改正教育基本法に見る教員像 ―第9条と関係法規を中心として―
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(2) 3 2. 織田成和. はじめに 第 2次世界大戦後、戦前の教育の反省に基づいて占領軍の影響のもとに旧 教育基本法が公布された。その理念と精神は日本国憲法の趣旨を受け継ぐと いう形をとっていた。憲法では教員に関するものは公務員全般に該当するも のであるが、「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではな. 0条に い(日本国憲法第 15条②)J のである。この規定は地方公務員法第 3 受け継がれて同じ主旨になっている。. 2年を経て改正教育基本法(以下教育基本法)が平成 1 8年 1 2 それから約 6 月 1 5日に成立した。これは同月 2 2日に官報で公布され、同日施行された。 戦前の教員像を若干振り返ると、明治 1 9年、初代文部大臣森有礼が学校令 生徒ヲシ を発布したが、その中に「師範学校令jが入っていた。その第 1条に f テ順良信愛威重ノ気質ヲ備へシムルコトニ注目スヘキモノトス Jと謡ってお. 0年の「師範教育令Jでも「順良信愛威重ノ徳性ヲ酒養スルコトヲ務 り、明治 3 ムヘシ Jと若干変わったが、これが戦前の教員の倫理になっていた。同時に教 員は聖職者であるという教員像が生まれた。その養成方法は全寮制で軍事教 練を取り入れた教育を行っており、卒業後は「背広を着た軍人 Jとも言われて いた。これが戦前の教員の実態であり、あるべき姿でもあった。これが、画 一的な教員論と戦後批判され、開放性免許制度という多様な視点での教員養 成という方向に向かったのである。 旧教育基本法では教員に関する直接的規定は学校教育の項目で付随的に第. 6条第 2項によって、「法律に定める学校の教員は、全体の奉仕者であって、 自己の使命を自覚し、その職責の遂行に努めなければならない。このために は、教員の身分は、尊重され、その待遇の適正が、期せられなければならな いj と誼われていた。 昭和 6 2年 1 2月 1 8日の教育職員養成審議会答申の「はじめ j から、一部抜 粋すると、教員の活動は「人間の心身の発達にかかわるものであり、児童・生 徒の人格形成に大きな影響を及ぼすものであ jり、専門職という視点から考慮 教育的 すると「教育者としての使命感、人間の成長発達についての深い理解Jr 教科等に関する専門的知識、広く豊かな教養、これらを基盤とした実 愛情 Jr が必要とされている。ちなみに教育基本法第 l条の教育の目的条 践的指導力 J. 2年文部省訓令第 4号によると「個人の価値と尊 項である人格の完成は昭和 2 厳との認識に基づき、人間の備えるあらゆる能力をできるかぎり、しかも調 和的に発展せしめる」ことである。 本小論での教員は主として公教育制度における学校教員を念頭に置きなが ら考察する.
(3) 改正教育基本法に見る教員像一第 9条と関係法規を中心として. 3 3. 1.新しい教員像 教育基本法第 9条では教員の項目はひとつの条項として取り上げられてい る 。 「法律に定める学校の教員は、自己の崇高な使命を深く自覚し、絶えず、 研究と修養に励み、その職責の遂行に努めなければならない。. 2前項の教員については、その使命と職責の重要性にかんがみ、その身分 は尊重され、待遇の適正が期せられるとともに、養成と研修の充実が図られ なければならない。 J 法律に定める学校とは学校教育法第 l条や専修学校をさす。このように教 員に対する根本的理念は変わらないが、新しい教育基本法では学校教員への 要望と期待に関する視点が高まっている。 21世紀にはいって望まれる教員 像である。これからも教員は日本国憲法と教育基本法を道守しながら自己を 最大限に発揮する才能や能力を備えていなければならない。これらの法のも とで教員は戦前の聖職観から、公務員、特に教育公務員としての身分が確立 した。公務員は業務に着手したり、採用されるとき、服務の宣誓を行う。こ れによって組織や制度の中での教員という地位が得られる。学校教育法の第. 9条には校長や教員の身分が保証されない欠格事由が挙げられている。ちな みに「教師」は教員とほぼ同義であるが、幅広い定義も考えられ、人間の歴 史と同じ位古い。道徳教育で扱われるようないにしえの偉人は人生の教師と か、親は人生最初の教師とか使われることも多い。このように教師はかなり 広範囲に用いられているが、教員という用語は免許を所持していて、定型的 で意図的教育活動である学校教育に従事している行政上・法令上の職業の概 念として用いられる。教員は教育関連法規に拘束されている。社会教育や生 涯教育ではあまり用いない。教育職員の略称あるいは教育公務員の短縮形と も考えられる。但し、私立学校の教職員は公務員でなく民間の職員になるが、 ほとんど教育公務員に準じて論じられる。 教育基本法の成立と同時にこれからの教員は多様化する社会事象の中での 価値観の変化をとらえて、児童・生徒の善悪両方の影響を受けた行動に対処 できる柔軟な能力と実践力が必要になってくる。任務は「公の性質」を持ち「全 体の奉仕者」である。さしあたって、直面する現実的なものとしては、学校 現場における実践的指導力と使命感である。 今までも教員と専門職の問題がよく取り上げられてきた。専門職としての 医師は対象が医学研究、つまりすべての研究や活動が病気や患者に対する予 防及び、治療につながっている。開業すると、外科の医師が風邪や内科等の専 門外の病気を診る事もあるが、それでも対象は病人と病気である。しかも開 業医も専門化が進みつつある。また検察官、弁護士、裁判官の司法関係者の.
(4) 3 4. 織田成和. 対象は種々あるが、業務は法律問題に限られている。さらに法科大学院によ って専門化が進みつつある。この傾向は昔からほぼ変わっていない。しかし、 教員の場合、専門職かどうかで論じる前に直接・間接の関係事項や関係者が 多く、かつ広すぎる。以前は児童・生徒を念頭に置いて、教育学や心理学を 中心に授業や研究を行っておれば、すぐれた教員は評価されていた。いわゆ. 0坪(教室の広さ)で勝負」しており、かなり、専門職として評 る「教員は 2 価されていた。授業以外の雑務は限られていた。ところが、現在の教員の最 も頭を悩ます問題はこの雑務である。本務を妨害している。それどころか、 本務と雑務が転倒して、雑務が本務のごとき様相を呈している。以前は教員 と保護者との関係は児童・生徒の成長促進のための支援的要因であった。 P T Aの趣旨もそうであった。しかし、現在は別記の知く保護者の「いちゃも ん」や家庭教育の原因による授業着手以前の学級崩壊が、教員を悩まし、か なりの時間をとっている最大の要因になっている。これは昔からの学校教育 の対象業務が限定されないまま現在に至ったからであろう。 今回、教育再生関連三法のーっとして学校教育法の改正があった。その第 3 7条によると、小学校には、副校長、主幹教諭、指導教諭その他必要な職 員を置くことができるようになった(これは中学校や高等学校に準用する)。 この条項によって副校長、主幹教諭などが、組織運営のため新設され、学校 評価なども行われることになる。副校長は教頭より権限が強く、主幹教諭は 中間管理職的な地位になる。これによって、校長の学校経営方針が一般の教 職員にまで浸透することになる。この改正は学校管理にとって評価すべきも のである。 学級担任が、児童・生徒の教科教育や生徒指導その他の業務をすべて行う. " ' " ' 3 0年前までの学級経営や教科指導は巧 「なんでも屋j 的時代は過ぎた。 2' 拙はあってもすっきりしたものでそれほど教員にとって精神的負担になるも のでなかった。しかし現在は社会の価値観や状況ががらりと変わり、子ども の自由奔放な活動やわがまま勝手な行動が学級崩壊につながっている。これ. 0代から 3 0代の教員は、 は家庭教育に責任がある。少なくともこれからは 2 学校の教育目的の本来の業務に専念し、それ以外の事項である学校秩序の維. 0代以上のベテラン教員や管理職が学 持や保護者の要求・クレームはすべて 4 級担任をはずれて対処すべき状況になっている。具体的には 1人の学級担任 が 4 0人の児童・生徒のあらゆる問題を一手に引き受けるのではなく、各ク ラスの教科教育以外は専門の教育を受けてスクールカウンセラーの資格を持 つ教員や法律の素養のある教員に問題処理を任せるべきである。その教員は. 0年前後経験してから、地方公務員法第 39条の研修 教科教育や担任業務を 2 条項を解釈し直して、上級教諭として、講習や再教育等の研修を受けた専門.
(5) 改正教育基本法に見る教員像一第 9条と関係法規を中心として. 3 5. 家を養成してから、教科外の指導に専念すべきである。このような方法を取 らなければ教員の専門職への道は程遠いものであろう。. 2 . 教員と保護者 憲法や教育基本法では家庭における親の教育権や教育義務が特記されてい る。憲法の第 26条では「すべて国民は、法律の定めるところにより、その 保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負」っている。義務教育は、こ れを無償とすると規定されている。その前提として、民法でも「成年に達し ない子は、父母の親権に服する。その親権は父母の婚姻中は父母が共同して. 818条)。親権を行うものは子の監護及び教育をする権利を有し、義 行う ( 務を負う (82 0条)J ことになっている。しかし親はアマチュアの教師であ り、あくまでも家庭教育としてわが子だけの教師である。他人の子どもや公 における教育の権利はない。家庭教育も生活指導や生きる力を対象としてい る 。 ちなみに教育基本法の関係条項では 第 10条. 父母その他の保護者は,子の教育について第一義的責任を有す. るものであって、生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自 立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする。 2 国及び地方公共団体は、家庭教育の自主性を尊重しつつ、保護者に対. する学習の機会及び情報の提供その他の家庭教育を支援するために必要 な施策を講ずるよう努めなければならない。 と述べている。当然第 1項は保護者に周知徹底すべきものである。 現在は「保護者の学校運営への参加」や「聞かれた学校論」を拡大解釈し て、要望転じて不条理なクレームや「いちゃもん」を持ち込むいわゆる「モ ンスターペアレンツ」の問題も生じている。この 10条によって、家庭でや るべき膜を教員に頼むような状況を除外しなければ教員の専門力の向上は望 めない。現在は教員が授業や本来の教育に専念で=きない状況になっている。 場合によっては、家庭独自の独断的な主張や家庭の教育力の具体化である接 も学校に押しつけられている。そのため、現在の学校は以前にはなかった業 務が多くなった。その結果、教員は本来の教育活動は言うに及ばず、教員養 成課程の範障からも逸脱した業務に忙殺されることになり、ストレスから来 る種々の病理現象を引き起こすことになる。今こそ家庭や地域を教育的に再 編すべきである。教科外の児童・生徒指導は欧米と同様家庭や地域にゆだね るべきである。この教育基本法の条項では家庭や地域の教育力の低下を憂え たことが背景にあろう。旧教育基本法より強調された特別な条項になってい る。種々の教育学的、精神医学的提案がなされているが、さしあたって地域.
(6) 3 6. 織田成和. の代表である学校評議員制度を積極的に多面的に活用させることが望ましい のではなかろうか。 保護者はいかに優れていてもアマチュアである。それに対して免許を持っ ている教員は制度的に保証され、他人の子どもを指導する資格を有するプロ である。中央教育審議会の提言「今後の教員養成・免許制度の在り方につい て J (平成. 1 8年 7月)があるが、これは教職大学院によって教員の資質向上を. 意図したものである。すでに平成 9年 7月 2 8日の中央教育審議会の答申の教 育職員養成審議会も教員の資質能力に言及している。この第 1次答申の I 新た な時代に向けた教員養成の改善方法について」で教員の資質能力について、① いつの時代も教員に求められる資質能力②今後特に教員に求められる具体的 資質能力に言及している。その中で、崇高な精神、崇高美、崇高な使命、社 会的使命が挙げられ、ほかに畏敬、偉大などがあげられている。 教員の資質に関しては古くは明治 1 3年の教育令改正、明治 3 3年の第三次 小学校令や小学校令施行規則等があるが、これらの中にこのころの教員の基 本的性格として小学校教員の心得及び品行や品格等がみえてくる。国際的に はユネスコによる「教員の地位に関する勧告」があげられる。これからの教 員の資質能力は「高い人格と知見及び幅広い視野を持ち、教職を生涯を貫く 天職と考え、愛情と誇りを持ち、模範的行動をとることに留意し、指導・教 育という職務に全力を傾注し、児童・生徒との関わりや模範的活動を第一義 的に考え、自分の教育力を十分に発揮できるような職務遂行能力 J である。. 3 . 教員の職責と使命 教員はまずコンブライアンス(法令順守)の精神がなければならない。イ エリネク. C J e l l i n e c k ,G .,1 8 5 11 9 1 0の言葉を借りるまでもなく、「法は倫理 均. 的最小限」である。まず教員には道法精神が必要である。教員自身が法令や 規則を無視して、児童生徒にきまりや指示を守るような指導や教育はできな い。教員に関しては、国家公務員法、地方公務員法、教育公務員特例法等、 守るべき身分上の法令がある。加えて職務上、習熟しておかなければならな いものとして学習指導要領(学校教育法施行規則第 25条、第 54条の 2、 第 57条の 2、第 73条の 10) や学校管理規則それに通達等がある。それ を絶対的な前提としたうえで、状況に応じて職務遂行上あるいは教育上、倫 理的・道徳的判断をしなければならない場面が生じる。プライベートな日常 生活でも、児童・生徒の自に触れる所で乱れた服装や前後不覚の泥酔等は一 般社会人には許される行為でも児童生徒の模範になるべき教員には犯罪には ならなくても許されないこともある。師範は古くから教師の意味で使われて きたが、もちろん手本や模範を示す意味になる。教員は児童・生徒を厳しく.
(7) 改正教育基本法に見る教員像一第 9条と関係法規を中心としてー. 3 7. 指導するためにはまず自分が常に正しくあろうとしなければならない。服装 や行動は流行の中庸が望ましいものになる。このような視点を基礎にして、 教職の使命は考えていかなければならない。 改正された学校教育法に謡われている義務教育の指導内容は児童・生徒に 指導すべきものであるが、これは当然、まず教員が、自ら守って模範を示さ なければならない内容であろう。この条項は教育基本法に規定する目的を実 現するため、種々の目標を達成するのが前提である。これは自主・自律の精 神、規範意識、公共の精神に基づき主体的に社会の形成に参画し、その発展 に寄与する態度を養うためである。教員も「伝統と文化を尊重し、それらを はぐくんできたわが国と郷土を愛する態度を養うとともに、他国を尊重し、 国際社会の平和と発展に寄与する態度を養」えるような指導力を持つ必要が ある。 公立学校の教員は公務員である。既述の日本国憲法第 15条②によると「す べて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」し、地方公 務員法第 32条によると、「公務員はその職務を遂行するにあたって、法令、 条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規定に従い,かっ 上司の職務上の命令に忠実に従わなければならないけ公務員はこのような 種々の義務がある。教員を含む公務員は全体の奉仕者であるから業務遂行に おいても個人の思想、特に政治的なものは自粛すべきである。当然、教員自 身が所属する地方公共団体の長は選挙で地域住民の代表として選ばれており、 その指示命令に従うのが個人の信条に関わりなく公務員の義務であるから、 教員の上司としての校長の指示命令にも従うのを当然とする。「校長は校務を つかさどり、所属職員を監督する(学校教育法第 28条)J のである。公務員 は公共の利益に貢献し、地域全体や社会の奉仕者でなければならない。同時 に職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も同様に秘 ) 。 密を守る義務がある(地方公務員法第 34条 教員の勤務条件と服務規程に関しては教育公務員特例法がある。ほかに地 方公務員法第 30条に服務規定として「すべて職員は、全体の奉仕者として 公共の利益のために勤務し、且つ職務の遂行に当っては全力を挙げてこれに 専念しなければならない。」同じく 35条に職務専念義務として「職員は、法 律文は条例に特別の定がある場合を除く外、その勤務時間及び職務上の注意 力のすべてをその職責遂行のために用い、当該地方公共団体が,なすべき責 を有する職務にのみ従事しなければならない j のである。 地方公務員法には守秘義務に加えて、政治的行為の制限(第 36条)、争議 行為等の禁止(第 3 7条)、営利企業等の従事制限(第 38条)があげられる が、国家公務員法でも第 100条(守秘義務)をはじめとして同様のことが.
(8) 3 8. 織田成和. 規定されている。. 4時間教員であり、信用を失墜するような行為は禁止されている。 教員は 2 地方公務員法第 33条は信用失墜行為の禁止として「職員はその職の信用を 傷つけ、又は、職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない。 J これには一般の社会人には要求されない名誉が含意されている。つまり、高 度な精神的・道徳的自律心の所持及び行為である。公務遂行の面でこれを詳 細に規定しているのが、国家公務員倫理法第 1条であり、一般の公務員にも 適用されよう。これに規定されているように、公務員は所属する国又は自治 体の国民または住民に対する職務の公正さが 2 4時間要求される。国立学校 の教員は国家公務員であり、公立学校の教員は地方公務員である。ただ、公 立小中学校の教員は身分は市町村の職員で=あっても、給与という面から考え ると県費負担教職員である。根拠法は市町村立学校職員給与負担法で、市町 村の財政格差で教員や給料の面で不公平が出ないような配慮である。都道府 県負担といっても義務教育費国庫負担法によって国が半額負担することにな っている。 市町村立学校の教職員の給料はこのような形で支出されている。地方教育 行政の組織及び運営に関する法律第 37条第 1項によって、市町村立学校職 員給与負担法第 1条及び第 2条に規定する職員つまり、県費負担教職員の任 命権は都道府県教育委員会に属する。この給料に関しての施策として、めり はりのある教員給与体系の実現が考慮されている。これは国や地方自治体の 教育界に優秀な人材を得るため、教員の処遇を充実しつつ、公立学校の教員 給与の一律の優遇を見直し、教員評価を踏まえた給与体系にし、国が「がん ばる教員」を支援する意図がある。一律 4 %の教職調整額について、教員の 勤務実態に合わせ、支給率に差をつけるなど見直すことが考慮されている。 また、副校長、主幹らの配置など、教職員の加配措置も講じられている。こ の計画は「なべぶた J と言われていた学校組織に合理的・科学的経営を取り 込んだものであると評価される。 各都道府県教育委員会は、教員の大量退職期を迎えているこの時期に当た. 4年までに採用数の 2割以上を目標と り、特別免許状の活用を促進し、平成 2 するなど、社会人、大学院修了者などを大量に教員に採用することが企図さ れている。. 4 . 教員と研修 教育公務員は学校という教育活動を行う組織体の一員であり、かつ生徒に とって「理想的な先生 jになる必要がある。そのためにはたゆまない研修が必 要である。「すばらしい教員 Jはあらゆる角度からの f 人間的磨き」が備わって.
(9) 改正教育基本法に見る教員像ー第 9条と関係法規を中心として. 3 9. いる指導者であるべきである。そのためにも教員にとって研修は不可欠であ る。教育再生会議による提言も「教員の質を高める j ことや「子どもと向き 合う時間を大幅に増やす」ことも計画されている。豊かな人間性を持った優 れた人材が教員には要求される。 教員は人間として、青少年の模範的存在としての身近で尊敬できる公的立 場の大人になる必要がある。学識,道徳心、行動力等総合的に見習うことの できる大人でなければならない。 教員の研修は行政解釈によると①職務命令に基づく研修、②職務専念義務 の免除による研修、③勤務時間外に自主的に行う研修に大別される。このう ち①②は主として行政によって指示された行政研修である。そうでないのが ③の自主研修である。 このように研修には行政研修と自主研修がある。行政研修は教育行政の担 当者である文部科学省の方針の下に都道府県それに市町村教育委員会が行う ものである。校外研修も多い。教員にとっては義務になり、受身の立場であ る。これに対して自主研修は教員が主体的・自発的に行うものである。研修 に必要な内容も憲法第 23条で学問の自由として保障されている o その両者を教員本人が組み合わせて自己の専門性及び人間性を向上させて いくべきである。自主研修のみでは独りよがりの自己満足的成果につながり、 行政研修では比較的法令を中心にした堅い官製的研修になりやすいので、両 方の利点を組み合わせる必要がある。行政研修で研修の専門的骨組みと方向 性を形成し,自主研修で一般的教養の肉付けや専門的力量を増大させる必要 がある。その目指す所は、教科指導の向上をはじめとして、実践的指導力や 生徒指導力の強化それにボランティア活動の精神の増大である。 教員の研修は研究・修養の短縮語とも考えられ、積極的意味がある。教育 公務員特例法第 21条「教育公務員は、その職責を遂行するために絶えず、 研究と修養に努めなければならない」は文字通りその職責を遂行するためで ある。しかし研修及び勤務成績の評定に関して地方公務員法では次のように 規定されている。第 39条「職員には、その勤務能率の発揮及び増進のため に、研修を受ける機会が与えられなければならない。 J つまり、勤務能率の発 揮及び増進のためである。この研修は、任命権者が行うもので受け身的であ る。これに関して地方公共団体は、研修の目標、研修に関する計画の指針と なるべき事項その他研修に関する基本的な方針を定めることになっている。 教育公務員特例法第 23条によると公立の小学校等の教諭等の任命権者は、 「当該教諭等(政令で指定する者を除く)に対して、その採用の日から 1年 間の教諭の職務の遂行に必要な事項に関する実践的な研修(以下「初任者研 修 J という。)を実施しなければならない」と特記されている。しかも任命権.
(10) 4 0. 織田成和. 者は「初任者研修を受ける者(次項において「初任者」という。)の所属する 学校の教頭、教諭、文は講師のうちから、指導教員を命じるものとする。こ の指導教員は、初任者に対して教諭の職務の遂行に必要な事項について指導 及び助言を行う」ものである。 この初任者研修は教員として新しく採用された条件付採用の 1年の聞に現 場に密着した指導を受ける研修である。これは昭和 6 2年から 6 3年に試行が なされ、現在すべての学校種で実施されているものである。 他に教職の経験年数による研修は県によって相違はあるが、 5年研修、 1 0年研修、 15年研修、 20年研修等があり、加えて管理職になれば、管理 職研修がある。 研修計画の体系的な樹立に関して教員の任命権者は、教育公務員の研修に ついて、それに要する施設、研修を奨励するための方策その他研修に関する 計画を樹立し、その実施に努めなければならない(教育公務員特例法第 21 条 2項。). 教育公務員特例法第 22条は研修の機会を保障する規定である。つまり、 教育公務員には、研修を受ける機会が与えられなければならない。そのー っとして、教員は、授業に支障のない限り,本属長の承認を受けて、勤務場 所を離れて研修を行うことができる。さらに教育公務員は、任命権者の定め るところにより、現職のままで、長期にわたる研修を受けることができる。 その代表的なものとして、大学院での長期研修が上げられる。これによって、. 3年教員免許制度改正)が得られ、かなり専門性が高まる事 専修免許状(昭和 6 になる。これは教員に広い視野を与え、現場復帰してのリフレッシュにつな がるものである。 新しい条項として教育公務員特例法第 25条の 2 (指導改善研修)があげら れる。つまり、任命権者は、児童、生徒への指導が不適切と認定した教諭に 対し、指導改善研修を実施しなければならない。研修期間は 1年を超えては ならない。ただし必要と認める時は開始日から 2年を超えない範囲で延長で きる。研修終了時に改善程度の認定を行われなければならない。任命権者は 認定に当たり、教育学、医学の専門家および保護者の意見を聴かなければな らないが、指導改善研修後の措置として、任命権者は、指導の改善が不十分 と認める教諭に対し、免職その他の必要な措置を講ずることになる。(第 25 条の 3 ) この教員免許更新制の導入は平成 21年 4月 1日から施行される。免許状 を有する教員は更新講習の終了確認を文部科学省令で定める日とその後 10 年ごとの日までに受けなければならない。修了確認を受けなかった場合、免 許状の効力を失うことになっている。.
(11) 改正教育基本法に見る教員像一第 9条と関係法規を中心として. 4 1. 5 . 教員と権威 教えることと権威に関して概述する。 戦前は国家権力を背景にして、初代文部大臣の師範教育の理念である「順 良、信愛、威重」を備えた教員が理想、であった。教員の立場は国の方針の伝 道者であった。現在は国の定めた基準を満たして、免許を所持し、たゆまな い研究と修養に裏付けられた権威である。これからの教員の権威は昔の権威 と異なり、高くて届かないプライドではなく、身近な大人の模範であり、親 近感の備わった大人である。その教員は「全体の奉仕者であり、その職責の 遂行に務めなければならない(旧教育基本法第 6条)J ものである。 教育再生関連三法(学校教育法、地方教育行政の組織及び運営に関する法. 9年 6月 2 0日成立した。 律、教育職員免許法及び教育公務員特例法)が平成 1 これは改正教育基本法を受けて. 中央教育審議会の答申「教育基本法の改正. を受けて緊急に必要とされる教育制度の改正について」が出され、引き続い ての答申「今後の教員給与の在り方について」を踏まえて、教育三法として 成立したのである。そのうち教員と関わりのある部分だけを取り扱うことに する。 現在の教員は開放性の免許制度で養成されて、国の法や基準に基づいた(教 育職員免許法による)教員である。養成は主として大学で行われるが、大学 教育では個人としての生来の能力や素質それに性格等を活かし、かつ一般教 養を基礎にして、教職教養や各自の専門教養を学習・研究して、幅広い教養 を備えた教員養成が目的である。特に教職に関する科目である教職教養と専 門教養である教科教育は重要である。教員免許は主として大学所在地の都道 府県が発行するが、全国に適用する。 教員免許を取得して(あるいは取得見込みで)政令指定都市を含む各都道府 県で行う教員採用試験もしくは教員適正検査を経た後、教員として採用後、 さらに現職研修として、教壇に立ちながら教科の実践的指導力を含めて、実 際的な指導技術を学び、時には問題行動を起こす生徒と真剣に取り組んで、 学校独自の教育・職務活動を体験して、教員として成長していく。この過程 で現実的な教育に対する使命感が備わわ、教員の現代的威厳はまさにこの研 修によって培われる。 教員が専門職になるためにはさらに研修期間が必要である。これからは大 学院を義務化し、修士の学位を持ち、. 1 ' " ' ' 2年間の初任者としての研修期間. を経る必要がある。他の専門職といわれる医師や弁護士は少なくともモラト リアムが 30歳前後まではかかる。特に医師は大学卒業時の国家試験合格後 本格的研修が始まる。その研修の間に専門性の深まりと人間的な幅広さが培 われる。.
(12) 4 2. 織田成和. 最近行われている、教員免許を持たない社会人を教員の世界に採用するの は、教育界に新風を取り入れる意味では斬新なものではあるが、教員の専門 性を軽視したものではなかろうか。 現在最も学校教育で着目されている項目は「生きる力 jである。これは平成. 8年 7月の中央教育審議会答申の r 2 1世紀を展望した我が国の教育の在り 方について Jの中で「教員の資質・能力の向上」に言及されている。この「生き る力 Jの育成が教員の豊かな人間性や深い専門的知識および実践的指導力の 計測の尺度になろう。教員個人の個性的な人格だけでなく、他人との協調性 も大きな教員の条件になる。昔の「学級王国的 J教員論は現在では適用しない。 これからは種々の問題に対して他の専門教科や教育関係の他業種との連携を 図れる課題解決能力も必要である。このため、教員採用の項目の中に生活体 験や社会経験を適切に評価し人物を教育者として的確に判断するために面 接や実技試験を重視する事も提案されている。 教育基本法の改正を受けて、学校教育法が既述の知く改正され、同時に教 育職員免許法も可決された。その最も中心となるのは教員免許状の 10年 効 力である。その延長のためには文部科学省令で定める 2年以上の期間内に免 許状更新講習を修了した者または知識技能その他を勘案して免許状更新講習 を受ける必要がないと免許管理者が認めた者以外は受けなければならなくな った。この免許状更新講習の時間は 30時間以上となっている。中央教育審 議会の提言「今後の教員養成・免許制度の在り方について J (平成 1 8年 7月) の中には教職大学院によって教員の資質向上を意図したものがある。公立学 校の教員で分限免職処分を受けた時は教員としての地位は失効する。さらに、 この法律で指導が不適切な教員の人事管理の厳格化があり、指導が不適切な 場合、研修等が行われ、改善されない場合は免職その他必要な措置を講ずる ものとされる。 中等教育の教員に関して若干付言する。中学校や高校の教員は主として教 科の専門を基礎としているが、これに秀でているだけでは、教員としては充 分ではない。教科内容の優れた人は多いが、これに加えて中等教育の年齢の 生徒の心理状態や理解を踏まえてどのように伝達するかの指導実践の理論や 経験が教員の専門家たるゆえんである。教員の主な指導内容は生徒(生活) 指導による精神的・道徳的面と実技・技術と教科等の知識面が併行して行わ れることである。特に中等教育は生徒指導に多様な問題が生じ、困難が多く なっているから切実な課題である。 今回の教育職員免許法の改正や教育職員免許法施行規則第 6条により設置 された科目として 教職の意義等に関する科目.
(13) 改正教育基本法に見る教員像-第 9条と関係法規を中心として. 4 3. ①教職の意義及び教員の役割 ②教員の職務内容(研修、服務、身分保障等を含む) ③進路選択に資する各種の機会の提供 があるが、このうち教員論に関わるものは①と②であろう。このころから 教員に関する中心になる視点は専門教科よりも教員の「教育者としての品格 や意義及びあり方」に変わっていった。初等教育は最初から教員の人間性重 視の考えがあったが、中等教育に関しては、以前、特に戦前は専門教科に優 れたものは、即優秀な教員という考えがあった。現在の教育職員免許法施行 以前にさかのぼると、旧制大学出身者は免許がなくても旧制の中学校や高等 学校に教員として奉職していた。専門性の絶対重視である。戦後も最近まで 中学校・高校の中等教育でこの考えが顕著であったが、現在生じている中等 教育の問題はむしろ逆に初等教育もよりもこの伝統的な考えと矛盾してきで いる。それが、専門教科より、教職教養の分野への見直しになっている。つ まり、専門的能力や資格よりも社会人としての常識や性格それに教員として の適格性や人格的要素が強調されるようになった。教員採用試験の傾向もこ の点を重視して多様化してきでいる。これは昭和 57年 5月の文部省通知に 表れている。この方針で平成 8年 4月に文部省教育助成局長が教員採用の改 善に関する通知を出して「人物評価重視 Jもこの具体的施策のひとつであるが、 養成課程である大学へも人物評価の推薦状が多く要求されるようになった。 教員採用試験は試験という用語を用いているが、公務員の採用の競争試験と は異なっている。教員採用の独自の用語として「選考Jが使われており、必ず しも筆記試験の順位だけが採用基準ではない。教育公務員特例法第 11条に よると「公立学校の校長の採用並びに教員の採用及び昇任は選考によるもの とし、その選考は、大学附置の学校にあっては当該大学の学長、大学附置の 学校以外の公立学校にあっては、その校長及び教員の任命権者である教育委 員会の教育長が行う」ことになっている。当然筆記による成績も第一の要件で あるが、既述の人物評価、特に、社会的常識、子どもの手本になれる道徳的 素養、リーダーシップを発揮できる指導能力や良好な人間関係が必要になっ てくる。これらが「選考Jの対象になる。この要因がこれからの教員の理想的 姿を形成していくことになろう。. 総括 以上を考えると、教育基本法は新しくなっても理想的教員像は今までとが らりと変わるものではないが、法的には近代公教育制度における学校の公的 職務に従事する専門職である。その職は教育職員免許法を基礎としてその上 に研修によって、豊かな人間性と専門的力量を絶え間なく構築し、かつ一旦.
(14) 4 4. 織田成和. 児童・生徒の前に出たら、年齢に関係なく、若々しい感性を持ち、彼らを平 等に愛し、指導することを天職と考え、それに責任感と使命感を備えなけれ ばならない。社会的には常に目を大きく見聞き、児童・生徒に寛容な精神で 接し、時には共感によって、心の琴線にふれる必要がある。しかしその立場 は政治的にも宗教的にも中立でなければならない。 教員の専門性には 2面性がある。 一つは国語算数(数学)等の教科や内容である。これは国語・国文学や理 学部の数学とは異なり、児童・生徒を意識した教科という専門である。 もう一つは児童・生徒の人格形成や正しい生活指導及び習慣形成への尽力 である。 以上の 2点を、融合させたものが教員の専門性であるが、学級組織の中で 時には一方に重点的に全力を傾注し、場合によっては他方に力点を置きなが ら、児童・生徒に接し、全力を挙げて専念するものである。この 2面性の型 が他の専門職等と異なる特殊性である。 このように学校教育は、本来教科教育と生徒(生活)指導が中心であったが, 最近はそれ以外の雑務が教員の時間を取るようになった。たとえば、保護者 の理不尽な要求等のトラブルを抱えていたら、教科指導への専念も不可能に なる。保護者との問題に真剣に取り組むまじめな教員ほど本来の教科指導が. 8年度は年間 3 0日以上欠席した おろそかになると考えられる。さらに平成 1 不登校の児童・生徒数が. 1 2万 6 7 6 4人(前年度比 3 . 7 %増)であると文部科. 学省の学校基本調査で報告されている。そのうち、いじめが原因のものが、. 4 6 8 8人である。これからは、親のクレーム処理係、いじめ、校内暴力、不登 校の児童・生徒の相談係、児童・生徒の人間関係の相談係等が校務分掌以上 に独立していく必要がある。特にスクールカウンセラーによるカウンセリン グや精神的な心に関する臨床および教育相談の重要性がますます高まってい くであろう。文部科学省もいじめ解消への総合的な対策事業として校内に精 神科医や弁護士を中心として「危機管理対策ティーム J の創設をはじめとし てスクールカウンセラーの増員等、種々の支援事業を充実させる方針である。 行政的にはカウンセラーを監督指導するスーパーパイザーを配置することに している。 参考文献. 9年 ①教育小六法、市川須美子他編集、学陽書房、平成 1 ②教職問題研究会編、教職論、ミネルヴァ書房、平成 1 5年. 9年 8月 1 0日(金)、平成 1 9年 9月 1 7日(月) ③産経新聞、平成 1 ④田井康雄編、教育職の研究、学術図書出版、平成 1 8年.
(15) 改正教育基本法に見る教員像-第 9条と関係法規を中心として. 45. ⑤日本教育新聞社、日本教育新聞 ⑥牧昌見編、教職「大変な時代 J、教育開発研究所、平成 9年 ⑦吉田辰雄、大森正編著、教職入門、教師への道、図書文化、平成 1 1年.
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