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してこなかった規模や形態の梅雨豪雨災害が発生するたびに, 地球温暖化の影響にますます注意が払われるようになってきた.2013 年のIPCC 第 5 次評価報告書 (2013) によると, 人間活動に伴う温室効果ガス排出量増加による地球温暖化は疑う余地がないと言われており, その影響は降水特性にも変化

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領域気候モデルとd4PDFを用いた

梅雨豪雨の将来変化に関するマルチスケール解析

Multiscale Analysis on the Future Change of Heavy Rainfall in Baiu Season

Using Regional Climate Models and d4PDF

中北英一・小坂田ゆかり

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Eiichi NAKAKITA and Yukari OSAKADA(1)

(1) 京都大学大学院工学研究科

(1) Graduate School of Engineering, Kyoto University

Synopsis

Baiu heavy rainfall is a phenomenon in the small meso-β scale under atmospheric circumstances of a Baiu front in the relatively large meso-α and macro scale. Thus we captured Baiu heavy rainfall from multiple spatial scales and estimated their detailed future change. For multiscale analysis in our study, we mainly used NHRCM05 which is a regional climate model in the high resolution of 5km, and d4PDF20, which has a huge ensemble member in a coarser resolution of 20km. The results show that the risk of Baiu heavy rainfall may increase in the Northern Japan and Japan Sea side area, where have seldom experienced Baiu heavy rainfall in the current climate, as the increasing trend of atmospheric patterns prone to heavy rainfall is proven to be significant. On the other hand, in the Pacific side area, the mechanism of Baiu heavy rainfall may also change in the future. Moreover, the increasing trend of accumulated rainfall amount of Baiu heavy rainfall can also be found.

キーワード

: 地球温暖化,梅雨豪雨,将来変化,マルチスケール解析

Keywords: global warming, Baiu heavy rainfall, future change, multiscale analysis

1. 序論 1.1 研究の背景 昨今,我が国では梅雨期の集中豪雨(以下,梅雨 豪雨と記す)による中小規模河川の氾濫や土砂災害 が頻発している.昨年の2017年7月5日から6日にかけ て,南下してきた梅雨前線に伴い福岡県の朝倉市や 大分県の日田市を中心に梅雨豪雨が発生し,氾濫や 土砂崩れにより行方不明者4人を含む41名の死者を 出す大規模な災害を引き起こした(内閣府,2017b). この日は日本の南海上で西に大きく張り出した太平 洋高気圧が存在し,その西縁辺に沿って暖かく非常 に湿った空気が九州北部地方に流れ込むことによっ て線状降水帯が形成された.そして福岡県の朝倉市 に おいては ,アメダ スによる 最大24時間降水量で 545.5mmを記録してこの地の統計開始以来1位の値 を更新した(内閣府,2017a).2014年8月にも,16 日から17日にかけて京都府の福知山市で1名の死者 を出す梅雨豪雨災害が発生し,続く20日には広島県 広島市で土砂災害により74名の死者を出した大規模 な梅雨豪雨災害が発生した.このように梅雨豪雨は, 台風と並び,我が国における大規模な災害の主な要 因の1つであり,記憶に残る悲惨な災害を多くもたら してきた.そして近年では,社会一般があまり経験 京都大学防災研究所年報 第 61 号 B 平成 30 年

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してこなかった規模や形態の梅雨豪雨災害が発生す るたびに,地球温暖化の影響にますます注意が払わ れるようになってきた.2013年のIPCC第5次評価報告 書(2013)によると,人間活動に伴う温室効果ガス 排出量増加による地球温暖化は疑う余地がないと言 われており,その影響は降水特性にも変化を及ぼす. しかし温暖化による梅雨豪雨への影響は,その現象 の複雑さや高い局所性等の理由から台風と比較して 未だに明らかになっていない部分も多く,より詳細 な影響評価及び研究の蓄積が必要とされている.地 球温暖化に段階的に適応し,次世代に安全で安心な 社会を繋ぐためにも,豪雨災害の詳細で確度の高い 将来変化予測を行うことが急務となっている. そもそも梅雨豪雨は100km程度の長さで10~20km の幅を持つメソβスケールの現象であり,数時間~半 日程度同じ場所に停滞し持続するという特徴を持つ. そして,土砂災害や流域面積が100km2オーダーまで の流域面積を持つ中小河川に外水及び内水氾濫とい った影響を及ぼす危険性がある.一方で梅雨豪雨を もたらす梅雨前線やその環境場は,アジアモンスー ンや太平洋高気圧など数千kmのメソαやマクロスケ ールの現象に大きく影響を受けて形成される.この ように梅雨豪雨は様々なスケールの現象が絡み合い 発生する非常に複雑な現象である. 気候変動の影響評価を行う際には,気候モデルの シミュレーション結果が用いられている.気候シス テムは大気や海洋などから様々な相互作用が働いて いるため,海洋循環の変動と大気循環の変動を結合 し て 計 算 す る 大 気 海 洋 結 合 気 候 モ デ ル(AOGCM:

coupled Atmosphere-Ocean General Circulation Model) が世界の様々な機関で開発されている.しかし南北 に長く山地が多い日本列島では,地域によって気温, 降水量,風速場などに大きな違いが見られ,局地的 で極端な気象現象が頻発するため,解像度が100km 以上のAOGCMでは充分に評価できない.そこで気象 研究所MRI系では,世界の様々なAOGCMから将来推 測される海面水温を境界条件として大気のみを計算 する,解像度60kmと20kmの高分解能大気気候モデル (AGCM: Atmospheric Global Climate Model)が開発さ れ,20kmのAGCMでは梅雨前線などメソα~マクロ スケールの現象まで表現することが可能となった. しかし,本研究で対象とするメソβスケールの梅雨豪 雨は,20km解像度のAGCMを以ってしても再現が困 難である.そのため,20km解像度のAGCMのネステ ィ ン グ に よ り5km解 像 度 の 領 域 気 候 モ デ ル (RCM:

Regional Climate Model)が開発された.これにより梅 雨豪雨のような小さなスケールの現象も表現できる ようになり,影響評価が可能となった. 一方で高解像度のRCMは,高解像度であるが故に 予測計算のアンサンブル数が少なく,発生頻度の低 い極端現象の不確実性を十分に評価できない.そこ で,極端現象の再現と将来変化について,確率的に, かつ高精度に評価することを目的として,これまで にない大量(最大100アンサンブル)のアンサンブル データである「地球温暖化対策に資するアンサンブ ル気候予測データベース」(d4PDF: database for Policy Decision making for Future climate change)が作成され た(Mizuta et al., 2013).これにより現象の将来変化 やその不確実性,将来想定される最悪シナリオに基 づく気象災害規模を評価することが可能となった. d4PDFは空間解像度が60kmと20kmのものがあり,梅 雨豪雨そのものを表現することはできないが,梅雨 豪雨をもたらす大気場というメソα以上のスケール においては現象の統計評価が可能となった. これまで,気候モデルを用いて梅雨前線や付随す る極端降水の将来変化予測は精力的に進められてお り,梅雨期の総雨量に対する極端降水割合の増加な どが示唆されている(Kanada et al., 2012).しかし, 梅雨の将来変化予測及び影響評価については日本全 体など大規模スケールからの検討が多い.気象学の 分野では,過去の豪雨事例に関してその発生メカニ ズムや特性などが,メソβを含むマルチスケールから 詳細に解析されてきたが,気候変動分野ではメソβ スケールからの研究の蓄積はまだ不十分である.す なわち,今後より確度の高い将来変化予測を行うた めにはメソβスケールを含めたマルチスケールから 梅雨豪雨を捉えて将来変化予測を行うことが非常に 重要となってくる.そこで本研究では梅雨豪雨の複 雑な構造を捉えるためマルチスケールから現象を捉 え,詳細に将来変化予測を行うことを試みた. 1.2 研究の目的 中北ら(2012)は5km解像度RCMの1アンサンブル を用いて梅雨豪雨発生頻度の将来変化予測を行い, 将来気候の7月上旬や8月前半でその発生頻度が有意 に増加することを示した.これは気候変動分野にお いて梅雨豪雨をメソβスケールから捉えた数少ない 研究の1つである.この研究で抽出されたRCM05の梅 雨豪雨事例を用いて,中北ら(2016,2017)は梅雨 豪雨が発生していた際の特徴的な大気場を抽出し, d4PDFの大量アンサンブル情報を用いてそれら大気 場の発生頻度が将来有意に増加することを示した. さらに中北ら(2018)では,梅雨豪雨と大気場の対 応を高めることにより,豪雨をもたらす特徴的な大 気場パターンが複数存在することを示し,それら多 くの発生頻度が将来増加することを示した.しかし, マクロスケールの変化である地球温暖化によって, 梅雨豪雨という小さなメソβスケールの現象がどの

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ように変化するのか,詳細な将来変化やそのメカニ ズムは未だに明らかになっていない. そこで本研究では,既往研究の流れである梅雨豪 雨とそれをもたらす大気場という観点を引き継ぎつ つ,過去に実際発生した梅雨豪雨事例に立ち返り, 過去の梅雨豪雨と大気場の解析を行った.梅雨豪雨 と大気場の対応を高めるため,豪雨と大気場の中間 スケールである,豪雨発生場所への水蒸気の流入経 路(メソβ~メソαスケール)という新たな視点を加 え,Fig.1のようにマルチスケールから梅雨豪雨を捉 えて解析を行った.そして,過去事例の解析から得 た梅雨豪雨と大気場の関連を基に,高解像度気候モ デル出力と大量アンサンブルデータd4PDFを用いて 梅雨豪雨をマルチスケールから解析することで,よ り確度の高い将来変化予測を行うことを目的とした. さらに,梅雨豪雨発生頻度の変化という定性的な議 論に加えて,より定量的な解析にも着手し始めた. 本研究は気象学的根拠をもって,既存の気候モデル 出力を最大限に利用し詳細で確度の高い将来変化予 測を行うという,非常に重要な位置にあると言える. 2. 梅雨豪雨と気候モデルの概要及び既往研究 2.1 研究の目的 我が国で引き起こされる集中豪雨の多くは,台風 や熱雷に由来するものと並び,梅雨期に発生するも ので占められる.梅雨豪雨は主に西日本,特に九州 地方で多く発生する.台風は数100km以上のメソαス ケールの現象であり,我が国の大河川などに洪水・ 氾濫をもたらす一方で,梅雨豪雨は数10km~数100km で台風よりも小さいメソβスケールの現象である.そ のため災害をもたらすスケールも台風と異なり,中 小規模の河川における外水・内水氾濫や土砂災害を もたらす.そして,単独積乱雲による豪雨はさらに 小さく,数km程度のメソγスケールの現象で,小さな 河川において鉄砲水などの災害をもたらす.各現象 によってもたらされる災害のスケールや特性は,大 きく異なるため,災害をもたらす豪雨について際も, 現象毎に議論することが非常に重要である. ところで,一般的に降水現象はその空間・時間ス ケールによって階層的な構造をなしている.梅雨豪 雨の場合は,梅雨前線というメソα以上の大きなスケ ールの大気場の中で,メソβという小さなスケールの 降雨現象によってもたらされる.さらにそれは内在 する個々の積乱雲という,より小さなメソγスケール の現象から構成されており,非常に複雑かつ多層的 な構造を有している.そのため,特に梅雨豪雨を捉 える際にはマルチスケール解析が重要となってくる. 本研究ではメソγスケールからの個々の積乱雲に関 する議論は行わないが,複数の積乱雲から構成され る梅雨豪雨スケール以上,すなわちメソβ以上のスケ ールに関して,マルチスケール解析を行う. 梅雨前線は,5月上旬にモンスーンの始まりにあわ せて顕在化する.その後,梅雨前線は南北に振動し ながら太平洋高気圧の勢力拡大とともに北上し,7 月下旬頃には朝鮮半島まで達して消滅する.前線は 通常,地表面気温の水平勾配が大きい場所に解析さ れる.しかし梅雨前線の場合は,特に西日本で南北 方向の温度勾配は小さい一方で,水蒸気量の水平勾 配は非常に大きいことが指摘されている(Matsumoto et al., 1971).そのため,梅雨前線は水平温度勾配の 大きい領域ではなく,水蒸気量を表す指標の1つであ る相当温位の水平勾配が大きな領域に解析される. 相当温位𝜃𝑒 (K)は以下の(1)式で定義される.

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exp       s e p Lw C T (1) 𝜃は温位(K),𝐿は潜熱(J kg-1),𝑤 𝑠は飽和空気の混合比 (kg kg-1),𝐶 𝑝は定圧比熱(J kg-1 K-1),𝑇は気温(K)で,𝜃 と𝑤𝑠はそれぞれ(2)及び(3)式で定義される. 1000      d p R C T p (2) 0.622   s s s e w p e (3) 𝑝は気圧(hPa),𝑅𝑑は1kgの乾燥空気の気体定数(J kg-1 K-1),𝑒 𝑠は飽和水蒸気圧(hPa)である.梅雨前線は,空 気塊が持つ水蒸気量を表す指標の1つである相当温 位の水平勾配が大きな領域に解析される. 梅雨前線は,地上天気図上では1本の前線として解 析されるものの,活発な対流活動域は梅雨前線帯と して帯状に存在する.梅雨前線帯内における活発な 対流域の生成維持には太平洋高気圧の存在が重要な 役割を担っていることが指摘されており(Ninomiya, 1984),梅雨前線帯の下層には南海上を通って豊富 な水蒸気を含んだ暖かく非常に湿った空気塊が,太 平洋高気圧の縁辺に沿って流入し続けている.その 空気塊の水蒸気量が大きくなればなるほど,豪雨が 発生する可能性が高くなる(吉崎ら,2007). 梅雨前線帯内で発生する梅雨豪雨は,複数の「組 織化した」積乱雲によりもたらされる.メソβスケー ルの線状降水帯はその特徴やメカニズムから複数の 型に分けられ,特にバックビルディング型降水系は 梅雨期に特徴的な降水系とされている(瀬古,2010). Fig.2のようにバックビルディング型の線状降水帯で は,降水帯内の対流セルが中層風に流され,発達し ながら降水帯に沿って風下側へ移動するとともに, 新しい対流セルが降水帯の先端で繰り返し発生する. バックビルディング型では対流セルが線状降水系内 を次々と移動しており,対流セル自体は世代交代を 繰り返しているにも関わらず,降水系全体では定常 な状態になり移動速度が遅くなるため,しばしば集 中豪雨の原因となる.このようなメカニズムとして 重要な点は「自己組織化」である.水平風に適度な 鉛直シアが存在した場合,対流セルの下降流と上昇 流はぶつからないため,下層風の流入により,対流 セル自身が新たな対流セルを次々と発生させて長時 間持続できる構造を持つ.こうした構造を持つこと を「組織化する」と呼ぶ. 具体的には,梅雨豪雨はしばしば,ある特定の山 岳域が直接,あるいは間接的に作り出す下層風の収 束場が誘因となって持続的に同一場所で繰り返し積 雲対流が生起し,それら積雲対流が自己組織化しな がら発達する.そして,寿命が1時間以下の単独の積 雲対流より,長く安定した組織としての寿命を保持

Fig.2 (a) Yodo-river channel heavy rainfall on 11th

September, 1988 (cited by Yokota, 1992), (b) stochastic figures of back-building type heavy rainfall (cited by Seko, 2010).

し,発達しながら移動して一定地域の上空に繰り返 し到来することにより局地的な降雨をもたらす.た とえば近畿地方では,神戸の六甲山を起点として積 乱雲が発生し,発達しながら淀川沿いに流れ,バッ クビルディング型の線状降水帯を形成して集中豪雨 をもたらす.この地域ではしばしば線状降水帯によ る水害が発生しており,「淀川チャネル型大雨」と 総称され(Fig.2a),これまでも多く研究がなされて きた(中北,1990;横田,1992等). 上記から,本研究では梅雨タイプのバックビルデ ィング型豪雨を解析対象とする.そして梅雨期には もう1つ,自己組織化ではなく,梅雨前線による大規 模な下層風の収束場によりもたらされる集中豪雨も ある.大規模収束によりもたらされる豪雨はバック ビルディング型よりもスケールが大きく,長時間持 続する場合が多い(たとえば2004年の新潟豪雨など). 豪雨のスケールや成因は異なるが,本研究ではこの 大規模収束による豪雨も解析対象とする. 一方で,全ての線状降水帯が梅雨タイプであるわ けではない.たとえば,2000年9月9日に関東・東北 地方で発生した鬼怒川豪雨では,線状降水帯が形成 され甚大な被害をもたらした.しかしこの事例は台 風による定常に近い水蒸気の収束帯によって形成さ れた線状降水帯である.日本列島付近及び南海上に ある2つの台風により梅雨前線よりもさらに大きな スケールで下層風の収束線が形成され,関東から東 北にかけての広域に大規模な線状降水帯が形成され た.鬼怒川豪雨と梅雨豪雨は現象のスケールが大き く異なり,災害の規模も異なる.そのため本研究で は,単純に降水量や降水分布の形状を豪雨の判断基 準にするのではなく,現象の成因や特徴を第一に重 視する.その上で,将来変化予測は梅雨タイプの豪 雨のみを対象として行い,台風による直接的な豪雨 ではなくても,現象の成因が梅雨とは異なるもので あった鬼怒川豪雨のような事例は対象としない.

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2.2 気候モデルと気候変動研究プログラム 気候モデルは全球気候モデル(以下,GCMと記す) や領域気候モデル(以下,RCMと記す)等が存在す る.GCMは,全世界の気候を再現するモデルである 一方で,RCMはある領域内でのみ,GCMの結果をよ り高い空間解像度を持つ情報へと力学的にダウンス ケーリングしたモデルである. 我が国では,2007年度から5年間実施された文部科 学省の「21世紀気候変動予測革新プログラム」(以 下,革新と記す)及び2012年度から5年間の「気候変 動リスク情報創生プログラム」(以下,創生と記す) で,様々なGCM,RCMが開発されてきた. 2017年 度からはさらに5年計画で「統合的気候モデル高度化 研究プログラム」(以下,統合と記す)が開始した. 本研究は創生で出力されたデータを用いて行った. 2.3 全球気候モデル 全球大気モデルは気象庁・気象研究所大気大循環 モデルMRI-AGCM3.2(Miauta et al., 2012)を用いた. MRI-AGCM3.2は気象庁・気象研究所統一全球大気モ デル及びそのごく一部を改訂したモデルであり,革 新の前期において用いられたMRI-AGCM3.1(Kitoh et al., 2009)をベースにし,多くの物理過程パラメタリ ゼーションを新たに開発し,革新後期に導入したも のである.水平解像度は20kmと60km(以下,AGCM20 とAGCM60と記す)の2種類がある.積雲対流スキー ムは,3種類:Yoshimura(YS,Yoshimura et al., 2015),

Arakawa-Schubert ( AS , Arakawa et al., 1974 ) ,

Kain-Fritch(KF,Kain et al., 1993)が用いられている. 2.3.1 温暖化シナリオと海面水温 実 験 は 現 在(1979~2003)と将来(2075~2099)各25年 について行われた.現在気候実験では,SST・海氷密 接度・海氷厚については観測の値を用いることによ り現在の気候を再現しており,SSTは年々変動を含ん

だ観測値の月平均値(HadISST, Rayner et al., 2003)を 使用している.将来実験は,現在実験で用いた値と, IPCC報告書のために提出された各機関のAOGCM結 果のモデル平均値を用いて,将来の温暖化シナリオ に基づく推定値を作成している.革新と創生ではそ れぞれ第3次及び第5次次結合モデル相互比較プロジ ェクト(以下,CMIP3及びCMIP5と記す)に参加し たAOGCMを用いている. 革新と創生では温暖化シナリオも異なる.革新は, 温室効果ガス排出シナリオ(SRES)のうち大気中の温 室効果ガス濃度が21世紀末頃に20世紀末頃の約2倍 まで増加すると仮定したA1Bシナリオが採用されて いる.一方,創生ではRCPシナリオという,代表的 な温室効果ガスの濃度経路を示したシナリオを用い ている.将来予測される多様な放射強制力の経路の 中から,RCP2.6/ 4.5/ 6.0/ 8.5が選択されており,「RCP」 につく数値は放射強制力の目安である.革新のA1B シナリオはRCP2.6のシナリオに対応する. 2.3.2 アンサンブル実験設定 より確度の高い予測情報を得るため,モデルの設 定を変えたアンサンブル実験が行われている.不確 実性の要因は,(1)排出シナリオの不確実性,(2)モデ ルパラメタリゼーションによる不確実性,(3)気候モ デル間の不確実性,が挙げられる.ここでは創生で 出力されたアンサンブルの実験設定について述べる. (1)に関しては,CMIP5のRCP2.6/4.5/6.0/8.5の4つの シナリオ実験の予測に基づいたアンサンブル実験が 行われている.次に(2)を考慮するため,3種類(YS, AS, KF)の積雲対流スキームを与えたアンサンブル 実験が行われており,(3)は,CMIP5のAOGCM結果 を用いてSSTの将来変化パターンを3種類にクラスタ ー分類し(Mizuta et al., 2014),それぞれ平均したも の(c1~3)と全てを平均したもの(c0)の4種類のSST を用いてアンサンブル実験が行われている. Fig.3はc1~c3でのSST将来変化分布である.a~dは 各クラスターと現在気候のSSTの偏差,e~fはアンサ ンブル平均c0とc1~3の差を示している.c2(Fig.3c,f) は中央から東部の熱帯太平洋で他のクラスターより も昇温が大きく,全平均の特徴がより強く出ている. このパターンはENSOに伴う年々変動のパターンに 似ており,CMIP3モデルにおいて多くのモデルでエ ルニーニョ型の応答を示すことと整合的である.c0 もc2ほど強くはないがエルニーニョ型の応答を示す. 他方,c1(Fig3b,e)は東部熱帯太平洋の昇温が他の クラスターよりずっと小さく,東部熱帯太平洋域に おけるSSTが現在のものと最も近い.また南半球での 昇温が大きく,中緯度(40˚付近)では北半球と南半 球に同程度の昇温が見られる.c3(Fig.3d,g)には北 西太平洋で昇温が大きく,北インド洋・北大西洋で も他のクラスターより昇温が大きい.一方で南半球 では昇温が小さく,南北のコントラストが大きい.

Fig.3 Annual-mean SST changes (K) from the present and future (cited by Mizuta et al., 2014)

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2.4 領域気候モデル 2.4.1 5km解像度NHRCM05 革新と創生における領域気候モデルは,非静力学 地 域 気 候 モ デ ル(NHRCM: Non-Hydrostatic Regional Climate Model)である.革新ではA1Bに基づく5km解 像度のNHRCM(以下,RCM05と記す)が出力され, 創生ではRCP8.5に基づくRCM05が出力された.また, 革新RCM05は1アンサンブルのみであるのに対し,創 生ではc0~c3の4つのSSTで将来予測実験が行われて いる.計算期間は,革新RCM05は現在(1979~2003) と将来(2075~2099)の各25年,創生は現在(1981~2000) と 将来(2077~2096)の各20年である.陸面過程には MJ-SiBという陸面モデルが使用されている. 創生のRCM05は,対流パラメタリゼーションとし てKFスキームが用いられている.地上データが30分 毎に出力されているため,5km解像度で30分毎とい う非常に細かな雨量データを得ることができる 2.4.2 2km解像度NHRCM02 RCM05が開発されたことにより,メソβスケール程 度の現象は表現可能となったが,熱雷による豪雨に 関しては,RCM05を以ってしても未だに表現が充分 ではない.そこで創生で,RCM05をさらに力学的ダ ウ ン ス ケ ー リ ン グ す る こ と に よ り ,2km解 像 度 の NHRCM(以下,RCM02と記す)が開発された. RCM02とRCM05の大きな違いの1つは,RCM02で は対流スキームを用いずに積雲を陽に表現している ことである.もう1つは,RCM02では都市の影響が考 慮されていることである.RCM02では都市域と非都 市 域のグリ ッドを区 別し,非 都市のグ リッドに は MJ-SiB を 適 用 す る が 都 市 の グ リ ッ ド に は SPUC (Aoyagi et al., 2011)という都市キャノピーモデルを 適用している.都市キャノピーの導入によって,都 市域での地上気温の再現性の改善に繋がると考えら れている.出力間隔は,現在気候と将来c0実験の雨 量に関しては,RCM05よりさらに細かく,2km解像 度で10分毎の雨量データを得ることができる. 以上の2.3節及び2.4節で説明した創生のAGCM20, RCM05,RCM02の計算範囲及び力学的ダウンスケー リングの関係を示した概念図をFig.4に示し,各モデ ルの解像度の違いによる降雨分布出力の違いをFig.5 に示す.まず解像度の違いとして,RCM05とRCM02 では北九州における強雨域を表現できている一方で, AGCM20では表現できていない.しかし,大きなシ ステムとしての梅雨前線帯は,全てのモデルにおい て概ね一致している.また,RCM05とRCM02のみに 着目すると,両モデルで降雨域は良く似ているもの の完全に一致しているわけではない.小さなスケー ルでは降水はあくまでカオティックであり,力学的 ダウンスケーリングにより作成されているからとい って必ずしもダウンスケール後の降雨域とダウンス ケール前の降雨域が一致するとは限らない.

Fig.4 Relation between AGCM20/ RCM05/ RCM02.

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2.5 大量アンサンブルデータd4PDF 高解像度領域気候モデルが開発され,梅雨豪雨な どの小スケールの現象が表現可能になったが,これ らのアンサンブル数は少なく,発生頻度の低い極端 現象の不確実性を十分に評価できない.そこで,創 生では,大量(最大100メンバー)アンサンブル「地 球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データ ベース」(d4PDF: database for Policy Decision making for Future climate change)が作成された(Mizuta et al., 2016).これにより,確率密度分布の裾野に当たる 極端現象の再現と将来変化について充分な議論が可 能となった.Fig.6にd4PDF実験の概要を示す. d4PDFは水平解像度が60kmと20kmのものがあり (以下,d4PDF60とd4PDF20と記す),将来気候実験 に関してはRCP8.5対応の4度上昇定常状態で計算さ れている.d4PDF60では,過去実験(1951~2010)に関 して100メンバー,4度上昇将来実験(2051~2110)に関 し て90メンバーの計算が行われている.そして, d4PDF20では過去実験で50メンバー,4度上昇将来実 験で90メンバーの計算が行われており,計算期間は 現在・将来共に,d4PDF60と同様の60年間である. 2.6 梅雨期の極端降水に関する既往研究 中北ら(2012)は革新RCM05を用いて,その降雨 出力を目視で確認することにより梅雨豪雨を抽出し た.そして将来気候の7月上旬や8月上・中旬で梅雨 豪雨の発生頻度が有意に増加することを示し,地域 別では東北や北陸において頻度が増加することを示 した.また中北ら(2015)は,日本海側で梅雨豪雨 が多発した2013年の7・8月の大気場に着目し,この 時と同じ特徴を持つ大気場をAGCMのアンサンブル 情報から抽出している.その大気場は,西に張り出 した太平洋高気圧の周縁に沿って日本海側に吹き込 む大気下層の水蒸気フラックスを有しており,この

Fig.6 The d4PDF experiments (cited by d4PDF Homepage). ような大気場の発生頻度が将来気候の7月と8月にお いて有意に増加することを示した.さらに,中北ら (2016)ではSOM(Kohonen, 1998)というクラスタ ー分類法を用いて,RCM05から抽出した豪雨とクラ スター分類した大気場を対応付けることにより,豪 雨をもたらす大気場パターンを抽出した.ここでも, 西に張り出した太平洋高気圧の周縁に沿って日本海 側に吹き込む大気下層の水蒸気フラックスという特 徴が抽出されている.そして,d4PDF60の月平均値 を用いることにより,上記の特徴を持つ大気場パタ ーンが将来有意に増加することを示した. このように,これまで中北ら(2012,2015,2016) では,高解像度のRCM05で評価可能な梅雨豪雨と, アンサンブル情報であるAGCMやd4PDFで統計評価 が可能な大気場を対応付けることにより,統計的有 意性を向上させながら梅雨豪雨の将来変化予測を試 みてきた.しかし,中北ら(2016)は月平均した大 気場を扱っており,梅雨豪雨とそれをもたらす大気 場との対応付けは十分ではない.また,中北ら(2015) は過去に日本海側で豪雨が発生した月の大気場の確 認を行っているものの,地域としては日本海側に限 られている.実際に過去発生した梅雨豪雨と大気場 の対応付けは,既往研究の中で深められていない議 論であり,そのため将来における梅雨豪雨の地域性 に関する深い議論は未だに行われていない.加えて, 中北ら(2016)では革新RCM05とd4PDF60を対応さ せて梅雨豪雨と大気場の議論を行っているが,これ ら2つは将来シナリオがそれぞれA1B(2度上昇に対 応)と4度上昇定常状態で異なる.将来シナリオが異 なれば出力が持つ幅も異なる可能性があるため,用 いる将来シナリオは統一することが望ましい. こうした背景を踏まえ,本研究では既往研究の流 れを引き継ぎつつ,マルチスケール解析により梅雨 豪雨の詳細な将来変化予測を行う.本研究の解析手 順は,大まかに以下の1)~4)のようになっている. 1) 過去の梅雨豪雨に関するマルチスケール解析を 行う. 2) 創生RCM05を用いて,その降雨出力から目視によ り梅雨豪雨を抽出して,その発生頻度及び積算雨 量の将来変化予測を行う. 3) 創生AGCM20とd4PDF20の海面更生気圧及び水 蒸気フラックスの旬平均値を用いて,梅雨豪雨を もたらす特徴的な大気場パターンの発生頻度の 将来変化を推定する. 4) 1)~3)で得た結果をから,梅雨豪雨の将来変化メ カニズムの解析を行った. 上記の1)~4)はそれぞれ第3~6章で述べる.

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3. 過去の梅雨豪雨事例の解析 3.1 解析の流れと使用データの概要 本章では,過去に発生した梅雨豪雨事例に関して, 梅雨豪雨(メソβ)とそれをもたらす大気場(メソα ~マクロ),そして陸域への水蒸気の流入経路(メ ソβ~メソα)という観点から,Fig.1に示したように マルチスケール解析を行う.重要な視点は,①梅雨 豪雨の発生場所,②梅雨豪雨発生場所への水蒸気の 流入経路,③太平洋高気圧の張り出しなどの大気場 の状態,の3点である.①の梅雨豪雨発生場所の解析 にはXバンド偏波レーダ情報を用い,②と③の解析に はMSMと呼ばれる気象モデル情報を用いた. ①の梅雨豪雨の解析には,国土交通省のXバンド 偏波ドップラーレーダ(以下,XバンドMPレーダと 記す)情報を用いた.XバンドMPレーダは高時間分 解能で,定量的な雨量評価が可能である.国土交通 省は2009年よりこれをネットワーク化しリアルタイ ム観測体制を敷くXRAIN (X-band polarimetric Radar Information Network) の整備を行ってきた.XRAINは 250mメッシュで1分間隔の雨量データを利用するこ とができる.②の水蒸気の流入経路及び③の大気場

の 解 析 に は , 気 象 庁 の メ ソ 数 値 予 報 モ デ ルMSM

(Meso Scale Model) 出力を用いた.MSMの計算領域 は北緯22.4~47.6˚,東経120~150˚で,2006年以降の地 上データに関しては約5kmメッシュで1時間間隔の 予報データを利用することができる. Table 1に,解析を行った過去事例を示す.基本的 には,XバンドMPレーダを利用できる事例を選択し た.しかし事例m福井豪雨,事例n新潟豪雨,事例o 東海豪雨,事例p那須豪雨は,豪雨の特性的に重要な 事例であったため,XバンドMPレーダが利用できる 期間外であっても解析を行った.

Table 1 The list of analyzed past real heavy rainfall.

3.2 過去事例のマルチスケール解析 事例a九州北部豪雨,事例f福知山豪雨,事例g島根 豪雨,事例i亀岡豪雨,事例l可児豪雨,事例m福井豪 雨,事例n新潟豪雨,事例o東海豪雨,事例p那須豪雨 の9事例について述べる.なお,事例m, n, o, pの図以 外のFig.7~Fig.11は全て,左図がXバンドMPレーダに よる降雨強度,中央が降雨強度(色)と同時刻にお けるMSMによる水蒸気フラックス(矢印)の合成, そして豪雨発生場所への水蒸気の流入経路(黒太矢 印)を示した図,右図はMSMによる同時刻での海面 更正気圧(色)と水蒸気フラックス(矢印)を示し ている.左図の灰色で示した領域は,観測範囲外, あるいは強雨域による減衰で観測できなかった領域 を示している.以後全て日本標準時を示す. ◆事例a:九州北部豪雨(Fig.7参照) 2017年7月5日,福岡県や大分県を中心に梅雨豪雨 が発生した.冒頭でも触れたように,この梅雨豪雨 により上流域で表層崩壊が発生し土石流がもたらさ れ,多量の土砂や流木が下流にもたらされた. 本事例は,Fig.7右図に示すように日本の南海上で 西に大きく張り出した太平洋高気圧が存在し,その 北西縁辺に沿って南西から非常に豊富な水蒸気が九 州地方へ流入している.5日午前には,前日から続い ていた梅雨前線の南下が九州付近で止まり,Fig.7左 図に示すように複数の線状降水帯が同時に形成され たことにより,九州北部域で非常に長時間に渡って 猛烈な降雨がもたらされたことが本事例の大きな特 徴の1つとして挙げられる. ◆事例f:福知山豪雨(Fig.8参照) 2014年8月17日,京都府の北部で梅雨豪雨が発生し た.京都府北部の福知山市では内水氾濫や土砂災害 が多く発生した.市中心部の広い範囲で冠水し,死 者1名を出す災害となった.JR福知山線や山陰線も寸 断され,社会的にも大きな影響をもたらした. 太平洋高気圧はやや東に位置し,水蒸気の流入経 路は,紀伊水道からさらに西の播磨灘の方へと流れ ていることがわかる.姫路や生野付近の山岳で積乱 雲が発生し,発達しながら移動し豪雨をもたらした. 近畿地方の豪雨は前出の「淀川チャネル型大雨」が 知られているが,播磨灘へ水蒸気が流入することで, 兵庫県北東部や京都府北部で豪雨をもたらすパター ンも重要なメカニズムの1つとして存在する.そこで, こうした豪雨を従来の「淀川チャネル型大雨」と区 別して,「播磨灘チャネル型豪雨」とする. ◆事例g:島根豪雨(Fig.9参照) 2013年8月24日に島根県で梅雨豪雨が発生した.こ

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の豪雨により島根県浜田市などで住家7棟が全壊し た.また,護岸と道路の路肩や法面の崩壊が多数発 生し,住家の浸水や農地の冠水が発生したほか,土 砂災害による住家の被害も多数発生した.この事例 が発生する約1ヶ月前にも島根県及び山口県で梅雨 豪雨が発生しており,大きな被害をもたらした. 太平洋高気圧の配置事例aの九州北部豪雨の時の ように日本の南海上で大きく西に張り出している. 水蒸気は,日本海上に存在する低気圧性循環により 回り込むように日本海側の陸域へと流入していた. ◆事例i:亀岡豪雨(Fig.10参照) 2012年7月15日の未明に京都府南部の亀岡で梅雨 豪雨が発生した.この豪雨で亀岡市では床上浸水や 住宅損壊などの住家被害が発生し,京都市でも床上 浸水や山林の崩落などの被害が発生した. 太平洋高気圧は東偏しており南から水蒸気が流入 していた.水蒸気が紀伊水道へ流入した点までは事 例fの福知山豪雨と同様だが,淡路島を分岐として大 阪湾の方へ強く流入している.そして,神戸の六甲 山で湿った暖気塊が持ち上げられ次々と積乱雲が生 まれ,発達しながら移動することで線状降水帯が形 成された.この事例はいわゆる「淀川チャネル型」 の梅雨豪雨である.近畿地方で発生する豪雨にはこ の「淀川チャネル型豪雨」と事例fの「播磨灘チャネ ル型豪雨」の2つが重要なメカニズムとして存在する. ◆事例l:可児豪雨(Fig.11参照) 2010年7月15日,岐阜県の可児市で梅雨豪雨が発生 した.可児市土田地区では,周辺に停車してあった 多数の大型・中型トラックが流されて名鉄広見線の アンダーパスに重なり合い,アンダーパスを通過し ようとした乗用車のうち3台が可児川まで押し流さ れ,行方不明者2名を含む死者3名を出す悲惨な災害 となった.この事例で被害を受けた地域は県下では 稀な水害に無縁な地域とされていた. 太平洋高気圧の張り出しはやや弱いものの,東海 地方には南西から水蒸気が流入している.太平洋高 気圧の張り出し及び南西からの水蒸気流入という点 ではこれまで紹介した事例の多くと類似していた. ◆事例m:福井豪雨(Fig.12参照) 2004年7月17日,福井県で梅雨豪雨が発生した.こ の豪雨により,福井市内では足羽川の2箇所が破堤し, JR福井駅南約0.9kmの市街地で浸水した.県内では4 人もの死者を出す災害となった. 太平洋高気圧が西に張り出し,梅雨前線が日本海 から福井県付近へと伸びている.この降雨は海上で 積乱雲が発生して陸域に運ばれたと同時に,福井県 嶺北地方の山岳がトリガーによってさらに積乱雲が 強化されて豪雨をもたらした(伊藤,2005).この 事例も典型的なバックビルディング型の豪雨である. ◆事例n:新潟豪雨(Fig.13参照) 事例m福井豪雨が発生する前の2004年7月13日,同 じく北陸の新潟県でも梅雨豪雨が発生した.死者は 15名にものぼり,住家被害は床上浸水2178棟,床下 浸水6117棟などの被害をもたらした. この時,梅雨前線は日本海から新潟県付近で停滞 していた. Fig.12及びFig.13右図の積算雨量は同じ縮 尺で示しており,新潟豪雨の方が福井豪雨と比して 空間スケールが大きいことがわかる.また,新潟豪 雨は長時間に渡り雨域が形成され,時間スケールも 福井豪雨より大きな事例である.また,新潟豪雨は 前線による下層風の収束が顕著に見られた.このよ うに,福井豪雨と新潟豪雨はともに,同年同月に類 似した大気場から発生した梅雨豪雨であるが,新潟 豪雨の方が福井豪雨よりも大規模なスケールの気象 擾乱によって生起したものであると言える. ◆事例o:東海豪雨(Fig.14参照) 2000年9月11日に三重県から愛知県にかけて集中 豪雨が発生した.この事例は9月に発生したが,バッ クビルディング型の豪雨であるため解析を行った. この豪雨で名古屋市及びその周辺の市町村では堤防 の決壊や中小河川の溢水が相次ぎ,広範囲に浸水害 や土砂災害が発生した.愛知県内で死者は7名に達し, 床上浸水やがけ崩れなど甚大な被害をもたらした. この時,日本の南海上には台風が存在し,台風が ポンプ役となり,日本域に停滞する秋雨前線に向か って豊富な水蒸気を供給している.台風と太平洋高 気圧の位置関係により東海地方では東風成分を含む 南風が吹いており,バックビルディング型線状降水 帯を形成した.また,2008年にもこの事例と同じ場 所,同様の大気場パターンにより豪雨が発生してい ることから,この大気場パターンはこの地域に豪雨 をもたらす特徴的な大気場パターンであると言える. ◆事例p:那須豪雨(Fig.15参照) 1998年の8月27日に栃木県北部から福島県南部を 中心に梅雨豪雨が発生し,栃木県の那須地域では那 珂川支流が氾濫するなどの被害をもたらした(中北 ら,2000).この時の大気場は,事例o東海豪雨の大 気場と類似性が高い.太平洋高気圧は東偏し日本の 南海上には台風が存在するため,関東地方には東風 成分を含む南風により水蒸気が供給されている. 松本ら(2013)でも,梅雨期の東日本に大雨をも たらす総観場特性として,日本の南海上で台風が存

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在し,東日本の太平洋側の地域に南東から,あるい はほぼ真南から水蒸気が流入する大気場パターンが 示されている.すなわち,東海や関東などの東日本 太平洋側の地域で発生する梅雨豪雨に関しては,梅 雨豪雨をもたらす大気場として典型的なパターンで あった事例lの可児豪雨の方が珍しい事例であり,こ の地域で梅雨豪雨をもたらす大気場は太平洋高気圧 がやや東偏しており,低気圧性擾乱が南海上に存在 するという大気場パターンであると言える.

Fig.7 Event a. Northern Kyusyu Baiu heavy rainfall.

Fig.8 Event f. Fukuchiyama Baiu heavy rainfall.

Fig.9 Event g. Shimane Baiu heavy rainfall.

Fig.10 Event i. Kameoka Baiu heavy rainfall.

Fig.11 Event l. Kani Baiu heavy rainfall.

Fig.12 Event m. Fukui Baiu heavy rainfall.

Fig.13 Event n. Niigata Baiu heavy rainfall.

Fig.14 Event o. Toukai Baiu heavy rainfall (cited by Wada, 2001).

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4. 梅雨豪雨発生頻度の将来変化 4.1 梅雨豪雨の抽出 4.1.1 本研究における梅雨豪雨の定義 本研究では,梅雨豪雨を解像可能な創生RCM05(以 下,創生は省略する)を用いて,その降雨出力画像 から直接目視により梅雨豪雨を抽出した.抽出する 地域としては,沖縄を除く本州と北海道を対象とし た.沖縄は梅雨期が本州より1ヶ月程度早く,亜熱帯 気候であるため本州の梅雨期降雨と特徴が異なるた め,沖縄を対象地域から除いた.また,災害をもた らすような豪雨を対象としているため,発生場所は 陸域に限定した.台風や低気圧性の集中豪雨は全て 排除しているが,それらの影響で梅雨前線が活発化 された場合は梅雨豪雨として抽出した.中北ら(2012) で用いられた判断基準を参考に,Table 2に示す基準 全てを満たすものを梅雨豪雨と定義した. 客観基準指標としてTable 2を用いた理由は,まず RCM05は,有意な出力の最低時間分解能として30分 毎に出力されている.そして積乱雲は発生発達から 衰弱までの寿命が30分~1時間弱であるため,次々と 生まれる積乱雲によってもたらされる梅雨豪雨を30 分雨量で充分把握できると判断したからである.ま た,災害をもたらすような梅雨豪雨は雨域が移動せ ず,数時間に渡ってほぼ同じ場所に停滞し維持され る.このため3時間雨量は梅雨豪雨が一定時間以上停 滞しているかどうかの重要な指標となり得る.そし て,降雨画像の確認と同時に,大気場の画像から下 層の相当温位の水平勾配や水蒸気流入を確認するこ とにより,梅雨タイプの豪雨かどうかを確定させる. 梅雨前線は前述のように下層相当温位の水平勾配 で特徴付けられる.そして梅雨期の活発な対流域の 生成維持に関しては太平洋高気圧の重要性が指摘さ れており(Ninomiya, 1984),第3章で紹介した過去 の梅雨豪雨事例においても豪雨発生場所や風系を決 める上で太平洋高気圧は重要な役割を果たしていた. そのため,大気場の抽出基準として下層相当温位の 水 平 勾配 と太 平洋 高 気圧 を採 用 した .相 当温 位 𝜃𝑒 (K)はBolton(1980)の近似式(4)式を用いて求めた. Table 2 The objective criteria for picking up of Baiu

heavy rainfall.     0.2854 1 0.28 1000 3376 exp 1 0.81 2.54                      w e L T w w p T (4) ここで,𝑇は気温(K),𝑝は気圧(hPa),𝑤は水蒸気混 合比(kg kg-1),𝑇 𝐿は持ち上げ凝結高度における温度 (K)である.𝑇𝐿は(5)式(Bolton, 1980)で近似する. 2840 55 3.5ln ln 4.805     L T T e (5) 𝑒は水蒸気圧(hPa)を表す. 本研究で目視を採用した理由はまず,台風など梅 雨とは異なる擾乱から直接的,あるいは間接的にも たらされた豪雨を排除できることが挙げられる.た とえ同じ線状降水帯であったとしても,台風性と梅 雨性のものでは現象の規模やもたらす災害のスケー ルが大きく異なってくるため,目視により確実に梅 雨タイプの豪雨のみを抽出した.もう1つの大きな理 由は,RCM05に用いられているパラメタリゼーショ ンスキームの影響である.RCM05では,モデル内で 積雲を発生させる際のスキームが原因で,本来の物 理的メカニズムで発生する降雨とは異なる場所で降 雨が発生したり極端に強い降雨が発生したりする場 合がある.こうした降雨は,降水量や形状だけをみ ると一見豪雨であったとしても,本研究では抽出す べき事例ではない.本研究では,抽出する際に雨量 基準や雨域の形状ではなく,雨域が梅雨前線上やそ の南側で発生していること,あるいは梅雨タイプの バックビルディング型であると判断できること,ま た一定時間に渡って停滞していることを第一に重視 している.そして,全ての事例においてその時の大 気場と照らし合わせながら梅雨豪雨の抽出を行った. さらに,雨量基準に関する感度が極端に高くならな いよう,雨量基準はメッシュ毎に判定するのではな く,その豪雨のスケール程度に雨域が停滞した場合 とした.このようにRCM05の特性を踏まえた上で判 断基準にある程度の柔軟性を持たせることは,自動 アルゴリズムではなく,目視だから作業である. これまで停滞性降水システムの自動抽出(Shimizu et al. 2012)や集中豪雨・線状降水帯の抽出アルゴリ ズム(津口ら,2014)等が開発されてきた.しかし 自動アルゴリズムを用いると雨量基準の感度が高く なる上に,定性的な大気場の判断基準を組み込むこ とは複雑である.さらに,本研究の目的は地球温暖 化時における梅雨豪雨の将来変化であるため,これ までに蓄積されている梅雨豪雨と大気場の知識に基 づきアルゴリズムを組み,将来気候にもそれを適用 することは最適ではないと判断した.ある程度の主 観性は残るものの,RCM05の降雨出力の特徴を捉え た上で,大気場と照らし合わせて目視により梅雨豪 雨を抽出したことは,本研究においては最適な手法 であったと考える.

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4.1.2 解析期間 解析期間は,RCM05の現在気候(1981~2000)と将来 気候(2077~2096)の各20年間における6~8月とする. 現在気候(以下,pと記す)と,将来気候はSSTアン サンブルc0~c3を用いた.通常,日本における梅雨期 は6~7月であるが,8月初旬に梅雨の戻りがあったり, 梅雨明けがなく8月まで梅雨前線により雨が降り続 いたりする可能性がある.また,第3章で示した事例 eの広島豪雨や事例gの島根豪雨など,これまで8月に も多く梅雨タイプの豪雨が発生している.これらの 事例は前線の南側で発生したバックビルディング型 豪雨であり,本研究の対象となる事例であった.そ して,このような豪雨は8月に多く発生する.こうし た理由から,本研究では6~8月を解析期間とした. 4.1.3 抽出事例 本節では, RCM05のモデル内で発生した事例1∼5 を示す.Fig.16~Fig.20は全て,左図が30分雨量(色) 及び地上風(矢印),右上図が日平均地表面水蒸気 フラックス(矢印)と海面更正気圧(色),右下が 日平均850hPa面相当温位(色)を示している. ◆事例1:東海地方における豪雨(Fig.16参照) 1993年8月26日から27日に東海地方で発生した事 例を抽出した.日本の南西海上には低気圧が存在し, 東海地方には南東方向から水蒸気が流入している. この事例の気圧配置や風のパターン,豪雨発生場 所など,Fig.14の事例o東海豪雨と非常に類似度が高 い.南の低気性擾乱がポンプ役となって停滞前線へ 水蒸気が供給され,前線の南側に位置する東海地方 に南東から水蒸気が流入して豪雨が発生した点も同 じである.東海豪雨は梅雨タイプのバックビルディ ング型豪雨であり本研究の対象とすべき豪雨である ため,本事例に関しても梅雨豪雨として抽出した. ◆事例2:北陸地方における豪雨(Fig.17参照) 将来c0実験で,2090年7月3日に北陸地方の新潟県 で梅雨豪雨が発生した.日本の南西海上に存在する 台風から水蒸気が日本域に供給され,大きく西に張 り出した太平洋高気圧の縁辺流と合流して日本海側 に豊富な水蒸気フラックスが流入している.また, 北陸地方から朝鮮半島付近まで続く東西方向の大規 模な風の収束が存在する.850hPa面の相当温位を見 ると,風の収束場と対応して南北傾度の大きな領域 が存在するため,この領域が梅雨前線に対応すると 判断できる.この事例は,Fig.13の事例n新潟豪雨と 非常に類似度が高く,気圧配置など大気場の状況と 降雨分布ともにほぼ同じ分布をしている. ◆事例3:中国地方における豪雨(Fig.18参照) 将来c0実験で,2090年7月4日に山口県及び島根県 で梅雨豪雨が発生した.この事例は,事例2の直後に 発生した.7月3日に北陸地方で梅雨豪雨をもたらし た後,梅雨前線は徐々に南下し,3日から4日にかけ て山口県で豪雨が発生した.さらに,梅雨前線は南 下を続け,この後に九州北部で豪雨をもたらした. 現実の2017年も,梅雨前線の南下に伴い,7月1~3 日に新潟県,4~5日に島根県,5~6日に九州北部で梅 雨豪雨が発生した.日本海側から九州北部に豪雨を もたらす一連の推移は事例2及び3と同じで,発生し た時期も7月上旬である.ここではこれ以上議論しな いが,RCM05の現在で見られなかった一連の豪雨が 将来気候で発生しており,現実の2017年にも発生し ていたことは,留意すべき事項であると考える. ◆事例4:近畿地方における豪雨(Fig.19参照) 将来c0実験で,2083年7月15日に奈良県から三重県 で発生した事例を抽出した.太平洋高気圧が西に大 きく張り出しており,850hPa面相当温位は西日本の 日本海側沿いに南北傾度が大きな領域が存在するた め,この領域に梅雨前線が存在すると判断できる. 本事例は近畿南部の紀伊半島で発生した豪雨であ る.紀伊半島では,紀伊山脈が存在するため,台風 が到来した際に地形性の豪雨がしばしば発生する. しかし,第3章で近畿地方での典型的な豪雨タイプと して述べた「淀川チャネル型豪雨」や「播磨灘チャ ネル型豪雨」など,近畿中北部で発生する豪雨は, RCM05の中では現在・将来気候共に発生していなか った.これら近畿地方の豪雨に関しては後述する. ◆事例5:東海地方における豪雨(Fig.20参照) 将来c0実験で,2077年6月21日に静岡県から神奈川 県で梅雨豪雨が発生した.東日本の太平洋側の地域 には南西から強い水蒸気フラックスが流入している. 東海地方や関東地方で発生する梅雨豪雨は,過去 事例o東海豪雨や事例p那須豪雨,そしてRCM05現在 気候で抽出した事例1のように,東風成分を含んだ南 東風により水蒸気が供給され,北東方向へ降雨域が 伸びる事例が多かった.一方で本事例は,太平洋高 気圧は西へ張り出しており,南海上に低気圧性擾乱 が存在しない.RCM05の地上風も,11時頃まではや や東風成分を含む南東風が吹いているものの,徐々 に西風よりへと変わっている.降雨域の走行も北東 方向でなくほぼ東西に伸びている.同じ東日本太平 洋側の地域で発生する豪雨でも,本事例はこれまで 紹介した事例とは異なる.このことは,後述するよ うに将来変化を考える上で重要な点となる.

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Fig.16 Event 1. Event at Toukai in RCM05 present.

Fig.17 Event 2. Event at Hokuriku in RCM05 future.

Fig.18 Event 3. Event at Chugoku in RCM05 future.

Fig.19 Event 4. Event at Kinki in RCM05 future.

Fig. 20 Event 5. Event at Toukai in RCM05 future.

4.2 梅雨豪雨の発生頻度の将来変化 4.2.1 発生頻度の季節推移に関する将来変化 Fig.21は旬別の梅雨豪雨の20年合計発生頻度分布 で,折れ線上で×マークを付けた旬では5%有意,- マークを付けた旬では10%有意で梅雨豪雨の発生頻 度が増加することを意味している.将来の7月上旬で, c2を除く全てのSSTアンサンブルにおいて5%有意で 梅雨豪雨が増加することが示された.8月上・中旬で も多くのアンサンブルで有意な増加が示された.7 月上旬と8月前半での梅雨豪雨の増加は中北ら(2012) でも示され,7月上旬の極端降水の増加はKanada et al. (2012)でも示されている.そのため,7月上旬と8 月上・中旬における梅雨豪雨の発生頻度の増加は既 往研究とも整合的な傾向であり,非常に有意性の高 い変化であると言える.SSTアンサンブル間の季節推 移に違いは,今後より詳細な解析が必要である.

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Fig.21 Seasonal change of the frequency of Baiu heavy rainfall obtained from RCM05.

Fig.22 Seasonal change of the frequency of Baiu heavy rainfall obtained from RCM05. The frequency of Baiu heavy rainfall in c0~c3 are averaged.

c0~c3の20年合計発生頻度を平均して,現在気候と 比較した図をFig.22に示す.誤差範囲は標準偏差を示 す.7月上旬と8月上・中旬は,現在気候の発生頻度 がc0~c3間のばらつきから大きく外れている.c0~c3 それぞれでは季節推移変化にある程度の差はあるも のの,将来気候全体として見た時,7月上旬及び8月 上・中旬において梅雨豪雨の発生頻度は,他の旬と 比較して有意な差を持って増加すると言える. 4.2.2 地域別発生頻度の将来変化 次に,九州,四国,中国,近畿,東海,関東甲信, 北陸,東北,北海道の9つの地域に分割した解析につ いて述べる.Fig.23は各地域における梅雨豪雨の20 年合計発生頻度の将来変化を示す.上図は地域毎の 20年合計発生頻度の増加分を地図上で表しており, 下図の棒グラフは20年合計発生頻度を表している. 上図の赤い地域は5%有意,ピンク色の地域は10%有 意で梅雨豪雨が増加していた地域を示しており,黄 緑色の地域は有意な変化が見られなかった地域であ る.下図は**が5%有意,*が10%有意を表す. 日本海側や北日本では,ほぼ全てのアンサンブル で有意な梅雨豪雨の増加が見られた.北海道や東北 は,RCM05の現在気候ではほとんど豪雨が発生して いないにも関わらず将来気候では多く発生しており, 統計的有意な増加が示された.すなわち,これまで 梅雨豪雨による災害がほとんど発生してこなかった 地域においても災害が発生し始める危険性が示唆さ れる.この傾向は中北ら(2012)でも示されている. 一方で関東や東海など太平洋側の地域では,c0の関 東を除く全てで有意な将来変化は見られなかった.

Fig.23 (upper) The future change of the frequency and (lower) The frequency of Baiu heavy rainfall obtained from RCM05 (cited by Osakada et al., 2018).

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ところで,RCM05の中では4.1.3節で紹介した事例 1~3のように,過去に発生した豪雨と類似した豪雨は 少なからず発生している.しかし,近畿地方の「淀 川チャネル型豪雨」や「播磨灘チャネル型豪雨」(以 下,まとめて「紀伊水道型豪雨」と記す),RCM05 の中で上手く表現されていなかった.これは,RCM05 で再現可能な梅雨豪雨には地域的,あるいは空間ス ケール的に限界があることを示唆している.Fig.23 では,近畿地方の梅雨豪雨発生頻度はc1~c3で10%有 意で増加しているものの,これらの豪雨は主にFig.19 で示したような紀伊半島で発生した豪雨であった. そこで,紀伊水道型豪雨のみに関して,RCM02の中 で再現されているかどうか確認を行った. 4.2.3 紀伊水道型豪雨へのRCM02の利用 RCM02の10分雨量を用いて,淀紀伊水道型豪雨の 存在を確認した.解析期間は現在(1981~2000)の7~8 月と,将来(2077~2091)の7~8月である.結果,RCM02 の現在と将来で数事例,紀伊水道型豪雨が発生して いた.Fig.24とFig.25はどちらも,上図でRCM02の10 分雨量,下図で同時刻のRCM05の30分雨量を示す.

Fig.24 (upper) 10-min precipitation of RCM02 and (lower) 30-min precipitation of RCM05 on 1989.07.22 in present.

Fig.25 (upper) 10-min precipitation of RCM02 and (lower) 30-min precipitation of RCM05 on 2085.08.26 in future c0. Fig.24は現在気候の事例である.事例i亀岡豪雨の ような淀川チャネル型豪雨で,六甲山付近から次々 と雨域が発生し,発達しながら移動することで豪雨 をもたらした.しかし風の場としては,紀伊水道へ 入った風が上手く大阪湾へ流入していない.これは, 雨量は10分出力なのに対して,風は1時間出力である ことが原因として考えられるが,RCM02の特性を考 慮した上で,今後より精査していく必要がある. Fig.25は将来c0の事例である.事例f福地山豪雨の ような播磨灘チャネル型豪雨で,兵庫県の中東部付 近から雨域が発生し,発達しながら移動している. この事例は風の流入経路も福知山豪雨と同じで,紀 伊水道へと入った風が大阪湾ではなく播磨灘の方へ 流入することで陸域へ水蒸気が供給されている. このように,RCM05では再現しきれなかった紀伊 水道型豪雨が,RCM02では再現できていることを示 す こ と が で き た . 今 後 はRCM02 用 い る こ と で , RCM05で網羅し切れなかった梅雨豪雨の将来変化予 測を行うことが必要である. 4.3 梅雨豪雨の継続時間及び積算雨量の将来 変化 4.3.1 強雨継続時間及び積算雨量の定義 梅雨豪雨の継続時間と積算雨量を算出した.まず 強雨持続時間は「目視した時,各豪雨のスケール程 度の範囲内において,50mm/h以上の雨域が出現した 時間(以下,Tsと記す)から消滅・移動する時間(以 下,Teと記す)まで」と定義し,積算雨量Aは「その 強雨継続時間内において,最大の積算雨量を記録し た1グリッド(𝑖, 𝑗)の値」と定義した.強雨継続時間に 関して,50mm/h以上の雨域が1度は移動あるいは消

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滅したが再び同じ地域に発現した事例に関しては, 再び発現するまでの50mm/h以下であった時間が2時 間以内であれば,最初の50mm/h発生時間をTs,最後 の50mm/hの時間をTeとした.積算雨量は,豪雨発生 場所の地方領域R内のみで計算しており,30分雨量 𝑟(𝑖, 𝑗)のTsからTeまでの積算の最大値である. 4.3.2 強雨継続時間及び積算雨量の将来変化 上記の定義に従い,過去事例とRCM05の豪雨事例 について強雨継続時間と積算雨量を算出した.過去 事例には、前出のXRAINと呼ばれるXバンドMPレー ダ合成雨量またはXバンドMPレーダとCバンドMP レーダの合成雨量(以下,CX合成雨量と記す)を用 いた.XRAINは250m分解能・1分間隔出力であり, 偏波のため定量的な雨量評価が可能である. Xバン ドMPレーダは,強雨域背後の減衰を補うためネット ワーク化され,全国広い領域をカバーしている.さ らに,近年はより観測範囲を広げるため,新たに導 入され始めた,広範囲観測が可能なCバンドMPレー ダとXバンドMPレーダを組み合わせ,広範囲でかつ 定量評価が可能なCX合成雨量が開発された(山地ら, 2016).今回は,CX合成雨量が利用可能な事例と併 せて,XバンドMPレーダ合成雨量が利用可能な事例 (Table 1の事例a~l)を用いた.また,RCM05の解像 度と統一するため,20×20メッシュ平均し5kmメッ シュへ,1分毎のデータを時間平均し30分に変換した 上で,積算雨量と強雨継続時間を算出した.ただし 積算雨量の算出は,RCM05の梅雨豪雨抽出に適用し たTable 2の客観基準に基づき,梅雨豪雨と判定され た事例に限り行った.その結果をFig.26に示す. Fig.26に暖色系の丸で示すRCM05の将来気候にお ける事例は,青三角で示すRCM05の現在気候におけ る事例と比較して,全体的に上方に位置している. このことから,強雨継続時間当たりの積算雨量は将 来増加傾向にあると言える.これは将来,より短い 時間で多量の積算雨量に達する危険性を示唆してい る.また,過去事例は概ねRCM05現在気候の分布幅 に収まっていることから,RCM05による梅雨豪雨の 定量評価の妥当性を検証できた.これは,Xバンド MPレーダの合成雨量及びCX合成雨量は気候モデル の定量評価の検証にも利用可能であることを示すこ とができたと言える. 一方で,事例aの九州北部豪雨は現在気候の分布幅 だけでなく将来気候の分布幅にも収まっており,他 の過去事例と比較して持続時間・積算雨量共に突出 している.そして九州北部豪雨のプロットの周りに は将来気候の事例が多く分布している.すなわち, 2017年九州北部豪雨は,強雨継続時間と積算雨量と いう観点から,将来気候における梅雨豪雨事例と近 い事例であったことがわかる.しかし,この結果の みから2017年九州北部豪雨が地球温暖化の影響によ って生起したとは言えないため,注意が必要である. 2017年九州北部豪雨と地球温暖化との関連について は,本論文の第7章において,今後の展望と絡めて触 れる予定である.

Fig.26 Heavy rainfall duration and the accumulated amount of precipitation of Baiu heavy rainfall events in past and obtained from RCM05. Red circles mean the event in RCM05’s future, blue triangles mean the event in RCM05’s present, and colorful squares mean the past real events.

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4.3.2 長時間豪雨の将来変化 次に地域別に持続時間と積算雨量の将来変化を調 べた.本研究では,特に特徴的な将来変化が見られ た東海及び九州地方について述べる. Fig.27に東海地方と九州地方それぞれで発生した 梅雨豪雨をプロットした図を示す今回は便宜的に, 持続時間が5時間を超過した事例を長時間豪雨とし た.Fig.27に示す黄色線が5時間と5時間30分の間に引 いた線であり,黄色線より右側に位置するプロット が長時間豪雨となる.便宜上5時間としたのは,Fig.27 からわかるように,現在気候の東海地方では5時間を 超過するプロットが多く存在したのに対し,九州地 方では5時間を超過するプロットが1つしかなく,比 較の議論が行いやすかったからである. 上で既に述べたが,Fig.27を見ると,現在気候では, 東海地方で長時間豪雨が多く発生している一方で, 九州地方では1事例しか発生していない.一方,将来 気候に関しては現在気候とは逆に,東海地方ではあ まり長時間豪雨が発生しておらず,九州地方では多 く発生している.そこで,両地域でそれぞれ発生し た梅雨豪雨のうち長時間豪雨が占める割合をTable 3 に示す.太字の%が割合を示し,%の上段に示す分母 が各地域で発生した梅雨豪雨の総数で,分子が長時 間豪雨の数である.これを見ると,東海地方で長時 間豪雨が占める割合は,c0~c3全ての将来気候実験に おいて大きく減少している一方で,九州地方で長時 間豪雨が占める割合は,同じくc0~c3全てで大きく増 加している.この2つの地域における梅雨豪雨は,持 続時間が対照的な変化を示しており,梅雨豪雨の発 生頻度という観点からだけでなく,梅雨豪雨の特徴 やその発生メカニズムに関しても何らかの将来変化 が存在することが示唆される. 4.4 梅雨豪雨の将来変化に関するまとめ 以下に,第3章及び第4章で得た結果をまとめる.  7月上旬及び8月上・中旬において,梅雨豪雨の有 意な増加が示された.  北海道及び東北,北陸地方で統計的有意な梅雨豪 雨の増加が示された.  現在の東日本太平洋側の梅雨豪雨は,南に存在す る低気圧性擾乱から水蒸気供給を受け,南東から 水蒸気が流入して発生する豪雨が特徴的である.  RCM05による梅雨豪雨の再現性には限界がある が,RCM02を用いることで,RCM05で再現し切 れなかった豪雨を再現できることを確認した.  偏波レーダを用いて,RCM05による梅雨豪雨の 定量性表現を検証した.  将来,強雨継続時間に対する積算雨量が多くなる 傾向を示した.

Fig.27 Heavy rainfall duration and the accumulated amount of precipitation of Baiu heavy rainfall obtained from RCM05. (left) Only Toukai area’s events and (right) Only Kyusyu area’s events. Table 3 The percentage of Long duration events in

Toukai and Kyusyu area.

5. 梅雨豪雨をもたらす大気場の将来変化 本章では,第4章でRCM05から抽出した梅雨豪雨事 例を,RCM05の親モデルであるAGCM20の大気場と 対応させることにより,梅雨豪雨をもたらす特徴的 な大気場パターンを抽出し,d4PDF20を用いてその 大気場の発生頻度の将来変化予測を行う.解析領域 は北緯20~50˚,東経120~155˚とした.また太平洋高 気圧の影響を見るための海面更正気圧(以下,Pslp と記す)と,下層からの水蒸気流入を見るための地 表面水蒸気フラックス(地表面風×比湿)を大気場 指標とし,それぞれの旬平均値を解析に用いた. 大気場の解析には,SOM(Self-Organizing Map; 自 己組織化マップ)手法を用いた. 5.1 SOMについて SOMとは,複雑な多次元データを特徴毎に集めて 低次元(通常は二次元平面)のマップ上に視覚的に 分類することができるクラスター分類法の1つであ る.入力データから成る入力層と出力データを算出 する競合層から成り立つ.入力層はn個の入力ベクト ルによって構成され,競合層は入力ベクトルと同じ 次元を持つ参照ベクトルが割り当てられたノードで 構成される.ノードの数はマップの大きさによって 決定し,10×10の二次元マップの場合は100個のノー ドで競合層が構成される.各入力ベクトルが持つ特 徴は,次に示すSOMアルゴリズムによる学習後,マ ップ上の参照ベクトルによって仮想的に表現される.

Table 1 The list of analyzed past real heavy rainfall.
Table 2 The objective criteria for picking up of Baiu  heavy rainfall.     0.2854 1 0.281000 3376exp1 0.81 2.54 weLTwwpT (4)  ここで,
Fig. 20 Event 5. Event at Toukai in RCM05 future.
Table  3  The  percentage  of  Long  duration  events  in  Toukai and Kyusyu area.

参照

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