多変量解析の意味と役割を考える
著者
中山 和弘
雑誌名
日本看護研究学会雑誌
巻
35
号
1
ページ
34-36
発行年
2012-04
URL
http://hdl.handle.net/10285/10511
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja多変量解析の意味と役割を考える 日本看護研究学会,日本看護研究学会雑誌 35 巻 1 号 : 34-36 (2012/04) 聖路加看護大学 中山和弘 人間や医療といった不確実な現象の把握を目的とする研究においては、観察したことを 誰もが共有できるように記述し、それが偶然なのか一般化できることなのかを検討する統 計学が不可欠である。さらに、多様な人間に起こっているバラツキの要因となっているも のは数多くあり、しかも複雑に絡み合っている。そのような現象の背景にある新たな概念 の発見やその複雑なつながりの解明には、根気強く探求心を持った観察が欠かせない。そ して、そのような観察から 浮かび上がってくる多様な 仮説の検証や修正のために 多変量解析が日々進歩して きている。 ところが,多変量解析に ついては,基本的な統計学 の知識があっても,その手 法の多様さや解釈の難しさ がある。しかし、その基本 となる相関についてベン図 で表現していくことで、ど のような意味を持っている のかについて考えていくとその役割が明確に見えるようになる。 そもそも、相関があると いうことは、分散の重なり があるということである。 分散(円)に重なりがあり、 面積=r2(各分散は1)と なっている。これがスター トである。 そして、多変量解析では、 主として2つの役割がある。 まず、見えないものを測る というものである。直接は
測れない心理社会的変数(感情、イメージ、性格、能力、人間関係など)を潜在変数とし て測定する。その概念の存在を引き出すために、言葉や行動などで観察したものを観測変 数という。概念の「定義」から「妥当性」のあるものを、「信頼性」のために繰り返し測定 するのである。例えば、「愛」を様々な言葉で問えば、愛してる、一緒にいたい、いつも想 っているなどがあげられるが、これらに対して、同じ返事がある場合は、観測変数間に相 関の高いものとなり、背景に共通した「愛」があると考えるのである。潜在変数は、構造 方程式モデリングを使えば計算可能で、そのとき潜在変数は観測変数から誤差を取り除い たものになり、概念の測定としては観測変数よりは真の値に近いこともあり、利用価値は 高い。研究目的として測りたいものが、目に見える観測変数なのか目に見えない潜在変数 なのかをかよく考える必要がある。例えば、人の行動など直接観測できるものが目的なら ば、因子分析を分類目的で用いることの方が適切な場合も多い。 また、多変量解析のも う一つの目的は、因果の 流れを知ることである。 その場合の研究目的は、 目的変数の分散の説明を 行うことである。例えば、 専門的ケアの実施度にバ ラツキすなわち分散があ る場合は、質保障として 問題であるため、ケアが できていない人がなぜ発 生しているのかの原因を 明らかにする必要がある。 ケアが、何と“共に変動” (=共分散)しているのか を説明するのである。 このときもし、単相関分 析だけの場合、専門的なケ アが経験年数と研修受講 とそれぞれ関連があると しても、それぞれは別物と して扱われている。結論は、 相関係数が大きい方が大 事か、両方大事なのか、そ してベテランは研修を受
けるべきか、経験年数があれば必要ないのかなどがわからない。ベテランほど研修を受け ているとすると、なおさらである。これが、多変量解析を行って、両方ともに関連が見ら れれば、それぞれが、「独自」の重なりを持っていることになる。それぞれが、独自の働き を持っていると考えられるので、ベテランも研修を受ければ新しい発見があるはずである。 また、言い換えると、現在の研修は経験年数だけでは得られないものを教えているともい えるが、経験で得られるものをすべて教えられてはいないともいえるのである。 また、もし、多変量解析で、研修経験だけが関連して、経験年数で関連が見られなかっ た場合はどうであろう。独自の影響がないとすれば、経験年数が、研修を介して「間接的」 に関連しているということになる。すなわち、経験年数があれば、研修受講が多くなり、 専門的ケアができるようになるという流れである。研修を受ければよいということであり、 研修は経験で学ぶものをすべて取り込んだすぐれたものとなっていることが確認できる。 このとき研修は、媒介変数(Mediator)と呼ばれる働きをしていることになる。そして、 経験年数は直接効果を持たず、研修を通した間接効果を持つということになる。このとき は、例え直接効果がなくても、間接効果があるといえる。 直接効果と間接効果を評価することは大事である。例えば、看護学的ケアと医学的ケア が患者の QOL にどのよう に影響するのか分析をした としよう。看護後学的ケア の直接効果が0.15 と小さく ても、間接効果は、0.8×0.5 =0.4 と大きい。総合効果は、 直 接 効 果 + 間 接 効 果 で 、 0.55 となり医学的ケアの直 接効果 0.5 より大きくなる のである。看護学的ケアは 医学的ケアの質を高めて、 患者の QOL に間接的にで はあるが、大きな影響を及 ぼしているという結論を導くことができる。これらの分析方法については、パス解析と呼 ばれることが多く、潜在変数間のパス解析は構造方程式モデリングの中心的な活用の場で ある。 また、媒介変数とともに調整変数(Moderator)についても知っておくべきである。多変 量解析において、重要な役割を果たしている。例えば、新人のときの教育の状況次第で、 研修受講の専門的ケアへの効果が異なるということが予想されるとしよう。この場合、新 人教育は調整変数と呼ばれ、研修の影響は新人時代によるということになる。「○○によっ て違う」ということはよくあることで、そのような仮説が考えられるときは、必ず検討す
べきである。分析の方法 としては、新人教育と研 修と組み合わせの影響が あるということで、交互 作用を検討することにな る。 看護学では、目に見え ないものの複雑な構造を 対象とすることが多いの ではないだろうか。健康 や QOL に関連した目に 見えないものを含めた人 間とケアの構造を明らか にすることは、看護学の大き な役割だと言えよう。この言 わば、生物心理行動社会環境 的プロセスとケアの構造を 明らかにしていくには、潜在 変数間のパス解析により、媒 介変数や調整変数を明らか にしていく技術が求められ ているといえる。 最後に、これまで看護学の 研究では、個人を対象とした 分析が多かったと思われる が、実際には、病棟、病院、 ステーション、施設、クラス、地区・地域単位で集めたデータが多く用いられてきている。 そのようなときに、分析の単位は個人単位でよいのだろうか。集団の文化を捉えるはない のであろうか。集団が大事だからといって、個人ではなく病棟単位といったグループ単位 で分析してしまうと、ある病棟のある患者たちはどのような状況なのだろうという組み合 わせを評価することができない。このような、目に見えにくいものだった個人を超えた集 団・チーム・コミュニティの文化・特徴を捉える手法が開発されてきている。マルチレベ ル分析と呼ばれるもので、これによって、環境と個人の相互作用を明らかにできるため、 看護学での活用が期待されるものである。多変量解析によって、何が可能になっているの かについて、その意味を考える重要性について共有できたことを期待したい。 なお、発表に用いたすべてのスライドは、サイト「ナースに役立つ種類のサイトとは?」
(http://www.nursessoul.info/)で公開している。
参考文献
中山和弘:論文を理解するための統計学【重回帰分析篇】・連載1~5,看護研究,41 巻 2 ~6 号, 2008.