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IRUCAA@TDC : 歯科矯正用アンカースクリューを用いた成人AngleⅡ級1類の抜歯症例の治療結果について―サービカルヘッドギアとNance のホールディングアーチを併用した固定法の比較―

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Title

歯科矯正用アンカースクリューを用いた成人AngleⅡ級

1類の抜歯症例の治療結果について―サービカルヘッド

ギアとNance のホールディングアーチを併用した固定法

の比較―

Author(s)

村瀬, 千明; 野嶋, 邦彦; 西井, 康; 髙木, 多加志; 末

石, 研二

Journal

歯科学報, 114(5): 431-437

URL

http://hdl.handle.net/10130/3466

Right

(2)

抄録:歯科矯正用アンカースクリュー(アンカース ク リ ュ ー)を 用 い た 固 定 法 に よ る 成 人 AngleⅡ級 1類の抜歯症例の本格矯正治療結果の特徴を明ら かにするために,サービカルヘッドギア(CHG)と Nance のホールディングアーチ(NHA)を併用した 固定法による治療と比較,検討を行った。 対象は,AngleⅡ級1類と診断され,上顎第一小 臼歯または上下第一小臼歯を抜歯し本格矯正治療を 行った成人32名である。上顎大臼歯の固定法として アンカースクリューを用いたアンカースクリュー群 (S 群)と CHG と NHA を併用した固定法を用いた 対照群(C 群)で,両群の治療前後の側貌頭部 X 線 規格写真を用いて15項目の計測を行い,両群間で治 療前,治療後,および治療変化について統計学的に 比較した。その結果,治療前では,S 群は C 群に 比べ上顎前歯が有意に唇側傾斜していた。治療後で は,すべての計測項目に有意な差はみられなかっ た。治療変化量の比較では,S 群が C 群に比べ, 上顎前歯の後方移動量が有意に大きいにもかかわら ず,上顎大臼歯の水平的,垂直的な位置の変化は有 意に小さかった。また,治療期間に有意差はみられ なかった。 緒 言 成人 AngleⅡ級1類の矯正治療は成長発育を伴わ ないため,骨格的な不正を前歯の歯軸で補償するこ とによって治療目標を達成することが多い1,2) 。した がって,本格矯正治療では上顎第一小臼歯の抜歯で 得られた空隙を可能な限り上顎前歯の後方移動に利 用するために,上顎大臼歯の水平的,垂直的な固定 が必要である3) 。本学矯正歯科では,以前より上顎 大臼歯の固定法に顎外固定であるサービカルヘッド ギア(以下,CHG と略す)と顎内固定である Nance のホールディングアーチ(以下,NHA と略す)を併 用した固定法を用いてきた。しかし,NHA を単独 で用いた固定法では,犬歯の遠心移動時に2mm 弱 のアンカレッジロスを生じると報告されている4) 。 そして,NHA は前歯の後方移動時に除去しなけれ ばならず,そのため,より多くのアンカレッジロス を生じることが考えられる。また,ヘッドギアを併 用することは,患者の協力を必要とするため,成人 の場合は特に社会的な要因により,強固な固定を得 ることは難しい。さらに,副作用として,上顎大臼 歯の挺出,上顎大臼歯の遠心傾斜,上顎前歯の挺 出,咬合平面と下顎骨の時計回りの回転を起こす可 能性が高い。また,上顎前歯の後方移動や下顎大臼 歯の近心移動の目的で,Ⅱ級顎間ゴムを併用するこ とがあるが,大臼歯関係の改善には不利な反作用で ある下顎大臼歯や上顎前歯の挺出,それに伴う下顎 骨や咬合平面の時計回りの回転が 報 告 さ れ て い る5−7)。このように,CHG と NHA を併用した固定 法では,水平的なコントロールだけでなく,垂直的 キーワード:AngleⅡ級1類,歯科矯正用 ア ン カ ー ス ク リ ュ ー,抜 歯 矯 正 治 療,Nance の ホ ー ル ディングアーチ,サービカルヘッドギア 1)東京歯科大学歯科矯正学講座 2)東京歯科大学口腔外科学講座 (2014年3月25日受付) (2014年6月20日受理) 別刷請求先:〒261‐8502 千葉市美浜区真砂1−2−2 東京歯科大学歯科矯正学講座 村瀬千明

原 著

歯科矯正用アンカースクリューを用いた

成人 AngleⅡ級1類の抜歯症例の治療結果について

―サービカルヘッドギアと Nance のホールディングアーチを併用した固定法の比較―

村瀬千明

1)

野嶋邦彦

1)

西井 康

1)

髙木多加志

2)

末石研二

1) 431 ― 21 ―

(3)

なコントロールも難しく,大臼歯関係を悪化させる ことがある。 一方で,近年広く行われるようになった歯科矯正 用アンカースクリュー(以下,アンカースクリュー と略す)を用いた固定法は,患者の協力を必要とし ない大臼歯の絶対的な固定が可能であると言われて いる8−12)。今までに,この固定法と CHG を単独に 用いた固定法9,11) やヘッドギアとトランスパラタル アーチを併用した固定法による本 格 矯 正 治 療 結 果8,10,12) の比較は報告されているが,アンカースク リューと本学矯正歯科で多く用いられている CHG と NHA を併用した固定法との比較は報告されてい ない。 そこで本研究の目的は,アンカースクリューを用 いた固定法による成人 AngleⅡ級1類の抜歯症例の 本格矯正治療結果の特徴を明らかにするために,治 療前後の側貌頭部 X 線規格写真を用いて,CHG と NHA を併用した固定法による治療と比較,検討す ることである。 対象および方法 対象は東京歯科大学千葉病院矯正歯科に来院し, AngleⅡ級1類と診断され,上顎第一小臼歯または 上下顎第一小臼歯の抜歯を行い,本格矯正治療を 行った成人32名である。全症例において治療後には 適正な大臼歯関係,水平被蓋,垂直被蓋を獲得した。 上顎大臼歯の固定源としてアンカースクリューを 用いて本格矯正治療を行った16名,平均年齢25歳5 カ月をアンカースクリュー群(以下,S 群と略す)と し,固定源として CHG と NHA を併用した固定法 を用いて本格矯正治療を行った16名,平均年齢19歳 6カ月を対照群(以下,C 群と略す)とした。両群の 男女比,年齢,水平被蓋,垂直被蓋については表1 に示した。 両群ともに抜歯空隙の閉鎖は,犬歯を後方移動し たのち,前歯を後方移動する二段階に分けて行っ た。S 群の治療のメカニクスは,左右の上顎第一大 臼歯と上顎第二小臼歯の槽間中隔にアンカースク リ ュ ー(デ ュ ア ル・ト ッ プ,Jeil Medical Corpora-tion)を埋入し,ステンレススチールワイヤーにお いて,アンカースクリューから犬歯をエラスティッ ク チ ェ ー ン に て 牽 引 し,そ の 後,ア ン カ ー ス ク リューから側切歯遠心のフックへエラスティック チェーンを用いて牽引することで,前歯の後方移動 を行った。 C 群の治療メカニクスは,NHA を合着し,イニ シャルワイヤーの装着時より CHG の使用を開始し た。犬歯の後方移動までは NHA と HG を併用し, 第一大臼歯から犬歯へエラスティックチェーンにて 犬歯を牽引した。その後,NHA を除去し,第一大 臼歯から側切歯遠心のフックへエ ラ ス テ ィ ッ ク チェーンを用いて牽引しつつ,抜歯空隙が閉鎖する まで HG とⅡ級ゴムを併用しながら前歯の後方移動 を行った。 術前(T1)と術後(T2)の側貌頭部 X 線規格写真 を用いて,以下の9つの角度計測と6つの距離計測 を行った。そして,治療前,治療後および治療変化 について両群間で比較を行い,対応のない t 検定を 用いて比較検討した。また,治療期間についても対 応のない t 検定を用いて比較を行った。 骨格性の計測項目(図1)においては,上顎骨の前 後的な位置を表す SNA(°),下顎骨の前後的な位置 を表す SNB(°),上下顎骨の前後的な位置を表す ANB(°),A 点の前後的な距離を表す A-NV(mm) (ナジオンを通りフランクフルト平面に垂直な線と A 点との距離),ポゴニオンの前後的な距離を表す 表1 S 群と C 群の治療前(T1)の対象患者について S 群 C 群 人 数 16名(男1名,女15名) 16名(男1名,女15名) 年 齢 25歳5か月±7.6か月 19歳6か月±3.4か月 最高年齢 44歳4か月 28歳0か月 最少年齢 16歳5か月 13歳0か月 水平被蓋 7.4±2.6mm 4.0±2.3mm 垂直被蓋 2.4±1.9mm 1.3±1.9mm 村瀬,他:歯科矯正用アンカースクリューの治療結果 432 ― 22 ―

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Pog-NV(mm)(ナジオンを通りフランクフルト平面 に垂直な線とポゴニオンとの距離),フランクフル ト平面に対する咬合平面の角度を表す FH-OP(°), フランクフルト平面に対する下顎下縁平面の角度を 表す FMA(°)を計測した。 歯槽性の計測項目(図2)においては,上顎中切歯 のフランクフルト平面に対する角度を表す U1-FH (°),下顎中切歯のフランクフルト平面に対する角 度を表す L1-FH(°),下顎中切歯の下顎下縁平面 に対する角度を表す L1-Md(°),上下顎中切歯歯 軸の角度を表す Interincisal(°),上顎中切歯切端の 水平的距離を表す AA(mm)(S 点を通り FH に垂 直な線からの上顎中切歯切端への距離),上顎第一 大臼歯の水平的な距離を表す MM(mm)(S 点を通 り FH に垂直な線からの上顎第一大臼歯遠心への距 離),上顎中切歯切端の垂直的な距離を表す U1 (mm)(フランクフルト平面から上顎中切歯切端へ の距離),上顎第一大臼歯の垂直的な距離を表す M 6(mm)(フランクフルト平面から上顎第一大臼歯 近心咬頭への距離)を計測した。 結 果 S 群と C 群の治療前後の計測値,治療変化量と t 検定の結果を表2に示した。 T1時 の 両 群 間 の 比 較 で は,U1-FH は S 群 124.34±7.71°,C 群118.34±6.28°と,S 群は C 群 に比べ有意に大きかった(P<0. 05)。また,Interin-cisal は S 群104.34±9.00°,C 群111.74±10.51°と S 群は C 群に比べ有意に小さかった(P<0.05)。そ の他の SNA,SNB,ANB,A-NV,Pog-NV,FH-OP,FMA,L1-FH,L1-Md,AA ,MM ,U1 , M6 は両群間に有意差がみられなかった。 T2時の両群間の比較では,両群間で全ての項目 に有意差はみられなかった。 治 療 変 化 量 の 比 較 で は,U1-FH は S 群 が− 18.10±8.99°,C 群−11.97±6.90°と S 群が C 群 に比べ有意に大きかった(P<0.05)。AA は S 群− 9.00±2.79mm,C 群−5.31±2.30mm と,S 群 が C 群に比べ有意に大きかった(P<0.01)。MM は S 群0.34±0.96mm(最 大1.50mm,最 小−1.50mm), C 群2.92±3.17mm(最大4.00mm,最小0.50mm) と S 群が C 群に比べ有意に小さかった(P<0.05)。 M6 は S 群−0.31±0.85mm(最大1.00mm,最小 −2.00mm),C 群1.71±2.03mm(最大4.00mm, 最小−0.50mm)と,S 群は C 群に比べ有意に小さ か っ た(P<0.01)。そ の 他 の SNA,SNB,ANB, A-NV,Pog-NV,FH-OP,FMA,L1-FH,L1-Md,Interincisal,U1 は両群間に有意差はみられ なかった。 治療 期 間 に つ い て は,S 群34.06±6.25か 月,C 群は32.63±8.45か月で両群間に有意差はみられな かった。 考 察 近年,成人矯正においてアンカースクリューを用 いた固定法が広く行われている。これにより,絶対 図1 骨 格 的 な 計 測 項 目 : 1.SNA;2.SNB;3.AN-B;4.A-NV;5.Pog-NV;6.FH-OP;7.FMA 図2 歯槽性の計測項目:8.U1-FH;9.L1-FH;10.L 1-Md;11.Interincisal;12.AA ; 13.MM ;14.U 1 ;15.M6 歯科学報 Vol.114,No.5(2014) 433 ― 23 ―

(5)

的固定源を期待することで,従来不可能であった歯 の移動が可能となり矯正治療の範囲が拡大してい る13−15) 。そこで,後ろ向き研究であるが,治療前後 の側貌頭部 X 線規格写真を用いて,アンカースク リューを用いた固定法による本格矯正治療と本学矯 正歯科で用いてきた CHG と NHA を併用した固定 法による治療と比較,検討することで,治療メカニ クスの選択基準,水平的,垂直的な大臼歯の固定と 前歯の歯軸コントロールの評価,治療結果の特徴, 治療期間への影響を明らかにするために本研究を 行った。 治療前において,骨格性の計測項目では両群とも 下顎後退型の骨格性上顎前突を示すが,両群間に有 意差はみられなかった。歯槽性の計測項目では,S 群が C 群に比較して上顎前歯の唇側傾斜が認めら れた。しかし,治療後において全ての計測項目で有 意差はみられなかった。これは,本学矯正歯科にお いて,成人 AngleⅡ級1類の治療メカニクスを選択 する際に,上顎前歯の唇側傾斜が著しい症例にアン カースクリューを用いた固定法を積極的に取り入れ ていたと思われる。そして,このような症例に適用 したにも関わらず,治療後において特異的な形態的 特徴を示さず,良好な治療結果を得ることができる 固定法だと考える。 治療変化量の比較において,骨格性の計測項目 では両 群 間 に 有 意 差 が み ら れ な か っ た。他 の 研 究8,9,13,16) でも,上下顎骨の前後的な位置に関しては 同様の結果を報告している。しかし,下顎骨の回転 に関しては,本研究では両群とも下顎骨の回転は 認められなかったが,Kuroda ら10)はアンカースク リューを用いた固定法では,上下大臼歯の近心移動 量が極めて少ないため,下顎大臼歯の挺出により下 顎骨は時計方向に回転するが,トランスパラタル アーチと CHG を併用した固定法では,上下顎大臼 歯の近心移動量が多いため,くさび効果により下顎 骨の時計方向への回転が打ち消されたと述べてい る。また,他の研究8,9,11) では,アンカースクリュー を用いた固定法において下顎骨の反時計方向の回転 がみられ,ヘッドギアやヘッドギアとトランスパラ タルアーチを併用した固定法では,下顎骨は時計方 向に回転すると述べている。これは本学矯正歯科に おける CHG と NHA を併用した固定法による本格 矯正治療が水平的,垂直的にも良好な固定源を獲得 できたために,下顎骨の垂直的な変化が生じなかっ たと考える。 歯槽性の計測項目では,上顎中切歯の水平的な移 動量と上顎中切歯の傾斜角の変化量は S 群が有意 に大きかったが,垂直的な移動量は両群間に有意差 はみられなかった。下顎前歯の傾斜角は両群間に 有意差はみられなかった。Ma ら11) はアンカースク 表2 S 群と C 群との治療前(T1)と治療後(T2)と治療変化量(T2−T1)の比較 S 群 C 群 Statistical significance Variable T1 T2 T2−T1 T1 T2 T2−T1 T1 T2 T2−T1

Mean S. D. Mean S. D. Mean S. D. Mean S. D. Mean S. D. Mean S. D.

1.SNA(°) 78.82 6.67 78.56 6.55 −0.26 0.56 81.36 2.79 81.18 2.75 −0.19 0.40 ns ns ns 2.SNB(°) 73.08 7.01 72.63 6.91 −0.45 0.74 76.04 2.62 75.75 2.79 −0.29 0.62 ns ns ns 3.ANB(°) 5.71 3.01 5.93 2.93 0.23 0.76 4.69 2.03 4.80 2.04 0.11 0.73 ns ns ns 4.A-NV(mm) 0.42 3.36 0.19 3.16 −0.23 0.75 1.36 3.17 1.24 3.20 −0.13 0.53 ns ns ns 5.Pog-NV(mm) −9.49 8.39 −9.88 8.71 −0.39 1.29 −7.63 7.81 −7.69 7.87 −0.06 1.25 ns ns ns 6.FH-OP(°) 9.09 3.66 12.54 3.67 3.45 3.10 10.33 4.08 12.66 4.30 2.33 2.47 ns ns ns 7.FMA(°) 30.41 6.70 30.39 6.90 −0.01 1.52 30.34 6.72 30.25 6.95 −0.09 2.75 ns ns ns 8.U1-FH(°) 124.34 7.71 106.24 6.77 −18.10 8.99 118.34 6.28 106.38 6.46 −11.97 6.90 * ns * 9.L1-FH(°) 49.18 6.35 54.41 8.31 5.23 5.84 52.50 7.00 55.16 9.34 2.66 10.72 ns ns ns 10.L1-Md(°) 100.64 7.56 95.33 10.24 −5.31 6.10 98.75 4.71 94.78 10.51 −3.97 10.34 ns ns ns 11.Interincisal(°) 104.34 9.00 127.81 10.09 23.46 11.97 111.74 10.51 128.47 10.18 16.73 13.31 * ns ns 12.AA(mm) 78.28 5.43 69.28 6.05 −9.00 2.79 75.50 4.24 70.19 3.60 −5.31 2.30 ns ns ** 13.MM(mm) 33.91 4.92 34.25 5.16 0.34 0.96 33.39 3.95 36.31 4.12 2.92 3.17 ns ns * 14.U1(mm) 58.13 3.61 58.53 3.95 0.41 1.90 59.84 2.94 60.19 3.86 0.34 2.66 ns ns ns 15.M6(mm) 53.94 4.27 53.63 4.28 −0.31 0.85 52.66 2.08 54.38 2.26 1.72 2.03 ns ns ** S. D.:Standard deviation *:p<0.05,**:p<0.01,ns:not significant 村瀬,他:歯科矯正用アンカースクリューの治療結果 434 ― 24 ―

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リューを用いた固定法とヘッドギアによる固定法を 比較し,前者は上顎中切歯の水平的な移動量が有意 に大きく,傾斜角の変化量に有意差はみられなかっ たが,垂直的な移動量は有意差がみられ,前者では 上顎前歯が圧下し,後者は挺出したと報告してい る。Kuroda ら10) は,アンカースクリューを用いた 固定法とヘッドギアとトランスパラタルアーチを併 用した固定法を比較し,前者は上顎中切歯の水平的 な移動量が有意に大きく,傾斜角の変化量と垂直的 な移動量に有意差はみられないと報告している。こ のような本研究と異なる結果は,上述の治療前の対 象が同じ顎顔面形態を有しているためだと考えられ る。以上より,アンカースクリューを用いた固定法 による本格矯正治療は,上顎前歯の十分な後方移動 と歯軸のコントロールが可能であることが示唆され た。 上顎大臼歯の水平的な移動量は,S 群は平均0.34 mm,C 群 で は,平 均2.92mm の 近 心 移 動 が み ら れ,両群間に有意差がみられた。垂直的な移動量 は,S 群 は 平 均0.31mm の 圧 下,C 群 は 平 均1.72 mm の挺出がみられ,両群間に有意差がみられた。 Koyama ら9)は,アンカースクリューを用いた固定 法と CHG とⅡ級ゴムを併用した固定法の比較を行 い,上顎大臼歯の水平的な移動量は,前者は平均 0.1mm,後 者 は,平 均2.1mm の 近 心 移 動 が み ら れ,垂直的な移動量は,それぞれ平均0.7mm の圧 下と,平均1.0mm の挺出がみられたと報告してい る。また,Kuroda ら10) は,アンカースクリューを 用いた固定法とヘッドギアとトランスパラタルアー チを併用した固定法の比較を行い,上顎大臼歯の水 平的な移動量は,前者は平均0.7mm,後者は平均 3.0mm の近心移動がみられ,垂直的な移動量は, それぞれ平均0.4mm,平均0.6mm の挺出がみられ たと報告している。これらは本研究と同様の結果で あった。以上より,アンカースクリューを用いた固 定法による本格矯正治療は,水平的,垂直的に上顎 大臼歯の最大固定を得ることが可能であることが示 唆された。 治療期間については,両群間に有意差はみられな かった。アンカースクリューを用いた固定法では, 抜歯空隙に前歯を後方移動させる2つの方法があ る。犬歯と前歯を一塊にし,後方移動する en-masse による方法と犬歯を後方移動した後,前歯を後方移 動する二段階に分ける方法である。Xu ら16) は,こ の2つの前歯の後方移動法による治療期間を比較し ているが,en-masse による方法では,治療期間は 短縮されるが有意差はみられなかったと報告してい る。本研究のアンカースクリューを用いた固定法で は,後者の二段階法を用いたが,治療期間に有意差 はみられなかった。en-masse で前歯を後方移動し た場合のアンカースクリューと他の固定法とを比較 した研究でも,治療期間に有意差はみられなかった と報告している8,17) 。以上より,アンカースクリュー を用いた固定法は,前歯の後方移動量が多いにもか かわらず治療期間に差がなかったことから,効率的 に上顎前歯の後方移動が可能であることが示唆され た。 結 論 本研究は,アンカースクリューを用いた固定法に よる成人 AngleⅡ級1類の抜歯症例の本格矯正治療 結果の特徴を明らかにするために,治療前後の側貌 頭部 X 線規格写真を用いて,CHG と NHA を併用 した固定法による治療と比較,検討することであ る。そして,次の結論を得た。 1.治療前では,S 群は C 群に比べ上顎前歯が有意 に唇側傾斜していた。 2.治療後では,すべての計測項目に有意差はみら れなかった。 3.治療変化量の比較では,S 群が C 群に比べ,上 顎前歯の後方移動量が有意に大きいにもかかわら ず,上顎大臼歯の水平的,垂直的な位置の変化は 有意に小さかった。 4.治療期間に有意差はみられなかった。 以上より,アンカースクリューを用いた固定法に よる成人 AngleⅡ級1類の抜歯症例の本格矯正治療 結果は,CHG と NHA を併用した固定法による治 療と比較して,上顎大臼歯の最大固定を得ながら, 上顎前歯の十分な後方移動と歯軸のコントロールが 可能であることが示唆された。 本論文の要旨は,第70回日本矯正歯科学会大会(2011年10 月17日∼20日,名古屋)において発表した。 本研究は東京歯科大学倫理委員会(受付番号408)において 承認を受けている。 歯科学報 Vol.114,No.5(2014) 435 ― 25 ―

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村瀬,他:歯科矯正用アンカースクリューの治療結果 436

(8)

Orthodontic treatment outcomes in adults with ClassⅡdiv.1 extraction treated using the anchor screw

― Comparison with cervical headgear and Nance holding arch ―

Chiaki MURASE1),Kunihiko NOJIMA1),Yasushi NISHII1)

Takashi TAKAKI2),Kenji SUEISHI1) 1)Department of Orthodontics, Tokyo Dental College

2)Department of Oral and Maxillofacial Surgery, Tokyo Dental College

Key words : Anglediv.1, Anchor screw, Extraction, Nance holding arch, Cervical headgear

The purpose of this study was to compare orthodontic treatment outcomes in adults with ClassⅡdiv.1 extraction treated using the anchor screw or cervical headgear and Nance holding arch.

All subjects were diagnosed with ClassⅡdiv.1,which required extraction of the maxillary first premo-lars. They were divided into two groups depending on the anchorage system.

Group S was treated with the anchor screw and Group C was treated with cervical headgear and the Nance holding arch. Lateral cephalograms were taken before(T1)and after(T2)treatment,and were analyzed based on 15 measurements. For statistical analysis,Studentt-tests were used to compare the two groups at T1 and T2 and in terms of treatment changes.

The results showed that the maxillary incisor in Group S was significantly more flared than in Group C at T1,but no measurements showed significant differences at T2. Although the maxillary incisor in Group S was significantly more retracted than in Group C,the maxillary molar in Group S showed signifi-cantly less anchorage loss in both horizontal and vertical directions. No differences in the mean treat-ment time were noted between the 2 groups. (The Shikwa Gakuho,114:431−437,2014)

歯科学報 Vol.114,No.5(2014) 437

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