〔綜 説〕 (東京女医大匠 第24巻 es 1号:頁1一一6昭}和29年2月)
法医学に於ける窒息め諸問題
東京女子医科大学法医学教室
教 授 吉 成 ・京 子
ヨシ ナリ キヨヴ コ(受付昭和29年1月16日)
1 緒 言
窒息に因る症状及び死ぱ,.各民族が経絞溺死等 として有史以来目撃した所である。之等を法医学 的に記載したものは支那滋雨の宋自著,洗宮島 (1247年)を以て嗜矢とする。之には自前,毒死 など云う語は見られるが窒息と云う語はない。 J.C. Ilepbum: Japanese−English and English− Japaでユese Dictionary 1887(明治20年)には「窒 息」はなくAsphyxiaは気絶と訳してある。片 山国嘉,江口塞,榊淑,呉秀三の四先生の編纂さ れた法医学提綱には窒息の語が載っている。 恩師浅田博士は多年窒息の研究に主力を注ぎ, 窒息学の解説に従事され,今から十か年前一度目 の学会の特別講演に此の問題を取りあげられた。 其後十数年たち,その闇に当時未解決であった問 題も漸次解明された点も少なからずある。そこで 私は今回の東京女子医科大学学会総会特別講演担 当に当り,浅田博士講演後の主として急性窒息の 研究面に就て,当教室及び浅田博士門下諸氏によ りなされ.た成績を述べ,それと共に終戦後設立さ れた東京都監察医務院で取扱つた多数の窒息死体 につぎp監察医務院の御好意で死体検案書,解剖 三三から窒息死を起した原因,窒息死の頻度,死 体所見等を調べる事が出来たのでi妓に簡単に述べ ようと思う。ll監察医制度
紙面の都合で主として本制度誕生の経緯に就て述べ る。之ぱアメIJカの制度で,終戦後進駐した米軍は, 我国に死因調査機関のないのを指摘し,昭和21年12月 総司令部から厚生省に対し監察医局設置に関する覚書 が発せられ,昭和22年1月.厚生省令により本制度が 具体化し七大都市に監察医局が出来死因不明死体の死 因調査を行う事になり,東京都では翌23年に監察医務 院が設立され,都内の変死体ぽ全部監察医により検案 され死因不明の時は解剖し,従って正確な死因統計を つくり,国民保健慰策の基礎を正確ならしめ,此他 方,監察医の活動により司法面にも多大の貢献をして いる。 . 皿 誘因による窒息死の分類 窒息死を誘因により分けると外窒息と内窒息が あるが法医学的には:主として暴力による外窒息を i窒息と云ってhる。暴力窒息を誘因によって分i類 すると a.頸部圧迫 (経死,絞殺,拒殺) b.気道栓塞 (溺死,固形物及び異液に よる) C.鼻口閉鎖 (布団,乳房,添寝の親の 腕等による) d・胸壁運動障害 (山くずれ,家屋倒 壊,人なだれs布団 むし) 等の場合が考えられ,内窒息としては:青酸巾 毒,一酸化炭素中毒等がある。かくの如く誘因ぱ 種k’様ftで,更に死亡する迄の時間的経過により 急性又は遷延性の別がある。.rv発生頻度
窒息は自殺及び他殺の手設として屡々用いられ又災 害としても起る。東京都監察医務院に於ける昭和27年 の統計を挙げると次の様であった。 終戦前は自殺手段として総死が最も多かったが終戦 後は薬物による中毒死が多く(57%),次が経死,溺死 による窒息死(25.8%),第3位は交通機関によるもの である(13.1%)。 他殺手段としての窒息には絞殺,擁殺,溺死等があ り,その頻度は合計26。7%で,鋭器及び鈍器によるも の(合計26.8%).と略々同数である。 12 しかし他殺では胎児及び新産児遺棄が多く(23.4%) ,之等は大部分窒息死で従って其の数を上記の窒息に 加えると,他殺手段として窒息が最も多い事になる。 中毒は少い(6.8%)。 災害死では,交通機関によるものが最も多く (32.7 %),次で溺死,圧死,乳房死,異液異物による気道 栓塞等の窒息死(合計27.9%),交通機関以外による 損傷(23.7%),の順で感電,火傷等は夫々 1∼2% であった。 監察医務院で取扱った気道栓塞による窒息死では, 自宅療養中の肺結核患者が喀血で不意に窒息したり, 酩酊により喉頭入口に於ける反射機能が沈哀消失した 為か陸物を吸引し窒息死に陥ったり,叉回虫による気 道栓塞で急死した例がある。’乳児に多い所謂乳房死 ぱ,真の乳房によるものや添寝の親の腕等によるもの もあるが,布団のかけすぎによるものが最も多く,斎 ほう 藤,中島,石川によると之等乳児窒息死ぽ肺の組織学 的研究から窒i息を来し易い内因的:要素のある事を認め ている。
V 生前徴候
家兎の実験では気管閉鎖,絞頸等で窒息開始後 15秒位から始まり1分程続く吸気性呼吸困難が起 る。溺死では,:最初1分間程の初期無呼吸期があ り,次で吸気性呼吸困難期に入る。吸気性呼吸困 難期に次いで1分程の呼気性呼吸困難期がある。 吸気性呼吸困難期の後半から呼気性呼吸困難期に かけ全身の痙攣が起る。’痙攣は今迄ぱ間代性痙攣 と云われていた。之ぱ手足を左右共に同時に縮め 同時に伸す痙攣iに名付けられ,i樒搦とも称えられ, た。然し窒息に来る痙攣は:左右別々に互違に,手 も足も別々にまるで歩む様に,抜手で泳ぐ様な形 をする。凶事仁所に浅田博士も寺尾敏行,大塚活 惚の実験から気付V・て居た所であるが数年前慶応 こユラ 大学生理学教室林教授他数氏の研究で歩行様又は 交替性痙攣とV・う名が与えられた。次で後弓反張 を起す強縮陸痙:攣が起る。此の時期には口辺に cyanosisが著明で角膜反射も消失し,瞳孔の散大 も著しくなり,眼球突出を伴う。痙攣が止むと末 期前呼吸停止期となり,仮死状態になる。次で末 期呼吸を数回繰返し遂に呼吸は永久に止まる。全 経過は4∼5分である。然し必臓はその後もしば らくの聞は弱い乍らも動いている。 蘇生に就ては家兎の実験で末期呼吸をしてから でもその直後数回人工呼吸をすると蘇生する。浅 くの 田博士の「首つ砂と窒息死」によると総死20分後 蘇生した娘の例もあり,経首後まだ腕に脈をふれ ている間におろしたのに蘇生しなV・のもある。酸 素欠乏に対して中枢神経が特に敏感である事は従 来から指摘されて居り定型的首つりでは三分後℃ も蘇生はむつかしいかもしれないし,非定型的な ら数十分後でも生きがえるかもしれないQ死体現 象である所の死斑や死体硬直がまだどこにも出て いない時で幽かに脈がふれるか,強心剤を注射し て反応がある様ならば,入工呼吸を充分にやるべ ぎである。蘇生後は逆行性健忘症のある事は法医 学上重要である。 VI法医解剖掌的並びに組織学的所見’ 窒息は上記の如く種々な誘因により惹起され従 って窒息死体の外部所見は窒息を来した手段方法 により異るが7窒息に共通な内部所見がある。但 し之は窒息に特有とは云われす窒息以外でも急死 には起り得るものである。故に外部所見と相挨っ て初めて窒息死の診断がつけられる。私が監察医 務院で調べた,300例の窒息死体所見は既に成書 に記された所と概ね一致して居り,最近慶大島田 くの 教授も云われた様に,肺,心,肝,腎,脾,副腎 の所見から一般に云える事は急性窒息では循環系 の機能的障碍の結,果と老えられる欝.血乃至出一帯が 主な変化である。昔から窒息死の三大徴候として 漿膜下,並びに粘膜下聖血点,内臓欝血,血液の 暗赤色流動性が挙げられている。之等について, こ玉には特に私が興味を以て調べた二,三の点に 就て述べる。 A)眼結膜下浴血点 外表検査では,死斑の部位強弱に注意を払うと 共に,眼結膜下思血点の有無ぱ緯死か絞殺かの判 別にもなり法医学上重要で,今から4⑪∼50年前 の窒息鑑定例にもこの事は記載されている。昭和 のはじめ頃,定型的弓死には眼結膜下浴血点が絶 くの 対にないと迄云われたが,その後越永は50例の定 型的経溝を示した経死に於て,眼結膜下盗血点ば 程度は弱V・が42%に認められると云う。しかし発 現した盗血点の数,大小を他種窒息と比較する時 は,定型的経死の際には,該盗血点は比較的発現 し難く,又発現してもその数ぱ少い傾向を示すと 云うのが妥当であろうと云って居る。灘察医務院 の材料からは(第1表),必死18例中6例に溢血 点を認め,越永の成績に似て居った◎第1表 諸種窒息に於ける眼結膜下渥血点出現品度
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L・・31、…6「39・8. 絞頸は盗血点有りが79%,ハツキリ無しと記載 され疫ものはなく,貧血性と記された例は幼児の 例であった。幼児乃至嬰児では絞頸の際でも盗塁凪 点の発現しなV・場合のある事は既に知られて居る 事である。 拒殺も頸部血管の不完全圧迫から顔面欝血の起 る場合には無芯拍L点の発現を見る。小児の様に繊 弱な頸部に強力な圧迫の加わった引合には之の発 現しなV・場合もあり得る事と思う。 溺死は成書にも該盗血点は有る事もあり,ない 事もあると記載されて居り今回の成績も黙々それ と一致して居った。 糞溺は嬰児の糞壷中の溺死で越永によると此際 該盗血点は成人,小児の普通の溺死に比しや玉多 い頻度に発現すると云う。 、 気道栓塞例で盗血点の認められなかったもの10 例中2例は小児で,5例は喀血した血液を吸引窒 息したものであった。 鼻口閉鎖ユ03例は生後数十日から一年前後の乳 児が大部分で従って浴通1点は余り見られなV・。要 するに眼結膜下盗血点は絞頸,拒殺に多く出現 し,定型的弓死に出現する事は少なく,従って下 等の鑑別に役立つ。只乳幼児では窒息の場合でも 該盗血点を欠く場合が多V・。B)内部所見
内部所見としては肺肋膜下,心外膜下,其他の .漿膜下,気管粘膜下等に盗血点があり,肺臓をは じめとし肝臓,腎臓にも欝血がある。 :1)肺 窒息死に際し臓器的に最も直接に関連性を有す るのは蓋し肺臓であろう。入体例に於ても動物実 験でも従来多数の報告がなされている。即ち上記 肺肋膜下市並!点の他に著しいQ充欝血並に出餉エ, 水腫,気腫,或は膨脹等が略・々共通した所見であ り,更に窒息の種々の誘因によつては上記所見の 一部の見られぬ事もあり,或はその種窒息に特有 な所見が見られる。 例えば鼻口閉鎖に於ては軽度の欝血が又は欝.血 を殆んど欠くが,絞頸の場合にはむしろ著しい欝 血を呈し,擁殺ではやはり欝血が著しい,溺死の 際の溺没液,気管,気管枝内異物,更にはプラン クトンの存在,水性肺水腫及び水性肺気腫等が くの 挙げられ,佐藤は更に新生児及び乳児の窒息に際 し,気管小枝が著明な収縮状態にある事を認め菊 花状収縮と名づけ,新生児及び乳児の窒息に特有 な所見としているQ2)脾
.窒息死体脾臓は浅田博士によると余・り充血して ないと云われるG田代によると,犬の絞頸に際し .脾容積は絞頸直後より減じ,12秒後から急激に減 少し,15秒後には其の極に達し,其の後はや玉恢 復し,死後迄大体その状態を保つが正常時よりは 遙に小さV・と云う。 監察医務院での解剖所見からは,溺死以外め窒 息では欝.血乃至出血.を示した例が多かったが,溺 死では一三上中等量,或は血量少しと云うのが多か くわ った。此所見は佐藤が溺死体の脾重量を測定し,本撒人の正三重・履・の比賜性、論女
性,1,であ・が蕩死体砿難諭・如・
3 一一4
盤・約÷蹴少してい・魏回してい・
のと一致して居った。
3)脳
窒息死体では一般に脳及び軟脳膜の中等度の欝
き.血を見る(Martin, Reuter, Ponsold)っ
近時外科:方面で麻酔学の発達に伴いAnoxia の研究が盛んになり,その際の脳の変化に就てぼ くの Weinberger其他の研究がある。窒息の場合に 痙:攣が錐体路性の強縮性痙攣と錐体外路性の交替 性痙攣とからなり,等しく錐体外路性である間代 性痙攣の起らない事が林教授其他により明にされ た所をみると,窒息の際脳に何等かの変化がある・ 事は想像される。しかし之に就ては今後の研究に 侯つところであろう。 く 私は家兎を用いての実験で窒息死後眼球を三三 し,胎生学上脳の一部と看倣される網膜を組織学・ 的に検した結果,気管圧閉窒息,手力絞頸及び溝 、死例に敵て,網膜神経節細胞層及び内題粒層の処 々に染色不良の細胞を認め,又窒息と同時に頭部1 に貧血を来す強力絞頸に於て,該層に多数の膨大:、 した空胞化した細胞の出現を認めた。 4) 血液の状態 第2表 窒息死体流動性血液頻度
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窒息死体の血液は暗赤色流動性であると云われ ている。血液の暗赤色ぱ凡てのや玉古い死体に見 られる現象であるから姑く措き,、流動性に就て調 べた所をみると次の様であった(第2表)。即ち 監察医務院の材料からは大多数の例に於て,心臓 内」血液は流動性であったが凝血の認められた例も 少数ながらあった。 之に就て死体検案書,解剖記録から知られた範 囲に於て検討してみると,弓長で凝1血の認められ た1例は,死体検案書によると,生前腎臓病と云 われ浮腫があった。従って死亡時血液の性状も全 く正常であったかは疑しい。 溺死の4例中1例は結核を有し,他の3例は著 明な病変ぱ認められなかった。 鼻口閉鎖で凝血の認められた5例は乳児の所謂 乳房死で,窒息の経過が幾分遽延性に行われたの ではなV・かと思う。 気道栓塞の4例中2例は肺結核患者の喀血吸引 による窒息死で,他の2例は酩酊中三物による窒 息死であった。之等は結核,血中アルコール等の 因子を考慮すべきではないかと思う。 因に上記凝血の状態は酩酊の2例に三三様凝塊 が認められた他は何れも軟凝血塊少許の程度であ .りたQ 冊 生理学的,生化学的,血清学的諸変化 ユ) 動脈血中酸素量及び,炭酸ガス量 (ID 大塚の家兎での実験では窒息開始後1分の動脈: 一血中酸素:量は7VoL%内外であるが,平:素は18盒 Vo1・%でる。其正常動揺範囲は20.5%で,窒息に 際する酸素減少曲線は酸素濃度をx,tを秒単位 xx 1.62 の時間とした時ln =一〇.00793tなる式: x十〇.114, で示される。此曲線から気管圧閉窒息時の血中酸・. 素が20・5%以上を失い常態を越えて窒息状態に入、 ・るのは窒息開始後11秒と推知出来る。 無上式は一血中酸素濃度がわかれば窒息何上目か1 が判り,窒息何秒目の酸素濃度を知ろうとすれば. 計算で直ちに判る。曲線からも極めて速に之が判. つて甚だ便利である。 大塚は血漿のCO2量も測定したが,之は動播 が烈しく,それでも窒息後に於て其前よりも増:・ し,i∼3分の闇に最大の値がある様であるが, 3分後再び減る傾向があPT ue素の様にその変化が 一定せす複雑な過程をとるものらしく,窒息の本. 態は酸素欠乏にあってCOz’の増加は二次的の意 義しかなV・ものであろうと云う。 2)痙 攣 家兎の実験では呼吸困難期に痙攣が必発する。 痙攣の状態に討ては既述の様に林博士が,窒息に一4一
らない事を指摘した。痙攣の起る時点は大塚の式 忙より動脈血中酸素含量が10VoL%前後に減つk 時である事がわかる。 ・の 肺に於ける呼吸作用 血液ガス含量は肺胞内ガス量と密接な関係があ る.羅家兎を肺窒息経過中の肺胞内ガス量を 測定し,大塚による窒息時の1血液ガス測定成績と 比較老察した結果,酸素及び炭酸ガスに就て窒,息 2分迄は肺に於ける三等ガス交換は物理的合理的 に行われて居るが3分ではそれが不可能となり動 物は急速に死期が迫る事がわかった。 4) 」血圧の変動 ほの 来栖は窒息時の家兎の呼吸曲線,血圧曲線を描 画した。それによると気管圧閉,絞頸,溺死何れ の種類に於ても血圧は呼吸困難期に痙攣発現と共 に上昇ししばらく高血圧を続け,痙攣のなくなる と共に下降し始め,末期前呼吸停止期の終には殆 ,んど零に近くなり,末期呼吸の時に再び漁圧はや やあがるが宋期呼吸終了と共忙文零に近くなっ た。荷,氏の研究の主眼は窒息時に於ける頸動脈 洞の機能に就てであったがここに紹介する事は割 愛し%。 5) 心電図 ひの 高岡によると気管圧閉では,呼吸耀絶後3∼5 分で冠状動脈波’r(coronary waveT)力艶らわ れる。絞頸の場合之の出現は気管圧閉より梢々遅 れる。頸をしめて呼吸が綾絶した後,まだ冠状脈 二丁の出なV澗に入工呼吸を施すと蘇生するが・ 此曲線が出てからでは生きかえりにくいと云う。 窒息初期に於ける徐脈の発生は成書にも記載さ くの れて居り,島田教授はE.C.G.でみて徐脈癸生 の潜伏時は1.5秒程度である故,老の間に血液組 成に大きな変動があるとは老えられす反射性のも ので,その本態は種々実験の結果,窒息.により呼 吸運動そのものが変化する事により心搏緩徐が早 めれるのであると云う。 も)組織呼吸 ロの 窒息時の脳酸素消費を月村が家兎で脳に出入す る三野のガス分析により観察している。私は慶大 鈴木,堀口氏の御好意で海狸を用いて,窒息死直 後の脳,肺,心,肝,について,Warburg検法 狽法により組織呼吸を知る事が出来た。 その結果は,気管圧閉窒息では対照の項部打撲 明らかに増す様な変化を受け,脳では国々増加, 肝に斯ては不変であった。 酸素の消費,炭酸ガスの排出は組織の生きてい るしるしであり,その量の変化は組織活動の変化 の一つの現われである。従って色々な条件下の組 織呼吸測定は,それら条件がそれら組織の活動状 態に及ぼす影響の有無判定の一つの指標となる。 窒息の際の肺,心に機能充進の見られるのは目的 に適つた自然の妙であり,急性窒息では酵素系の 侵される以前に全身死を来す事がわかる。 7) 窒息三三の流動性化に就て 窒息死叉は急死死体血液流動性の原因に就ては 未だすっかり解決した訳ではなV㌔従来自家融解 による線維素原消失説が唱えられてV・たが,佐 藩・島崎等(昭和10,11年)は血清学的:方法で窒 息屍血にも線維素原を証明した。しかし化学的性 状の変化している所から線維素原土性説を唱え ロの た。其後更に氏等ぼ人死体を材料とレ駅究を進 め,窒息死体血液は死後1時間前後で心臓内では 一旦凝固に傾ぎ(不完全凝固と仮称),3時間内 外で再び溶解して流動性となる事を実験的に証明 し,斯く不完全凝固を溶解し流動性血液とする能 働性物質は恐らく所謂Fibrinolysinとして知ら れている酵素様物質であろうと云う。 盟 診断に役立つ圧痕反応,プラントン 窒息の診断は解剖所見で,粘膜下並に漿膜下盗 .血点,血液の暗赤色流動性なる事,内臓の欝血が あり,その他に窒息を起した手段方法がわかり, 更に死因となる程の病変がない時に窒息死と云え る。従って暴力窒息の診断に対しては,窒息急死 を起した原因を探求する事は極めて緊要な問題で ある。 エ)圧痕反応 ロア 緒方(孝彦)氏圧痕反応は,索条物による窒息 死,或ぱ乳児の所謂乳房死の際,肉眼上不明瞭と なつπ索溝や圧痕を,圧追と云う物理学的影響に よる色素親和性の差違により,』明瞭に証明する方 法で,死亡の原因を決定する上に科学的根拠を与 える。即ちその部の皮膚を切出しフォルマリン液 で固定し,鏡検用薄切片とし特別の染色法で染め ロ う る。その後,浦元はその変法を推奨した。 しかし此庄痕反応は,圧迫が生前加えられたも のであるか,死後のものであるかを明瞭に区別す 5
6 る事は出来なV・が,弾力線維染色を行うと,生前 のものは弾力線維の走行が乱れ,死後のものはそ の走行が整然としている。 圧痕反応は死後6週聞も経た死体からも証明出 来る。 2) プランクトン 溺死の診断にプランクトン(法医学上研究対照 となるのは硅藻類である)を肺,気管枝,胃等か ら検出する事の重要性ば,Revenstorfの唱えて 以来広く認められて居る所であるが,之は死体を 三水した場合,水は肺の末梢及び下部腸管へ入ら なv・事を前提としてであった。 (19)
然し近時Mue11erの研究によると,実験的
に,死後二水の場合でも,大なる水圧,烈しい死 体の動揺たよっては肺の末梢にプランクトンを証 明した。叉実例及び動物実験で,溺死の場合に, 肺,胃,上部腸管からのみならす心,脳,肝,腎 等の大循環系の臓器からもプランクトンを検出出 来る事がわかIJ],従って漏話大循環系の臓器から プランクトンを検出する事が溺死の最:も確実な証 明法として老慮される様になった。 (1, g) (2e) C21) (Mueller,友永,上野) 結 語 以上窒息に就て総論とも云うべき共通した死体 所見及び死に至る迄の生体た起る変化,それと診 断等に就て最近の研究の大体を紹介し2c。樹今後 も更に続けて本研究に精進したいと思っている。 稿を終るに臨み,東京都監察医務院,慶大法医学教 室,本学生化学教室及び本学学生有志の方々の御援助 に深謝する。 文 献 (1)齋藤・申島・石川:第37次 日本法医学会総 会昭和28年 (2) (3) C4) (5) (6) (7) (8) (9) (10) (11) (12) (13)来 (14) 高 林其他:条件反射7∼12輯昭和18年, 19年 浅 田: 首つりと窒息死 昭和24年 島 田 : 日本医事新報 1491号 3頁 昭和27年 越 景: 日法医誌 2巻5∼6号175頁 昭和23年 佐 藤: 東医大誌 8巻3号 10頁 昭和 25年佐藤;束医大誌、8巻3号63頁昭tw
25年Ponsold : Lehrbuch d. ger., Med. S.
189, 1950
Weinberger : Cite from Anesthesiology Vol. 14, No.2, P.129, 1953