Ⅰ 緒 言 セリ科の多年生植物トウキ(Angelica acutiloba Kitagawa)(第 1 図)は,我が国における主要な薬 用作物の 1 つである.根を乾燥させたものは「当帰 2019 年 8 月 5 日受領 2019 年 10 月 17 日受理 Correspondence: [email protected] 〔原著論文〕
薬用作物トウキ(Angelica acutiloba Kitagawa)における
葉の収穫が根の収量に及ぼす影響
米田健一・浅尾浩史
*奈良県農業研究開発センター 果樹・薬草研究センター 637-0105 奈良県五條市西吉野町湯塩
*現奈良県農業研究開発センター研究開発部 633-0046 奈良県桜井市池之内
Balancing Leaf Harvest and Root Yield of Medical Plant Tōki
(Angelica acutiloba Kitagawa)
Kenichi Komeda and Hiroshi Asao
*Fruit and Medical Plant Research Center, Nara Prefecture Agricultural Research and Development Center, Yushio, Nishiyoshino, Gojyo, Nara 637-0105
*Present address Research and Development Department, Nara Prefecture Agricultural Research and
Development Center, Ikenouchi, Sakurai, Nara 633-0046
Summary
Dried roots of Angelica acutiloba Kitagawa, an important medical plant in Japan, are used as a crude drug called tōki that is used in many traditional Chinese (Kampō) medicines. Being edible and not subject to regulation as a pharmaceutical product, the leaves are attracting attention for consumption. We investigated the effects of leaf harvest on root yield to balance production of both roots and leaves. Harvesting leaves in winter did not affect root yield, but several harvested leaves turned yellow. Harvesting all leaves from each plant in summer dramatically reduced root yield because the mortality rate rose and the root weight decreased. Harvesting a proportion of leaves from summer through autumn avoided plant death. The root yield was decreased in proportion to the total amount of harvested leaves, irrespective of the number of harvests or the amount harvested at one time. However, leaf harvest did not affect the content of dilute-ethanol-soluble root extract isolated. The results suggest that partial leaf harvest allows the production of both roots and leaves from summer through autumn. The total harvest of leaves should be adjusted to meet the respective demands for leaves and roots.
かし,これまでに葉の栽培については,韓国におい て肥料の配合割合やマルチ資材の種類による収量比 較が実施された例があるが2), 3),ほとんど検討され ておらず,効率的な葉の生産方法を検討することが 重要である. 葉の栽培方法としては,葉のみを生産する方法も 想定されるが,従来の根を生産する栽培方法におい て同一株で葉を収穫しながら最終的に根も収穫する 方法が,栽培管理の大きな変更を伴わないため生産 現場の関心が高い.しかし,葉と根の双方を収穫す ることを想定して,葉の収穫が根に及ぼす影響につ いて検討した調査事例はみられない. そこで本研究では,根の収穫を前提として同一株 から葉を収穫する場合において,葉の収穫量や収穫 時期が根の収量に及ぼす影響について調査した.ま た,葉と根の収量の関係および根を薬用利用する際 の品質指標の一つである希エタノールエキス含量へ の影響について調査した. Ⅱ 材料および方法 1 供試ほ場および栽培管理 奈良県五條市西吉野町の標高約 250 m に位置する 奈良県果樹・薬草研究センター内の試験ほ場におい て実験を実施した.施肥は,元肥として有機配合肥 料(くみあい有機 A801,㈱ジェイカムアグリ,N: P:K = 8:8:8)を窒素成分 20 kg/10 a となるよう に全層施用し,追肥として上述の肥料を窒素成分が 合計 20 kg/10 a となるように,5 月から 9 月の間に 4 回に分けて株元に施用した.また,抑草と乾燥防止 のため苗の定植後に敷きわらを設置した. (とうき)」と呼ばれ,血行促進などに効果のある生 薬として様々な漢方薬に使用されている.トウキは 少なくとも江戸時代から奈良県などの産地で生産さ れてきたといわれるが5),生産者の高齢化や輸入品 の台頭などにより生産量は減少している.しかし, 近年漢方薬の効果が見直されたことで医療現場にお けるニーズが高まりつつあり10),トウキについても 生産の拡大が求められている. 一般的にトウキは春に播種し,翌春まで 1 年間育 苗して本圃に定植する.奈良県など積雪が少ない地 域では,定植した年の 12 月下旬ごろに根を掘り上 げ,一次乾燥,温湯を用いたもみ洗い(湯もみ)お よび二次乾燥を経て,翌年の春に出荷される.また, 定植後に抽苔する株が一部みられるが,抽苔株は根 が木質化して商品価値が無くなるため発生次第除去 される. 一方,2012 年の厚生労働省が定める医薬品の範囲 に関する基準の改正7)により,トウキの根は医薬品 としての規制を受けるが,葉については医薬品的効 能効果を標ぼうしない限り,直ちには医薬品と見な さないとされた.このことから近年,トウキの葉の 食利用が注目されつつある.現在,トウキ葉茶,ハー ブソルト,ドレッシングまたは葉の粉末を練りこん だ菓子などの商品が開発されている8).また,中華 料理や薬膳料理のメニューに使用される場合もあ る.現時点では葉の生産量はまだ少なく,市場取引 ではなく,加工業者や飲食業者など実需者との相対 取引で出荷される場合がほとんどであるが,トウキ の生産現場では根を薬用として出荷するだけでな く,葉も食用として出荷することで収益性の向上お よび生産拡大につながることが期待されている.し A B C
第 1 図 トウキ(Angelica acutiloba Kitagawa)の外観
週間前にあたる 12 月 2 日に実施した.夏期全収穫 区では 8 月と 12 月にすべての葉を収穫し,夏期 1/2 収穫区では 8 月には葉の 1/2 を,12 月にはすべての 葉を収穫し,夏期無収穫区では 12 月のみに葉をす べて収穫した.収穫した葉は実験室内で直ちに葉身 と葉柄に切り分けて生重量を測定した.ただし,黄 化葉や枯死している葉は調査対象に含めなかった. なお,抽苔株は発生時点で除去した. また,前述の供試株以外から 12 月 1 日に生育が 揃った 58 株を選び,無作為に各 29 株の 2 試験区に 分け,冬期全収穫区と無収穫区とした.冬期全収穫 区では 12 月 2 日に葉を全収穫し,無収穫区では葉 を収穫しなかった. 12 月 24 日に全試験区の根を掘り上げ,直ちに雨 よ け ハ ウ ス 内 で 一 次 乾 燥 し,2015 年 3 月 4 日 に 60℃ の温湯で湯もみし,再び雨よけハウス内で二次 乾燥した.5 月 27 日に乾燥が完了した根(以下,製 品根)の重量を測定した. また,10a あたり定植苗数を 5,300 株とし,活着 率および抽苔株率より算出した収穫時の株数に,葉 または製品根の株あたり収穫量を乗じて,10a あた り収量を計算した . 4 夏期から秋期における葉の収量が根の収量およ び希エタノールエキス含量に及ぼす影響(実験 2) 実験 1 と同様の条件で 2015 年 4 月 1 日にトウキ 1 年生苗を定植し,以下の試験区を設定した.葉の収 2 葉の収穫方法 本研究で実施した葉の収穫方法を第 2 図に示す. トウキでは株の中央部分にある生長点から葉が発生 し,株の外側に広がっていく.そのため,株の内側(生 長点付近)には若い葉が多く,外側には成葉や古い 葉が多くなる.そこで,本研究では収穫した葉の葉 齢が試験区によって偏らないように,株を直上から 見て生長点を中心とした円として捉え,試験区によ り 1/4~4/4(全収穫)の部分円に相当する部分の葉 を目測で収穫した.また,複数回収穫する場合は, 収穫部分を生長点中心に反時計回りに回転させ (1/4,3/4 収穫の場合は 1/4 回転,1/2 収穫の場合は 1/2 回転),未収穫部分を収穫部分に含めるようにし た.なお,収穫時にはハサミを用いて株元から葉を 刈り取ったが,生長点の損傷を防ぐため,未展開の 幼葉は収穫しなかった. 3 夏期および冬期における葉の収穫が根の収量に 及ぼす影響(実験 1) 県内生産者から購入したトウキ 1 年生苗を 2014 年 4 月 17 日に畦間 1.3m,株間 25 cm の一条植えで 定植し,活着率は約 90% であった.8 月初旬に生育 が良好に揃っている株を供試株として 180 株選定し た.また,供試株を無作為に 3 試験区に分け,夏期 全収穫区,夏期 1/2 収穫区および夏期無収穫区とし た(60 株 / 区).葉の収穫は,定植から根の収穫(12 月下旬)の中間にあたる 8 月 14 日と,根の収穫約 3 ( 実 験2) 無 収 穫 1/4 収穫 1/2 収穫 全 収 穫 収 穫 部 分 ( 例 )3/4 収穫 3/4 収穫 略 号 C Q H T 第 2 図 葉収穫方法の模式図と収穫例 円は株を直上から見たときの生長点を中心とする葉の分布範囲を示す 黒塗り部分は葉を収穫する範囲を示す
実験 1 と同様に抽苔株は除去した.また,葉と製品 根の 10a あたり収量を実験 1 と同じ方法で計算した. 各区の製品根から平均重に近い根をそれぞれ 3 株 選び,電動ミル(IFM720G,㈱岩谷産業)で粉砕し た後に,第 16 改正日本薬局方6)(以下,局方)記載 の方法に基づいて希エタノールエキス含量を測定し た. Ⅲ 結 果 1 夏期および冬期における葉の収穫が根の収量に 及ぼす影響(実験 1) 各試験区における葉の収穫後の枯死株および抽苔 株の発生状況を第 2 表に示す.夏期 1/2 収穫区と夏 期無収穫区では枯死株は発生しなかったが,夏期全 収穫区では供試した 60 株中 11 株が 8 月における葉 の収穫後に新たに葉が再生することなく枯死した. 穫方法(第 2 図)によって T 区(3/4 収穫),H 区(1/2 収穫),Q 区(1/4 収穫),および C 区(収穫なし) の 4 区の試験区を設定した.また,収穫回数によっ て 8 月 12 日の 1 回とする I 区,または 8 月 12 日と 10 月 15 日の 2 回とするⅡ区を設定した.ただし, Q 区についてのみ収穫回数を 8 月 12 日,9 月 16 日 および 10 月 15 日の 3 回とするⅢ区を設定し,計 8 試験区(T Ⅰ,T Ⅱ,H Ⅰ,H Ⅱ,Q Ⅰ,Q Ⅱ,Q Ⅲおよび C)とした(第 1 表).各区の供試株数は 12 株の 3 反復として計画したが,活着不良などで欠 株が発生したため(全体の活着率 81%),8 月の葉 の収穫開始時点で各区 8~12 株の 3 反復となった(第 1 表).収穫した葉は,実験 1 と同様に収穫日ごとに 葉身と葉柄に分けて各区の葉の生重量を測定した. また,12 月 25 日に根を掘り上げ,直ちに雨よけハ ウスで一次乾燥し,2016 年 3 月 8 日に湯もみし,二 次乾燥後の 5 月 27 日に製品根重を調査した.なお, 夏期全収穫 60 11 18.3 2 4.1 夏期1/2収穫 60 0 0.0 4 6.7 夏期無収穫 60 0 0.0 6 10.0 (検定結果)z ** n..s 全体 180 11 6.1 12 7.1 試験区 供試株数 枯死株数 枯死株率( %) 抽苔株数 生存株あたり 抽苔株率 ( %) 第 2 表 夏期の葉収穫方法の違いが根収穫時点における枯死株数,枯死株率,抽苔株数および抽苔株率に及ぼ す影響 z**,n.s. は試験区間でそれぞれ 1%水準で有意差があること,5%水準で有意差がないことを示す(Fisher の正確確率検定) 8月12日 9月16日 10月15日 反復1 反復2 反復3 合計 C 0 - - - 8 9 11 28 Q I 1 1/4 - - 8 10 12 30 Q II 2 1/4 - 1/4 9 10 11 30 Q III 3 1/4 1/4 1/4 9 10 9 28 H I 1 1/2 - - 10 9 9 28 H II 2 1/2 - 1/2 9 10 11 30 T I 1 3/4 - - 11 9 10 30 T II 2 3/4 - 3/4 8 10 12 30 収穫日ごとの葉収穫方法z 試験区y 供試株数 葉の収穫回数 第 1 表 実験 2 における各試験区の葉収穫方法および供試株数 z葉全葉のうち収穫した葉の割合を示す,-は収穫しなかったことを示す yアルファベットは葉の収穫方法(C:無収穫,Q:1/4 収穫,H:1/2 収穫,T:3/4 収穫)を表し,ローマ数字は収穫回数を表す
は夏期全収穫区では 1,426 kg,夏期 1/2 収穫区で 1,286 kg,また夏期無収穫区では 636.6 kg と計算され,夏 期無収穫区が他区よりも収量が大きく劣る結果と なった.一方製品根収量については夏期全収穫区で は 249.2 kg,夏期 1/2 収穫区で 470.8 kg,また夏期無 収穫区では 545.0 kg と試算され,夏期全収穫区が他 なお,枯死株の割合について試験区間で有意差が検 出された(Fisher の正確確率検定,p < 0.01).また, 抽苔株については試験区間での発生率の差は小さ く,有意差は検出されなかった(Fisher の正確確率 検定,p < 0.05). 8 月と 12 月における葉の平均収穫量(株当たり生 重量)を第 3 図に示す.8 月は夏期全収穫区では葉 身 117.8 g,葉柄 86.9 g であり,夏期 1/2 収穫区では 葉身 77.3 g,葉柄 55.4 g であった.一方,枯死株と 抽苔株を除いた 12 月における葉の平均収穫量は夏 期全収穫区では,葉身 60.2 g,葉柄 46.8 g,夏期 1/2 収穫区で葉身 71.1 g,葉柄 67.0 g,また夏期無収穫 区では葉身 72.7 g,葉柄 71.0 g となった.なお,12 月に収穫した葉では黄化葉や枯死葉が 8 月よりも多 く発生し,収穫できた葉の葉色も 8 月には濃い緑で あったのに対して 12 月はやや黄緑色に近い葉色の ものが多くなった. また,株当たり平均製品根重は,夏期全収穫区で は 68.9 g,夏期 1/2 収穫区で 106.3 g,夏期無収穫区 では 123.0 g となり,8 月の葉の収穫量が多いほど製 品根重が有意に小さくなった(第 4 図). 以上の結果に基づいて,葉と製品根の 10 a 当たり 収量を計算したものを第 3 表に示す.葉の合計収量 0 50 100 150 200 250 300 0 50 100 150 200 250 300 0 50 100 150 200 250 300 葉収穫量 ( g/株 ) 合計 8 月 14 日収穫 12 月 2 日収穫 夏期全収穫区 夏期1/2 収穫区 夏期無収穫区 夏期全収穫区 夏期1/2 収穫区 夏期無収穫区 n=60 n=60 n=47 n=56 n=54 n=60 n=60 n=60 葉収穫量 ( g/株 ) 葉収穫量 ( g/株 ) :葉柄 :葉身 n=60 夏期全収穫区 夏期1/2 収穫区 夏期無収穫区 試験区 試験区 試験区 第 3 図 夏期の葉収穫方法の違いが株あたり葉収穫量に及ぼす影響 2014 年 8 月 14 日に各試験区の葉収穫方法(第 2 図)に基づき葉を収穫し,12 月 2 日に全ての葉を収穫した 縦棒は標準誤差を示す n:株数 0 50 100 150 3 2 1 製品根 重 ( g/株 ) a c b 夏期全収穫区 夏期1/2 収穫区 夏期無収穫区 n=47 n=56 n=54 試験区 第 4 図 夏期の葉収穫方法の違いが収穫根乾燥後の製品 根重に及ぼす影響 根は 2014 年 12 月 24 日に掘り上げ,一次乾燥,湯もみ作業およ び二次乾燥を経て 2015 年 5 月 27 日に製品根重を測定した 縦棒は標準誤差を示す n:株数 異なるアルファベット間で有意差があることを示す(Tukey,p < 0.05)
区よりも収量が大きく劣る結果となった. また,冬期全収穫区では抽苔株や枯死株は発生せ ず,無収穫区との製品根重の差はほとんど無く,有 意差も検出されなかった(t 検定,p < 0.05)(第 5 図). 2 夏期から秋期における葉の収穫量が根の収量お よび希エタノールエキス含量に及ぼす影響(実 験 2) いずれの試験区についても葉の収穫後に枯死株は 発生しなかった(第 4 表).抽苔株は,いくつかの 試験区で最終の葉収穫の後に発生したが発生数は少 なく,試験区間での有意な差はみられなかった (Fisher の正確確率検定,p < 0.05)(第 4 表).また, 試験区ごとに 10 a 当たりの葉と製品根の収量を算出 したところ,葉身と葉柄の合計収量はいずれも最大 は T Ⅱ区でそれぞれ 421.6 kg,278.6 kg となり,最 小は Q Ⅰ区でそれぞれ 75.7 kg,39.1 kg なった(第 5 表).また,製品根の収量は葉の合計収量が少ない ほど大きくなる傾向がみられ,C 区で最大の 348.1 kg,T Ⅱ区で最小の 212.3 kg となった(第 5 表). なお,各試験区における葉身と葉柄の合計収量と製 品根の収量を散布図にプロットしたところ,合計収 量と製品根の収量の間にはほぼ直線的で有意な負の 相関関係(r = -0.967, 相関係数,p < 0.01)がみら れた(第 6 図). 計 合 柄 葉 身 葉 計 合 柄 葉 身 葉 計 合 柄 葉 身 葉 夏期全収 穫 4,77 0 624. 3 414. 3 1038. 6 87 4 27 7 217. 7 169. 4 387. 1 842. 1 583. 7 1425. 7 249.2 夏期 1/2 収 穫 4,77 0 409. 5 264. 3 673. 8 0 33 9 315. 2 296. 8 612. 0 724. 7 561. 0 1285. 8 470.8 夏期無収 穫 4,77 0 0. 0 0. 0 0. 0 0 33 9 322. 2 314. 4 636. 6 322. 2 314. 4 636. 6 545.0 12 月 2 日葉収量(生 重 kg/10 a ) 合計葉収量(生 重 kg/10 a ) 製品根収 量 kg/10 a 試験 区 活着株 数 z ( 株 /10 a ) 8 月 15 日葉収量(生 重 kg/10 a ) 枯死株 数 ( 株 /10 a ) 抽苔株 数 y ( 株 /10 a ) 第 3 表 夏期の葉収穫方法の違いが 10 a 当たり葉収量と製品根収量に及ぼす影響 z定植数 5,300 株 /10 a, 活着率 90 % として計算した y生存株あたり抽苔率は一律 7.1 % として計算した(第 2 表参照) 製 品根 重 ( g/ 株 ) 0 50 100 150 2 1 冬期全収穫区 無収穫区 n.s. n=29 n=29 試験区 第 5 図 冬期の葉収穫方法の違いが収穫根乾燥後の製品 根重に及ぼす影響 冬期全収穫区では 2014 年 12 月 2 日に全ての葉を収穫した 根は 2014 年 12 月 24 日に掘り上げ,一次乾燥,湯もみ作業およ び二次乾燥を経て 2015 年 5 月 27 日に製品根重を測定した 縦棒は標準誤差を示す n:株数 n.s.:有意差が無いことを示す(t 検定,p < 0.05)
また,製品根の希エタノールエキス含量には試験 区による差はほぼみられず,いずれの供試株におい ても 50%前後で日本薬局方に定められる品質基準で ある 35% を上回っていた(第 7 図). 3 葉の収穫方法と収穫時期が葉の収量における葉 身収量の割合に及ぼす影響 実験 1 および 2 の結果に基づき,各試験区におけ る葉の収量における葉身収量が占める割合(葉身収 量 /(葉身収量+葉柄収量))を第 6 表と第 7 表に示す. 葉の収穫方法による大きな差はみられなかった.一 方,葉の収穫時期については,実験 1 の 8 月収穫, 0 . 0 0 0 8 2 C 3 . 3 1 0 0 3 I Q 7 . 6 2 0 0 3 I I Q 0 . 0 0 0 8 2 I I I Q 0 . 0 0 0 8 2 I H 3 . 3 1 0 0 3 I I H 3 . 3 1 0 0 3 I T 0 . 0 0 0 0 3 I I T (検定結果)y n.s. 全体 234 0 5 2.1 数 株 死 枯 区 験 試 抽苔株数z 抽苔株率 (%) 供試株数 第 4 表 夏期から秋期の葉収穫方法の違いが根収穫時点における枯死株数,抽苔株数および抽苔株率に及ぼ す影響 z抽苔株は全て最終の葉収穫後に発生した y n.s. は試験区間で有意差が無いことを示す(Fisher の正確確率検定,p < 0.05) 葉身 葉柄 葉身 葉柄 葉身 葉柄 C 4,293 90 - - - - - - - - 348.1a Q I 4,293 90 75.7 39.1 - - - - 75.7c 39.1c 327.3ab Q II 4,293 90 89.7 43.5 - - 80.4 69.6 170.1bc 113.1bc 314.8ab Q III 4,293 90 98.9 51.3 87.7 58.3 62.1 45.9 248.7b 155.5ab 272.8ab H I 4,293 90 149.7 84.1 - - - - 149.7bc 84.1bc 312.7ab H II 4,293 90 142.9 79.3 - - 138.4 116.4 281.2b 195.7ab 260.7ab T I 4,293 90 225.1 127.1 - - - - 225.1b 127.1bc 309.8ab T II 4,293 90 231.4 125.2 - - 190.2 153.3 421.6a 278.6a 212.3b 試験区 活着株数z 抽苔株数y 製品根収量 x (kg/10 a) 葉収量(生重kg/10 a) 8月15日 9月16日 10月15日 葉身 葉柄 合計x 第 5 表 夏期から秋期の葉収穫方法の違いによる 10 a 当たり葉収量と製品根収量 z定植数 5,300 株 /10 a, 活着率 81% として試算した y抽苔率は一律 2.1% として試算した(第 4 表参照) x異なるアルファベット間で有意差があることを示す(Tukey,p < 0.05) 0 100 200 300 400 0 200 400 600 800 C Q I H I T I H II 合計葉収量(kg/10 a) Q II Q III T II Y=-0.1938x+356.94 r=-0.967**z 製品根収量 ( kg /10 a ) 第 6 図 夏期から秋期の合計葉収量と製品根収量の関係 z有意な相関関係があることを示す(p < 0.01)
Ⅳ 考 察 実験 1 において,8 月に株の葉をすべて収穫した 区では枯死株が発生したが,12 月に葉をすべて収穫 した区では枯死株は発生しなかった.このことから, 夏期における葉の収穫が株の枯死を誘発すると考え られた.しかし,葉を半分のみ収穫した区では枯死 株が発生しなかったことから,葉を部分的に残すこ とで枯死を回避できることが示唆された.また,実 験 2 において 8 月と 10 月に葉の 3/4 を収穫した T Ⅱ区でも枯死株が発生しなかったことから,1/4 程 度の葉を残すことで枯死を回避できる可能性が示唆 された.枯死の原因については,葉が全て除去され ることによって,生長点付近が直射日光に長期間晒 され,何らかの生理障害が引き起こされた可能性な どが考えられる.しかし,本研究では詳しく調査し ておらず原因は不明であり,今後の課題である.ま た,実験 1,2 の双方において試験区による抽苔株 率の差がみられなかった.トウキが定植後に抽苔す るかどうかは苗の大きさに影響されることが報告さ 実験 2 の 8 月収穫および 9 月収穫では葉身収量の割 合は 60%以上であったが,実験 1 の 12 月収穫と実 験 2 の 10 月収穫では 50 数% となり,収穫時期が遅 いと葉身収量の割合が低下する傾向がみられた. 8月15日 収穫 12月2日収穫 夏期全収穫 60.1 56.3 夏期1/2収穫 60.8 51.5 夏期無収穫 - 50.6 試験区 葉身収量の割合(%)z 第 6 表 実験 1 における葉収穫方法と収穫日が葉収量に対する葉身収量の割合に及ぼ す影響 z第 3 表の結果に基づき,葉身収量 /(葉身収量+葉柄収量)として計算した 8月16日 収穫 9月16日収穫 10月15日収穫 Q I 66.0 - - Q II 67.3 - 53.6 5 . 7 5 1 . 0 6 8 . 5 6 I I I Q H I 64.0 - - H II 64.3 - 54.3 T I 63.9 - - T II 64.9 - 55.4 試験区 葉身収量の割合(%)z 第 7 表 実験 2 における葉収穫方法と収穫日が葉収量に対する葉身収量の割合に及ぼす 影響 z第 5 表の結果に基づき,葉身収量 /(葉身収量+葉柄収量)として計算した 0 20 40 60 80 100 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 希エタノールエキス含量(% ) T I T II H I H II Q I Q II Q III C 試験区 第 7 図 夏期から秋期の葉収穫方法の違いが製品根の希 エタノールエキス含量に及ぼす影響 各試験区それぞれ 3 株について第 16 改正日本薬局方に基づいて 測定した 点線は日本薬局方記載の基準である 35% を示す 試験区間の有意差なし(Kruskal-Wallis 検定,p < 0.05)
根の収量との間に直線的な負の相関関係がみられ, 収穫時期や一回に収穫する量に関わらずに葉の合計 収量に比例して製品根の収量が低下することが示唆 された.また,葉の食利用においては,トウキ葉茶 に加工する時など,葉身と葉柄の両方を使用する場 合があるが,飲食店で生食用として利用する場合な どには葉身のみを利用する場合もある.葉の収量に 占める葉身収量の割合を比較すると,葉の収穫方法 が及ぼす影響は小さかったが,収穫時期が遅いほど 葉身収量の割合は低くなる傾向がみられた.さらに 詳細な調査が必要であるが,葉身のみを利用する場 合は,収穫時期によって葉の収量に対する葉身の歩 留まりが変化することに留意する必要があると考え られる. 一方,実験 2 において製品根の希エタノールエキ ス含量について調査したところ,試験区による差は 認められず,全調査株について局方で規定されてい る基準である 35% を上回っていた.このことから, 希エタノールエキス含量については,葉を夏から秋 に収穫しても根の出荷上問題ないと考えられる.生 薬の種類によっては有効成分の含有基準が局方に規 定されている場合があるが,トウキでは特定の成分 基準は記載されていない.しかし,リグスチリドや フェルラ酸などが血行促進などの効能に関わってい ると考えられており4),今後研究が進展するにつれ てさらに多くの薬効成分が見いだされる可能性もあ る.よって局方に成分基準が記載された場合は,葉 の収穫が及ぼす影響について改めて調査・検討する 必要がある. 現在トウキの葉は利用が検討され始めてから日が 浅く,相対取引がほとんどのため,出荷価格や出荷 量は取引先によって大きく異なる.そのため,収益 性について考察するのは非常に困難である.ただし, 実験 2 の結果より,葉を収穫しない C 区と葉を最も 多く収穫した T Ⅱ区で比較してみると,C 区では根 の 収 量 が 348.1kg/10a,T Ⅱ 区 で は 根 の 収 量 が 212.3kg/10a で葉身と葉柄を合せた生葉の収量が 700.2kg/10a であるから,生葉の単価が根の 19.4%以 上あれば,T Ⅱ区の方が C 区よりも粗収益が多くな る.筆者の知る範囲では,トウキ葉は生葉 1kg 当た り 500 円程度で出荷される事例もあれば,少量なが ら飲食店での生食用にさらに高い単価で出荷された れており1),大きな苗が低温に遭遇することで花芽 分化が引き起こされると考えられている.そのため, 抽苔の有無は苗の時点でほぼ決定しており,定植後 の葉収穫は影響しなかったと推測される. 実験 1 において 8 月に葉を収穫した区では収穫し ない区と比較して製品根重が低下した.一方,12 月 のみ葉を収穫した区では製品根重の低下はみられな かったことから,葉の収穫は 8 月には製品根重に影 響するが,根の収穫直前の 12 月には影響しないと 考えられる.トウキでは 9~10 月頃に急速に根が肥 大することが報告されている9).今回の葉を収穫し た 12 月初旬では転流がほぼ完了しており,根の収 穫までの期間も短いため,製品根重に影響を及ぼさ ないと推察される.このことから冬期における葉の 収穫は根に影響を与えない収穫方法として有望であ るが,12 月に収穫した葉は黄化が進んでいるものが 多いため,8 月に収穫した葉と比較して収穫後のロ スが多く,選別作業も煩雑であった.例えば葉の乾 燥粉末を練りこんだ食品への利用など,黄化葉の混 入が問題となりにくい用途への使用について検討し ていく必要がある. また,トウキには形質が遺伝的に固定された育成 品種がないため,生育のばらつきが大きくなる.し かし,実験 1 では栽培の途中に生育が良好な株を選 んで供試しているため,実際の生産現場より葉や根 の 10a 当たり収量がやや多く見積もられる点につい ては注意する必要があるが,試験区間の比較は可能 であると考えられる.夏期全収穫区では葉の収量は 他区よりも多いが,1 株当たり製品根重が小さくな ることに加えて枯死株が発生するため,製品根の収 量は夏期無収穫区の約 46% と大きく劣る結果と なった.一方,夏期 1/2 収穫区では葉の合計収量は 夏期全収穫区の約 90% となり,製品根の収量にお いても夏期無収穫区の約 86% を確保できる結果と なった.このことから,葉と根の両方を生産する栽 培方法としては,夏期に葉をすべて収穫するのでは なく,部分的に収穫する方が実用的であると考えら れた. そこで実験 2 では夏期から秋期の葉の部分収穫方 法を変え,製品根の収量への影響をさらに調査した. その結果,本研究で試行したように,8 月から 10 月 にかけて葉を収穫する場合は,葉の合計収量と製品
は無収穫区の約 86% となった.なお,12 月におけ る葉の収穫は製品根の収量に影響を及ぼさなかった が,黄化葉も多く発生した.また,2015 年 8 月から 10 月に全体の 1/4~3/4 の葉を 1~3 回収穫したとこ ろ,製品根の収量は一度に収穫する量や収穫回数に 関わらず,葉の合計収量に比例して低下したが,現 状の単価では葉を収穫することで全体の収益が向上 する場合もあり得ることが示唆された.なお,葉の 収穫が希エタノールエキス含量に及ぼす影響は見ら れなかった.以上の結果,トウキにおいて葉と製品 根の両方を効率的に生産する方法としては,夏期~ 秋期に部分的に葉を収穫する方法が有望であること が示唆されたが,葉の収穫量は生産者の販売状況に 合わせて調節すべきと考えられた. 引 用 文 献 1) 浅尾浩史:ヤマトトウキの発芽と抽苔に及ぼす 要因,奈良県農業総合センター研究報告,41, 34-35,2010.
2) Choi, S. K.: Effect of Sta-Green on leaf and stem production of Angelica acutiloba. Plant. Res., 8, 13-16, 2005a.
3) Choi, S. K.: Study on leaf and stem production of Angelica acutiloba by mulching materials, Plant. Res., 8, 27-31, 2005b.
4) Fukuda, K., K. Murata, K. Itoh, M. Taniguchi, M. Shibano, K. Baba, M. Shiratori, T. Tani and H. Matsuda: Fibrinolytic activity of ligustilide and pharmaceutical comparison of Angelica acutiloba roots before and after processing in hot water, J. Trad. Med, 26, 210-218, 2009. 5) 福田浩三・村田和也・松田秀秋・谿 忠人:大 和当帰の栽培生産の歴史と現状,薬史学雑誌, 44,10-17,2009. 6) 厚生労働省,第十六改正日本薬局方,p. 104, 2011. 7) 厚生労働省:医薬品の範囲に関する基準の一部 改正について(平成 24 年 1 月 23 日,薬食発 0123 第 3 号 ),https://www.mhlw.go.jp/web/t_ doc?dataId=00tb7999&dataType=1&pageNo=1. 8) 奈良県:大和当帰 根は薬,葉は食す,http:// 事例もある.また,根については薬用作物産地支援 協議会が公表している 2016 年度の調査結果による と,参考価格帯は製品根 1kg 当たり 880 円から 1,800 円となっている12).そこで,仮に生葉の 1kg 当たり 単価を 500 円とすると,最も高い製品根単価の 1,800 円と比較しても 27.8% となり,T Ⅱ区の方が C 区よ りも粗収益が多くなる計算となる.このことから, 全量出荷できた場合は,葉の収穫によって根の収量 が低下しても,根のみ出荷する場合と比べて全体の 粗収益は向上する場合があることが示唆される.た だし,現時点では各生産者の取引先によって葉や根 の単価や出荷可能量などは大きく異なるため,生産 者がそれぞれの取引状況にあわせて,収益が最大と なるように葉の収穫量を調整することが重要であ る.そのため,今後,葉の収量と根の収量の関係に ついてさらに詳細に調査する必要があると考えられ る. 薬用作物は,医薬品原料として出荷する場合は出 荷先が限られ,厳しい品質基準も課せられる点が他 の農作物と異なることが指摘されている11).一方, 本研究におけるトウキ葉のように,食利用の場合は 出荷先の制限も少なく,加工品への利用などによる 6 次産業的な展開も可能となる.このことから,薬 用作物において食利用と薬用利用を組み合わせるこ とにより,安定的な収益が確保され,生産振興につ ながる可能性があると考えられるため,今後も検討 を進めていきたい. Ⅴ 摘 要
薬用作物トウキ(Angelica acutiloba Kitagawa)は, 湯もみを経て乾燥した根(製品根)が生薬として用 いられるが,近年は葉を食利用する取り組みが注目 されている.そこで,葉の収穫が製品根の収量に及 ぼす影響について調査した.夏期全収穫区,夏期 1/2 収穫区および夏期無収穫区を設定して 2014 年 8 月に葉を収穫し,さらに 12 月に葉を全収穫したと ころ.夏期全収穫区では葉の 10 a 当たり収量は最大 となったが枯死株が発生し,根も小型化するため製 品根の収量が夏期無収穫区の約 46% と大きく減少 した.一方,夏期 1/2 収穫区では枯死株は発生せず, 葉の収量は夏期全収穫区の約 90% で製品根の収量
11,12-16,2014. 11) 高橋貴與嗣:薬用作物の生産拡大に向けての課 題,農業,1549,40-49,2011. 12) 薬用作物産地支援協議会:(平成 29 年度地域相 談会,参考資料 3-1)日本産生薬購入価格帯お よ び 増 産 を 希 望 す る 会 社 数,http://www. yakusankyo-n.org/document/2017/05.htm. www3.pref.nara.jp/sangyo/yamatotouki/. 9) 頼 宏亮・林 文音・元田義春・玉井富士雄・ 田辺 猛:トウキ(当帰)の生産ならびに品質 向上に関する研究(第 3 報),生育時期による 品 種 別 ト ウ キ の 生 育, 収 量 お よ び エ キ ス, Ligustilide 含量の変化,生薬学雑誌,46,365-371,1992. 10) 白井正人:薬用作物について,農耕と園芸,