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要旨 皮膚外用剤の処方では コンプライアンスの向上 副作用の軽減 効果増強の期待などの理由で 複数の薬剤が混合処方されることが多い 混合調製される処方の多くはステロイド外用剤との混合であり ステロイド外用剤と保湿剤との混合が増加している しかし 混合には配合変化 乳化破壊 皮膚透過性の変化 効果の変

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平成

25 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅱ

論文題目

皮膚外用剤の混合に伴う物性変化に関する研究

Study on the change in physical properties with the mixture of skin

external preparations

物理薬剤学研究室 6 年

08P024 上村 優佳

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要 旨

皮膚外用剤の処方では、コンプライアンスの向上、副作用の軽減、効果増強の期待など の理由で、複数の薬剤が混合処方されることが多い。混合調製される処方の多くはステロイ ド外用剤との混合であり、ステロイド外用剤と保湿剤との混合が増加している。しかし、混合 には配合変化、乳化破壊、皮膚透過性の変化、効果の変化などの様々な問題点、注意点 がある。混合不可や混合するべきでない皮膚外用剤の組み合わせもあり、単純に混合して よいものではないため注意が必要である。混合によって塗る手間が軽減されコンプライアン ス向上に有効である一方で、混合することによって使用感の変化や違和感を感じることもあ りうる。展延性等の変化は使用感や塗布量にも影響を与え、塗布量は効果に影響を与える とされているため、使用感の変化は患者のコンプライアンスや塗布量に影響して治療効果に 関わり、重要な問題と考えられる。 そこで、本研究では皮膚外用剤の混合時に起こりうる薬剤の物性変化が患者の使用感に 及ぼす影響について明らかにするために軟膏剤、クリーム剤の2 剤混合系について展延性 と粘度の変化を測定することを試み、併用処方において物性の面から適正な使用について 検討した。対象薬剤については、臨床で比較的頻度高く処方されているステロイド外用剤と 保湿剤を選択し、両者の混合に伴う展延性と粘度の測定を行った。混合する外用剤の組み 合わせによって、単剤で使用するよりも延びが悪くなる場合や、混合による展延性への影響 が少ない場合など、混合薬剤の種類や混合比率によって異なることがわかった。また、粘度 測定の結果から混合によって粘度は、混合する2 剤のうち粘度の大きいものよりも減少する ことがわかった。単剤の粘度の違いには基剤や剤形が大きく関係していると考えられ、基剤 や剤形が混合に伴う粘度変化に影響していると思われる。 これらの結果から、軟膏剤、クリーム剤の混合調剤において特に配合変化が起きない系 であったとしても、使用感に影響を与える組み合わせがあり、その結果患者が使いにくさを 感じてコンプライアンスの低下を来すケースも考慮しなければならないことが示唆された。

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キーワード

1.皮膚外用剤 2.展延性 3.粘度 4. スプレッドメーター 5.軟膏基剤 6.剤形 7.リンデロン-V 軟膏 8.マイザー軟膏 9.ヒルドイドソフト軟膏 10.パスタロンソフト軟膏 11.乳剤性基剤 12.油脂性基剤 13.ステロイド外用剤 14.保湿剤 15.乳化破壊

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目 次

1.はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 2.実験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 3.結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 4.考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11 5.おわりに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12 謝 辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13 引用文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14

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論 文

1.はじめに 皮膚外用剤を複数混合し、調剤されることは現在ではごく一般的で、2000 年に行われ た皮膚科医師へのアンケート調査ではステロイド外用剤(合成副腎皮質ホルモン外用 剤)と他外用剤の混合を行っている医師は85%に達している1,2,3。混合調製される処方 の多くはステロイド外用剤との混合であり4,5、ステロイド外用剤はアトピー性皮膚炎を含む 多くの皮膚疾患に汎用される薬剤であるが、アトピー性皮膚炎の治療において保湿剤に よるスキンケアの有用性が示されたことからステロイド外用剤と保湿剤との混合が増加して いる6 一般に皮膚外用剤はコンプライアンスが悪い剤形とされ、多くはコンプライアンスの向 上、副作用の軽減、効果増強の期待を理由として混合処方されている1,2,3。混合すること によって、塗る手間、薬剤適用回数が軽減され、コンプライアンスの向上や、効果を高め る利点があるとされている1。しかしその一方で、混合には分離、基剤の不一致、主成分 の含量低下などの配合変化の問題4,6,7、乳化破壊による主剤の透過の低下や細菌汚染 の問題、基剤のpH 変化による効果の低下や、また、皮膚透過性への影響といった数多 くの問題点、注意点があげられる1,2,3,5,7,8。またステロイド外用剤の希釈混合において、あ る程度の希釈では効果に差がない場合があり、希釈によって期待通りに効果や副作用が 減弱されない問題点もある1,2,7,9。効果への影響のほか、混合調製の操作についても注 意すべきであり、軟膏べらを用いた手法では個人の技術差が出やすく、機械による方法 では乳化破壊等が多いとされている3 皮膚外用剤においても近年後発医薬品の使用が推進されている。先発品と後発品で 薬物透過性に差がある薬剤があるほか基剤や添加物に違いがあり、後発品へ切り替えた 際の混合には注意が必要なケースも見られる7,9。また混合不可や混合すべきでない皮 膚外用剤の組み合わせがあり、軟膏剤やクリーム剤の混合調剤においてはまだまだ解決 しなくてはいけない課題が多く存在している。混合調剤の問題は調剤時に起こることばか りとは限らない。それを実際に使用する患者にとって、混合せずに単剤のままで使用する よりもむしろ混合する方が使用感が悪いなどの違和感を感じることもあるのではなかろう か。展延性等の変化が使用感さらには塗布量にも影響を与え、塗布量は効果に影響を

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2 与えるという報告もされている10,11。使用感の変化は患者のコンプライアンスや塗布量に 大いに影響し治療効果に関わり、重要な問題と考えられる。コンプライアンス向上などを 目的に混合されたにもかかわらず、使用感が変わることで適正な使用がされなかったり必 要な効果が得られないのであれば、患者にとって混合することは有用とはいえない。 そこで、本研究では皮膚外用剤の混合時に起こりうる薬剤の物性変化が患者の使用 感に及ぼす影響について検討するために軟膏剤、クリーム剤の2 剤混合系について展 延性と粘度の変化を測定することを試みた。 2.実験 2.1. 試料 臨床において、比較的頻度高く処方され混合調製されている軟膏剤、クリーム剤をとり 上げ、物性を比較した。試料として用いた皮膚外用剤を表1 にまとめた。 表1. 試料に用いた皮膚外用剤 製薬会社 ヒルドイドソフト®軟膏0.3% マルホ パスタロンソフト®軟膏10% 佐藤製薬 アクアチム®軟膏1% 大塚製薬 デルモベート®クリーム0.05% グラクソ・スミスクライン アクアチム®クリーム1% 大塚製薬 ペキロン®クリーム0.5% 杏林製薬 オイラゾン®クリーム0.1% ノバルティスファーマ マイザー®軟膏0.05% 田辺三菱製薬 リンデロン®-V 軟膏 0.12% 塩野義製薬 フルコート®軟膏0.025% 田辺三菱製薬 2.2. 展延性及び粘度の測定 展延性及び粘度はスプレッドメーター(離合社)(写真1)を用いて測定した。スプレッド メーターの2 枚の平行板の間に挟まれた試料が一定荷重によって流動し、広がる速度か ら試料の展延性や粘度を調べることができる12。試料は、臨床で比較的頻度高く処方さ れているステロイド外用剤と保湿剤を選択し、混合調製し、両者の混合に伴う展延性と粘 度の測定を行った。また、混合調製直後から5 週間後までの展延性と粘度の変化を経時

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3 的に測定した。この混合したステロイド外用剤と保湿剤には、配合変化に問題がなく混合 可とされている組み合わせを選択した3,4,7。混合調製した内容を表2 にまとめた。 病院皮膚科の処方せんの調査において、ステロイド外用剤と他の外用剤の混合では 等量混合が約9 割であり、その他にはステロイド外用剤と併用される外用剤の方が重量 が大きい処方が占めていたことや13、等量混合比の組み合わせが全体の約7 割を占める ことから5、質量混合比は最も頻繁に処方される1:1 で行った。また、マイザー軟膏とヒル ドイドソフト軟膏の混合については、ステロイド外用剤の希釈にあたる1:2 の混合と、比較 のために2:1 の混合試料を調製した。混合時間は約 1 分間を設定し、比較のためにマイ ザー軟膏とヒルドイドソフト軟膏の等量混合においては長時間の約5 分間の混合を行っ た。 試料の混合は軟膏板と軟膏べらを用いて一定時間練合し、混合後は軟膏容器(プラ 壷、容量:50mL)に入れて室温で保存した。また、測定は室温で行った。 写真1. スプレッドメーター 表2. 混合試料:混合調製した内容 ステロイド剤 保湿剤 混合比 混合時間 ① リンデロン-V 軟膏 0.12% ヒルドイドソフト軟膏 0.3% 1:1 約1 分間 ② マイザー軟膏0.05% ヒルドイドソフト軟膏0.3% 1:1 約1 分間 ③ マイザー軟膏0.05% パスタロンソフト軟膏10% 1:1 約1 分間 ④ マイザー軟膏0.05% ヒルドイドソフト軟膏0.3% 2:1 約1 分間 ⑤ マイザー軟膏0.05% ヒルドイドソフト軟膏0.3% 1:1 約5 分間 ⑥ マイザー軟膏0.05% ヒルドイドソフト軟膏0.3% 1:2 約1 分間

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4 2.3. 測定方法 スプレッドメーターの試料充填孔に試料を充填し、このとき、試料中に空気が入ったり し隙間が生じないようにし、試料上面は軟膏べらで目盛板と同一面となるようにした。プラ ンジャーを押し上げ、同時にストップウォッチを作動させ、試料は目盛板と落下したガラス 板の間に挟まれ広がっていくため、経時的に試料の広がりの直径(cm)を測定した。5、 10、20、30、40、50、100、200 秒後に広がり半径を目視により読みとり記録した。迅速に 値を読まなければいけないため試料の広がり(直径値)の大きさについては測定時は半 径のみを読み、実測値として2 倍をして直径値とした。測定は各試料 3 回ずつ行い、その 平均値を算出した。 2.4. 展延性及び粘度の算出 横軸に時間を対数でとり、縦軸に広がりの直径をとったグラフ上に各時間の測定値の 平均値をプロットし、直線を結んだ。そして直線と横軸との勾配(傾き)および、直線と縦 軸との交わる点(切片)を算出した。作成したグラフから求めた直線の傾きからは「展延性 (延び)」を、切片からは「粘度」を評価でき12、算出した値を用いてこれらの物性を評価し た。直線の傾きの比較からは展延性を比較することができ、この傾きが大きいものほど展 延性は大きくなる。また、切片の比較から粘度の比較ができ、切片の値が低いものほど粘 度が大きいことが示される12 2.5. 軟膏基剤の型判別(色素法、希釈法) 混合に伴う物性変化を検討するにあたって、基剤と剤形について検討を行った。これ は、展延性や塗布量に及ぼす温度の影響に基剤や剤形が大きく関係することや10,11、基 剤が配合変化などの問題にも関わることから、基剤及び剤形が皮膚外用剤の混合にお ける物性変化に関与すると思われるためである。 試料で用いる皮膚外用剤について、文献等の他に色素法14を用いて基剤の剤形を確 認した。色素は、メチレンブルー(関東化学)およびスダンⅢ(和光純薬工業)を使用し、 軟膏板上で試料に色素をミクロスパーテルでごくわずか加えて、どちらの色素が着色する か確認した。色素法により判別できなかった試料に関しては、希釈法14を用いて判別し た。

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5 3.結果 3.1. 基剤の剤形 文献値及び、色素法と希釈法から判別した試料の剤形を表3 に示す。 表3. 色素法と希釈法の結果及び基剤の剤形 ヒルドイドソフト軟膏0.3% W/O型 W/O型 3,15,16 パスタロンソフト軟膏10% W/O型 W/O型 3,17 アクアチム軟膏1% W/O型 W/O型 18,19,20 デルモベートクリーム0.05% O/W型 O/W型 21,22 アクアチムクリーム1% O/W型 O/W型 18,20,23 ペキロンクリーム0.5% O/W型 O/W型 24,25 オイラゾンクリーム0.1% O/W型 O/W型 26 マイザー軟膏0.05% 油脂性 27,28 リンデロン-V軟膏0.12% 油脂性 油脂性 29,30 フルコート軟膏0.025% 油脂性 31,32 希釈法 基剤の剤形 色素法 文献番号 3.2. 試料の測定結果 試料について、スプレッドメーターにより試料直径(cm)の経時変化を測定し作成した グラフ(一部を図1 に示す。)から求めた直線の傾きと切片の値を表 4 に示す。傾きから 「展延性」が比較でき、切片からは「粘度」を比較できることから、試料の展延性及び粘度 の比較を図2、3 に示す。 皮膚外用剤ごとに固有の展延性や粘度を示すことがわかった。展延性については、デ ルモベートクリームは他剤に比べ小さく、延びが悪いことがみてとれるが、基剤の剤形に よって一概に類似性があるわけではないことがわかった。また、粘度については油脂性 基剤の外用剤の方が粘度が大きくべとつきが強く、乳剤性基剤の外用剤は比較的粘度 が小さいことがわかった。

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6 図1. スプレッドメーターによる試料直径(cm)の経時変化 プロット:平均値±標準偏差(n=3)、エラーバーは標準偏差を示す。 表4. グラフより求めた傾きと切片の値 基剤の剤形 傾き 切片 W/O型 ヒルドイドソフト軟膏0.3% 0.27 2.78 パスタロンソフト軟膏10% 0.26 2.57 アクアチム軟膏1% 0.25 2.22 O/W型 デルモベートクリーム0.05% 0.07 2.48 アクアチムクリーム1% 0.21 2.85 ペキロンクリーム0.5% 0.29 2.75 オイラゾンクリーム0.1% 0.26 2.83 油脂性 マイザー軟膏0.05% 0.23 2.39 リンデロン-V軟膏0.12% 0.26 2.15 フルコート軟膏0.025% 0.3 2.22 図2. 試料の展延性の比較 図 3. 試料の粘度の比較

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7 3.3. 混合試料の測定結果 3.3.1. 混合5 週間の経時変化 混合調製直後から5 週間後までの測定結果について、傾きと切片の値、及びその数 値からそれぞれ比較できる展延性や粘度の経時変化を以下の①~⑥に示す。6 種類の 混合試料は、混合後5 週間まで展延性や粘度には大きな変動は認められず、混合した 後でも物性は安定しており、一定期間同様の物性を保っていることがわかった。 <混合後5 週間の経時変化> ① リンデロン-V 軟膏+ヒルドイドソフト軟膏 (1:1) 約 1 分間混合 傾き 切片 リンデロン-V 0.26 2.15 ヒルドイドソフト 0.27 2.78 混合後 0.2 2.45 混合1日後 0.2 2.45 混合3日後 0.23 2.59 混合2週間後 0.22 2.46 混合3週間後 0.21 2.43 混合4週間後 0.21 2.47 混合5週間後 0.2 2.46 ②マイザー軟膏+ヒルドイドソフト軟膏 (1:1) 約 1 分間混合 傾き 切片 マイザー 0.23 2.39 ヒルドイドソフト 0.27 2.78 混合後 0.26 2.64 混合1日後 0.29 2.64 混合3日後 0.32 2.75 混合2週間後 0.28 2.71 混合3週間後 0.27 2.74 混合4週間後 0.32 2.73 混合5週間後 0.29 2.76

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8 ③マイザー軟膏+パスタロンソフト軟膏 (1:1) 約 1 分間混合 傾き 切片 マイザー 0.23 2.39 パスタロンソフト 0.26 2.57 混合後 0.25 2.56 混合1日後 0.26 2.58 混合3日後 0.24 2.68 混合2週間後 0.23 2.65 混合3週間後 0.23 2.64 混合4週間後 0.29 2.64 混合5週間後 0.26 2.69 ④マイザー軟膏+ヒルドイドソフト軟膏 (2:1) 約 1 分間混合 傾き 切片 マイザー 0.23 2.39 ヒルドイドソフト 0.27 2.78 混合後 0.34 2.52 混合1日後 0.38 2.55 混合3日後 0.32 2.73 混合2週間後 0.34 2.58 混合3週間後 0.39 2.55 混合4週間後 0.39 2.65 混合5週間後 0.38 2.67

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9 ⑤マイザー軟膏+ヒルドイドソフト軟膏 (1:1) 約 5 分間混合 傾き 切片 マイザー 0.23 2.39 ヒルドイドソフト 0.27 2.78 混合後 0.34 2.7 混合1日後 0.38 2.71 混合3日後 0.35 2.8 混合2週間後 0.35 2.75 混合3週間後 0.35 2.74 混合4週間後 0.38 2.75 混合5週間後 0.37 2.74 ⑥マイザー軟膏+ヒルドイドソフト軟膏 (1:2) 約 1 分間混合 傾き 切片 マイザー 0.23 2.39 ヒルドイドソフト 0.27 2.78 混合後 0.28 2.76 混合1日後 0.26 2.78 混合1週間後 0.26 2.73 混合2週間後 0.3 2.74 混合3週間後 0.31 2.77 混合4週間後 0.29 2.79 混合5週間後 0.28 2.76

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10 3.3.2. 混合による物性変化の比較 混合による展延性の変化、粘度の変化について、混合に用いた各単剤の結果と、6 種 類の混合試料の混合直後の結果を比較し、改めて図4、5 に示す。5 週間の経時変化の 測定により、6 種類とも物性に大きな変動はみられなかったことから、混合直後の測定結 果に注目して、混合による物性変化を比較した。単剤と混合試料間で比較した。 図4. 単剤の展延性と混合試料の展延性 混合後の展延性の変化を比較すると、 リンデロン-V 軟膏とヒルドイドソフト軟膏の 混合では、混合することによって展延性が 小さくなり、混合によって各単剤の展延性 よりも悪くなることがわかった。マイザー軟 膏とパスタロンソフト軟膏では、混合による 展延性の変化はあまりなかった。また、マ イザー軟膏とヒルドイドソフト軟膏の混合に おいて、等量混合やヒルドイドソフト軟膏 倍量の場合では、大きな変化はみられな かった。しかし、5 分間の混合の場合や、 マイザー軟膏倍量の場合は、展延性が大 きくなることがわかった。

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11 よって、混合により展延性が小さくなる組み合わせや、混合しても変わらないもの、また 混合時間や混合比率の違いから展延性が大きくなる場合があることから、混合によっての びやすさが変わることが明らかになった。 図5. 単剤の粘度と混合試料の粘度 4.考察 今回実験した2 剤の組み合わせにおいて、混合後 5 週間の時間変化より、混合後は 室温保存においてある一定の物性を保つため、長期使用する間で大きな変化なく安定し た使用感をもって塗ることができると考えられる。測定時によって展延性や粘度に若干変 動があったが、温度による影響が考えられる10 混合する各単剤と混合後の物性を比較したところ、混合により展延性が小さくなり延び が悪くなる組み合わせや混合しても変わらないもの、混合時間や混合比率の違いから展 延性が大きくなる場合があることがわかった。使用感に関わる物性の面から考えると、混 合により展延性が変わらない組み合わせについては、別々に塗布するよりも混合調剤し 混合後の粘度変化を比較すると、リン デロン-V 軟膏とヒルドイドソフト軟膏の混 合では、混合により、各単剤の粘度の大き さのおよそ中間の粘度になった。また、マ イザー軟膏とパスタロンソフト軟膏では、 混合試料はパスタロンソフト軟膏の粘度に 近くなった。マイザー軟膏とヒルドイドソフ ト軟膏においては、混合量の多い方の外 用剤の粘度に近くなり、等量の場合では 混合試料はヒルドイドソフト軟膏の粘度に 近くなり、また5 分間混合する方が、粘度 が小さくなった。 これらのことから、混合によって粘度の 小さい外用剤の粘度に近づくことがわか った。

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12 た方が、塗る手間が軽減されると考えられる。また、混合により展延性が小さくなるものは、 患者が不快に感じる可能性があり、患者の使用感を考慮すれば、場合によっては別々に 使用することがむしろ良いと思われる。患者の使用感を快適化させるために、インタビュ ーフォームの情報などから事前に混合時による展延性の変化を予測できれば、さらにコ ンプライアンス、アドヒアランス向上にリンクさせられると思われるが、今回の実験から、今 回混合したステロイド外用剤と保湿剤の組み合わせは、それぞれ油脂性基剤とW/O 型 乳剤性基剤であったが、基剤や剤形から混合による展延性の変化を予想することは難し いと思われる。 マイザー軟膏とヒルドイドソフト軟膏の混合では、5 分間混合した試料と 2:1 の混合試料 は、単剤試料よりも展延性が大きくなったが、これは長時間混合によりW/O 型乳剤性基 剤であるヒルドイドソフト軟膏の乳化が破壊されたためと考えられる。また、混合比が1:2 では混合による変化はあまりなかったが、2:1 では大きく異なるのは、W/O 型乳剤性基剤 に油脂性基剤が多量に加わることで、乳化剤の量が不足して乳化破壊が起きるために展 延性が増加したと考えられる。 粘度の算出において、混合後の粘度変化を比較したところ、混合により各単剤のうち 粘度の小さい外用剤の値に近くなることがわかった。今回用いた油脂性基剤であるステロ イド外用剤は他剤と比べ粘度が大きく、W/O 型乳剤性基剤である保湿剤との混合により 粘度は減少するため、混合に伴い使用感が変わると考えられる。混合比の違いに関して は、混合比率の大きい外用剤の方が混合量の多い分その粘性を示すと考えられる。単 剤試料の測定結果から各単剤の粘度の違いには基剤や剤形が大きく関係していると考 えられるため、基剤や剤形が混合による粘度変化に影響していると思われる。混合に伴う 物性変化は、混合する外用剤の組み合わせによって異なり、また、基剤や剤形、混合比 率、混合時間が影響すると考えられる。 5.おわりに 今回の研究では、実験で検証した2 剤の組み合わせにおいて、混合に伴う物性変化 を確認できた。この検証結果を踏まえ、患者への情報提供に活かすことができると考えら れる。また、混合調製においては、乳剤性基剤の外用剤との混合では乳化破壊を起こさ ないように、練合し過ぎず適度な混合時間と操作が必要になる。乳化破壊によって大きく 物性変化を示すだけでなく、主剤の皮膚透過性の強弱や薬効への影響が懸念されるた

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13 め、混合調製時には注意が必要である。また、混合にあたり、混合する基剤、剤形を把握 することは物性変化や安定性を考えるうえで重要になる。 今回の研究を通じて、服薬指導においては患者に皮膚外用剤の使用状態や状況を 確認するととともに、混合に伴う使用感の変化や問題点を確認し、物性の面からも併用薬 剤が患者にとって最適な剤形として使用できるようにすることが薬剤師の役割として考え られる。基剤や剤形は添付文書やインタビューフォームだけではわからない場合があるた め、基剤や剤形、物性、使用感に関する情報を文献や直接製薬会社等から収集すること も必要と思われる。また、混合による展延性等の変化を調剤前に予想することは難しいと 思われるため、事前に混合して展延性等を測ってみることで、使用感に関わる物性の情 報を得ることができ、服薬指導や最適な剤形選択をすることにつながると思われる。

謝 辞

本論文を作成するにあたり、終始ご指導頂きました新潟薬科大学薬学部物理薬剤学 研究室准教授飯村菜穂子先生、助手桐山和可子先生に心から感謝申し上げます。

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引 用 文 献

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13. Junko KIZU, Wataru ICHIHARA, Eriko TOMONAGA, et al., “Survey of Mixing Commercially Available Corticosteroid Ointments with Other Ointments and the Anti-inflammatory Activity of the Admixtures”, YAKUGAKU ZASSHI, 124(2), 93-97 (2004)

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15 金尾義治, 北河修治 編, 廣川書店, 東京都文京区本郷3 丁目 27 番 14 号, 2007, pp.190 15. ヒルドイドソフト軟膏 0.3% 医薬品インタビューフォーム 2013 年 3 月改訂(第 7 版) マルホ株式会社 16. ヒルドイドソフト軟膏 0.3% 添付文書 2008 年 12 月改訂(第 6 版) マルホ株式会社 17. パスタロンソフト軟膏 10% 添付文書 2007 年 12 月改訂(第 6 版) 佐藤製薬株式 会社 18. アクアチム軟膏 1% アクアチムクリーム 1% 医薬品インタビューフォーム 2009 年 10 月改訂(第 8 版) 大塚製薬株式会社 19. アクアチム軟膏 1% 添付文書 2013 年 3 月改訂(第 7 版) 大塚製薬株式会社 20. http://medical.radionikkei.jp/maruho_hifuka_pdf/maruho_hifuka-120223.p df マルホ皮膚科セミナー ラジオ NIKKEI 第 27 回日本臨床皮膚科医会④ シン ポジウム8-1 外用療法の落とし穴:外用剤の基剤と剤形 (閲覧日:2013.4.3) 21. デルモベートクリーム 0.05% 医薬品インタビューフォーム 2010 年 5 月改訂(第 3 版) グラクソ・スミスクライン株式会社 22. デルモベートクリーム 0.05% 添付文書 2011 年 3 月改訂(第 9 版) グラクソ・スミ スクライン株式会社 23. アクアチムクリーム 1% 添付文書 2013 年 3 月改訂(第 10 版) 大塚製薬株式会社 24. ペキロンクリーム 0.5% 医薬品インタビューフォーム 2013 年 2 月(第 7 版) ガルデ ルマ株式会社 25. ペキロンクリーム 0.5% 添付文書 2013 年 2 月(第 8 版) ガルデルマ株式会社 26. オイラゾンクリーム 0.1% 添付文書 2006 年 12 月改訂(第 7 版) ノバルティス ファ ーマ株式会社 27. マイザー軟膏 0.05% 医薬品インタビューフォーム 2013 年 4 月改訂(第 8 版) 田 辺三菱製薬株式会社 28. マイザー軟膏 0.05% 添付文書 2009 年 10 月改訂(第 6 版) 田辺三菱製薬株式 会社 29. リンデロン-V 軟膏 0.12% 医薬品インタビューフォーム 2013 年 4 月改訂 塩野義 製薬株式会社 30. リンデロン-V 軟膏 0.12% 添付文書 2013 年 2 月改訂 塩野義製薬株式会社 31. フルコート軟膏 0.025% 医薬品インタビューフォーム 2008 年 5 月改訂(第 5 版 A) 田辺三菱製薬株式会社 32. フルコート軟膏 0.025% 添付文書 2010 年 2 月改訂(第 8 版) 田辺三菱製薬株 式会社

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