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不安の研究(2)-殺人犯の心理的分析-: 沖縄地域学リポジトリ

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(1)

Title

不安の研究(2)−殺人犯の心理的分析−

Author(s)

棚原, 健次

Citation

沖大論叢 = OKIDAI RONSO, 10(2): 135-184

Issue Date

1971-03-31

URL

http://hdl.handle.net/20.500.12001/11054

(2)

不 安 の 研 ' 究 ( ] [ )

一 一 殺 人 犯 の 心 理 的 分 析 一 一

棚 原 健 次

目 次 (第十巻一号よりつづく〉 (3) M M P 1診断所見....・H ・-…H ・H・....・H ・-……・'"・H ・...・H ・...13.5 (4) T A T記録……...・H ・..…...・H ・..…..,・H・...・H ・..…...・H ・..137 (5) 文章完成テスト記録・・H・H ・....・H ・...・H ・...・H ・...・H ・..150 (6) クレペリン精神作業検査....・H ・-…H ・H・H ・H ・-…H ・H ・'"・H ・.164 (7) パーソナリティ インペントリィ…・H ・H ・..…H ・H ・...・H ・..165 (8) 診断性向性検査・...・H ・H ・H ・'"・H ・-…H ・H・-…H ・H ・...・H ・-… 166 (9) 精神健康度と親子関係...・H ・-…....・H ・...・H ・...・H ・....・H ・.166

E

考 察・・・...・H ・...・H ・H・H ・...・H ・...・H ・...・H ・...・H ・H ・H ・.168 1 対人関係の要因….,.・H ・...・H・...・H ・H ・H・...…...・H ・...・H ・.;168 2 破壊的要因" ' 0・H ・...・H・...・H・・H・ ・H ・-…....・H ・...・H ・....・H ・.172 3 性格的要因...173 4 知能的側面・…....・H ・...・H ・-…....・H ・....・.H ・....・H ・...・H・..…・ 174

5

意志的側面....・H ・-…...・H ・-…・-…...・H ・...・H ・...・H ・...・H ・...174 6 性格の構造・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 174

Y 要

約・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 179 (3) M M P 1診断所見 第1次検査 1. ?、

L

、F、Kは被験者の態度を検証する尺度であるが、特に本被験 者は疑問得点(?)に著しい高得点を示している。内的状態は防衛的態 -135ー

(3)

不安の研究(1I) 度が強い。このことはK得点の高いことからも云える。この高い

K

得点 は自己の心理的弱点に対する抵抗である。自己を有利な方向にみせかげ ようとする防衛機制であるーしかし

F

得点は

T

得点

7

0

点以下であるの で、被験者は文意も理解し、正確で協力的であるので、テスト全体は信 頼される。 2. 疑問得点(?)が非常に高い数値を示していることは、本来ならば他 の尺度に加点されるものが加点されないこと、つまり、臨床尺度が実際 より低い得点を示している。各臨床尺度は普通域下に分布しているが、 その中で最も高い得点はpd(精神病質的偏備〉であり、次にHy(ヒス テリー傾向〉、

Ma(

軽際性傾向〉、

p

a

(偏執性傾向〉の複合した性絡 特徴を示している。 第 2次検査 1. 第

1

次検査における疑問得点(?)が著しく高いために、再テストを 実施してみた。第 2次検査は臨床尺度の確証を得るために、少々疑問得 点(?)を軽減するよう暗示したために、かなり疑問得点く?)は減少 したが、それでもなおそれにかわるかのように嘘構点 (L)が高得点を 示した。しかし

L

尺度のひずみは、この範囲の得点ならば信頼して診断 が可能である。第 l次テストよりも

K

得点はかなり高く、自己をよくみ せようとする傾向が強い。

L

尺度、

K

尺度も歪曲を示してはいるが、

F

得点を考慮すればテスト全体は信頼され得るものである。 2. 第 2次テストは疑問得点が低減したために、各臨床尺度は第 1次テス トの臨床尺度よりもやや高い得点を示し、第1次テストと第2次テスト の分布はかなり酷似している。第1次テストと閉じように、 pd(精神病 質的偏情〉がかなり高く、次にHy(ヒステリー傾向〉、

pa

(偏執性傾 向〉、

Ma(

軽蝶性傾向〉を示している。

-136

(4)

不安の研究(J[) 第6図 MMPI第一回テストと第ニ回テストの比較

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1回テスト

・ー一・第

2回テスト

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記録 カード

1

これは放課後の教室みたい。宿題を忘れた日に居残って宿題をやってい るところ、早く宿題を終えて帰りたいと思っている。 この教室の中の三角定規やフラスコや天秤や試験管を見ていると勉強が したい。何か面白い学聞が出てくるように感じる.中学校時代、自分の独 特な勉強をしていたら、知らないようなことが明らかになった感じ、勉強 や実験がものすごく面白い。 カード 2 何か貧乏人みたい。終戦直後、映画に出て〈るような人が汽車に乗って いる感じ、何か頭痛を感じている人間です。汽車に乗って故郷へ帰るみた い。多分故郷は農家であろうと恩われる。 あるいは工場で働いていた人が遊び過ぎ、不良性のある人、重い病気に -137

(5)

不安の研究(1) かかって故郷へ帰るところ〈肺ガン〉、今汽車の中で頭痛をこらえて故郷 へ向っている。 カード 3 何か遣い舎聞の感じです。三名家族の姉さんの方が都会へ行く感じで す。 それから山を見ていると、山の向うに何があるかなと想像されま す。木とか草むらに昆虫がいないかなと思う。あの山にピクニyク してみたい。この風景をみていると広島県や鳥取県のことが思い出 される。 二人の人物は貧しい親子の家庭みたい。そのうちの着物を着ている女の 人は農家が嫌いで、家庭に反対して、都会へ行ってどこかのお手伝さんに なる。 それから男の人(精神薄弱〉は高校にも行けずに家庭の仕事ばかりして いる。 風景だけをみて・H ・H ・..自分のことです。 絵の人物とは関係ありません。 若し僕が兵隊〈アメ

P

カの兵隊〉だったら、飛行機に乗って来て、 もしこういうところで落下したら、どこへ逃げるかなと思う。ここ で敵と射ち合いしたら、もうその固との戦争は終りそうみたいな感 じ。 もしこちらから山に向って戦車砲を射ったらどの辺までとどくかな と思う。 この山の向うにもまだ沢山の山が続いている感じ、この淋しい土地 -138ー

(6)

不安の研究 (1) から、ヨーロッパやアメリカへジ;:r.,,/ト機で何時間かかるかなと思 う。 もしそこにいる人遣が敵だったら射たなければならないのかなと恩 う。 戦争でこんな淋しいところで死んだら、本当に淋しい。戦場で死ぬ ような感じ、本当に戦場らしい。こんな土地で死んだら、自分の圏 がものすごく懐しい。こんなところで最後の命のことを知ったら、 いろいろ母国の幼い頃の思い出がおもい浮かべるだろう。 それからこの三名の家族は父がいないので、ひどく賓しそうぶ戦前の賓 乏な農家の一部に思える。そういう日本の風景をみると外国の国らしわ。 これは昔の風景であるので、現在あれから 20年間を経た今日、どんな生 活をL1:いるかなと思う。 カード 4 僕の従姉妹みたい。女の従姉妹遣が集って遊んでいる。よくみると周囲 の三名は貧しい家庭の女の子、真中の一人の女の子は後方の大きな屋敷の 女の子みたい。隣近所みたい。 三人の女の子が人形を欲しがっているような感じ、女の子らしい欲があ るような感じ、周囲の子供遣が

λ

形を欲しがっている。真中の女の子に人 形をかして頂戴と云っている。女の子は自慢している感じ、害膏で意地悪 な女の子みたい。その女の子はみせびらかしているだけ。そしてちょっと だけ貸してやっている。 賓しい子供遣の親を思うと多分気の弱い人間だと思う。貧乏人は太低気 が小さいから、この子供遣が同じ子供でも、なにか可愛想。僕が込しこの

-139ー

(7)

不安の研究(][) -子供達の親であったら、どんなにか、学問や教義、人生等について教え、 どんな子供でも僕みたいな父を尊敬するであろう。同じ子供でも何か貧乏 人の子供は、どうにか人間的に満足させてやりたい。 カード

5

なにか子供の方がはしゃいでいるような、ヒ。ストノレでなにかを狙ってい る。左側の人物は詐欺師らしい者が歩いている。右側の人物は旅館か寿司 屋か料亭のお手伝さんみたい。その婦人は外で用事をし、お友達に逢った り、区役所へ行ったりして自分の勤め先へ帰るところ。 左側の人物(男〉は安定した仕事をもってないような感じの人物、会社 では安定せず、やっとのことで働いている男、自分にいい仕事はないかと 職を探している。子供も婦人も男も、皆他人同志で、単なる通行人に過ぎ ない。 女性は独身で、旅館に働いている。子供は八百屋のヤンチャ坊主であ る。そして自分の家は直ぐ後にあって、その子供はお庖の前で一人遊んで いる。 それから子供はお庖の前で叱られて泣いているか、迷い子になって泣い ているかである。通行人はその子供が近くの子供で、誰かに叱られて泣い ていると思っている。子供は誰かに名前をきかれ、交番へ連れて行かれ、 そして帰えされる。家の人違は、何故遠くまで行って遊ぶかと叱ってい る。 それから後の風景は十年前の町みたい。その町は、朝は牛乳配達の瓶の 音がきこえ、しばらくすると朝の通行人で眠い、昼は静かになり、晩は帰 る通行人が多くなる。そういう状況の中で男は会社の金をだましとり、ほ かの仕事に替わろうと思って職を探している。いつもそのようなことの繰 -140一

(8)

不安の研究(l[) 返しの生活を送っている。最後は響察に逮捕されるかも知れない。 カード 6 フランスの下町の20才位の二人である。二人一緒に生活したいけれど も、経済的には不安定である。男は闇商売か悪い仕事をやり兼ねないかも 知れない。恋人がそんなことはしないでくれととめている。女はレストラ ンで働いている。その日は秋の曇った灰色の三時頃である。男は過去に兵 隣であった。その前にツJレボンヌ大学を中退した。その男の故郷はベート ーベンやグーテの生れたドイツのボンの町の人らしい。家は賓しい農家で ある。心がぐれて思うままに生活している。しかし何をさせても勇気のあ る男みたい。彼の故郷は、冬は冷い雪と風が吹き、食事も満足に出来なか った。 二人とも人並の生活をして真面目な生活をしたいと思っている.女性の 方は西フランスの海岸近くのノルマンディ地方の女みたい。やっぱり冬に なると曇った灰色の日が続く、寒い日が多い。女性の方は教養があるみた い。また心も美しいみたい。二人とも都会へ遊びに来て知り合った。内縁 の関係にある。 男は運転手、パー、キャバレー〈昼は運転手、夜は闇商売〉、あるいは セーヌ川の荷役運搬をしている。今は悪い感じだけれども、どうにか独立 するだろう。 男はいまのところ悪いことをしようと思っているが、女性は妊娠してい るし、これからは女性と子供の幸わせを考え、悪いことから足を説。て事 の運転手で真面目に仕事をして、田舎で小さな家でも建てようと思ってい る. カード

7

どこかの公園である。ベンチの男は不良者か落伍者みたい。何か悪いこ

(9)

不震の誹語。

CI)ー とをして響察につかまって刑務所へ行くみたい。 婦人と子供、女は寿司屋の女中みたい。子供は寿司屋の親琴の孫みた い。女中が子供を公園に遊びに連れていっている。 男は刑務所から出て田舎で仕事をする。そこで我慢して仕事をする。 カ-~

8

沢山たまった封筒を焼いている。どこか下宿している学生である。その 日は日曜日で、部屋の大掃除をしているみたい。手紙は過去の不必要な手 紙である。 カー~

9

船が嵐にあって船員の一人が近くの岸に辿りついているところである。 その外の船員はどこかへ行ってしまった。この船員は嵐がやむまでそこで 倒れて休んでいる感じ、舶はそれ以上沈まずに船の底が海底についてい る。波の岸まであがり、船も岸まで持ち上げられている。その船員は翌朝 まで目がきめないでいる。男はどこかに助けを求めている。仲間がどこへ 行ったか探して、もしいなかったら外の人に助けを求める積りである。何 週間か過ぎて、外の船に助けられた。 カード 10 28才位の女性である。フランス人みたいである。頭のよい女性みたい。 側にいる男はその女性の叔父さんである。自分の父の会社を、この叔父さ んに乗取られるみたい。 父が死んでから財産をこの叔父さんが横どりしようとするので、この女 性は財産をみなうまく銀行に預けて、イギリスのオックスオード大学の医 学部でうんと勉強しようとしている感じ、今財産をどうして銀行に入れる がちょっと悩んでいる。有名な弁護士でも頼んでうまい具合いに行くかと

-142

(10)

不安の研究:'(1) 思う。それから彼女は大学へ行く、多分医学博士になるだろうと思う。 カード 11 この子供は料亭に遊びに来ている。料亭の人が一つの部屋で服を着替え ようとしているa (仕事のため〉 この子供はあちこち部屋を歩き廻っている。この子供は女の人が着替え ているのを見らんふりをして帰ろうとしている。女は料亭に勤めている。 男の子は料亭の主人の親戚みたい。男の子は料事の一人の女の人がその 部屋で浮気しているのを知らんふりで通って行く。それからは、この少年 は、料亭はいやなところだと思う。またいつか遊びに来る。 カード 12 女の人が裸で死んでいる。この弟が家へ帰ったら死んでいた。強盗は逃 げていなかった。強盗と女とは仕事の関係があったらしい。何か麻薬の組 織の一員であったらしい。そしてこの女はこの組織から足を洗おうと思っ ていたが、その組織の人が来て死なせたと思う。弟の方は姉の働きで学校 に行けたと思う。こんなに沢山お金を傭っているから、姉が悪いことをし ていると思った。自分の思った通り悪い組織の一員から殺されたと弟は思 った。 女が裸になっているのは強盗〈組織の一員〉に楳にされ強姦され殺さ れ、殺されたときは刃物で殺され、多分血がたれているであろう。弟は泣 いている。 カード

1

3

一人の少年が怪物屋敷に忍び込んだみたい。刃物がそこに沢山あった。 その少年は怖わくなった。怖わくなってこの屋敷から逃げていった。この 子は 7Jf位で、もうちょっと年上ならばもっと中に入って官険したである

(11)

不安の研究 (II) う。 7才の子供には逃げる方がましだった。逃げたあと怖わい思いをした と云っているの カード

1

4

おとぎ話しの絵みたい。一つの絵の表紙みたい。絵が沢山かかれてい る。 チルチルミチルの青い烏の話しみたい。今帽子のダイヤルをまわした ら、暗いお化けの世界についたみたい。またダイヤJレをまわしたら花畑の 美しい世界に出て、青い鳥を探した。そして青い烏はみつかった。 カード 15 何か電子の粒子が飛んでいるみたい。それから沢山の数字の公式がかか れているみたい。方程式があれこれあり、数字がみえる。計算済みであ る。ただ勉強したい。イーーを求めるために計算尺がそこに置かれてい る。細いマジックもおいてあるみたい。それから分子の構造、原子の構造 等神秘的である。 勉強が好き、高校並の力を持っている云々、数学、物理、生物、化 学、地理は高校のものを勉強した。歴史は好きなものをかたっぱし から読んだ。白紙をみていると勉強しているみたいな感じ。

(12)

-144-数式(本人の記録)

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(13)

不安の研究 (1)

(本人の記録)

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カード 16 盲の人、何かゆっくり歩いている。家への帰り道、親戚の家か~帰る途 中、杖は見えない。仕事は身体障害者の施設でやっている。(もう何も浮 んできません〉 ~146 ー

(14)

不安の研究 (1)

TAT

の解釈 物語の形式的側面 絵の把握や理解に一貫性を欠いた物語が多い。感情的な色彩はやや抑う つ的傾向がみられる。対人関係は逃避的傾向がみられるが、好んで外国人 や地名をあげ、絵の中の外国風の様相を敏感に反映しようとする。 時に物語は、絵tこない対象を導入して、幾分冗長的になったりする。敢 えて風景に目を向けようとする傾向がある。表現形式は

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・H ・みたい」、

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・H ・感じ」等の言語表現をよく用いる「感じ型」タイプである。 絵を呈示してから、物語を始めるまでに、最高一分間、平均15秒程度の 沈黙があり、一つの物語を完成するのに要する時聞は、最高23分、平均7 分程度の時間である。 物語の領域は、家庭、具性関係、教育、犯罪等である。家庭における母 と子の関係がみられず、被験者の現実の心境をよくあらわしている。 形式的側面から把握される被験者は、他から孤立した個人的世界を構成 し、常識性を逸脱した面が見受けられる。 主人公の内的特徴 主人公の行動の原動力となっているのは心的欠乏感に基因している。そ の欠乏感は愛情の欠如と賓固という表現形式で示されている。そして主人 公はいつも家を離れるという行動を示している。主人公の強い自己主張は 成就の欲求であるが、それが充されないと反社会的行動をもって流捜する 主人公の姿である。 主人公の幼児期の生活体験は、迷い子になって警察に保護されるか、お 手伝いさんと遊んでいるか、官険をしているか、超自然的な魔法の国で青 い鳥を追い求めている姿である。 少年になった主人公は料亭で女性の浮気をみたり、麻薬組織の一員であ

(15)

不安の研究(1) る姉との生活体験である。成人した主人公の行動は、不良化、犯罪行為、 刑務所入り等、攻撃と敵意に充ち、孤独と自己破壊的な特徴を示してい る。しかもそれは快楽原理に支配された行動のみが前面に現われ、上位自 我によるコントロールがなされず、情動のままの行動を特徴としている。 すなわち主人公には初期の小児的心性の固定したままの行動で成人し、今 日に至るまで連続しているものといえる。主人公の内的状況は不快感情に 支固されている面が多い。積極的に解決しようと努力する面もあるが、必 ずしも結末は単なる欲求充足と不定に終っている。 主人公は非常に強い成就〈学業と知識欲〉の欲求と挽回の欲求を持って いると同時に、非常に強い自己中心的自己主張が潜んでいる。この直己主 張は強い自己防衛と正当化の機制をはらんでいる。しかもそれは敵意と攻 撃、そして犯罪行為に発展している。そのために主人公は孤独に陥いり、 他人との円滑な突菰を妨げている。主人公のもつ欲求体制は次の二つにま とめられる。 学業や知識の欲求一一挽回、尊敬 反社会性一一興奮、家出、性 主人公に加えられる圧力 家庭や他人との接触は敵意を強める以外になく、親族関係には疑いの目 を向け、被害的な傾向を示している。そのために主人公の自己主張は家を 出て不良化し、遊び過ぎて病気になり、仕方なく故郷へ帰るという主人公 の依存心をも示している。もう一つ主人公に加えられた貧困ということも 亦強力な自己主張となっている。しかしその貧困とは自己中心的な主人公 の小児的心性から考慮するならば、その貧困のために不良化するという主 人公の合理化の機制であるといえよう。主人公は学業や知識への欲求が一 番強いが、その反面、反社会性が併存している。しかもその反社会的行動 は家を出るという形で表現されている。しかも家庭的な欠乏という圧力は

-148

(16)

不安め研究c:

o

否定出来ないーまたそれは主人公め自由奔放な欲求行動に基困じている。 学業や知識欲の強い反面、一方では破壊的、攻撃的反社会性の特徴を有 し、そのこつが適度に中和されずに統制を欠き、反社会的.行動に圧倒され てしまっている.それは主人公の生活史の中で形成されてきたものといえ る。 主人公の対人関係 主人公は幼児期における母子関係のテーマがみられず、また母親という 言葉の表現さえみられない。母親としてみられるべき人物が姉として描か れてはいるが、それは悪いことをしている姉であり、殺されてしまう物語 である。 主人公にとって母親は直視するには耐えがたく、また母親の理解と愛情 を受容せず、精神的安定のよりどころである母親を、また家庭を心理的に 欠いている。 そのために家出、不良化、犯罪行為、そして刑務所へ入る。しかしその 反面、学業への願望も強いが、その願望が克されないままいつも反社会的 行動と併存している。そのために主人公は人を避け、逃避と孤独な生活体 験を特徴としている。 知的側面 知識的欲求の方面は物理、化学、数学、歴史の方面に興味をもって表現 しようとする傾向がみられる。好んで外国人を述べようとする。高いレベ ルの知識を求めようとする傾向が強い。 情意的側面 主人公の頭の中で組立てられた知識は教育的、社会的能力において、最 もな表現で内的な厳しさを示しているが、しかしながらー且挑発される

-149

(17)

不安の研究く1) と、その内攻する破壊性は、直ちに性的衝動性を伴って残虐性を投影す る。その典型的なプロジェクシヨンがカード1

2

の殺害されている姉の物語 である。それは噌虐性と興奮をもって語られる。しかもその破壊性は最も 愛すべき姉がその対象とされている。それは自分がやったのではなく、悪 いことをしている姉であるから、麻薬組織の一員に殺されるのだという玉 当イ

t

をしているの 指向的側面 主人公の外界に対する認知様式には、親子の情愛の物語が見られないこ とである。また絵画にプロジェクトされる人物は他人の子供として認知さ れ、いつもよそよそしさを伴い家出、犯罪、敬意をもって認知される孤独 な人格像である。その結果として物語の主人公は対人関係から離れて背景 の自然の風景に指向する傾向を示している。 力動的側面 家庭的欠乏、家出、犯罪、病気等のプロジェクションは主人公の生活感 情をよく反映している。その反面、それを挽回しようと努力している心的 状況が見られないではないが、それにもまして主人公の発達の形成過程に おける親子関係の欠乏は、主人公の上位自我(良心〉の形成が充分でな く、感情は小児期のまま成長してきている感を与える。主人公の行動の未 成熟な物語の多いことはそれをよく示している。

ω

文 章 完 成 テ ス 吋 1 知的側面 (1) 私の頭の中は一日も早くアメリカへ行きたい。 (2) 私が知りたいことは、祖父や母達の本当の純粋の気持を知りたい。 -150ー

(18)

不安の研究 (1) (3)一私の出来ないことは、そんなことにぶつかったことはない。 (4) 私の野心は一日も早くアメリカへ行きたい。、基礎をきずくことよ科 学者で実業家になりたい。 (5) 私の執念は勉強したい。 (6) 私はよくアメリカへ早く行けないかなと心配する。 (7) 学校では

λ

よりよい宿題をしようとしたことがあった。 (8) 将来アメもリカへ行って自分の理想の人聞になりたい。科学者で金持 であればなと思う。 (9) 今までは少年院、精神病院に入ってつらい思いをしたが、外では楽 しい思い出もあった。 (10) もう一度やり直せるなら、アメリカさえ行ければ、やり直すような ことはなんでもよい。

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私が残念なのは五年間も精神病院や少年院で無駄にしたこと。 2 性格類型及び特性 (1) 私はよく人からいい奴だなとよく云われる。 (2) 子供の頃、私はうちの親戚どもに叱られたことを、今考えるとその 親戚達がいやになった。 (~) 大部分り時間を学校生活に送りたい。 (4) 時々私は労働者の映画を見に行ったことを思い出した。友達のこと を思い出します。(楽しいこと) -151ー

(19)

不安の研究 (1) (5) 今まではつらい思いをした。少年院や精神病院に入れられた。この 五年間落着いた気持はなかった。 (6) 家では徹夜してよく勉強した。 (クリスチャンスクールにいる場合一一宿題〉 (7) 私はよく学校へ行っているときよく勉強した。 (8) 私の気持は早くアメリカへ行って落着いた気持になりたい。 (9) 私が得意になるのは、人に信用されること、人に負けないこと。 側 自分の好きな仕事を早くやりたい。 3 エネJレギー (1) アメリカの組織の仕事を小さいときからあこがれていた。 (2) どうしても私はある限度までは勉強したい。 (3) 調子のよい時、勉強したい。 (4) 私が努力しているのは、英語をアメリカ人並に憶えたい。 (5) 私が得意になるのは、人に負けない努力である。 (6) 私の野心は仕事に満足して平和な自然に存在したい。 (7) 運動神経を発達させたい。 (8) 私の健康はいくらか劣っている。精神病院に入れられ、薬を飲まさ れたりして、その後、胃腸とか健康をそこなった。 (紛争いにはうまい具合いに勝とうとしたことがあった。 -152ー

(20)

不安の研究(1) 側 私 の 出 来lな炉ことは、日本で住めないごと。

4

楽観的一一ー悲観的 (1) 将来にやいて、そんなに心配はない。人よりも我慢強く忍耐強いか ら。 (2) 年をとったとき平和でありたい。平和な自然に暮したい。 (3) 私を不安にするのは、いつになったらアメリカへ行けるか。 (4) 私の失敗は日本に住めなくなったこと。前の純粋な気持がなくなっ た。 (6) もう一度やり直せるなら 17才位になりたい。 (6) 調子のよい時、いろいろの記号を暗記したい

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(7) 私が得意になるのは、将来アメリカヘ行けること。 (8) 世の中は自然だ。 5 支記的一一従属的 (1) 私はよく入から好まれる。 (2) 家の人は僕のことを全然知らない。 (3) 学校では楽しかった。いい先生だった。 (4) 私の出来ないこと、あるのはあるけれども平均してこれというのは ない。

(21)

不安の研究(lD (5) 子供の頃、私はすべてを知るのに心を燃やしていた。 (6) 私が得意になるのは、これといってない。 (7) 人と人との争いは数学的に考える。

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どうしても私は、この世に生れてきたからには、この世の美しさ、 自然の美しさを知ることが出来る存在であった人生でありたい。

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9

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もし私がいつまでも

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才であったら宇宙の果でまでの数学を知りた

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。、 β0 男は雄である。 6 目標及び動因 (1) 私が知りたいことは、もしタイムマシンというのがあれば、ものす ごく勉強しやすいだろう。自分が刑務所をいつ出られるかとか、地球 の歴史を誰よりも確実に知ることが出来る。 (2) 私が努力しているのはいまはない。 (3) 私はひそかに勉強したい。 (4) 大部分の時間が過ぎていくのがもったいない。 (5) もし私に金があれば、本を買って勉強する。 (6) どうしても私は友達との思い出を忘れることが出来ない。 (7) 将来は、いい将来であろう。自然であるから、自然なことだから、 自然な美しさの将来の希望があるから、ぱっとしたものではないが、 いい社会人であるから。 -1$.4ー

(22)

不安の研究,.(岳〕 (8) 私の野心はお金持になりたい。 (9) 年をとったとき、自然の美しさを知りながら、勉強しながら暮

1

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。、

ω

金と時聞があることはいいことだ。 7 特技、興味 (1) 私が好きなのは前の女の友達。 (2) 私が心をひかれるのはアメリカの科学者の存在。 (3) 私はよくアメリカの科学者をうらやましく思う。 (4) 私が得意になるのは、僕よりも得意な人はいるから、なにがいい か、これーっというものはない。 (5) 私が努力しているのは、自分の希望の存在になりたい〈科学者で金 持〉 (6) 私がきらいなのは、人工的な人間組織、不自由な人間組織。 (7) どうしても私は、一般のアメリカ人よりも英語をうまくなりたい。 (8) 私はひそかに食べること、日々によってちがう。気まぐれ。 (9) 私が知りたいことは、これといってない。誰も知らないけれども、 何月何日にアメリカヘ行けること。 帥大部分の時間をもったいない。 -155ー

(23)

不安の研究

u

n

8 生活態度 (1) 家の人は私を、全然僕を知らない。 (2) 仕事、早く学校を出て社会へ出たい。 (3) 私が得意になるのはこれというのはない。 (4) 世の中の人間の生命が存在することは、単なる数学的な自然であ る。だから人聞の考えるような世の中ではない。 (5) 私が知りたいことは、あと何日したらアメリカヘ行けるか。 (6) 私がきらいなのは、支記された人聞社会である。 (7) 私の不平はめしがとても少ない。 (8) 私が好きなのは、勉強。 (9) 家では、砂辺の家では、自然に存在するもので、最高だった。

ω

金、得をする。

ω

暇の時、金が存在すればいい。 9 人 生 観 (1) 人々はさまざまな家庭をもっている。 (2) 時々私は、時々とはない、考えることはない。 (3) 女、前は女の友達が好きだった。今は暇がない。忙しくて、ここで はいっぱいやることがあるから。

-156

(24)

(4) 恋愛、人聞が望む自然の楽しさ。 (5) 結婚、人生の墓場 不安の研究 (1) (6) 世の中、金があっていい存在をしている人が沢山いる。 (7) 男、こんなことを考えることはくだらない。 (8) 死、化学変化の破壊 (9) 金は好き。 帥私が残念なのは、女の友達と二度と顔を見れない。アメ

P

カへ行っ て暮すから。

ω

音楽、大好きの大好き、沢山ある、何んでもよい。嫌いなのは日本 の歌謡曲、日本の国歌、軍隊の歌。

ω

山、好き、地質変化の歴史を持っている。

1

0

ダイナミ yク (1) 私を不安にするのは、めしがものすごく足りない。毎日平均してめ しを食ベたい。 (2) 私が残念なのはむだの時聞を過すのがもったいない。 (3) 自殺、馬鹿。 (4) 私の出来ないことは、わからない。. (5) 争い、忙しい、暇と時聞がない。 (6) 私はひそかに、それはない.

(25)

不安の研究く ll) (7) もう一度やり直せるなら、前の女の友達と遊びたい。 (8) 私の気持、わからない。 (9) 私の不平は五年間もあれこれ入れられて青春を損した。 UO) 私が羨ましいのは、わからない。 。。私がきらいなのは、めしが少ないこと。

ω

私が忘れられないのは友達。

-

U

3) 私の失敗、そんなに気にすることはない。 U4) どうしてもキムは、わからない。

U

5)時々私は、時々とはない。考えたことはない。 11 身体的要因 (1) 私の顔、女の子にもてる。 (2) 私の眠り、忙しいときには不足で、撞に入っているときには沢山あ る。 (3) 子供の頃、私はすべてを知りたかった。健康であった。 (4) 調子のよい時運動したい。 (5) 私の健康は悪くなった。あちこち、櫨に入れられてから。 (6) 運動、大好き、大体何んでもやる。 (7) 私の出来ないことは、前の女の友達と遊びたい。 -158ー

(26)

(紛死、化学変化の終り。 12 家族関係 (1) 家の人は私を全然知らない。 (2) 家では忙しかった。 不安の研究(J[) (3) もし私の父がアメリカ人だったら、アメリカにいることが出来る。 (4) もし私の母がアメリカ人だったら、アメリカにいることが出来る!。 (5) 結婚、青春の終りである。 (6) 妻、美人であればよい。 (7) 家の人は、僕を全然知らない。 (8) 私の父、アメリカ人であればよい。 (9) 私の母、アメリカ人であればよい。 帥私の祖父、アメリカ人であればよい。

1

3

社会的要因 (1) 私はよく人から好かれる。 (2) 職場では好かれる。 (3) 人々はみんな満足しているのか。 (4) 世の中、自然の中の一つ。 , ,十 ( .~ i

(27)

不安の研究く1) (5) 子供の頃、私はわがま』だった。 (6) 仕事、好き。 (7) 学校では楽しかった。 (8) 友達、楽しかった。 (9) 金、好き。 側私が思い出すのは、友達。

ω

法律、学びたい。法律は僕に必要だから憶えたい。

1

4

生育歴とその環境 (1) 子供の頃、私は知りたかった。 (2) 私が忘れられないのは友達である。 (3) 家の暮し、どこの家庭よりもよかった。 (4) 家の人は私を、全然知らない。 (5) 今までは損をした。 (6) 私が思いだすのは、友達。 (7) 学校では、クリスチャン スクールの先生が最高。 (8) 家では、時聞に追いつめられて勉強した。 (9) 私が残念なのは、時聞が中途半ばだった。時聞があるときも、あま り過ぎて困ることもあった。時聞が欲しくてたまらないときもあっ た。 -16Qー

(28)

不安の研究

C

I

)

側 もう一度やり直せるなら、アメリカの学校へ行きたい。 15 生活水準 (1) 家の暮し、砂辺や東京の家はよかった。 (2) 私の服、いま着ている服は人からみなもらったもの、パンツも、何 一つみなもらいもの。 (3) もし私が学校に行っていたら楽しい。 (4) 職場ではみんなから好かれた。 (5) もし私の父がアメリカ人だったら。 (6) 金と暇が欲しい。 (7) 私の不平はめし。 (8) 大部分の時間はもったいない。 (9) 仕事、楽しい。

ω

私が羨ましいのは女の友達。

ω

食事、不満である。少ないから。 (l~寝るときは歯をみがく。 帥出所、すべてアメリカへ。 16 そ の 他 (1) 私が憎悪するのは、今まで損したことに関係した入。

(29)

不安の研究 Cll) (2) 私が傷つけられたように感ずるのは、学校の軌道を破壊された。 (3) 一番幸福な時、女でも男でも友達と遊んでいるとき。(一つでは満 足しない〉 (4) 私を苦しめるのは、めしが少いこと。お金がないこと。 (助 手ムのJむの中にはなにもない。 (6) 殺人とは戦争を連想する。思った通りに感情を抑えてやった。殺人 が困難なとき物理的に考えれば出来る。困難であるときにはデリケー トに考えているから出来ない。逮捕されたら損をした。二度と殺人は 不可能である。考えて納得したら考えない。殺人も考えた末だから、 もう考えないことにしている。 (7) 解剖、大好き。 (8) お母さんの撲けはみたくもない。考えたくもない。悪かったから。 (9) 私の習慣、わからない。 帥私の宗教、キリスト教はよかった。

ω

性、好き。ものすごく締麗なのと、そうでないのとは差の行動があ る。締麗くないのとつき合うよりも男とつき合ったほうがよい。 (1?) 肉体、僕の肉体は中学三年生のときからこれぽっちも伸びていな

v

。、 (13) 血にプロートを与えると、 4リットlレ入れると一日何も腹がへらな

v

。、

ω

読書、好きなのはエロ雑誌だった。 -162ー

(30)

不安の研究(][) 文章完成テストの解釈 1. 被験者の非常に強い願望は一日も早くアメリカヘ行き勉強したい欲求 である。そして自己の理想的な人聞と.して科学者で実業家になることを 目標にしている。更にタイムマシンがあれば刑務所から出られる時期や 地球の歴史を誰れよりも確実に知り、地球の果てまでの数学を知るとい うことなど、空想遣しく述べる。

2

.

いつも食事が足りず、大量の食事を食ベてもなお足りないことを訴 え、食事の欠乏に対する不安が高い。そのために金銭への欲求が強く、-金さえあれば食事も満足に食ベ、図書類も買って勉強が出来るという。 更に欲求は発展して女の子とも遊びたいという。 3. 五年間も精神病院や少年院に入れられて、自分の進路が破壊され、傷 つけられたこと、そのために自分の青春は損をせしめられたeその損を せしめた人々への憎悪、人間組織への不満、そしてこの世の中は人聞の 考える社会ではないという.母や親戚

t

乙対する憎悪も激しい。そして自 分の理想の社会はアメリカであることを主張してやまない。 4. 死は化学変化の終りであり、殺人は物理的感情でやれば容易に出来る という。解剖を好み、血液に対して異常な関心を持ち、そのようなもの に対する関心や興味については抑制がみられない。 5. 前述してきたことを要約してみると、先ず第ーに、被験者は自己顕示 欲が顕著である。自己の能力とみせかけの自己を誇示してやまない。 第二に、自己の編み出した欲求に対しては執劫であり、その欲求や願 望を阻む人々や組織に対して敵意と攻撃をしてあますところがない。い つまでも執槻lに固執する粘着性性格を有する。 第三に、自己の欲求が充足されないと、幼児期に退行して空想遅しく ことを構えている。食事はいくら与えられても足りず、たえず口唇の快 感を求め、たえざる欠乏感と不安を示している。それは乳児期の口唇愛 的特徴を伴って退行を示している。

(31)

不安の研究 (1) (6) クレペリン精神作業検査 作業前半は鋸型状の動揺の連続である。このジグザグ曲線は弛緩と興奮 が突互に作用し動揺を示している.特に休憩後の後半の作業曲線には興奮 と落込みが顕著である。無理な頑張と興奮の後、次の落込みが著しく、実 力以上の自己を見せようとする傾向がある。正常な定型曲線からのずれが 著しく、突然の興奮と弛緩が認められる。意志発動の仕方に異常な興奮性 のあることが疑える。特にわがままでむら気、興奮しやすく、反社会的、 孤独な逃避型の性格特徴を示している。 第

7

図 クレペリン内田精神作業検査 b'f-f (B)

-164ー

(32)

不安の研究(11) (7) パーソナリティ インペントリィ 第8図 パーソナリティ インベントリィの類型とヒストグラム S 3 その他の特徴

Z

5 性格類型 He

I

類 型 E 8 H 9 N 4 (M) 6 被験者の得点は平均域ではあるが、ヒステリー性傾向 (H) を示している。 次にやや繍痛性傾向 (E)の得点が高い。 故にHe(ヒステリー性+癒摘性〉類型である。

E ヒストグラム

20 10 パーセンタイJレバーセンタイ/v -165ー

(33)

不安の研究(]l) (8) 診断性向性検査 第9図 診 断 性 向 性 検 査 プ ロ フ ィ ー ル 偏 差 値 内 向 外 向 10 50 90 A 社 会 的 内 向 社 会 的 外 向 B 思 考 的 内 向 思 考 的 外 向 C 劣等感、失敗感 無 失 敗 感 D 神 経 質 の ん き E 感情変りにくい 感 情 変

P

易い 被験者には感情の固執性が強い。社会性、思考性は外向的で失敗感のな いことを示している。全体的な向性はやや外向性である。 (9) 精神健康度と親子関係 精神健康度においてはかなり行動の未成熟があり、小児的な未分化を示 している。そのことは被験者の生活史における親子関係がこれをよく示し ている。特に被験者からみた母親像は拒否、厳格、期待、干渉、不安、溺 愛、盲従、矛盾、不一致等の各特性に示されている。 親子の不和や意見の不致、しつけの一貫性のないこと、子供に責任をも たされてなく、依頼心を強め、期待、厳格、無視、放任等の複合した要素

-166

(34)

不安の研究

0)

を含んでいるために、被験者の発達の宋分化を示しているものといえる。 精神健康度における対人的親和度、対人的技能、集団参加度、勉強、遊 びの調和度、情緒の不安定、不適応感、器官劣等感、神経質的な徴候はみ られない。 第10図精神健康度診断プロフィール

C│不 適 応 感 16 材 陣 官 劣 等 感 18 E陣質の徴侯│均 総 得 点 1162 -167ー

(35)

不安の研究(1) 第11図親子関係診断テスト

l

V

考 察

1. 対人関係の要因 生活史にみられるように、被告人は誕生後 2才まで母親と生活、 3才頃 約一年間

Y

家に引取られて生活、更に

4

才以後実母に引取られて生活し た。その聞の初期幼児期の生活は母の離婚、別居、養育者がかわるなど、 不安定な養育者(母または代理〉の感情状態に左右されて、初期幼児期か ら基本的な満足と安定が得られなかったのではないかと恩われる欠乏感が -168ー

(36)

認められる。 (1) 満足への欲求 ① 欠 乏 感 不安の研究(][) 先ず彼が執劫なまでに訴え続けている食べることと金銭に対する強い欲 求である。それは初期の口居期に退行した形で欠乏感を訴えている。その 欠乏感からくあ強い欲求は母親や祖父や周囲の人々に対して敵意が向けら れている。彼は自己の欲求を充たすまで訴え続けてやまない。それが充た されないと破壊的方向に進行する。彼は今度の殺人事件において、彼ーが要 求し続けてきたアメリカ漉航が阻止されたと思い込んだとき、彼は「復轡 だから、殺人して腹を満足し、精神的に満足したかった。人を殺してでも 自分は生きたい」と述べる。彼の行動はそうした欠乏感から発生してい る。しかもその欠乏感を誰(母または代理〉れかが充たしてくれることに 依存している。それが阻止されると敵意と攻撃的行動に出る。 (2) 安定への欲求 ① 防衛機制 彼は、殺人事件を犯させた動機は母や祖父遣にあるから、彼等が悪いと する。勿論行動は自分がしたのだから、被害者には悪いが、他の人々には 関係のないことでありとする。法律で悪いというから、自分はそれを黙っ て受け入れる以外にないという。そして自分のとった行動は正しいと正当 化する。彼の行動体験は、たえず他人がそうせしめたのだから、自分は正 しいという行動様式をとっている。 彼は過去の記憶の中で、 「従兄弟が悪いのに僕が叱られたとか、親戚は 僕のよいところを隠そうとする。自分は正しい。自分はよい特徴を持って いる。自分は何んでも決めたら実行する」と自己評価をする。 彼のすっかり凝固した身の構え方は「自分は正しい

J

のであるから、復

(37)

不安の研究(][) 響するという敵意によって自己を武装している。恐らく彼のそうした防衛 機制は、幼少時から母親が離婚により別居したり、転々と他人と生活して いるために、わがままと欠乏感(愛情の欲求)を基調としている。 彼は、自分の欲求や行動は「自分が正しい」という小児的で自我の強い 国己中心的な軸を中心として、敵意に充ちた防衛機制にますます輸を広 げ、自我が形成されていっている。 @ 敵意の感情 母親に対する認知は、親しめず、子供っぽく、ふざげてばかりいて、真 面白に話さない、嘘つきで約束を守らず、迷信を信じ、小さいときよく幽 霊の話しを聞かされ、夢にまでおびやかされた。母は馬鹿でくだらない人 間である。物質的な愛情はあるが、精神的な愛はないと述べる。そのため に母親を離れて気ままな間借生活を楽しんでいる。親子関係診断テストの 結果は、母親の拒否、厳格、支配、保護、服従、矛盾、不一致等の各特性 に高得点を示し、悪い母親像として認知されている。 祖父に対する敵意と攻撃の感情は激しく、今度のアメリカ渡航を阻止し ていたことについて、非常に怒りを込めている。また母方の親戚関係や従 兄弟に対する敵意の感情も亦激しい。 過去において精神病院、鑑別所、少年院に、不必要に入れられ、高校進 学を阻止され、また青春を失わしめたという母親や関係者に対する復響と 敵意を生み出し、また精神病院や鑑別所に入れられでも、自分の人格には 何等の変化のなかったことを主張する。しかし今度の殺人事件は本物だか ら、正々堂々と正門から刑務所へ入れると述べる。そのため彼に関係する 人々はみな復響の対象となり、またそれは沖縄に生れたことへの自己卑下 となり、日本の教育や社会に対する批判となり、それらはすべて社会への 復聾と化し、アメリカを理想郷として傾倒している。 彼は自己を威圧する権威や社会的組織を嫌い、自己の理想的な社会を自

-170

(38)

不安の務院(][) 己中心的な社会に求めている。彼の言葉で云えば、権威的人工的社会は損 をする性格であり、自己の自然な社会は得をする性格であるとする。 本来良心と呼ばれる社会他された超自我は初期幼児期における父親の権 威の内在化によって社会佑されるべきはずのものであるが、彼にはそうし た超自我〈良心〉なるものは不在である。そのために母親も亦同様、彼 に関係する人々は、‘使用され搾取される物としてしか被の自にはうう~;ゃ ない。彼は自分の欲求が充たされないと、社会化されていない核を爆発言 せ、人々を破壊的混乱に落し入れ、それ見よがしに噸笑するρー彼には小児 期の自己中心的支配のみしか残存していない。 彼は「小さいときから自分には道徳的しつけがなく、.わがままだ'った」 と述べる。彼には超自我のコントローJレがなされず、自我だけにまかせら れた行動をする。彼は自らよく自己を洞察し得る能力を持ちながら、敢え て殺人事件を犯しているのは、全く抑圧のない自我だけの働きによるもの である。殺人直後性的欲求が出てきたのは、 「殺人のついでに得をするよ うにした」と述べる。それは超自我と自我との取引きによって、得をする ように、自我だけにまかせられた行為である。その自我だけにまかせられ た彼の数々の行動は、初期幼児期からの発達過程の中で形成されてきた自 己中心的、小児的な未成熟さによるものである。いわばそれは彼の顕著な 自己顕示欲やヒステリー性の神経症的傾向をおびているものである。 あらゆる神経症的人格の核心は、正常な人と同じように、自由と独立と を求める戦いにある。彼のばあいも独立と自由とを求めるパーソナリティ の一部と激しい葛藤を起し、その結果として、つらい、苦しいものとして 体験されている。正常な人の多くは、この戦いを、放棄のうちに終らせ、 適応するのであるが、彼の神経症的人格は、屈従に抵抗する戦いを放棄す ることができず、しかも彼がどんな形の欲求であれ、また思いえがいてい ることであれ、とかく、魔術的助げ手(母または代理〉に束縛されている 小児的人格である。彼は、基礎的には依存と自由独立の探索の聞の矛盾を

(39)

不安の研究く1) とこうと試みるが、しかしながら、自分は正しい。なんでもやろうと思え ば出来ると主張する。自分には失敗感はないと述べるが、本質的には成功 の試みがない。依然として孤独、無力、無意味感に圧倒されて、生きられ ない爆発としての破壊性が前面にあらわれてくる。 (3) 感情の未成熟 自己の利益のみ中心におき、欲求と自己主張のみに固執している。本来 小児的、自己中心的欲求が次第に社会化され、そして社会的理想にした がって働くときに、はじめて感情の成熟をもたらすものであるが、彼の場 合、小児的、自己中心的段階にとどまって社会化されていない。

2

.

破壊的要因 (1) 破壊的方向性 特に中学校 2年生頃から、自己の欲求が阻止されると、それを獲得する ためには、母親や関係者を煩わせる行動をする。母親が本土の中学校へ転 校させないことを理由に、ゴムボートで本土横断計画をしたり、高校入試 時に母親の送金が少ないことを理由に、自殺企図で精神病院へ入院させら れたり、また在京中、職場の女主人と口論して勤務先を飛び出し、自転車 窃盗で逮捕され、また今回の殺人事件を犯すなど、たえざる自己破壊的方 向に進行している。 (2) 噌 虐 性 児童期から動物の行動について興味を抱き、特に中学校へ入学してから は、動物の解剖に興味を持ち、機会あるごとに解剖を行っている。また彼 は自己の犯した事件によって母親や親族の人々が他の権威(響察〉によっ て叱責されたり、また人々が苦しむのを快感をもって眺めている。 今度の殺人事件の動機について、彼は自分の憧れであったアメリカ韓航 -172ー

(40)

不安の研究(J[) が阻止されたと思い込んだ途端、所謂彼はアメリカへ渡航して、進学する こと、学位をとること、科学者で実業家になることへの知性化された欲求 目標とその価値体系が脅かされたとき、それに加えて過去に精神病院や少 年院に入れられた恨みも挑発されて、復響は復讐を生み、彼をして破壊的 方向に向わしめた。しかもハンマーによる彼の犯行は噌虐性と破壊性を伴 って行われている。 彼は陳述の中で、 「自分はどうにもならないところまできていた.なに か異常なことをしたかった。自分は人を殺してでも生きたい。殺人するこ とは自分の宿命であり、信念である。それによって自分の気持が決る。自 分のコースが決る」と述ベる。彼は殺人することによって、自らも他の権 威によって懲罰されることを恐れながら、敢えてそれを求めている。 3. 性格的要因 (1) ロ ーJレシャハ

FB2

型の自己中心的、強情さ、統一性の欠知、

FC

C+CF

の顕著 な出現率による破壊的衝動性、内部構造への異常な執着、性的ショック、 不快感情と欲求の歪みは反社会的行動を誘発している。 (2)

MMP

1

精神病質的傾向を特徴としている。 (3)

T

A

Tと文章完成テスト

欠乏感と顕著な欲求行動を特徴としている。 (4) 向性検査 社会的外向、思考的外向、無失敗感、感情の変りにくさを特徴とじで いる。

(41)

不安の研究 (1) (5) パーソナリティ インペントリィ ヒステリー性傾向と摘摘性傾向を特徴としている。 (6) 精神健康度検査 行動の未成熟さを顕著な特徴としている。

4

.

知能的側面

WAIS

知能検査。

1

Q

1

1

0

点は普通上位域に位置する。知能の障害は 認められない。

5

.

意志的側面 クレペリン精神作業検査 意志発動の仕方に動揺と突然の興奮性が認められる。それは彼の癒嫡性 性格との関係が深いといえる。 6. 性格の構造 現実の彼の言動や態度から、彼の初期幼児期を解釈するならば、彼が現 実に訴える欠乏感は、彼の幼児期の養育者(母または代理〉との関係にお ける体験が、現実に、幼児期に退行した形で表出している。その欠乏感 は、実は最も根本的には、初期における母との分離不安に源泉している。 母親の与える精神的に優しさらしいものが、彼の分離不安を適切に解消せ しめえなかったのではないだろうか。その事実は母親が子供と別居した り、養育者が変わるなどしたことにもよる。精神的なものを与える代償と して物質的には多くを与えられていたであろうが、依然として欠乏感は消 えていない。彼の言動の中で「母は物質を与える愛情しかなかった」と述 ベることもそれをよく示している。無力な子供にとって一番恐怖なのは、 母親から分離されることへの不安である。子供もその不安から逃れるため ~174 ー

(42)

不安の研究 (JI) になにかを要求し続ける。そうすると母も亦同様、その分離不安を逃れる ために物だけを与えておいて安心する。その悪循環が繰り返されればされ るほど、いつまでもわがままな幼児でいれば好都合であったわげである。 欠乏感を基調としているのは、必ずしも物質的な欲求だけというよりは、 優しさの欲求であるといえる。彼の現実の態度は、自分をほめてくれる 入、なんでも優しく聞いてくれる人を求める。さもないと利害関係のみに 結びっこうとする。 彼の性格の中心軸は未発達な小児的な自己中心性である。それは思考、 判断、意志、感情、情緒に小児的な色彩をおび、輸を拡げて形成されてい る。 その身の構え方〈防衛機制または性格のよろい〉の質的特徴はヒステリ ー性傾向、粘着性(または蝿嫡性傾向〉、精神病質的傾向、破壊性、サデ イズム等が複合して輪を拡げ、持続し、かなりの強さをもって形成されて いる。 しかもその中心軸は行動の未成熟なまま進行している。彼は高速な理想 を抱きながら、しかも強い自己顕示欲をしめしながら、破壊性のために非 生産的である。彼は自己の目標到達寸前に、必ずといってよいほど破壊的 行動を起している。東京の中学校へ編入学前に本土密航計画を実行して響 察の保護依頼を受け、高校進学入試時に自殺企図により精神科入院、アメ リカ渡航寸前に殺人等、真面目にやればできる能力を持ちながら、敢えて 自己聾損にいとまがない。彼は対人関係、特に威圧する権威に対しては、 いつまでも恨みと復響を固執する粘着性性格を特徴とする。 思考力、判断力は彼の性格と不可分離に結びついている。それは彼の全 人格的な構造の中の要因であり、一つの構造の中の部分であり、それは全 体の構造によって決定される。 彼の欲求や感情に結びついた‘思考や判断の仕方は小児'の自己中心的未成 熟の段階にとどまっている。更に彼の性格の複合的要素は、自己顕示欲の

(43)

l

E

H

1

自己実現

(非生産的)

→││味

臣 R

新不

l

i

l

i

川 区 し ふリ市 m

- ヌ

性 格 形 成 の 構 造 略 図

異常域

-性

ι 4

-﹄ 第 12図

思考.判断.意志

分 か

!

;

?

ρ

?

感情.情緒

ハ 岡 ) 回 軌 廃 Q 保持

(44)

不安の研究 (JI) 強い小児的なヒステリー性傾向、精神病質的傾向、執着心の強い、意志発 動に急激な変化と爆発を示しやすい繍摘性傾向等を特徴としている。最も 彼の被害念慮は社会への復讐を発展せしめた。また妄想的傾向も亦強い。 彼は殺人行為が被害者に対して悪いと思うことも、可愛想であるという ことも充分認識の上、しかも撤密な計画によって決行された。 彼は「なにか異常なことをせずにはいられなかった。アメリカ漉航が阻 止されていたこと、過去において精神病院や少年院に入れられ、青春を失 った。その異常なことに対して異常なことをするのは、生きて感情を持っ ている人のやる行為である」と述べる。更に「毎日いらいらして無意味な 生活であった。なにか悪いことをしてみたいと思った。世の中に悪の存在 することが面白い。殺人をすればいままでとちがった精神観を持つ。死は 化学的変化の終りであるから、それを実験的に確めてみたいと思った。殺 人は最高の勉強方法である」と全く抑制のない口調で陳述する。とにかく 「人を殺して腹を満足したかった。精神的に満足したかった。復響だか ら、殺人のついでに、性も亦思う存分満足したかった」と述べる。 彼の破壊性の源泉は自分が生きることへの価値のおびやかしによる不 安、孤独、無力感、無意味感から破壊性が発展した。彼はアメリカへ諜航 して勉学することを志していたが、それが阻止されたと思い込んだ途端、 自己の成長、自己実現、生存を求めるエネルギーは、分解過程をたどり、 生命を求める衝動と破壊を求める衝動とがからみあい、生命を求める衝動 が妨害されればされるほど、破壊を求める衝動が強くなり、それが生きら れない生命の爆発となり、その激情がいわば貯水池となって、破壊的行為 が他人に向けられた。それは「社会への復讐」という正当化された形で殺 人が犯された。 彼は自己破壊でなければ、他者破壊によって、もはや外界の事物の圧倒 的な力によって、おしつぶされるようなこともなく、また外界の圧迫から 自己を救う、ほとんど自暴自棄的な行為であったことは理解される。

(45)

不安の研究く][) 彼は殺人のついでに性の満足もしたかったと述べる。彼の破壊性はサデ イズムと結びついている。サデイズムは破壊性と同一ではないが、かなり まじりあっている。彼は殺人によって腹を満足し、精神的に満足したかっ たと述べる。相手を「のみこむ」自分の意志通りに、完全に支配し、無力 にし、思うままあやつり、絶対的支配者となるほど、頼りないものにして しまうことに還元している。サデイズム的渇望に破壊性をまじえるほど残 酷な行為となり、しかもそれが「社会に対する復響jなどの正当化の形を とっている。 彼は中学校時代から解剖に異常な興味をもち、死や破壊に対する満足 が、彼の行動や言動からして、生を窒息させ、おしつぶし、破壊すること は、生を愛し、成長させ、発展させることに見いだされる満足と同じ程度 に、彼には満足している。彼は、死を化学変化の終りであり、それは物理 的感情によってとめられると、いとも簡単にいってのける。また彼の屍体 愛も、生きている人の破壊を試みる真正倒錯である。 以上述べてきたように、彼の犯行一週間前の行動は、彼にとって理想、と していたアメリカ渡航が阻止されんとした、いわば生存をおびやかすほど 圧倒的な刺激が、彼の発達過程の中で形成された性格の異常性に加えら れ、生命がゆさぶられて、彼の生命の核(生の衝動と死の衝動の衝突〉が 爆発を起し、行動は破壊的方向に進展した。しかしその行動の選択決定傾 向は彼の性格構造に依存している。 彼の性格は正常な発達をしていなかったことを結論とする。 -178一

(46)

不安の研究(1)

V

要 約

1. 不安の質的要因 本研究は不安の属性要因として、特に不安の質的要因、強さ、持続性、 拡がりの要因について考察を試みようとしたので、その四つの属性要因の 要点をまとめてみたいと思う。 先ず不安の質的要因を述べる前に、不安とは何かを概括してみたい。不 安とはその個人のパーソナリティの中核を脅やかしている何ものかであ る。換言すれば、それは生存と本質的に同一視される価値の脅やかしであ る。その結果として生ずる症状や悪性の行為に変換されてあらわれるのが 不安としてとらえられる。 しからば彼の生存に本質的なものと解せられる価値の脅やかしとは何ん であったか。それには次の二つの質的要因があった。

0

対人関係の基礎である母子関係である。彼は初期の無力な幼児期 から母親との分離不安や欠乏感に脅やかされていた。

0

もう一つは、彼が青年期になって、自由に自分の姿勢を向けた進 路、進学や学業への欲望が脅やかされたことである。 初期幼児期からの母親との分離不安や欠乏感とは、母親と情緒的に共生 し、母親の優しさや保護を求める反面、いつでも母親に小児にされている ことへの敵対があり、心理的離乳や独立が出来ずに頼りなさ、無力感、孤 独感、無意味さに圧倒され、抑うっと自問的な退行を示し、いつかしそう した不安の増大は爆発を起さずにはいられなかった。青年期になって、彼 の第一の執念は、将来勉強して医師か実業家であり、博士になることであ ったと述べる。そうした彼の希望進路が限止され脅やかされると、彼はそ れを破壊的方法で解消しようとした。彼は、進路を阻止するのは、母親で あり、祖父であり、社会にありとする正当化の機制により、彼の進路を阻

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不安の研究くJ[) 止する人々は敵意や攻撃の対象となり、教育や制度に対して、社会に対す る復響となった。しかし彼がそうした不安から逃避し、自己を防衛するメ カニズムは、原初的レベルの動物にまで退行すること、ナルチシズムを強 化すること、ネクロフィリア(破壊や死の愛好〉になることによって、こ の状態では、彼には、いかなる秩序も権威も存在しなかった。彼の不安は 悪性の破壊的なエネルギーに変換された。 前述のニつの不安の質的要因から発した不安は、退行、ナルチシズム、 ネクロフィリア、情緒-的共生等の要素を伴って、次に述べる不安の強さの 要因としてあらわれた。 2. 不安の強さの要因 第

H乙、彼の退行の強さである。彼の殺しの激情への退行は、最も原初

的な血の渇きである。彼は野生に帰えることによって、また生を超越する 方法として、殺しに熱狂した。前個性的、動物的存在へ退行することによ って、理性の重荷から解放されることによって、生の解答を求めようとし た。殺しにより、血を見ることによって、彼は他の何物にも勝る強くて独 自の、勝ち誇れるものとなりたかったのである。彼にとって殺しは最も原 始的な水準で、非常な興奮となった。彼は中学校の時期から動物の解剖に 興味をもち、暇さえあれば解剖に熱中した。しかも生きたままの動物を解 剖することにサディステックな興奮と快感を味わった。しかもできるだけ 多くを殺すことであった。それはまた自分が生きている意味の確認でもあ った。動物の解剖だけでなく、毒薬、火薬、化学薬品等、生を窒息させる ようなものを好んだ。ついには殺人にまで至った。最も深い退行の水準で 生を確認し、生に超越しようとした。 第

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は、彼がネクロフィリア(破壊や死の愛好〉の特徴の強いことであ る。彼の特徴は性的倒錯を伴っている。つまり女の屍体を性交のために所 -180ー

参照

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