〈論文〉プロトタイプカテゴリーとしてのアイロニーと理論化
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(2) プロトタイプカテゴリーとしてのアイロニーと理論化 春木. 2 . データ観察 本節では、様々なタイプのアイロニーのデータを観察し、それぞれの例の特徴が 重なりつつも、少しずつ異なっている点を明らかにしたい 。その上で、アイロニー と名づけられる伝達現象がプロトタイプカテゴリーを形成している可能性を例示し たい 。議論を明確にするために、アイロニーの特徴として一般的に取り上げられて. c o n g r u i t y ) と言及 ( m e n t i o n ) を軸に観察を進めていく いるズレ(in. O. 2 . 1 . ズレ型アイロニーの観察 まず、ズレ型アイロニーの観察から始める O. ( 1 ) [てんかんの発作で入院している Davidに医師の Dr . Kumarが臨床実験中の 薬を勧めている場面。 ただし、その薬には副作用があり 2%の人は統合失調 症性発作を引き起こす 。 もしそうなっても新薬の服用をやめるとさらにひど い発作を起こすことになり、一度薬を試し始めると後戻りができないと説明. avid を受ける O この医師が新薬の成果を試したいだけで勧めていることは D も兄の J a s p e rも分かっている O 他 に 選 択 肢 の な い Davidは 渋 々 了 承 す る が 最後に医師は事務的なことを言って部屋を後にする 。] “G o o d . "D r .Kumars t a r t e dt owalktowardt h ed o o r,whenhes t o p p e dand. t u r n e da r o u n d ." T h a tremindsme,y o u ' l lhavet os i g nawaivera l l o w i n gme t o commityou t o am e n t a li n s t i t u t i o ni fn e c e s s a r y ."B e f o r eC a i n ec o u l d respond,t h ep h y s i c i a nwasg o n e . “ N l c eguL"J a s p e rs a i dd r y l y . (AdamFawer ,l m p r o b a b l e,下線は筆者の追加). ( 1 )において研究を優先する医師は < a t e r r i b l ep e r s o n>であり 、アイロニ一発話 i c eguy>ではない。この ようなタイプのアイロニ一発話には の 字 義 的 意 味 の <N ズレが観察できる O また、ズレを引き起こすアイロニ一発話を用いることで、医師 以下 、 v i c t i mと呼 を非難し攻撃している O また、その非難には攻撃対象がある ( ぶ)。 また、 D avidに向けては、アイロニーであることを伝えようと意図しているの で伝達意図もある O この例から観察できるアイロニーの特徴は〈ズレト〈非難》、. 円︿d. 4 円. qJ. (2 ).
(3) 文学・芸術・文化/第. 25巻 第 2号 /2014. 3. { v i c t i m} 、〈 伝達意図〉 ということになる 、 ・ ・ , 、 ・ ー ・。 '-ー ・ ' ・ -、. O. ・・. ( 2) [田舎道に迷い込んだ都会暮らしの整形外科医。道の真ん中で牛を連れた女性. がおり、それを避けようとハンドルを切りガードレールにぶつかり事故を起 こしてしまう. O. 女性と午は無事である 。 ]. S t o n e :Oh,man.Oh,G o d .Oh,G o d .I 'm o kay,I 'm o k a y .Whew!S h i t !A c c i d e nt . A womani nt h em i d d l eo ft h er o a dw i t hac o w !. .J [ S t o n ejumpso u to ft h ec a randf e e l sh i sw r i s t sandc h e st S t o n e :Oh,G o d .A l lr i g h , tI 'm o kay.A l lr i g ht . Oh,man,myc a r,o h ! The w h o l ef r o n tendi ss h o t !Am1g l a dy o u ' r eh e r e. ( DocHollywood ,下線は筆者の追加). ここにも、事故の原因と考えている女性が道路の真ん中にいて嬉しいわけはないの で、アイロニーの話し手 ( 以下、アイロニスト)の実際の気持ちとアイロニ一発話 の聞には 〈ズレ 〉があり、明確な 〈 伝達意図〉 を持って女性を 〈非難〉 し { v i c t i m} にしている O. ( 3 ) [Aと B は感情的に口論をしているが、その最中に B はおならをしてしま う。 ] A:君のおならは本当にいい匂いだ。. ( 3 )も同様に 〈ズ レ〉、〈非難〉、{ v i c t i m} 、〈 伝達意図〉 という特徴が見られる O 注意してもらいたいのは、 ( 1 )から ( 3)の例には、アイロニー研究で取り上げられ る 〈 期待〉 という特徴は観察できない 。一般的に言われるよ うに現実とは異なる期. i l s o nandS p e r b e r( 1 9 9 2)の言うような 一般 待を発話している文脈ではないし、 W 的思考や社会規範をエコー的言及しているとも考えられる文脈ではない。つまり、 これらの例の観察から分かることは、 《 期待〉が全ての例に当てはまる特徴ではな いし、 〈 期待〉がなくてもアイロニーとしての解釈は適切に行われる O さらに、これらの例は、伝統的定義で主張されていた発話とは反対の意味を伝え ているように解釈できる例である o ( 1 )で は <T e r r i b l ep e r s o n>、 ( 2 )では < 1am. -232-. 3 ).
(4) プロトタイプカテゴリーとしてのアイロニーと理論化. 春木. d e f i n i t e l yn o tg l a dy o u ' r eh e r e>、 ( 3)では <君のおならはすごく臭い > という反 対の意味を含意として伝えている解釈するのが自 然 である O これ らの例には、 〈反 対合意〉 と本論では呼ぶ特徴も見られる. O. 次に、 ( 1 3)の例とはズレ方が異なる例を見ていこう. O. ( 4) [Theo v e r d o s e dp a t i e n tl e a n so v e randv o m i t sonS t o n e J . S t o n e :主国旦主主. ( DocH o l l y卸 ood ,下線は筆者の追加). ( 4)では自分に恒吐されたのだから文句や非難を 言 うべきところ であるが、感謝表. 現を用いている O ここ では、実際のアイロニストの気持ちとアイロニ一発話が適切 に発話できるための前提条件 (ここでは、「話し手にとって恩恵となる出来事がそ れまでにあった Jという条件) との問にズレが起こっている. このようにズレと. O. 言っても現実やアイロニストの気持ちと発話の字義的意味ではない場合もある. O. こ. v i c t i m} 、〈 伝達意図〉であ の例で見られる特徴は 〈ズレ ( 前提条件) }、〈非難〉、{ るO. ( 5) [父親による惨殺事件で生き残り怪我を負った子供のことで言い争う医師と保. 安官。状況的には険悪なムードである O その中で、保安官が去る間際に、医 師が投げかける言葉。]. D o c t o r :C a l e bi s n' tg o i n ganywhereu n t i l1s a ys o .. : fGonnagot h e r ea tnoont o m o r r o w . S h e r i f h e r i f . fDrives a f e l y . D o c t o r :Hey,S ( TVdrama , AmericanG o t h i c ,下線は筆者の追加). この例でも、険悪に言い争っていた二人であるので、医師が保安官に帰路の安全を 願って声をかけるのは考えられない 。 ここでも医師の実際の気持ちと安全祈願の前. v i c t i m} 、〈 伝達意 提条件 ( 相手を大切に思っている ) とがズレている o {非難〉、{ 図〉 はもちろんあるし、 〈反対合意〉 も解釈できる可能性がある. O. 以上 では、特徴に少しの違いはあっても、ズレ型アイロニーの典型的な例として. 11よ. qJ. 山 つ. (4 ).
(5) 文学-芸術・文化/第. 25巷第 2号 /2014. 3. 考えられるが、以下のようにズレ型とは呼べるが、より周辺的な例がある. O. ( 6) [ W i l lg e t sac a ra th i s21 t hb i r t h d a y,whichi sr e p a i r e dandp r e s e n t e dby h i st h r e ef r i e n d s J . W i l l ' sf r i e n d :Howd oyoul i k e ? p a u s e )1 t 'st h eu耳l i e s tf u c k i n 'c a rI 'v ee v e rs e e ni nmy W i l l:T h i si sl i k e… ( ( Good防 切 Hunting ,下線は筆者の追加). l i f e.. ( 6)の例は、いわゆるアイロニーの非対称性という特徴に反するものであるが、. <ボロボロの車 > と発話しながらも <価値のある車 > と心の中で思っており、 〈ズ レ〉があり 〈反対合意》 を伝えようとする 〈 伝達意図〉 もある O この例のように、 発話の字義的意味が否定的意味だが伝えたい意味は肯定的意味であるケースは非常 に少ない 。 この例から分かることは、多くの例においては 《肯定命題〉 という特徴 が逆に言えばあると言うこと、さらに、この例のようにアイロニーはからかう場合 にも用いられるが、その意味でも 〈ユーモア 〉 という特徴が付随しやすい。 なお、. v i c t i m}の特徴はない 。 この例では、 〈非難〉 と {. ( 7 ) [深夜に放送されているアニメ番組のオープニング。以下の 2つのアナウンス. が全く同じ長さで重なって流される 。 ] a .夜も、更けてまいりました 。 ご近所の迷惑にならぬよう音量を下げてお楽. しみ下さい 。 b .このアニメーションはステレオハイファイで録音しています。大音量でお. 楽しみ下さい 。 (うすた京介. 『セクシーコマンドー外伝. す ご い よ マ サ ル さ んj ). この例は 〈ズレ 〉そのものを提示している O 社会ルールとしては音量下げて迷惑に ならないように配慮することが一般的には求められるが、この番組制作者側からす ると音量を上げてみてほしい 。 この例の特徴は、 〈ズレ〉、〈 伝達意図〉、〈ユーモア 〉 である O この例になるとアイロニカルな解釈は少しだけ考えられるが、ジョークと. qtu. ハ u. 臼 つ. (5 ).
(6) プロトタイプカテゴリーとしてのアイロニーと理論化. 春木. いうカテゴリーに入っているとも言える O. ( 8) a .[近所の電柱の貼り紙]. 貼り紙禁止. b .[ 学校の校門の掲示] 無断で校内に立ち入ることを厳禁する O お子様を校内に入れないようご注 意下さい 。学校長 c . [血管造影剤の不良品を売っていた会社の名前]. 模範薬品会社. d .[近所の電柱の貼り紙] 今日からあなたも内職貴族. ( 8 11)の例になると、これらの作成者はアイロニーを意図してはいない 。 しかし、. 聞き手(解釈者)の側からすると、非常に周辺的なユーモラスなアイロニーの例と して解釈される場合もある O 以上、 《ズレ 〉 という特徴を軸にして、より典型的な例から周辺的な例まで見て きたが、これだけ観察するだけでも、全てのアイロニーの例に共通するような必要 十分な特徴があるという前提でアイロニーの研究を進めるのは無理があると言わざ るを得ない。. 2 . 2 . 言及型アイロニーの観察 この節では、言及型アイロニーの観察を行う. O. 結論から先に言うと、このタイプ. のアイロニーの例もプロトタイプカテゴリーを形成すると考えた方が適切であるこ とを述べる. O. 言及型アイロニーの典型例では、 v i c t i mである聞き手が先に発話した内容をア イロニストが言及して瑚るというものである. O. ( 9) [いじめられっ子といじめっ子のやりとり]. いじめられっ子:もう怒った 。殴るぞ!. 4. 円. ハ 可. “ っ. U. (6 ).
(7) 文学・芸術 ・文化/第. 25巷第 2号 /2014. 3. いじめ っ子: [まねをして]もう怒った 。殴るぞ l. ( 1 0) [As h e r i 旺l o c k sayoungmani nap o l i c ec a r J . Youngman:I 'm n o tac r i m i n a l ! S h e r i f f :" r ' mn o tac r i m i n a l ."E v e r y b o d y ' sh u m a n b e i n g . ( TVdrama , AmericanG o t h i c ,下線は筆者の追加). 朝りの態度を示している O いじめっ子 両例ともアイロニストが先の発話を言及し、 P も保安官もアイロニ一発話の内容が自分の思考を伝えるものではなく、 { v i c t i m} が先に行 ったことを言及している O このように言及型アイロニーは 《言及》するこ. i c t i mへの 〈非難〉 を伝えている ( {伝 とで言及した思考やその思考を抱いていた v ) o 達意図 }. ( 1 1) [庭に入り込んだ猫を蹴り飛ばして追い出した夫が、「妻にもっと優しくやっ たら Jと注意 され]. Whatd oyouwantmet od o-i n v i t ehimi nf o rc o c k t a i l s ? ( マーク・ピーターセン. 『心にとどく英語j p. l2 2). ( 11)では、聞き手である妻が言ったことや考えたと推論できることではなく、仮想 的に友好的に接する人が行いそうな行動を仮定し、それを言及している O ピーター センの注釈によると、この例は「嫌味のない皮肉による誇張法」 ということであ るO ここでは <蹴り飛ばした >ことと <カクテルに誘う > こととの 〈ズレ ト また アイロニカルにしていることを明確に伝えている 〈 伝達意図〉がある O 以上のように、 言及型アイロニーは言及する思考や発話に対して、瑚りのような. s o u r c e)が 、 攻撃的な態度を示すのであるが、言及している思考や発話の発信元 ( ( 9 1 0 ) では目の前の聞き手、 ( 1 1)では仮想の人物であるという点で異なってい るO そして、発信元が目の前の聞き手である方が攻撃の直接性が認識できるため、 非難の度合いが強く感じられる. O. δ 口. 臼 つ 臼 つ. (7 ).
(8) プロトタイプカテゴリーとしてのアイロニーと理論化. 吾木. 2 . 3 . ズレ一言及複合型アイ口ニー 上の 2つの節では、ズレ型アイロニーと言及型アイロニーがあたかも別の独立し たタイプのアイロニーのように述べてきたが、実際には 〈ズレ 〉 と 《 言及〉 という 特徴は一つの例に共起できるし、攻撃性が高いアイロニーの場合には、 二つの特徴 が入 っていることが多くなるように思われる O. ( 1 2)[ Aと Bは山登 りに出発したが、登り始めると雨が降 ってきた 。天気が怪し いと思 っていた A は B に前日に電話をかけたが、 B は「大丈夫。晴天だよ 。 」 といって A を納得させた 。 ]. A :ほんとに晴天だよ O. ( 1 2)の例では、. <雨降り > とアイロニ一発話の内容 <晴天だよ > との聞の 〈ズレ 〉. 言及〉があり、 〈ユーモア 〉 を除く、 〈反対合意〉、〈非難〉、 と 、 Bの前日の発話の 〈. ( v i c t i m} 、〈 伝達意図〉、〈 肯定命題〉の全ての特徴が揃っている. O. このような例を、. アイロニー研究ではアイロニーの典型例として扱っている O. 2.4.アイロニーというカテゴリーについて この節では、上記の観察結果をさらに分析し、アイロニーという伝達現象に対し ていくつか主張を述べたい 。 まず、第一の主張は、アイロニーという伝達現象は、 プロトタイプカテゴリーを形成するものであるというものである O つまり、アイロ ニーのカテゴリーには、典型的で中心的であると見なされる事例もあれば、より周 辺的な事例もあり、事例同士は家族的類似性により関係づけられた放射状カテゴ リーを構成する O そして、第二の主張は、アイロニーの事例が持つ特徴の中でもア イロニーらしさを決めるためにより強く働く特徴があり、それが、 〈ズレ 〉、〈言及〉 ( および、それに関連する後述の 〈 期待} )、さらに、 〈非難〉 というものである O 第 三に、アイロニーとは間接的に非難し攻撃する目的で生まれた伝達現象であり、ア イロニーのカテゴリーを考える場合にもこの目的を基本にして考えなければならな いことである O まず、前節までに取り上げた事例がどの特徴を持つかをまとめた表 1を見ていこ. (8 ). 2 2 7.
(9) 文学・芸術・文化/第. 25巻第 2号 /2014. 3. つ. O. 管リ. 〈ズレ 》. ( 1 ). O O O O O O O O. ( 2) ( 3) ( 4) ( 5) ( 6) ( 7) ( 8) ( 9). ×. ( 10). ×. ( 1 1) ( 1 2 ). O O. 《 言及〉 〈反対合意〉 〈非難〉. 伝達意図》〈 肯定命題〉《ユーモ ア〉 { v i c t i m> 《. ×. ム. O O O O O. ×. O. ×. ×. ×. ×. ×. ×. O O O O O O O. ×. ×. ×. ×. ×. ×. O O O. O O O O. ×. O O. O O. O O O O. ?. ×. ?. ×. ×. ×. O. ×. ×. O O O. ×. ×. × ×. ×. O O O O O. ×. ×. ×. ム. O. O. O O O O O. ×. × ×. × × × ×. 表 1:アイロニーの事例が持つ特徴. 12)は ( ほとんど)全ての特徴を備えたもの アイロニ ーの典型例と言われてきた (. 1 3)の例は、 〈言及〉の特徴がないがほと であり、最も中心的なメンバ ーである o ( んど典型例だと 言 えるメンバーである O. ( 4)の Thanksは中心的メンバーからは少し離れるがこれは 〈反対含意〉が容易 に見つからないためである O それと同時に、この例のおかげで分かることがある O それは、 〈非難〉 という特徴があればアイロニーとしての認識は問題なくできるた め 、 〈非難〉がアイロニーの特徴のうちより強く働いていること、さらに、アイロ. i c t i mを非難するためには、相 ニーの目的は非難攻撃であることである O つまり、 v 1 3)の例では指摘するポイントが 手の欠点などを指摘することが必要であるが、 ( 1)の例 で は、医師に対して < N i c eguy> と言葉 にしな 反対合意の意味となる o ( が ら <T e r r i b l eguy>のような反対含意 を伝達できる O このように反対合意は欠 点を指摘している O しかし、 ( 4 )の場合、感謝をアイロニーとして使 っても、 意識 的に推論を進めないと何が v i c t i mの欠点であるのかが解釈できない。. ( 5)の例 では 、 < Don ' td r i v es a f e l y>や< D r i v ed a n g e r o u s l y / r e c k l e s s l y>のよ うな反対合意が解釈されることがで きる 場合アイロニー性がより高まるが、反対含 意が不明確な場合 にはアイロニー性はやや落ちる O この例か らも分かるのは、特徴. つω. “ っ. 。 円. (9 ).
(10) プロトタイプカテゴリーとしてのアイロニーと理論化. 春木. の認識が少なくなるとアイロニー性が低くなり、中心的メンバーから離れていく. O. つまり、ここでもアイロニーがプロトタイプカテゴリーを構成していることを示し ている. O. ( 6 8)は重要 な点、つまり、 〈非難》が特徴の中でも強く働く点を示している O こ れらの例は、ジョークとしてカテゴリー化してもよい例とも 言 えるが、その原因は 〈非難〉がないことにある O このように別のカテゴリーとして考えることが可能と いうことは、 〈非難〉がある事例をアイロニーのメンバーとして認識させる際の働 きが強いことを 示 している O さらにこのことは、アイロニーという伝達現象は ( 間 接的に )非難攻撃することをその 第一 の目的としていることを示している O. ( 9 1 0 )は先行発話を言及し、その発話内容に対してアイロニストが瑚りという非. i c t i mに対しても瑚りを表 難攻撃を行っている O また、その先行発話を発話した v している o ( 9 1 0 )の例は辛妹なパロデ イーの例とも 言 えるが、アイロニーとしても 中心的なカテゴリーにあるように思えるのは、 《非難〉 と ( v i c t i m) という特徴が 非常に明示的であり、 〈言及〉 という特徴が示すように間接的な方法で非難攻撃 を 行っているからである. O. この点を考慮に入れると、やはり「アイロニーは間接的な. 方法で他人を非難攻撃するという 第一の目的のために発展した伝達方法である 」 と 主張することは正しいと言える O. ( 1 1)は出典元では嫌味のない皮肉の例として紹介されているが、その場合ではこ の例はあまりアイロニーらしくない、つまり、アイロニー性はあるが周辺的なアイ ロニーの例であると観察できる O その理由は 〈非難〉 と ( v i c t i m ) という特徴がな くなるからである O 先にも述べたように、アイロニーの第一の目的である他人を非 難攻撃するという点は特徴として強いものであるが、その特徴がない場合は、強い 特徴がないアイロニ一、つまり、プロトタイプに基づくアイロニーカテゴリーの中 では周辺的なメンバーであると考えられるのである O 以上の分析を図示すると、アイロニーのカテゴリーは以下のようなイメージにな るO. U. Fhd. つ 臼 つ. ,. 11 r. ハU. 、 、. tE. 可Ei. , ,、 、.
(11) 文学・芸術・文化/第. 25巷第 2号 /2014.3. │PARODY I . .. ~,\--. ( 9)( 斗〆. ( ロ)は)( 幻( 3). . .; . 、 . . . . . . . . . . . .. ~. ( 心. 句)( 4 )¥( 6)( 7)¥ U ) /1'¥ /n¥. ( l l). jI IR RO ON NY . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . Y1 1 . . . . . . . . . -. " -1]OKE I. 図 1:プロ トタイプカテゴリーとしてのアイロニー. 図 1では、 ( 1 2 )の例が中心的なメンバーであり、上記の特徴が少なくなっていくに. したがって周辺的にメンバーになること(右方向は 〈ズレ〉 を中心にした放射状の 展開、左方向は〈言及〉を中心にしたそれを表している)、さらには、周辺的メン バーは隣接カテゴリーのメンバーにもなりうることを示している O この節の最後に、アイロニーの文献で必ず取り上げられる 〈 期待〉 という特徴に ついて取り上げ、これまでの議論と合わせて考えたい 。 〈期 待〉 という特徴は、. WilsonandSperber ( 1 9 9 2 )のe c h o i ci n t e r p r e t a t i o n( mention)理論では echoed s o u r c eつまり「誰かが持つ期待、社会文化的に一般的な思考や規範」 と組みこま 2 0 0 0)の i m p l i c i td i s p l a y理論では「話し手が持つ期待」として組み れ 、 Utsumi ( 込まれている O これらの理論がその中に組み込むように 〈期待》は強い特徴である といえる. O. この特徴は上の観察分析結果にはどのような関係があるのであろう. 1 2)( 再掲)を観察する と 、 A のアイロニ一発 か。 ここでは次のように考えたい 。 ( 話は、前日の Bの発話を言及しているが、この Bの発話には <当日は晴天だ > と いう期待に基づいてのことである O. ( 1 2 )[ A と B は山登りに出発したが、登り始めると雨が降 ってきた。天気が怪し いと思っていた B に前日に電話をしたが、 B は「大丈夫。晴天だよ 。」とい っ て A を納得させた 。 ]. A:ほんとに晴天だよ O. つまり、言及されているのは発話だけでなく期待でもある O そして、 A はこの B. 可Eよ. 1Eよ. 、ノ , 、. 〆、 、 , ,. A A. つμ. “ っ.
(12) プロトタイプカテゴリーとしてのアイロニーと理論化 春木. の 期 待 に 対 し て 、 非 難 攻 撃 を 行 っている O そして、この期待は当然 Bが前日まで に抱いていたものであるので、 Bが非難攻撃の v i c t i mであることを明確にさせる ことができる O また、 ( 1 0)( 再掲 ) でも保安官は 若者による直前の発話を言及して いるが、これはまさに < 自分は犯罪者 ではない > という若者の期待であり、その期 待とその期待を持つ v i c t i mを瑚り、非難攻撃している O. ( 1 0) [ As h e r i f fl o c k sayoungmani nap o l i c ec a r J . Youngman:I 'm n o tac r i m i n a l ! 旺 : “I ' mn o tac r i m i n a l ."E v e r y b o d y ' shumanb e i n g . S h e r i 田. このように考えると、 《期 待〉 とは 言 及という認知操作を行う際の言及対象として 機能し、さらに、どうしてその期待が言及対象になるかというと、非難攻撃対象で ある v i c t i mを特定するという機能も持つからである O このようにアイロニーが非 難攻撃を主たる目的とした伝達方法であるからこそ、 〈期 待〉が非常に大きな役割 を果たすのである O 第 2節では、 事例の観察分析により、アイロニーがプロトタイプに基づくカテゴ リーを形成しているという考え方が重要であるということを主張した 。 もしこの考 え方が正しいとすると、このようなアイロニーを捉えることができる理論とはどの ようなものかという問題が出てくる 。 そこで、次節以降ではこれまでのアイロ ニー研究の紹介と問題点の指摘、さらには、新しい提案をするための可能性を述べ ていく. O. 3 . 先行研究とその問題点 この節では、現在比較的有力なアイロニ一理論を取り上げ、 2節の観察と照らし 合わせながら、その理論的問題点を取り上げていく. O. 本論では、 S p e r b e rand. W i l s o n( 1 9 8 1) 、W i l s o nandS p e r b e r( 1 9 9 2)の e c h o i cm e n t i o n/ i n t e r p r e t a t i o n理 論 、 C l a r kandG e r r i g( 1 9 8 4)の p r e t e n s e理論、 Utsumi( 2 0 0 0)の i m p l i c i td i s p l a y 理論を取り上げる O. qL. つd. つω. (1 2).
(13) 文学・芸術・文化/第. 25巷第 2号 /2014.3. 3 . 1 .E c h o i cm e n t i o n / i n t e r p r e t a t i o n理論 . .. e n t i o n/ i n t e r p r e t a t i o nという概念と e c h oという概念がポイン この理論では、 m トとなり、アイロニーを説明する o m entionというのは、話し手本人が発話時に抱. u s e)のではなく 、それ以外の思考や発話 ( 他人の思考 く本人の思考を使用する ( や発話、文化的に 一般に抱かれる期待、話し手の過去の思考や発話を含む)に言及. m e n t i o n ) という方法である O また、 e c h oとは、 i n d i r e c tq u o t a t i o nの一種 する ( であるが、元となる発話の情報を単純に伝えるだけの報告 ( r e p o r t ) ではなく、元 となる発話の情報に加えて、その発話に対する話し手の態度を 表す用法である O ア. i s s o c i a t i v e (解離的)で n e g a t i v e 否定的 ) イロニーの場合の話し手の態度は、 d な態度と考える C 従って、この理論でアイロニーを説明すると、話し手は、他人の 思考や発話または一般的な期待を e c h o的に言及することで、思考や発話や期待の 情報に加えて、それらに対する否定的な態度を表すというプロセスをたどる O この理論は一面では非常に強力である O というのも、通常アイロニーにおいて、 アイロニ一発話は話し手が本心としてその場で抱いている思考の u s eとは考えら れないケースがほとんどであり、さらに、アイロニーでは非難攻撃という否定的態 度を示すものが多いため、 e c h o理論は成功しているように考えられるからである. O. さらに、極端に言ってしまえば、どのような例でも e c h oの元になる思考や発話を. c h o i cment i o nを行っていると読み込むこ 仮定することが可能で、あらゆる例が e とが出来るのである O しかしながら、この理論もいくつか不備がある た経験的反証を見てみよう. O. まず、 G i o r a( 1 9 9 5 ) が指摘し. O. ( 1 3) D i n a :1m i s s e dt h el a t e s tnewsb r o a d c a s t .Whatd i dt h ePrimeM i n i s t e rs a y. a b o u tt h eP a l e s t i n i a n s ? M i r a :[ w i t hr i d i c u l i n ga v e r s i o nJThatwes h o u l dd e p o r tt h e m .. この例において、 M iraは首相が発した 言葉を e c h o i c ment i o nしているが、アイロ ニーにはな っていない 。 次に理論的問題点を見てみよう. O. 円ノ“. つム. 臼 つ. (1 3).
(14) プロトタイプカテゴリーとしてのアイロニーと理論化. 春木. ( 3 ) [Aと Bは感情的に口論をしているが、その最中に Bはおならをしてしまう 。 ] ‘. A:君のおならは本当にいい匂いだ。. この例で、仮にアイロニストが他人もしくは一般的な期待を e c h o i cm e n t i o nして いると仮定してみると、誰かが抱いた <Bのおならはいい匂いである > という思 考、もしくはもっと 一般的なくなにものもいい匂いであるべきだ > という期待が. e c h oされ、これらの思考や期待に対してアイロニストは閉りなどの否定的態度を 3 )の状況では、それらの思考や期待に対する否定的 表すことになる O しかし、例 (. 態度ではなく、. <Bのおならは臭い>ということに対して否定的な態度を示して. c h o i cment i o n理論では直感に合わない説明をしてしまうこと いる O このように、 e になるのである. O. 3 . 2 .P r e t e n s e理論 この理論では、アイロニストが無分別な人のフリをして、ものを知らない聞き手 に対して話しているという仮想状況を示し、パカな話し手や聞き手に対するアイロ ニストの瑚りの態度を表すという主張がなされている O このようなフリをするから. i c t i m 話し手と聞き手)やアイロニーの音調という特性が説 こそ、非対称性や v 明できると主張している C しかしながら、この理論の仮定はかなり複雑なため、本当に全ての事例におい て、このようなフリをしているのかという点が一番の問題点となる o (1)の例の よ. i c eguy!という場合、アイロニー発話の内容をアイロニ うに、嫌な医者に対して N ストが信じていることはないことまでは分かるが、誰か他のパカな人のフリをして いるとは直感的にも思えない 。 さらに、そのようなフリをしている人やそれを真に 受けて納得している聞き手の存在もこの例では解釈しにくい 。 ( 1)の ようなより典. r e t e n s e理論は不十分で 型的な例でもフリが直感的に認識できないのであれば、 p r e t e n s e理論は、ある意味 あるといわざるを得ない 。 もっと正確に言うならば、 p で洗練されたアイロニーの例、例えば、チャップリンの風刺映画のような場合であ るならば有効かもしれないが、日常会話に現れてくるようなアイロニーの例には、 洗練されすぎた理論である O. 司. 1ょ. 臼 っ 臼 つ. (1 4).
(15) 文学・芸術・文化/第. 25巷第 2号 /2014. 3. 3 . 3 .i m p l i c i td i s p l a y理論 r o n i cenvironmentを暗黙的に提示する(im p l i c i t l yd i s p l a y)する この理論は、 i ことがアイロニーの伝達であるという主張をする o i r o n i ce nvironmentとは(i)話 し手がある時点 t Oである期待 Eを抱いている、 ( i) 話し手の期待 Eは t lの時点で 満たされていない ( 現実と不一致の関係にある )、そして、話し手は期待と現実と の聞の不一致に対して否定的な感情的態度 ( 落胆、怒り、非難、ねたみなど) を抱. c o n t e x t u a ls t a t e) のことである O そして、暗黙的に いているという文脈的状態 ( l l u d e( U の命題 P と c o h e r e n tな関係 提示するとは、 ( 1)発話 Uが話し手の E を a づけがなされる Eの命題 Q があり、 U には明示的に期待を示す表現が使われてい. I I) 何らかの語用論的原則を意図的に違反することで ない方法で示す場合) し 、 ( p r a g m a t i ci n s i n c e r i t yを Uが含んでおり、 ( I I I) Eが満たされないことに対して話 し手の否定的態度を間接的に表すと言う方法である O さらにこの理論が優れている 点は、プロトタイプに基づくアプローチをとり、 全 てのアイロニーの事例が上記の 条件を全て満たすとは考えていないところである O このアプローチは、 2節の観察 で得た結果にも合致するものである O しかしながら、この理論にもいくつかの間題点がある. O. まず、上記の条件が満た. される場合でもアイロニーにならないケースが考えられる O 例えば、次のような例 では、アイロニカルな響きは全く持たない悔しさを吐露していると考えられる. O. ( 14) [,息子は A 高校の野球部のエースで甲子園大会の決勝戦までいったが、投手 の投げ合いで惜敗し惜しくも準優勝になった 。その父は優勝を願ってはいた が、息子の頑張りに心から感激していた 。 そして、それを周りの人たちも 知っていた 。そして父親はこう叫んだ。] a .A高校優勝ばんざーい!. b .A 高野球部、おまえたちが優勝や!. また、この理論では話し手の期待が重要な理論的役割を持っているが、話し手の期 待が全くないといっていい例がある O. -220-. (1 5).
(16) プロトタイプカテゴリーとしてのアイロニーと理論化. 春木. ( 1 5) [Xと Y は営業 l課の同期で常に競い合 っているし、お互いが相手のことを 嫌い合っていて、ことある毎にぶつか ったり口論になったりしている o. Yが. 同期の中でも 一番先に課長に昇進すると目されていたが、 Xの方が先に昇進 した 。] a .X: よお、. Y。昇進おめでと う!. b.X:はじめから僕が先に昇進すると思 っていたよ. O. ( 1 5 a)のようなアイロニストの人間性を疑うほどの辛妹なアイロニーにおいては、. <Yが先に昇進してほしい /すべき >のようなアイロニスト Xの期待は考えられ i c t i mであ る Y がも っていた期待である O したがって、 ない 。 これは明らかに v i r o n i cenvironmentを構成することもできないし、暗黙的提示をすることもできな い。 また、 ( 1 5 b) は、話し手の期待を直接述べているがアイロニカルである O こ. 1 5 b) の例は a l l u d eの概念を使ってアイロニーではな い と排除でき の理論では、 ( ると主張していたのであるが、 i m p l i c i td i s p l a yでなくてもアイロニーと認識でき る例もある O. 3.4.先行研究が持つ問題の所在 3節では代表的な先行研究の問題点を見てきたが、これらに共通する大きな問題 点は、おそらく、アイロニーというカテゴリーが、中心的な例から周辺的な例まで を含むプロトタイプカテゴリーを形成していることをその理論の中に取り込んでい ない点であろう. o. i m p l i c i td i s p l a y理論ではそのような方向性は見えるものの、実. 際には、「話し手の期待」という特徴を中心に置きすぎたために、アイロニーの全 体像を捉え切れていなか ったのであると思う. O. 3節の最後として、再度 まとめておきたいのは、本論が観察した例からだけで も 、 〈ズレ 〉、〈言及〉、〈反対合意〉、〈非難〉、{ v i c t i m} 、〈伝達意図〉、《肯定命題〉、 〈ユ←モア 〉の特徴が見いだせ、それらを理論装置に組み込まなければならない 。 また、特に、 〈ズレ 〉 と 《言及〉 に関しては、どちらかの特徴だけを持つ中心的メ ンバーから周辺的メンバーに放射状にカテゴリーを形成していることも注意すべき 点である O. 1ょ. QJ. 山 っ. (1 6).
(17) 文学・芸術・文化/第. 25巻第 2号 /2014. 3. では、このようなアイロニーを捉えるのに、どのような認知的仕組みを考えれば よいのであろうか。次節では、その理論的展望を述べることにする. O. 4 . 理論的展望:プロトタイプカテゴリーを形成するアイロニーを捉える 2節で観察したようなことが正しいとするならば、アイロニーを捉える理論は従 来の理論よりも大幅に異なるものにならざるを得ない 。 というのも、ここで観察し たプロトタイプに基づくカテゴリーは、 〈ズレ 〉 と 〈言及〉 という 2つのより中心 的な特徴にしたがって展開する 2つの系統から構成されている可能性があるからで ある O もしそうであるとすると、同じ理論装置が全ての中心的メンバーから周辺的. c h o i cmention/ i n t e r p r e t a t i o n理論は メンバーまでを説明することは相当難しい 。E 《言及〉の系統をパロディとの関連性も含めて説明するには適しているが、 〈ズレ 〉 の系統のメンバーを説明するのは難しい 。I m p l i c i td i s p l a y理論は、プロトタイプ カテゴリー的な発想を取り込んではいるが、 3節で示したような理論的な問題点が ある O このように同じ理論装置が説明するという考え方自体が間違っているという 可能性もある O では、どのように扱うべきなのであろうか。 これを考えるうえで重要な点は、ア イロニーが存在している伝達上の目的であろう. O. アイロニーはそもそも誰かを間接. 的に非難するために存在している O したがって、アイロニーの中心的メンバーはこ の目的、本論でいうところの 〈非難〉 という特徴がポイントになる. O. 相手を非難す. る伝達手段は複数ある O 非難する点を明示的に 言語化した直接的非難もあれば、非 難する点を非明示的にしかあらわさない伝達方法もある. O. そして、問題となる点. は、非明示的に非難を表す方法には様々なものがあることである O 非難する点とは 反対の内容を言語化した場合には、伝統的分析が主張するようにアイロニーは 「言葉とは反対の意味を表す Jという定義になるし、非難する点が v i c t i mの発した. c h o i cmention理論の主張に 先行発話や思考をアイロニストが言及する場合には e なるであろう. O. このように考えると、アイロニーは 2つの系統があっても「間接的. 非難」という目的によって大きく一つにカテゴリー化される O そして、この考え方 が正しいとすると、アイロニーカテゴリーのメンバー全体を捉える理論装置は、 「間接的非難」を実現するものであれば、複数あってもよいという主張ができる O. δ. 口. 1ょ. 臼 っ. (1 7).
(18) プロトタイプカテゴリ. としてのアイロニーと理論化 春木. 本論では、この考え方に従い、アイロニーの理論装置は単一のものではなく、共起 しうる複数の認知プロセスによって実現されると主張したい。 プロトタイプに基づくカテゴリーをアイロニーが構成しているとすると、それは. 2節で取り上げた特徴に関連しているはずである o. { ズレ 〉 、 〈 言及 ~ ( お よび、関連. する 〈 期待 ~) 、 〈 反対含意 〉 、 〈 非難 〉 、 { victim ~ 、 〈 伝達意図 〉 、 〈 肯定命題 〉 、 〈 ユー. モア 〉、これ らの特徴は独立的なものもあれば、他の特徴に依存的に存在するもの もある O これらの中で、独立的な特徴は 〈ズレ 〉、〈言及〉、〈 伝達意図〉の三つであ ろう. o. {ズレ 〉 は現実とは違う内容のアイロニ一発話を作り出す認知プロセス、. 〈言及〉 は自分の思考ではない他人の思考を取り上げる認知プロセス、 〈 伝達意図〉 は言語コミュニケーションにおいて情報意図があることを相手に伝えようとするよ り一般的な認知プロセスである. O. 一方、派生的なものは、 〈ズレ 〉 に依存的に存在. するものには 〈反対合意 〉、〈肯 定 命 題〉、〈非難 》、《ユーモア 〉 がある O アイロ ニーの主目的が間接的な非難攻撃だと考えると、 〈非難 〉 の対象となる思考は. v i c t i mにとっては斉定的命題内容になる O そして、この否定的命題内容を間接的 に伝えるには、 〈肯定命題〉 を言語化し、その 〈反対含意〉が本当に伝えたいこと だと非明示的に伝達することになる. O. つまり、ここには 〈ズレ〉 という認知プロセ. スが用いられている O また、 〈ユーモア 〉の場合、ユーモア研究でも主張されてい るように現実や期待との何らかの不一致が言語的に生み出される O つまり、本論で いう 〈ズレ 〉 がその起点になっているからこそ、アイロニーの事例の中には、 〈 ユーモア 〉 の特徴を持つ例がでてくるのである O また、 { victim ~ は 〈 非難 〉 の対 象が特定の人物や団体に限定されている時に現れるものであるので、 { victim ~ と. いう特徴は 《非難〉 に依存的である O さらに、 〈言及〉 に依存的に存在する特徴も あり、 〈 期待 〉 、 〈 非難 》 、 { victim ~ 、 〈 ユーモア 〉 の四つがそれである O 言 及し否定. 的な態度を表そうとするアイロニーの事例では、ある非難対象の v i c t i mが持つ期 待に対して非難の態度を向けている. O. このように、 《言及 〉 という特徴を持つの. は、言及と名前の付けられた認知プロセスがあるアイロニーの事例においては働い ているからである. O. では、より具体的にはどのような認知プロセスが関与しているのだろうか。本論 では、 〈ズレ 〉 に関わる認知プロセスは春木 ( 2 0 0 0 ) の認知的不調和 ( c o g n i t i v e. i. 円. 1i. 臼 つ. (1 8).
(19) 文学・芸術・文化/第. 25巻第 2号 /2014.3. d i s c o r d a n c e) というプロセス、 《言及 〉 に関わる認知プロセスは e c h o i cmention であると主張する. そして、これらの認知プロセスは相互排他的なものではなく、. O. 共起可能であり、共起した場合はアイロニー性、特に非難攻撃の度合いが高まると 主張する O 認知的不調和とは、 S perberandW i l s o n( 1 9 8 6,1 9 9 2)が提唱した関連性理論の. c o g n i t i v e e f f e c t s) を参考にして考案した概念である O 関 一部をなす、認知効果 ( 連性理論における認知効果の中には、次のようなものがある O. ( 1 6)a .[想定の確信度の強化] 認知主体の認知環境 ( 信念体系)に ある想定 Pがあるとする O そこに、外 界から ( 言語コミュニケーションなどを通して)別の想定 Q が入ってき て 、 Q が何らかの証拠となって Pに関する確信度を強化した場合。 この場 合、それまでにもっていた想定 ( 知識)の確からしさがより強められたの であるから、その認知環境に対してなんらかの効果を与えている. O. b .[想定の確信度の弱化または矛盾棄却] 認知環境に想定 Pがあり、それに矛盾するような想定 Q が入ってきた場 合 、 Q が否定的証拠になり Pに関する確信度が弱化するか、 Pまたは Q が棄却されるかの場合。. 具体例を見てみよう. O. ( 1 7 ) 強化の例. a .既想定(認知環境に先にあった想定) p:留学は学生にとって有益である b .新想定 Q:英語力も人間も成長しました ( 留学から帰ってきた学生の発話 から ) c .Pの確信度の強化:やっぱり留学は有益だ. phv. 1ょ. 山 っ. (1 9).
(20) プロトタイプカテゴリーとしてのアイロニーと理論化 春木. ( 1 8 ) 弱化の例. a .既想定 p:留学は学生にとって有益である b .新想定 Q:留学しでも英語力が上がってない ( 留学から帰ってきた学生の 発話から ). c .Pの確信度の弱化:留学が有益とは言い切れない. ( 1 9)矛盾棄却の例. a既想定 p:留学は学生にとって有益かもしれない b .新想定 Q :留学しでも英語力が上がってない ( 留学から帰ってきた学生の 発話から ). c .結果 1 ( pの棄却):留学しでも意味がない d .結果 2 (Qの棄却):そういっているが本当はこの学生の英語力は上がって いるのでは. これらが認知効果と呼ばれる認知プロセス である O そして、本論で主張したい認知 的不調和とは、この認知効果を言語コミュニケーションにおいて意図的に利用して 生み出した認知状態のことを指す。. ( 20)認知的不調和 a .強化に基づく認知的不調和. 既想定 Pを強化するかのような新想定 Q が Pの確信度を高めずにいるた め引き起こされる不調和状態. b .矛盾棄却に基づく認知的不調和 既想定 Pとは矛盾する新想定 Q が導入されるが、特定の理由によって弱 化も棄却も行えず処理されない不調和状態. このような認知的不調和状態に陥った場合、人間は認知環境を安定化しようと何ら かの処理を行う. O. 実際に ( 1 6)の認知効果はその認知処理過程のことである O この認. 知処理過程を引き起こすには、 ( 2 0)のような認知状態がごく短い時間であるが存在. 戸川 υ. 1lA. 臼 つ. (2 0).
(21) 文学・芸術・文化/第 25巻第 2号 /2014 .3. する必要がある O したがって、ここで提案している認知的不調和というのはその場 しのぎの概念ではなく、通常の認知プロセスの一部分に焦点を当てたというだけで ある O 本論で主張したい点は、このような認知プロセスの一過程を人聞が意図的に操作 し、アイロニーのような伝達活動を行うために利用しているという点である O これ までの議論と 合わせると 、観察で得られた 〈 ズ レ〉は意図的に生み 出された矛盾棄 却に基づく認知的不調和であると主張したい。つまり、 〈ズレ 〉 とは、先行研究で 主張されてきたアイ ロニ一発話が何 らかの語用論的原則に違反するという意味での 〈ズレ 〉ではなく、アイ ロニ一発話が表わす想定 Q と会話参与者が抱いていた想定. Pとの矛盾とそれによ り引き起こされる認知的不調和という意味での 〈ズレ〉のこ とであると主張したい 。 《ズレ 〉が認知的不調和であると考えるとアイロニーの特徴を直接的に捉えるこ とができるという利点がある O つまり、 〈反対合意〉、〈肯定命題〉、〈非難〉、〈ユー モア 〉 という特徴は 〈ズレ〉から派生的に引き起こされると先に述べたことが説明 できる o ( 1)を例に挙げて考えてみよう. O. まず、第一段階として、 ( 1 ) で は状況か ら. o c t o ri sat e r r i b l ep e r s o n>のような想定を会話参 考えて、医師に対して<Thed a s p e rはアイロニ一発話として<Thed o c t o ri sa 与者は抱いている O そこへ、兄 ] n i c e guy>を認知環境に導入する O ここで意図的に認知的不調和が引き起こされ、 その解消化へ向かうことになる O 第二段階である認知的不調和の解消化では 次の よ うなことが起こる o. <Thedoctori sat e r r i b l ep e r s o n>と< Thed o c t o ri san i c e. o c t o ri sat e r r i b l ep e r s o n> guy>の 2つの想定は、現実世界から考えて<Thed ー がより根拠を持ち、 < Thed o c t o ri san i c eguy>は棄却される. O. その際、単純に. 棄却だけが行われるのではなく、 < Thed o c t o ri sat e r r i b l ep e r s o n>が会話参与. s a l i en t)な状態になっている O 者の意識において認知的な注目を受け、卓立した ( つ ま り 、 <Thed o c t o ri sat e r r i b l ep e r s o n>が認知的に追認された状態になって いるのである O これら一連の認知的不調和解消化プロセスの中には、 〈反対含意〉、 〈肯定命題〉、〈非難〉、〈ユーモア 〉の特徴が生み出される O つまり、第二段階にお いて、認知的不調和を解消したために、卓立した想定が 〈反対合意〉 として解釈さ れ、この〈反対含意〉はアイロニーの目的である非難攻撃の対象となる({非難〉. A 斗A i 守﹃. 山 つ. (2 1).
(22) プロトタイプカテゴリーとしてのアイロニーと理論化. 春木. の特徴)。非難攻撃する点は、通常否定的な点なので、認知的不調和を引き起こす . ‘ .. ため導入されるアイロニ一発話は〈肯定命題〉である方がよい。 〈ユーモア 〉 という特徴はユーモア理論でも主張されていることである O つま り、何らかのズレ(不一致)は 《ユーモア 〉 を生み出す。 ただし、注意すべき点. i c t i mの人 は 、 〈非難〉 と 〈ユーモア 〉 は誰の立場から捉えるかやアイロニストと v i c t i mの立場からすると、 間関係によって、排反的とも共起可能とも考えられる o v 非難攻撃される度合いがきっくなればなるほどユーモア性はなくなり、ユーモアと しての程度が強くなればなるほど冗談のように聞こえ非難攻撃の程度は低くな るO しかし、例えば、いじめっ子グループのリーダーが誰かをアイロニーで攻撃し. i c t i mに対しての ている場合のグループのメンバーとしての立場から考えると、 v i c t i mを笑いものにしているという意味での〈ユーモア 〉の両方を認 〈非難〉と、 v 識できる O また、親密な関係においてアイロニーを用いてからかう 場合は、 〈非 難〉 はほとんどなくなり 〈ユーモア 〉が強く出てくる o {ユーモア 〉の特徴は他の 特徴とは異なる振る舞いをするが、少なくとも、 〈ズレ 〉から派生される特徴であ ると主張することは何ら問題はない 。 もっと強く主張するならば、アイロニーと ユーモアは、部分的にでも同じプロセスを共有しているべきであり、アイロニ一理 論はそのようなプロセスを持つべきである O 以上が、プロトタイプカテゴリーを形成するアイロニーの 〈ズレ〉の系統である. c h o i cm e n t i o n理論の主張に賛同する 。先 が 、 〈 言及〉の系統については、本論では e c h o i cm e n t i o nというプロセスは、 〈言及〉、〈期待〉、〈非難》、 にも述べたように e { v i c t i m} 、《ユーモア 〉の特徴を派生的に説明できる 。特に、 v i c t i mを特定すること i c t i mが抱いていた期待を非難攻撃することにより辛隷さを増す場合に、非常 や 、 v に大きや役割を果たす。. c h o i cm e n t i o nという認知プロセスは共起 また、矛盾棄却による認知的不調和と e することが可能である. C. つまり、アイロニ一発話の想定が v i c t i mの抱く期待を. e c h o i cに m e n t i o nし、それが現実世界から推論できる想定と認知的不調和を起こす i c t i mの抱く期待であるため、不調和状態解消のプロ 場合、矛盾棄却される想定は v i c t i mの考えの足りなさ セスにおいて、期待が打ち砕かれ、その期待を抱いていた v i c t i mにとって望ましくない や現実認識の甘さを攻撃されることになる O つまり、 v. qtU ょ 1E. っμ. (2 2).
(23) 文学・芸術・文化/第. 25巻第 2号 /2014. 3. i c t i mの認識の甘さも示されることに 反対想定が認知世界で際立つだけでなく、 v なり、二重の意味で非難攻撃されるために、辛疎さが増すのである. O. 最後に、本論での主張をまとめておきたい 。第一に、アイロニーの事例を観察す るとプロトタイプカテゴリーを形成する伝達現象であると捉える方が適切であ る 第二に、したがって、アイロニ一理論もプロトタイプカテゴリーを形成すると O. いう点を考慮、に入れないといけない 。第三に、本論ではそのような考えに従い、ズ レ系統の事例と言及系統の事例とは異なる認知プロセスから生成・解釈され、前者. c h o i cment i o nがそれらの認知プロセス は矛盾棄却による認知的不調和、後者は e となる O 第四に、この考えを押し進めるとアイロニーには特有の認知プロセスが存 在するわけではなく、複数の異なる認知プロセスの複合体であると言える. この意. O. 味では、メタファーやメトニミーが特定の認知プロセスで説明できる ( 見込みが高 い)点と決定的に異なるかもしれない 。 もし同じ発想、でアイロニーを説明しようと 特定の理論を作り上げるアプローチを進めると、必要以上に複雑な理論は出来上が るが理論的にも認知的にも自然なものとは思えないものになる可能性がある. O. 5 . 結語 本論では、これまでのアイロニー研究では十分になされてこなかったアイロ ニーの事例の観察を行い、アイロニーがプロトタイプカテゴリーを形成する伝達現 象であり、それにしたがって理論構成をしなければならないことを主張した 。 ま た、アイロニーのカテゴリーには、ズレ系統と言及系統の 2つの系統により、中心 的メンバーから周辺的メンバーへと分布していること主張した 。 また、これら 2つ の系統には別の認知プロセスが関わり、前者には矛盾棄却による認知的不調和、後 者には e c h o i cmentionが認知プロセスの有力な候補であることを示した 。 さらに、. c h o i cment i o nは別の認知プロセスであるが、両者が共起する事 認知的不調和と e 例もあることを示し、共起する事例こそこれまでの文献で最も典型的な例として紹 介されてきた例であることも示した 。 本論では認知言語学的な観点からアイロニーの分析を試みてきたが、これは従来 の語用論とは異なるアプローチである O 理論装置が異なるというだけではない。 こ れまで語用論では、ある理論が複数の言語現象を説明すべきという哲学が暗黙のう. 2 1 2-. (2 3).
(24) プロトタイプカテゴリ. としてのアイロニーと理論化 春木. ちにある O これは裏返すと、一理論対他現象は問題なくても、一現象対他理論は相 応しくないという考えを暗黙のうちに生み出す。確かに、メタファーやメトニ ミ一、発話行為や合意の説明はこの哲学で乗り切ってきた 。そして、アイロニーと いう現象を説明するためには、最適の一つの理論を構築する、もしくは、対応させ るという作業をとってきた 。 しかし、現実の事例を観察すると、アイロニーに対し ては従来のアプローチでは限界があるかもしれないと言うこともできる. O. そこで、. 本論では、一現象対他理論のアプローチで論を進めた 。研究を進めていけば関与す る認知プロセスが認知的不調和を echoicment i o n以外にもあることが分かるかも しれないが、従来のアイロニ一理論に比べると、アイロニーの事例をより適切に捉 えている分析であると言えるだろう. O. 参考文献 Barbe,K a t h a r i n a( 1 9 9 5) 1 r o n yi nC o n t e x t , J ohnBenjamins,Amsterdam,P h i l a d e l p h i a . e i j iUchida( 1 9 9 8) R e l e v a n c eT h e o r y :Aρ l i c a t i o n sand1m ρl i c a t i o n s , C a r s t o n,RobynandS J ohnB e n ja m i n s,Amsterdam,P h i l a d e l p h i a . C l a r k,H e r b e r tH . andR i c h a r dJ .G e r r i g( 1 9 8 4) "On t h eP r e t e n s e Theory o fI r o n y, ". ]o u r n a l0 1E~ρ erimental Psychology:Genera . l1 1 3,1 2 1 1 2 6 . C u t l e r,Anne ( 1 9 7 4). “On S a y i n gWhatYou Meanw i t h o u tMeaningwhatYouSay, ". Pa ρe r sjシ omt h eT e n t hR e g i o n a lM e e t i n g0 1t h eC h i c a g oL i n g u i s t i cs o c i e , か1 1 7 1 2 7 .. r. 深谷昌弘・田中茂範(19 9 6) コトパの く意味づけ論 >j紀伊園屋書庖,東京.. G i b b s,RaymondW.andH e r b e r tL .C o l s t o n( e d s . )( 2 0 0 7) 1 r o n yi nLanguageandThought :. AC o g n i t i v eS c i e n c eReader ,L awrenceErlbaumA s s o c i a t e s,NewYo r kandL o n d o . e n n i f e r O'B r i e n( 19 91)“P s y c h o l o g i c a lA s p e c t so fI rony G i b b s, Raymond W.and J "J o u r n a l0 1Pragmatics1 6,5 2 3 5 3 0. U n d e r s t a n d i n g,. G i o r a,R a c h e l( 1 9 9 5 ) “OnI ronyandN e g a t i o n, "D i s c o u r s eP r o c e s s e s ,1 9,2 3 9 2 6 4 .. .P a u lは ( 1 9 8 9) S t u d i e si nt h e防 w G r i c e,H M a s s a c h u s e t t s .L o n d o n . i d e k i( 1 9 9 8) “I r o n yfromaC o g n i t i v eP e r s p e c t i v e, "i nC a r s t o nandUchida , Hamamoto,H 2 5 7 2 7 0 .. (2 4).
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