道徳の指導計画作成のポイント
1 協力体制の整備………
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⑴ 校長の方針の明確化
⑵ 望ましい協力体制
⑶ 道徳教育推進教師の役割
2 全体計画………
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⑴ 「全体計画」の意義
⑵ 作成上の留意点と内容
3 年間指導計画………
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⑴ 「年間指導計画」の意義
⑵ 作成上の留意点と内容
4 学級における指導計画………
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⑴ 「学級における指導計画」の意義
⑵ 作成上の留意点と内容
光村図書出版株式会社
道徳の指導計画には,「道徳教育の全体計画」「道徳 の時間の年間指導計画」「学級における指導計画」「学 習指導案」がある。いずれも道徳教育を推進させる重 要な指導計画であるが,ここでは前三者の作成ポイン トを取り上げる(「学習指導案」については,別ファ イル「道徳の指導案作成のポイント」を参照のこと)。 まずは,これら指導計画作成の基盤となる協力体制の 整備から論を進める。 協力体制の整備 ⑴ 校長の方針の明確化 校長は,生徒の道徳性の実態,学校の課題,社会的 要請や地域の期待などを踏まえ,「道徳の時間を要と して学校の教育活動全体を通じて行う道徳教育」推進 の方針を明確化して,全教師に示すことが必要である。 それにより,重点や方向を理解し,意識を高め,積極 的に計画作成参加への意欲を喚起していく。 校長の方針は「確かな道徳教育推進のよりどころ・ 原動力」となるものである。 ⑵ 望ましい協力体制 校長の明確な方針の下に築かれる望ましい協力体制 とは,「道徳教育推進教師」を中心に,学校全体の校 務分掌組織を生かした,全教師が参加していく組織体 制である。全教師が組織的に役割を分担して,各自が もてる力を十分に発揮できるよう,きめの細かい協力 体制を築いていくことが大切なのである。特に,「要 である道徳の時間」と各教科,各学年,生徒指導,保 健指導,家庭・地域社会等との関連について,「道徳 教育推進部」を設置するなどして,具体的・実践的に 検討・配慮していくことが望ましい。道徳教育推進教 師一人だけ,あるいは一部の教師だけで作るといった ことにならないように,十分に気をつけなければなら ない。 ⑶ 道徳教育推進教師の役割 では,「道徳教育推進教師」とは具体的にどのよう な役割を担うのか。「中学校学習指導要領解説 道徳 編」(以下「解説編」)には,次の八つの事柄が挙げら れている。 ア 道徳教育の指導計画の作成 イ 全教育活動における道徳教育の推進,充実 ウ 道徳の時間の充実と指導体制 エ 道徳用教材の整備・充実・活用 オ 道徳教育の情報提供や情報交換 (例1)道徳教育推進上必要な分掌を工夫した協力体制 校長 副校長(教頭) 道徳教育推進教師 (道徳主任) (道徳研究部) 授業研究部 実践研究部 連携調査部 ■年間指導計画作成,資料の収集・保管,道徳授業に関する一切 ■校内研究会・研究授業の準備・運営等 ■全体計画作成,日常の実践指導,環境整備 ■学級における指導計画の作成,学年間調整 ■学校協議会,学校・学級通信,ホームページ ■道徳授業公開計画・実施方法立案,運営 ■保護者会・相談・PTA・地域連携,関係機関等 (例2)各学年から推進部員を選出して全校で作業を進めていく協力体制 校長 副校長(教頭) 道徳教育推進教師 (道徳主任) 道徳教育推進部(道徳部) 1年 3年 2年 1 道徳教育推進部の構成 選出された各学年1名から成る。 2 役割分担 道徳教育推進部にて立案し,全体会で決定する。 3 道徳教育推進部の係分担 ①道徳の時間の指導係 年間指導計画の作成,資料の収集・保管,道徳授業に関する一切,校内研 究会・研究授業の準備・運営等 ②道徳教育全体係 全体計画作成,学級における指導計画の作成,日常の実践指導,学年間調整, 環境整備 ③家庭・地域連携係 道徳授業公開計画立案・運営,保護者会・相談・PTA・地域連携,学校協 議会,学校・学級通信,ホームページ,関係機関との連絡等
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カ 授業公開など家庭や地域との連携 キ 道徳教育の研修の充実 ク 道徳教育における評価 これらの事柄について,「道徳教育推進教師」は, 全体を掌握しながら,⑵で述べた協力体制が円滑に推 進され,充実するよう心がけていくことが望まれてい るのである。 全体計画 ⑴ 「全体計画」の意義 道徳教育の全体計画とは,学校における道徳教育の 基本的な方針を示し,学校の教育活動全体を通して道 徳教育の目標を達成するための方策を総合的に示した 教育計画である。 全体計画は,校長の方針の下に道徳教育推進教師が 中心となって,全教師の参加と協力により,創意と英 知を結集して作成されるものであり,次の五つの重要 な意義をもっている。 ・豊かな人格形成の場として,各学校の特色や実態 及び課題に即した道徳教育が展開できる ・学校における道徳教育の重点目標を明確にして取 り組むことができる ・道徳教育の要として,道徳の時間の位置付けや役 割が明確になる ・全教師による一貫性のある道徳教育が組織的に展 開できる ・家庭や地域社会との連携を深め,保護者や地域の 人々の積極的な参加や協力を可能にする ⑵ 作成上の留意点と内容 全体計画は,これらの意義を踏まえて各学校の特色 を生かし,効果的に道徳教育を展開できる,具体的な 計画を示すことが望まれている。作成にあたって把握 すべき事項として,次の内容が挙げられる。 ❶教育関係法規,教育行政の重点施策 「日本国憲法」及び「学校教育法」並びに「教育 基本法」の精神を受けて告示された学習指導要領に 示された道徳教育の目標を押さえるとともに,各市 町村の教育行政の重点施策や児童憲章などの内容を 把握する。 ❷生徒の実態と課題 生徒の実態と課題を十分に把握する。 ❸学校や地域の実態と課題 学校や地域の実態と課題を把握する。 ❹教職員や保護者,地域の人々の願い ❷❸の実態や課題に対して,教職員,保護者,地 域の人々がどのような願いを抱いているのかを把握 する。なお,❷❸❹を把握するために,アンケート などの手段を取ることも考えられよう。 把握した事項をふまえ,全体計画に示すことが望ま れる事項として,次の点が挙げられる。 ア 道徳教育の重点目標 全体計画の要であり,「学校の教育目標」と「各 学年の指導の重点」を結ぶ核となる。 イ 各学年の重点目標 アの「道徳教育の重点目標」を発達段階に応じて 明確にしたものである。学習指導要領の内容項目 を基に具体的に記述する。 ウ 道徳の時間の指導の方針 道徳の時間の学習をどのように展開するのか方針 を示す。具体的には,「校長の方針」「年間指導計 画作成の観点」「重点目標にかかわる内容の指導 の工夫」「他の教師との協力的な指導」などを盛 り込む。 エ 特色ある活動や豊かな体験活動における道徳性 育成の方針の作成 学校や地域の特色を生かした組織,集団宿泊活動, ボランティア活動,自然体験活動などにおける道 徳性育成の方針,内容,時期などを整理して記述 する。各学校や地域の独自性を生かした教育活動 を計画することが望まれる。 オ 各教科,外国語活動,総合的な学習の時間,特 別活動,生徒指導等における道徳教育の指導の 方針 各領域の特質に応じた指導方針,道徳性の育成に かかわる指導の内容及び時期を整理して示す。 カ 特色ある活動や,豊かな体験活動と道徳教育と の関連 学校や地域の特色を生かした取り組み,集団宿泊 活動,ボランティア活動,自然体験活動などにお ける道徳性育成の方針,内容,時期を整理して記 述する。 キ 教育環境の整備や生活全般における指導の方針 道徳教育を効果的に行うために必要な環境整備の
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方針を具体的に記述する。 ク 家庭,地域社会,他の学校や関係機関との連携 方法 道徳教育を効果的に行うためには,環境づくりと ともに組織作りも必須となる。家庭や地域と連携 し,一体となって道徳教育に取り組める具体策を 示していきたい。具体的には,協力体制,道徳の 時間の授業公開,広報活動,保護者や地域の人々 の参加や協力の内容及び時期,具体的な計画等を 記述する。 ケ 道徳教育の推進体制 道徳教育推進教師の位置付け,学校の推進体制を 記述する。 コ 「心のノート」の活用方針 「心のノート」は生徒の心の成長の記録であり, 地域・家庭との橋渡しの役目も担う。日ごろから ポートフォリオとして活用させていくことが大切 である。そのためにも,指導計画の中に活用の方 針を位置付けるとともに,道徳の年間指導計画の 中にも関連させておくことが望ましい。 サ その他 次年度に向けての評価を記述する欄をつくったり, 研修計画や重点指導に関する添付資料等を記述し たりすることも望ましい。 ※「全体計画例」サンプルについては,別ファイルを参照のこと。 年間指導計画 ⑴ 「年間指導計画」の意義 年間指導計画は,道徳の時間の指導が,道徳教育の 全体計画に基づき,生徒の発達段階に即して計画的・ 発展的に行われるよう組織した全学年にわたる年間の 指導計画であり,次の三つの重要な意義をもっている。 ・計画的,発展的な指導を可能にする。 ・道徳の時間の学習指導案を立案するよりどころと なる。 ・教師間の情報交換や研修などの手がかりとなる。 ⑵ 作成上の留意点と内容 具備することが望まれる事項と作成上の留意点は次 のとおりである。 ❶各学年の基本方針 全体計画に基づき,各学年の基本方針として次の 3点を具体的に記す。 ・学年としての指導の力点 ・生徒の実態 ・資料,指導法の工夫,関連事項等 ❷年間にわたる指導の概要 ア 指導の時期 何月の第何週に指導するかを示す。 イ 主題名 道徳の時間における主題とは,どのような道徳 的価値をねらいとし,どのような資料を活用する かを構想する指導のまとまりのことである。した がって,主題名には,指導内容と資料をよく表し た簡潔な言葉が望ましい。 ウ ねらい ねらいとする道徳的価値・道徳性の観点を端的 に表す。 エ 資料 中心的な資料の題名を示す。 オ 主題構成の理由 ねらいに対して,その資料を選んだ理由を簡潔 に記す。 カ 展開の大要及び指導の方法 学習の流れが分かるように,指導の概略や主な 発問構成,指導の留意点,「心のノート」の活用 を示す。 キ 他の教育活動等における道徳教育との関連 時間ごとに他の教育活動(各教科や外国語活動, 総合的な学習の時間,領域等)との関連を記し, 事前・事後指導の位置付けを明確にする。 ク その他 校長や副校長(教頭)の参加や他の教師の協力 的な指導の計画,または保護者や地域の人々の参 加の計画,複数時間で指導を行う場合の構想など を示す。特に全体計画に示した重点指導内容項目 についての年間計画を添付すると,指導の観点を 総合的に関連付けてとらえることができる。 ※道徳の時間の「年間指導計画」については,別ファイルを参照のこと。 学級における指導計画 ⑴ 「学級における指導計画」の意義 全体計画を生徒や学級の実態に応じて具体化する計 画で,学級における教師や児童の個性を生かした道徳
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教育を展開する指針となるものである。基本的に学級 担任が作成するもので,次の三つの意義がある。 ・道徳教育を適切かつ効果的に推進できる。 ・学級の指導を充実させることができる。 ・見通しをもって指導できる。 ⑵ 作成上の留意点と内容 具備することが望まれる事項と作成上の留意点は次 のとおりである。 ❶学級における生徒の道徳性の実態 基本的な生活習慣や規範意識,自律,思いやりの 心などの実態を把握する。 ❷学級における生徒の願い,保護者の願い,教師の 願い 生徒はどのような人になりたいのか,保護者はど のような人に育ってほしいのかなどを把握したうえ で,教師の願いを加える。 ❸学級における道徳教育の基本方針 全体計画の基盤のうえで,①②を踏まえた基本方 針を示す。 ❹具体的計画事項 次のような事項について具体的な計画を示す。 ・教師と生徒の信頼関係及び,生徒相互の望まし い人間関係を築く方策 ・各教科等における道徳教育の概要 ・学級における豊かな体験活動の概要 ・道徳教育に関する環境の整備の方針 ・基本的な生活習慣に関する指導の方針 ・他の学級・学年との連携の内容と方法 ・家庭・地域との連携,授業公開等にかかわる内 容と方法 ・その他(重点的な指導に関する計画等) ❺作成上の留意点 次の点を留意して創意工夫をする。 ・教師の個性を生かし,伸び伸びとした学級経営 を行う基盤となるようにする。 ・教師相互や保護者に提示し,協力を得る。 ・他の教師や保護者の意見を取り入れる。 ・網羅的でなく精選した内容にする。 ・分かりやすく図式化し,生徒や保護者にも記述 できる部分を設けるなど,学級や家庭でも日常 的に活用できるように工夫する。 また,活用に当たっては,「毎日の学級経営に生か す」「願いを生かす」「よさを引き出すことに生かす」 ことに配慮することが望まれる。 ※「学級における指導計画」サンプルについては,別ファイルを参照のこと。 (現代教育文化研究所所長・副読本編集委員 小川信夫)