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都薬雑誌 発行/2009年 3 月 1 日発行(通巻498号)VOL.31 NO.3 昭和54年11月28日 第 3 種郵便物認可 発行人/社団法人 東京都薬剤師会会長 桑原 辰嘉 発行所/社団法人 東京都薬剤師会 〒101-0054 東京都千代田区神田錦町1─21 TEL 03(3294)0271 印刷/日本印刷株式会社 定価300円(送料別) 都  薬  雑  第三十一巻 第三号︵平成二十一年︶ ●●● 昭和54年11月28日第3種郵便物認可    2009年3月1日発行(毎月1回1日発行)VOL.31 NO.3 通巻498号     ISSN 0285-1733

巻頭言  都薬出版委員会

◎調剤過誤を防ぐ包装・表示の工夫 ◎医薬品医療機器総合機構における新薬審査業務

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Vol.

31

No.3

March 2009

CONTENTS

都薬

雑誌

The Journal of The Toyaku

巻頭言

出版委員会の活動について────────────────────── 南條 正季 2

くすり

がん疼痛治療とオピオイドの役割 第 2 回 オピオイドの働き ────── 川面 弘樹 10 調剤過誤を防ぐ包装・表示の工夫 第 1 回──────────────── 園田 努 17 重篤な副作用の初期症状 第 8 回 薬剤性パーキンソニズム ─────── 飯久保 尚 21 良き製剤は人生最良のパートナー その 2 ─────────────── 並木 徳之 28 これからの時代の情報の活かし方 第11回 ─────────────── 田村 祐輔 41 漢方薬に使われる植物 第53回 アサ ────────────────── 指田 豊 47

医 療

腎臓の世界 第 4 章 かげに隠れた大事な器官「腎臓」を知る────── 船木 威徳 4

社 会

医薬品医療機器総合機構における新薬審査業務───────────── 本田 二葉 36

会 員

支部だより(103)八王子支部 ミシュランの三ツ星“高尾山”─────── 茂木 徹 34 社保委員会だより 第34回 ────────────────── 都薬社会保険委員会 54 平成21年度上半期予定表 ──────────────────────────── 61 都薬の活動状況 / 1 月会務 ─────────────────────────── 62 研修会のお知らせ─────────────────────────────── 64

その他

切手でつづる薬十二話( 8 )化学構造式──────────────── 平林 敏彦 24 書評 : 知っておきたい一般用医薬品 ─第 2 版─ ───────────────── 27 やくれんの窓───────────────────────── 東京都薬剤師連盟 53 スプーン 1 杯の薬の話(63)診療拒否と江戸の名医たち ────────── 丹野 顯 58

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2 都薬雑誌 Vol 31 No.3(2009) 巻頭言 出版委員会の活動について 東京都薬剤師会 出版委員会委員長  

なん

じょう

 正

まさ

出版委員会の活動について

東京都薬剤師会には10を超える委員会があり,「公衆の厚生福祉の増進に寄与するため 薬剤師の倫理的水準を高め,薬学,薬業の進歩発達を図ること(本会定款)」を目指し, 活発に活動しております。私が所属する出版委員会は,本号の巻末にもあるように,都薬 役員 5 名と,本会会員からの委員10名で構成されております。雇われ社長ではないですが, 読者からの評判が落ちると,すぐに首が飛びそうな委員長は,最も暇そうな顔をしていた 私が仰せつかり,委員会の進行役を担っています。委員の職種は私のような開局薬剤師の ほか,病院薬剤師,大学の教官,東京都の職員,卸の情報担当と様々です。この様に様々 な職種の委員が協力し,記事の内容が会員の皆様に少しでも役立つことを願いながら「都 薬雑誌」を編集してまいりました。かく云う私,会員になりたての頃は,送られてきた「都 薬雑誌」をほとんど読んでおりませんでした。ところが,ある年の地区薬剤師研修会に, 谷古宇常務理事が講師としていらした時,「この雑誌は面白いから是非読んで見て下さい。」 と熱く語られたのが印象に残りました。根が素直なので,翌日早速,斜めではなく,きち んと読んでみると,なるほど面白い,味があるということで,現在までの愛読書となって おります。その間,年のせいで読みにくいと言うと,文字のポイントを大きくしてくれたり, 大きなことから小さなことまで,年々改善されて行くのを肌で感じつつ,現在出版委員と しての役割を果たしております。お蔭さまで,昨年は発刊30周年を迎えることができ,こ れも長年会員の皆様が「都薬雑誌」を愛読して下さった結果であると,出版委員一同,心 より感謝致しております。 出版委員会は定例で毎月第一水曜日に開催し,各委員が企画を持ち寄り,「都薬雑誌」 編集のポリシーに合うか否かの検討,依頼原稿の進捗状況確認,受け取った原稿の内容検 討を行い,掲載が適正か否かを判断しております。さらに,「都薬雑誌」は社団法人東京

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都薬剤師会の機関紙であることも忘れてはならない点です。東京都薬剤師会の活動の方向 性を会員に紹介することのみならず,本会機関紙に適正である記事か,コマーシャル性が 出すぎていないか等のチェックや,公共性が認められない企画・公平でない企画は外すな どのポリシーもあります。これからも,先輩委員の方々から受け継いだ「面白くてために なる雑誌・気軽に読んでいただける薬剤師(街の科学者)のための雑誌」という位置付け で,本誌企画を継続していきたいと考えています。 また,「都薬雑誌」は対象が全会員となり,年齢,性別,職種,経験の差が極めて大き いと考えられますので,いろいろな視点からの企画を載せるよう努力しております。今を みて,先をみて,その上で,現場レベルの記事,研究レベルの記事,コーヒー・ブレイク 的記事,これらをミックスし,この一冊で,私たち薬剤師の置かれている状況がつぶさに 分かる雑誌とすることも目標の一つと考えています。インフルエンザパンデミック阻止へ の動きに対しては昨年の 1 月号で,また北京オリンピックでドーピングに当たるか否かで 話題になり,その後ドーピングには当たらないとされた加圧空気チャンバーに関しても昨 年 9 月号で紹介しています。さらに年明けに,篤姫を好演した女優の宮 あおいさんがカ プセルを持って「映画は ?」と聞いているテレビコマーシャルは 1 月号の「カプセル型内 視鏡」を読めば,患者さんにすぐ説明が出来ます,等など,話題に先駆けた記事も多数あ ります。 最後に会員の皆様へのお願いですが,出版委員一同,会員からの投稿論文を心待ちにし ております。学会等で発表したものを,まとまった論文にする作業は大変ですが,査読を 通過し,論文が掲載された時の達成感はすばらしいものがあります。余り難しく考えずに, 先ず書いて投稿してみてください。投稿は自分の仕事を完成させる一つの手段であり,見 事完成するよう出版委員もお手伝いさせて頂きたいと考えております。学会発表だけでは もったいない内容の仕事が沢山眠っていると思います。繰り返しますが,会員の皆様の挑 戦を心よりお待ちしております。 委員会の活動の紹介ということですので,巻頭言としての品位は不足しておりますが, 今後とも,出版委員会は会員の皆様の職能向上のために利用して頂ける,読んで面白い雑 誌を目指して活動してまいります。皆様も気軽に読んで頂き,企画への感想等がありまし たらメールや FAX で都薬あてに,遠慮なくご連絡ください。 今後とも,会員が作る「都薬雑誌」へのご支援をよろしくお願いいたします。

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かげに隠れた大事な器官「腎臓」を知る

東京女子医科大学東医療センター 内科・血液浄化部 

船木 威徳

ふな たけ のり

第 4 章

医療 4 都薬雑誌 Vol 31 No.3(2009) 腎臓の世界 CKD の治療を考える前に 前回の最後に述べたように, 腎臓の働き は,単に体内の水分量調節や老廃物の排泄に とどまりません。腎臓の機能のなかで低下し たものを,日常診療で治療しうる(是正しう る)働きとして, 1 )水分量の調節 2 ) 老廃物 (特に,タンパク質の最終産物で ある窒素化合物)の排泄 3 ) レニン・アンギオテンシン系を介した血 圧の調節 4 )酸性物質の排泄による酸塩基平衡の維持 5 ) 赤血球の分化・成熟を促すエリスロポエ チンの産生と分泌 6 ) ビタミン D の活性化を行い,副甲状腺ホ ルモンとともに Ca,リン代謝を調節する などが挙げられます。 すでに示した図 1 をご覧いただきますが, CKD(慢性腎臓病)の治療はおおざっぱに 2 段階に分かれます。CKD の原因すなわち 「原疾患」の治療の段階と,すでに CKD が出 てしまってからの CKD そのものの治療です。 あとで詳しく述べますが,CKD になるリス クの高い人たちを治療する,あるいはそのリ スクを可能な限り軽減するところから CKD の治療は始まります。 残念ながら,CKD を伴うまでに進展して しまったものについては,上に挙げた腎臓の 働きが徐々に失われていく程度に合わせて, 治療メニューを増やしてゆくこととなるので す。 CKD がはっきりするまでの治療 シ リ ー ズ 第 3 章 で CKD の ス テ ー ジ 分 類 (表 1 参照)について示しましたが,ここで 腎臓の機能障害の程度を評価する上で用い るのは GFR です。もちろんステージ(病期) が上がるほど,GFR は低下していき, 腎臓 の障害は大きいわけですが, この表にある 「ハイリスク群」は,文字通り,一般人口の なかでとりわけ CKD となるリスクが高いと いうことです。 ではそのリスクとはなんでしょうか?表 2 に,CKD 診療ガイドに記されたリスクファ クターをまとめます。ご覧の通り,(自分を 含め)読者のみなさんも簡単に当てはまりか ねないものだと言えます。特に,「年齢」と なれば,だれもが避け得ないわけで,およそ すべての国民がいつかはこの CKD ハイリス ク群に入ることとなるのです。 このハイリスク群の治療は,すなわちリス クを軽減することです。喫煙者は禁煙する, 肥満なら減量する。一般に,啓発があまりに 乏しいと言えるところでしょうが,われわれ 医療者としては,すでに治療を受けている疾 患がこのリストに含まれている患者さんに は,「CKD 予備軍」だという認識を持って指

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導していかねばならないという点を改めてお きたいと思います。薬剤師の先生方におかれ ては,なおのこと,すでに降圧剤や,血糖降 下剤を内服している患者さんをご覧になると き,それは CKD 予備軍であるのです。 CKD ステージ1∼2の比較的軽い段階の治療 CKD 治療の大きな目的は,患者の QOL を 著しく損なう末期腎不全に至ることを阻止す る,あるいはそこに至る時間を遅らせること と,心血管病・脳血管障害といった命に関わ りうる病気の新規発症,再発を抑制すること にあることだと,すでにお話ししました。 ハイリスク群では,あまり目に見えなかっ た腎機能障害が,ステージ 1 ∼ 2 にかけて, 尿検査,血液検査ではっきりしてくると同時 に,こうした CKD 治療が本格的な段階に入 るのです。 表 1 を見ると, ステージ 1 ∼ 2 における 治療計画がいきなり込み入ってくることが 分かります。図 1 の流れに見られるように, CKD の原疾患の治療に加え,いよいよ顔を 見せ始めた CKD そのものの治療と心血管病 (CVD)の治療を始めなくてはなりません。 CKD のステージは簡単に進んでしまう CKD の治療を具体的に始めるには,腎臓 のどの機能がどの程度,損なわれているかを 評価しなくてはなりません。この章のはじめ に挙げた,腎臓の基本的な機能を踏まえ,ど の機能が落ちているか,どこを補わなくては ならないかを考えます。 表 3 に腎機能が落ちてゆくことで生じう る, 各症状や病態を簡単にまとめます。 表 1 にもう一度戻りましょう。 ステージ 1 ∼ 病期 重症度の説明 診療・治療計画 ハイリスク群 CKD スクリーニング CKD リスクを軽減させる 治療 1 腎障害あり GFR は正常 または亢進 上記+ CKD の診断と治療の開始 合併症の治療 CKD 進展を遅延させる治 療 CVD リスクを軽減させる 治療 2 腎障害あり GFR は軽度低下 上記+腎障害進行度の評 価 3 GFR 中等度低下 上記+腎不全合併症治療 (貧血,高血圧,二次性 副甲状腺機能亢進症,な ど) 4 GFR 高度低下 上記+透析・移植の準備 5 腎不全 透析・移植の導入 表 1   CKD のステージと診療計画 (CKD診療ガイドラインより改変) 図 1  CKD の原因となる疾患の進展のイメージ ・高血圧 ・耐糖能障害,糖尿病 ・ 肥満,脂質異常症,メタボリックシンドロー ム(生活習慣病) ・膠原病,全身性感染症 ・尿路結石,尿路感染症,前立腺肥大 ・慢性腎臓病の家族歴,低体重出産 ・ 過去の健診での尿所見異常や腎機能異常,腎 の形態異常の指摘 ・ 常用薬(特に NSAIDs),サプリメントなどの 服用歴 ・急性腎不全の既往 ・喫煙 ・高齢 ・片腎,萎縮した小さい腎臓 表 2   CKD 発症あるいは腎障害進行 のリスクファクター

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医療 6 都薬雑誌 Vol 31 No.3(2009) 腎臓の世界 4 に至るまで,結局のところ,CKD が進ん でいくのは,結局のところ,失われる腎臓の 機能障害の程度が大きくなっていくことであ り,治療は当然,その補うべき機能に合わせ て増えてゆくのだということがお分かりで しょう。 図 2 は, その腎臓の機能障害の程度がど んどん進むのに応じて,どうやって治療とし ての介入をするかをまとめたものです。リス クファクターの軽減ないし除去に始まり,生 活習慣の改善,食事指導,そして大きな武器 である薬物による治療と,多彩なメニューを 集学的に使いこなさねばなりません。 しか し,ここで一番知っておいてほしいことは, こうした治療の介入がなければ,あるいは不 十分な場合,腎臓の機能は容易に急速に,低 下してゆくという事実です。子供の火遊びの 後,くすぶっているだけの状態を消火し,そ の後監視するのは簡単です。しかし,すでに 家の周囲に火の手がまわっている火事を消し 止めるのは難しく,一度焼け落ちてしまった ものを取り返せないのと同じです。ややこし い話をできるだけ抜きにして,具体的な治療 のお話に進めてゆきましょう。 CKD の治療の各論 1 )生活指導・食事指導 CKD ステージ 4 までは水分の過剰摂取・ 極端な制限は有害です。食塩摂取はそのまま 余剰水分の貯留の原因となり,高血圧に反映 されるため,一日 6 g 未満を前提とします。 当然, 肥満の是正に努めなくてはなりませ んが,必要なエネルギー(25∼35kcal/ 標準体 重 kg/ 日)はとらねばなり ません。 禁煙は CKD の進 行の抑制に重要なだけでな く,CVD の発症を予防す るために必要なことは言う までもありません。CKD 患者さんが,よく食事指導 で摂取タンパクの制限をし ているのを耳にすると思い ますが,脂肪や炭水化物と 違って,タンパク質はその 組成に窒素を含みます。脂 肪や炭水化物は最終的に水 と炭酸ガスに分解され得ま すが,窒素は尿中と,わず 図 2   CKD の主たるエンドポイント (ESRD と CVD) をめぐる病態の連鎖と治療的介入 正常な腎機能 CKD による機能障害 老廃物(いわゆる尿毒素) の排泄 尿毒症 ホルモン調節(レニン, アンギオテンシン)によ る血圧コントロール 高血圧,心筋肥大 尿量を調節し,体内の水 の量を調節 浮腫,心肥大,うっ血性 心不全,胸水の貯留 電解質(ナトリウム,カ リウム,カルシウム,リ ンなど)の排泄,再吸収 高カリウム血症,低カル シウム血症,高リン血症 など各種の電解質異常 酸の排泄を調節し,血液 の酸塩基平衡を維持 代謝性アシドーシス ビタミン D の活性化 腎性骨異栄養症 赤血球の分化と成熟を促 すホルモンであるエリス ロポエチンを分泌 腎性貧血 表 3  腎臓の機能障害における病態,症状

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かに便の中にしか捨てられません。 このた め,腎臓に余計な仕事をさせないために取り 込む窒素を減らすためだと考えると簡単だと 思います。 2 )降圧療法 高血圧が CKD の原因(原疾患) となり, CKD はまた高血圧の原因となります。互い の悪循環を断ち切るために,CKD ではより 厳格な降圧療法を必須としますが,これは降 圧がしっかりしていると GFR の低下が遅く なることが証明されているからです。同時に CVD の発症抑制にもなります。生活習慣の 改善(特に減塩)をはじめ,各種降圧薬によ る治療がほとんどの患者さんで必要となりま す。 ACE(アンギオテンシン変換酵素)阻害 薬や ARB(アンギオテンシンⅡ受容体拮抗 薬) が, 優れた腎機能保護効果を持つこと は,すでに製薬メーカーの積極的なプロモー ションで何度もお聞きでしょう。腎臓の大事 なろ過装置である糸球体が傷んでゆくのを抑 制することで,タンパク尿の減少をもたらす などの効果があります。 結果として,GFR の低下をゆっくりにするほか,動脈硬化や心 筋が硬くなる合併症(最終的に心臓のポンプ 機能が落ちる)を抑制するとされています。 図 3 に,腎機能と高血圧・降圧剤の関係を, 簡単にまとめます。 充分な降圧のためには ACE 阻害薬,ARB のほか, 利尿剤や Ca 拮 抗薬を併用投与します。あくまで実臨床での 話ですが, 目標とする降圧の達成のために は,例えば Ca 拮抗薬同士を併用することも あり,薬剤師の先生からの問い合わせが多い のもよく分かるのですが,これはミスではな く,やむをえず行っていることなのです。 3 )糖尿病の治療 いまさら繰り返すまでもなく, 糖尿病は CKD の原疾患としてもっとも大きな問題で す。厳格な血糖コントロールは,CKD の発 症を減らすだけではなく, すでに発症して いる CKD の進展も確実に抑制します。一般 に, ヘモグロビン A1c 値を目安にした, 血 糖値のコントロール目標は,合併症の予防を 目的としたものです。しかし,すでに合併症 の末期像である腎障害を認めていても,引き 続き,同じ目標での治療が必要です。とりわ け,糖尿病性腎症で は,大血管障害が多 く認められるため, 降圧はもちろんのこ と,脂質異常症など の 危 険 因 子 の 管 理 も重要となります。 CKD の進展ととも に,例えば経口血糖 降下剤が減量,ある いは中止になる,イ ンスリンの投与量が 減量,ときに中止に な る こ と も あ り ま す。 よ く 質 問 を 受 けますが, これは, 図 3  腎機能と高血圧・降圧剤の関係

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医療 8 都薬雑誌 Vol 31 No.3(2009) 腎臓の世界 CKD がよくなっているからではなく,わず かながら残っている自力で分泌しているイン スリンが,腎臓の機能低下によって尿中に排 泄されなくなり,長時間,体内に残ることで 作用を増強するために起こる現象です。患者 さんによっては,処方箋を見て,「糖尿病が よくなった」と勘違いすることも多いので注 意が必要です。 4 )脂質異常症の管理 脂質異常症を治療すると,CVD のリスク が下がることはよく知られていますが,腎臓 機能の低下を抑制する効果も期待されていま す。すでに,スタチンでは,タンパク尿や微 量アルブミン尿を軽減する作用が認められて おり,積極的なコントロールが推奨されてい ます。ただし,古くから用いられているフィ ブラート系の薬剤のうち, ベザフィブラー ト,フェノフィブラートは腎不全,透析患者 さんでは禁忌となっています。 5 )貧血の管理 CKD が進行すると,腎臓で産生・分泌さ れるエリスロポエチンというホルモンが減少 します。 エリスロポエチンは, 赤血球の分 化・成熟を促すホルモンなので,結果として 貧血が生じ,これを腎性貧血と言います。特 に,CKD の患者さんでは,厳格な食事療法 による鉄不足,尿毒症物質の蓄積による造血 障害,赤血球の寿命の短縮などが手伝い,と きに著しい貧血を認めることもあります。治 療としては, ヘモグロビン値で11.0g/dL 以 上の維持を目標に, 鉄剤の投与, さらには 遺伝子組み換えヒトエリスロポエチン製剤 (rHuEPO)の投与を行います。 貧血は,CKD の進展を抑制するだけでな く,CVD の予後を改善することも確認され ています。非常に高価な薬剤ですが,貧血が 顕著となってからでは,改善に時間がかかる ため,腎性貧血と判断されたら,早期に投与 を始めるべきです。 6 )骨ミネラル代謝異常の管理 CKD の合併症に対する薬物治療で,もっ とも理解の難しい分野でしょう。 CKD では,骨だけでなく血管の石灰化を 含む,生命予後に影響を及ぼしうる全身疾患 をきたしますが,これらを,CKD における 骨ミネラル代謝異常と総称します。CKD の 進展とともに血清 Ca 値は低下し,血清リン 値と副甲状腺ホルモン(PTH) は上昇しま す(二次性副甲状腺機能亢進症)。この病態 は,おおよそ CKD ステージの 3 ∼ 5 で見ら れ,最初はリンの吸着剤(炭酸 Ca 製剤)な どによるリン値のコントロールを行います が, その先の治療に用いられる活性型ビタ ミン D の副作用として, 高カルシウム血症 や,高リン血症があるため,なかなかうまく いかないのです。高リン血症の不十分なコン トロールは,血管の石灰化を助長するため, CVD リスクの増加につながります。CKD 患 者さんの内服薬処方のなかでも,降圧剤にな らんで,頻繁に投与量が変化するのが,こう した骨ミネラル代謝異常の薬剤かも知れませ ん。 7 )高 K 血症,代謝性アシドーシス CKD のステージが進むと,体内で生じた 酸の腎臓からの排泄が減少し, 代謝性アシ ドーシスを起こします。こうして蓄積した酸 は, 血液中の重炭酸イオンを消費するので す。GFR が著しく低下すると, 硫酸やリン 酸などもたまって,さらにアシドーシスは進 行するので,これを少しでも是正するため炭 酸水素ナトリウム(重曹)を投与します。 CKD のステージ 3 以降で認められる高 K 血症は,K そのものの摂取過剰と,ACE 阻 害薬,ARB の投与によることがほとんどで す。血液中の K のレベルが上昇すると致死性 不整脈の引き金となるため,K 低下作用を持 つループ利尿薬や陽イオン交換樹脂を組み合 わせて用います。

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8 )尿毒症毒素の軽減のための管理 CKD の患者さんの多種におよぶ内服薬の なかで特に目立つ存在なのが, 経口吸着薬 (活性炭)でしょう。これは,CKD の特にス テージ 4 以降で,腸内に増加し,結果として 血中の尿毒症毒素の増加につながるとされ る,インドキシル硫酸などの有機酸を腸のな かで吸着し,便中に排泄するものです。服用 によって,尿毒症症状の軽減,透析導入の遅 延効果が得られますが, 通常, クレメジン 6 g すなわち,200mg カプセルなら一日30カ 図 4  CKD のステージの移り変わりと薬物治療の流れ プセルと処方も多量になるため,どうしても コンプライアンスが悪くなりがちな点が課題 です。 以上, 腎臓の機能障害の程度により, ス テージ 1 ∼ 4 と悪化する主な症状に対しての 治療について, 薬物を中心にお話ししまし た。 図 4 に全体の流れを示しますが, 次章 では,ステージ 5 ,透析(移植)治療の概略 と, 透析患者さん特有の薬物をとりあげま す。

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くすり 10都薬雑誌 Vol 31 No.3(2009) がん疼痛治療とオピオイドの役割 はじめに がん性疼痛治療において,各患者の病態に 応じた最適な鎮痛剤を選択することは,医療 従事者にとっても医療を受ける側にとっても 非常に重要である。 第 1 回(都薬雑誌 Vol.31 No.1) では医療 用麻薬の法律上の位置付けなどを,“麻薬” に対する悪しきイメージを交えつつ,“「医療 用麻薬」とは,適正に使用する限りなんら恐 れる必要のない薬物であり, 規制上の「麻 薬」の中でも「オピオイド」に分類される 「医療用医薬品」である。”と説明した。今回 は,そのオピオイドと受容体に焦点を当て, オピオイド発見の歴史から薬理学的な働きに ついて概説していきたいと思う。また,オピ オイドに関する最新の報告論文等に触れるこ とで,皆さんがオピオイドを選ぶ際の材料の 一つとなればと思う。 オピオイドの歴史1) オピオイドの一つであるモルヒネは,ケシ 類の未熟果実(ケシ坊主 写真 1 )に傷をつ けて滲出されるあへん(opium)成分から抽 出単離された薬物であることは前回にも述べ た。 このケシの栽培の起源は太古の昔へと遡る が,メソポタミヤでのシュメール人による栽 培が最も古いと考えられている。それは,現 在のバクダット南部より発掘された粘土板に よって紐解かれた。その粘土板には楔形文字 が刻まれており,紀元前3500年頃のシュメー ル人の生活について描かれていたのである。 それによると,彼らはケシを“歓喜,至福を もたらす植物”と呼び,その栽培や滲出汁の 採集を行っていたことが明らかとなった。 他方,医療を目的としたケシやあへんの使 用についてもその歴史は長いと考えられる。 紀元前1550年頃のエジプトの古典文書 Evers Papyrus には薬物療法の処方が約700種記載 されており,あへんを頭痛治療に用いたこと が記されている。 また, 紀元前 3 世紀頃の ギリシャでは,「生薬学の父」とも言われる Theophrastus が,自らの著書「植物の歴史」 の中で,生薬学的観点からあへんの有用性に ついて述べている。 このように長きにわたり使用されてきたあ へんであるが, その有効成分が明らかにさ

オ ピ オ イ ド の 働 き

ヤンセンファーマ株式会社 マーケティング本部 Pain・麻酔マーケティング部

か わ

つ ら

 弘

ひ ろ

き がん疼痛治療とオピオイドの役割 がん疼痛治療とオピオイドの役割

2

写真 1  ケシ坊主

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れたのは,19世紀に入ってからのことであ る。1803年にようやくドイツ人薬剤師 F. W. A. Serturner によって,有効成分であるアル カロイドが初めて単離された。 彼はそのア ルカロイドをギリシャ神話の夢の神である Morpheus(写真 2 )にちなんで morphinum と命名した。その名は現在のモルヒネの語源 ともなっている。 そ の 後 も あ へ ん の 有 効 成 分 に つ い て の 研究は進み,1833年にはフランス人の P. J. Robiquet が コ デ イ ン を,1835年 に は 同 じ く フ ラ ン ス 人 の P. J. Polletier が テ バ イ ン を, 次いで1848年にはドイツ人の化学者 G. Merck がパパベリンを, それぞれあへんか らの単離に成功している。このようにあへん から直接単離されたアルカロイドをアヘンア ルカロイドと呼ぶ。20世紀に入ると,そのア ヘンアルカロイドを原料とした半合成アルカ ロイドと呼ばれる一群の化合物の誕生が相次 ぐことになる。1916年にはテバインの半合成 誘導体としてオキシコドンが,その後もテバ インやコデインからジヒドロコデインが,テ バインからブプレノルフィンが相次いで合成 されている。 また,1960年には P. Janssen(写真 3 )が, あへん由来のアルカロイドを原料としない フェンタニルの合成に成功し,1963年には医 薬品として発売されている(表 1 )。 このように長い歴史を持つオピオイドであ るが,薬理学的なメカニズムの詳細が明らか にされてきたのは比較的最近のことである。 特に,オピオイドが作用する受容体の存在が 提唱され始めたのは1973年以降である。 オピオイド受容体2∼3) オピオイド受容体は,薬理学的に数種類の 受容体に分類されており,主な受容体として は,μ,κおよびδ - オピオイド受容体の 3 種類がある。これら 3 つの受容体の遺伝子ク ローニングは1990年代以降盛んに行われ,い ずれも 7 回膜貫通型のいわゆる G 蛋白質共役 写真 2  夢の神 Morpheus 写真 3  P. Janssen 氏 分類名称 分類の説明 薬物名称 アヘン アルカロイド あへんより抽出単離された成分 モルヒネ コデイン テバイン など 半合成 オピオイド アヘンアルカロイドを原料とし て合成されたオピオイド ジヒドロコデイン オキシコドン ブプレノルフィン など 合成 オピオイド あへん由来のアルカロイド以外 を原料として合成されたオピオ イド フェンタニル ペチジン など 表 1  生成過程の違いによるオピオイド分類

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くすり 12都薬雑誌 Vol 31 No.3(2009) がん疼痛治療とオピオイドの役割 型受容体であり,アミノ酸配列の相同性も全 体として約60%と高いことが解っている。ま た,各オピオイド受容体は脳内分布が異なっ ていることから生理機能もさまざまであるこ とが知られている(表 2 )。 ①μ - オピオイド受容体 μ - オピオイド受容体は大脳皮質,線条体, 視床,視床下部,脊椎後角などに多く分布し ている。この受容体を介して発現する主な作 用は,脳部位および脊髄部位での鎮痛,多幸 感,消化管運動の抑制,呼吸抑制,徐脈など である。μ - オピオイド受容体に作動する代 表的なオピオイドはフェンタニルとモルヒネ である。 一方で, フェンタニルとモルヒネのよう に,同じμ - オピオイド受容体作動薬である にも関わらず,臨床上,発現する副作用など に違いが見られることがある。 この相違に は,各受容体の選択性の相違だけではなく, μ - オピオイド受容体サブタイプ(特にμ1, μ2- オピオイド受容体)への親和性の差も関 与していると考えられている。これについて の詳細は本稿の最後,「最近のオピオイド研 究」の項で述べたい。 ②κ - オピオイド受容体 κ - オピオイド受容体は脊髄後角,線条体, 視床下部などに多く分布している。この受容 体を介する主な作用は,脳部位および脊髄部 位での鎮痛,鎮静,縮瞳,徐脈,嫌悪感など である。 痛みがある場合には,フェンタニルやオキ シコドンにより精神依存が起こらないことが 知られているが,その要因として,このκ -オピオイド受容体神経系の亢進が強く関与し ていることが示唆されている。この精神依存 が起こらない機序については第 4 回にて説明 したい。 ③δ - オピオイド受容体 δ - オピオイド受容体は大脳皮質や側坐核 などに多く分布している。この受容体を介す オピオイド受容体タイプ μ - オピオイド受容体 κ - オピオイド受容体 δ - オピオイド受容体 構造 7 回膜貫通型(G 蛋白質共役型) 脳内分布 大脳皮質,視床,扁桃核, 青斑核,弧束核,黒質など 脊髄,線条体,側坐核,弧 束核,視床下部など 大脳皮質,側坐核など 生理機能 鎮痛, 鎮咳, 多幸感, 身 体・精神依存,呼吸抑制, 徐脈,消化管運動抑制,瘙 痒感,尿閉など 鎮痛,鎮咳,鎮静,縮瞳, 徐脈,利尿,嫌悪感,呼吸 抑制,身体違和感など 鎮痛,情動,身体・精神依 存,呼吸抑制など 代表的なオピオイド フェンタニル +++ モルヒネ +++ + オキシコドン +(強さは不明) +(強さは不明) ブトルファノール P +++ ブプレノルフィン P −− ペンタゾシン P ++ ナロキソン −−− −− − +:作動薬,−:拮抗薬,P:部分作動薬 国立がんセンター中央病院薬剤部 編著 オピオイドによるがん疼痛緩和 p81∼p82,エルゼビア・ジャパン,東京,2006. から一部改変 表 2  オピオイド受容体の種類と代表的オピオイドの作用

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る作用は,μ - オピオイド受容体を介する作 用と類似しており,主な作用は脳部位および 脊髄部位での鎮痛,呼吸抑制などである。動 物実験において,δ - オピオイド受容体作動 薬はμ - オピオイド受容体作動薬の鎮痛作用 や精神依存を増強することが知られている。 このように 3 つの受容体はいずれも鎮痛作 用に関与している。しかし,鎮痛作用に最も 重要な受容体はμ - オピオイド受容体である ことが知られており,現在,中等度から高度 のがん性疼痛治療に使用されている,いわゆ る強オピオイド(フェンタニル,オキシコド ン,モルヒネ)はすべてμ - オピオイド受容 体作動薬であり,他の受容体と比較してμ -オピオイド受容体との親和性が高い。 オピオイドの薬理学的分類2∼3) これまでもオピオイドについては,法規制 上の分類や薬物の生成過程の違いにより分類 してきた。ここでは,鎮痛作用に最も重要と 思われるμ - オピオイド受容体への薬理学的 な作用の違いに着目し, オピオイドを作動 薬,部分作動薬,拮抗薬の 3 つに分類する方 法について説明する(表 3 )。 ①作動薬とは 別名,モルヒネ様オピオイドとも呼ばれ, μ - オピオイド受容体へ作動的に働く一群で ある。おそらく他の受容体へも作動的に働く と予測されるが,μ - オピオイド受容体への 親和性が特に高いことが特徴である。 がん性疼痛治療で汎用されている強オピオ イド(モルヒネ,フェンタニルおよびオキシ コドン)はいずれも作動薬に分類される。 ②部分作動薬とは 別名,オピオイド拮抗性鎮痛薬とも呼ばれ る。ここに分類されるペンタゾシン,ブトル ファノール, ブプレノルフィンはいずれも μ - オピオイド受容体に対して作動的に働く 一方で,モルヒネなどの作動薬に対しては競 合的に拮抗性を示し,いわゆる部分作動的に 働く一群である。 この分類に含まれる 3 剤に共通する臨床上 の特徴として, 高用量では鎮痛効果がプラ トーに達し,それ以上薬剤を増量しても鎮痛 効果が増強しなくなる, いわゆる天井効果 (ceilling eff ect)を示す。

③拮抗薬とは 各受容体に対して拮抗的に作用するため, モルヒネなどの作動薬があらかじめ投与され ていなければ,ほとんど作用を発現しない一 群である。モルヒネなどの過量投与により呼 吸抑制等の急性中毒が発現した場合に解毒薬 として使用される。代表的なものにナロキソ ンがあるが,ナロキソンは特にμ - オピオイ ド受容体への親和性が高く,低用量でもμ -オピオイド受容体に対して拮抗作用を示す。 しかしながら,δおよびκ - オピオイド受容 体に対しては高用量にならなければ拮抗作用 を示さないため,ペンタゾシンなどの部分作 動薬の過量投与による中毒には,より大量の ナロキソンを必要とする。 以上のようにオピオイドはμ - オピオイド μ - オピオイド受容体へ の作用分類 オピオイド 作動薬 フェンタニル オキシコドン モルヒネ ペチジン ジヒドロコデイン コデイン 部分作動薬 ブプレノルフィン ブトルファノール ペンタゾシン 拮抗薬 ナロキソン 表 3   μ - オピオイド受容体への作用の違いによる オピオイドの分類

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くすり 14都薬雑誌 Vol 31 No.3(2009) がん疼痛治療とオピオイドの役割 受容体への作用の違いにより 3 つに分類され る。そこで次の項では,特に作動薬の中でも 強オピオイドに分類される,フェンタニル, オキシコドン,モルヒネにおける最近の知見 について説明したい。 最近のオピオイド研究 モルヒネからフェンタニルに切り替えるこ とで, 便秘の発現頻度が減少するというい くつかの臨床報告4 ∼ 6 ),また,モルヒネから フェンタニルパッチへの切り替えにより眠気 が有意に減少するという臨床報告4 ) 6 )や,オ キシコドンからの切り替えでも意識が明確に なったという事例が報告されている7 ) 8 ) こうした報告の裏には一体どのような事実 があるのだろうか。それに答える方法の一つ が, オピオイドの各受容体への選択性の相 違もしくはμ - オピオイド受容体サブタイプ (特にμ1,μ2- オピオイド受容体)への選択 性の相違について考察を加えることである。 以下に,鍋島によって報告された論文3 ) 要約する。 ①受容体とその作用 フェンタニル,オキシコドン,モルヒネの 鎮痛作用は主にμ - オピオイド受容体を介し て発現している。μ - オピオイド受容体はさ らにμ1及びμ2と呼ばれる 2 つのサブタイプ に分類されるが,μ1- オピオイド受容体は主 に脊髄より上位に分布し,他方,μ2- オピオ イド受容体は主に脊髄レベルに分布する。特 にμ1- オピオイド受容体は鎮痛に関連した脳 領域での発現が高く, 鎮痛作用は主として μ1を介した作用であると考えられている。 オピオイドの最も代表的な副作用である便 秘は,μ2- オピオイド受容体を介した消化管 運動の抑制に起因している。また,中枢性の 副作用としての鎮静作用(眠気,傾眠など) についても同様で,μ1- オピオイド受容体よ りもむしろμ2- オピオイド受容体を介して発 現することに加え,κおよびδ - オピオイド 受容体を介しても発現することが報告されて いる(表 4 )。 ② 強オピオイドの受容体およびそのサブタイ プへの作用 これら受容体に対する,各オピオイドの親 和性を既存の文献を基に比較検討した結果, よりμ - オピオイド受容体選択的(v.s. κも しくはδ - オピオイド受容体選択性)である オピオイドは,フェンタニルであることが示 唆された。更に,μ1- オピオイド受容体の選 択性(v.s. μ2,κもしくはδ - オピオイド受 容体選択性)の高さについても,フェンタニ オピオイド受容体・生理機能 μ κ 鎮痛 鎮静 悪心・嘔吐 呼吸抑制 δ 鎮痛 鎮静 便秘 呼吸抑制 μ1 鎮痛 悪心・嘔吐 など μ2 鎮痛 鎮静 便秘 呼吸抑制 フェンタニル ++++ ++ +(κ1) + オキシコドン ++ +++ +(κ1) +++(κ2) + モルヒネ +++ ++ +(κ1) + ++++:Ki< 1 nM かつ分離能(Ki比)>100倍,+++:Ki<_100nM かつ分離能(Ki比)>_ 1 倍 ++:Ki>100nM または分離能(Ki比)< 1 倍,+:Ki>100nM かつ分離能(Ki比)< 1 倍 鍋島俊隆,ペインクリニック 29(10):1407-1413,2008(一部改変) 表 4  各薬物のオピオイド受容体への作用特性

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ルが最も高いと推察された。 このことから,κおよびδ - オピオイド受 容体に共通する鎮静作用の発現やμ2- オピオ イド受容体を介した消化管運動の抑制に起因 する便秘の発現は,他のオピオイドに比較し てフェンタニルでより少ないと考えられる。 以上のことから,フェンタニルはより鎮痛作 用に特化したオピオイドであると期待できる (表 4 )。 このように,フェンタニルの薬理特性の一 つとして,μ1選択性が高いという考察結果 と,μ1- オピオイド受容体はオピオイド特有 の「鎮静」や「便秘」といった副作用を介す る主たる受容体ではないという事実は,本項 の冒頭に述べた臨床報告を矛盾なく説明でき る。 また,こうした一連の最近の知見から著者 である鍋島は次のように締めくくっている3 ) 「モルヒネやオキシコドンの投与により眠気・ 傾眠などの鎮静作用が見られた場合に,フェ ンタニルへ切り替えることは患者の QOL 向上 の面で有益である。また,受容体に対する親 和性を考慮してオピオイドを選択することに 加え,鎮静を呈さない鎮痛用量へ調整するこ とも重要である。副作用対策の薬物をいたず らに追加することは患者の QOL および医療 経済の両面から好ましくない。さらに,疼痛 治療の初期から適切なオピオイドを選択する ことが,過剰な鎮痛作用を回避するためにも 重要である。」 最後に オピオイドの歴史は気の遠くなるような長 い年月を経て, 今日に至っている。 現在で は,その種類も増え,その多くが臨床使用可 能となってきた。それに伴い,オピオイド受 容体に関する研究も急速に進み,それぞれの 受容体が介する薬理作用や各オピオイドとの 親和性の違いも明らかになりつつある。中で も鍋島の最近の論文によると,臨床報告され ているフェンタニルの有意性は,各オピオイ ドの受容体選択性の相違によるものと推察で きる。このように,臨床試験などによって報 告されている事例と,基礎的な研究報告とを 関連付けて理解することは,より正しい薬剤 選択へ繋がるものと信じている。 引用文献

1 ) Schiff PL Jr. Opium and Its Alkaloids. Am. J. Pharm. Edu. 66, 186∼194, 2002 2 ) 佐伯 茂 . 中枢性神経鎮痛薬使用に際して必要 な知識−オピオイド受容体− . 緩和医療(1), 68 ∼74, 1999 3 ) 鍋島俊隆 . フェンタニルの鎮痛作用と鎮静作用 の分離 . ペインクリニック , 29(10), 1407∼1413, 2008

4 ) Clark AJ, Ahmedzai SH, Allan LG, et al., Efficacy and safety of transdermal fentanyl and sustained-release oral morphine in patients with cancer and chronic non-cancer pain. Curr. Med. Res. Opin. 20(9), 1419∼1428, 2004 5 ) 水口公信 , 山村秀夫 , 武田文和ほか . 癌性疼痛に

対するフェンタニルパッチ(KJK-4263)の臨床 評価(2)−換算表に基づいた切り替え及び継 続投与時の検討− . 医薬ジャーナル , 37(8), 137 ∼160, 2001

6 ) Ahmedzai SH, Brooks D. Transdermal fentanyl versus sustained-release oral morphine in cancer pain:preference, efficacy, and quality of life. J. Pain Symptom Manage. 13(5), 254∼ 261, 1997 7 ) 四宮敏章 . フェンタニルパッチで穏やかな疼痛 コントロールが得られた緩和ケア病棟の 2 症例 . Prog. Med. 28(8), 1989∼1993, 2008 8 ) 清水公一 , 今井健一郎 , 吉利賢治ほか . 経口モル ヒネ製剤 , 経口オキシコドン製剤 , フェンタニル 貼付薬の3剤における鎮痛効果および副作用の 比較 . Prog. Med. 28(9), 2267∼2272, 2008

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はじめに 医薬品と一般の商品との違いは,医薬品は 人の体内に入って作用を発現し,病気の予防 や診断,治療に使われ,直接生命にかかわる 商品であることである。また,医薬品の品質 は,外観からは判断が難しいので医療関係者 も患者も,その製薬企業の品質を信頼して使 うしかない。それゆえに医薬品は,品質,有 効性,安全性の三大要件が十分確保され,か つ適切な情報をともなって,初めてその目的 が達成されるわけである。したがって,医薬 品が適切に取り扱われ,また使用されるため には,包装・表示は不可欠の要素である。そ のため,医薬品の表示については薬事法など で厳しく規制されている。 また,最近は,調剤過誤防止のための医薬 品の包装・表示が強く求められている。ここ では,医薬品の法的規制にとどまらず,顧客 ニーズを取り込んだ使用性を高めるための包 装・表示の工夫を加えて,製薬企業の立場か ら述べてみたい。 1.医薬品包装と法規制 1-1.医薬品包装を取り巻く法規制 医薬品包装の基本は薬事法である。薬事法 を中心にして公定書(日本薬局方など)・各 種基準,業界での自主申し合わせ事項,ある いは学会,日本薬剤師会や日本病院薬剤師会 からの要望などがあり,さらには社会的責任 という立場での制約もある。 医薬品包装の企画・設計にあたってはこれ らの法規制を熟知し,洩れのないようにしな いと, 生命に重大な結果を招くおそれもあ り,また,不良表示で回収につながる場合も ありうるので注意を要する。 2.錠剤・カプセル剤の表示 2-1.製品名印刷表示について 使いやすい錠剤に対する因子には色, 表 示,大きさ,形,強度等がある。最近では, 調剤過誤防止およびリスクマネージメントの 観点から識別性が重要視され,種々の検討が されている1 )。この中でも錠剤・カプセル剤 本体への直接印刷表示が有効な方法と考えら れるが,医薬品業界は日本病院薬剤師会の要 請に応えて,また,表示スペースが狭いこと や,印刷の困難さなどから,ほとんどの製品 に会社マーク,製品コード等の識別コードを 表示している。 しかし,アルファベット,数字,記号等か らなる識別コードは,薬剤を判別しにくいた め,患者はもとより薬剤師でも必ずしも十分 満足されていないのが現状である。 当社ではカプセル剤については既にサワシ リン, ドグマチール, セフスパン, セフゾ ン,インタールなどの約50%に製品名カタカ ナ表示を実施している(写真 1 )。 一方, 錠剤本体への製品名カタカナ表示 は,国内でも一部の製品において,識別コー ド表示から製品名カタカナ表示に変更されて

調剤過誤

を防ぐ

包装・表示

の工夫

アステラス製薬株式会社 学術情報部 

そ の

 努

つとむ

第1回

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18都薬雑誌 Vol 31 No.3(2009) 調剤過誤を防ぐ包装・表示の工夫 くすり いる例(写真 2 )も出てきており,今後,製 品名カタカナ表示の動きが加速されることも 予想される。 2006年 5 月,写真 3 に示す糖尿病用薬であ るスターシス錠の小型化にともない,更なる 識別性向上を目指し,製品名カタカナ・含量 表示,錠剤着色,PTP シートデザイン変更 を行った。その結果,特に製品名カタカナ・ 含量表示に対しては,医療機関から「 1 回量 包装の際の錠剤監査が確実効率的に出来る」 「確実に識別できることが重要な糖尿病用薬 には非常に有用である」「患者さんと医療関 係者のコミュニケーションが容易になった」 「患者さんの服薬コンプライアンス向上が期 待できる」等,高い評価をいただいた。 2-2. カプセル剤本体への製品名表示方法及 び印刷技術 カプセルへの製品名印刷表示は, 調査結 果では Axial-Print(横書きタイプ)の表示 が,Roto-Print (円周状タイプ)の表示より 見やすいということで高い評価が得られてい る。しかし,製品名他の印刷可能範囲からす ると, 4 号カプセル以下の小さいカプセル は文字の読みやすさを考慮すると Roto-Print (円周状タイプ)にせざるを得ないのが現状 である。カプセル製造メーカーには,さらな る印刷可能範囲の拡大を望みたい。 今後,調剤過誤防止の観点から,特に薬剤 師より 1 回量包装の錠剤監査の正確化, 効 率化が切望されていることからも,糖衣錠, フィルムコート錠のみならず,裸錠への製品 名印刷表示の早期実現が期待されている。 3.直接容器の表示 3-1.PTP シートへの薬効表示 田部ら2 )の外来患者を対象にした PTP シー ト表示事項の重要度評価についてのアンケー ト調査(図 1 )では,①薬効表示,②使用期 限表示,③服用時間,④製品名カタカナ表示 の順で要望が高いことを報告している。 ま た,高橋ら3 )の PTP シートにおける薬効表 示の検討でも薬効表示の要望が高いことを報 告している。 患者が PTP シートに薬効表示を要望する 理由は「安心して飲める」,「よく分かる」, 「薬を区別しやすい」などの意見が代表的で セフゾン,セフスパン(アステラス) 写真 1  カプセル剤への製品名表示例 ドグマチール(アステラス) ケタス(キョーリン) 写真 2  錠剤への製品名表示例 スターシス(アステラス) アプレース (キョーリン) リマチル(参天) 写真 3  錠剤の識別性向上の例 (スターシス錠)

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あったとしている。 PTP シートへの薬効表示は薬剤情報提供 と服薬指導の補完的な役割を果たすと考えら れていたが, そればかりではなく, 患者に とっては簡単に薬効が分かる利便性が高い手 段となり,服薬間違い防止の観点からも大変 有用な表示であることが示唆されたと報告し ている。 さらに,高橋らの調査3 )(N =310)では, PTP シートの文字の大きさ,見やすさにつ いても調査され, 薬効表示の文字の大きさ は 8 ポイント,8.5ポイント,9.5ポイント, 10.5ポイントの 4 種の中では, 一番大きい 10.5ポイントが,年齢を問わず好ましいとの 回答が多かったと報告している。 以上のような背景を踏まえ,当社では,患 者の要望に応えるべく, 可能な製品から順 次,PTP シートへの薬効表示に取り組んで いる。 3-2.PTP シートへの使用期限表示 PTP シート,分包シート,坐薬のコンテナ 等については数少ない製品を除いて使用期限 は表示されていないのが現状である。一方患 者にとっては品質保持期限,賞味期限等の食 品の期限表示に慣れ親しんできた結果,逆に 期限表示のない医薬品に対しては疑問と不安 をいだいているようである。医薬品の品質・ 適正使用への関心が高まる中で,医薬品の使 用期限についての問い合わせが急増している のもその疑問の一端を示すものであろう。 また,多くの病院薬剤師から,医薬品の適 正使用,品質確保のための重要な情報として PTP シートへの使用期限表示が提言がされ てきた。 3-3. 935通知による PTP への表示事項 1 )“のまないことの表示” 錠剤やカプセル剤等の剤型をした外用剤 は,経口剤であるとの先入観を与えるため, PTP シート等の内袋の両面に“のまないこと” の文字を目立つように,おおむね 2 錠( 2 カ プセル)分のシートに 1 カ所記載すること。 2 ) PTP シート(内袋)の記載事項の取扱い 医薬品の誤投与を 防 止 するためには, 調剤時,投薬時及び 患者の服用時に容易 に 確 認 できるよう, PTP シートに和文販 売名・ 英文販売名, 規 格・ 含 量 , 識 別 コード,ケアマーク, 注意表示等を記載す ること(写真 4 )。 などが通知により義務づけられた。 3-4. その他の PTP シートへの表示,形状の 工夫 ①点字について 平成18年の厚生労働省の調査によると視覚 障害者は31万人。そのうち点字を読める人は 3 万人強といわれている。医薬品包装への点 字の必要性については種々の議論があるとこ ろであるが,慈恵医大第三病院よりの依頼に より PTP シートへの点字表示について検討 した例を紹介する。写真 5 -A は PTP シート に刻印(エンボス)で“くすりです”と表示 した例,写真 5 -B 同様の表示をシートポケッ トを成型すると同時に成型で表示した例であ る。いずれの例も視覚障害者に判読していた だいた結果,判読可能と評価された。また, 図 1  包装シート表示における患者の重要度評価 写真 4   和文販売名他 の PTP シート への表示例

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20都薬雑誌 Vol 31 No.3(2009) 調剤過誤を防ぐ包装・表示の工夫 くすり EU では個装ケースへの点字表示が義務づけ られているが,その例を示す(写真 6 )。 ② PTP シートの V ノッチ バリアフリーの観点から視覚障害者に対す る識別性向上の工夫では,写真 7のようなシー ト外周部にVノッチとよばれるへこみを付加し た形状が,シート分割時の目安になって良い。 また,不幸にしてシートをうっかり飲み込んで しまった場合,食道などにひっかかりにくいと いう利点もあると評価されている。 3-5.直接容器の工夫 1 ) うがい薬の容器を点眼薬との誤用を避け るため,点眼ボトルが先端部から滴下す るのに対し,横にノズルを設け,容器を 横か斜めにしないと,薬液が出ない設計 にした例(写真 8 )がある。 2 ) 点眼瓶のキャップのヘッドの部分の形を 変えることにより,非常に識別しやすく なった例(写真 9 )がある。 3 ) 点眼ボトルの形状を変更し,点眼しやす い,また,識別性を向上させた例(写真 10)もある。 次回は調剤過誤防止のための,医薬品包装へ のバーコード表示について述べる。 参考文献 1 ) 木下教之他:錠剤・カプセル剤本体への製品名 印字ー識別性向上への取組みー 東京都病院薬 剤師会雑誌, Vol.57 No.3(2008) 2 ) 田部和久他:外来患者における PTP シート表示 事項の重要度評価, 月刊薬事,40(12),2789 (1998) 3 ) 高橋祥元他:PTP シートにおける薬効表示の検 討第2報(患者の意識調査),第21回日本病院薬 剤師会近畿学術大会講演要旨集(2000.1) 写真 5 -A,B 点字表示 PTP シート検討例 写真 6  個装ケースへの点字表示例 写真 7  PTP シートの V ノッチ例 写真 8   うがい薬の 誤用防止容 器の例 写真 9 キャップの形状を 工夫した例 写真10  点眼瓶 改善事例

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■■1 .はじめに まだまだ寒い日が続きます。これだけ寒い と家に閉じこもり,動 作も鈍くなってしまい ますね。皆さんの薬局 に通ってくる患者さん にも,最近動作がぎこ ちなくなったという方 はいらっしゃいません か ? でももしかしたら, それは寒さが原因では なく,薬剤性パーキン ソニズムかもしれませ んよ(図)。 ■■2 .薬剤性パーキンソニズムとは1 ) パーキンソン病とは,体内のドーパミンと いう神経伝達物質が不足して起きる病気でし た。パーキンソン病と同じような症状を示す 病態をパーキンソニズム(パーキンソン症候 群)と呼び,その症状には無動,固縮,振 戦,突進現象,姿勢反射障害,仮面様顔貌な どがあります。 ドーパミンの受容体には,大きく分けると D1受容体(興奮)と D2受容体(抑制)があ り,日常的に使用される医薬品のうちの幾つ かはこのドーパミン受容体をブロックする作 用を持っています。このため薬剤によって興 奮と抑制のバランスが崩れ,薬剤性パーキン ソニズムが引き起こされると考えられていま す。 パーキンソン病と薬物性パーキンソニズム との違いは,表 1 のようなことが考えられて いますが,この区別は絶対的なものではあり ません。 ■■3 .症例1 ) 【症例】60歳代,男性 虚血性心疾患 使用薬剤:塩酸チアプリド 25mg 使用期間: 7 日間 虚血性心疾患があり,バイパス手術を施行 した。術後創部の痛みが強く,不眠が続いて いた。不眠に対して,塩酸チアプリド25mg を 1 日 1 回投与した。 投与開始 2 日目:小刻み歩行の傾向が出現し た。 投与開始 5 日目: さらに不眠が増強したた め,塩酸チアプリド75mg を 1 日 3 回に分け いい たかし

重篤な副作用の初期症状

重篤な副作用の初期症状

東邦大学医療センター大森病院 薬剤部 飯久保 尚 東邦大学医療センター大森病院 薬剤部 飯久保 尚

薬剤性パーキンソニズム

Drug-induced Parkinsonism

─第 8 回─

 薬剤性パーキンソニズム

Drug-induced Parkinsonism

ポイント 薬剤性 パーキンソニズム パーキンソン病 症状の進行 急速 (週∼月単位) 緩徐 (年単位) 左右差 目立たず あり 振戦 なし∼姿勢・ 動作時が多い 静止時 L-DOPA の 効果 被疑薬投与中は 無効 有効 表 1   薬剤性パーキンソニズムと,パーキンソン病 の鑑別(文献 2 から引用) 図  パーキンソニズム 典型例の姿勢

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くすり 22都薬雑誌 Vol 31 No.3(2009) 重篤な副作用の初期症状 て投与を開始した。 投与開始 6 日: 振戦, 固縮, 無動, 突進現 象,転倒傾向,仮面様顔貌,姿勢反射障害な どのパーキンソン様症状を認めた。 投与開始 8 日:症状が薬剤性パーキンソン病 によると考え,塩酸チアプリドを中止し,フ マル酸クエチアピン 4 mg を一日 3 錠, 3 回 に分けて投与を開始した。 投与開始15日(投薬中止して,約一週間): パーキンソン病の症状は,消失した。 ■■4 .初期症状 動作が遅くなった,声が小さくなった,表 情が少なくなった,歩き方がふらふらする, 歩幅がせまくなった(小刻み歩行),歩き出 すときの一歩目が出ない,手が震える,止ま れず走り出すことがある,手足が固いなど。 ■■5 .原因薬剤 精神神経用薬(抗精神病薬, 抗うつ薬), 消化性潰瘍用薬(制吐薬など),その他の消 化器官用薬(胃腸運動調整薬など)や抗てん かん薬など多くの薬剤が原因となる可能性が あります。特に消化器官用薬は併用して用い られるケースもしばしばあり,作用が増強す るため注意が必要です。厚労省にパーキンソ ニズムの報告の多い推定原因医薬品(原則と して上位10位)の一覧を表 2 に示します。 ■■6 .発生機序 薬剤毎に異なりますが,ここでは代表的な ドーパミン拮抗薬である精神神経用薬(抗精 神病薬,抗うつ薬)について説明します。 精神症状を起こす機序が,中脳−皮質ある いは中脳−辺縁系の機能過剰状態であるとい う仮説に基づき,これをブロックするドーパ 年度 副作用名 医薬品名 件数 平成16年度 (平成17年 7 月集計) パーキンソニズム 塩酸ドネペジル 4 塩酸マプロチリン 2 スルピリド 2 リスペリドン 2 ラフチジン 2 パルサルタン 2 メシル酸ブロモクリプチン 2 炭酸リチウム 1 ピモジド 1 デカン酸フルフェナジン 1 その他 6 合計 25 平成17年度 (平成18年10月集計) パーキンソニズム スルピリド 6 ハロペリドール 4 塩酸パロキセチン水和物 2 マレイン酸レポメプロマジン 2 ペグインターフェロン アル 2 ファー2b(遺伝子組み換え)フルニトラゼパム 2 臭化水素酸デキストロメトルファン 1 デカン酸ハロペリドール 1 エチゾラム 1 ヒベンズ酸クロルプロマジン 1 その他 16 合計 38 表 2  パーキンソニズムの報告の多い推定原因医薬品

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ミン拮抗薬が使用されます。この作用機序か ら考えて,必然的に脳でのドーパミン機能を 障害し,パーキンソン様症状を出すと考えら れます。約80%のドーパミン受容体(D2受容 体)がブロックされるとパーキンソン様症状 が出現するといわれます。抗精神病薬のなか で,クロザピン,クエチアピンは症状を発現 しにくいといわれています。多くの抗精神病 薬は本来の精神疾患に対する効果を発揮する ために,受容体の90%位をブロックする必要 がありパーキンソニズムを生じてしまいます が,クロザピン,クエチアピンなどは,60% くらいのブロックで本来の効果を発揮でき, パーキンソニズムが出る程まで薬物濃度を上 げなくて良いからと考えられています。 ■■7 .発症時期 投与開始数日から数週間のことが多く,全 患者の90%以上で20日以内に発症している とされます。ただし,多くの医薬品があり, 個々に異なることもあります。また,副作用 が発生しやすい条件として,高齢者・女性・ 使用薬剤の量が多いなどが挙げられます。 引用文献 1 ) 厚生労働省重篤副作用疾患対応マニュアル・薬 剤性パーキンソニズム,2006年11月 2 ) 朝 日 理 , 葛 原 茂 樹: ふ る え と 薬 物 服 用 , Modern Physician,27(1),84∼87,2007

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その他 24都薬雑誌 Vol 31 No.3(2009) 切手でつづる 薬十二話

1

化学構造式の歴史

7 世紀にアレクサンドリアで開花して16世 紀に興隆を極めた錬金術は,化学の発達,特 にくすりの発明・発見に大きく寄与した。 錬金術では,物質の表示に象形文字のよう な記号を用いてきた。 19世紀に入り,物質の単位として「原子」 の概念を復活させた英国の科学者ジョン ・ ド ルトン(1766∼1844) は,「原子」 を“円” で表わすことを提唱した。 例えば, ○は酸 素,●は炭素,Ⓢは銀とするなどしたが,広 くは受け入れられなかった。 スウェーデンの医師で化学者でもあった イェンス・ベルセリウス(1779∼1848)は, 1814年に政府から委嘱され薬局方を編纂する 際に,「化学記号は文字を使うべき」と主張。 そして「各化学元素のラテン名の頭文字を使 う。 2 つの元素で最初の 2 文字が同じ場合 は,頭文字のあとにその 2 つが共有していな い最初の文字を添える。元素記号を組み合わ せて化合物を表わす」とした6 )。ここに,現 在の化学式が誕生した。 その後,ユストウス・リービッヒ門下のド イツの化学者フリードリッヒ・オーガスト・ ケクレ(1829∼96)は,1866年,ベンゼン核 は 6 個の炭素原子が環状となっており,それ は四価であると発表,またその化学構造の表 わし方を提唱した。この六角形の構造式は, 転寝のときに浮かんだという。

2

化学構造式に関する切手

切手 1 は,1971年 9 月に旧チェコスロヴァ キア郵政が,国際薬史学会開催を記念して発 行した 6 種のうちの 1 種である。薬草のキク ニガナ(Cichorium inlybus)とレトルトが 描かれているが,切手の両側と右下部分に錬 金術で使われていた物質の記号が描かれてい る。このような錬金術の記号が描かれた切手 は珍しい。 切手 2 は,1948年 9 月に,わが国の旧郵政 省がアルコール専売10年を記念して発行した 切手である。この切手はもう一つ「化学知識 普及運動」と題したキャンペーン切手でもあ る。切手には表示されていないが,タブに書 かれている。アルコール蒸留塔とエチルアル コールの分子式,それに切手の両側にはエチ ルアルコールの原料のサツマイモの葉が描か れている。 なお,「化学切手同好会」 の HP によれば,この切手は分子式がデザインされ た世界で最初の切手とのことである。 切 手 3 は,1964年 8 月 に 旧 西 ド イ ツ 郵 政 が,「科学と技術の進歩」と題して発行した 3 種のうちの 1 種である。この切手は,ケク レがベンゼンの分子構造を解明して100年を 迎えることを記念したもの。ケクレの名とベ ンゼンの分子式及び化学構造式という大変シ ンプルなデザインである。 切手 4 は,1966年 7 月にベルギー郵政が, 切手 3 と同趣旨で発行したもの。ベンゼンの

つ づ る

薬 十 二 話

㈶医薬情報担当者教育センター 常務理事 平林 敏彦

  化 学 構 造 式

ひらばやし とし ひこ

8

第 話

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分子構造式の中にケクレの肖像をはめ込むと いう洒落たデザインである。 切手 5 は,1965年 9 月にイギリス郵政が, 消毒法発見100年を記念して発行した 2 種の うちの 1 種である。 イギリスの有名な外科医であったヨゼフ・ リスター(1827∼1912)は,手術後の高い死 亡率を低減するため,石炭酸を手術室や器具 類に噴霧し,細菌感染を激減させた。 切手は,リスターと石炭酸の化学構造式そ れにエリザベス二世の肖像である。 切手 6 は,1962年 7 月に旧ソ連邦郵政が, ロシアの近代化学の祖といわれるニコライ・ N. ジニン(1812∼80) 生誕150年を記念し て発行したものである。 ジニンにより初めてアニリンの合成が成功 したことから,切手には,肖像とアニリンの 化学構造式が描かれている。 切 手 7 は,1982年 8 月 に 旧 西 ド イ ツ 郵 政 が,ドイツの化学者フリードリッヒ・ヴェー ラー(1800∼82)の没後100年を記念して発行 したもの。ヴェーラーは,アルミニュウムも 発見しているが,有名なのは1828年にシアン 酸アンモニウムの合成実験中に尿素の合成に 成功したことである。これは無機化合物から 有機化合物が得られることを示している。切 手には,尿素の分子モデルと化学式が描かれ ている。 切手 8 は,1966年 7 月に旧チェコスロヴァ キア郵政が,チェコ化学協会設立100年を記 念して発行したもの。 石油から発見された “アダマンタン”という炭化水素(C10H16)の 炭素骨格が描かれている。これを無限に連結 したものがダイヤモンドになるという9 ) 切手 9 は,1978年11月にアフリカのガボン 共和国から,ペニシリン発見50年を記念して 発行されたもの。 図案は, イギリスの細菌 学者アレクサンダー・ フレミング(1881∼ 1955)の横顔と左にペニシリンの化学構造式 が,下部には実験器具が描かれている。フレ ミングは,1928年,ブドウ球菌の研究中にア オカビの溶菌現象を発見,分離し,ペニシリ ンと命名した。 切手10∼12までは日本の切手である。 切手10は,1993年11月に新文化人切手シ リーズ(第 2 集)として発行された 1 種で, 農芸化学者の鈴木梅太郎(1874∼1943)であ る。1912年,米ぬかの成分中に生体に不可欠 (※切手の縮小率は 約75%です) 切手 1 切手 2 切手 3 切手 4 切手 5 切手 6 切手 7 切手 8 切手 9

参照

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