日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-10 316
-発達障害児を対象とした概念間学習プログラムT-IRAPを用いた
硬貨価値の大小についての関係反応及び派生的関係反応の検証
○小笠原 忍1)、古谷 大樹1)、竹内 康二2) 1 )明星大学大学院人文学研究科心理学専攻、 2 )明星大学心理学部 目的 発達障害児は,定型発達児と比較すると大小や長短 などの概念間の関係性の理解に困難が見られている (武藤, 2001)。その中でも,貨幣価値の大小に関する 学習に困難を示している(山崎, 1996)。このような 概念間の関係性の学習について着目した理論の 1 つに Relational Frame Theory(以下,RFTとする; Hayes, Barnes-Holmes, & Roche, 2001)がある。RFTでは直 接学習によって生起する刺激間の関係性に対する反応 を関係反応,学習した関係反応のレパートリーから推 測し生起する反応を派生的関係反応と呼んでいる。 このRFTを基盤として様々な刺激間の関係性の学習 手法が開発されてきたが,その中の 1 つにTeaching-I R A P( 以 下, T - I R A P と す る ; K i l r o e , M u r p h y , Barnes-Holmes, & Barnes-Holmes, 2014)がある。 T -IRAPとは,モニター上部(ラベル刺激)と中央部 (ターゲット刺激)に提示された刺激の関係性につい て,モニター左右下に提示される選択肢から,ラベル 刺激とターゲット刺激の関係性を適切に表している選 択を求めるコンピュータ課題である。Kilroe et al. (2014)の先行研究では,自閉症スペクトラム児に対 し,物理的な形態で判断可能な刺激のセットと,硬貨 の刺激のセットを用いて T -IRAPを実施し,両刺激 セットで適切な関係性の学習が確立したことを報告し た。しかしながらKilroe et al. (2014)の研究報告 は, T -IRAP上で概念間の関係性の学習が確立された という報告のみとなっており,実際の硬貨を使って硬 貨価値の大小について尋ねた場合, T -IRAPにより直 接学習した選択(関係反応)が生起するのか,また T -IRAP上で直接学習を行っていない選択(派生的関 係反応)が生起するかについて検証が行われていな い。そこで本研究では硬貨価値の大小に関する理解に 困難を示す発達障害児に100円,50円,10円を刺激と して使用する T -IRAPを実施し,硬化価値の大小に関 する関係反応及び派生的関係反応が獲得されるかの検 証を目的とした。検証に際し T -IRAP実施前後で硬化 価値の大小に関して,適切な硬化の選択を求めるテス トを行い,その結果を比較した。また派生的関係反応 の生起を検証するために,適切な選択肢がない場合と 複数選択が必要な場合の設問を用意した。 方法 参加児:ASDの診断を受けている 5 歳男児(以下「 A 児」)及び 6 歳男児(以下「 B 児」)の 2 名を対象とし た。新版 K 式発達検査の結果では, A 児DQ:98, B 児 DQ:79であった。両児とも障害児通所施設にて発達療 育を受けており,障害児通所施設の協力の元本研究を 実施した。両児の保護者に対して実験前に本実験の データは関係者のみ観覧可能であること,参加児や保 護者の意思で実験を途中で中断可能であることを説明 し,データを匿名で公開することに関する同意を得た 上で本研究に参加した。 実験場所:障害児通所施設の一室を借りて実施した。 T -IRAP: T -IRAPの プ ロ グ ラ ム はVisual Basic 2013にて作成し,フェイズ 1 とフェイズ 2 で T -IRAP を実施した。フェイズ 1 ではラベル及びターゲット刺 激として丸,三角,四角の図形,選択肢として「おお きい」「ちいさい」を使用した。フェイズ 2 ではラベ ル及びターゲット刺激として100円,50円,10円を撮 影した画像と,選択肢として「おおきい」「ちいさい」 を使用した。 手続き:実験をプレテスト, T-IRAP(フェイズ 1 と フェイズ 2 ),ポストテストの順で行った。 プレテスト:100円,50円,10円の 3 枚の硬貨を参 加児に提示し,実験者は 1 枚を手に取り「これより大 きい(小さい)のはどれ?」と参加児に尋ね該当する 硬貨の選択を求めた。わからない場合は「わからな い」,該当する硬貨がない場合は「ない」,複数該当す る場合は全て選択するよう教示した。複数該当する硬 貨がある場合は,全て選択した場合のみ正答とした。 フィードバックは行わず選択した硬貨を記録した。実 験者が尋ね参加児が硬貨を選択するまでの過程を 1 試 行とし,全ての硬貨の大小について尋ねられる 6 試行 を 1 セ ッ シ ョ ン と し て 行 っ た。 合 計 3 セ ッ シ ョ ン 行ったあとにフェイズ 1 に移行した。 フェイズ 1 :同じ種類の図形をラベル及びターゲッ ト刺激として提示し,どちらかを小さくしてラベル刺 激の図形はターゲット刺激の図形と比べて大きいか小 さいかについてキー押しで求めた。「おおきい」を選 択する場合「 D 」キー「ちいさい」を選択する場合は 「 K 」キーとした。図形が呈示されてから,正答を選 択するまでの反応潜時と正解数を記録した。刺激が提 示されてから,正答の選択までの過程を 1 試行とし, 12試行を 1 セッションとした。正答の場合は「せいか い」を, 誤答の場合は「×」を提示した。誤答後に正日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-10 317 -答の選択を行った場合「せいかい」の文字は提示しな かった。 1 セッション終了ごとにそのセッション中の 反応潜時の平均値と正答数が提示され, 1 セッション 前の正答数より増加した場合及び反応潜時が短く なった場合,強化子としてシールを与えた。 3 セッ ション連続90%以上の正答率でフェイズ 2 に移行し た。 フェイズ 2 :100円,50円,10円の画像をラベル及 びターゲット刺激を提示し,ラベル刺激の硬貨価値は ターゲット刺激の硬貨価値と比べて大きいか小さいか についてキー押しで求めた。その他の手続きはフェイ ズ 2 と同様の手続きであった。 3 セッション連続で 90%以上の正答でポストテストに移行した。 ポストテスト:プレテストと同様の手続きで行った。 結果 A 児 は プ レ テ ス ト で セ ッ シ ョ ン 順 に50%,50%, 16.6%,ポストテストで83.3%,83.3%,66.6%の正答率 を示した(Figure 1)。 B 児はプレテストですべて 16.6%,ポストテストですべて66.6%の正答率を示した (Figure 2)。ポストテストでは,両児ともに複数選択 が正答となる設問以外は正答であった。 「なし」の回答が正答となる設問では,プレテスト の正答率が A 児33%, B 児 0 %,ポストテストの正答率 が両児ともに100%であった。複数の硬貨の選択が正答 となる設問では,プレテストの正答率が両児ともに 0 %,ポストテストの正答率が A 児33%,B 児 0 %であっ た。ただし適切な硬貨の選択を 1 つはポストフェイズ で行っていた。 考察 T -IRAP実施前と比較し実施後では,両児ともにテ ストの正答率が上昇したことから,硬貨価値の大小に 関する関係性の直接学習を行ったことにより実際の硬 化価値の大小に関する関係反応が獲得されたと考えら れる。また, T -IRAP上で直接学習が行われていない 「ない」という回答についてはポストテストにて100% の正答率を示した。このことは,獲得した関係反応の レパートリーからの推測により生起した反応であると 考えられ,派生的関係反応の生起が示唆された。しか しながら,複数の選択が正答となる設問では,両児と もにポストテストで100%の正答率を示せなかった。こ の結果は, T -IRAPが 1 対 1 の硬貨価値の比較であっ たことや療育環境において複数選択の行動を求められ ないことによる影響の可能性がある。