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脂肪細胞に発現する遺伝子のDNAマイクロアレイ解析

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Academic year: 2021

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トピックス

はじめに

脂肪組織は生体内最大のエネルギー 貯蔵部位であるとともに,レプチンや アディポネクチン,TNF-αといった さまざまな生理活性物質の分泌を介し てもエネルギー代謝や摂食行動の制御 に重要な機能を果たしている.肥満で はこれらの生理活性物質をはじめ,多 くの遺伝子の発現が変化することが知 られており,脂肪組織の遺伝子発現の 変動を検討することは,脂肪組織の生 理や肥満の病態を理解するうえで重要 と考えられる.

1.肥満における遺伝子解析

最近このような脂肪細胞における遺 伝子発現を,DNAマイクロアレイ解 析を用いて網羅的に解析する試みが行 われている.Nad1erらはレプチン遺 伝子のob/ob変異をC57BL6マウスに導 入することにより,レプチン欠損によ る肥満が脂肪組織の遺伝子発現に与え る影響を解析している1) .検討した 11000の遺伝子中,肥満の誘導により 78の遺伝子発現が減少し,136の遺伝 子発現が低下したという.肥満により 発現が低下する遺伝子には,ミトコン ドリア系の諸酵素とともに,脂肪細胞 の分化過程で発現が増強する遺伝子が 多く認められたことから,彼らは肥満 によって脂肪細胞は「脱分化」の方向 を示す可能性があるとしている.また, ob/ob 変異をBTBRマウスに導入する と,肥満に加え高血糖を示すが,この ようなマウスの脂肪組織では情報伝達 分子や細胞骨格関連遺伝子,転写調節 因子など90以上の遺伝子の発現が変動 しており,これらの遺伝子の発現変化 が糖尿病の病態と関連する可能性も指 摘している. Soukasらも同様にob/obマウスの脂 肪組織の遺伝子発現解析を行い,476 の遺伝子の発現が対照と比べ有意に変 動することを見出し,炎症関連遺伝子 の増加や脂肪合成系遺伝子の減少に着 目している2) .また,レプチンを短期 間(12日間)投与したob/obマウスや野 生型マウス,またpair-feedingを行っ た対照マウスでの遺伝子発現を経時的 に解析した結果,摂餌量の制限により 変動する遺伝子や摂餌量の制限とは独 立して,レプチン作用により変動する 遺伝子などを多くのクラスターに分類 している.また,ob/obマウスで発現 変動を示す遺伝子のなかには短期間の レプチン投与では正常化しないものも 多く存在したが,そのような遺伝子の なかには,ob/obマウスにレプチン遺 伝子を導入したトランスジェニックマ ウスでは正常化するものも存在した. このような遺伝子群の発現調節には, 生下時からの持続的なレプチンの存在 が重要なのかもしれない.

2.脂肪細胞分化における

遺伝子解析

一方,ヒト脂肪組織から得られた前 駆脂肪細胞や3T3-L1細胞の分化誘導 前後の遺伝子発現変化のDNAマイク ロアレイ解析も行われており,多くの 機能未同定の遺伝子が成熟脂肪細胞へ の分化過程で誘導されることが報告さ れている3.4) .3T3-L1などの培養前駆 脂肪細胞の分化過程では,初期に一過 性に誘導されるC/EBPβやC/EBPδ がPPARγやC/EBPαの発現を促し, 次いでPPARγとC/EBPαが協調的に 作用することにより,脂肪細胞を特徴 づける多くの遺伝子の発現を誘導する という転写因子カスケード仮説が提唱 されている5) Friedmanらのグループはこの過程 で の 遺 伝 子 発 現 の 経 時 的 変 化 を , DNAマイクロアレイにより詳細に解 析 し て い る6 ) . 彼 ら の 解 析 で は 約 11000の遺伝子のうち1259が分化過程 でなんらかの変動を示した.それらの 遺伝子の変動パターンを分析した結 果,その発現が分化の進行過程で一様 に減少または増加してゆくばかりでな く,一過性の増加や減少,二峰性,三 峰性の変動などの多くの特徴的なパタ ーンが存在し,それらは少なくとも27 種のクラスターに分類できるという. また,従来,PPARγやC/EBPαによ り誘導されると考えられてきた遺伝子 の発現が,必ずしもこれらの転写因子 と一致した変動を示さないことから も,脂肪細胞の分化過程には未同定の 転写因子が関与する,より複雑な調節 機構が存在する可能性を指摘している. また,彼らは脂肪組織を成熟脂肪分 画と前駆脂肪細胞が豊富に存在する vascular-stromal分画に分離し,各々

脂肪細胞に発現する遺伝子のDNAマイクロアレイ解析

神戸大学大学院医学研究科応用分子医学講座糖尿病代謝・消化器・腎臓内科

朱  健新,小川  渉,春日 雅人

「肥満研究」Vol. 7 No. 3 2001 <トピックス> 朱 健新,ほか

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「肥満研究」Vol. 7 No. 3 2001 <トピックス> 朱 健新,ほか の分画の遺伝子発現を3T3-L1細胞と 比較している.以前から3T3-L1細胞 の分化過程ではレプチンやTNF-αな どの生体の脂肪組織には強く発現する 遺伝子が必ずしも十分に誘導されない ことが知られていたが,これらの遺伝 子 に 加 え , 脂 肪 合 成 系 酵 素 で あ る ATP-citrate lyaseや糖新生系酵素であ るPEPCKをはじめ,68種の遺伝子の 発現が3T3-L1脂肪細胞では低いレベ ル に と ど ま っ て い た . ま た , 逆 に HMG1-CやPREF1といったマウス脂肪 組織では発現レベルが低く,3T3-L1 前駆脂肪細胞において高発現する遺伝 子群も見出されている.

おわりに

このようなさまざまなクラスターの 変動調節機構の解析や,個々の遺伝子 の脂肪細胞における生理的機能を検討 することにより,肥満の病態や脂肪細 胞の生理的意義に関する新たな発見に 通じる可能性もあり,今後の研究の進 展が期待される. 参考文献

1)Nadler ST, Stoehr JP, Schueler KL, et al.:The expression of adipogenic genes is decreased in obesity and diabetes mellitus. Proc Natl Acad Sci USA 2000,97:11371―11376. 2)Soukas A, Cohen P, Socci ND, et al.:

Leptin-specific patterns of gene

expression in white adipose tissue. Genes Dev 2000,14:963―980. 3)Zhou L, Halvorsen Y-D, Cryan EV,

et al.: Analysis of the pattern of gene expression during human adi-pogenesis by DNA microarray. Biotechnology Techniques 1999,

13:513―517.

4)Guo X and Liao K: Analysis of gene expression profile during 3T3-L1 preadipocyte differentiation. Gene 2000,251:45―53.

5)Rosen ED and Spiegelman BM: Molecular regulation of adipogene-sis. Annu Rev Cell Dev Biol 2000,

16:145―171.

6)Soukas A, Socci ND, Saatkamp BD, et al.:Distinct transcriptional pro-files of adipogenesis in vivo and in vitro. J Biol Chem 2001,276:34167 ―34174.

参照

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