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学習指導要領(図画工作科)と授業研究

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(1)Title. 学習指導要領(図画工作科)と授業研究. Author(s). 阿部, 宏行. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 68(2): 487-494. Issue Date. 2018-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/9640. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第68巻 第2号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 68. No.2. 平 成 30 年 2 月 February, 2018. 学習指導要領(図画工作科)と授業研究 阿 部 宏 行 北海道教育大学岩見沢校美術教育研究室. Course of Study for Elementary Schools (Arts and Handicrafts) and Process of Lesson Study ABE Hiroyuki Department of Art Education, Iwamizawa Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 本稿は,平成29年3月に告示された文部科学省の学習指導要領の図画工作・美術科の教科の 目標に明示された「造形的な見方・考え方」について,学習場面や先行研究などから,その実 相を見いだし,特に図画工作の授業改善に資する授業研究の視点として,題材の「指導事項」 と「指導計画」について論考する。. はじめに 平成29年3月31日に文部科学省から小学校学習. 共に授業改善に踏み込んで示されたと言える。こ の授業改善にまで踏み込んだ背景とともに,学校 教育が抱える課題との関係も含めて論述する。. 指導要領が告示された。おおよそ10年ごとに改訂 される学習指導要領において,全体を通して資 質・能力に関する言及がある。その中で,図画工 作・美術科の目標の前の文に「造形的な見方・考. 1 「何を教えるか」から「何を学びとして 育むか」へ. え方」という文言が位置付いている。これは「生. 平成28年12月21日の中央教育審議会答申1)の改. 活や社会の中で形や色などと豊かに関わる資質・. 訂は,「よりよい学校教育を通じて,よりよい社. 能力」を育成するための鍵となる文言である。こ. 会をつくること」を標榜することとした。そこで. の「見方・考え方」は,中央教育審議会の協議の. は,学校関係者のみならず,地域や保護者などを. 中で,話し合い活動など形式的に流れる危険性の. 含む,全ての人で育成する資質・能力を共有し,. あったアクティブ・ラーニングの実相を捉えて学. 連携・協働しながら,未来の創り手となるために. 習する意義を「深い学び」として全教科等に明記. 必要な資質・能力を育む「社会に開かれた教育課. することとなった。この「深い学び」は,各教科. 程」の実現を目指すこととした。そのために「何. の特質に応じて,なぜ学ぶのかの目標を定めると. ができるようになるのか」「何を学ぶか」「どのよ. 487.

(3) 阿 部 宏 行. うに学ぶか」さらに「子ども一人一人の発達をど. 形や色などと豊かに関わる資質・能力を次の通り. のように支援するか」「何が身に付いたか」「実施. 育成することを目指す」2)という文がある。その. するために何が必要か」という観点で改訂が進め. 文の「見方・考え方」は,各教科の特質に応じて. られた。. 物事を捉える視点や考え方であるとしている。図. この改訂は, これまでの知・徳・体にわたる「生. 画工作・美術科では「造形的な見方・考え方」と. きる力」等を基に,すべての教科等の目標及び内. して,「感性や想像力を働かせて対象や事象を,. 容を「知識及び技能」,「思考力,判断力,表現力. 形や色などの造形的な視点で捉え,自分のイメー. 等」 , 「学ぶに向かう力,人間性等」の三つの柱で. ジをもちながら意味や価値をつくりだすこと」 (中. 整理して示した。このことによって,教科等の特. 学校美術は下線部が,「造形的な視点で捉え,自. 性が一層明確になったと言える。本稿においては,. 分としての」)としている。この中にある「意味. 教科の特性において,図画工作・美術科の「学び」. や価値をつくりだすこと」は,図画工作・美術科. としての意味や意義を検証する。. の目的が,単に作品づくりではなく,造形的な創 造活動を通して,自分なりの意味や価値をつくり. ⑴ 目標及び内容の改訂. だすことに教科の本質があることを示していると. 図画工作の改訂のポイントの一つに,現行の学. 言える。. 習指導要領では,教科の目標を一文で示していた が,今回は育成を目指す資質・能力を三つの柱で. ② 内容の構造の改訂. 整理して示している。学年の目標も同様である。. 今回の改訂では,「A表現」の内容の構造が大. 内容に関しては「A表現」,「B鑑賞」及び[共. きく変更されている。現行の学習指導要領では,. 通事項]とも三つの柱に沿った資質・能力で構成. A表現⑴は「造形遊びに関する項目」,A表現⑵. し直した。 「A表現」は「思考力,判断力,表現. は「絵や立体,工作に表す活動に関する項目」で. 力等」と「技能」の観点から示している。それぞ. あったが,今回の改訂では,A表現⑴は表現にお. れの観点に「ア 造形遊びをする活動」と「イ . いて育成する「思考力,判断力,表現力等」とし. 絵や立体,工作に表す活動」を位置付けて,指導. て,発想や構想に関する項目を設け,アに「造形. 事項の違いを明確にしている。「B鑑賞」は,「思. 遊びをする活動」を通して育成する「思考力,判. 考力,判断力,表現力等」の観点から整理して示. 断力,表現力等」を位置付けている。イに「絵や. し,第5学年及び第6学年の鑑賞の対象に「生活. 立体,工作に表す活動」を通して育成する「思考. の中の造形」を位置付け,生活や社会とのつなが. 力,判断力,表現力等」を位置付けている。A表. りを指導事項として示し指導の充実を促している。. 現⑵は表現において育成する「技能」を示してい. [共通事項]は, 「知識」と「思考力,判断力,. る。この「技能」にも「思考力,判断力,表現力. 表現力等」の観点から整理して示し,さらに,内. 等」と同様にアに「造形遊びをする活動」,イに「絵. 容の取扱い2⑶には[共通事項]アの「知識」の. や立体,工作に表す活動」を位置付けている。こ. 指導に当たっての配慮事項が追加されている。. の目標の明確化は資質・能力を踏まえた授業改善 を図る必要があることを示している。. ① 造形的な見方・考え方の設定 三つの柱を基に,教科の目標が,⑴「知識及び. ⑵ 「見方・考え方」を授業改善に生かす. 技能」 ,⑵「思考力,判断力,表現力等」,⑶「学. こうした図画工作の見方・考え方である「造形. びに向かう力,人間性等」で整理された。それら. 的な見方・考え方」の特徴は,知性と感性を共に. の目標の前に「表現及び鑑賞の活動を通して,造. 働かせて対象や事象を捉えることにある。身体を. 形的な見方・考え方を働かせ,生活や社会の中の. 通して,知性と感性を融合させながら対象や事象. 488.

(4) 学習指導要領(図画工作科)と授業研究. を捉えていくことは,他教科等以上に図画工作・. れは創造する喜びに満ち溢れている状況をつくり. 美術科が担っている学びである。また,造形的な. だすような「学んで知る」ことである。つまり教. 見方・考え方を働かせることは,生涯にわたって. 師に求められるのは,その環境なり状況を支援し. 生活や社会の中の形や色などと豊かに関わる資. て,「学び」を成立させることにある。. 質・能力の育成につながると言える。次に「造形 的な見方・考え方」 を働かせる授業の構築を考える。. ② 造形的な視点と授業改善 これまでも,図画工作においては,感性を働か. ① 造形的な視点をもつ. せ,体全体の感覚や手などを使って表現したり,. 学習指導要領の教科の目標⑴は「知識及び技能」. 作品などを見たり,事物に触れて感じ取ったりし. としている。この知識は,覚えるようなことでは. て,よさや美しさを実感する活動を重視してきた。. なく「身に付ける知識」として捉え「造形的な視. 今後は,「主体的・対話的で深い学び」の視点か. 点」という言葉で示している。この造形的な視点. ら授業を改善することになる。具体的には,形や. については, 「対象や事象を捉える造形的な視点. 色などをもとに「造形的な視点」を豊かにするこ. 3) について自分の感覚や行為を通して理解する」. とである。. と説明していて,対象や事象を捉えるときの手掛. 例えば,対象の色について,学習指導要領の第. かりや拠り所とする形や色,その感じなどの造形. 3指導計画の作成と内容の取扱い2⑶では低学年. 的な特徴などのこととしている。. が「いろいろな色」,中学年が「色の感じ,それ. 子どもは,表現及び鑑賞の活動を通して,造形. らの組合せによる感じ,色の明るさ」,高学年が「色. 的な視点をもって理解している。この造形的な視. の鮮やかさ」を捉えることとなっている。これは,. 点は,一人一人が感性などを働かせて様々なこと. 単に色の名前を覚えたり,明度や彩度といった言. を感じ取りながら考え,自分なりに理解し,つく. 葉を理解したりすることではない。色には,それ. りだす喜びにつながっていくものとしている。. ぞれ固有の特徴があること,その色を活用して私. なお,ここで言う「理解」とは,形や色などの. たちの生活や社会に役立てていることなどの視点. 名前を覚えるようなことを示すのではない。子ど も一人一人が,体を動かす活動なども含む学習の. をもつことに結び付けることである。 ・・ 形や色などの「など」は「材料」に関する視点. 過程において,自分の感覚や行為を通して理解し. が含まれている。例えば,素材としての石が,海. 「知識」とするものである。そこで実感的に得ら. 岸にたくさんあっても,「材料」にはならない。. れる造形的な視点である形や色,その感じなどの. 多くの石の中から,子どもが一つの石を拾い上げ. 造形的な特徴が活用できる「知識」として習得さ. る。その石の重さや肌触りなどの性質や特性を感. れたり,新たな学習の過程を経験することで更新. じ取る。その石に,その子なりの意味がもたらさ. されたりしていく「知識」である。それは,いつ. れたことになる。そして,その石に描画材で,目. でも表現や鑑賞などに生かすことができる「知識」. を付ける。それは表現であり,その石は,その子. となる。つまり「知識」においては,単なる色の. なりの価値を持つことになる。その一連の鑑賞と. 名前を覚えるような「事実的な知識」ではなく,. 表現の活動が「つくりだすという行為の連続体」. 実感を伴う理解によって得られる汎用性があり活. になっている。. 用できる 「概念的な知識」への深化を求めている。. このように石を選ぶときに働くのが「造形的な. 授業においては教師から「教えられて知る」と. 視点」であり,絵や立体に表す活動であれば,形. いう学習過程を経るのでなく,自らの感性や想像. や色などを基に「この丸い形いい!」「お気に入. 力などを働かせて,気付いたり,理解したりして. りの色だ」「つるつるしているから絵もかきやす. 自分なりに新たな概念を形成することであり,そ. そう」と選んでいる。. 489.

(5) 阿 部 宏 行. 造形遊びのような活動の場合には,並べたりす. むような学習過程を通じて,個別の感じ方や考え. るとき,形や色などを基に,手にしたときの重さ. 方等に応じ,生きて働く概念として習得されるこ. を実感したり,石の並べ方を工夫したりして,自. と」いう「身体知」と同義と言える。芸術(美術・. 分の思いを実現しようとする。並べる行為そのも. 音楽・スポーツ・演劇など)に関わる「身体知」. のに意味があり,並べること(事象)や並べたも. は,文字通り「身に付く」ものである。同じよう. の (事物・対象) に意味があり価値が生まれている。. に暗黙知も経験によって,知らず知らずに身に付. 学習の場合は,教師の教材研究などで,その素. けている「知識」と言える。. 材は「教材」としての意味をもち「材料」として 価値が付与され,子どもに提示される。どんな素 材を選ぶかも,それに教材としての価値を見出す. 2 育成する資質・能力で考える題材の充実. のは「教師」である。学習は,教師からの投げか. ⑴ 題材について. けと,材料の提供によって始まり,子どもは感性. 今回の改訂の解説において,「題材」について. と想像力を働かせて,自らの知識と技能を駆使し. の言及がある。. て, 自らの意味と価値をつくりだしていくのである。. 題材は,目標及び内容の具現化を目指す“内容 や時間のまとまり”であり,教師には, 「児童が,. ③ 身体化される知識・技能. 興味や関心をもち主体的に取り組むことができる. 図画工作の[共通事項]アにある「自分の感覚. ような題材を,教師の創意工夫を生かして設定し,. や行為を通して理解する」とは,子どもが自分の. 児童の資質・能力を育成するようにすることが大. 視覚や触覚などの感覚,持ち上げたり動かしたり. 5) と示されている。 切である。」. する行為などを通して,気付いたり,分かったり,. 図画工作では,題材ごとに作品や活動をつくり. 理解したりすることである。これは,子どもの主. だすという特徴がある。作品や活動は,表現した. 体性や能動性を重視することを示すものであり,. 人そのものの表れであり,作品や活動をつくりだ. 自分の感覚や行為を通して,自分なりの理解を深. すということは,かけがえのない自分を見いだし. めていくことを示している。このような体を動か. たりつくりだしたりすることである。. す活動なども含む学習の過程を通じて,造形的な. 今後の授業においては,題材に育成する資質・. 視点である形や色などやその感じ,形や色などの. 能力が位置付いていることが重要であり,題材を. 造形的な特徴などが活用することができる「知識」. 通して,子どもの何を育てるのかを明確にするこ. として習得されたり,新たな学習の過程を経験す. とが,授業改善に必要なことと言える。. ることで更新されたりし,いつでも表現や鑑賞な どに生かすことができる「知識」となる。 4). ⑵ 題材と造形的な見方・考え方. 中村雄二郎の『臨床の知とは何か』 において,. 先の「造形的な見方・考え方」である「感性や. マイケル・ポランニーの言葉として暗黙知を「①. 想像力を働かせて対象や事象を,形や色などの造. われわれは自分たちのはっきり言えることの多く. 形的な視点で捉え,自分のイメージをもちながら. のことを知りうるし,事実知っている。②このよ. 意味や価値をつくりだすこと」の「対象や事象」. うな知識はわれわれの個人的な裏づけをもってい. をどのように考えるか。一般的には,対象は「も. る。③われわれの認識の枠組みの実在性と性格は. の」を指し,事象は「こと」を指すと考えられる。. 焦点的にも捉えられず,われわれの行動のうちに. 「花を絵に表す」であれば見ている花などの「花」. 副次的にあらわれるだけである。 」と説明してい. が対象となるし,描かれた作品の「花」も対象に. る。これは先の中教審の芸術ワーキンググループ. なる。また,想像しイメージした「花」も対象と. でのまとめの「知識が,体を動かす活動などを含. 捉えることができるが,大まかにいうと「見える. 490.

(6) 学習指導要領(図画工作科)と授業研究. もの」である。. 単に色の名前などの知識を覚えたり,与えられた. 事象は「絵をかくこと」 「見ること」など行為. 線に沿って切ったりするなどの技能を求めている. などによって表すことのできる 「出来事」 と言える。. のではない。創意に満ちた造形活動なのである。. 木村敏は「こと」について,日本人の感性との 関わりから, 「東洋文化の根柢には,形なきもの. ⑶ 題材の設定に関わって. の形を見,声なきものの声を聞く」と説明すると. ① 指導事項と指導計画. 0. 0. ともに「ことの世界に対する静かな共通感覚的感 6). 学習指導要領には,指導事項として,教師が授. 受性こそ(中略)日本的心性の心髄である。」 と. 業でおさえるべき内容を資質・能力別に掲げてい. している。. る。. こと. こと. また,木村は日本語の「事と言」には元来区別. この資質・能力は,先に述べた「三つの柱」の. がなかったといい,奈良・平安時代以降に「言」. ⑴「知識及び技能」,⑵「思考力,判断力,表現. (言葉)にあるものとして,事か は「事象の端」. 力等」,⑶「学びに向かう力,人間性等」に沿っ. ら独立していったという。事を限定的ではあるが. て教科の目標が構造化され示されている。. 「言葉」に置き換えることができることになった. この教科の目標に応じて学年の目標が示され. とも言う。. て,授業改善に資するようになっている。. 対象「もの」の性質や属性を例えば,柔らかい,. 題材を通して育成する資質・能力を明確にし. 軽い,ざらざらしている,丸い,厚い,赤い,…. て,指導事項を設定するとともに,子どもが活動. などと言葉で表すことができる。そこには「形(形. を通して獲得できるよう指導を考える必要があ. 状) 」 「色」 「材料の質感」などがある。他に材料. る。この指導事項の設定とともに,子どもの実態. (自然物,人工物等),作品(自他)など,限定. などを踏まえて指導計画(時間や場所,材料・用. 的ではあるが「言葉」として表すことができる。. 具,環境設定など)を併せて作成することが重要. これらの「言葉」は,身の回りにあるものから. である。. こ. と. は. 派生する関係性の中にある。対象として取り出す か,そのままにするかは,自身の判断による。「言. ② 題材の設定の流れ. 葉」は,他者への伝達する鍵として使用されるこ とになる。主体的な判断こそが「自分のイメージ」 をつくりだすのである。そのイメージには想像力 が働いている。また,その前提には,対象(もの) を捉える「感性」がある。感性や想像力を働かせ ることと,自分のイメージをもつことには,この ような関係がある。 つまり,作品ができあがるという前提には,感 性があり,想像力が働きイメージが形成され,経 験に伴う知識が想起され,自身の技能をもって, 新たな表現が営まれ造形物が生じるのである。こ の一連の活動は,造形的な行為や所作によるもの で創造性に満ちたものなのである。 この一連の活動を「造形的な創造活動」として, 昭和52年の学習指導要領の改訂から教科の目標に 位置付いているのである。 それ故に, 知識も技能も,. 図1 題材設定の流れ. 491.

(7) 阿 部 宏 行. 題材は, 子ども一人一人が,自らの思いの基に,. し方を見付けたり,試したりすることが考えられ. 表現する主題や意図を見付けて,主体的で創造的. るとしている。低学年のA表現⑴アであれば「身. な学習活動を自ら展開して,目標や内容の実現を. 近な自然物や人工の材料の形や色などを基に造形. めざす「学習活動のまとまり」と言える。学習指. 的な活動を思い付く」と示されている。これは,. 導要領の解説の総説において,各教科等にわたっ. 紙や粘土などの材料を手にし,触れてちぎったり,. て「単元や題材などの内容や時間のまとまり」と. 丸めたりするなかで思い付くことや,そのもの自. 規定している。題材を考えることは,教師の主体. 体の形は変えられないが,並べたり重ねたりする. 的で創造的な活動と言える。子ども理解を踏まえ,. ことで思い付くなど,材料との関わりを十分に保. 教室の子どもの姿を思い浮かべながら,題材(授. 障することを求めている。. 業)をデザインすることと同義である。. 材料や場所に関しては,学校の回りにある自然. たとえば,造形遊びの題材であれば,子どもや. 物や子ども自身が集めることのできる材料であっ. 地域・学校の実態など,子ども理解を踏まえて,. たり,十分に活動できたりする場所が必要になる。. 育てたい資質・能力をおさえることになる。. たとえば,新聞紙であれば,子どもたちの思いを. ・A表現⑴ア「造形遊びをする活動における思. 充足させる数や量も考慮することになる。そのた. 考力・判断力・表現力等」 ・A表現⑵ア「造形遊びをする活動における技 能」. めに事前に保護者を通して収集の通知をしたり, 並べるのであれば,体育館や広い教室などが利用 できるようにしたり,校内での調整が必要になる。. ・ [共通事項]ア「形や色などに関する知識」 ・ [共通事項]イ「イメージに関する思考力・ 判断力・表現力等」. ④ 題材名や提案の工夫 教師から提示される題材名は「学習のまとまり」. 以上である。. の内容が,おおよそ分かることや,意欲をもって. 指導に当たっては,それぞれの学年の目標を踏. 活動することができる期待感が大切である。例え. まえて,指導事項を設定し,題材を作成すること. ば「運動会の絵」 「消防車をかく」ではなく, 「やっ. になる。鑑賞の活動を組み入れる場合には,B鑑. たー!○○している私」 「私のお気に入りの〇〇」. 賞⑴「鑑賞の活動における思考力・判断力・表現. など,子ども自身が決める「主題」を生みだすこ. 力等」も設定する必要がある。この場合の鑑賞の. とのできる幅のある「題材名」にすることが重要. 活動は,製作しているときに,友だちの作品を時. である。造形遊びなどでは,「トントン」「ギコギ. 折見るような鑑賞の活動でない。鑑賞の学習とし. コ」など行為を擬音で表したり,「どんどん(並. て,一人一人の子どもに対して指導が行われ評価. べて・積んで・つなげて)」など行為の連続を意. ができる場と時間が必要になることを意味してい. 図した言葉を用いたりして学習の内容が思い浮か. る。つまり資質・能力を設定し指導するというこ. ぶ題材名が考えられる。. とは,指導と評価の一体から考えると,一人一人. 提案は,子どもの姿を思い浮かべて,発想を広. の子どもに対して指導し評価する対象になるとい. げる「発話・発問」や仕組みを考えることになる。. うことである。. しかし,提案が子どもの造形活動の妨げにならな いように,短い時間で端的にそして,何より,子. ③ 題材の内容. どもが「やってみたい」と興味や関心をもって取. 題材の内容に関して,学習指導要領の表現領域. り組む提案であることが大切である。. における育成する「思考力,判断力,表現力等」. ⑤ 板書の工夫. の造形遊びをする活動では,材料の形や色,場所. 板書は「題材名」の他に,授業の目標を提示し. の特徴などから造形的な活動を思い付いたり,表. たり,見通しが持てず不安になった子どもの手立. 492.

(8) 学習指導要領(図画工作科)と授業研究. てが掲示されたりしていることになる。しかし,. できる「授業を通して学ぶ研修」が何より重要と. 授業のはじめに「板書」にこだわりすぎて,せっ. なる。. かくの「意欲」が失われないようにすることであ. . る。また, 授業の最後に発表会などを設定せずに,. ⑵ 子どもを理解する授業研究. 子どものつぶやきなどを板書しておくと,授業の. 今改訂の学習指導要領の特徴としては,各教科. 終わりには,黒板がまとめになる。子どもは黒板. 等の目標を共有することや,深い学びに向かう「見. を見て,授業の振り返りをすることになる。何事. 方・考え方」を各教科等の特質に応じて示したこ. にも,子どもの表現の活動を十分に配慮し保障し. と,「学び」の質を高めるという目標を授業レベ. た授業を展開することが重要である。. ルまで打ち出したことにある。このことから教科 の特質に応じて研究を進めることと同時に,「何. 3 授業研究として. を育てるのか」という共有する意識を教師相互に もつことができることである。. 学習指導要領(解説も含めて)が題材や授業に. 「図工は苦手」という教師の場合においても,. 関する改善にまで,踏み込んでいるのは,異例の. 校内研修などを通じて,得手不得手を問題としな. ことと言える。 「指導事項」を立てること,「指導. い教科の特質を重んじながら「子どもを育てる視. 計画」の作成に関する事項の増加,「主体的・対. 点」をもって進める校内研究が重要である。. 話的で深い学び」の実現に向けた方法論に至るま. 例えば,公開授業で一人の子どもの「学び」を. での道筋など,どれも授業改善に直結している。. 追跡研究することや,子ども同士で自然に交わさ. これまで本稿において,学習指導要領と授業改善. れる会話の中に「学び」の様相を検証することな. に至る道筋から題材づくりでの「指導事項」や「指. ど,研究の方法も改善されることが大切である。. 導計画」について検証してきた。今後は育成する. 巷に流布する「アクティブ・ラーニング」とい. 資質・能力を共通の視点として,研究や研修を積. う言葉だけに惑わされて行われる形式的な対話の. み上げることができることを意味している。. 場面や,子どもに必要感もなく肯定感も生まれな い交流を仕組んでも,解決することではない。教. ⑴ 題材の設定における指導事項と指導計画. 科の特質に応じて, 「この方策が,学びの質を高め,. 題材の設定に当たっては,育成する資質・能力. 子どもの資質・能力が格段に高まる」ということ. を基に,指導事項を立てて,その上で,題材の流. を検証する研究でなくてはならないと言える。. れなど, 指導計画を考えることになる。実際には, 子ども理解を踏まえ,子どもの実態と年間指導計 画などカリキュラム・マネジメントの観点から,. おわりに. 小学校であれば6年間で育成する資質・能力を教. この授業改善にまで踏み込んだ背景には,国際. 員すべてで共有する必要がある。小学校の多くが. テストなどを基に,未だに進まない学校改善や,. 「担任」制度であるため,他教科等にも精通して. 幼小中高の一貫的な学力の保障などから,改善に. いることを併せて考え,三つの柱で整理した資. 乗り出した文部科学省の意向がある。授業時間数. 質・能力を他教科等と同様に理解する必要があ. の減少や法則化などの方法重視の指導法など図画. る。校内研修など,研修の機会を設けて自己研鑽. 工作・美術科特有の課題についても,資質・能力. のみならず,他者との交流から得られる知識・理. を明確にすることで授業改善を図ることができる. 解が大切である。また,「指導事項」が単に文言. ことを示した。. の羅列にならないためには,「授業研究」など,. この視点は題材の「指導事項」「指導計画」の. 実際の子どもの感覚や行為を身近に感じることの. 設定など,担任の教師が行うべき指導にまで言及. 493.

(9) 阿 部 宏 行. されている。現状では,多忙感に満ちた教師の生 活の中で,図画工作・美術科の教材研究の確保及 び研修時間の確保なども極めて難しい局面ではあ るが, 子どもの学びの質を図る上で,授業改善は, 喫緊の課題である。また,子ども理解を基にした 教員研修や教科書等の教材の充実なども, 「授業 研究」を補完する重要な鍵となると考える。. 引用文献 1)文部科学省『幼稚園,小学校,中学校,高等学校及 び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方 策等について(答申)』2016,p1 2)文部科学省『小学校学習指導要領解説 図画工作編』 2017,p10 3)同,2017,p11 4)中村雄二郎『臨床の知とは何か』岩波新書,1992, p39 5)文部科学省『小学校学習指導要領解説 図画工作編』 2017,p24 6)木村敏『時間と自己』公新書674,中央公論新社, 1982,p14 *木村が西田幾多郎『働くものから見るものへ』全集 第四巻,岩波書店,序から引用. 参考文献 ・文部科学省『小学校学習指導要領』2017 ・美術科教育学会 授業研究部会『美術科教育における 授業研究のすすめ方』美術科教育学会叢書第0号, 2017 ・浅田匡,生田孝至,藤岡完治『成長する教師 教師学 へのいざない』1998,金子書房 ・奈須正裕『 「資質・能力」と学びのメカニズム』東洋館 出版,2017 ・秋田喜代美『学びの心理学 授業をデザインする』左 右社,2012 ・佐藤学『教育の方法』財団法人放送大学教育振興会 1024,1999 ・グループ・ディダクティカ編『学びのための授業論』 勁草書房,1994 ・紺野祐,走井洋一,小池孝範,清多英羽,奥井現理『教 育の現在 子ども・教育・学校をみつめなおす』学術 出版社,2008 ・トニー・ワグナー『未来の学校 テスト教育は限界か』 玉川大学出版社,2017. 494. (岩見沢校教授) .

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