漸増負荷下における自転車エルゴメータ駆動時の外側広筋と大腿直筋の筋活動変曲点と換気性作業閾値の時間的関係
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(2) 376. 理学療法学 第 43 巻第 5 号. い,サイズの原理にしたがって運動単位の小さい type. ていない,あるいは運動を中止するような呼吸器,循環. Ⅰ線維から運動単位の大きい type Ⅱ線維が追加リク. 器,代謝系疾患の現病,既往がない,自転車駆動に伴う. ルートされることで筋積分値が非直線的に増加すると考. 腰部,下肢痛がない,とした。研究概要について書面を. 6)7). 。ペダリング動作の主動作筋である大. 用いて十分に説明し,研究参加の承諾を得た後,同意書. 四頭筋では,他の下肢駆動筋と比べて変曲点の出現率. に署名を得て研究を実施した。なお,本研究は金城大学. えられている. が高いことが明らかにされている. 8)9). 。筋積分値による. 筋活動推移から求められる非直線的に増加するポイント (electromyographic threshold: 以 下,EMGT) と VT ˙ O2 3‒6),あるいは仕事量 9) が高い相関 point における V. 研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号第 26-07 号) 。 2.方法. 関係を示すことは,呼吸器系や循環器系とともに,効果. 1)表面筋電図の処理. 器が個人の有酸素能レベルに大きく寄与していることを. 運動中の筋活動は表面筋電計(Noraxon 社製,テレ. 表している。. マイオ 2400:EM-401)を用いて計測した。被検筋は. 一方,EMGT と VT point の出現時間に焦点をあて,. VL と RF の 2 筋(ともに右側)とした。ディスポーザ. それらの時間的関係を明らかにした研究は少ない。過去. ブル電極(METS 社製,ブルーセンサー P-00-S)を使. に ramp 負荷下における VL と RF の EMGT 出現時間. 用し,各筋の電極貼付部に十分な前処置後,筋線維の走. と VT point 到達時間を比較した検討結果は一致してお. 行と平行に貼付した。皮膚抵抗はインピーダンスチェッ. り,VL と RF の EMGT は,遅れて出現する換気性作. カー(Noraxon 社製,EM-570)を用い,すべて 5 kΩ. 業閾値(VT2)である呼吸性代償(respiratory compen-. 以下となったことを確認した。サンプリング周波数は. sation point: 以 下,RC point) 到 達 前 後 に 認 め ら れ. 3,000 Hz で計測した。. 10‒12). 。すなわち,EMGT は VT point よりも遅れて. る. 2)前準備. 出現することが示されている。しかし,これらの研究対. 研究実施時の環境室温は 24℃に設定した。被験者は. 象者は自転車競技選手やトライアスロン選手といった運. 運動負荷試験開始約 30 分前までに研究場所へ到着し,. 動耐容能の高いアスリートを対象とした結果である。ペ. 血圧,脈拍に異常がないことを確認した。表面筋電計と. ダリングスキルを習得している自転車競技選手と素人で. 心電計のディスポーザブル電極(ビトロード M-150)を. は駆動時の筋活動の動員パターンが異なるため. 1). ,これ. 貼付した後,表面筋電計にて被検筋の最大随意収縮の計. らの知見が一般の健常若年者にあてはまるかどうか,明. 測を行った。. らかにされてはいない。また,過去の検討では,運動負. 3)運動負荷試験. 荷試験の特性上,高齢者を対象として検討された報告は. 呼気ガス分析装置(アニマ株式会社,AT-1100)と自. 見あたらない。臨床場面への応用を考えると,高齢者の. 転車エルゴメータ(Cateye,EC-MD100)を用いた。ま. EMGT と VT point の到達時間を評価することは,運動. た,心電計(日本光電,ECG-1550) ,運動負荷血圧計. 中のリスク管理や運動強度を決定するうえで有用な指標. (SunTech Medical 社製,Tango) ,パルスオキシメー. となる可能性がある。本研究では,健常若年者と運動習. ター(紫明メディカル,オキシメイト S-101)を装着し,. 慣をもつ高齢者を対象として,運動負荷試験中の筋活動. 血圧,心拍数,酸素飽和度をモニターした。血圧計は右. から VL と RF の EMGT を求め,2 筋の EMGT と VT. 上腕部に,パルスオキシメーターは左示指に装着した。. point の出現時間を比較し,加齢によってこれらの時間. サドルの高さはペダルが最低点に位置したときに右膝が. 的関係がどのように変わるかを明らかにする。. 20°屈曲位となるように設定した。足趾がペダル前方よ り出るように足部をペダル上に置き,足部のうえからペ. 対象と方法. ダルストラップで固定した。. 1.対象. 運 動 負 荷 は ramp 負 荷 を 採 用 し, 若 年 者 は 20 W. 対象は,若年群として健常男子大学生 10 人(20.3 ± 0.5. ramp 負荷,高齢者は 10 W ramp 負荷とした。プロト. 2 歳,BMI 20.6 ± 1.4 kg/m )と,高齢群として 65 ∼ 75. コルとして,サドル上安静座位を 4 分間,ウォーミング. 歳 の 高 齢 者 10 人(68.0 ± 3.4 歳,BMI 22.0 ± 1.4 kg/. アップを 20 W で 4 分間駆動した後,漸増負荷へと移行. 2. m )であった。全員,BMI は正常範囲内であった。被. した。ケイデンスは毎分 50 ∼ 60 回転とし,駆動中は前. 験者の選定条件として,若年群では呼吸器,循環器疾患,. 方を注視し,前傾姿勢が強くならないよう適宜,指示を. ならびに下肢に運動器疾患の現病,既往のない者とし. 行った。また,運動強度増大に伴って起こる体幹の動揺. た。高齢群では,運動習慣(1 回 30 分以上の運動を週 2. に対しては口頭で指示を行い,その都度修正を促した。. 13). )がある,人. 運動負荷開始から 1 分ごとに,血圧測定とともに運動に. 間ドックやかかりつけの医師より運動の中止を指示され. 対する主観的強度について Borg scale を用い,胸部症. 回以上実施し,1 年以上継続している.
(3) 若年者と高齢者の筋活動変曲点と換気性作業閾値の時間的関係. 状と下肢症状に分けて聴取した。. VT point とした. 運動負荷試験の中止基準は,心電図上の異常が認めら れた場合,運動開始時より 10 mmHg 以上の血圧低下. 377. 16). 。. 統計学的検討. が認められた場合,収縮期血圧が 200 mmHg を超えた. 2 群間の比較として,BMI,運動負荷試験の総運動時. 場合,狭心症状が認められた場合,中枢神経症状(失調,. 間について,Shapiro-Wilk 検定にて正規性が認められれ. めまいなど) ,胸部症状や関節症状などを訴えた場合,. ば対応のない t 検定を用いて検討した。. 体調不良(嘔気,足の痙攣など)を理由に中止を希望し. EMGT の妥当性を検証するため,群内において各筋. た場合. 14). ,また心拍数が Blackburn の式より求められ. の EMGT 前後の slope を比較した。Shapiro-Wilk 検定. る被験者の予測最大値の 90%を超えた場合,胸部もし. を用い,正規性が認められる場合は対応のある t 検定を,. くは下肢 Borg scale が 19(非常につらい)に達した場. 正規性が認められなければ Wilcoxon 符号付順位和検定. 合,毎分 50 回転の駆動を約 10 秒以上維持できなくなっ. を用いて検討した。. た場合,駆動に伴い体幹の動揺を制御できなくなった場. 本研究は VT point と EMGT の出現時間の関係を検. 合,検者が試験中止の必要と感じた場合(顔つき,顔面. 討するものであるため,各被験者の運動時間を均一化す. 蒼白,冷汗など)とした。中止基準に達した場合,即座. ることを目的に,被験者個人の VT point 到達時間を. にクールダウンへ移行し,20 W で 4 分間の駆動を行っ. 100%として,それに対する VL と RF の EMGT 出現時. て運動負荷試験を終了した。その後は水分補給を行い,. 間を相対値で表した。若年群,高齢群の各群内において,. 運動開始前の血圧,脈拍まで回復するのを待って退室を. VT point 到達時間と VL,RF それぞれの EMGT 出現. 許可した。なお,本研究において運動後に身体の異常を. までの時間を比較した。Shapiro-Wilk 検定を用い,正規. きたした者はいなかった。. 性が認められれば多重比較検定として Tukey 検定を用. 4)データ処理. いて 3 変数の比較を行った。この EMGT と VT point. 筋活動について,導出された筋電位のアナログ信号を. 到達時間の比較において,統計ソフト The R Project. AD 変換した後,パーソナルコンピューターに取り込ん. for Statistical Computing( 「R」 )を用いて検定力分析. だ。得られた筋電波形は 30 ∼ 500 Hz のバンドパスフィ. (事後の分析)を行った。. ルタで処理し,全波整流の後,最大随意収縮時の筋活動. さ ら に 主 観 的 疲 労 度 の 検 討 と し て,EMGT,VT. 量で正規化した。その後,50 ms 区間で二乗平均平方. point それぞれの出現時点にもっとも近い胸部と下肢の. 根によるスムージング処理を行った。本研究では漸増. Borg scale を採用し,Wilcoxon 符号付順位和検定を用. 1 W ごとの平均筋活動量を求めることとし,若年者で. い, 各 群 内 で 検 討 し た。 統 計 ソ フ ト と し て PASW. は 3 秒区間,高齢者では 6 秒区間の平均筋活動量を算出. statistics 18.0(IBM SPSS)を用い,すべて 5%水準に. した。運動負荷試験終了直前のデータが定めた区間時間. て有意判定を行った。. (若年者 3 秒間,高齢者 6 秒間)に満たない場合はその データは処理から除外した。さらに,被験者の帯電位の. 結 果. 個体差を緩衝するため,ウォーミングアップ中の 30 秒. 2 群間の比較において,BMI には差が認められなかっ. 間(211 ∼ 240 秒間)の平均筋活動量で各区間の平均筋. た。運動負荷試験における総運動時間は若年群が 535.4. 活動量を正規化した。これらの処理によって得られた時. ± 61.1 秒に対し,高齢群が 417.0 ± 97.5 秒と,高齢群. 系列データから折れ線回帰分析にて EMGT を算出した。. の運動時間は有意に短かった(p < 0.05)。運動負荷試. 任意の点で交わる 2 本の回帰直線をあてはめ,2 本の回. 験の中止理由は,若年群では心拍数の増加が 5 人,血圧. 帰直線の残差平方和の総和が最小となる点を EMGT と. の上昇が 2 人,下肢 Borg scale の上昇が 2 人,駆動回. した。直線回帰を用いた EMGT の算出は他の研究にお. 転数の保持不可能が 1 人であったのに対し,高齢群では. いても用いられている手法である. 10)12)15). 。EMGT を. 血圧の上昇が 7 人,心拍数の増加が 3 人であった。総運. 境に描かれる 2 本の回帰直線の傾き(slope)と,抽出. 動時間に対する VT point 到達時間の割合(% ramp). された EMGT の精度を評価するため決定係数を求めた。 ˙ O2,二酸化 運動負荷試験中の呼気ガスデータから V. は若年群が 57.3 ± 9.8%に対し,高齢群が 85.6 ± 10.4%. ˙ E),呼気終末酸素 ˙ CO2),分時換気量(V 炭素排出量(V. 0.0001) 。. 濃度(FETO2),呼気終末二酸化炭素濃度(FETCO2). 各群の VT point 到達時間の相対値で表した VL,RF. を参照し,2 人の評価者によって VT point を決定した。 ˙ E/V ˙ CO2 は不変もしくは減少するのに対 V-slope 法,V. の EMGT 出現時間,および EMGT 前後の slope とそれ. ˙ O2 が増大するポイント,FETCO2 が不変もし し VE/V. 直線の slope(pre slope)と後の回帰直線の slope(post. くは減少するのに対し FETO2 が増加するポイントを. slope) を 比 較 し た 結 果, 若 年 群 で は VL(p < 0.01),. と,高齢群は若年群よりも有意に高値を示した(p <. ぞれの決定係数を表 1 に示した。EMGT より前の回帰.
(4) 378. 理学療法学 第 43 巻第 5 号. 表 1 各群の VT point および EMGT,slope,決定係数 決定係数(r2). slope VT point (%). EMGT (%). pre slope. post slope. 100. 129.5 ± 28.2. *1. 100. 132.8 ± 28.8. *2. 100. 49.8 ± 15.7 81.7 ± 26.9. pre 決定係数. post 決定係数. 0.072 ± 0.082. 0.236 ± 0.266. †1. 0.913 ± 0.045. 0.743 ± 0.165. 0.119 ± 0.110. †2. 0.015 ± 0.013. 0.844 ± 0.097. 0.838 ± 0.078. *3. 0.059 ± 0.053. 0.028 ± 0.022. †3. ‡1. 0.866 ± 0.053. 0.696 ± 0.157. 0.009 ± 0.012. 0.017 ± 0.020. 0.494 ± 0.390. 0.504 ± 0.329. 若年群 VL RF 高齢群 VL RF. 100. 平均値±標準偏差 *1 VT point vs VL EMGT:p<0.05 *2 VT point vs RF EMGT:p<0.05 *3 VT point vs VL EMGT:p<0.0001 ‡1 VL EMGT vs RF EMGT:p<0.01. †1 †2 †3. VL pre slope vs post slope:p<0.01 RF pre slope vs post slope:p<0.01 VL pre slope vs post slope:p<0.05. 図 1 典型的な VL と RF の筋活動推移と EMGT 出現ポイント 上図:20 歳,男性.VL,RF いずれの EMGT は VT point よりも遅れて出現している. 下図:68 歳,男性.VL,RF いずれの EMGT は VT point よりも先行して出現している.VL の 活動推移は EMGT を境に傾きが減少している.RF の活動推移はほぼ横這いで,目視上,明 らかな変曲点は認められない.. RF(p < 0.01)ともに有意に上昇した。一方,高齢群. 時間には差が認められなかった。それに対し,高齢群で. の VL では EMGT を境に有意に低下した(p < 0.05) 。. は VL は VT point(p < 0.0001)および RF(p < 0.01). また,RF については EMGT 前後の slope に有意な変化. よりも早期に EMGT が出現した。VT point と RF には. は認められなかった。. 差が認められなかった。若年群,高齢群の VL,RF の. 各群内において,VT point 到達時間および VL と RF. 典型的な推移を図 1 に示した。. の EMGT 出現時間を比較した結果,若年群では VL(p. EMGT と VT point 到達時間の比較について,検定力. < 0.05),RF(p < 0.05)ともに VT point よりも有意. 分析(事後の分析)を行った結果,若年群の検定力は. に遅れて EMGT が出現した。VL と RF の EMGT 出現. VL が 10 人( 効 果 量 0.84) ,RF は 9 人( 効 果 量 0.89).
(5) 若年者と高齢者の筋活動変曲点と換気性作業閾値の時間的関係. 379. と十分な検定力が得られた。一方,高齢群では VL が 4. 験者で RC point を確認することはできなかった。その. 人(効果量 1.00) ,RF は 19 人(効果量 0.49)であった。. ため,健常若年者の VL と RF の EMGT が RC point 付. EMGT と VT point 到達時刻付近の Borg scale の比. 近で出現するかどうか判断はできないが,過去のアス. 較について,若年群の胸部のスケールでは,VT point. リートの結果と同様,2 筋の EMGT は VT point よりも. 到達時点(中央値 12,四分位偏差 1.4)よりも RF の. 遅れて出現することが示された。筋活動が非直線的に増. EMGT 出現時点(中央値 14,四分位偏差 1)は有意に. 加する EMGT は,疲労した運動単位の収縮力不足を補. 高 値 を 示 し た(p < 0.05)。VT point と VL の EMGT. うために生じる運動単位の発火頻度の増大と,type Ⅱ. 出現時点(中央値 13,四分位偏差 1)には差が認められ. 線維を中心とした運動単位の追加リクルートを反映する. な か っ た が,VL の 方 が 高 値 を 示 す 傾 向 に あ っ た. と考えられている. 7). 。VT point 以上の運動強度では交. (p=0.07)。下肢のスケールでは,VT point 到達時点(中. 感神経の緊張亢進により糖分解が活発化するが,これは. 央値 12.5,四分位偏差 1.4)よりも VL の EMGT 時点(中. 糖代謝を優位とする type Ⅱ線維の運動単位のリクルー. 央 値 14.5, 四 分 位 偏 差 0.9)(p < 0.05),RF の EMGT. トが起こることと一致する。EMGT は VT point よりも. 時点(中央値 15,四分位偏差 0.8) (p < 0.05)のスケー. 遅れて出現することから,活動筋の酸素動態,代謝状態. ルは有意に高値を示した。一方,高齢群の胸部のスケー. が 筋 活 動 に 影 響 を 及 ぼ す も の と 考 え ら れ る。Osawa. ルでは,VT point 到達時点(中央値 11,四分位偏差 0.9). ら. よりも VL の EMGT 出現時点(中央値 10,四分位偏差 1). い,活動筋の酸素消費量を反映する脱酸素化ヘモグロビ. のスケールは有意に低値を示した(p < 0.05) 。下肢の スケールにおいても,VT point 到達時点(中央値 13,. ン の 増 加 が 減 衰 す る ポ イ ン ト(attenuation point of ˙ O2 は EMGT 時 muscle deoxygen:以下,APMD)の V. 四分位偏差 0.8)よりも VL の EMGT 出現時点(中央値. ˙ O2 よりも低値を示すことを明らかにしている。 点の V. 10,四分位偏差 2.5)のスケールは有意に低値を示した. VL を被検筋とした Racinais ら. 15). は VL を被検筋として近赤外空間分解分光法を用. 12). の研究においても同. 下肢(中央値 11.5,四分位偏差 1.8)については,VT. 様の結果が示されている。APMD は活動筋の相対的な 15) ˙ O2 酸素不足を示唆する所見である 。局所活動筋の V. point 時点のスケールと有意な差は認められなかった。. ˙ O2 は高い相関関係を認める 17) ことから, と全身の V. (p < 0.05) 。RF の胸部(中央値 11,四分位偏差 0.8),. VT point を超えて活動筋の代謝が無気的代謝優位にな. 考 察. ると,type Ⅱ線維を中心とした運動単位の追加リクルー. 本研究結果より,若年群の VL,RF の EMGT 出現時. トが起こることで筋活動が非直線的に増加したものと考. 間には差がなく,ともに VT point よりも遅れて出現す. えられる。. ることが示された。それに対して,高齢群では RF の. 若年者では VL と RF の EMGT 出現時間に差は認め. EMGT は有意な変曲点が認められないこと,さらに VL. られなかった。ペダリング動作において,ペダルの踏み. では EMGT を境に slope が低下することが示された。. 込みに加えて引き上げ作用も有する RF. 若 年 者 に お け る VL と RF の EMGT は と も に VT. も疲労時の反応が明瞭で,非直線的な活動が抽出しやす. point より有意に遅れて出現し,それに伴い Borg scale. いものと予測していた。トゥークリップの使用によって. の疲労度も VT point より EMGT 付近の方が高いスケー. RF の活動は増加. ルを示した。Luc a ら. 10). は自転車競技選手を対象とし. する. 18)19). 1). は,VL より. する一方で,VL の活動は低下. 18). 。ペダルストラップを使用した本研究において. て,漸増運動負荷下における VL と RF の時系列データ. も,トゥークリップと同様の効果により,RF の活動が. か ら 2 点 の EMGT を 求 め て お り, 遅 れ て 出 現 す る. より増加するものと考えていた。自転車愛好者を対象と. EMGT(EMGTh2)は RC point 以降に認められること. し た Candotti ら. を報告している。自転車競技選手とトライアスロン選手. EMGT 出現時間には差が認められておらず,本研究と. を対象とした Thomas と Stephane. 11). の検討では,2 筋. の EMGT は RC point の直前に認められている。また, Racinais ら. 12). も自転車競技選手を対象として同様の検 10). 20). の 検 討 に お い て も,VL と RF の. 同様の結果であった。本研究の被検部位である VL 浅部 と RF 浅部はともに type Ⅱ線維優位の組成で. 21). ,その. 比率に大差はない。しかし,最大随意収縮時とウォーミ. の 報 告 と 同 様,VL の. ングアップ時の筋活動量で正規化した本結果の推移を比. EMGT は RC point 以降に,RF はほぼ RC point 付近に. 較すると,VL は RF よりも筋活動量が大きく,EMGT. 認められることを明らかにしている。これらのアスリー. 前後の回帰直線における slope も急峻であり,過去の研. トを対象とした研究結果は,VL,RF の EMGT は RC. 究. point 到達前後,すなわち VT point 以降に出現するこ. 告 に よ る と, 最 大 酸 素 摂 取 量 の 14 ∼ 15 % か ら 95 ∼. とで一致している。本研究では運動負荷試験の中止基準. 96%までの間において,RF は VL よりも有意に筋活動. として血圧と心拍数の上限を設定したため,すべての被. が低く,最大酸素摂取量に到達する付近の運動強度で. 討 を 行 っ た 結 果,Luc a ら. 11)12)22). と同様の結果を示した。Racinais ら 12)の報.
(6) 380. 理学療法学 第 43 巻第 5 号. VL と同等の活動になることが示されている。一方,最. 期に出現する,pre slope と比較して post slope が低下. 大酸素摂取量の 54%強度で自転車エルゴメータを駆動. する,という 2 点において特徴的であった。EMGT 前. したときの筋活動パターンを検討したものによると,. 後の 2 本の回帰直線の決定係数は高く,EMGT として. RF や腓腹筋のような二関節筋の活動は小さく,VL,内. の妥当性についても十分であると考える。高齢群 10 人. 側広筋,ヒラメ筋のような単関節筋の活動が相対的に高. のうち,pre slope に対して post slope が上昇した者は. 18). 。以上の知見を勘案すると,VT point レベルの中. 1 人のみで,この被験者は VL の EMGT が 10 人中もっ. 等度強度では単関節筋である VL がおもにペダル駆動を. とも遅く出現した者であった。post slope の低下は運動. 担い,RC point レベルの高強度になると RF のような. 単位の減少. 二関節筋が追加リクルートされるものと考えられる。す. の特徴を捉えている可能性がある。しかし,過去の報告. なわち,運動強度の増加に対して VL の EMGT 出現に. において,EMGT を境に slope が低下することを示し. 呼応して,ペダル駆動のために必要な収縮力を補う形で. たものはない。VL の EMGT 出現時間は VT point 到達. い. 27). によって筋力が低下する高齢者のひとつ. RF の筋出力が一気に増加し,同筋の EMGT が出現し. 時間の 49.8%程度であり,有気的代謝によってエネル. たものと推察する。. ギー供給が十分に賄われていたものと予測され,同筋が. 高齢群の EMGT 出現時間は若年者とはまったく異な. 筋 疲 労 を 呈 し て い た と は 考 え づ ら い。 ま た,VL の. る結果を示した。加齢に伴い,筋の形態変化(筋線維数. EMGT 出現付近の Borg scale をみても,胸部,下肢,. の減少,筋断面積の減少,type 線維の組成変化)や筋. いずれにおいても VT point 到達付近の症状よりも有意. 力低下とともに代謝の変化が認められる。なかでも代表. に低く, 「かなり楽である」∼「楽である」の症状である。. 的なのは,骨格筋ミトコンドリアの変化であり,量の低. この結果から,若年群のように,代謝状態が筋活動に影. 下と酵素活性の低下がもたらされ,ATP 生成効率が低. 響を与える,という考察は高齢群にはあてはまらない。. 下する. 23‒25). 。また,骨格筋の毛細血管密度の低下によ 26). VL の post slope 低下の要因として,EMGT を境として. 。以上. slope が低下するのとほぼ同期して,膝伸展筋以外の筋. の知見から,漸増運動負荷に対して筋疲労が早期に出現. 肉の活動が増加している可能性が考えられる。加齢に伴. し,EMGT は若年群よりも早期化すると予測していた。. い,骨格筋の筋力低下,筋毛細血管密度や ATP 生成効. VL の EMGT は VT point よりも早期に出現し,仮説ど. 率が低下する. おりの結果であったが,RF の EMGT を境として描か. を継続して使い続けるのではなく,疲労を回避するため. れた 2 本の回帰直線は,pre slope に比べて post slope. に駆動に関与する複数の筋を多様なパターンで使用して. は有意な変化を示さなかった。すなわち,本研究では高. いるのではないかと推測する。特に,単関節筋である. 齢群の RF の EMGT の妥当性が認められなかった。こ. VL は中等度レベルの運動強度下においてペダル駆動の. の要因として,運動負荷試験の総運動時間が影響してい. 主動作筋として作用する. ることが考えられる。本研究では血圧や心拍数の上限を. しするために,漸増負荷に対して筋活動量の増加勾配を. 運動負荷試験の中止基準として設定したため,若年群よ. 低下させ,膝伸展筋以外の筋活動を増加させることでペ. りも総運動時間が短く,特に総運動時間に対する VT. ダル駆動を行っている可能性が考えられる。VL の post. point の 到 達 時 間( % ramp) が 平 均 85.6 % と,VT. slope 低下を解明するためには,大. point を超えてからわずかな時間で運動中止に至ってい. に関与する筋活動パターンについても解析する必要が. る。高齢群全員が,血圧上昇,心拍数上昇のいずれかで. ある。. り活動筋への酸素運搬の低下,遅延が生じる. 運動を中止しており,自覚症状によって中止した者はい なかった。RF は高強度レベルになって一気に筋活動が 12). 23‒26). ため,若年者のように同一の活動筋. 18). 。主動作筋の疲労を先延ば. 四頭筋以外の駆動. 結 論. ことを考えると,本研究では. 本結果より,若年者では VL,RF いずれの EMGT も. 高齢群の総運動時間,さらに無気的代謝が優位となって. VT point より遅れて出現しており,無気的代謝が優位. 増加する特性を有する. からの時間が短かったため,妥当な EMGT を抽出する. となることで type Ⅱ線維を中心とした運動単位の追加. ことができなかったものと考える。また,検定力分析の. リクルートが生じることが示唆された。一方,高齢者で. 結果からも,サンプル数の十分な確保が得られていない. は,VL の EMGT の出現は VT point 到達時間よりも有. 結果が示唆されており,運動負荷試験の中止基準の設定. 意に早く,さらに EMGT を境に slope が低下した。こ. と被験者数については本研究の限界である。本結果よ. の知見は,VL の活動増加勾配の低下とほぼ同期して膝. り,高齢者の RF の EMGT を抽出するには RC point レ. 伸展筋以外の筋肉の活動が増加することで,ペダル駆動. ベルの高強度まで運動を継続する必要があると考えら. の主動作筋である VL の疲労を回避している可能性が考. れる。. えられた。. 一方,高齢群の VL の EMGT は,VT point よりも早.
(7) 若年者と高齢者の筋活動変曲点と換気性作業閾値の時間的関係. 文 献 1)Hug F, Dorel S: Electromyographic analysis of pedaling: A review. J Electromyogr Kinesiol. 2009; 19: 182‒198. 2)Conley KE, Esselman PC, et al.: Ageing, muscle properties and maximal O2 uptake rate in humans. J Physiol. 2000; 526: 211‒217. 3)Nagata A, Muro T, et al.: Anaerobic threshold determination by blood lactate and myoelectric signals. Jpn J Physiol. 1981; 31: 585‒597. 4)Miyashita M, Kanehisa H, et al.: EMG related to anaerobic threshold. J Sports Med Phys Fitness. 1981; 21: 209‒217. 5)Glass SC, Knowlton RG, et al.: Identifying the integrated electromyographic threshold using different muscles incremental cycling exercise. J Sports Med Phys Fitness. 1998; 38: 47‒52. 6)山田英司,赤坂清和,他:筋電図積分値から算出した作業 閾値と換気性作業閾値との関係について─被検筋の違いに よる比較─.理学療法学.2001; 28: 20‒24. 7)Moritani T, de Vries HA: Re-examination of the relationship between the surface integrated electromyogram (iEMG) and force of isometric contraction. Am J Phys Med. 1978; 57: 263‒277. 8)Hug F, Laplaud D, et al.: Occurrence of electromyographic and ventilatory thresholds in professional road cyclists. Eur J Appl Physiol. 2003; 90: 643‒646. 9)Jürim e J, von Duvillard SP, et al.: Aerobic-anaerobic transition intensity measured via EMG signals in athletes with different physical activity patterns. Eur J Physiol. 2007; 101: 341‒346. 10)Luc a A, S nchez O, et al.: Analysis of the aerobicanaerobic transition in elite cyclists during incremental exercise with the use of electromyography. Br J Sports Med. 1999; 33: 178‒185. 11)Thomas R, Stephane P: Prefrontal cortex oxygenation and neuromuscular responses to exhaustive exercise. Eur J Physiol. 2008; 102: 153‒163. 12)Racinais S, Buchheit M, et al.: Breakpoints in ventilation, cerebral and muscle oxygenation, and muscle activity during an incremental cycling exercise. Front Physiol. 2014 Apr 11; 5: 142. doi: 10.3389/fphys.2014.00142. eCollection 2014. 13)厚生労働省ホームページ 健康日本 21(身体活動・運動). http://www1.mhlw.go.jp/topics/kenko21_11/b2.html. 381. (2015 年 10 月 21 日引用) 14)大宮一人:運動負荷試験総論,狭心症・心筋梗塞のリハビ リテーション(改訂第 4 版) .木全心一(監修) ,南江堂, 東京,2009,pp. 103‒110. 15)Osawa T, Kime R, et al.: Attenuation of muscle deoxygenation precedes EMG thresholds in normoxia and hypoxia. Med Sci Sports Exerc. 2011; 43: 1406‒1413. 16)Itoh H, Ajisaka R, et al.: Heart rate and blood pressure response to ramp exercise and exercise capacity in relation to age, gender, and mode of exercise in a healthy population. J Cardiol. 2013; 61: 71‒78. 17)Knight DR, Schaffartzik W, et al.: Effects of hyperoxia on maximal leg O2 supply and utilization in men. J Appl Physiol. 1993; 75: 2586‒2594. 18)Ericson M: On the biomechanics of cycling. A study of joint and muscle load during exercise on the bicycle ergometer. Scand J Rehabil Med Suppl. 1986; 16: 1‒43. 19)岩下篤司,市橋則明,他:ペダリング動作における下肢筋 の筋電図学的分析.理学療法学.2004; 31: 135‒142. 20)Candotti CT, Loss JF, et al.: Comparing the lactate and EMG thresholds of recreational cyclists during incremental pedaling exercise. Can J Physiol Pharmacol. 2008; 86: 272‒278. 21)Johnson MA, Polgar J, et al.: Data on the distribution of fibre types in thirty-six human muscles. An autopsy study. J Neurol Sci. 1973; 18: 111‒129. 22)Chin LM, Kowalchuk JM, et al.: The relationship between muscle deoxygenation and activation in different muscles of the quadriceps during cycle ramp exercise. J Appl Physiol. 2011; 111: 1259‒1265. 23)Nair KS: Aging muscle. Am J Clin Nutr. 2005; 81: 953‒963. 24)Conley KE, Jubrias SA, et al.: Exercise efficiency is reduced by mitochondrial uncoupling in the elderly. Exp Physiol. 2013; 98: 768‒777. 25)Layec G, Haseler LJ, et al.: Reduced muscle oxidative capacity is independent of O2 avilability in elderly people. Age. 2013; 35: 1183‒1192. 26)Poole JG, Lawrenson L, et al.: Vascular and metabolic response to cycle exercise in sedentary humans: effect of age. Am J Physiol Heart Circ Physiol. 2003; 284: H1251‒ H1259. 27)後藤勝正,大平充宣:加齢性および廃用性筋萎縮と予防 策.The Bone.2005; 19: 465‒469..
(8) 382. 理学療法学 第 43 巻第 5 号. 〈Abstract〉. The Temporal Relationship between Electromyographic Threshold for Quadriceps Femoris and Ventilator Threshold during Incremental Cycle Ergometer Exercise in Young and Elderly Males. Kentaro SASAKI, PT, MSc, Tsuyoshi KIMURA, PhD, Masahiro NOGUCHI, PT, MSc, Satoshi KOJIMA, PT, PhD Kinjo University Kentaro SASAKI, PT, MSc, Hiroyuki HIGUCHI, PhD Graduate School of Health Sciences (Division of Distance Education), Kyushu University of Health and Welfare. Purpose: This study was designed to compare the appearance time of the ventilator threshold (VT) point and the electromyographic threshold (EMGT) as manifested by a non-linear increase in the activity of the vastus lateralis (VL) and rectus femoris (RF) muscles during ramp cycling exercise in young and elderly males. Methods: Ten healthy young male and ten community dwelling elderly males participated in this study. Subjects performed cardiopulmonary exercise testing with an expiratory gas analyzer and surface electromyography to evaluate muscle activities of the VL and RF during ramp exercise. The appearance time of the EMGT was calculated employing linear regression analysis. Results: In the young group, there was no difference in the appearance time of the EMGT between VL and RF. These two EMGT appearance times were significantly later than the VT point. In the elderly group, the EMGT appearance time for VL was significantly earlier than the RF and VT point, and the increase in the slope of the regression line for VL was significantly decreased after EMGT. The slope after EMGT for RF was not significant as compared to that before EMGT. Conclusion: In the young group, the appearance of EMGT was attributed to increased recruitment of fast twitch motor units that would presumably be triggered by the increase in anaerobic metabolism. In the elderly group, the increase in the slope of the regression line after EMGT for VL was blunted, possibly indicating delayed muscular fatigue in VL resulting from the activation of another muscle group, i.e. one other than the knee extensors. Key Words: Electromyographic threshold, Quadriceps femoris, Ventilatory threshold point.
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