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国際振替価格研究における留意点
淫 雨 1.序 内部振替価格に関しては今まで多くの研究が行われてきた。けれども,それ に比べて,多国籍企業の国際振替価格の設定方法と決定要因に関する包括的な 実証研究は比較的少ないように思われる。包括的な実証研究を行うとすればど ういう点に留意したらよいのかを提示することが,本稿の課題の一つである。 さらに,国際振替価格の決定要因の中でも,実務上は「税制上の規制」がク 1) ローズアップされ,「移転価格税制」というような形で盛んに議論されている。 しかし,国際振替価格設定には,税制以外にも種々の要因が影響する。現実に 国際振替価格を設定するにあたっては,どのような要因が考慮されているのか。 それについて考察する際に注意すべきことは,国際振替価格は,国内振替価 格の研究の延長線上にあると考えることもできるけれども,国内振替価格にお いては考慮されなかった目的も考慮されるために国際振替価格独自の問題を認 2) 識する必要があるということである。 1)安田(1989),企業会計(1991)参照。 2)例えば,管理者が意思決定を行うために役立つ情報を提供する,目標への一致を高める, あるいは組織単位の業績評価を行うといった目的は,内部振替価格の場合でも扱われる目 的である。したがって,こういつた目的が国際振替価格設定においても考慮されるならば, 国内振替価格の研究成果を応用することができよう。けれども,在外子会社は事業部と異 なり独立している。「マルチ・ドメスティック戦略」をとるか否か等の差があるとはいえ, かなり独立的な意思決定が行われる可能性も高い。すなわち,短期的に親会社と目標整合 性が損なわれる危険も高くなる。全社的所得税・関税の極小化を図ったり,財務的規制(本 国への送金の規制),為替変動の管理,現地政府との友好関係維持等の目的は,国内振替価 格の目的としては通常考えられない(ミューラー他(1991>10章)。しかも,目標間のトレ ード・オフは,目標の増加,不確実1生,複雑性の程度のより高い状況の下で一層深刻とな/206 蜷木實教授追悼号(第276・277号) 筆者は,国際振替価格の問題をとらえるにあたり,内部振替価格の研究成果 もある程度応用でき,それに加えて国際振替価格独自の問題が存在すると考え る。 このようなスタンスに立ち,本稿では,以下のような順序で議論をすすめて いく。 まず第一に,国際振替価格設定に影響する「要因」あるいは,「国際振替価格 設定目的」にはどういうものがあり,どれが重要であると考えられているかに 関していくつかの研究結果を示す。しかし,研究者によって,それらの項目お よび相対的重要度には差がある。その原因は,研究対象と研究方法の相違にあ る。 第二に,諸要因の中で,企業がなんらかの意味で操作の余地があり,かつそ の企業が重要視するものが「目的」として設定されると考えられる。目的問に はトレード・オフ関係にあるものがあり,それらが互いに影響しあいながら振 替価格の決定に影響している。そこで,さまざまな統計的手法を用いた分析が 行われているのであるが,それらに関していくつかの疑問点・批判点があげら れよう。 , たとえば,振替価格設定に影響する要因問の相関分析は,各論者が異なった 調査対象について異なった調査(問題意識・アブU一チ)を行っていることか ら研究間の比較可能性がないことや,有効回答の少なさ,5点スケールを用い た主観的調査結果をもとにしていることから信頼性においても限界がある。そ れでも,数多くの断片的な結果と現実を関連づけることによって,なんらかの 仮説を発見でき,一般化が可能になるのではないだろうか。 X り,本社のある本国と在外子会社のある受入国の置かれている状況,両国間の関係次第で, 重視される目的は変化する。そういう意味では,国際振替価格の設定は国内振替価格の設 定とは別個の問題としてとらえる必要があろう。亀井(1986)では,H.C. Verlage(1975) に基づき,1目標整合性要件,II業績測定要件, III法的要件のうち,1, IIは内部振替価 格設定の要件としている。MNCsにとって最も重要な要件は, IIIであり,①内部目的と外 部目的に別個の価格を設定するか,②アームスレングス価格を用い,意思決定や業績評価 のためには連結した財務諸表や計算方法を用いるという手がある。そして,②の場合,予 算に対する責任が問われる(p.31.)。
国際振替価格研究における留意点 207 第三に,調査対象の企業をいくつかの基準でグループ分けして,2つのグル ープのどちらの方が外部要因の影響を受け易いかについて論じたBurnsの研 究は注目に値するので紹介する。 第四に,Yunkerの研究にみられるような,外生変数と政策変数との関係,そ して政策変数間の相関関係に関する分析を紹介し,検討する。 これらのレビューを行う意味は,将来の実証研究の下準備をすることにあり, 研究の留意点およびフレームワークを提示することにある。 第五に,研究のフレーム・ワークを提示する。 II.過去に行われた実態調査 1.Shulman(1967), Kim and Miller(1979)による研究 (1)各国の結果の平均序列 Kim and Miller(1979)(以下, K&Mと略す)では,以下の項目が国際振替 価格の設定にあたって考慮され,表1のようにそれらの項目の各国毎かつ平均 的な重要性の順序が記されている。 a.受入国での利益の送金,b.為替管理, c.受入国でのジョイント・ベ ンチャーの規制(外資の持分規制),d.受入国での関税, e.受入国での所得 税の負担,f.U.S.での所得税の負担,9. U。S.での割当の規制, h. U.S親会 3) 社の信用状態,i.在外子会社の信用状態 一方,Arpan(1972)による研究では,米国に百%所有の子会社をもつヨーロ ッパのMNCsの研究が行われた。これに対しK&Mは,国際環境が1973年から 本質的に変貌を遂げたことを鑑み,また,振替価格政策は発展途上国へ投資し てきたU.S.企業の「全体的長期的財務的意思決定政策の部分」であるべきだと 論じ,Arpanとは異なった結論を出そうとしている。振替価格の設定は,発展 途上国に特有の財務的経済的要因によって影響を受けている。 3) K&M(1979) p.73.
208 上木實教授追悼号(第276・277号) ちなみに,K&Mの場合は,U.S.の親会社342社と特定の8つの発展途上国(上 述の8力国)の2力国にある,少なくとも一つの子会社に対して調査・インタ ビューが行われた。各国について,9っの要因が振替価格の決定に対してもっ ている潜在的重要性の程度が調査され,その結果は上述の表の①から⑨の順序 4) になっている。 表1 諸要因の重要性 海外での 鞄セ税 U.S.での 鞄セ税 関税 為替
ヌ理
利益の 雷 割当のK制
信用状態 t.S. 海外JV
韓国 ⑤ ⑦ ④ ① ① ⑥ ⑧ ⑨ ③ マレーシア ⑥ ⑤ ④ ② ① ⑦ ⑨ ⑧ ③ フィリピン ⑤ ⑥ ④ ② ① ⑦ ⑨ ⑧ ③ 台湾 ⑦ ⑤ ④ ② ① ⑥ ⑧ ⑨ ③ ブラジル ⑤ ⑥ ④ ② ① ⑦ ⑨ ⑧ ③ コロンビア ⑥ ⑤ ④ ① ① ⑦ ⑧ ⑨ ③ メキシコ ⑤ ⑥ ④ ② ① ⑦ ⑨ ⑧ ③ ペノレー ⑥ ⑦ ④ ① ① ⑤ ⑧ ⑨ ③ 平 均 ⑤ ⑥ ④ ② ① ⑦ ⑧ ⑨ ③ K&M(1979)p.72.より作成。 (2)振替価格影響要因の解釈 各変数の重要性で,過去の研究と異なっている第一は,「所得税の負担」の重 要度が,5,6番目と低くなっていることである。これは,一つには企業が国 際振替価格の操作を非常に規制されているためであろう。 Shulmanによれば,所得税率の低い国に財貨を移転することによる節税をめ ぐって,単に税率が同じでも,減価償却方法やある種の費用配分方法の相違に 5) よって,実際の課税額は相違することが指摘されている。これは,どのように 価格操作をやれば節税になるのかを知るのは困難であることを意味しており, 「所得税の負担」という項目の重要度の低さの理由の一つになっているのでは 4) lbid., p. 72. 5) Shulman(1967) p. 70.国際振替価格研究における留意点 209 ないだろうか。 また,K&Mは,国際振替価格政策は,企業の財務戦略の全体目的と両立す べきであると主張している。つまり,ある企業が在外子会社に資金(あるいは 利益)を残しU.S.への税金の支払いを延期することを望むならば,企業の全体 的財務目的との両立可能性と税金延期の有利性は,第一の関心事であるはずだ 6) とK&Mは述べている。例えば,税金の支払延期が有利となるのは,在外子会 7) 社における運転資本の不足・や追加的資金が必要な場合である。 他方,高い税率の国から低い税率の国へ資金を移転する財務的有利さが,こ れらの資金を他へ転用する(移転しないでその資金を使用する)財務的ベネフ ィットを越える場合にのみ,この資金移転が行われる。 また,1位と2位を占めているのは,「利益の送金制限」と「為替管理」であ 8) る。これらは,外国資本の流出を妨げる手段である。 ところが,価格操作に対しては,内国歳入法蓮482条により,アームスレング ス価格の設定が義務づけられることにより制約されている。しかも,製品の品 質,売上高,市場は変動する。さらに,管理や技術的サービスや財産権に関す る価格設定・費用の配分に関してさまざまな可能性が考えられる。すなわち, 一口にアームスレングス価格といっても,どれを選択するかという判断基準が 明確ではない。 他方,U.S.の親会社は,資本の流出に関する受入国の制限に対抗するために, 親会社や関係会社からの財貨を子会社が輸入するのにあたって,振替価格を高 く設定するという方法を考えるであろう。しかしながら,振替価格の操作は在 外子会社と受入国との問の関係を悪くする場合もあるので,振替価格の操作に 9) は限度がある。 6) K&M, op. cit, p. 71. 7)米国企業の場合,在外子会社から親会社へ送金する場合にのみ課税されるので,所得税 率が低い外国に利益を残すことによってU.S.への所得税の支払いを回避することができ る。 8) K&M, op. cit. p. 72. 9) lbid., p. 73.; Shulrnan, op. cit., p. 69.
210 蜷木型教授追悼号(第276・277号) これは一例にすぎないが,K&Mは, U.Sしの税金規定のために,さまざまな国 にある事業部間の複雑な振替価格のネットワーク作りは困難であるとしている。 内国歳入法第482条や財務省規則による規制もあり,また高度に分権化している 状況下では,諸目的間のトレード・オフをすべて考慮した振替価格の操作は不 可能だろう。 第三に重要な振替価格の利用への影響要因は,「受入国のジョイント・ベンチ ャーの規制」である。受入国による利益や持ち分に関する規制(進出側完全所 有の子会社は不可)が課される場合,技術的・管理的技能を購入するという問 題がある。 一般に,技術的技能に対するロイヤリティーや料金の支払いを通じて行われ る資金の移動は利益の送金とはみなされない傾向がある。これらの負担額は, 発展途上国における一般的経済状態と現地政府の経済発展に対する態度に依存 している。例えば高度な科学技術をもった産業は受入国の経済発展と外貨獲得 に貢献するので発展途上国の場合は歓迎されるかもしれない。なお持ち分の大 きさは,たいてい外国企業がジョイント・ベンチャーの利益に貢献するであろ 10)う能力の大きさに基づいている。 第四に重要な要因は,「受入国における関税」である。U.S.MNCsは,高い税 金の国では低い振替価格を設定する傾向があるが,受入国の法律に従い,全社 的目的とも両立しなければならない。したがって,新たな海外市場への浸透や 市場占有率の増加をねらう企業には,(低い振替価格を設定するために)管理費 ・研究費等の間接費を削減するというインセンティブを与えることになるかも しれないという。 第七の要因は,「U.S.での数量割当(原材料等)に対する制限」である。たと えば,U.S.の貿易規定は,台湾や韓国からの衣料品と履物の輸入割当を規制し, これらの財は,それらの国々とU.S親会社のジョイント・ベンチャーによって 10)米国では,法人格のない集団が事業をする場合,パートナーシップかジョイントベンチ ャーという形態をとる。前者は事業目的が一般的・長期的であり,後者は目的が特定され 一時的である点で相違する。
国際振替価格研究における留意点 211 11) 生産されている。調査された企業では,輸入割当の制限は,事前的に,交渉の 初期の段階において行われると考えられている。それで,振替価格の設定によ って輸入割当の制限が左右される傾向があるとすれば,この要因の重要度が低 いこともある程度説明がつくだろう。 最後の2要因は,「U.S.親会社の信用状態」と「在外子会社の信用状態」であ る。 外国で新たにベンチャー・ビジネスを始める際には損失がでる。現地で資金 調達をするために信用を創造する必要がある場合には,U.S.の親会社から,相対 的に低い価格で財を移転することによって,この損失を削減することが考えら 12) れる。 在外子会社の輸入の振替価格が低ければ,貸借対照表は健全にみえ,子会社 は現地で資金を調達しやすくなる。だが,今日のMNCsは,設立段階において 十分な資本があり,これを子会社に提供することができるため,国際振替価格 操作によって子会社へ資金を移転することは以前ほどは必要なくなった。K& Mは,こういつたことも振替価格政策において「U.S親会社の信用状態」があま り重視されない理由であろうと述べている。 (3)要約と課題 K&Mによれば,国際振替価格政策は,企業の長期的財務的意思決定政策の 一つの重要な統合部分であり,多くの振替価格設定目的あるいは要因があると しても,特定の振替価格政策は,長期的目的と常に両立すべきである。 K&Mによる研究結果では,「子会社のある国からの外国資本の流出の規制」 が振替価格政策の重要な影響要因になっている。その他,為替相場の下落によ 13) る損失やインフレによる影響を加味して振替価格は決定される。 11) K&M, op. cit., p. 74. 12) Shulman, op. cit., p. 72.; K&M, ibid., p. 75. 13)K&M, ibid., pp. 75−76.例えば,本国通貨が現地通貨に比べて相対的に価値が上がった 場合,単純に現地通貨に換算すると利益が発生する。逆の場合には損失が発生する。現地 国でのインフレは,現地の事業単位の価値を減少させる。(Salem(1989)p.147.)
212 蜷木實教授追悼号(第276・277号) 以上の研究は,事実を記述しようとした実態調査にすぎない。この他にも実 態調査あるいは実証研究があるが,それらに関して,以下のような批判がなさ れている。すなわち,多国籍企業の定義が曖昧なため,異なった調査問の比較 可能性が低い。研究対象が米国に本社のある企業である場合が多いが,日本企 業の場合とは,海外進出方法が異なっているだろうから,調査結果も異なる可 14) 能性がある。これらの点を含めて,本稿の最:終的目的は,これまでの国際振替 価格の調査における不備な点を確認し,実証研究を行うとするならばどういう 点に注意すればよいかを指摘することである。 そのために,分析フレーム・ワークを構築する必要がある。そこで,以下で は,過去に行われたいくつかの研究の中から,親会社が米国にあり子会社がエ ジプトにある場合をとりあげたSalemの論文を初めとしていくつかの研究を とりあげ,その長所と限界を指摘する。そして,それらを考慮に入れて国際振 替価格の実証研究を行う際の留意点をあげてみたい。 2.Salemによる研究 (1)問題意識 Salemによる研究では,以下の3点が議論されている。 1 米国企業とエジプトで営業しているその企業の事業単位との間の振替 価格決定に影響する主要な要因。 2 振替価格設定方法と各方法を利用する決定に影響する主要な変数。 15) 3 振替価格の決定に関係するその他の政策。 (2)調査対象と多国籍企業の分類 Salemの調査対象となる多国籍企業は,業種,エジプトにある事業単位の型 14>加登他(1991)産業経理pp.193−104.;企業会計p.130. 15) Salem (1988) p. 132.
国際振替価格研究における留意点 213 (ジョイント・ベンチャー,支店,フランチャイズ,完全に所有されている子 会社,エージェント,ディーラー,独立単位),U.S.とエジプトの事業単位のマ ーケットシェア,エジプトの事業単位への振替の平均値といった観点から分類 されている。これらの分類により,多国籍企業を一律にみるのと違う点では評 価できる。 業種は,回答数の3分の1以上が,石油,石炭,化学,電機からなる。エジ プトの事業単位のタイプは,さまざまであるが,特にジョイント・ベンチャー が28.9%と最も多く,支店,フランチャイズが23.7%,一番最・』・が独立的単位 16) 2.6%であった。 (3)振替価格決定要因 Salemは,いくつかの過去の実証研究をレビューし,過去の研究では特定の 2つの国家間の振替価格について議論していないという(Tangの場合は,不特 定多数の国との国際振替価格全般について調査)。それらの研究の欠陥を受け て,Salemは,18の決定要因を設定し,各要因の重要性の平均と標準偏差を 算出している。それらの要因は以下の項目順になっている。 第一に,エジプトの事業単位の競争的地位(16),全社的利益の極大化(4),エ ジプト政府との良好な関係維持(15),内国歳入法第482条に従うこと(2),は上 17) 位4つの重要な要因である。 Tang(1979)では,米国企業の振替価格決定要因として,重要なものから,全 社的利益の極大化①,利益,配当の本国送金に関する規制②,在外子会社の競 争的地位③,各国間の税制の相違④,在外子会社の業績評価⑤があげられてい る。比較可能性について問題があるものの,Tang(1992)では,この順序は,① ④②③そして,「その会社が経営を行っている国の関税率と法」に変化してい る。Tang(1992)による調査では,1977年から1990年の変化について,「在外子 会社に対する財務報告の規則と要求」「海外におけるインフレ率」「在外子会社 16) lbid., pp.131−132. 17) lbid., p.139.
214 三木實教授追悼号(第276・277号) 表2 U.S.の本社とエジプトの事業単位との間の振替価格設定の決定要因 決定要因のナンバー 16
S152369101751781813121411
全社的利益の極大化エジプトの事業単位の競争的地位 エジプト政府との良好な関係維持 内国歳入法482条に従うこと 個々の事業単位の利益極大化 エジプト政府によって課されたその他の規制 為替レートの変動 関税率 業績評価 利益と配当の本国送金に関してエジプト政府によって課された規制 事業単位内の振替量 ....一. ..’ エジプトの事業単位内で十分な現金を維持すること エジプトにおけるインブレ率 財務報告の要求 エジプトにおける現地投資家の利益 エジプトにおける没収のリスク 現地資金に対するエジプトの事業単位の需要 エジプトのダンピング防止法 Tangの③¢
⑤②
⑲⑯⑮
Salem(1988)p. 183.より作成。 の業績評価」のような要因について重要性が後退し,「国家間での所得税率と所 得税の規制の相違」「在外子会社における十分なキャッシュ・フローの維持の必 要」「現地政府との良好な関係の維持」「在外子会社が現地で資金を調達する必 18) 要」のような要因については重要性が増加している。 ちなみに,後述のBurns(1990)では,「海外市場条件」と「海外での競争」 が高いランクになっている。Yunker(1983)では,「全社的利益の極大化」が第 一位になっている。前述のK&M(1979)では,「受入国での利益の送金」「為替 管理」が上位にあった。 ということは,研究方法や研究対象が相違するものの,「在外子会社の競争的 地位」「全社的利益の極大化」「利益の本国送金」「内国歳入二二482条」等の項 18) Tang (1992) pp.25−26.国際振替価格研究における留意点 215 目は,比較的重要性をもっているといえるのではなかろうか。 逆に,低いランクにあるのは,Salemでは,「エジプトにおける没収のリスク (12)」「現地資金に対するエジプトの事業単位の需要(14)」「エジプトのダン 19) ビング防止法(11)」であり,これらは,Tangと同様の項目である。 第二に,回答企業は2つのグループに区分されている。一つは,相対的に独 立的なエジプトの事業単位であり,米国企業はリスクのある大きな出資をして いない。もう一つは,米国企業とより密接なつながりをもっており,大きなリ スクのある出資をしている。ジョイント・ベンチャー,支店,百%所有の子会 社は後者にあたる。両者は,上位4つの決定要因については,前者では(15)(2) (16)(4),後者では(16)(4)(2)(15)と順序が入れ替わっているだけで,項目の相 違はない。 ところが,いくつかの決定要因は高い相関関係をもっていることが示されて いる。たとえば,(5)は(6)と0.74,(5)は(7)とO.64,(18)は(17)と0.68の相関 20) 係数をもっている。 第三に,Salemは,米国企業とエジプトの営業単位との間の国際振替価格の 21) 決定要因の因子分析を行い,1からVIの6つの因子を示した。そして,実に3 22) 分の2を1,II, IIIが占めている。 19) 【要因の重要度に差をもたらしている理由】これらが低いランクにあるのは,外資の導 入は,雇用促進や資源の有効利用などによる経済状態の改善につながるため,エジプト政 府が外国に対し優遇措置をとり,保証しているためである。 エジプトの事業単位の資金需要については,①海外私的投資企業が金融プログラムを利 用可能にしているため,②米国の親会社が,必要な資金を提供し,エジプト政府もジョイ ント・ベンチャーに対して現地の資金調達を容易にしているために,重視されていない。 ダンピング防止法に関しては,エジプトにはほとんど規制のないことが,重要性を低くし ている。(Salem(1988)pp.139−140.) 20) lbid., pp. 141−145. 21) lbid., pp. 146−148. 22)1.エジプトにおける経済状態とエジプトの事業単位の競争的地位((9)(4)(10)(3)(8) (16))II.エジプト政府によって課された規制((5)(6)(7>(15)>III.財務報告と業績評価 ((17)(18))IV. U.S.における所得税と現地投資家の利害関係((2)(7)(13))V.独占禁止 法と現地での資金需要((11)(14))VI.事業単位間の振替量と没収のリスク((1)(12)) (Salem (1988) pp.146−148.)
216 蜷木實教授追悼号(第276・277号) 第四に,振替価格決定要因と振替価格設定方法との関係を検討するために重 判別分析が行われた。 その結果,各振替価格に関して,4つの決定要因(エジプトの事業単位の競 争的地位,エジプト政府と良好な関係を維持すること,全社的利益の極大化, 23) IRSによる規定に従うこと)は,等しく重要であることが指摘されている。 (4)研究の限界・貢献・今後の課題 研究の限界については,第一に,数少ない有効回答から一般的傾向がわかる かという疑問がある。 第二に,隠れている振替価格決定要因を検討したり,あるいは,受入国にお ける組織形態に応じて振替価格設定方法と振替価格決定要因との関係を発見し ようとは試みられなかった。もっとも,後者の問題については,サンプルが少 ないため,企業を2つのグループに分割するだけでも,結果の信頼性に重大な 24) 影響を及ぼす可能性がある。 Salemの研究の特徴は,第一に親会社のある国と子会社のある特定の一国 (エジプト)との間での国際振替価格に関して研究した点にある。そのため, 特定の国の環境の振替価格設定に対する効果を検討できる可能性がある。例え ば,エジプト政府は,諸外国の投資を促進する政策をとり,ほとんど規制がな いという状況が一例としてあげられている。 第二に,因子分析の結果,「現地国の経済状態」と「競争的地位」を振替価格 設定政策の基本的要因として考慮して振替価格が設定されればよいことが明ら かにされた。 第三に,判別分析(discriminant analysis)によれば,振替価格設定にあたっ てエジプトにおける経済状態,エジプト政府によって課された規制,財務分析 という3要素に高いウェイトが置かれている。 23) Salem, ibid, pp. 153−169. 24)Ibid., p.179.ちなみに, Salemの場合,15業種,7タイプ,38社のサンプルを使用して いる。
国際振替価格研究における留意点 217 以上の研究結果より,振替価格を設定するためにどのような要因に関する情 25) 報を重点的に政策決定者に提供すればよいかがある程度わかる。 最後に将来の課題であるが,Salemは,以下のような課題を提示している。
19白3
米国以外の投資家を前提とした研究を行うこと。 エジプトで営業しているすべての外資系企業の調査。 回答率をもっと上げる工夫。(これは,より多くの振替価格決定要因の発見 や参加企業の特性に基づいたより一層詳細な分析のためである。) 26) 4 エジプト以外の発展途上国に関する調査。3.Burnsによる研究
(1)研究対象と企業のグループ分け Burnsの研究は,62社のMNCsについて,14の変数が振替価格の決定に及ぼ す効果について論じている。質問票調査により得られたデータは,回答者が5 つの範疇からそれぞれ2つのグループに分けられる場合に,有意な差があるか どうかが分析された。すなわち企業のグループ分けをしている点に特徴がある。 5つの範疇とは,(それぞれ,グループ1,2に属する企業)①振替価格設定 方法が不適当なために,追加的U.S.連邦所得税を課される会社と課されない会 社,(監査は,資産五千万ドル以上の会社と国際取引を行っているほとんどの企 業が受ける)②US.製造業最大500社中,上位150社と,それ以下の会社,③輸 出売上高2500万ドルを越える会社と2500万ドルを越えない輸出売上高をあげて いる会社,④輸出額合計の50%越える売上高を子会社への輸出で占めている会 社と子会社への輸出が50%以下の会社,⑤コストプラス基準(原価加算法)お よびその他の方法を合理的と考える企業と,2つの市価基準を合理的と考える 企業である。 25) lbid., p.180. 26) lbid., p.181.218 蜷木實教授追悼号(第276・277号) (2)振替価格決定に対する影響要因 輸出のための企業内価格は,以下の実質的に14の変数のうち10(平均値2.15 −2.92)によって影響を受けている(残りは,3.10−3.64)。 重要さの順序では,(1)海外における市場条件,(2)海外における競争,(3)在 外子会社に関する合理的利益,(4)U.S.連邦所得税,(5)海外における経済状態, (6)輸入の規制.(7)関税,(8)価格管理,(9)海外における課税,(10)為替管理, (11)U.S.からの輸出のインセンティブ,(12)変動為替相場,(13)キャシュ・フロ 27) 一の管理,(14)その他のU.S.連邦税,の順である。 (3)データの分析 さらにいくつかの要因が会社のタイプの差によって振替価格設定に一層大き な影響を及ぼすこと(有意な差があるかどうか)が,スチューゲントのT検定 28> (片側検定;有意水準0.1)によって示唆されている。 【内国歳入法第482条の下での税金の再配分に基づいた回答の分析】………① MNCsは,しばしば単一の経済単位として経営活動を行っているのにもかか わらず,内国歳入法第482条の下では,各単位は,経済的に別個の単位として扱 27)Burns(1980)p.25.第一の質問は,各変数が振替価格の決定に実質的に影響力をもって いるということに,回答者が(1)強く同意する(1点),(2)同意する(2点),(3)決定されな い(どちらともいえない〉(3点),(4)同意しない(4点),(5)強く反対する(5点),の中 から一つを回答してもらったものであり,第二の質問は,回答者に14の変数について,彼 らが最も重要だと考える5変数を選ぶよう求めたものである。 これら14の変数のうちのいくつかと,以下の因子1から5(表3下)は,密接な関係に ある。 因子1(海外企業内環境):(1)海外における市場条件(0.898>(2)海外における競争(0. 891),因子2(キャシュ・フローへの影響):為替管理(0.637),キャシュ・フローの管理 (0.696),変動為替相場(0.503),U.S.からの輸出のインセンティブ(0.426),因子3(人 為的障壁):為替管理(O.427),価格管理(0.654),関税(0.519),輸入の規制(0.459), 因子4(税金):US.連邦所得税(0.761),その他のU.S.連邦税(0,469),海外における課 税(0.724),因子5(経済構造):海外における経済状態(0.510)とU.S.からの輸出のイ ンセンティブ(0.452)(p.26,) 28) Burns, ibid., p. 23.
表3 Burnsによる調査結果 影響要因 i ① i ② 国際振替価格研究における留意点 219 グループ1,2の平均値
1 @ i @ 1 @
U.S.連邦所得税 その他のU,S連邦税 海外における課税 U.Sからの輸出のインセンティブ 海外における競争 海外における市場条件 関税 為替管理 価格管理 輸入の規制 海外における経済状態 変動為替相場 キャシュ・フローの管理 i 2.81 2.31 i 2.60 2.55 1 2.35 2.80 i 2.00 2.80 i 2.32 2.79 i・ 3.84 3.41 i・ 3.63 3.65i3.58 3.70 i 3.35 3.75 1・ 3.39 3.85 i 3.06 2.59 i 2.90 2.77 i 2.61 3.07 i 2.35 3.02 1 2.50 3.12 i 3.38 2.79 i 2.87 3.32 [ 2.97 3.23 i 3.24 3.04 i 3.Oe 3.18 1 2.12 2.41 i 2.03 2.48 i 2.13 2.40 1 2.35 2.23 1 2.46 2.09 i2.06 2.24 i, 1.93 2.3512.06 223 i 2.29 2.09 i 2.25 2.06 i 2.78 2.62 i 2.77 2.65 i 2.55 2.87 1 2.47 2.80 i 2.75 2.67 1 2.94 2.90 i2.77 3.06 12.58 3.27 i, 2.94 2.91 i 3.14 2.73 i 2.97 2.6212.67 2.94 i2.68 2.93 1・ 2.71 2.84 i 2.89 2.73 1 2.66 2.59 1 2.57 2.68 1 2.58 2.67 i 2.41 2.70 1 2.82 2.45 i 2.69 2.52 i 2.47 2.74 1 2.71 2.50 i 2.65 2.59 i 2.79 2.45 i 3.28 3.03 i 3.07 3.26 i 3.00 3.33 i 3.24 3.14 1 3.21 3.12 i 3.19 3.21 i 3.13 3.26 1 3.03 3.37 i 3.35 3.14 1 3.32 3.09 海外事業単位に関する合理的利益;2.282.34:2,302.3212.292.3312.472.2512.392.24 影響要因 有意水準1 ¢
@ @ @ @ U.S.連邦所得税 i その他のU.S.連邦税 } 海外における課税 i U,S.からの輸出のインセンティブ } 海外における競争 i 海外における市場条件 1関税 i
為替管理 i 価格管理 i 輸入の規制 i 海外における経済状態 ; 変動為替相場 i キャシュ・フ・一の管理1 海外事業単位に関する合理的利益 i .048 .027 .052 .020 * * * * .085 * * * * * * * * .056 .034 .029 * * * * * * * * リム ら ユ 07魔O6***0900***0708*
40﹂9自 εU OO n5 O1磨磨魔O5*******
.061 .022 .016 * .070 * * .044 * .075 * * * * 海外企業内環境 キャシュ・フローへの影響 人為的障壁 税金 経済構造 * * * .038 .058 2 04 磨磨磨 * .021 * .054 * * * .070 .002 *2
***01* Burns (1980) pp.29−37.220 蜷木實教授追悼号(第276・277号) われる。そこで,別々に課税される場合に問題になる。 5億ドル以上の資産をもった全企業と,国際的取引を行うほとんどの企業は, 内国歳入庁によって毎年監査されている。1966−1977年の調査では,53%の企業 が内国歳入法によって振替価格を修正された。 これら修正を受けた企業(第一グループの企業)と修正を受けなかった企業 (第ニグループの企業)に対する前述の14変数の影響が調査された。 Burnsは,第一のグループの企業は,外部からの圧力の影響を受けやすいと 考えた。 しかし,表の①の欄より,第一のグループ企業に対してよりも,第二のグル ープ企業に対して,変数のいくつか(グループ2の方がグループ1よりも平均 の小さな変数)は,振替価格の決定に,より一層影響を与えている。有意な差 が,5変数(uS.連邦所得税,その他のU.S連邦税,海外における課税, U.S. からの輸出のインセンティブ,価格管理)と2因子(税金と経済構造)につい て報告されている。 このうち,U.S連邦所得税のみが非常に高い順位(2位)になっている。それ 以外の変数は,6位から14位を占めており,ほとんど振替価格決定に影響力を 29) もっていないと解釈されている。 【MNCsの規模に基づく回答の分析】………②③④ 上述のように,MNCsが大規模になるほど,(振替価格の設定を含む)意思決 定は,実質的に外部からの圧力によって影響される可能性が高くなるという仮 説がたてられた。ここで規模とは,総売上高,子会社への総輸出額,(総輸出に 占める)子会社への総輸出の%によって測定される。 Burnsの研究では,「総売上」の大きな企業150社の方がそれらよりも小さい 企業よりも,有意水準0.1で,3変数(U.S.からの輸出のインセンティブ,海外 における競争,海外における市場条件)と「海外企業内環境」によって影響を 30) 受けている。 29) lbid., p.28. 30) lbid., p.30.
国際振替価格研究における留意点 221 「子会社への総輸出」では,有意水準0.1で,6変数(U.S.連邦所得税,海外 における課税,関税,為替管理,変動為替相場,キ・ヤシュ・フローの管理)と 2要因(キャシュ・フローへの影響と税金)について仮説が支持されている。 「総輸出の%」に関しては,有意水準0.1で,4変数(U.S.連邦所得税,その 他のU.S連邦税,海外における課税,関税)と2要因(人為的障壁と税金)に ついて仮説が支持されている。 ②③④から,規模と振替価格の関係について,Burnsは以下のような仮説を 導きだしている。 1.大規模企業の振替価格の決定は,小規模企業よりも,いくつかの変数につ いて一層大きな影響を受けている。 2.どの変数が企業の振替価格の決定に,より一層影響するかは,規模の定義 (3つのうちどれで測定するか)に依存している。3変数(U.S.連邦所得税,海 外における課税,関税)だけが,複数の規模のグルーピングに対し有意な差を 持っている。 3.規模の定義に関わらず,4変数(価格管理,輸入の制限,海外における経 済状態,在外子会社に対する合理的利益)に関しては有意な差は存在しない。 4.要因間には首尾一貫性がない。例えば,より大きな総売上をあげている企 業は,海外企業内環境によって実質的に影響を受けるが,この差は,他の2つ の規模のグルーピングに表われていない。 5.「税金」は,規模の複数のグルーピングに対し,有意な差をもった唯一の要 因である。 6.規模の3つの定義のうちのどれが利用されようと,「経済構造」について有 31) 意な差は存在しない。 【市価基準振替価格を利用する能力に基づいた回答の分析】………⑤ 内国歳入法第482条では,①非関連会社価格比準法②再販売価格法③原価加算 法を適用することを要求している。税金の支払者が明らかにより適切な代替的 31) lbid., p.32.
222 蜷木實教授追悼号(第276・277号) 方法を示さないならば,3方法の一つが使用される。振替価格として,回答者 の43%は非関連会社価格比熱法,30%は再販売価格法,64%は原価加算法,5 %はそれら以外の方法を適用した振替価格が合理的(正当)であると考えてい る。 また,それぞれの方法に関して,回答者のそれぞれ43%,15%,37%,5% が,各方法を利用すべきであると答えている(一つ選択の場合)。 (1)非関連会社価格比準法(2)再販売価格法は市価基準であり,(3)原価加算法 は原価基準である。原価加算法は外部からの圧力を受け易いとBurnsは述べて いる。ところが,結果はこれとは逆になっている。 ⑤では,企業をグループ1(上述の(3)あるいは,その他の適切な振替価格を 設定する企業),グループ2((1)(2)の市価基準を利用する企業)に区分して分 析されている。 表では,いくつかの変数については,Burnsによって検定された仮説(グル ープ1の方が振替価格の設定はより多くの変数によって影響される)とは逆に, グループ1の企業よりもグループ2の企業の方が,14変数のうちより多くの変 数(10変数)によって,振替価格の決定はより一層影響されるかもしれないと いうことが示されている。そして有意な差は,3変数(海外における競争,為 替管理,輸入規制)について報告されている。このように前述の結果とコンフ リクトが生じる理由は,1)このタイプの研究の限界によるのかもしれないこ と,2)グループ2の会社は,市価基準振替価格を利用していないかもしれな いこと,3)グループ2の会社は,いくつかの変数によって影響を受ける市価 32) を設定できるようにさせる立揚にあるかもしれないとBurnsは述べている。 (4)要約と結論 Burnsによれば,14の変数のうちグループ2の企業の方がグループ1よりも 32) lbid., p.36.
国際振替価格研究における留意点 223 平均の小さい(重要度の高い)変数の数は,①10,②3,③1,④8,⑤10で ある。 すなわち,この結果から,①④⑤に関しては,グループ2の方がグループ1 よりも多くの変数によって影響されているといえる。また,U.S.連邦税,海外に おける課税は,市価基準という振替価格を利用しないでもよい企業に対して, より大きな影響を及ぼしているといえる。②③に関しては,グループ1の「よ り規模の大きな企業」の方が,グループ2よりも多くの要因によって影響を受 けている。 ②③④の平均でみると,外部からの圧力は,より大きな企業(グループ1) の方が,小さな企業よりも企業内輸出振替価格決定に対し,より大きな影響力 をもっている可能性が大きい。しかし,どれが強い影響力をもっているかは, 規模の定義によって異なる。 U.S.および海外の課税は,市価基準振替価格に限定している企業(グループ 2)よりも,市価基準価格を指示する第482条の規制のない企業(グループ1) 33) の輸出価格決定に対して,より一層大きな影響を及ぼしている。 なお,サンプル数を十分大きいと考えるにしても,有意水準が大きいこと, そしてまた,グループ1と2の平均値の差がそれほど大きいものとは考えられ ないことから,もう一つはっきりした結果がでていないように思われる。
4.Yunkerによる研究
Yunkerが対象とした企業は,フォーチュン500社のリストの企業であり,調 査企業のうち14.5%の有効回答を得ている。 この研究は,以下の(1)(2)に加えて,MNCsにおける政策形成と政策間の調 整に関して論じている。すなわち,7っの要因が,「子会社の自律性政策」「業 績評価政策」「振替価格決定政策」に因果関係をもっているか否かが考察されて いる。さらに,15個の政策変数と7個の外生要因の関係,さらに政策変数間の 関係が検討されている。 33) lbid., p.38.224 蜷照臨教授追悼号(第276・277号) 振替価格に関係する研究内容を中心に要約すれば,以下のとおりである。 (ユ)振替価格の一般的目的 国際振替価格設定システムの盲目的の重要度に関して調査された結果は,全 社的利益の増大,適用上の単純化と容易化,管理者の業績評価の容易化,全社 的売上高の増加,その他という順位であった。 (2)振替価格設定基準 全社的観点からみて,各国際振替価格設定方法は相対的にどれくらい頻繁に 利用されているかという質問に対し,市価,標準単位全部原価プラス固定的マ ークアップ,市価模倣的方法という順位になっていた。 限界費用(増分原価),機会原価,双対価格,貢献利益はほとんど利用されて いない。 34) 用具的振替価格は,中程度に利用されている。 (3)用具的振替価格設定目的 用具的振替価格とは,特定の目的達成のための価格をさす。振替価格が用具 的目的のために利用されるケースにおいて,「企業全体の観点からみて,あなた の国際振替価格設定システムにおける以下の特定の諸目的はどれくらい重要で すか」という質問がなされた。この質問に対する回答から,売上税の削減とい う例外を除いて,諸項目はどれも同程度の重要性をもっており,特定の一つの 目的について振替価格の操作を行うという動機づけはないということがYun− kerによって明らかにされた。 具体的項目では,受入国との良好な関係維持,企業の利益の極大化あるいは 34)全社的諸目標「特に,全社的にベネフィットがもたらされるようにケース・バイ・ケー ス基準に基づいて,親会社がある振替価格プラスマークアップあるいは振替価格それ自体 を設定すること」を達成するために通常の振替価格政策への干渉を示すために造ちれたこ とば(Yunker(1983)pp. 57−58.)。
国際振替価格研究における留意点 225 所得税の削減,利益の本国送金に関する規制の回避,子会社の競争的地位の安 定化,関税支払額の削減,生産における規模の経済の利用,輸入子会社のため の安い材料の提供,通貨変動損失の削減,売上税支払額の削減,その他の順に 35) なっている。 (4)外生要因と政策変数および政策要因相互の関係 表4は,15個の要約的政策変数と7個の重要な外生要因の間の統計的に有意 な偏相関係数の符号を示している。 表4 政策変数と外生要因との間の関係
政策変数
WSAL
SUB NCOUN
FSUBR
FSALR
CBO1
ENVA
INSTA
十 一 一 十INSTSR
十 十INSTLR
十 一INSTIN
十 十 一 } 十 一 十PEGPD
十 一 十 十PEGPO
十 一 十 十 十PEGPS
一 十 一 一 十PESMPR
十 一 十PESMG
一 十 十 一 十PESMC
十 十PESMBG
一 十 一 十 十PESMI
十 一 十TPMMO
十 十 一 十 十TMPLO
一 一 十 一TPMIN
一 十 一 十 十 十 一 Yunker (1983) p. 60. 35) Yunker (1983) p. 59.226 蜷木實教授追悼号(第276・277号) 図1 Yunkerの仮説 【外生要因と自律性】 *規模 十 WSAL(世界的売上高) 子会社の自律性 十 ENVA (環境変化) (INSTA, INSTSR, INSTLR, INSTIN) *外国との関係 NCOUN, FSUBR 子会社間の内部振替に (国籍数) (在外子会社の子会社数に占める割合) 関する自律性(INSTIN) 【外生要因と振替価格政策】 十 *規模 TPMMO(市価) 十 WSAL(世界的売上高) TPMMO(市価) WSAL(世界的売上高) TPMIN (用具的振替価格) *海外との関わりの程度 TPMMO(市価) 十
SUB ・ FSUBR−TPMMO・TPMIN
(子会社数) (在外子会社の子会社数に占める割合)KCOUN 一 TPMMO ・ TPMIN
(国籍数) 【振替価格政策と自律性政策あるいは業績評価政策】 十 TPMMO(市場志向的振替価格) 子会社の自律性 利益志向的業績評価 TPMIN(用具的振替価格) 子会社の自律性 利益志向的業績評価 【政策の決定要因】 十WSAL ・ ENVA 一 TPMMO ・ PESMPR
十 一 WSAL ・ FSALR ・ ENVA 一 TPMIN ・ PESMPR国際振替価格研究における留意点 227 偏相関係数とは,独立変数(説明変数)X、,X、と従属変数yがある場合, x、,x2それぞれと,従属変数yとの偏回帰関係の強さ,の測定値である。例え ば,x2が一定の場合,あるいは, x2の影響を排除した場合のyとx、との純相関 を意味する。 この図で示されている相関性の符号(+一)は,少なくとも25%の有意水準 での相関を表わしている。太線の長方形で囲まれている部分は,少なくとも10 36) %の有意水準でそのような相関関係のあることを示している。 以下,Yunkerの研究のうち,いくつかの仮説を拾いあげてみよう。 Yunkerによる分析からでてきた仮説の第1は,外生要因と自律性に関する 仮説である。 1一(1)規模が大きくなると,子会社の自律性が高まる。 1一(2)環境変化が激しいと,子会社の自律性が高まる。 1一(3)外国との関係が密接になると,子会社の自律性は低下する。 「自律性政策」の決定要因として,Yunkerは,「全ての用具的変数(INSTA)」 「短期的用具(INSTSR)」「長期的用具(INSTLR)」「内部的用具(INSTIN)」 をあげている。 「世界的売上高(WSAL)」によって測定される「規模」と「知覚された環境 変化(ENVA)」は,子会社の「自律性」に正の効果をもっている。 ところが,子会社間の「内部振替(INSTIN)に関する自律性」については, 「経営を行っている国籍数(NCOUN)」「全子会社に占める在外子会社の比率 (FSUBR)」という「外国とのかかわり合いの程度」を示す2つの外生要因によ って負の影響を受ける。この事実は,同一規模のより国内志向的企業よりも用 具的目的のための振替価格設定をより多く利用する多国籍企業にあてはまる。 というのは,このような振替価格の利用のためには,振替に関する子会社の弾 力性(自律性)に対する規制が必要だからであるとYunkerは述べている。 36)偏相関係数の符号がプラスの場合は,独立変数は従属変数に対して増大効果を有してお り,負の揚合は減少効果を有している(Yunker(1983)p.57)。
228 並木實教授追悼号(第276・277号) 再言すれば,規模が大きくなるほど,環境変化が激しく子会社の「自律性」 も大きくなる傾向がある。ところが,「外国との関係」が多くなるほど,より国 内で経営を行っている企業よりも,親会社が振替価格設定を行う傾向のある多 37)国籍企業の方が子会社の振替に関する「自律性」は低い。すなわち,「規模」「環 ;境変化」「外国との関係」といった要因のうち影響の強い要因がどれかによっ て,「自律性」は影響を受ける。 ・ 第2に,外生要因と振替価格政策との関係である。 2一(1)世界的売上高で測定された「規模」が大きいほど「市価」が選ばれ, 用具的振替価格は選ばれない傾向がある。 2一(2)「子会社数」によって示される『規模』,「在外子会社の全子会社に占 める割合」によって示される『海外との関わりの程度』が大きいほ ど,市価・用具的振替価格両方の利用度は高くなり,「国籍数」で示 される『海外との関わりの程度』が大きいほど,両振替価格の利用度 は少なくなる。 振替価格政策の要因として,「市場志向的振替価格設定(TPMMO)」「低い振 38> 替価格設定(TPMLO)」「用具的振替価格設定(TPMIN)」が考えられている。 37)Yunker, ibid., p. 59.いくつかの項目に関して,親会社と子会社のいずれがイニシアティ ブをとって決定しているかに関して質問され,子会社が完全に決定権をもっている場合を 4点……親会社が完全に決定権をもっている場合を1点として点数化された。すなわち, 点数が高いほど,その項目の決定に関する自律性の程度が高いことを意味する。 「短期的用具(INSTSR)」とは,子会社が,他の子会社と直接的には関係をもたない短期 的経営活動に関して最大限の自由をもっている項目。 「長期的用具(INSTLR)」とは,例えば「多額の投資」「貸付金」「研究開発費」のような 項目。自律性は低い。 「内部的用具(INSTIN)」とは,「同一国の子会社への販売価格」「他の国にある子会社へ の販売価格」「他の子会社に売られた財の数量」「他の子会社から購入された財の数量」と いう4項目の平均値によって定義される。 38)「市場志向的振替価格設定(TPMMO)」:市価,全部原価プラスマークアップ等,「低い 振替価格設定(TPMLO)」:マークアップ,平均的固定費,あるいは両方を含まない振替価 格,「用具的振替価格設定(TPMIN)」:「企業全体にベネフィットを与えるためのケース・ バイ・ケース基準に基づいて設定される振替価格」。
国際振替価格研究における留意点 229 一般に「規模」という要因は,市場価格の利用を指示するであろうという。 一方,「外国との関係の密接度」は,(国際的状況の方が振替価格を利益を高め るように操作できる機会が多くなるために)市価が選好されないであろうとい う。例えば,「世界的売上高(WSAL)」は「市場志向的振替価格(TPMMO)」と 正の相関関係があるが,「用具的振替価格(TPMIN)」とは負の相関関係がある。 ところが,実態調査によれば,子会社数(SUB)と在外子会社比率(FSUBR) は,TPMMO・TPMINと正の相関関係がある。つまり,大企業(SUBが大) は,市価と用具的振替価格の頻繁な利用が,合法的であることを報告するため に,多くの内部振替を行っているとYunkerは述べている。 他方,「企業が経営を行っている国籍数(KCOUN)」は, TPMMO・TPMIN 39) に負の相関関係をもっている。 次にYunkerは,15の要約的政策変数間の統計的に有意な単純相関係数につ いて述べている。 第3に,振替価格政策と自律性政策間の関係である。 3一(1)子会社の自律性が高くなるほど「市価」が選択される。 3一(2)自律性が低くなるほど「用具的振替価格」が選択される。 39)Yunker, ibid。, pp.59−60.;以上のYunkerによる前者の研究結果は,谷教授があげてい るコンティンジェンシー理論に基づいた仮説と一部類似している(1一 (1),(2),2一(1),(2) の一部)。谷教授の言葉を借用して,事業部を子会社に置き換えて解釈すれば,以下のよう . になろう。(谷(1987)p.33−37) すなわち,意思決定環境の不確実性・複雑性が高まれば,分権化が高まり,プロフィッ ト・センター思考がとられる。このような状況では,’親会社による全社的総合調整のコス トの削減(情報処理負荷の削減)のために,親会社による調整をある程度放棄し,子会社 間の相互依存性の調整をある程度市場メカニズムに委ねる方がよいという考え方である。 その結果,内部利益を含む振替価格設定基準(原価プラス基準,特に市価基準)がとられ る。逆の場合,すなわち,不確実性・複雑性が低い状況の下では,原価基準がとられるこ とになる。 なお,この仮説の前提として,振替価格の適用は,子会社が振替価格設定の主体となる ために,全社的総合調整阻害の可能性があると考えられているようである。多国籍企業の 場合は親会社が振替価格を設定する傾向があるとすれば,この前提は満たされない。必ず しも,このコンテ/ンジェンシー理論のフレーム・ワークだけでは,説明できない。
230 台木實教授追悼号(第276・277号) 表5 政策変数間の関係 INSTSR INSTIN PEGPO PESMPR FESMC PESMI TMPLO 1 1 1 11 1 1 ) 1 1 ) ) 11 1 1 1NSTA INSTLR PEGPD PEGPS PESMG PESMBG TPMMO TPMIN
INSTA
INSTSR
十INSTLR
十 十INSTIN
十 十 十PEGPD
一 一 一PEGPO
十PEGPS
十PESMPR
十 十 十 十 十PESMG
十 一ト 十PESMC
一 一 一 十 一 十PESMBG
一ト 十 十 十 十 十PESMI
十 十 十 十 十 十 十 十TPMMO
十 十 十 一 十 十 十 十TPMLO
十 一 十 一 十 ㎝TPMIN
一 一 一 一 一 十 十 一 十 一 Yunker (1983) p. 61. 「市場志向的振替価格」は,子会社の「自律性」に正の関係をもっている。 「用具的振替価格」と子会社の「自律性」には負の関係が認められる。さらに, 「低い振替価格」と「内部用具的自律性(INSTIN)」の間に統計的に有意な負の 関係が見いだせないが,それは「規模の要因」のせいであろうとされている(後 述)。 第4に,振替価格政策と業績評価政策との関係である。 4一(1)「利益志向的業績評価」は「市価」と正の相関関係がある。 4一(2)「利益志向的業績評価」は「用具的振替価格」と負の相関関係がある。国際振替価格研究における留意点 231 振替価格設定と業績評価の関係に関しては,「利益志向的(利益重視の)業績 評価」が「市場志向的振替価格」と正の関係があり,「用具的振替価格」と負の 関係がある。これは,企業が実際に振替価格設定方法を諸目的に適応させるた めに業績評価政策を調整することを示しているという。 たとえば,子会社間で利益の人為的な配分が行われるとしても,振替価格が 全社的利益向上のための積極的用具として利用されるならば,その企業は,利 益業績の歪曲の修正よりはむしろ,業績評価に際して利益基準のウェイトを軽 40) くする傾向があるだろう。 第5に,振替価格変数間の関係である。 振替価格変数問の相互関係は,ほとんどすべて正である。しかし,市場志向 的振替価格の利用と非市場志向的振替価格の利用との間には,明らかにトレー ド・オフ関係があるので,一になるべきところが+になっている原因は,「規模 の要因」にあるに違いないと解釈されている。(これは,例えば,表4のSUB
が,TPMMOとTPMIN両方に正の偏相関係数をもっているが,この効果が強
かったことをあらわしているのだと考えられる。) 以上のような,政策相互の単純相関係数の符号は,外生的要因が政策変数そ れぞれに対してもっている相関関係の強さ(偏相関係数の符号)によって決ま 41) る。 (5)政策次元間の関係の決定要因 40)Yunker, ibid., p.61.;振替価格の操作によって子会社の利益が歪曲される例としては, たとえば,原価プラス基準に基づいて振替価格が設定される場合を考えてみよう。二つの 子会社間で,売上利益率と資本利益率が等しくなるように両子会社間で利益を分配し,供 給子会社に分配された利益を原価に加算して振替価格を設定し,受入子会社に財を供給し たとする。(谷(1987)p.36.)このような場合,利益の配分によって利益業績は歪曲され る。つまり,このような場合,子会社の利益以外の指標にウェイトを置くような業績評価 政策がとられるというのであろう。 41)単純相関係数の符号は,少なくとも25%の水準で有意であるとされる。少なくとも10% で統計的に有意な場合は,長方形の太枠で囲まれている。15の変数は,「子会社の自律性」 「業績評価」「振替価格」という三つの政策の基本的範疇に区分されている。232 蜷木實教授追悼号(第276・277号) 表6 政策間の決定要因
TPMMO
PESMPR
TPMIN
WSAL SUB NCOUN FSUBR FSALR CBOI ENVA
十 十 十 十i十 i 十 1− i
Yunker (1983) p.62. Yunkerの分析フレーム・ワークでは,「業績評価政策」も「振替価格政策」 も外生要因によって同時に決定される。「利益志向的業績評価基準」と「市場志 向的振替価格設定」あるいは「用具的振替価格」それぞれとの間の正負の相関 関係は,三つすべての変数の基礎となる決定要因の総合的効果であると考えら れている。 「7つの重要な外生要因」と,「市場志向的振替価格設定」「利益志向的業績 評価」「用具的振替価格設定」との間の統計的に有意な偏相関係数の符号につい て,Yunkerは,以下のような説明をしている。 「市場志向的振替価格」と「利益志向的業績」との間で正の単純相関係数の 原因となっている組合せは,実線の長方形によって囲まれている(表6)。 一方,「用具的振替価格(TPMIN)」と「利益志向的業績評価(PESMPR)」と の間の負の単純相関係数に責任のある組合せは,破線の長方形によって囲まれ ている。「世界的売上高(WSAL)」と「環境の変化(ENVA)」は,共に「市場志 向的振替価格」と「利益志向的業績」を増加させる効果をもっており,これら の2つの変数に正の相関関係をもたせる傾向がある。 世界的売上高(WSAL),海外売上比率(FSALR),環境変化(ENVA)は,利 益志向的業績評価(PESMPR)と用具的振替価格(TPMIN)に反対の効果をも っている(どちらかが+ならば,もう一方は一)。したがって,これらの基礎変 数の相反する効果のために,利益志向的業績評価と用具的振替価格との間に負 の相関係数が生じる傾向がある。国際振替価格研究における留意点 233 上述の分析と同じことが,他の項目についても言える。表4に示された偏相 42) 関に基づいて,表5に示された単純相関を説明することができよう。 (6)Yunkerによる研究の意義および問題点 Yunkerによる研究の問題点は,敢えて述べるならば,アンケート調査の限界 にある。主観的な5点尺度を利用していることに加えて,回答者がその質問内 容をよく理解し正しく回答できる適任者であるかどうか,適切な因子を選択し ているかというような統計的技法上の問題,そのようなデータを用いた分析結 果の信頼性の問題があげられよう。 けれども,このような問題を包含している分析も,仮説を発見するための第 一次接近法としては有意義であると思われる。統計的技法の検討が重要であろ うが,適切でない回答結果の排除というようなデータ解釈段階における操作や, 質問票調査に欠陥があるとしても,平行してインタビュー調査を行い仮説を修 正するという方法が考えられよう。また,要因間の相関関係を見つけようとし ている点でも,Yunkerの研究は実証研究として十分評価できよう。 III.研究上の留意点と研究のフレームワーク 1.国際振替価格設定システム 前節でとりあげたような各研究は,米国における研究であり,それぞれ研究 視点が異なっているのであるが,国際振替価格決定要因に関する研究である点 においては共通している。 本稿で主として取り扱った国際振替価格決定要因の問題は「どういう場合に どのような振替価格を使用すればよいのか」「誰が決定するのか」「振替価格更 新の頻度はどれくらいか」「どのようなレベルのもの(部品,製品,サービス等) 42)Yunker, ibid., pp.61−62.;すなわち,表4の7つの外生要因の一つ(たとえばWSAL) が,政策変数A,Bにそれぞれ+の偏相関係数をもっているが,同時に別の外生要因(た とえばCBO1)がxに+, yに一の効果を持つ場合,このCBO1の及ぼす効果がWSALよ りも強ければ,このこつの政策変数x,y間の関係(単純相関係数)は一になるかもしれ ない。
234 蜷木實教授追悼号(第276・277号) について振替価格を設定しているのか」という諸点も同時に考えていくべきだ と思われる。 このうち「誰が振替価格を決定するのか」という点について,より具体的に 述べれば,日本の親会社(親)から海外子会社(子)への経営資源の移転とい う従来からの移転は,逆方向もありうるわけであり,部品,製品,技術やノウ ハウといった項目別に,(親)→(子),(子)→(親)という移転の価格設定権 限がどちらにあるか,どのような振替価格を使用しているかという調査が考え られよう。なお,海外子会社をさらに製造子会社と販売子会社に区分すること 43) も考えられる。 2.移転価格税制の重要性とその他の決定要因 次に,日本企業の置かれている状況からみて,前述の米国における研究結果 がどのように解釈されるかについて若干考察してみたい。 文頭でも述べたように,国際振替価格の問題の中でも「移転価格税制」の問 題が注目されている。特に,赤字に苦しむ米国側は内国歳入法第482条を改正し て,日系企業を中心に税収をあげようとしている。大幅な修正点は,第一に, 「比較対象利益幅」という基準を設けた点にある。外資系企業は「類似事業を 行う独立企業が得たであろう営業利益の分布する範囲」を決定し,営業利益が その範囲内にあることを証明できなければ課税され,「罰金・延滞税」を支払わ なければならなくなる。 第二に,有形資産だけでなく,在外子会社への特許,商標,技術等の無形資 産の移転増大に伴い,無形資産についても移転価格算定の新たな方法が提唱さ れている。そして,ほとんどの場合,「比較対象利益幅」による検証が要求され 44) る。したがって,在外子会社の利益率なり利益額が不当に低いと批判されない ように,例えば,振替価格を高く設定し,在外子会社の親会社に対するロイヤ リティーの支払いを不当に高く,在外子会社の利益を過小にして「節税」を図 43)吉原他(1991)pp.21−22;井上(1992)pp.9−10. 44)大河原(1992);日経1992.5.24.