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洞窟外より得られたドウクツベンケイガニ(十脚目:短尾下目:ベンケイガニ科)の記録

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Academic year: 2021

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(1)

e106

日本甲殻類学会 Report

Carcinological Society of Japan

報告

Cancer 29: e106–e108 (2020)

CANCER 29: e106–e108 (2020)

洞窟外より得られたドウクツベンケイガニ(十脚目:

短尾下目:ベンケイガニ科)の記録

Record of Karstarma boholano (Ng, 2002) (Decapoda: Brachyura: Sesarmidae)

from out of the cave

佐藤大義

1

Taigi Sato

はじめに ド ウ ク ツ ベ ン ケ イ ガ ニKarstarma boholano(Ng, 2002)はこれまでにフィリピンのボホール州パンラ オ島(模式産地),日本の石垣島,波照間島,多良 間島,与那国島,沖縄島,徳之島と宮古島から見つ かっている(Ng, 2002; Naruse et al., 2005; 吉郷・田 村,2008; 藤田・成瀬,2016; 藤田,2017; 藤田・藤 井,2019; 佐藤ほか,2020)洞窟性カニ類である. 本種は主にアンキアライン洞窟の洞口部で見出され ている(藤田・成瀬,2016; 前之園・佐伯,2016) が,洞窟外からは吉郷・田村(2008)によって洞口 付近から1雌の死骸が記録されているに過ぎず,本 種の生態はほとんど解明されていない.今回,著者 らは石垣島の海岸林の林床において本種の生体雄を 観察・採集したためこれを報告する. 標本は75%エタノール中に保存され,琉球大学 博物館風樹館(RUMF)に収蔵されている.なお, 本種の生息環境の特殊性に考慮し,本報上での採集 地の明言は控える.標本の大きさは甲長×甲幅で示 した. 結果と考察 検討標本 RUMF-ZC-5360, 1 ♂, 甲 長× 甲 幅8.0×9.7 mm, 沖縄県石垣島北部,2018年8月27日,佐藤大義採 集. 同 定 検討標本は1)甲が後ろに開いた台形であるこ と.2)第一から第三歩脚の付け根に軟毛の房を有 していたこと.3)第三歩脚の長さが甲幅の2.99倍 であり,同脚長節基部から指節先端までの長さが甲 幅の2.77倍であったこと.4)第三歩脚長節の長さ が幅の4.29倍であったこと.5)歩脚の長節末端に 棘を持っていないこと,などの形態的特徴がNaruse

et al.(2005) やDavie & Ng(2007), 藤 田・ 成 瀬

2016) の 示 す ド ウ ク ツ ベ ン ケ イ ガ ニKarstarma boholano(Ng, 2002)の特徴によく一致したととも に,採集された海岸林内に点在するアンキアライン 洞窟から過去にドウクツベンケイガニが採集されて おり(成瀬,2010),同定に問題は無いものと考え られた. 生息環境 検討標本はハスノハギリHernandia nymphaeaefolia Kubizkiなどを主とした海岸林の,海岸線から40 m ほど内陸の地点で採集された(Fig. 1C).採集地の 底質は付近の樹木の枯葉が厚く堆積しており,高い 1 琉球大学理学部海洋自然科学科生物系専攻 〒903–0213 沖縄県中頭郡西原町字千原1

Biology Program, Department of Biology, Chemistry, and Marine Science, Faculty of Science, University of the Ryukyus, 1 Sembaru, Nishihara, Okinawa 903–0213, Japan

(2)

e107

Cancer 29 (2020) 佐藤大義

CANCER 29 (2020)

湿度が保たれていた.同所的に出現した大型十脚目 甲殻類はハマベンケイガニMetasesarma aubryi(A.

Milne-Edwards, 1869),ヤシガニBirgus latro(Linnae-us, 1767)及びオカヤドカリ類Coenobita spp. であ

り,付近の樹上からはリュウキュウアカテガニ

Chi-romantes ryukyuanum Naruse & Ng, 2008が確認され

た. 備 考 吉郷・田村(2008)では本種の抱卵雌の死骸が洞 窟外で見出されたことに関し,放仔のために移動中 の個体が死亡したものと推察しているが,藤田・成 瀬(2016)では本種の生息環境が洞口付近であった ことから夜間には摂食や繁殖活動のために洞窟外に 出て活動する可能性を示唆しており,本観察結果は それを支持するものである.今回得られた標本は甲 幅10 mmに満たない小型個体であるため未成熟個 体であると考えられ,繁殖活動が目的であった可能 性は低いと考えられた.また,採集地のすぐ近くに は著者らの調査では洞口は確認されなかったため本 種は洞窟を中心として比較的広範囲を生活圏として いる可能性が高く,国および沖縄県で絶滅危惧種に 選定されている(環境省,2019; 藤田,2018)本種 の保全には洞窟環境だけでなくその周囲の環境も保 護していくことの必要性が考えられた. 謝 辞 現地調査の際に高𣘺海里氏(琉球大学)に協力し ていただいた.また,文献収集に関して小林大純氏 (琉球大学大学院)のご助力を受けた.成瀬貫氏 (琉球大学熱帯生物圏研究センター)には本稿の執 筆過程及び標本収蔵の際にお世話になった.ここに 記して厚く御礼申し上げる. 引用文献

Davie, P. J. F., & P. K. L. Ng, 2007. A new genus for cave-dwelling crabs previously assigned to Sesarmoides (Crustacea: Decapoda: Brachyura: Sesarmidae). The Raffles Bulletin of Zoology, Supplement, 16: 227–231.

藤田喜久,2017.八重山諸島与那国島における洞窟性十 脚目甲殻類2種の新産地記録.Fauna Ryukyuana, 34: 7–8. 藤田喜久,2018.ドウクツベンケイガニ.改訂・沖縄 県の絶滅のおそれのある野生生物第3版(動物編) レッドデータおきなわ(沖縄県文化環境部自然保 護課).pp. 308–309. 藤田喜久・藤井琢磨,2019.徳之島および沖縄島から のドウクツベンケイガニの初記録.Fauna Ryukyu-ana, 48: 1–3. 藤田喜久・成瀬 貫,2016.多良間島初記録のドウク ツベンケイガニ.Fauna Ryukyuana, 28: 23–27. 環境省,2019.環境省レッドリスト2019の公表につい て.報道発表資料. 前之園唯史・佐伯智史,2016.新産地記録を伴う石垣 島のベンケイガニ類相(甲殻亜門:十脚目:短尾 下目).Fauna Ryukyuana, 33: 1–13.

Naruse, T., H. Nakai & H. Tamura, 2005. A new record of cavernicolous crab Sesarmoides boholano Ng, 2002 (Brachyura, Sesarmidae) from Ishigaki Island, Southern Ryukyu Islands, Japan. Biogeography, 7: 79–84. Ng, P. K. L., 2002. New species of cavernicolous crabs of the

genus Sesarmoides from the western Pacific, with a key to the genus (Crustacea: Decapoda: Brachyura: Sesarmidae). The Raffles Bulletin of Zoology, Supplement, 50: 419– 436.

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e108

Cancer 29 (2020) 洞外産ドウクツベンケイガニ CANCER 29 (2020) 成瀬 貫,2010.琉球大学資料館(風樹館)甲殻類標 本目録.琉球大学資料館(風樹館)収蔵資料目録, (3): 1–72. 佐藤大義・宇田 龍・内田晃士・芦田 晃,2020.琉 球列島における稀少性ベンケイガニ科カニ類(甲 殻亜門:十脚目:短尾下目)3種の新産地記録. Fauna Ryukyuana, 54: 11–14. 吉郷英範・田村常雄,2005.八重山諸島波照間島から 得られた洞窟性カニ類.比婆科学,228: 28–29.

Fig. 1.  ドウクツベンケイガニとその生息環境. A,  ドウクツベンケイガニ( RUMF-ZC-5360 ) . B,  採集地の風景.

参照

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