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水痘

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Academic year: 2021

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(2)水 痘

 各論:任意接種

キーワード 水痘、水痘ワクチン、VZV、帯状疱疹、MMRV 江南厚生病院こども医療センター長

 尾

 崎

ざき

 隆

たか

 男

はじめに

 水痘の起因病原体は、ヘルペスウイルス科の α亜科に属している水痘・帯状疱疹ウイルス (varicella-zoster virus;VZV)である。VZV は エンベロープを持つ球形(直径 150 〜 200nm) の 2 本鎖 DNA ウイルスであり、そのゲノムは約 125,000 塩基から成る。その全塩基配列は決定さ れ、71 の遺伝子を持つ。VZV の初感染の病像が 水痘であり、その際、VZV は水疱部位の知覚神 経末端から求心性に、あるいはウイルス血症によ り血行性に知覚神経節に到達し、潜伏感染する。 潜伏した VZV は、特異的免疫が低下する状況下 で再活性化され、神経線維に沿って遠心性に皮膚 に到達してその支配領域に帯状疱疹を発症する。  水痘は、わが国において毎年多数の患者発生を みている。8 〜 10 月に患者が著しく減少し、12 月頃から増加した患者発生は 6 月頃まで続くとい うパターンを繰り返している。水痘ワクチン市販 後および抗ウイルス剤市販後も発生数の有意な減 少をみていない(図)。わが国における水痘ワク チンの年間接種者数は、年間出生数の 3 割程度と 推定される。水痘罹患のほとんどが小児期である 現状から、出生数からワクチン接種数を引いた数 に近い約 80 万人が、わが国の年間水痘患者数と 思われる。

1.水痘の症状

 VZV は空気感染、飛沫感染、接触感染により、 気道粘膜、眼結膜から侵入し、感受性者に水痘を ↓ ↓ ↓ (国立感染症研究所・感染症発生動向調査週報より作成) 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 51w 水痘報告 数 / 定 点 / 週 水痘ワクチン市販(1987.3) ACV 顆粒剤市販(1994.9) VACV 顆粒剤市販(2002.7) 小児科定点当たり水痘患者報告数

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発症させる。感染力は麻疹、百日咳に次いで強く、 基本再生産数(1 人の患者から周囲の感受性者が 罹患する人数)は約 10 1)、家族内発症率は 80 〜 90%と考えられている。帯状疱疹も感染性はある が、感染力は水痘より低いと考えられる。 水痘の潜伏期は 14 〜 16 日で、軽度の発熱と全 身の水疱で発症する。発疹は体幹に多く、顔面、 四肢に少ないこと、また、丘疹、水疱、痂皮の順 序で治癒していくが、同一部位に各過程の発疹が 混在することが特徴である。一般には 1 週間くら いで自然に治癒する疾患であるが、悪性腫瘍、ネ フローゼ症候群など、抗癌剤やステロイド投与中 の免疫抑制状態にある患児が非常に重症となるこ とはよく知られている。また、母体の分娩前 5 日〜 分娩後 2 日の水痘罹患は、重篤な新生児水痘をき たす。

2.水痘の合併症(表 1)

 水痘の合併症として最も多いのは皮膚の細菌性 二次感染である。起因菌は A 群溶連菌やブドウ 球菌によることが多く、膿痂疹、蜂窩織炎、ブド ウ球菌性熱傷様皮膚症候群などを生ずる。また、 劇症型 A 群溶連菌感染症の高いリスク因子は水 痘罹患である。成人では重症化傾向があり、成 人水痘の約 15%に肺炎を合併する。神経合併症 としては水痘脳炎(1/33,000)、急性小脳失調症 (1/4,000)などがあり、さらにインフルエンザと ともにライ症候群への関与も指摘されている。  母体が妊娠 20 週までに水痘に罹患すると、約 2%の児が先天性水痘症候群(皮膚瘢痕、骨と筋 肉の低形成、白内障、眼奇形、小頭症、精神発達 遅延など)を発症する2)

3.水痘ワクチンの効果

1)水痘ワクチン  1974 年、Takahashi らによって水痘予防のた めの弱毒生水痘ワクチン(Oka 株)が開発され3) わが国では 1987 年 3 月より広く小児に接種され ている。現在、世界中で使用されている水痘ワク チンは、すべて Oka 株ワクチンである。ワクチン 株と野生株(ワクチン親株を含む)との間に、転 写調節に重要な役割を持つ gene62 において違い のあることがわかり4)、その部位の検索によりワ クチン株と野生株との鑑別が可能となっている。 2)水痘ワクチンの抗体反応と安全性  水痘ワクチンの IAHA(免疫粘着赤血球凝集反 応)抗体陽転率は 95%前後と高く、良好な免疫 原性を有するワクチンである5,6)。わが国では図 に示されるように水痘流行が常在しており、野生 株による不顕性感染(ブースター効果)がワクチ ンの免疫効果を長期間維持させている。アメリカ の水痘ワクチン(Oka/Merck 株)接種成績にお いても gpELISA(酵素免疫測定法)抗体陽転率 は 86 〜 96%と良好であったが、FAMA 法(細 胞膜抗原蛍光抗体反応)で測定すると 76%7) あったとする最近の報告もある。  水痘ワクチンは発熱等全身性副反応が少なく、 安全性の高いワクチンと考えられる。かつて水痘 ワクチン接種後のアナフィラキシーの報告が散見 され、安定剤として含まれていたゼラチンに対す るアレルギー反応と考えられた。わが国の水痘ワ クチンは2000年1月からゼラチン非含有製剤(Lot No.VZ - 11 〜)に変更され、以降接種後の重篤な アナフィラキシーの報告はみられていない6) 表 1. 水痘の合併症 1)皮膚の細菌性二次感染(〜 5%) ・膿痂疹、蜂窩織炎、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群 ・起因菌は A 群溶連菌またはブドウ球菌 ・小児の劇症型 A 群溶連菌感染症の高いリスク因子 (15 〜 30%) 2)神経合併症 ・脳炎(1/33,000)、急性小脳失調症(1/4,000) ・インフルエンザウイルスとともに Reye 症候群への 関与が指摘 ・その他:横断性脊髄炎、末梢神経炎、視神経炎 3)先天性水痘症候群 ・皮膚瘢痕、骨と筋肉の低形成、白内障、眼奇形、小 頭症、精神発達遅延など ・ 母体の妊娠 20 週までの水痘罹患により約 2%に発生 4)その他 ・ 肺炎(成人水痘の約 15%)、肝炎、血小板減少性紫 斑病、腎炎、関節炎、心筋炎、心嚢炎、膵炎、睾 丸炎など

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3)水痘ワクチンの予防効果  水痘ワクチン接種者の一部に接種後水痘罹患が みられることはよく知られており、我われの追跡 調査でも接種者の 21.0%にみられた5)。わが国にお ける接種後罹患率の報告は、6.2 〜 12.3%8)から 34.2%9)まで幅広いが、多くが軽症に経過する。 当院における接種後罹患の調査でも、発疹数が数 個みられたのみが 61%と非常に軽症に経過して いた5)。アメリカからも同様の報告が出されてお り、感染暴露後の水痘発症予防効果(軽症も含む) は 80%前後と考えられている。水痘の発症予防 効果により、その合併症の減少も期待できる。水 痘は、小児の劇症型 A 群溶連菌感染症の高いリ スクファクター(15 〜 30%)である。ワクチン 接種率の高いアメリカにおいて、小児における水 痘関連劇症型 A 群溶連菌感染症の減少が報告さ れている10)  水痘罹患後に VZV が知覚神経節に潜伏する ルートとしては、水疱皮疹部から末梢神経を介す るルートが主要ルートと考えられている。ワクチ ン接種後には水疱がほとんど見られないので、ワ クチン接種は帯状疱疹の発生も減少させると考え られている。しかし、近年わが国やアメリカにお いて、注射部位領域を中心に出現するワクチン株 の帯状疱疹例が報告されており11)、帯状疱疹に 対する効果については今後の検討課題である。

4.水痘ワクチン接種の実際

 水痘ワクチンは、予防接種法による定期予防接 種ではなく、任意接種ワクチンで接種する。接種 対象者は 1 歳以上の水痘既往歴の無い者であり、 0.5ml を 1 回皮下注射する。急性白血病や悪性固 形腫瘍患者、ステロイド使用中のネフローゼ患者 など、水痘罹患が危険と考えられるハイリスク患 者にも接種可能である。妊婦への接種は禁忌であ り、約 1 か月間の避妊後に接種すること、および 接種後 2 か月間は妊娠しないように注意させるこ とが必要である。また、高齢者へのワクチン接種 で VZV に対する液性および細胞性免疫の増強が 認められており(表 2)12)、免疫能が低下した高 齢者にも接種できる。  感染暴露後の緊急接種により、発症を阻止する ことも可能である。水痘患者との接触後 72 時間 以内に、ワクチンを接種することが必要である13) 皮下注射で投与されたワクチン株により免疫が早 く誘導され、野生株の増殖が抑制されると考えら れている。

5.水痘ワクチンの課題

1)定期接種化  約 30%と推定されるわが国の水痘ワクチン接 種率では、水痘患者発生の減少が一向に見られな い。接種率を上げるには、定期接種化し、公費負 担による無料での接種が必要と思われる。厚生労 働省において定期接種化に向けての検討がなされ ており、その実現が望まれる。 2)2 回接種法  水痘ワクチン接種者の約 20 〜 30%が、その後 水痘皮内抗原テスト 水痘皮内反応 平均抗体価 (平均長径、mm) IAHA 法 gpELISA 法 陰性者*〜弱陽性者** 接種前 接種後 接種前 接種後 接種前 接種後 50 歳〜 59 歳 (n=26) 3.3 15.3 35.2 62.8 3,474 9,872 (P<0.001) (P=0.001) (P<0.001) 60 歳〜 69 歳 (n=20) 3.5 12.4 39.4 64.0 4,365 8,710 (P<0.001) (P=0.001) (P<0.001) 70 歳〜 79 歳 (n=21) 3.1 8.6 27.2 39.9 3,331 6,036 (P<0.001) (P=0.134) (P=0.001) *陰性:<5mm、**弱陽性:5 ≦ 9mm (文献 12. より一部改変) P:Paired Student's t-test 表 2. 成人、高齢者への水痘ワクチン接種による免疫増強効果 (n=67)

(4)

軽症ではあるが水痘に罹患する。アメリカでは、 1995 年 3 月に Oka/Merck 株ワクチン(Varivax® が認可され、1 歳以上全員が対象の universal immunization program により接種が行われてき た。水痘ワクチンの 2 回接種により、接種後罹患 が約 7 割減ったことが報告され14)、2007 年に 12 〜 15 か月時と 4 〜 6 歳時の 2 回接種法に変更さ れた。わが国においても、定期接種化と共に早急 に検討すべき事項と思われる。 3)混合ワクチン  アメリカでは、2005 年 9 月に MMRV(麻疹、 ムンプス、風疹、水痘の 4 種混合生)ワクチン (ProQuad®)も認可されており、MMRV ワクチ ンによる 2 回接種も行われている。利便性は高い が、熱性痙攣の発生頻度が MMR ワクチンとの 同時接種より高いのではないかとの懸念もあり、 MMRV ワクチンに統一されてはいない15) 4)帯状疱疹予防  VZV の再活性化によって発症する帯状疱疹は 全人口の 10 〜 20%が罹患するといわれ、最も困 難な症状は加齢とともに発生頻度を増す帯状疱疹 後神経痛である。高齢者への接種で細胞性免疫の 増強が認められることから12)、水痘ワクチンの帯 状疱疹予防効果も期待される。2005 年に Oxman ら16)によって、60 歳以上の高齢者接種が、帯 状疱疹および帯状疱疹後神経痛に対しそれぞれ 51.3%と 66.5%の有効率で予防効果ありと報告さ れた。その報告に基づき、アメリカでは 60 歳以 上の高齢者への水痘ワクチン(Zostavax®)接種 が勧奨されている。

おわりに

 水痘に対する最も確実な感染対策は、小児への 水痘ワクチン接種を徹底し、わが国から水痘を排 除することである。約 30%と推定されるわが国 の水痘ワクチン接種率では、水痘患者発生の減少 が一向に見られない。水痘をわが国から排除する には、90%以上の高い接種率を維持することが必 要と思われる1)。そのためには、水痘ワクチンの 定期接種化の早期実現が望まれる。 文献 1.庵原俊昭「小児感染症の基本的考え方」日小皮 会誌、25(2):93-96、2006 2.Pastuszak AL, Levy M, Schick B, et al, Outcome after maternal varicella infection in the first 20 weeks of pregnancy, N Engl J Med, 330(13): 901-905, 1994

3.Takahashi M, Otsuka T, Okuno Y, et al, Live vaccine used to prevent the spread of varicella in children in hospital, Lancet, 2(7892):1288-1290, 1974

4.Gomi Y, Sunamachi H, Mori Y, et al, Comparison of the complete DNA sequences of the Oka varicella vaccine and its parental virus, J Virol, 76(22):11447-11459, 2002

5.Ozaki T, Nishimura N, Kajita Y, Experience with live attenuated varicella vaccine(Oka strain) in healthy Japanese subjects; 10-year survey at pediatric clinic, Vaccine, 18(22): 2375-2380, 2000

6.Ozaki T, Nishimura N, Muto T, et al, Safety and immunogenicity of gelatin-free varicella vaccine in epidemiological and serological studies in Japan, Vaccine, 23(10):1205-1208, 2005 7.Michalik DE, Steinberg SP, Larussa PS, et al,

Primary vaccine failure after 1 dose of varicella vaccine in healthy children, J Infect Dis, 197(7): 944-949, 2008

8.Asano Y, Varicella vaccine: The Japanese experience, J Infect Dis, 174(Suppl3):S310-313, 1996 9.Takayama N, Minamitani M, Takayama M, High incidence of breakthrough varicella observed in healthy Japanese children immunized with live attenuated varicella vaccine (Oka strain), Acta Paediatr Jpn 39(6):663-668, 1997 10.Patel RA, Binns HJ, Shulman ST, Reduction in pediatric hospitalizations for varicella-related invasive group A streptococcal infections in the varicella vaccine era, J Pediatr, 144(1):68-74, 2004

11.Galea SA, Sweet A, Beninger P, et al, The safety profile of varicella vaccine: a 10-year review, J Infect Dis, 197(Suppl2):S165-169, 2008

12.Takahashi M, Okada S, Miyagawa H, et al, Enhancement of immunity against VZV by giving live varicella vaccine to the elderly assessed by VZV skin test and IAHA, gpELISA antibody assay, Vaccine, 21(25-26):3845-3853, 2003

(5)

*    *    * 13.Asano Y, Hirose S, Iwayama S, et al, Protective

effect of immediate inoculation of a live varicella vaccine in household contacts in relation to the viral dose and interval between exposure and vaccination, Biken J, 25(1):43-45, 1982 14.Kuter B, Matthews H, Shinefield H, et al, Ten

year follow-up of healthy children who received one or two injections of varicella vaccine, Pediatr Infect Dis J, 23(2):132-137, 2004

15.CDC, Update: recommendations from the A d v i s o r y C o m m i t t e e o n I m m u n i z a t i o n Practices (ACIP) regarding administration of combination MMRV vaccine, MMWR, 57(10): 258-260, 2008

16.Oxman MN, Levin MJ, Johnson GR, et al, A vaccine to prevent herpes zoster and postherpetic neuralgia in older adults, N Engl J Med, 352(22):2271-2284, 2005

参照

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