日本語におけるある種の方向性動詞の方言的差異の一考察
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(2) 2. 森. 口. 恒. -. というのが,一般的な使い方であって,その特徴を表している良い例である。 一方,外国語の場合はどうであろうか。 言語によって必ずしも「やる・くれる」タイプや「行く・来る」タイプが話し手や聞 き手と関係があるとは限らない。英語のgive・receive/acceptは関与していないし, タガログ語では移動を表わす"pumunta"と言う動詞があるが,これは「行く」でも. 「来る」でも訳せる単語で,移動が問題になるだけである。しかし,この言語には「行 く・来る」が無いわけではなく,場所を示す.dito そこ)を動詞化して"pumarito''. (ここ),. (ここに来る),. diyan. ``pumariyan". (そこ),. doom. (そこに行く),. (あそこに行く)という動詞がある。また,英語のようにcome/goわ. "pumaroon". あっても日本語の共通語とは必ずしも一致した規則性を持っているわけではない。 (A). ここで,日本語の「行く・来る」についての論文を見てみる事にする。 森田(1968)にまず基本的な分析を行い,以下の三つの基準をもうけている。 1)話手の現在位置が関係する場合 2)話手の位置以外の地点同志のかかわりあい 3). 「行く」が「来る」に転移するばあい. である。. 森田(1968)の論文は,初期の論文で,事実を良く記述してあるが,必ずしもその基 準を出し,例外の処理をうまくやっているとは言えない。久野(1978)においては,撹 点という概念を使い,非常にうまく処理を行っている。 久野(1978)では,. 「行く・来る」の視点の制約として以下のものをあげている。 +. 1)話し手が動く主体である場合 発話者が到達点であるならば「来る」,出発点であるならば「行く」が使われる。 2)話し手が動く主体でない場合。 「来る」 :発話の時点,あるいは,動きの動作の起きる(起きた)時点に到達点 にいる(いた). わち,. E. 「行く」 の人 となりE. (動きの主体以外の)人に話し手の視点が接近している場合。すな. (到着点側の人) >. (動きの主体,出発点側の人). :その他の場合に用いられる。すなわち, ≧. E. (動きの主体,出発点側. (到着点側の人). (共感度-Empathy)という話し手の「自己同一化」の度合いを示す基準を. 使っている。また,例外を説明するためにこの他に発話当事者の視点ハイアラーキーと 談話主題の視点-イアラーキーを使用している。. (あ.
(3) 日本語におけるある種の方向性動詞の方言的差異の一考察. 『九州方言の基礎的研究』に言語的な事実は述 一方,九州方言の「行く・来る」は, べられているが,その一つの方言の中での分析は行われておらず,共通語からすると例 外と思われる例の言語学的説明はない。そこで,この現象に,特に「来る」ついて興味 (1972)と久野(1978)の論文に刺激され,九州方言 を持ち,大江(1968) ,Fillmore. の「来る」,特に,. 「来る」の共通語と異なる点に注目したのが松本(1984)であるoそ. (1972)の``ホーム・ベース"と久野(1978)の''視点"という概 こで松本は, Fillmore 念を使い分析を行った。英語と対照を行った点でも意義がある。 (3). ここで,まず斉旨本方言の「行く・来る」の現象を見てみたいと思う。 「来る」だけである。この現象は,久野(1978)における発話. ここで問題になるのは,. 当事者の-イアラーキーに完全に反するものである。 しかし,非常に特異であるといっても「来る」の用法の一部分だけで,大部分はおな じであるので,共通の部分と違う点を分けて資料を示す事にする。 A). 共通語と等しい点. [共通語]. 明日,学校に行くけど,きみもー緒に うん,一緒に. [寿賀本方言(市内)] 明日,学校に行くばってんが,じゅんないっしょに うん,一緒に. [共通語]. 明日,学校に. 行きますか。 来ますか。. [熊本方言(市内)] 明日,学校に. 3.
(4) 4. 森. 口. 恒. -. [共通語] 兄があなたのところに. 来ていますか。 行っていますか。. [熊本方言(市内)] にいちゃんがあんたがとこ. 来とるや。 行っとるや。. ところが,次のような場合には違う結果を示す。 B). 共通語と違う点 [共通語]. 「おい,早く来い。」 「今,行きますから先に食べていてください。」 [熊本方言(市内)] け. 「おい,はよ釆。」. 「今,来るけん,先食べとって。」 [共通語]. 「今夜,あなたの家に行きますから,待っていてください。」 [熊本方言(市内)] く. 「今夜,あんたがえ乗っけん,待っとってね。」 [共通語] 「早く持って釆てくれ。」. 「今持って行くからちょっと待ってて。」 [熊本方言(市内)] 「はよ持ってきてくれ。」 「今持って来るけんちょっと待っとって。」 などが共通語からすると非常に奇妙に聞こえる文の例である。 確かに「来る」の特殊な用法は,共通語でも、種々あるoこの事は森田(1968)では, 「行く」の転移として分析を行っている。.
(5) 日本語におけるある種の方向性動詞の方言的差異の一考察 私が東京に行くと,もう花子は釆ていた。 私がそこに釆たときには,もう,次郎はそこにはいなかった。. 兄は,そこに. 釆ていますか。 行っていますか。. のような文章は, 「行く」でも良いが, 「来る」も使える。しかし,この場合には必ずあ る状況が設定されていて,その地点の設定を副詞等で動かせば共通語でも「来る」が使 える。たとえば,. 「私が東京に行くこと」や「私がそこに来ること」のような副詞節や. 「今電話をかけている」という状況がそれである。 しかし, く. 「今夜,. 6時にそこに(おいが)乗っけんが,待っとけ。」. 「はい,. (私)今からすぐ来っけん。」. という熊本方言(市内)では文法的な文も. *今から私が釆ますから,待っていてください。 *私があなたの家に来ますから,いてください。 という表現は,共通語ではまったく非文法的な文になってしまう。そして,久野(1978) の発話当事者の視点ハイアラーキーは,必要ないどころか,障害になってしまう。 (4) 『九州方言の基礎的研究』によると,筑前西, このような「来る」の特殊な使い方は, 肥後,日向を結ぶ地帯以南に分布する。老・小二層ともほぼ同様の分布を示していると. している。すなわち,福岡県(筑後,筑前西部),佐賀県,熊本県,宮崎県中南部,鹿 児島県で広く使われていて,大分県の全部とそれに隣接する地域ではこの現象が見られ ないとしている。また,この現象は敬意表現であるとしているが,どうもそのはかの共 通の基準があるように思われる。. 前述の例から考えると熊本方言などに見られるこの特殊な「来る」の用法は,ある限 定された状態だけしか許されておらず,その用法は限られていて,共通語の規則に大部 分はあてはまるようである。 この特異な「来る」はすべて,ある発話に対しての答や従属節に使われてその内容が 真でなければ,主節の文も真でなくなるような状態の時などに使われるもので,その節 の中にはある行動,すなわち,移動するということが,含意されていて,その行動を行 うということを確約し,到達点がはっきりしている場合に出て来る表現となっている。. 5.
(6) 6. 森. 口. 恒. -. それゆえ,. これから東京に行くばってんが,一緒に来るや。 という質問に対して, うん,行く。. は良いが, *うん,来る。 は,文法的ではないということば, yes/noという答はその行動に対して確実に実行を 意味してはいなく,また,それを前提として次の行動を行うわけでもない。一方, 「来 る」の特殊な例の場合,. 「私はあなたに断言する」とかいうこの行動を伴う動詞,すな. わち,遂行的な動詞の場合,または,そのような動詞が発話の前提として使われる場合 にだけ特異な「来る」が現われて来るということがわかった。遂行的な動詞が重要な役 をなしているのである。ある自分の確実な移動行動がその前提として含まれていると同 時に,他の文の前提になるという条件が問題になって来るのである。遂行(Performati ve)という動詞が必要であるということに加えて到達点がはっきりしているということ も明確に発話に含まれていなければいけない。. (5) 所で, 「行く・来る」の分析において,その基準を遂行分析(Performative. Analy-. sis)の形を提案しているのが森口(1974)(1975)であろ。そこでは,次のように記述がな されている。 〔[私i] So名. 1. 名. +Ⅴ + performative +. communicatio■n. +. linguistics. +. declarative 2. [君j] (副詞i) 名. [_へ]. Y. [+動詞]]. SI. 名. 3. [Ⅹ [_から]. 4. 5. Z〕 SI. 6. 7. 8. 9. 10. 11. 12. S。.
(7) 7. 日本語におけるある種の方向性動詞の方言的差異の一考察. 変形[Ⅰ] s.D. ⇒. s.c.. 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. (condition;. 4. 8. 9. 10. 11. 8. 9. 10. ll+来る12. 12. 8). -. 変形[Ⅱ] 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10. 11. 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10. ll+行く12. 4. 辛. 8). s.D. ⇒. s.c.. (condition;. 12. 森口(1974,1975)では,共通語の資料だけをもとにしているために,この規則に従っ て大部分を処理して, 「来る」の例外と考えられる例は[副詞i]の部分を副詞句また は前提が変更して行くという方式をとった。 一方,熊本方言(九州方言)の「来る」という例を解決しようとすると・前述の分析 により,,確約"する場合のみが「来る」の特殊な用法を生み出すことが記述されなけれ. Verb). ばならない。言い替えれば,この"確約"という意味が遂行動詞(Performative に含まれるということである。すなわち,この九州方言をも説明する事が出来るのは,. ・・確約"の遂行動詞をその中に取り入れた場合だけで,森口(1974)(1975)の枠組みの条 件を少し変更すればうまく解決がつくのではないかと考えられる。 解決法としては,次のような方法が考えられるo前述の規則の`2'の部分の[+ declarative]が単なる報告の「私があなたに言っている/報告している」という''SAY'' ([+declarative])の部分が・'確約", ''確信''するという"ASSERT"([+ASSERTIVE]) になった場合には,副詞トーー主語の位置---が副詞トーー話し相手の位置--I にかわり,それゆえに「来る」という単語が生成されるのであるoただ,この規則が適 用できるのは遂行動詞が[+ASSERTIVE]の時だけである○ 規則としては,次のようになる。 もし,. i-jに代えて,変形の[Ⅰ]を適用する. 2∋[+ASSERTIVE]であるならば,. ことが出来, 4-8の場合にだけ「来る」となる。 文献 Austin, Fillmore,. J.L.(1962) J.. Language. How. Oxford Words・ London; with in the Semantics Category of COME・". to Do. Things. .Deictic. L.(1966). II(・1P9;;)218IA2.7; ,0. DescriptLUe. and. (1975) University. Linguistic. you. Linguistics・. Applied "Santa. Cruz. Know. Vol・. Lectures. on. Whether. Y。u,re. 5・ Tokyo;. I・C・U・. Deixis,". Club・. 久野障(1978) 『談話の文法』 東京;大修館 九州方言学会(1969) 『九州方言の基礎的研究』東京:風間書房. Univ・. C。ming. Reproduced. Press・. in Foundation. 。r. by. G。ing.I,. Indiana. of in.
(8) 森. 口. 恒. -. 松本美子(1984) 『(九州方言の)動詞「行ク」 「釆ル」に関する一考察』熊本大学文学部 言語学科学士論文 Morigucbi・ Tsunekazu (1974) ''Some Remarks Come on Go in Japanese.・・ and Descriptiue. 森口恒-(1975) pp.. and. Applied. Linguistics. Vol・7・. pp.. 「「行く」 「来る」 「いる」に関する一考察」. 『国語国文』第44巻第三号(487号). 1-13.. 森田良行(1968) 大江三郎(1975). in. 167-171.. 「「行く」 「来る」の用法」 『国語学』第75号pp. 『日英語の比較研究一主観性をめぐって』東京.南雲堂. 75-87..
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