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異質な存在としてのAI とその社会的受容

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Academic year: 2021

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1.は じ め に

本稿では AI の社会的な受容を論じる.その際に注目 するのは AI の異質性を指摘し,それを理由として AI が 社会に,あるいは人間に,なじまないとする種類の議論 である.こうした議論に対して人間社会はすでに異質な 存在を内包してきたし,異質な存在を取り込んできたこ と,それに照らせば,AI が提示する異質性は格段に警 戒を要するものではない,という論を主に立ててみたい. 議論を進めるにあたって AI に関して二つほど前提条 件をおくことにする.一つは,いわゆるシンギュラリティ については考察の対象から外すことだ.もう一つ,AI が単にソフトウェアやオンラインサービスの形をとるだ けではなく,ロボットのようにより社会的な機能を担い やすい物体の振舞いの制御に用いられることを前提にし たい.つまり,何かの入力を受け付け,情報処理を行い, 物理的な動きを生むことがあるようなシステムを想定す る.これは何か大げさに聞こえるかもしれないが,身近 なところでは,ATM や自動改札機,自動販売機,洗濯 機やエアコンなどが(「知能」のレベルはともあれ)こ のような意味でのシステムだといえる. なお,本稿は著者の主な研究テーマの一つである,オー プン化やオープンなイノベーションについての研究・洞 察に多くを負っている.

2.AI とロボットによるケア

AIとロボットによるケアはすでに現実のものになっ ている.例えば産業技術総合研究所が開発したパロと呼 ばれるアザラシ型の小さなロボットが存在し,高齢者な どに心理的な癒しを与えるものとして国内外で活用され ている.利用者がパロをなでたり,たたいたりすると, それをポジティブ,ネガティブなフィードバックとして パロの振舞い方を調整する仕組みが組み込まれている. 利用者がパロに名前を与えると,それに対しても反応す る仕組みになっている [Paro Robot US, undated].ケア

の文脈をターゲットにしていたわけではないが,ソニー が開発していた犬型ロボットの AIBO についても同様 の利用がある.それぞれ研究も存在している [Banks 08, Broadbent 14, Jøranson 15, Pfadenhauer 15, Robinson 13].また,フランフォーファー研究所が開発を続けて いる Care-O robot [Impressum undated] は,現在の最 新版であるバージョン 4 では垂直に長いボディ,2 本の アームと頭部,二つの目,などを備えており,人型に近い. 高齢者のケアにはさまざまな側面が存在しており,心 理的なケアを与えることはそのごく一面に過ぎない.見 方によっては大した役に立たない存在だ.だが,昨今, AIやロボットがさまざまな職業を代替する可能性につ いて議論されている中では,一部の対人サービスは人間 への理解が必要になることや業務の非定型性などの理由 で AI やロボットによる代替の可能性が低い,という説 も存在する [ブリニョルフソン 15, コーエン 14, ダベン ポート 16].その文脈に照らして考えるなら,現に(人 間なみの知能にはほど遠いと思われる)AI がすでに対 人サービスの目的で実用に供されているというのは興味 深い事例ではある. 一部の対人サービスが代替されにくいという説には いくつかの理由がある.その一つは,人間の心理や思考 は複雑でこれを適切に理解し,対応することは人間以外 には難しいだろう,という機械と人間の異質性に由来す るものだ.もう一つは,人間は AI やロボットなどに対 応されることを必ずしも快く思わず,つまり消費者側の 需要がないために代替が起こりにくいだろうというもの だ.仮に AI が高度に発達して人間の心を「理解」する ようになったとして,それは所詮,理解しているかのよ うに機能するだけであって,洗濯機や冷蔵庫が人間の心 を理解できるはずがないのと同様に AI に人間の心を理 解できるはずがない [Sparrow 15]. AIについてのこうした見方と関連して,AI やロボッ トがケアを担うべきであるかについての倫理的な議論も 存在している.人を介護し,慰撫する存在としてのロ ボットは,長らく議論がされてきた分野であり,介護を 受ける側がそれを受容していることを示唆する研究も

異質な存在としての AI とその社会的受容

AI as a Stranger and Its Social Acceptance

渡辺 智暁

慶應義塾大学,国際大学 GLOCOM

Tomoaki Watanabe Keio University. / GLOCOM, International University of Japan. [email protected]

Keywords:

AI, robot, elderly care. 「AI 社会論」

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増えつつある [Bemelmans 15, Broekens 09, Fischinger 16, Rosenthal-Von Der Pütten 14].検討にあたって注 目に値するように思われるのは,AI を取り入れたロボッ トの役割が明らかに単純な作業の遂行(体温測定やベッ ドからの起き上がりの介助など)にとどまっておらず, 心理的なケアに及んでいる点だろう.人はこのような人 間ならざる者,意識も愛情も相手をケアする心ももたな い存在物によって心の慰みを得てよいものだろうか?  ケアに関わる義務は家族や地域社会,政府などにあるの であって,それは AI やロボットに委ねられてはいけな いのではないか? これは社会の比較的具体的な場面に 関する問いでありながら,AI と人間の関係のあるべき 姿について,他の場面でも登場する問いにも通底する部 分があって興味深い.そこで本稿ではそのような問いか ら考えてみたい. 2・1 精神生活における「人ならざる者」の役割 高齢者であれ,それ以外の者であれ,人が心の慰み を得る対象は,すでに人間に限られていない.そのわか りやすい例をいくつかあげることができる.例えば,ぬ いぐるみや人形,土産物の置物の類の中には,人に安ら ぎや慰みを与えるものがある.愛玩の対象になるものも ある.これらの物体は,人ではなく,反応らしい反応を 返すこともない.置物や人形の中には,贈り手や作り手 と持ち主の間に具体的な人間関係が存在していて,その ような人間の相手に対する感情を喚起することが重要に なっているものもある.宗教的な意味を込められたもの などもある.だが,そうなっていないものもある.その 心理的な効果の一部は,その物の形や見掛け,質感など に起因している. 「物理的な実体をもたない」と形容してもよさそうな 虚構上のキャラクタも,似たような形で人に心理的な恩 恵を与えることがある.子供であれば,ポケモンであっ たり,妖怪ウォッチであったりといった人ならざる存在 が描かれたフィクションを楽しむ者も多い.児童文学の 世界でも動物達と話をすることができ,家族のようにつ きあうドリトル先生のように,人が人ならざる者達と交 流する様子を肯定的に描いた話も枚挙にいとまがない. こうしたキャラクタが「高齢者の心のケア」の文脈で一 定の機能を果たす,という例を著者は具体的には知らな いが,文学作品や映画,テレビドラマなどを通じて実際 に一部の高齢者の心に慰みや安らぎなどを与えていたと しても不思議はないように思われる. 高齢者のケアや心理的なケアという文脈を離れ,広く ケアの文脈から考えると,犬がケアやセラピーに用いら れることは少なくない.盲導犬を否定して,社会的弱者 の介助はすべて人間が担うべきである,という議論は可 能だろうか? 人間によるケアには多額の費用がかかる ことをいったんは除外して考えるために仮に経済的に実 現可能であると仮定して考えた場合でも,それが効率的 かどうかは自明ではないだろう. 近年では犬その他の動物を使って心身の健康を改善 するような試み(Animal Assisted Activities や Animal Assisted Therapies)も広がりつつある.ここには,人 間ではなく犬であるからこそ効果が出る側面などもある ように思われる [Barker 08, Nimer 07].

人にとってはペットを喪失することが身内の喪失に 比肩する心理的ショックになり得ると示唆する調査,専 門家も存在する [Chur-Hansen 10, Gage 91, Planchon 02]. AIや AI を組み込んだロボットが社会に浸透していく ことや,人に心理的な恩恵をもたらす機能もそこに含ま れることは,こうした人ならざる者達がすでに社会にお いて人の精神生活も含めて一定の機能を果たしており, 恩恵を与えていることを考えるなら,未曽有の変化とい う類のものではないように思われる. このように視野を広げてみるならば,人がもつ「人間」 との関係もまた多様である.自分に対して慰撫や安寧を 与えてくれる存在が虚構のキャラクタである可能性につ いてはすでに述べたが,虚構の人間のキャラクタについ ても同じことがいえる.実在する人間であっても,その 人が自分を認識したり,理解したり,自分に対する親愛 の情をもつ可能性がほぼない,ということも当然あり得 る.歴史上の人物,映画やテレビなどのマスメディアに 登場するだけで双方向的な関係をもつことが実質的にで きない人物,などをその例としてあげることができる. 空間的・時間的な隔たりがあって,一方向的で,映像や 文字や音声などの限られたメディアを通じた接触であっ ても,人間は他人の存在を感じることができる.そうで ある以上,高齢者であれ,他の者であれ,心理的な恩恵 を与えてくれる人間は,対面で接する者だけに限られな いのはある意味では自然なことのようにも思われる.小 説のようなフィクションに登場する人物や,実在した人 物の実話を伝えているかどうかについてさまざまな見方 が成り立つ宗教上の人物などから心理的に安寧などを受 ける者ももちろん存在している. 短く言い換えてみよう.人はそもそも,交流できるよ うな相手である生身の人間以外の存在,生身の犬や歴史 上やメディア上の人間,虚構の人や人以外の存在,見掛 けなどが動物などと類似性をもつぬいぐるみなどに対し て,それを「自分が交流できる人間ではない」と片づけ るよりもずっと複雑で豊かな感じ方をしている.そのよ うな人間の文化やそれを可能にしている人間の心理など を考えるなら,AI やロボットによって高齢者の心理的 なケアが担われるということは,何か未曽有の事態とい うほどのものではない. このような関係は,一方では,度が過ぎれば奇妙な行 動になり得る.だが,そうした感受性を全く欠いていて, モノはモノ,フィクションはフィクションという以上の 扱いをしない者もまた,奇妙に映ることがあるだろう.

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ある人がぬいぐるみをモノとしてしか扱わず,ごみ袋に 収まりが良いようにハサミでいくつかの断片に切断した うえで残飯と一緒に生ごみに出し,別の人がそうした行 動にためらいを覚えるとしたら,少なからぬ人は後者に 共感を覚えるのではないだろうか.人がロボットに対し ても共感を感じることを示す研究 [Rosenthal-Von Der Pütten 14]や,知的な機能が高いロボットを破壊するこ とを人は快く思わないということを示唆する研究も存在 する [Bartneck 08].AIBO の所有者の中には故障の「修 理」のために足を交換するというような措置に抵抗を示 す人がいるという.人の判断基準はその程度には中途半 端であり,その中途半端な感受性によって,生身の人間 以外のさまざまな存在が社会の一部を構成している.こ うした感受性は人によってだいぶ違うだろう.著者は自 宅で犬を飼う経験をもつ以前には,飼い犬に話しかける 飼い主を奇妙だと感じたのを覚えている.ところが,犬 を飼うという経験を経てみると,犬に話しかけること がごく普通に感じられるどころか,飼い主が犬に話しか けることがないとしたらむしろそちらのほうが何か奇妙 な,ことによっては人間性を欠いたとでも形容すべきこ とのように感じられた. 2・2 誤解の余地と,「人間扱い」の基準 AIを組み込んだロボットと比べて,フィクションや ぬいぐるみや犬などは人と取り違えられる可能性は格段 に低い.AI を組み込んだロボットはその点,振舞いや 受け答えの人間らしさを非常に高いレベルで達成しよう としている場合があり,それが(現在可能であるような 水準を超えて)大いに成功する場合には,人を騙してい るという点で問題が発生する余地がある,という議論も ある [Sharkey 12, Sparrow 06].そのような誤認に基づ く関係というのは,虚しいものだ. このような虚しさは AI に固有の問題ではなく,人間 同士の関係についても想定することができるものだ.例 えば死期の近い高齢者と懇意になって遺産の分与を狙お うとする者が,その高齢者に対する理解や尊敬や愛情を もっているかのように装う,といったことを考えてみれ ばよい.あるいはまた,ショッピングチャンネルについ ての研究で,購買者に対して家族の一員であるかのよう に扱い,それをテレビで放送することで視聴者をそのよ うなメンバの一員に加わるように誘う,という仕掛けが あると(批判的に)指摘した研究も存在する [Gumpert 92, Ridgway 05, Stephens 96]. AIが人間ではないという点について誤解がないので あれば,AI が人間のように振る舞うことには問題がな いともいえる.AI よりもより長い歴史をもつ小説を例 に考えれば,虚構でありながらも登場人物がリアルに感 じられるように言動や描写を工夫するのは批判されるよ うなことではない.読者がそれとわかっていれば,フィ クションに登場する人物が真実味を帯びていることに問 題がないことと同様,AI についてもその振舞いや受け 答えが人間らしいことは,それが AI であるということ に誤解がなければ,特に倫理的な問題はないだろう.幼 い子供や認知機能に問題を抱えた者と接する AI につい ては,注意が必要な場合があろう. 言い方を変えるなら,実際に双方向的で親密な関係を もてるわけではない対象について,誤解をさせることは, それが双方向的な人間関係であろうが,マスメディアを 媒介にしたものであろうが,AI によるものであろうが, 問題になり得るといえるだろう.高齢者の心理的なケア の担い手が欺瞞に満ちた人間であっても,巧妙に人間を 装った AI であっても,問題になり得る.その意味では, AIをめぐるこの懸念は AI に特有の何か新しい種類の問 題というわけではない. 今のところ,ケアの文脈では AI がケアの対象者を騙 して AI を人間だと思わせる形で用いられるというふう に考える具体的な根拠も著者は特にもち合わせていな い.ただし,現に我々の社会に存在している簡単なプロ グラムの中にはそのような形で用いられていることが あるものもある.例えば米国では,カスタマサポートの 電話番号に電話をかけて受けられる応対が人間によるも のなのか,ある種の自動応答プログラムによるものなの かがわからない場合がある(カスタマサポートの対応 スタッフの英語がぎこちない場合,似たような問いに同 じ回答を繰り返す場合などには特に判断は難しくなる). あるいは,Twitter などのソーシャルメディアのアカウ ントが,人間によって書かれた文章の人間による投稿を するのに用いられているのか,その一部ないし大半がプ ログラムによって担われているのかは,一見してわかり にくい. ちなみに,高齢者ケアの文脈には一般的に虚偽が存在 しないかというと,そんなことはない.認知症をもつ者 へのケアに関して,虚偽と巧みな誘導ととれるような手 法によって患者の徘徊行動や感情の激昂などをうまく制 御するようなアドバイスはすでに存在している [エーザ イ undated].ほかに,もっと広く知られている虚偽と して,末期がんの告知に関する虚偽をあげることもでき る.一般に,当人の安全や健康,満足度などを最大化す る方法が必ずしも本人の自発的な選択の尊重にならない 場面がある.AI の活用法としてこのような虚偽の役割 を増大させる(本稿で問題にしている,人間であると誤 解させるような虚偽も含め)可能性は,こうしたことか らも考えられないわけではない.同時に,虚偽を排し真 正性を維持することが当人の安全や健康,満足度と対立 する場面であっても,虚偽を一律に批判できるものであ るかについては,より詳細な検討が必要であるように思 われる [Matthias 15]. このように,AI の利用法が,ケアを受ける受益者に 誤解を抱かせるという懸念は皆無ではないものの,AI がそもそも生身の人間であると誤解させ,ありもしない

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充実した人間関係が存在しているかのように誤解させる リスクについては,すでに多くの生身の人間ならざる者・ 物が存在し,それらについておおむね誤解なく接してい ることを考えるなら,AI について特段の警戒をする必 要まではないように思われる. 加えて,AI やそれを取り入れたロボットがケアや介 護の文脈で人間を完全に代替する可能性が高いわけでも ないだろう.というのも,AI を取り入れたロボットは, AIの発達度合いが限られている現時点では,洗濯機や エアコン,ホームセキュリティシステムやスプリンクラ, 食洗器など,おおよそ人間や動物などを連想させない形 状,機能,インタフェースをもっている場合も多いため だ.人間のような形状をしていることがケアや介護に最 適とも考えにくい.だが,心理的なケアを含め,ケアや 介護については,少ない費用で多くの効果を得ようとい う圧力は強く働いているように思われる.ケアを受ける 当事者,家族,政府,施設など関連するプレーヤが必ず しも財政的に余裕がなく,少ない金銭的負担でケアを実 施することが重要になる.そこで,心理的なケアを含め て安価に AI やロボットを活用できるところは活用しよ う,という動機はさまざまな者がもつことになるだろう. 2・3 心理的ケアの適性 先にあげた犬と人間の関係は,人間と AI の関係を考 えるうえでもう一つ示唆的な点を含んでいるように思 う.対人ケアの担い手としての適性が最も高いのは,人 間だろうか? その中でも双方向的にコミュニケーショ ンがとれるような人間だろうか? AI や AI を組み込ん だロボットをその異質性ゆえに排除するのでなければ, そうした存在が適性が高い,という可能性がありそうだ. 心理的なケア以外の面を考えてみれば,人間の適性は 限られているし,それゆえに人は多くの道具や技術をす でに用いている.靴や衣服,ベッドや毛布を考えてみれ ば,その代わりに人の歩行や防寒などを他の人間が担う べきだ,という議論は現代社会ではおおよそ成り立たな い.食器や調理道具,火,冷蔵手段などを使って調理と 食事をすることについても,こうした技術を全く用いず に「人がすべてを担うべきだ」という議論は成立しない. 調理についていえば,せいぜいが,さまざまな(最新で はない)技術の利用は認めたうえで,一部の技術を使う ことについて「手づくりのほうが愛情が伝わる」とか(弁 当のように人の手による調理を経てつくられていたとし ても)「大量生産されていて味気ない」といった意見が 出る程度だろう.これとて,社会・技術の状況とともに 移ろいゆく比較的短命な意見のように思われる. では,心理的なケアはどうだろうか.双方向的な関係 を築ける家族などの人間と,犬のような愛玩動物と,AI を比べたら,人間が必ず適性が高いといえるだろうか? おそらくそうではない.ここには三つぐらいの理由があ る.高齢者の中には(人が一般にそうであるように)人 付き合いが得意な人もいれば苦手な人もいる.ケアを受 ける側の感受性に照らして,人間はありがたい相手では ないかもしれない.また,原則として人間にケアを受け たいと感じるような人であっても,具体的な個人との関 係は,良好なものもあれば険悪なものもあり,その中間 もある.日本で心理的なケアを担うことの多い家族を想 定すると,やはり良好な関係もあればそうでないものも ある.さらに,ケアをする側の人間に着目しても適性の 高低はさまざまだろう.こうした事情を考えれば,人間 が人間のケアをすることが最も効果的,とはいいがたい ように思われる. 高齢者介護の文脈で考えると,日本のように家族が介 護を担うことが大きな負担となって,自殺や殺人,心中 をもたらすケースも,高率ではないが存在する.これは 心のケアの負担ではなく,ケアを担う者の時間を多く拘 束するタイプの介護に多いようではある.また,殺人に 至るようなケースであっても,介護をする者とされる者 の間は必ずしも険悪ではなく,嘱託殺人(殺してほしい と頼まれて殺すもので,刑法上は殺人とは異なる犯罪と なる)などが散見される点も特徴的であるように思われ る.そのような留保付きではあるが,ケアの中には大き な負担やストレスを伴うものがあることが,こうした殺 人や心中のケースから見られると考えることは妥当だろ う.また,そのストレスが虐待や険悪な人間関係といっ た形をとる場合も,多く存在するだろう.AI や AI を取 り入れたロボットがこのような負担を軽減できるという 理由でケアの受益者から望まれることは十分あり得るこ とのように思われる.ちなみに,日本の統計からこれら の現象の規模をある程度うかがえるものを拾うと,介護・ 看病の疲れを理由とした殺人・自殺は平成 19 年から統 計がとられているが,殺人は年間の検挙数が 30 ∼ 60 件 の間で [警察庁 08a, 警察庁 09a, 警察庁 10a, 警察庁 11a, 警察庁 12a, 警察庁 13a, 警察庁 14a, 警察庁 15a, 警察庁 16a],自殺は 250 ∼ 300 件程度で推移している [警察 庁 08b, 警察庁 09b, 警察庁 10b, 警察庁 11b, 警察庁 12b, 警察庁 13b, 警察庁 14b, 警察庁 15b, 警察庁 16b, 警察庁 17].同じ動機による傷害罪などは殺人よりも検挙件数 が低い傾向にあるが,厚生労働省が調査している,被介 護者への虐待についての統計を参照すると,発生件数が 多い可能性もうかがえる.この厚生労働省の統計では, 家族・親族・同居人などによる虐待で,自治体に報告され, 虐待と認定されたものがおおよそ年間 13 000 ∼ 16 000 件程度になる(報告の件数は年間 20 000 ∼ 27 000 件 程度になる)[厚生労働省 08, 厚生労働省 09, 厚生労働 省 10, 厚生労働省 11, 厚生労働省 12, 厚生労働省 13, 厚 生労働省 14, 厚生労働省 15, 厚生労働省 16a, 厚生労働 省 17].介護を受ける者は,厚生労働省の 2014 年度分 の統計によれば要介護認定の度数で 2 を超える者であれ ば 320 万人弱,1 を超える者であれば 430 万人強になる [厚生労働省 16b].

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欧米の高齢者についての調査には,高齢者はそもそも 家族の負担になりたくないという願望が強い人々がいる ことを示唆するもの,そうした前提をうかがわせる議論 などがある [Bedaf 16, 江上 01, 藤田 03, 森 01, 和田 01]. 独立した暮らしを営めることに誇りや満足を感じる人で あれば,犬や AI といった人間でない者にケアを担って もらうことに,独自の利点が認められる可能性があるだ ろう.すなわち,負担をかけてもその対象が犬や AI で あれば,他の人間に負担をかける場合と違って,独立性 が損なわれた感じがしない,といった利点があり得る. 生身の身体をもたないことに起因するメリットもない わけではない.ロボットについて言及されることがある 利点として,生身の身体をもっていないだけに休暇や睡 眠などを必要としないことがある.これはケアの場面で も当てはまる.心理的なケアから恩恵を受ける可能性が ある高齢者は非常に広い範囲に及ぶが,それよりもずっ と狭い範囲の,介護を必要とする高齢者の中には,起 立・歩行,寝返りや唾・痰の飲込み,などに困難を抱え る者もいる.そうした者に対しては,トイレ,入浴のた めの移動の介助や,床ずれができないように数時間ごと に体勢を変えることの介助や,唾などが誤って肺に入っ て肺炎などを起こさないように吸引を行うといったケア が必要となる.こうしたケアを提供するためには,誰か がその者の近くに居合わせる必要があり,時間的拘束が 長くなる.ロボットの類が吸引などの作業を人に代わっ て担うことは当面難しいにせよ,こうした問題が解消さ れないことを想定すれば,いずれそうした選択が可能に なることは想像に難くない.認知症がある程度進行する と現れることのある徘徊などの行動については,それが いつ起こるのか,どの程度の時間持続するのかが事前に 予測しがたい.連れて帰ることができなければ,死亡に つながることもある [菊池 16].そこで,そうした行動 が起きた場合に備えて待機をすることも,時間的・空間 的な拘束を生み出すことになる.介護をする側の生身の 人間は,病気を患っていることもあれば,睡眠なども必 要である.十分な介護の体制が組めればよいが,現実に はそうとは限らない.ある程度機能が高度化した場合に は,ロボットが介護を分担することには合理性が出るだ ろう. また,アザラシ型ロボット「パロ」の場合であれば, アザラシの体毛にあたる部分をパロでは抗菌繊維で作成 してあるが,犬のような動物は,生身の身体をもってい るだけに抵抗力の弱い者にとっては感染症のリスクを高 めることが無視できない要素になる,ということも考え られよう. もっとも,仮に人間よりも AI を取り入れたロボット がケアに適している場合が多いとしても,それをケアの 受益者側が望むとは限らない.特に,人間でなければ寂 しい,といった理由で人間によるケアを望む者に対して AIをあてがうことは,非人道的な感じがするだろう. さらに言えば,その本人の希望が「強制されていな いのか」といったことを問う立場も考えられる.経済的 な事情や家庭の事情などによって実質的に AI を取り込 んだロボットのほうが安価でトラブルが少ないためにロ ボットを希望するものの,そういった事情さえなければ 人間によるケアの温もりを望んでいる,といったケース だ.昨今議論されている老々介護の文脈では,もしも AIを取り入れたロボットによる介護の単価が人間によ る介護よりも低ければ,人間よりもそちらを選ぶ,とい うことも考えられそうだ. さらに強い主張として,人は,一見強制されることな く AI や犬を選んでいるように見えるとしても,本当は 生身の人間との交流を望んでいるはずだ,という立場も 考えられる.AI や犬を好むような人は,たまたま人間関 係にこれまで恵まれていなかったからであって,きちん とした形できちんとした相手に会えていればやはり人間 による心のケアを望んだはずだ,というような考え方だ. こうした考え方がよく当てはまるような事例はおそら く存在するだろう.著者はこれらの説について詳細に検 討を加える用意がないが,これら,人間によるケアを支 持する説とちょうど対称的に,AI を取り込んだロボッ トを支持する説も考えられる,ということを指摘してお きたい. すなわち,本当は人間にケアされたくはないのだが, 経済的な事情や家庭の事情によって人間によるケアを甘 受する,というケースはあり得るだろう.中年になって も無職で結婚をしていない子と同居している親は,子が 働いて収入を得て家庭を築いてくれることを本当は望ん でいるのだが,実際には経済的な余裕がないため AI に 頼ることができず,子による介護に頼ることになる,と いうようなことは現状ではあり得るのではないだろう か.あるいはまた,AI と取り入れたロボットによる介 護の本当の素晴らしさや人間関係の本当の醜さを経験す ると,人はほとんど決まってロボットのほうを選ぶはず だ,というような意見はどうだろうか? ケアを受ける受益者本人の自由な選択を尊重する,と いう原則だけからは,例えば経済的事情によって AI に よるケアが強制されてはいけない,という考え方も,少 なくとも同じ理由で人間によるケアが強制されることも あってはならない,という考え方も,同等の重みをもつ ことになり,人間を優位にするべき特段の理由は出てこ ないことになる. 2・4 「最適」以下の存在である人間を選択するべき理由 AIやそれを取り入れたロボットは,人間の精神生活 において,何か未曽有の異質さをもっているわけではな い.むしろ,人は動物や,生命をもたないモノや,フィ クション上のキャラクタやメディアを通じて表象された 人間など,さまざまな存在と関係をもってきた.そこで, AIが心理的なケアを提供する機能を発達させるとして,

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それに対するニーズが存在しないということは考えにく い.ただ,AI が仮に今後人間らしさを高度に洗練させ ていくということがあったとしても,それはよくできた フィクションのようなものであって,人がそこから慰め や安寧を得ること自体は倫理的に大きな問題ではない. 加えて,人間のケアの担い手は,心理面でも,その他の 面でも,必ず人間が最も適格であるとは限らない.これ までもその点は同様であった.費用面を除外して考えて もその可能性があるし,費用面を考慮するならば,将来 的には AI の適性が非常に高くなるということも考えら れるだろう. このようにニーズもあり,倫理的にも生身の人間で はない存在を取り入れることがケアを受ける者や社会に とってメリットになるとして,そのような望ましい展開 がもたらす長期的な帰結については,著者は懸念をもっ ている部分がある. 技術や社会制度の発達に伴って,生身の人間によっ て直接担われるべき活動は減り,それによって人はより 効率的に満足を得るとして,そのような変化はどこまで 行っても肯定するべきものだろうか.例えば,教育や医 療は家族が担うべきだ,と考える者は現代の日本には少 ないだろう.洗濯や掃除に機械や道具を用いるべきでは ない,という議論も成り立たない.専門家による分担や 技術の活用は費用対効果を向上させる.では,よりプラ イベートな度合いの強い悩み事の相談や,性生活などは どうだろうか.同性愛者が家族に相談できず専門家を頼 る,セックスのパートナーとしての生身の人間がアダル トコンテンツと競合する,といったことは特に耳新しい 話ではない.他人との付き合いには,ストレスが発生す るリスクが避けがたく存在している.技術や,専門家は そのリスクを大きく減らせる可能性がある.すでに述べ たとおり,これはケアの文脈でも人間よりも AI が適性 が高くなり得る理由の一つでもある.では,このような 人付き合いの排除は,費用対効果向上のためにどこまで も肯定されるべきものだろうか. [Turkle 11]は AIBO を例にとりながら,このように人 間が技術を利用することで人間関係に伴う摩擦を避けよ うとすることを倫理的に問題視している.これをより極 端に表現した思考実験を [Nozik 74] のエクスペリエンス マシンに見ることができる.もしも,どのようなもので あれ自分の望むような人生を経験できる機械があるとし たら,その機械に自らを接続して現実の生を生きる代わ りに機械が提供する経験を享受するほうがよいだろう か? 思考実験が投げかけるのはそのような問いである. 現代日本で生きる人の多くにとっては,そのような機 械に魅力はないと思われるかもしれない.では,これが 戦乱や飢饉などがより頻発する社会であったらどうだろ うか.このような機械が提供するのは現実の経験ではな いとして,現実があまりにも厳しいものであるときにそ れを生きることよりも虚構の中に逃避することを選択す るとしたらどうだろうか.あるいはまた,(介護の文脈 とも無縁ではないと想定として)当人の置かれた苦しみ に満ちた状況を周囲の関係者が解決することもできず, 周囲がエクスペリエンスマシンを勧め,当人も受け入れ るとしたらどうだろうか. 単なる効率性追求の観点からは,こうした選択を却下 することは困難だろう.また,エクスペリエンスマシン のような極端な例ではなく,個別具体的な技術の採用を 想定しても,それを批判して,生身の人間や現実世界が もたらす苦しみを味わうべきだ,という主張を第三者が することには,それはそれで問題がある. だが,より良い生や社会全体の効率性を追求する結果 として,人が他人や現実世界といった要素を排除し続け ることについては,それを無条件で肯定してよいか検討 の余地があると思われる.

3.お わ り に

本稿では,主に高齢者のケアを取り上げながら,AI と人間の関係について考察した.AI は人間にとって異 質な存在であるがゆえに批判されることがあるが,人間 はすでに動物やぬいぐるみ,虚構のキャラクタなど人間 ならざる者と多様な関係をもっており,人間との間にも マスメディアを介した関係など双方向的でない関係も もっているため,AI や AI を組み込んだロボットはそれ らと比べて特段異質な存在ではないだろう.生身の人間 であると誤認させて AI を組み込んだロボットがケアに 当たる場合は別だが,ケアの一端を担うこと自体に特段 の問題は見いだしにくい. 異質であることを問題視せずに考えてみると,ケア への適性だけを考えれば,AI を組み込んだロボットは, 人間よりも優れている可能性もあり,患者側が AI を組 み込んだロボットを望む場合も将来的には考えられる. これは個々人の満足度や社会全体としての効率性といっ た観点からは肯定されるべきものかもしれないが,人間 同士のつながりが希薄になることをどこまで肯定する か,という別の問いについて検討することも重要である ように思われる.

◇ 参 考 文 献 ◇

[Banks 08] Banks, M., Willoughby, L. and Banks, W.: Animal-assisted therapy and loneliness in nursing homes: Use of robotic versus living dogs, J. American Medical Directors

Association, Vol. 9, No. 3, pp. 173-177(2008)

[Barker 08] Barker, S. B. and Wolen, A. R.: The benefits of human-companion animal interaction: A review, J. Veterinary

Medical Education, Vol. 35, No. 4, pp. 487-495(2008) [Bartneck 08] Bartneck, C. and Hue, J.: Exploring the abuse of

robots, Interaction Studies, Vol. 9, pp. 415-433(2008) [Bemelmans 15] Bemelmans, R., Gelderblom, G. J., Jonker, P.

and de Witte, L.: Effectiveness of robot Paro in intramural psychogeriatric care: A multicenter quasi-experimental study,

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著 者 紹 介

渡辺 智暁 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教 授,国際大学 GLOCOM 主幹研究員,特定非営利 活動法人コモンスフィア理事長,一般社団法人オー プン・ナレッジ・ジャパン副理事長.オープンデー タ,オープン教育,ネットワークインフラのオープ ン化政策などオープン化に関する研究を多く手掛け る.近年のテーマはディジタルファブリケーション. Ph.D.(インディアナ大学テレコミュニケーションズ学部).

参照

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