目を離さなかったのに。) 城島は尋常ではないことが起こっていることを実感し、急に恐怖を感じた。考えられるのは、 一つ。黒ジャンパーに…消された? 『ヤバい!』…そう思った瞬間、この場にいてはいけないという衝動に駆られた。  城島は慌てて、トイレ場から出ようと、洗面台の方を振り向いたとき、思わず叫んだ。 「うわあーっ!」全身が恐怖で凍りついた。  洗面台の前に黒ジャンパーが無表情で立っているではないか。  城島は後退りして、腰が抜けた。気を失う寸前だった。 ご購読いただき、ありがとうございました。 この本書の続きを、お読みになりたい方は、 下記サイトにて、ご購入いただけますようお願いします。 http://www.dlmarket.jp/product_info.php/products_id/224612/title/ 本書の内容を著者の許可なく公開したり 構成・デザイン等を無断で複製する行為 また、再配布・二次販売など 公序良俗に反する行為は固く禁じさせていただきます。 竹島八百富

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