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あまんきみこ「山ねこ、おことわり」を読む ―作品分析、テキスト異同の観点から―

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Academic year: 2021

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(1)Title. あまんきみこ「山ねこ、おことわり」を読む ―作品分析、テキスト異同 の観点から―. Author(s). 菅野, 菜月; 佐野, 比呂己. Citation. 釧路論集 : 北海道教育大学釧路校研究紀要, 第49号: 1-15. Issue Date. 2017-12. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/9854. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) A study on "Yamaneko okotowari ". あまんきみこ「山ねこ、おことわり」を読む ―作品分析、テキスト異同の観点から―. . 菅 野 菜 月. 北海道教育大学大学院. 佐 野 比呂己. 北海道教育大学教授. 1 「小さなお客さん」. ねこ、おことわり」と書かれた紙をやぶり、 「また、いつでも、どうぞ。」と言. して出会った「山ねこ」とふれ合う中で心情に変化が現れる。最終場面で、「山. 物語である。初めは「山ねこ」を恐れていた「松井さん」であったが、お客と. -1-. ― From the Viewpoint based on Works and Text Prosessing. SUGANO,Natsuki Graduate School of Hokkaido University of Education SANO,Hiromi Department of Japanese Language Education,Kushiro Campus,Hokkaido University of Education. 本 稿 で 扱 う「 山 ね こ、 お こ と わ り 」 は 五 番 目 に 配 置 さ れ て い る。 坪 田 譲 治 創刊の童話雑誌「びわの実学校」(注1)に掲載されたものが初出であり、平成. 新装版 『車のいろは空のいろ 白いぼうし』 は、「タクシー運転手の松井さん」 が活躍する作品が八編集められた短編集である。所収作品の構成は以下の通り. 2 「うんのいい話」. う松井さんの様子が印象的である。. 本作品はタクシー運転手の「松井さん」と、大学病院に勤める「山ねこ」の. 二十七年版までの間で教科書掲載はなされていない。. 3 「白いぼうし」. 0. 4 「すずかけ通り三丁目」. 相手を受入れることのできる人間である。. せっかくもらった「山ねこおことわり」の紙を破ってみせて、異種の. 本作品について川北典子は以下のように述べている。(注2). . 7 「くましんし」 8 「ほん日は雪天なり」 . 6 「シャボン玉の森」. 5 「山ねこ、おことわり」. 0. である。. 一、はじめに. ―. 釧路論集 -北海道教育大学釧路校研究紀要-第49号(平成29年度) Kushiro Ronshu, - Journal of Hokkaido University of Education at Kushiro - No.49(2017):(1)-(16).

(3) 菅 野 菜 月・佐 野 比呂己. 川北は「松井さん」の行動から、その人間性を読み解いている。 また畠山兆子は『車のいろは空のいろ』(注3)全八編について総括するなか で「山ねこ、おことわり」について以下のように述べている。 この作品にいたって始めて、主人公は自分の意志で、人間ではないお 客を乗せることを決意するのである。こうして、人間と人間の姿をした 動物が共存する世界を自覚的に受け入れた運転手、松井五郎を、「特別 な空間」であった主人公の乗る空色タクシーは、ようやく獲得したので ある。. 目に触れる機会が多いと考えられる、新装版『車のいろは空のいろ 白いぼう し』(注6)を使用した。. また初出である童話雑誌「びわの実学校」から、今回取り扱う新装版『車の いろは空のいろ 白いぼうし』に至るまででテキストの改訂がみられる。本稿. では「山ねこ、おことわり」の作品分析に加え、本作品がどのような改訂をた. 本文引用における漢数字はテキストのページ数、丸数字は行数に対応してい. どっているのか、異同表を用いて整理する。. る。引用文中の傍線は稿者によるものである。. ています。」(五八②)など、現在形の語りとなっているため、時間軸は現在で. 1 時間 「あんなに青あおとしていた並木の葉も、いつのまにか、きいろにいろづい. 二、設定 さん」の変化について論じている。また「主人公の乗る空色タクシー」を「特. ある。物語の進行に従って、時間が経過している。. 畠山は短編集所収の八作品を並べ、 「人間の姿をした動物」に対する「松井 別な空間」 と表現し、「ときに怪奇現象に取り囲まれ、 ときには避難場所であり、. 作品中に「電報」が登場しているが『世界大百科事典』には電報の普及につ いて以下のように書かれている。 (小松崎清介 執筆). 較的現代に近い時代設定であると考えられる。. また「タクシー」が登場することから、社会にタクシーが普及している、比. 思いが実現される」(注4)空間であると述べ、作品におけるタクシーの重要性 さらに高橋亮は「山ねこ、 おことわり」に登場する「林」 「金色」に注目し、. を示している。 以下のように述べる。(注5) 「林」という特定の立地が『車のいろは空のいろ』全般に共通する、. 日 本 に お け る 電 報 の 利 用 動 向 を み る と、 そ の ピ ー ク は 一 九 六 三 年 度. 八〇〇〇万通台で一般電報の割合が八~九割を占めていたのに対し、こ. の 九 四 六 一 万 通 で あ る が、 一 九 五 〇 年 代 ~ 六 〇 年 代 前 半 の 総 通 数 は. こ十年ほどは、総通数は四〇〇〇万通前後で安定しているものの、儀礼. 普遍的な「境界」として想定されていることが窺い知れる。 『車のいろは空のいろ』の一部の収録作品では、 「金色」が現実世界と. 的な慶弔電報が全体の九割を占めている。. 電報が最も利用されていた時期は一九六三年であるが、一般電報の割合が高. 幻想世界を移行する際において、その境界性を強調するように特徴的に. 高橋は「林」が「境界」としての役割を担っており、「金色」という色彩表現が、. かった時期は一九五〇年代~一九六〇年代前半であることが分かる。このこと. 現されていることを見て取ることができる。. その「境界性を強調」していると述べている。 「林」と「金いろの稲」につい. う描写があることから、秋である。. つぎに季節について考察する。本文中に「秋になりました。 」(五八①)とい. から、一九五〇年代~一九六〇年代頃の時代設定であると考えられる。. れてはいるものの、本作品のみを扱った研究は今まで行われておらず、同短編. それは以下の通りである。 他にも秋であることが分かる情景描写が複数ある。. 以上のように複数の論文中で「山ねこ、おことわり」についての解釈が示さ. ては後述したい。. 集所収の「白いぼうし」のように広く世に知れているとは言いがたい。よって 作品解釈を行う。. いています。」 (五八②) . 「あんなに青あおとしていた並木の葉も、いつのまにかきいろにいろづ. 本稿では「山ねこ、おことわり」を作品分析することによって、本文に即した テキストとして、教材化の際に出典として最も使用されており、子ども達の . -2-.

(4) あまんきみこ「山ねこ、おことわり」を読む. . 「金いろの稲のほが、波のようにゆれています。 」 (六〇③) 「木の葉が、赤や、きいろやしゅいろにそまった」 (六〇⑤) 木の葉や、稲の穂の色づきを表現することによって、秋の鮮やかな情景を表 わしている。また季節の移り変わりは松井さん自身にも以下のように現れてい る。 「松井さんの制服も、おとといから、こんいろにかわっています。」 (五八⑤) 「松井さん」の制服が衣替えしている。衣替えをしたのがおとといであるこ. ↓ 「赤いやねの家」 (六三④) . ↓ 「林をすぎ、 金いろの稲のあいだの道を走り、 町にはいった」 (六六⑤) . ↓ 「大きな大学病院」 (六七②) . これらの描写から、町中から郊外に向けて走り「山ねこ」の住む家に到着し. た後、また同様の道を通って「大学病院」へと戻ってきたことが分かる。移動. は全て「空いろのタクシー」によるものである。. 日時について特定できる記述はないが、紅葉や稲の穂の色彩が鮮やかに見え. 地図の中に描かれている。具体的な地名の載った地図があることで、読者は架. 登場する「りんどう橋」「にじのような林」「奥かえで谷」 「大学病院」もその. が載った、架空の町の地図が描かれている。「山ねこ、おことわり」において. 具体的な地名が複数登場しているがこれは全て架空の地名である。 新装版『車のいろは空のいろ 白いぼうし』には所収作品に登場する、地名. ていることや、 「葉のあいだからさしてきたひかり」 (六〇⑥)という日の光の. とから、一〇月初旬の出来事であると読み取れる。. 描写から、太陽が昇っている時間帯であると分かる。また前述したように日の. 空の場所を視覚的に捉え、「松井さん」やその他の登場人物の動きや生活を具. 3 人物. . 広がりが生まれる。. いて「松井さん」の住む世界のことを自由に想像することができ、作品世界に. 体的に想像することができる。また、読者である子どもたちが、その地図を用. 光の描写があるため、天候は晴れである。. 2 場所 「松井さん」という登場人物の名前から、日本がモチーフとなっていること しかし、大学病院に勤務する「わかい男の人」が、実は「山ねこ」であるな. 〇 山ねこ(山ねこ先生) 「わかい男の人」に姿を変え、 「大きな大学病院」で先生として働いている山. が分かる。 ど、 現実的な世界を舞台としながらも、 ファンタジー要素を多分に含んでいる。. ねこである。「わかい」姿であることや、「はやくりっぱな医者になって」(六六. ①)と言っていることから年齢は比較的若い。. 「松井さん」と「山ねこ」の出会う場所は「大学病院」のある「町」である。 「大きな大学病院」であることから、発展した「町」であることが分かる。そ. 元の姿を現わしたとき、「山ねこ」は以下のように描写されている。. の後に以下のような描写がある。. ため、「松井さん」視点での「山ねこ」像が現わされているといえる。またそ. この描写は「松井さん」がバックミラー越しに「山ねこ」を見た場面である. こげ茶のしまの毛がはえていました。 バックミラーのなかの男の顔に、 金いろの目、しめった黒いはな、はりがねのように、ぴんとよこにはっ たひげ ・・・・・・ 。 (六一⑤~⑦). こから、以下のように場所が移動している。 「並木のおわったりんどう橋の上」 (五八⑦) ↓ 「ほそい一ぽん道」 (六〇②) 「金いろの稲のほ」 (六〇③) ↓ 「にじのような林」 (六〇⑤) ↓ 「奥かえで谷あたりですか?」 (六〇⑨). -3-.

(5) 菅 野 菜 月・佐 野 比呂己. ものとなっている。この時点では「松井さん」は「山ねこ」を恐れるべき存在. このことから作品世界において「山ねこ」は忌み嫌われる存在であると捉える. ここからは、「松井さん」が「山ねこ」へ嫌悪感を抱いていることが窺える。. 格であることが読み取れる。「松井さん」にとって「山ねこ」は「お客」とい. と考えていることが分かる。ここからは仕事熱心で「お客」を第一に考える性. らは、必要としている人はたとえ恐れられる存在の者であっても 「おくるべき」. しかし、「山ねこ」の話をきいて「おくるべきだ」と思い直している部分か. として捉えるのみで、目の前に居る「山ねこ」自身を見ようとはしていない。. ことができる。また、タクシーを降りた後「松井さん」に「〝山ねこ、おこと. う認識に変化している。. なまぐさいにおいがぷんとしてきました。 (六二③~④). わり〟 」と書かれた紙を渡すところから、 「山ねこ」自身も今暮らしている世界. のまねをして「かた目をつぶって、にやっと」笑うところから、「山ねこ」へ. 「山ねこ」にもらった紙をやぶり、 「また、いつでも、どうぞ。 」と「山ねこ」. に、個人の人間性を重視し接していく姿勢に変化している。. その後の「山ねこ」家族のふれあいを通し、種族や社会の常識にとらわれず. において 「山ねこ」 が忌み嫌われる存在であることを自覚しているようである。 本作品に登場する「山ねこ」は、自分に対しての偏見とも捉えられる「松井 さん」の「おりてくださいよ。 」 (六一⑬)という反応に対しても冷静な対応を. の親しみとユーモアが感じられる。. していることから、落ち着いた性格であることが読み取れる。一方でこのよう な差別的な扱いを今までもよく受けているからこその冷静さであると読み取る. 短編集所収の他作品を見てみると、例えば「くましんし」において「おだや. ことも可能である。 家族思いで、その家族も「おにいちゃん」が帰ってくることを心待ちにして. かな目をしたくまが、人間のすがたで、人間のことばをはなし、人間とおなじ. ~⑬)というように、自分とは異なる者を受け入れる心のある「松井さん」の. くらしをしていても、あたりまえのことのようにおもえてきました。」 (九二⑩. 「はやくりっぱな医者になって、ここにかえってこなければ、とおもいます. いる。「青いスカートをはいた小さな山ねこ」 のことを 「いちばん下のいもうと」. よ。 」 (六六①)という「山ねこ」の発言から、 人間の世界で医療を学んだ後に、. 様子が描かれている。しかし 山 「ねこ、おことわり 」においては「山ねこ」を 拒絶する様子がみられる。この点において他作品とは区別されるべき作品であ. と言っていることから、他にも弟妹が居る。. 山ねこの世界へ帰ろうとしていることが分かる。 「山ねこ」の故郷への愛情が. ると捉えることもできるが、短編集全体を通してみると異なる捉えかたをする こともできる。. 読み取れるが、一方で自分たちの世界だけでは生きていくことが出来ずに、姿 を変え、 「山ねこ」にとっては生きにくいであろう人間の世界で生活しなけれ. お客を乗せることを決意するのである。 」(注7)と論じたように、それまでの. 畠山が「この作品にいたって始めて、主人公は自分の意志で、人間ではない. 帰り道「松井さん」がふりかえったときに、 「あたりまえのわかい男の人」. 三作品において「松井さん」自身が異なる者に対して働きかける描写は無い。. ばならない「山ねこ」の様子がうかがえる。 の姿で「かた目をつぶって、にやっと」笑う部分からは、 「松井さん」への親. 唯一「すずかけ通り三丁目」の最終場面で「おばあさん」を追いかけていく場. 面が描かれているが、その後の描写はなく、あくまでも読み手に委ねるものと なっている。. また、 『日本国語大辞典』では「山猫」に以下のような意味があると記され. しみやユーモアが感じられる。 ている。. も考える事ができるのではないか。(注8). このことから短編集全八編を通して《松井さん像》の変化が描かれていると 田舎から都会に出てきた者。田舎出の者をののしっていう語。. 三、語り手. 人間の世界に出てきた「山ねこ」が、忌み嫌われている様子と重なる部分が ある。. い者であると考えられる。. しかし、「松井さん」の心情描写が描かれているため、 「松井さん」に非常に近. 全ての登場人物を、第三者の視点から呼称していることから、第三者である。 〇 松井さん 初めは 「山ねこ」 を恐れる様子を見せ、 タクシーから降ろそうとしている。「松 井さん」の視点で描写された「山ねこ」も前述したように恐ろしい印象を持つ. -4-.

(6) あまんきみこ「山ねこ、おことわり」を読む. 四、解釈 1 松井さんと山ねこ 「山ねこ」の姿を見たとき「松井さん」は、以下のような反応をしている。 「声までふるえそうなのを、 やっとこらえていたのです。 」 (六二①) 「松井さん」の住むこの世界における「山ねこ」は、会っただけで声まで震 えるほど、 恐れられている存在であることが分かる。 「松井さん」も例外なく、 出会った「山ねこ」自身の事を知ろうとはせずに、ただ恐れ、拒絶しているこ とから、この時点で「松井さん」は「山ねこ」に対して一種の差別的な感情を 抱いている事が分かる。 しかし、その考え方はお客として乗車してきたこの「山ねこ先生」との交流 によって変化してくる。 「山ねこ」は「松井さん」に対して以下のように話している。. (六二⑥). 「でも、この車のどこにも〝山ねこ、おことわり〟とはかいてなかった ですよ。 」. 「料金をはらえば、だれであろうと、おなじじゃありませんか。」 (六二⑨) このとき「松井さん」は確かに「山ねこ」の言っていることは筋が通ってい. とを知ることになる。この出来事の中で「松井さん」の「山ねこ」に対しての. 認識が恐れの対象から「料金をはらえば、だれであろうと、おなじ」である、. つまり人間や他の者たちと同じ存在へと変化している。. 2 山ねこの呼称の変化 「山ねこ」の呼称が作品内で変化していっている。「山ねこ」の呼称を以下に 表わす。. (六一⑧) 山ねこ あんた ( 六二⑤) 山ねこ先生 (六四④、⑩、六六③、六八⑦) 先 (六八②) 生 . 「山ねこ」の家へ到着し、「山ねこ」と「小さな山ねこ」が話す様子を見た場. 面以降、「山ねこ」の呼称が「山ねこ先生」に変化している。. 前述した通り「山ねこ」の話を聞いてからは「松井さん」が、この「山ねこ」. の事を一方的に拒絶するのではなく、タクシーの「お客」という個人として捉 えるようになった。. 「山ねこ先生」という呼び方は、 「山ねこ」のことを「大学病院の先生」とし. て見ていることをあらわしている。このことから「松井さん」は「山ねこ」が. 人間の世界の中で他の者と同じように暮らしていることを、この時点で受け入 れていると考えることができるだろう。. つまりこの呼称の変化は、恐れられている「山ねこ」にも、人間の世界に生. . ると感じ、 「そうだ。 」と素直に聞き入れている。 しかし、まだこの時点では「山ねこ」をお客として扱うことを決心してはい. きる他の者と同じように、あたたかい家族が居て、優しい感情があることを「松. 3 情景描写について 木 の 葉 の 色 づ き や 景 色 の 移 り 変 わ り な ど が、 鮮 や か な 色 彩 で 描 写 さ れ て い. しようとすることの方が重要であることを感じている。. ことで、「山ねこ」という種族として見ることよりも、個人の人格を知り理解. る時点で「お客」であると認識している。その後「山ねこ」家族の様子を見る. 整理すると、「松井さん」は「山ねこ」のことを、タクシーを必要としてい. わしている。. 井さん」が知り、自分たちと何も違いはないということに気づいたことをあら. ない。 その 「松井さん」 を動かした言葉が、 その後に続くこのような言葉である。 「おねがいしますよ。なにしろ、いそいでいるんです。母がびょうきに なったと、電報がきたのですよ。わたしは、医者なのです。 といっても、まだ、医者になったばかりなのですがね。」 (六二⑪~⑬) この時点で「松井さん」にとってこの「山ねこ」が〈恐れる種族の者〉とし. る。読者は草木が色とりどりに色づく道のなかを走る「空いろのタクシー」を. ての恐怖の対象ではあるが、困ってタクシーを必要としている「お客」でもあ その結果として「松井さん」やこの世界を生きる他の者と全く同じように、. ることに気づき「おくるべきだ。 」と決心している。 「山ねこ」にも帰りを待つ家族がおり、お互いを思いやるあたたかさがあるこ. -5-.

(7) 菅 野 菜 月・佐 野 比呂己. ありありと想像することができる。情景描写の中で特に考察を加えたい部分は. 4 「山ねこ、おことわり」というタイトルについて タイトル「山ねこ、おことわり」 はタクシーを降りる際、「山ねこ先生」にもらっ. います。 」. (六〇③~④). 「両がわには、見わたすかぎり、金いろの稲のほが、波のようにゆれて. ていることを意味している。それを人間である「松井さん」が自らの意志で破っ. 渡したという行為は、人間に拒絶されることを受け入れ、共存を諦めてしまっ. いをしているような突き放した印象を受ける。また「山ねこ」が自らその紙を. た、いつでも、どうぞ。」と言っている。「おことわり」という語からは門前払. 以下の通りである。. 「木の葉が、赤や、きいろやしゅいろにそまったにじのような林にはい. た紙に書かれた言葉である。「松井さん」はその紙をやぶり「山ねこ先生」に「ま. りました。葉のあいだからさしてきたひかりが線になってゆれ、空いろ. たということに大きな意味がある。. ことができるのではないか。. 人間性をみて接していくことの大切さが、この作品の主題であると位置づける. 以上のことから、先入観や社会でのとらえ方に捕らわれずに、出会う個人の. 個人の人格を知り理解しようとすることの重要性を訴えているのだ。. いう紙を「松井さん」がやぶったことで、社会の風潮にとらわれることなく、. 種族のみで判断し、排除することを意味している「山ねこ、おことわり」と. ていくべきであることを改めて感じている。. れずに、それぞれの「お客」をその人個人として、その人間性に基づいて接し. 井さん」は「山ねこ先生」と出会ったことにより、一般的な考えや風潮に流さ. 恐 れ の 対 象 で あ っ た「 山 ね こ 」 に も「 山 ね こ 先 生 」 の よ う な 人 は い る。 「松. の車も、ぶちにそまって走っていきます。 」 (六〇⑤~⑦) 」 「林をすぎ、金いろの稲のあいだの道を走り、町にはいったとき、 (六六⑤~⑥) (注9) この点について高橋は以下のように述べている。 「林」という特定の立地が『車のいろは空のいろ』全般に共通する、 普遍的な「境界」として想定されていることが窺い知れる。 「山ねこ、おことわり」では、タクシーが現実と「異界」との間を往 復する際、 「林」と同じく「金いろの穂」も双方の風景描写の中に表わ. 五、テキスト異同. されている。 (中略)色彩としての「金色」が「異界」や「境界」に属 する物に対し、意識的に付加されているのではないかとする仮説が導き. 1 使用テキストの書誌 テキスト改訂の経緯を検討するため、本稿の異同表に用いたテキストは以下. 『車のいろは空のいろ』は、『びわの実学校』に所収された作品のうち . B . 『びわの実学校』は、坪田譲治創刊の児童雑誌である。「山ねこ、おこ A とわり」は本雑誌の第二十二号に掲載されているものが初出である。. ポプラ社 平成十二年(二〇〇〇)四月. ポプラ社 昭和四十三年(一九六八)三月 C あまんきみこ『車のいろは空のいろ 白いぼうし』. びわのみ文庫 昭和四十二年(一九六七)四月 B あまんきみこ『車のいろは空のいろ』. A 坪田譲治『びわの実学校』第二十二号 . の三つである。. 出される。 高橋は「林」と「金色」に注目して「境界線」としての役割を導き出してい 「稲」は米を生産するために人間が栽培しているものであるため、人間の生. るが、稿者は「稲」と「林」の関連性について注目したい。 活 の 象 徴 で あ る と い え る。 一 方 で「 林 」 は 自 然 物 で あ る。 加 え て「 虹 の よ う な」という非現実的な描写がされることによって「林」が不思議な雰囲気をま とい、ファンタジー性を生み出している。人間の象徴である「稲」と自然物で ある「林」 、ここに人間の世界と山ねこの世界の境界線がある。 実際に「林」に入ったところで「山ねこ」は本来の姿をあらわしており、反 対に「金いろの稲のあいだの道を走り、町にはいった」ところで「松井さん」 がふりかえったときには、「あたりまえのわかい男の人」(六六⑧) に戻っている。 次に「ぶちにそまって」の部分である。ここはタクシーがひかりの線にあて られてまだらになっていることをあらわしている。この「ぶち」という模様は 猫を連想させ、山ねこが姿を現すことの伏線となっている。. -6-.

(8) あまんきみこ「山ねこ、おことわり」を読む. 「 松 井 さ ん 」 が 登 場 す る 作 品 を 五 編 集 め、 さ ら に「 松 井 さ ん 」 の 作 品 を三編書き下ろした、全八編が所収された短編集である。 C 新装版『車のいろは空のいろ 白いぼうし』は、Bの新装版としてあ ま ん が 改 め て 書 き 換 え を 行 っ た も の で あ る。 B C 間 に は 実 に 三 十 二 年 もの歳月が経過している。 AからCの間にはそれぞれテキスト相互の異同が確認できる。それらを異同 表に整理し検討を加える材料とする。 〔凡例〕 ・文頭の文字は段落番号を表わす。 ・段落番号はBを基準とした。段落の異同がみられる部分は、Bの段落を参考 に、関連する文章が記されている前後の段落に併せて付した。 行にわたる場合は、括弧内の文章が「一字分下げ」になっている。. ・B『車のいろは空のいろ』について、カギ括弧、括弧で区切られた文章が数. 2 異同表 テキスト間での異同については、改訂の変遷をたどるため、三つのテキスト. を時代順に並べ、AB間、BC間におけるそれぞれの異同を整理する。. テキスト間でどのような改訂がなされたのか明らかにするために、異同の箇 所については次のように記号を付した。. (ⅰ) 漢字平仮名・句読点等の追加、書き換え (傍線) 書き換え (ゴシック太字) (ⅱ) 語句の追加、 (ⅲ) ( 空白 ) 語句の削除 . (ⅳ) 段落の追加 (●黒丸) (ⅴ) 段落の消去 (〇白丸) . なお、AB間の異同はBに、BC間の異同はCにそれぞれあらわした。 . C 『車のいろは空のいろ 白いぼうし』 . 」 ・・・・・・・・・ ・A㉘㉜、B⑦⑫㉟、C⑦⑫㉘㉟では段落前に一行の空白がある。(*). B 『車のいろは空のいろ』. なみき. は. まつい. -7-. ・Bにおいて三点リーダーが三マス分で書かれている。 「. A 『びわの実学校』 第二十二号. あお. (BC間の異同). びわのみ文庫 . ます。. ら っ と、 ガ ラ ス ご し に 見 あ げ た 松 井 さ ん の せいち ふく 制 服 も、 お と と い か ら、 こ ん い ろ に か わ っ て い. み. (ここの並木は、イチョウだったのだな。). なみき. あ ん な に 青 あ お と し て い た 並 木 の 葉 も、 い つ のまにか、きいろにいろづいています。. あき. ポプラ社 平成十二年(二〇〇〇)四月. は. (AB間の異同). なみき. まつい. 秋になりました。. ポプラ社 昭和四十三(一九六八)三月. 昭和四十二年(一九六七)四月. あき. あお. になりました。 秋. なみき. あ お と し て い た 並 木 の 葉 も、 い つ あんなに青 いろ のまにか、きいろに色づいています。. み. (ここの並木は、イチョウだったのだな。) ら っ と、 ガ ラ ス ご し に 見 あ げ た 松 井 さ ん の せいち ふく いろ 制服も、 おとといから、 こん色にかわっています。. ①. ②. ③. ①. ②. ③.

(9) 菅 野 菜 月・佐 野 比呂己. 「そこのポストを、左にまがる。 」 . 運 転 手 の 松 井 さ ん は、 ハ ン ド ル を ま わ し ま し た。. 「つぎに、右。 」 「また、右。 」 「そのたばこやを、左。 」 . 後の客から言われるとおり運転していくうち に、ベテランの松井さんも、いったいどこを走っ. て い る の か、 わ か ら な く な り ま し た。 思 い な し. か、見なれない通りばかりなのです。. す れ ち が っ た り、 追 い ぬ い た り し て い た 車 も 人も自転車も、しだいにまばらになり、やがて、. すっかりなくなってしまいました。 細い一本道にでました。. なみき. ばし. うえ. くるま. おとこ. はし. い男 並ひと木 のてお わ っ た り ん ど う 橋みの 上 で、 わまか つい の 人 が 手 を あ げ て い る の を 見 つ け て、 松 井 さ ん くるま. は車をとめました。 「どちらまでで?」 「いうとおりにいってください。」 そら. メ ー タ ー を か ち っ と た て て、 空 い ろ の 車 は 走. りだしました。 はし. まっすぐに、ぐんぐん走ります。 . まつい. (*) ひだり 「そこのポストを、左にまがって。」 . みぎ. 松井さんは、ハンドルをまわしました。 みぎ 「つぎに、右。」 みぎ 。」 「また、右 や ひだり. きゃく. こ屋を、左。」 「そのたば みぎ 「つぎ、右。」 はなや みぎ 屋を、右。」 「むこうの花. とお. はし. お 客のいうとおり、ハンドルを 右 に) まわした ひだり まつい 松井さ り 左 に ま わ し た り し て い る う ち、. み. くるま. 見なれない通りばかりなのです。. ん は ど こ を 走 っ て い る の か、 さ っ ぱ り わからなくなってきました。 ● . すれちがったり、おいぬいたりしていた車も、 ひと しゃ 人も、じてん車も すくなくなって、やがて、すっ かりなくなってしまいました。 (*) みち ⑫ ほそい一ぽん道にでました。. なみき. くるま. ばし. うえ. おとこ. はし. い男 並ひと木 のてお わ っ た り ん ど う 橋みの 上 で、 わまか つい の 人 が 手 を あ げ て い る の を 見 つ け て、 松 井 さ ん. は車をとめました。. くるま. いろの車は走. そら. ?」 「どちらまで 「いうとおりにいってください。」. はし. メ ー タ ー を か ち っ と た て て、 空 りだしました。. まっすぐに、ぐんぐん走ります。. (*) ひだり 「そこのポストを、左にまがって。」 まつい. みぎ. 井さんは、ハンドルをまわしました。 松 みぎ 。」 「つぎに、み右 ぎ. きゃく. 「また、右。」 や ひだり 「そのたばこ屋を、左。」 みぎ 「つぎ、右。」 はなや みぎ 「むこうの花屋を、右。」 . はし. 客 の い う と お り、 ハ ン ド ル を 右 に ま わ し た お ひだり まつい り 左 に ま わ し た り し て い る う ち、 松 井 さ ん は ど. とお. です。. くるま. こ を 走 っ て い る の か、 さ っ ぱ り わ か ら な く な っ てきました。 み. 見なれない通りばかり. れちがったり、おいぬいたりしていた車も、 ひす と 人も、じてんしゃもすくなくなって、やがて、すっ. かりなくなってしまいました。. (*) みち. ほそい一ぽん道にでました。. -8-. ④. ⑤. ⑥. ⑦. ⑧. ⑨. ⑩. ⑪. ⑫. ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨. ⑩. ⑪. ⑦ ⑧ ⑨ ~ ⑩ ⑪ ⑫.

(10) あまんきみこ「山ねこ、おことわり」を読む. り ょ う が わ に は、 見 わ た す か ぎ り、 金 色 の 稲 の穂がゆれています。. 木 の 葉 が、 赤 や 黄 色 や 朱 色 に そ ま っ た、 ニ ジ の よ う な 林 に は い り ま し た。 木 も れ 日 が、 ち ら 0. ち ら 線 に な っ て 道 を お ど り、 黒 い 車 も、 き れ い 0. なぶちにそまって走っています。 「あんまり、来たことのないところですよ。 」 . 松 井 さ ん は、 み ょ う に 口 の な か が ね ば っ こ い ような気もちになってきました。. 「ここは、奥カエデ谷あたりですか?」 す る と、 お 客 は、 の ど の 奥 で ご ろ ご ろ す る よ うな、低い笑い声をたてました。. いやな笑いかただな、とちらっとバックミラー を見た松井さんは、 「あっ」と声をだしそうにな. りました。. し め っ た 鼻、 は り が ね の よ う に ぴ ん と は っ た 白. い ひ げ、 ネ ク タ イ を し め た 山 ね こ で は あ り ま せ んか。. りょう. は. あか. み. 0. きん. いろ. 両 が わ に は、 見 わ た す か ぎ り、 金 い ろ の い ね なみ のほが、波のようにゆれています。 こ. 0. はし. ぶちにそまって走っ. くち. なか. きたことのないところだな―――). くるま. の 葉 が、 赤 や、 き い ろ や し ゅ 色 に そ ま っ た 木 はやし は に は い り ま し た。 葉 の あ い だ にじのような林 せん か ら さ し て き た ひ か り が、 ほ そ い 線 に な っ て ゆ そら. れ、 空 い ろ の 車 も、. まつい. ていきます。 (. だに. 松 井 さ ん は、 み ょ う に 口 の 中 が ね ば っ こ い よ き うな気もちになってきました。 おく. きゃく. 「ここは、奥かえで谷あたりですか?」 と、おもわずききました。 は、 の ど の お く で ご ろ ご ろ す る す る と お 客 こえ よ う な、 ひ く い や わ ら か い わ ら い 声 を た て ま し た。. かお. ちゃ. い や な わ ら い か た だ な、 と ち ら っ と バ ッ ク ミ み まつい こえ ラーを見た松井さんは、「あっ」と声をだしそう になりました。 くるま. め. おとこ. 車が、ガクッ、とゆれました。. きん. やま. くろ. 金 い ろ の 目、 し め っ た 黒 い は な、 は ● りがねのように、 ぴんとよこにはったひげ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・。 ● な ん と、 ネ ク タ イ を し め た 山 ね こ で は あ り ませんか。. りょう. は. あか. み. きん. いね. 両 が わ に は、 見 わ た す か ぎ り、 金 い ろ の 稲 の なみ ほが、波のようにゆれています。 こ. くるま. 0. 0. はし. 線になってゆ. せん. の 葉 が、 赤 や、 き い ろ や し ゅ い ろ に そ ま っ 木 はやし は た に じ の よ う な 林 に は い り ま し た。 葉 の あ い だ そら. からさしてきたひかりが. れ、 空 い ろ の 車 も、 ぶ ち に そ ま っ て 走 っ て い き ます。. まつい. くち. (きたことのないところだな――) . おく. だに. 井 さ ん は、 み ょ う に 口 の な か が ね ば っ こ い 松 き ような気もちになってきました。. 「ここは、奥かえで谷あたりですか?」 . きゃく. と、おもわずたずねました。. は、 の ど の お く で ご ろ ご ろ す る よ するとお客 ごえ うな、ひくいやわらかいわらい声をたてました。. くろ. かお. の 顔 に、 こ げ 茶 の し. ちゃ. バックミラー いやなわらいかただな、と み まつい こえ を見た松井さんは、「あっ」と声をだしそうにな. くるま. りました。. め. おとこ. 車が、ガクッ、とゆれました。. きん. バ ッけク ミ ラ ー の な か の 男 まの毛がはえていました。. やま. 金 い ろ の 目、 し め っ た 黒 い は な、 は り が ね の ように、ぴんとよこにはったひげ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 。. きゃく. な ん と、 お 客 は ネ ク タ イ を し め た 山 ね こ で し た。. -9-. ⑬. ⑭. ⑮. ⑯. ⑰. ⑱. ⑲. 車が、ガクッとゆれました。. ⑱. バ ッけク ミ ラ ー の な か の 男 の 顔 に、 こ げ 茶 の し まの毛がはえていました。 ⑲. ⑳. ミ ラ ー の 中 の 男 の 顔 に、 こ げ 茶 の し ま の 毛 が は え て い ま し た。 す ん づ ま り の 顔、 金 色 の 目、. ⑱. ㉑. ⑳. ㉑. ⑬ ⑭ ⑮ ⑯ ⑰. ⑬ ⑭ ⑮ ⑯ ⑰ ⑲ ~ ㉑.

(11) 菅 野 菜 月・佐 野 比呂己. 松 井 さ ん は、 ブ レ ー キ を 力 い っ ぱ い ふ み ま し た。 土 ぼ こ り を も う も う と あ げ て、 車 は と ま り. ました。 」 「おりてくださいよ。 松 井 さ ん は、 ふ り む き も せ ず、 つ っ け ん ど ん に 言 い ま し た。 ふ る え そ う な の を、 や っ と こ ら. えていたからです。 「こんな所で、 降りなくちゃいけないですか?」 . 相 手 は、 い が い に も の や わ ら か で す。 松 井 さ ん の ほ う に 顔 を よ せ た の か、 な ま ぐ さ い に お い. が、ぷんとただよってきました。 「だって、あんたは、山ねこでしょう?」 「でも、この車のどこにも、山ねこおことわり、 とは書いてなかったですよ。 」 そ れ は そ う だ、 理 が と お っ て い る、 と 松 井 さ んは思いました。. 「料金をはらえば、だれであろうと、同じじゃ ありませんか?」 そ れ も そ う だ、 す じ も と お っ て い る、 と 松 井 さんはまた思いました。. 「お願いしますよ。なにしろ急いでいるんです。 母 が 急 病 だ っ て、 け さ、 電 報 が き た の で す よ。 わ た し は 医 大 を 卒 業 し て、 い ま イ ン タ ー ン 生 な のですがね。 」. まつい. ちから. 」. 松 井 さ ん は、 力 い っ ぱ い ブ レ ー キ を ふ み ま し つち くるま た。 も う も う と 土 ぼ こ り を あ げ て、 車 は と ま り. ました。 「おりてくださいよ まつい. いいまし 松 井 さ ん は ふ り む か な い で こえ た。 声 ま で ふ る え そ う な の を、 や っ と こ ら え て. いたのです。 「こんなところで、おりなくちゃいけないでしょ うか。」. やま. きゃく. こ う い い な が ら、 お 客 が まつい かお 松 井 さ ん の ほ う に 顔 を よ せ た の か ――、 な ま ぐ. くるま. さいにおいが ぷんとしてきました。 やま 「だって、あんたは、山ねこでしょう?」. まつい. と松井さんは. 「でも、この車のどこにも〝山ねこ、おことわり〟 とはかいてなかったですよ。」. りょうきん. そ れ は、 ま あ、 そ う だ、 おもいました。. まつい. と松井さんはま. 「料金をはらえば、だれであろうと、おなじじゃ ありませんか?」 そ れ も ま あ、 そ う だ、 た、おもいました。 はは. でんぽう. 「 お ね が い し ま す よ。 な に し ろ、 い そ い で い る いしゃ. ん で す。 母 が び ょ う き に な っ た と、 電 報 が き たのですよ。わたしは、医者なのです。といっ いしゃ. て も、 ま だ、 医 者 に な っ た ば か り な の で す が ね。」. まつい. ちから. こえ. 松 井 さ ん は、 力 い っ ぱ い ブ レ ー キ を ふ み ま し つち くるま た。 も う も う と 土 ぼ こ り を あ げ て、 車 が と ま り ました。. 「おりてくださいよ。 」 まつい. 井 さ ん は ふ り む か な い で い い ま し た。 声 ま 松 で ふ る え そ う な の を、 や っ と こ ら え て い た の で す。. まつい. かお. 「 こ ん な と こ ろ で、 お り な く ち ゃ い け な い で しょうか?」. きゃく. やま. が松井さんのほうに顔 こ う い い な が ら、 お 客 を よ せ た の か ――、 な ま ぐ さ い に お い が ぷ ん と. してきました。. 「だって、あんたは、山ねこでしょう?」 くるま やま. まつい. 「でも、この車のどこにも〝山ねこ、おことわ り〟とはかいてなかったですよ。」. りょうきん. そ れ は、 ま あ、 そ う だ、 と 松 井 さ ん は お も い ました。. 「料金をはらえば、だれであろうと、おなじじゃ ありませんか?」. 井 さ ん は ま た、 お. まつい. そ れ も ま あ、 そ う だ、 と 松 もいました。. いしゃ. し ま す よ。 な に し ろ、 い そ い で い る 「おねがい はは でんぽう ん で す。 母 が び ょ う き に な っ た と、 電 報 が き た. いしゃ. のですよ。わたしは、医者なのです。. 〇 と い っ て も、 ま だ、 医 者 に な っ た ば か り な の ですがね。」. - 10 -. ㉒. ㉓. ㉔. ㉕. ㉖. !!. ㉒ ㉓ ㉔ ㉕. ㉖. ㉒ ㉓ ㉔ ㉕ ㉖.

(12) あまんきみこ「山ねこ、おことわり」を読む. 松 井 さ ん は、 ぱ ち ぱ ち ま ば た き を し て、 自 分 の 頭 を 三 度 た た い て み ま し た。 そ れ で も 決 心 が. 変わらなかったので、はっきりうなずきました。 「いいです。お送りしましょう。 」. (*). ニ ジ の 林 を ど ん ど ん い く と、 に わ か に ぱ あ っ と 明 る く な り ま し た。 赤 い や ね の 家 が、 十 軒 ほ. ど な ら ん で い ま す。 そ の 一 ば ん 手 ま え の 平 屋 の. 家 の 前 に、 青 い ス カ ー ト を は い た 小 さ な 山 ね こ が、 ひ た い に 手 を か ざ し て、 こ ち ら を 見 て い ま した。. 車はその家のそばにとまりました。. (*). 0. 「どうも、待たせてすみませんでした。おかげ で、 早 く な お り そ う で す。 な あ に、 ひ と り む す 0. 」 こに会いたいけ病もあったらしいですよ。. あたま. 0. 0. お く っ て や ろ う か な、 い や、 お く る べ き だ、 まつい と 松 井 さ ん は お も い ま し た。 そ し て ぱ ち ぱ ち ま 0. 0. 0. ば た き を し て、 じ ぶ ん の 頭 を 三 ど た た い て み ま 0. した。それでもけっしんがかわらなかったので、 はっきりうなずきました。. いえ. 白いほそうどう. しろ. 「いいです。おおくりしましょう。」 はやし. あか. を す ぎ る と、 にじの林 ろにかわりました。. りょう. あお. ちい. やま. ● 両 が わ に、 赤 い や ね の 家 が 十 け ん ほ ど な ら んでいます。そのいちばんむこうの家のまえに、 み. くるま. 青 い ス カ ー ト を は い た 小 さ な 山 ね こ が、 ひ た い て. くるま. に手をかざして、こちらを見ています。 そら. い ろ の 車 が と ま る と、 と ぶ よ う に 車 の そ ば 空 はし こえ に走ってきて、かわいい声でいいました。. やま. せんせい. 「おにいちゃん、はやく。はやくってば!」 山 ね こ 先 生 は、 よ し よ し、 と う な ず き な が ら まつい お り ま し た が、 ド ア を し め る ま え に、 松 井 さ ん にいいました。. またせてすみませんでした。おかげで、. ‡. ます。しばらくまっててください。」. 「 う ん て ん し ゅ さ ん。 ま た び ょ う い ん に か え り. 「 はや. 早 く な お り そ う で す。 な あ に、 わ た し に あ い た い の で、 す こ し お お げ さ に い っ て い る ら し いんですよ。」. 0. 0. お く っ て や ろ う か な、 い や、 お く る べ き だ、 まつい と 松 井 さ ん は お も い ま し た。 そ し て ぱ ち ぱ ち ま. 0. 0. 0. 0. ば た き を し て、 じ ぶ ん の あ た ま を 三 ど た た い て. どうろ. み ま し た。 そ れ で も け っ し ん が か わ ら な か っ た. ので、はっきりうなずきました。. しろ. 「いいです。おおくりしましょう。」 はやし. (*). りょう. あか. いえ. に じ の 林 を す ぎ る と、 白 い ほ そ う 道 路 に か わ りました。. ちい. やま. が わ に、 赤 い や ね の 家 が 十 け ん ほ ど な ら ん 両 いえ あお で い ま す。 そ の い ち ば ん お く の 家 の ま え に、 青 て. み. くるま. い ス カ ー ト を は い た 小 さ な 山 ね こ が、 ひ た い に. くるま. 手をかざして、こちらを見ています。 そら. い ろ の 車 が と ま る と、 と ぶ よ う に 車 の そ ば 空 はし こえ に走ってきて、かわいい声でいいました。. やま. せんせい. 「おにいちゃん、はやく。はやくってば。 」 . ね こ 先 生 は、 よ し よ し、 と う な ず き な が ら 山 まつい お り ま し た が、 ド ア を し め る ま え に 松 井 さ ん に いいました。. 「うんてんしゅさん。またびょういんにかえり ます。しばらくまってください。 」. ‡. 「またせてすみませんでした。おかげで、はや く な お り そ う で す。 な あ に、 わ た し に あ い た い. の で、 す こ し お お げ さ に い っ て い る ら し い ん で すよ。」. - 11 -. ㉗. ㉘ . ㉙. ㉚. ㉛. ㉜. ㉗ ㉘ ㉙ ㉚. ㉛. ㉜. ㉗ ㉘ ~ ㉙ ㉚ ㉜ .

(13) 菅 野 菜 月・佐 野 比呂己. 車にまた乗りこんだ山ねこインターン生は言 い ま し た。 さ っ き の 青 い ス カ ー ト の ち び が 出 て. きて、茶色の手を、けんめいにふっています。 「妹ですよ。早く一人まえの医者になって、こ こに帰ってこなければ、と思います。 」. 心 配 が な く な っ た た め か、 帰 り 道 こ ん な こ と を言ったりしました。. 林 を す ぎ、 金 色 の 稲 の あ い だ を 進 み、 町 に は い っ た と き、 わ ざ わ ざ 松 井 さ ん は ふ り む き ま し. た。 や っ ぱ り、 う し ろ の シ ー ト で た ば こ を く ゆ. らせているのは、ふつうの男の人でした。 」 「そこを、左。 「そのポストを、右。 」 な ど と 何 回 も 言 わ れ て、 松 井 さ ん の 車 は、 堀 ばたの大学病院の前に、ぴたりととまりました。. くるま. やま. ちい. いっしょ. せんせい. て. の り こ ん だ 山 ね こ 先 生 は、 わ ら い 車に あお な が ら い い ま し た。 さ っ き の 青 い ス カ ー ト の チ ちゃ. ふっています。 した. 。はやくりっぱ. ビ が で て き て、 茶 い ろ の 小 さ な 手 を うけんめい. いしゃ. 「いちばん下のいもうとです. せんせい. て. まつい. な医者になって、ここにかえってこなければ、. やま. とおもいますよ。」 山 ね こ 先 生 も、 チ ビ に 手 を ふ り な が ら、 松 井 さんにこんなことをいったりしました。. (*) はやし きん. 林 を す ぎ、 金 い ろ の い ね の あ い だ を す す み、 まち まつい 松 井 さ ん は、 わ ざ わ 町 に は い っ た と き、. う し ろ の シ ー ト で、 す っ ぱ す っ ぱ と た. ざふりむいてみました。 ●. おとこ. ひと. め. ばこをくゆらせているのは・・・・・・・・・なんと、. きゃく. あたりまえのわかい男の人なのです。. みぎ. ふ り む い た と た ん に、 そ の お 客 は か た 目 を つ ぶって、にやっとわらいました。そして、 や. 「ほら、そのたばこ屋を右ですよ。」 ひだり. といいました。 みぎ. 「それから、左。」. なんかい. 「そのポストを、右。」. ばし. ● こ う 何 回 も い わ れ る う ち に、 ち ゃ ん と、 り ん どう橋にでてきました。. くるま. ちゃ. やま. ちい. せんせい. て. に の り こ ん だ 山 ね こ 先 生 は、 わ ら い な が ら 車 あお おんな こ い い ま し た。 さ っ き の 青 い ス カ ー ト の 女 の 子 が. で て き て、 茶 い ろ の 小 さ な 手 を い っ し ょ う け ん. した. めいふっています。. おんな. こ. て. 「いちばん下のいもうとです。はやくりっぱな いしゃ 医 者 に な っ て、 こ こ に か え っ て こ な け れ ば、 と. せんせい. おもいますよ。 」 やま. いね. みち. はし. 山 ね こ 先 生 も、 女 の 子 に 手 を ふ り な が ら、 まつい 松井さんにこんなことをいったりしました。. *) ( はやし きん. 林 を す ぎ、 金 い ろ の 稲 の あ い だ の 道 を 走 り、 まち まつい 町 に は い っ た と き、 松 井 さ ん は、 わ ざ わ ざ ふ り. むいてみました。. う し ろ の シ ー ト で、 す っ ぱ す っ ぱ と た ば こ を あたりまえ. きゃく. め. く ゆ ら せ て い る の は ・・・・・・ 、 おとこ ひと のわかい男の人でした。. や. みぎ. そ の お 客 は か た 目 を つ ぶ っ て、 に や っ とわらいながらいいました。. ひだり. を右ですよ。 」 「ほら、そのたばこ屋 . かい. 「それから、左。」 みぎ 「そのポストを、右。」 . だいがくびょういん. こ う な ん 回 も い わ れ る う ち に、 ち ゃ ん と、 ま ばし た、りんどう橋にでてきました。. 」 「そのさきの大学病院です。 . - 12 -. ㉝. ㉞. ㉟ . ㊱. ㊲. ㊳. ㉝ ㉞ ㉟ ㊱. ㊲. ㊳. ㉝ ㉞ ㉟ ~ ㊵.

(14) あまんきみこ「山ねこ、おことわり」を読む. メーターは、千八百五十円にあがっています。 お 金 と い っ し ょ に、 松 井 さ ん の 手 の ひ ら に は、. はがきを横つぎにしたぐらいの一枚の紙がのせ られました。 「これには、人には読めないが、こう書いてあ ります。 『いご、山ねこおことわり』これを、ド ア に は っ て い て く だ さ い。 も う、 だ い じ ょ う ぶ ですよ。 」 広い階段をふりむきもせず、すたすたと のぼっていく男の人を見ていた松井さんは、きゅ. う に あ た ふ た と 窓 を あ け ま し た。 顔 を つ き だ し. て、よびとめました。 「や、や、やま、いや、ちょっとう ! 」 「は?」 と ふ り か え っ た 山 ね こ イ ン タ ー ン 生 に、 松 井 さ ん は、 そ の 小 さ な 紙 を、 ぱ り ぱ り っ と や ぶ っ てみせました。 そして、大声で言いました。 「また、いつでも、どうぞ ! 」 . 片 目 を つ ぶ っ て、 に や っ と 笑 う と、 松 井 さ ん は ア ク セ ル を ふ み ま し た。 車 は、 す べ る よ う に. 走りだしました。. くるま. ●やがて――― そら. おお. だいがく びょういん. えん. ● 空 い ろ の 車 は、 ほ り ば た の 大 き な 大 学 病 院 の. まえに、ぴたっととまりました。. はんぶん. メ ー タ ー は、 い つ の ま に か、 三 千 八 百 五 十 円 かね まつい に あ が っ て い ま す。 お 金 と い っ し ょ に、 松 井 さ かみ. ひと. よ. 紙がのせられました。. ん の て の ひ ら に は、 は が き を 半 分 に し た ぐ ら い の やま. 山ねこおことわり〟・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・. 「 こ れ に は、 人 に は 読 め ま せ ん が、 こ う か い て あります。〝. これを、ドアにはってください。もうだいじょ. せんせい. うぶですよ。」. まつい. まど. 生 は、 ひ ろ い か い だ ん を 、すたすた 先 と か け あ が っ て い き ま す。 そ の せ な か を、 ぽ か み. ん と 見 て い た 松 井 さ ん は、 き ゅ う に をあけました。 かお. ●顔をつきだして、よびとめました。 「や、や、やま。いや、ちょっとーっ!」 「は?」 やま せんせい まつい. と、ふりかえった山ねこ先生に、松井さんは、 かみ そ の 小 さ な 紙 を、 ぱ り ぱ り っ と や ぶ っ て み せ ま した。 ●そして、大声でいいました。. まつい. め. 「また、いつでも、どうぞ!」 、に こ ん ど は、 松 井 さ ん が か た 目 を つ ぶ っ て くるま やっとわらいました。アクセルをふむと、車は、 はし. すべるように走りだしました。. そら. くるま. おお. や が て 〇 空 い ろ の 車 は、 ほ り ば た の 大 き びょういん 病院のまえに、ぴたっととまりました。 な. えん. メ ー タ ー は、 い つ の ま に か、 三 千 八 百 五 十 円 かね まつい に あ が っ て い ま す。 お 金 と い っ し ょ に、 松 井 さ かみ. ん の て の ひ ら に は、 は が き を は ん ぶ ん に し た ぐ. ひと. よ. らいの紙がのせられました。. 「 こ れ に は、 人 に は 読 め ま せ ん が、 こ う か い て やま. ・ ・ ・ ・ ・ ・ これを、 あります。〝山ねこ、おことわり〟 ド ア に は っ て く だ さ い。 も う だ い じ ょ う ぶ で す よ。」 せんせい. まつい. 生 は、 ひ ろ い か い だ ん を、 す た す た と か け 先 み あ が っ て い き ま す。 そ の せ な か を、 ぽ か ん と 見. ていた松井さんは、きゅうにまどをあけました。. かお. 顔をつきだして、よびとめました。. 」 「や、や、やま。いや、ちょっとーっ。 「は?」 やま せんせい まつい. め. と、ふりかえった山ねこ先生に、松井さんは、 ちい かみ そ の 小 さ な 紙 を、 ぱ り ぱ り っ と や ぶ っ て み せ ま した。. おおごえ. まつい. 声でいいました。 そして、大 「また、いつでも、どうぞ。 」 . はし. 、に こ ん ど は、 松 井 さ ん が か た 目 を つ ぶ っ て くるま やっとわらいました。アクセルをふむと、車は、. すべるように走りだしました。. - 13 -. ㊴ ~ ㊵. ㊶. ㊷. ㊸. ㊹. ㊺. ㊴ ㊵ ㊶ ㊷ ㊸. ㊹. ㊺. ㊶ ㊷ ~ ㊹ ㊺.

(15) 菅 野 菜 月・佐 野 比呂己. 3 テキスト異同の観点から AB間で最も大幅な改訂がなされているのは「 (ⅱ)語句の追加、書き換え」 についてである。本論では特に大きな改訂であると考えられる二箇所の異同に ついて取り上げる。以下引用文中のルビは省略している。(注 ). ㉒ B 「おりてくださいよ. 」. 空のいろ』では、先に述べた通り「松井さん」の登場する作品が八編所収され. み手は作品世界の美しい情景を想像しやすくなる。また、新装版『車のいろは. 読み取ることができる。一方Cでは感嘆符が句点に書き換えられている。他の. 感情が伝わってくる。㉒では強い拒絶と恐怖、㊹では「山ねこ」への親しみを. Bで表わされている感嘆符からは、「松井さん」の「山ねこ」に対する強い. いる。このような改訂によって、読者が受取る《松井さん》像に差異が生じる. ているが、それらは春の作品から冬の作品へと、季節が移りかわっている。そ ). こともあるだろう。. 「山ねこ、おことわり」では人間の姿をして、人間の世界で人間のような生. 六、おわりに. 山ねこ先生は、よしよし、とうなずきながらおりましたが、ドアを しめるまえに、松井さんにいいました。. 「うんてんしゅさん。またびょういんにかえります。しばらくまっ ててください。 」 ここでは「山ねこ」とその家族である「小さな山ねこ」の交流が追加されて いる。このような交流が描かれることによって、読み手は「山ねこ」にも大切 な家族がおり、あたたかな交流があるということを知ることとなる。. 中心となる話と「人間」が中心となる話が交互に位置づけられているととらえ. 不思議な「人間」の登場する話である。このことから、「他の生き物たち」が. されている作品が、「松井さん」と人間の「お客」が不思議な体験をする話や、. 人間に姿を変えている生き物たちが登場する作品であり、二、四、六番目に所収. さらに所収作品全八編を見ると、一、 三、 五、七番目に所収されている作品が、. 像》の変化があると考えることも可能である。. ⑩)と自分の思いを伝えることが出来ている。短編集全体において《松井さん. 井さん」は去って行く「山ねこ」を引きとめ、「また、いつでも、 どうぞ。」 (六八. けるという構図だったが、「山ねこ、おことわり」の最終場面においては、「松. 去って行く「お客」を見送ることしかできず、姿が見えなくなった後に追いか. また、短編集の四作品目である「すずかけ通り三丁目」では、「松井さん」は、. と関連の深い「くましんし」については、稿を改め、論じていきたい。. 人間と他の生き物の共存について考えることとなる。「山ねこ、おことわり」. る。読者は、「松井さん」がそれらの者たちとの出会っていく物語を読むなかで、. 活を営んでいるかに見えるが、双方に共通してあるのは「故郷」への思いであ. しんし」である。「山ねこ先生」「くましんし」両者とも人間の世界で順調に生. 世界で働き生活している動物の話が他作品にもある。それは七作品目の「くま. 活を送る「山ねこ」が描かれているが、これと同様に本来の姿を隠し、人間の. れるようになっている。また「ぐんぐん走ります。 」という描写から、この冒. 空いろの車がとまると、とぶように車のそばに走ってきて、かわい い声でいいました。. 次に㉚㉛の段落について、以下のような追加がみられる。 . 可能である。. 頭の時点でさえも、タクシーで比較的長い距離を走行していると捉えることも. この追加によってどのような人がお客として乗りこんだのかが、すぐに読み取. 「わかい男の人」 (山ねこ)がタクシーに乗りこんだ場面が追加されている。. さらに、Aの冒頭では「山ねこ」の道案内が唐突に始まっているが、Bでは. のような追加がなされたと考えられる。 (注. 文との区別や強調の効果がなくなり「松井さん」の感情の起伏が小さくなって. C 「また、いつでも、どうぞ。」. ㊹ B 「また、いつでも、どうぞ!」. 」 C 「おりてくださいよ。. !!. のような短編集全体の四季の流れを、読み手がより捉えやすくするために、こ. をあらわす描写が追加されていることがわかる。この描写が加わることで、読. ~⑥の内容に注目してみると、まず秋の情景描写や松井さんの制服など、季節. まず、①~⑥にあたる、物語の冒頭の部分がBで大幅に追加されている。①. 10. BC間においては「 (ⅰ)漢字平仮名・句読点等の追加、書き換え」に注目 したい。例えば㉒㊹では以下のような書き換えがあった。. - 14 -. 11. 「おにいちゃん、はやく。はやくってば!」 . ㉚ ㉛.

(16) あまんきみこ「山ねこ、おことわり」を読む. ることができる。加えて短編集の最後である八番目に位置づけられている「ほ ん日は雪天なり」は「松井さん」自身が、人間の姿に化けているきつねに間違 われ、きつねの世界へと招待される話であり、他作品に比べ異質な内容となっ 短編集全体の《松井さん像》の変化、また全八編の関連性については今後の. ている。 課題として、研究を続けていきたい。. 〈注〉 ( 1) 坪 田 譲 治『 び わ の 実 学 校 』 第 二 十 二 号( び わ の み 文 庫 昭 和 四 十 二 年 (一九六七)四月). 作品分析」(『国語論集. 』北海道教育大学釧路校 国語科教育研究室. 平成二十九年(二〇一七)三月 一六七頁)をご参照いただきたい。. 14. 附記 菅野菜月が全体を構想・執筆し、佐野比呂己が校閲したものである。 本稿は、. - 15 -. ( 2) 川 北 典 子「 あ ま ん き み こ の 世 界 ―『 車 の い ろ は 空 の い ろ 』 を 中 心 に ―」 ( 『 平 安 女 学 院 大 学 研 究 年 報 』 平 安 女 学 院 大 学 平 成 十 四 年 (二〇〇二)三月 二五頁―三三頁 二八頁) (3) 畠山兆子「あまんきみこ初期作品研究 ―『車のいろは空のいろ』収 録作品を中心に―」 『(梅花児童文学』第十一号 梅花女子大学 平 成十五年(二〇〇三)六月 二二頁―四四頁 四〇頁 ) (4) 注(3) 四二頁 (5) 高橋亮「童話作家・あまんきみこにおける、宮沢賢治作品の影響につ いて―「林」 「金色」のモチーフを中心に―」 ( 『九大日文』第二十五. 号 九州大学日本語文学会 平成二十七年(二〇一五)三月 一三八 頁―一六一頁 一四一頁、一四二頁) ( ポ プ ラ 社 平 成 (6) あまんきみこ『車のいろは空のいろ 白いぼうし』 十二年(二〇〇〇)四月) (7) 注(3) 四〇頁 (8) 全体を通した《松井さん像》の変化については、今後短編集所収の八 編を整理した上で再検討する。 ) BC間においてルビの異同はみられない。 ) 短編集に所収されている八編の作品と、季節が読み取れる本文中の描 写の詳細については、 菅野菜月「あまんきみこ「すずかけ通り三丁目」. (9) 注(5) 一四一頁、一四二頁 ( (. 11 10.

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参照

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