LOH症候群のマネジメント
作成者:岡山大学病院 総合内科 原田 洸
監修者:岡山大学病院 総合内科 大塚 文男
分野:内分泌
テーマ:診断検査
LOH症候群 (late-onset hypogonadism)とは
✓加齢男性性機能低下症候群
✓男性更年期障害
とも呼ばれる
✓加齢に伴う血中男性ホルモンの低下に基づく症候群
✓性機能障害、抑うつ状態
、筋力低下、骨粗鬆症、貧血、認知
機能低下、メタボリック症候群、心血管疾患、など多彩な症状
✓日本泌尿器科学会・日本Men’ s Health医学会から
2007年に診療の手引きが発刊された
症例:
39歳 男性
主訴:易疲労感
【現病歴】
約10年前から、
倦怠感
を強く感じていた。約5年前から
気力の低下
を主訴に近医心療内科を受診。
うつ病の診断
で薬物療法を開始した。2年前から
性欲の減退
と
睡眠障
害(中途覚醒、熟眠感不足)
を認めていた。1年前から
嗄声、
薄毛、耐寒低下
があり、3ヶ月で6kgの
体重減少
を認めた。
内分泌系疾患を疑われ、当院に紹介となった。
症例:
39歳 男性
主訴:易疲労感
【既往歴】Ramsay Hunt症候群
【内服薬】デュロキセチン、スルピリド
【アレルギー】なし
身体所見
体温:36.5℃、血圧:101/58 mmHg、脈拍:59 回/分、SpO2:98% 呼吸音:清、明らかなラ音聴取せず 心音:整、雑音聴取せず 腹部:平坦、軟、圧痛なし、腸蠕動音正常 体毛・眉毛:前頭部薄毛あり、眉毛は外側優位に薄い 身長:172.8cm 体重:80kg BMI:26.8kg/m2 ウエスト周囲径:93.0cm精神心理的評価
✓BDI-Ⅱ:20点(うつの境界域)21以上が鬱
(Beck Depression Inventory 2nd edition)✓HAM-D:10点(軽症)19以上が重症
(Hamilton Depression Rating Scale)✓Heinemann’s AMS:
55点
(重度)50以上が重度
症例の経過
✓遊離型テストステロン:7.8 (<8.5 pg/mL)と低値であり、 症状も合致するためLOH症候群と診断した ✓40歳未満であり、ARTの適応はないと判断した ✓補中益気湯で加療を開始したところ、症状は徐々に改善した ✓症状が持続する場合、40歳以降はアンドロゲン補充療法の適応 を検討する方針としたClinical Question
LOH症候群を疑った場合、
検査、診断、治療のマネジメントは
どのように行うべきか?
✓症状
✓検査
✓診断
✓治療
LOH症候群の症状および徴候
1)リビドー(性欲)と勃起能の質と頻度、 とりわけ夜間睡眠時勃起の減退 2)知的活動、認知力、見当識の低下および疲労感、抑うつ、 短気などに伴う気分変調 3)睡眠障害 4)筋容量と筋力低下による除脂肪体重の減少 5)内臓脂肪の増加 6)体毛と皮膚の変化 7)骨減少症と骨粗鬆症に伴う骨塩量の低下と骨折のリスク増加 加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)診療の手引き✓症状
✓検査
✓診断
✓治療
1、内分泌学的検査
✓血清遊離型テストステロン
-LOH症候群の診断に必要✓
LH, FSH
-原発性と続発性の鑑別に有用✓
TSH, FT4
-甲状腺機能低下症の除外✓PRL
-PRLは性腺機能低下の原因になる✓GH, IGF-1
-低下によりLOH症状がみられる✓DHEA, DHEAS, Cortisol
一般臨床検査・泌尿器科臨床検査を行い、基礎疾患のスクリーニングと アンドロゲン補充療法の適応の決定を行う 必須検査: 身長・体重・BMI・ウエスト周囲径・血圧・握力、胸部X線撮影、心電図 血液検査:血算、生化学(肝機能、脂質、電解質、耐糖能)、一般検尿 腫瘍マーカー:PSA 選択検査項目: 骨塩定量(DEXA法)、体脂肪率 泌尿器検査: 精巣・前立腺触診、容積測定、外陰部(陰茎)、体毛(髭・陰毛) 質問票:IIEF(国際勃起機能スコア)、IPSS(国際前立腺症状スコア)
2、一般検査
加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)診療の手引き3、質問票
1、LOH症状の評価
AMS (Aging Males’ Symptom) スコア 2、うつ病の評価
Self-rating for Depression Scale (SDS) Beck Depression Inventory (BDI)
Hospital Anxiety and Depression Scale(HAD) Hamilton Depression Rating Scale (HDRS)
LOH 症候群は不定愁訴にて受診する場合が多く、
✓症状
✓検査
✓診断
✓治療
LOH症候群の診断
✓世界的に確立された診断基準はない ✓症状、テストステロン値、AMSスコア、他疾患(うつ病など)の 除外により総合的に判断する ✓テストステロン値は、欧米諸国では総テストステロン値を、 日本では遊離型テストステロン値を用いるように推奨あり ✓遊離型テストステロン8.5 pg/ml以下を1つの基準としているテストステロンについて
✓総テストステロンは, SHBGとテストステロンの結合型,アルブミンとテスト ステロンの結合型,および遊離型テストステロンの3分画よりなる ✓血中において活性型テストステロンは遊離型テストステロンであり,総テス トステロンの1-2%に過ぎない 総テストステロン 遊離型テストステロン 1-2% アルブミン結合型 テストステロン 25-65% SHBG結合型テストステロン 35-75% バイオアベイラブル テストステロン (BAT) 加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)診療の手引きなぜ遊離型テストステロンか?
遊離型テストステロン値は有意に加齢とともに減少する
なぜ遊離型テストステロンか?
✓総テストステロンは肝疾患・甲状腺疾患・肥満など結合蛋白の 増減に影響されるが、遊離型テストステロンはこれらに影響さ れない ✓日本の研究では、総テストステロンは加齢による減少が極めて 軽度であるが、遊離型テストステロン値は有意に加齢とともに 減少することが示された ✓上記の理由から、 日本の「LOH症候群 診療の手引き」では 遊 離型テストステロン値: 8.5 pg/ml(20歳代のmean-2SD)を 正 常下限値として診断検査に推奨している 加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)診療の手引き✓症状
✓検査
✓診断
✓治療
遊離T < 8.5pg/ml (20歳代のmean -2SD) 8.5 ≤ 境界閾 < 11.8 正常値 ≥11.8 pg/ml (20歳代のYAMの70%値) LH・FSH上昇 Hypo/hypoの精査 LH・FSH低下 ART禁忌例の除外
LOH症候群の診断アルゴリズム
Hypo/hypo: hypogonadotropic hypogonadismアンドロゲン補充療法
(ART)の適応
適応基準 LOH症状を有し、遊離型テストステロン低値の40歳以上の男性 除外基準 ✓前立腺がん (治療前PSA>2.0ng/ml以上。2.0<PSA<4.0ng/mlの場合は慎重に検討) ✓中等度以上の前立腺肥大症 ✓乳がん ✓多血症 ✓重度の肝機能障害 ✓重度の腎機能不全 ✓うっ血性心不全 ✓重度の高血圧 ✓夜間睡眠時無呼吸血清遊離型テストステロン値で分類 <8.5 pg/mL未満> -ARTを第一に行う <8.5 pg/mL以上、11.8 pg/mL未満> -症状や徴候の程度や、ARTのリスクおよび有用性を説明し治療選択の一つとする <11.8 pg/mL以上> -ARTは行わず、症状に応じて治療を考慮する。 例) 性機能症状:PDE5阻害薬、精神症状:抗うつ薬など