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顎関節脱臼症例の臨床的検討

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Academic year: 2021

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【背景・目的】 顎関節脱臼は, 食事, 欠伸, 歯科治療, 全身麻酔における経口挿管操作などによる過度の開口, 打撲などの外力など, 種々な原因で生じる. 発症は突然であるため, 患者の心理的動揺は大きいと えられ, 速やかに適切に対処する必要がある. 今回我々は, 顎関節脱臼症例の治療の実態を知るために, 当科に来院し た顎関節脱臼症例の臨床統計的検討を行ったので, その概要を報告する. 【対象と方法】 1993年 1月から 2007年 6月までの 14年 5ヶ月間に当科を受診し, 顎関節脱臼と診断された 137名 191関節を対象とし, 臨床 的資料を調査, 析した. 【結 果】 性別 ; 男性 54名, 女性 83名. 年齢別 ; 3歳∼99 歳 (平 年齢 47.2歳). 病態別 ; 急性 26例, 習慣性 98例 (男性 35例, 女性 63例), 陳旧性 13例. 脱臼原因 ; 歯科治療時, 欠伸時の発 症が多かった. 【結 語】 治療法は病態毎に異なるが,非観血的あるいは,観血的整復術を施行し,良好な結 果を得ている.(Kitakanto Med J 2008;58:287∼295) キーワード:顎関節脱臼, 非観血的整復術 緒 言 顎関節において関節包, 関節 帯, 下顎窩, ならびに下 顎頭などが異常顎運動を阻止するよう構成されている が, これらの構成体の形態変化・機能低下とともに強制 運動により下顎窩と下顎頭の正常な位置関係が失われた 状態を顎関節脱臼という.脱臼方向により,前方・側方・ 内方・後方脱臼などに 類され, そのほとんどは前方脱 臼である. また, 脱臼後の経過時間により急性単純性あ るいは陳旧性脱臼があり, その程度により完全・不完全 脱臼, さらに原因, 症状により初発であれば単純性・2回 目以上であれば習慣性脱臼などに 類される. 顎関節脱 臼の臨床症状は, 閉口不能, 発語困難, 咀嚼不能, 嚥下障 害, 流涎, および患側耳前部の陥凹などを認め, 顔貌は片 側性の場合, オトガイ部の 側への側方偏位, 両側性の 場合はオトガイ部の前突を呈する. その他, 患側関節部 の疼痛や鼻唇溝の消失あるいは不明瞭などもあげられ る. 顎関節脱臼は生命維持に影響を与えないが, 突然閉口, 咀嚼, 咬合が不能となり, 会話にも障害が生じることか ら, 患者は急患として来院する. 今回, 我々は最近 14年 5ヶ月間に経験した顎関節脱臼症例, 特に, 急患として来 院することの多い急性単純性脱臼を中心に検討したので 報告する. 対 象 と 方 法 1993年 1月より 2007年 6月までの 14年 5か月間に 群馬大学医学部附属病院歯科口腔外科・歯科を受診し, 顎関節脱臼と診断された 137名 191関節を対象とした. 顎関節脱臼を急性単純性, 習慣性, 陳旧性脱臼に 類し, 特に急患で来院することが多い急性単純性顎関節脱臼を 対象とした. 臨床資料として, カルテ, X 線写真により 析した. 結 果 性別では男性 54名, 女性 83名, 男女比 1: 1.5と女性 にやや多かった. 年齢別では平 年齢 47.2歳 (3∼99 歳)(図 1),病態別 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科顎口腔科学 平成20年4月7日 受付 論文別刷請求先 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科顎口腔科学 武者 篤

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図1 顎関節脱臼症例(全症型を含む)

図2 急性単純性顎関節脱臼症例

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において急性単純性脱臼は 137名中 25名,18% (男性 11 名,女性 14名,平 年齢 36.2歳 (3∼79 歳))(図 2),習慣 性脱臼は 137名中 99 名,72%であり (男性 34名,女性 65 名,平 45.9 歳 (15∼99 歳))(図 3),陳旧性は 137名中 13 名, 10% (男性 9 名, 女性 4名, 平 78.1歳 (52∼91歳)) であった (図 4). 顎関節脱臼全例における発症契機は, 欠伸, 歯科治療, 食事, 嘔吐などの大開口時が 101例 (74%), 全身麻酔の 挿管時 6例 (4%),外傷などの外力による脱臼 6例 (4%), 不明 24例 (18%) とあった (図 5). 急性単純性脱臼症例 25例の発症契機は, 大開口 13例 で, その内, 欠伸によるものは 9 例であった. その他, 全 身麻酔の挿管時 1例, 外傷による外力 1例, 不明 10例で あった (図 6).来院経路は図 7のように,当院救急部より の紹介来院 3例, 院外の医療機関よりの紹介来院 9 例, 歯科開業医よりの紹介来院 4例および直接当科に来院は 9 例であった (図 7). 来院時の様態として, 脱臼状態 22 例,自己整復 3例であった (図 8).治療は,脱臼症例 22例 に徒手整復を行った. 整復後は安静および再発防止のた め,チン・キャップで開口制限を行った.自己整復 3例に 対しても, チン・キャップによる開口制限を行った. 図4 陳旧性顎関節脱臼症例 図5 顎関節脱臼症例(全症型)における発症契機

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図6 急性単純性顎関節脱臼症例における発症契機

図7 急性単純性顎関節脱臼症例の来院経路

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症 例 供 覧 症例1:患者 ; 15歳, 女性, 初診日 : 2007.6.25, 主訴 : 口が閉じない.家族歴・既往歴に特記する事項なし.現病 歴 ; 2007.6.25午前 8時ごろに欠伸により口が閉じなく なり, 近所の歯科医院を受診, 顎関節脱臼と診断され, 徒 手整復を行うも整復せず, 発症 3時間後に当科へ紹介に より来院した. 現症 : 口腔外所見 ; 閉口不能, 顔貌所見 では, 図 9 の矢印に示すように両側耳前部の陥凹がみら れ, オトガイ部の側方偏位は見られなかった. パノラマ X 線写真所見より両側の下顎頭が下顎窩より前方へ逸 脱しているのが確認できる (図 10). 以上の所見から両側 顎関節前方脱臼と診断した. 処置及び経過 ; 徒手整復後, チン・キャップによる 1週間の開口制限を行った. その 後, 再発はなく経過は良好である. 症例2:患者 ; 78歳, 女性, 初診日 : 2007.6.11, 主訴 : 顎がはずれた, 既往歴 : 喘息, 家族歴 : 特記事項なし. 現 病歴 : 2007.6.11午前 4時ごろ顎関節脱臼を自覚した. 原因は不明. その後, 近所の整形外科を受診, 右側顎関節 脱臼と診断され, 徒手整復を行うも整復せず, 当科へ紹 介により来院した. 右側顎関節脱臼の診断のもと, 徒手 整復後, チン・キャップによる 1週間の開口制限を行っ た. 再発なく良好に経過していたが, 約 4ヵ月後の 2007. 10.17午前 6時ごろ, あくびにて再び顎関節脱臼を自覚 し, 当科へ来院した. 現症は初診時と同様であり, 右側顎 関節脱臼と診断し,再度徒手整復後,チン・キャップによ る 1週間の開口制限を行った. その後, 2007.10.30朝方 に再度顎関節脱臼を自覚し当科へ来院. 現症 : 口腔外所 見 ; 閉口不能, 顔貌所見では, 図 11の矢印に示すように 右側耳前部の陥凹がみられ, 閉口困難であり, 正面像に てオトガイ部左側偏位がみられる (図 11). 強制閉口する と, オトガイ部が左側へ側方偏位しているのが確認でき る (図 12). パノラマ X 線写真所見より右側の下顎頭が 下顎窩より前方へ逸脱しているのが確認できる (図 13). 図9 顔貌所見(症例 1:15歳, 女性) A B C 図10 パノラマ X 線写真所見(症例 1:15歳, 女性)

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以上の所見から右側顎関節前方脱臼の習慣性への移行期 と診断した. 処置及び経過 ; Hippocrates法にて徒手整 復する (図 14)と閉口可能となり (図 15A),チン・キャッ プによる 2∼ 3週間の開口制限を行った (図 15B). その 後, 現在まで経過は良好であるが, 今後は習慣性へ移行 しているので経過観察が重要と えられる. 察 今回, 著者らは顎関節脱臼症例の臨床的検討を行った. 男女比は他の研究の結果と同様に女性に多い傾向を示し 図11 顔貌所見(症例 2:78歳, 女性) C B A 図12 口腔内所見(症例 2:78歳, 女性) A:開口時 B:閉口時 図13 パノラマ X 線写真所見(症例 2:78歳, 女性)

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た. また,年齢 布では,女性は各年台に平 して 布 するとの報告があるが, 自験例では女性は 20歳代に約 半数が集中し, 男性も同様に 20歳代に集中していた. 病 態別に年齢 布を検討してみると, 急性単純性顎関節脱 臼症例では, 10代から 30代の若年層と 60歳以降の高齢 者の二峰性の 布を示したのに対し, 習慣性顎関節脱臼 症例は 20代に集中し, 一峰性の 布を示した. 陳旧性顎 関節脱臼症例では, 50歳代以降のみであった. 脱臼の契機としては欠伸, 歯科治療, 食事, 嘔吐などの 大開口, 全身麻酔や救命処置時の気管内挿管, 外傷など の外力などが挙げられる. なかでも, 大開口によるもの が多くを占め, 竹之下らの報告によれば,大開口による ものが全体の 72.9%にも及ぶとし, 自験例の 74%と同様 の結果を示した. 大開口のうちでは, あくびが多くを占 めると報告され, これに対しても自験例と同様にあく びが多くを占める結果となった. 当科への来院経路を, 急性単純性顎関節脱臼症例に 限って調査した結果は, 半数以上が一度, 院外の何らか の医療機関を受診した後, 紹介され当科へ来院していた. かかりつけの歯科医院や整形外科にて徒手整復を繰り返 し試みたが, 元の位置に整復することができず紹介され ることが多い傾向であった. 整復困難な原因として, 徒 手整復時の患者の口腔周囲筋の過緊張, 誤った方向への 無理な操作を繰り返しなどが挙げられる. 急性単純性顎 関節脱臼症例の治療は通常, 非観血的な徒手整復と, そ の後のチン・キャップなどによる開口制限の併用が行わ れる. 徒手整復の方法として Hippocrates法と Bor-chers法があるが, Hippocrates法が最も一般的に行われ ており, 術式を図 16に示した. 急性単純性顎関節脱臼症 例のような新鮮例では本法により比較的容易に整復可能 であるが, 筋緊張が強く, 徒手整復が困難な場合には, 焦ってすぐに徒手整復しようとすると, 筋肉や関節部を 傷つけ, かえって条件を悪くするので, 最初に 1回行っ てできないときは無理をせず, iv sedationあるいは全身 麻酔下で筋弛緩した上で, バイトブロックを患側臼歯に 挿入し, テコの原理で整復を行う場合もある. また, 疼痛 が強い場合は関節腔に局所麻酔薬を注入して整復を行 う. 徒手整復後は再発防止と安静のため 1∼ 2週間程度, 図14 整復時所見(症例 2:78歳, 女性) 図15 整復後所見(症例 2:78歳, 女性) B:開口制限時所見 A:整復後咬合時所見

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チン・キャップもしくは弾性包帯などで顎関節の運動を 制限し, 開口制限を指導する. 今回の報告において, 症例 1では急性単純性顎関節脱臼, 症例 2では急性単純性顎 関節脱臼から習慣性顎関節脱臼への移行期の症例を挙げ た. 特に症例 2では, 患者指導が今後の予後を左右して くると えられる. 精神疾患や抗精神病薬の副作用, 脳血管障害, パーキ ンソン病は, 顎関節脱臼の病因として, 錐体外路症状を 誘発し咀嚼筋の協調不全を招来して顎関節脱臼を容易に 引き起こすと言われている. さらにこのような疾 患を有す患者が無歯顎の場合は, 咬合状態が不明な場合 が多く, 顎関節脱臼を長期間放置され, 陳旧性顎関節脱 臼を発症しやすい. 陳旧化してしまうと QOL を著しく 低下させるので, 口腔ケアや摂食・嚥下などの知識や手 技を向上させることにより介護者が脱臼していることに 気づき, 早期に治療を行える体制を構築することが大切 である. また, SAH や脳梗塞などの脳血管障害等に より救急搬送後, 全身麻酔時の挿管操作によって顎関節 脱臼を引き起した場合は見過ごされることが多く, 意思 疎通も不十 なため長期間脱臼が放置される症例が時々 散見される. この場合, 脱臼の再発しやすい習慣性脱臼 や整復不可能な陳旧性脱臼に移行する場合が多いので注 意が必要である. 本論文の要旨は, 平成 19 年度第 15回群馬県救急医療 懇談会 (平成 19 年 9 月 8日, 安中市) において発表した. 謝辞 稿を終えるにあたり, ご懇切なるご指導を賜りました 群馬大学大学院医学系研究科顎口腔科学 茂木 司教授 に深謝いたします. 参 文 献 1. 内田安信,河合 幹,瀬戸 一.顎口腔外科診断治療大系. 講談社, 1991; 468-469. 2. 竹之下康治, 中村昭一, 田代英雄ら. 顎関節脱臼の臨床統 計的観察.日本口腔外科学会雑誌,1982; 28(5): 767-775. 3. 渡貫 圭, 武川寛樹, 廣田 誠ら. 習慣性顎関節脱臼手術 に対する一工夫―特に全身麻酔が困難な寝たきりの高齢 者に対して―. 日本口腔診断学会雑誌, 2004; 17(1): 104-107. 4. 藤井信男. 救急初療医へのアドバイス②―外傷, 中毒, 特 殊疾患 顎関節脱臼 一般医が整復困難であった症例. 救急医学, 2002; 26: 534-535. 5. 江田 哲, 鈴木 円, 重 久夫ら. 脳梗塞患者の両側習慣 性顎関節脱臼に対して観血的治療を施行した一例. 日本 有病者歯科医療雑誌, 2003; 12(3): 153-157. 6. 村上 慶, 近藤壽郎, 入佐弘介ら. パーキンソン病および 多発性脳梗塞患者の陳旧性顎関節脱臼に対し全身麻酔下 で観血的顎関節整復術を行った症例. 日本有病者歯科医 療雑誌, 2002; 11(1): 41-45. 7. 岡本俊宏, 岡 郎, 深田 治ら. 習慣性顎関節脱臼の手 術療法―脳血管障害を伴った 2例―. 日本顎関節学会雑 誌, 2001; 13(2): 266-270. 8. 工藤啓吾, 東海林克, 山口一成ら. 習慣性顎関節脱臼に対 する手術療法の 3例. 日本口腔外科学会雑誌, 1989 ; 35(1): 122-126. 9. 太田和俊, 野村朋子, 吉武義泰ら. 抗リン脂質抗体症候群 により脳梗塞と習慣性顎関節脱臼を繰り返した 1例. 日 本有病者歯科医療雑誌, 2006; 15(3): 145-149. 10. 石川義人, 口雄介, 青村和幸ら. 精神および脳疾患患者 における顎関節脱臼の病因に関する臨床的検討. 日本口 腔外科学会雑誌, 1998; 44(4): 415-417. 11. 真塩 清,清水澄雄.頸髄損傷に合併し発見の遅れた顎関 節脱臼の一例. 日本パラプレジア医学会雑誌, 2002; 15(1): 102-103. 図16 顎関節脱臼整復方法(Hippocrates法) 術者は患者と対面し, 両手拇指を下顎臼歯部咬合面に置き (図 16A),その際,拇指にはガーゼを巻い ておくことにより臼歯咬頭の尖った部 の指へのくい込みや整復後に咬まれることによる手指の損 傷を防止できる.他の 4指で下顎下縁および下顎角部を保持しながら,いったん下顎臼歯部を強力に 押し下げ, ついで後方にすすめることにより整復する (図 16B). B A

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Objective: Temporomandibular joint luxation occurs due to various causes such as bruises and other external forces,as well as excessive opening of the mouth during eating,yawning,dental treatment,or oral intubation procedures for general anesthesia. As onset is sudden and thus has a significant psychologi-cal impact on patients, early and appropriate treatment is necessary. In order to elucidate the actual condition of treatment for temporomandibular joint luxation,we conducted a clinical statistical investi-gation of patients with temporomandibular joint luxation who were treated at our department. Subjects and methods: Clinical data were investigated and analyzed for a total of 191 joints in 137 patients who were diagnosed with temporomandibular joint luxation after visiting our department during 14 years and five monthes from January 1993 to June 2007. Results: Patients included 54 men and 83 women,with an age range of 3 to 99 years (mean age, 47.2 years). Pathology was classified into acute (n=26), habitual (n=98; 35 men, 63 women), and old (n=13). Luxation frequently developed due to dental treatment and yawning. Although the treatment method varied depending on the pathology,favorable results were obtained with non-invasive and invasive reduction.(Kitakanto Med J 2008;58:287∼295)

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