日本重症心身障害学会誌第 43 巻 3 号 515 〜 518(2018)
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北海道療育園 医師 連絡先 〒 071 − 8144 北海道旭川市春光台 4 条 10 丁目 北海道療育園 (鳥井希恵子) (受付日:2018.5.24,受理日:2018.9.12) 要約 重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))施設において、急性閉塞隅角緑内障(急性緑内障発作)の2例を 経験した。発見時の症状は、1例は意識消失、もう1例は啼泣と結膜充血であった。急性閉塞隅角緑内障は、 放置により短期間で失明につながる場合があり緊急対応が必要である。重症児(者)は、発症時の症状を訴え られない場合が多いことに加え、普段から閉眼不全がある、顔位により目が圧迫される、自ら刺激してしま うなどの理由により、結膜充血などの眼症状が慢性的に認められる場合も多く、発症時の変化に気づくのは 難しいこともある。また、発症の誘因となり得る散瞳作用のある内服薬を使用する機会も多く、腹臥位など の体位によっても発症が誘発される危険性がある。白内障も誘因となるため高齢者の発症が多いという特徴 がある。今後重症児(者)の高齢化に伴い急性閉塞隅角緑内障の発症が増える可能性があり、注意が必要で ある。 キーワード:急性閉塞隅角緑内障、意識消失、結膜充血 Ⅱ.症例 1.症例1 61歳 男性。髄膜炎(生後11か月)後の 脳性麻痺。大島分類2 原因不明の膨隆疹が月に2回程度出現するため、 クロロフェニラミンマレイン酸(ポララミン®)を 内服しており、発症2か月ほど前より、内服量を 4mg/日から6mg/日に増量していた。その他、オキ シぺルチン(ホーリット®)、レボメプロマジン(ヒ ルナミン®)、エチゾラム(デパス®)を内服してい た。当園に入所中、明らかなけいれん発作は認めら れたことがなく、定期的な脳波検査上、てんかん波 の出現は認められていなかった。眼科疾患の既往は なかった。 現病歴:朝食前に職員が訪室したところ、意識消 失し倒れているところを発見された。顔面チアノー ゼが認められ、呼びかけにも反応しなかった。意 識レベルⅢ-200、血圧133/73mmHg、脈拍56bpm。 対光反応は左眼正常、右眼は開眼させようとしたと ころ、強く抵抗し対光反応は認められなかった。直 後に意識が改善したが、閉眼したままで活動性は低 下していた。その後、嘔吐も認められた。眼科医の症例報告
急性閉塞隅角緑内障を発症した重症心身障害児(者)の 2 例
鳥 井 希 恵 子 斎 藤 剛 岩 佐 諭 美 徳 光 亜 矢 竹 田 津 未 生 林 時 仲 楠 祐 一 岡 隆 治 平 元 東 Ⅰ.はじめに 急性閉塞隅角緑内障とは、前眼部形態の問題で前 房隅角部が狭い(狭隅角である)ために隅角閉塞が 起こり、房水の流出が妨げられ、眼圧が著しく上昇 する緑内障である1)。適切な処置をしなければ数日 で失明に至る場合もある。急激な眼圧上昇に伴い、 激しい眼痛や頭痛、嘔気、視力低下などの自覚症状 が出現するが、症状を訴えられない重症心身障害児 (者)(以下、重症児(者))では、眼疾患であることに 気づかず、発見が遅れる場合が多いと思われる。 今回、意識消失で発見された1例と、啼泣と結膜 充血で発見された1例、計2例の急性閉塞隅角緑内 障を経験したので報告する。516
日重障誌 43(3), 2018 診察時、右眼は対光反応が欠如しており室内光にて 瞳孔径4mm、角膜浮腫は認められず、中程度の結 膜充血が認められた。左眼は対光反応正常、瞳孔径 3mmだった。頭蓋内病変を疑い頭部CT検査を施 行したが明らかな所見は認められず、総合病院脳神 経外科でさらにMRI、MRAなどを施行したが、異 常所見は認められなかった。けいれん発作の可能性 を指摘され、同病院神経内科にて脳波検査を行った が、てんかん波の確認には至らなかった。 翌朝診察時、右眼の結膜充血と角膜浮腫が著明で あり、抵抗が強かったため眼圧値の測定はできな かったが、触診にて右眼の著明な眼圧上昇が確認さ れ、右急性閉塞隅角緑内障の診断で総合病院眼科に て緊急手術(虹彩切除術)を行った。翌日より角膜浮 腫は軽減し、本人の表情も改善した。術後2週間 は右眼圧が20~32mmHg程度と高値(正常値10 ~21mmHg)で、緑内障治療薬であるラタノプロス ト・チモロールマレイン酸塩点眼(ザラカム®)を 使用した。その後眼圧は正常範囲内に落ち着いてい ることが多く、発症から半年後に点眼薬を中止した が、その後も著明な眼圧上昇は認められていない。 発症後、散瞳作用のあるクロロフェニラミンマレイ ン酸、エチゾラム、レボメプロマジンの内服は中止 している。左眼も隅角が狭く、軽度から中程度の白 内障が認められ、眼圧上昇はなかったが急性緑内障 発作の危険があるため、予防的に左虹彩切除術を施 行した。術中の眼底検査にて両眼とも視神経乳頭の 緑内障性変化は明らかではなく、急性緑内障発作後 も左右とも片眼で追視可能であり、日常生活に支障 ない程度の視力は保たれていた。予防手術後、レボ メプロマジン内服のみ再開しているが、眼圧上昇は 認められていない。 現在術後6年が経過し、徐々に白内障が進行して きており、特に右眼は症状が強く片眼では追視でき ない程度まで視力低下しているが、両眼開放下では 日常生活に大きな変化は認められていない。家族の 希望もあり、白内障手術を行うことなく経過観察を 続けている。 2.症例2 60歳 女性。原因不明の脳性麻痺。大 島分類1 49歳時、左眼球突出が出現し、精査にて左前頭 洞扁平上皮癌が認められ、左前頭部に放射線治療を 行った。腫瘍は消退し、再発は認められていない。 放射線治療の影響により左眼にのみ成熟白内障を 認めていたが、家族から手術の希望はなく経過観察 していた。右眼の白内障は軽度であった。左眼ドラ イアイ、慢性結膜炎のため普段から軽度の結膜充血 があり、ヒアルロン酸点眼を使用していた。啼泣が ときどきあり、発症2か月前頃から以前に比べ啼泣 が多くなったため、内服中であったクロチアゼパム (リーゼ®)をスルピリド(ドグマチール®)とエチ ゾラム(デパス®)に変更した。発症2週間前にはス ルピリドを塩酸クロミプラミン(アナフラニール®) に変更していた。 現病歴:日中啼泣があり、左眼の結膜浮腫、充血 が出現しているのを職員が発見した。翌日、眼科医 の診察時には結膜充血、角膜浮腫が強く認められ、 眼圧値は測定できなかったが、触診にて左眼の眼圧 上昇が確認されたため、左急性閉塞隅角緑内障の診 断で、同日総合病院眼科を受診し、浸透圧利尿薬の 点滴、緑内障治療薬であるチモロールマレイン酸塩 (チモプトール®)、ドルゾラミド塩酸塩(トルソプ ト®)、ラタノプロスト(キサラタン®)、ピロカルピ ン塩酸塩(サンピロ®)の点眼を使用した。眼圧が下 がり角膜浮腫などの症状が落ち着いたため、外科的 処置を行わず、その後もドルゾラミド、ラタノプロ スト点眼を継続し経過観察した。発症後、散瞳作用 のあるエチゾラム、塩酸クロミプラミンの内服は中 止している。急性緑内障発作の再発は認められず、 左眼眼圧は20mmHg前後と正常上限程度で推移す ることが多く、右眼眼圧は正常範囲内であった。経 過観察中に少しずつ前房が広くなり、発症から2年 後には、成熟白内障の状態であった水晶体が硝子体 中に自然落下した。水晶体が本来の位置になくなっ たため、左眼の狭隅角は解除された。その後、眼圧 は正常範囲内に落ち着いていることが多くなり、緑 内障点眼はすべて中止したが、著明な眼圧上昇は認 められなかった。水晶体落下の影響による炎症や痛 みの表出などはなく、家族の積極的な手術の希望も なかったため、硝子体中の水晶体を除去する手術は 行わず、水晶体融解による炎症症状の出現に注意し ながら経過観察中である。右眼も狭隅角であったが 白内障は軽度であり、緑内障発作に対する予防手術 は行っていない。 現在、水晶体が本来の位置にないため左眼片眼で は追視できないが、右眼は追視可能で人を認識する日本重症心身障害学会誌 第 43 巻 第 3 号
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程度の視力が保たれており、日常生活において不自 由な様子は出現していない。 Ⅲ.考察 40歳以上の緑内障の有病率は、5%前後と言われ ており2)、そのうち狭隅角眼に起因する閉塞隅角緑 内障は、解剖学的な問題で人種差があることが知ら れている。欧米ではその有病率は0.4%以下である がアジアでは比較的高い。岐阜県多治見市で行われ た緑内障疫学調査(2000~2001年)ではその有病率 は0.6%である3)と報告されているが、沖縄県の久 米島緑内障疫学調査(2005~2006年)では、有病率 は2.2%と報告されており4)、日本国内においても 有病率に地域差があることが確認されている。急性 閉塞隅角緑内障は、これらの遺伝的背景に加え、加 齢による前眼部形態の変化などで隅角閉塞が誘発 され、急激な眼圧上昇が起こり緑内障性視神経症に 至る疾患である。 急性閉塞隅角緑内障の誘因として、水晶体の関連 が指摘されている5)。高齢になると水晶体の硬化(白 内障)により水晶体厚が増加し、隅角閉塞の原因と なるため、60歳以上では発症率が高くなる。また、 腹臥位をとることによっても発症が誘発される場 合がある。これは、うつ伏せにより水晶体が前方移 動し、隅角閉塞が起こりやすくなるためである。そ の他の誘因として散瞳の関連がある。散瞳すること により前房隅角部がより狭くなり、隅角閉塞を起こ しやすい状態になるため、抗ヒスタミン薬や抗コリ ン薬などの散瞳作用のある薬剤の使用には注意が 必要である。 自覚症状としては急激な眼圧上昇に伴う角膜浮 腫により三叉神経が刺激され、激しい眼痛や頭痛、 さらに迷走神経刺激による悪心、嘔吐、徐脈などが 出現する6)。見え方の変化も出現し、視力低下や霧 視を訴えることが多い。重症児(者)は、これらの 症状を訴えられず、眼疾患であることに気づくのが 難しい場合も多いと思われる。他覚的な症状として は、結膜の充血や浮腫、角膜浮腫、中等度散瞳など が出現することが多い。 症例1は意識消失という形で発見されたため、ま ず頭蓋内疾患、けいれん発作などを疑い原因検索 し、緑内障発作が確認されたのは翌日であった。症 例2は普段から啼泣が多く、眼科的な基礎疾患に より結膜充血が認められていたこともあり、緑内障 発作時にも症状の変化は肉眼的には目立たなかっ た。いずれも自覚症状の訴えができないために発見 が遅れている。眼科診察を受けなければ、さらに発 見が遅れた可能性もあると思われる。 今回、発症の誘因として2症例に共通する点とし て挙げられるのは、1つは発症眼に中等度以上の白 内障が認められていたこと、もう1つは散瞳作用 のある内服薬を使用しており、発症直前にこれらの 内服薬を調節していたことである。今回の症例で使 用していたクロロフェニラミンマレイン酸、エチゾ ラム、レボメプロマジン、クロチアゼパム、塩酸ク ロミプラミンは、いずれも抗コリン作用を有するた め散瞳しやすく、このうちレボメプロマジン以外は 閉塞隅角緑内障の禁忌薬となっている。これらの薬 剤を調節し、併用していたことが発症の誘因となっ た可能性があると思われる。狭隅角であることがわ かっていれば、予防的にこれら禁忌薬の使用を控え ることができるが、狭隅角であるかの判断は眼科医 の診察を受けなければわからないため、急性緑内障 を発症する可能性がある重症児(者)を事前に区別 することは現実的には難しいと思われる。 急性閉塞隅角緑内障を考える上で、重症児(者)特 有の問題として、自覚症状が訴えられないことに加 え、抗不安薬など抗コリン作用を有する閉塞緑内障 禁忌薬を使用する機会が多いこと、日常的に腹臥位 が必要な重症児(者)が多いことなどがあげられ、発 症の誘因になる可能性がある。また、閉眼不全があ る、顔位の影響により目が圧迫されやすいなど、目 に関する問題を抱えている場合も多く、普段から目 の充血症状が目立つ重症児(者)では、重篤な眼疾患 を発症したとしても肉眼的には普段の状態との区 別は難しく、発見が遅れる可能性が高い。さらに、 今後重症児(者)の高齢化により、白内障患者数も増 えていくと予想され、特に高齢者では閉塞隅角緑内 障の発症に注意する必要があると思われる。 急性閉塞隅角緑内障により高眼圧の状態が続け ば、短期間で視神経に不可逆的な変化が生じ、視力 低下、視野障害、さらには失明に至る場合もあり、 その後の生活に支障を来す後遺症を残す可能性が 高い。発症時にできるだけ早く状態に気づき、適切 な処置をすることが重要である。 急性の意識喪失、嘔吐症状、啼泣や苦痛の原因と518
平成 30 年 12 月 1 日 して、今回の症例のように急性閉塞隅角緑内障など 眼疾患の可能性があることも念頭におき、原因検索 を行う必要があると思われる。 本件に関し、保護者の同意は得られています。 利益相反に関する開示事項はありません。 文献 1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会.緑内 障診療ガイドライン(第4版).日本眼科学会雑誌122:5- 53.2018. 2)Iwase A, et al. The prevalence of primary open-angle glau-coma in Japanese: the Tajimi Study.Ophthalmology 111: 1641-8.2004. 3)Yamamoto T, et al.The Tajimi Study report 2: prevalence of primary angle closure and secondary glaucoma in Japanese population.Ophthalmology 112:1661-9.2005. 4)Sawaguchi S, et al.Prevalence of primary angle closure and primary angle-closure glaucoma in a southwestern of Japan: the Kumejima Study.Ophthalmology 119:1134-42. 2012. 5)亀田隆範.原発閉塞隅角の病態.澤口昭一ら編.All About原 発閉塞隅角緑内障.東京:医学書院,2014:61-3. 6)内藤知子.急性原発閉塞隅角緑内障の症状と所見.澤口昭 一ら編.All About 原発閉塞隅角緑内障.東京:医学書院, 2014:108-9.Two children (patients) with severe motor and intellectual disabilities with acute angle-closure glaucoma.
Kieko Torii, Takeshi Saito, Satomi Iwasa, Aya Tokumitsu, Mio Taketazu, Tokitsugi Hayashi, Yuiti Kusunoki, Ryuji Oka, Azuma Hiramoto
Hokkaido Ryoikuen, Asahikawa, Hokkaido
We experienced two cases of acute angle-closure glaucoma (acute glaucoma attack) at a facility for children (patients) with severe motor and intellectual disabilities (SMID). The symptoms observed when it was discovered include loss of consciousness for one patient, and for the other, crying and hyperemic conjunctiva. Acute angle-closure glaucoma is a condition which requires immediate treatments; it may lead to loss of vision shortly after the onset if it is left untreated. In children (patients) with SMID, it is sometimes difficult to notice their changes at onset as they are unable to complain of symptoms most of the time and may have chronic ophthalmological symptoms such as hyperemic conjunctiva due to constant malclosure of eyes, compression of eyes in association with the facial position, and self-stimulation. In addition, common use of oral drugs which cause dilation of the pupil as well as the position of the body such as prone position may also induce the onset. It often occurs in elderly patients as it can be also induced by cataract. Further attentions will be required as incidence of acute angle-closure glaucoma may increase in the future along with aging of the children (patients) with SMID.