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第 52 回神奈川腎炎研究会 LCAT (lecithin cholesterol acyltransferase) 欠損症の一例 1 平松里佳子 1 山内真之 1 冨永直人 1 住田圭一 1 竹本文美 3 大橋健一 1 乳原善文 1 早見典子 1 与那覇朝樹 1 星野純一 1 高市憲明 1 諏訪部

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Academic year: 2021

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LCAT欠損症とは

血清LCAT (lecithin cholesterol acyltransferase) 低下,欠損による稀な遺伝子病 本邦では約14家系の報告 コレステロールのエステル化障害による著明 な低HDLコレステロール血症 臨床的に3徴候(角膜混濁,貧血,腎障害) を主徴

本報告

LCAT欠損症発見の背景 本邦で初となった家族性LCAT欠損症症例 ①本症例発見の経緯 (姉の診断が契機) ②症例提示 ③ 診断時及び14年経過後の腎生検組織(自 然経過)を提示

背景

(LCAT欠損症の発見)

◦ 1938年 血清コレステロールがLCATにより 血漿中でエステル化されることが発見され たが,その意味付けについては重要視され なかった。 ◦ 1967年 NorumとGjoneらは角膜混濁,貧血, 蛋白尿,高脂血症を呈した,33歳ノルウェー 人女性に対して腎生検を施行。糸球体に泡 沫細胞が目立ち,脂質検索で,コレステロー ルの大部分が遊離型であり,LCAT活性の消 失が判明。他の二人の姉妹も同特徴を有し た。同様な症例がスウェーデンからも紹介 されるに至り,LCAT欠損症という遺伝性の 疾患概念が初めて確立された。

本症例発見の 経緯 (発端者は姉)

姉の病歴

12歳  角膜輪や眼球,皮膚の黄染に母親が気 付く。 15歳  意識障害を伴わないtonic crampが出現。 16歳  Wilson病が疑われ他院に精査入院した が,Wilson病は否定。 30歳(1976年)     繰り返す黄疸の精査で他院入院。高間接 ビリルビン血症,貧血を認め溶血性貧血 と診断。血清総コレステロール値が42 mg/dlと低値。診断は確定せず。     国際血液学会のため京都に来ていたノ ル ウ ェ ー のDr. Evensenに 診 察 を 依 頼。 LCAT活性の低下を認め,診断が確定。     家族検索にて弟2名もLCAT欠損症と診 断。その後,弟(本症例)が1990年9月 (42歳)当院を受診。

LCAT (lecithin cholesterol acyltransferase)欠損症の一例

平 松 里佳子

1

  乳 原 善 文

1

  諏訪部 達 也

1

山 内 真 之

1

  早 見 典 子

1

  山 内 淳 司

1

冨 永 直 人

1

  与那覇 朝 樹

1

  長谷川 詠 子

1

住 田 圭 一

1

  星 野 純 一

1

  澤   直 樹

1

竹 本 文 美

1

  高 市 憲 明

1

  原   茂 子

2

大 橋 健 一

3

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症  例

症 例:42歳 男性 主 訴:精査目的 既往歴:16歳:虫垂炎→手術施行 生活歴:喫煙:7本/日  飲酒:なし  家族歴:父母がいとこ婚。姉(44歳),弟(40 歳)がいずれもLCAT欠損症と診断。 現病歴:1976年 姉がLCAT欠損症と診断さ れたのを契機に同疾患と診断。蛋白尿を認めた ため,腎生検①(供覧)施行。他院にて保存的 管理。 1985年 両側下腿浮腫が出現し,ネフロー ゼ症候群と診断,他院で入退院を繰り返し,徐々 に腎機能が増悪。 1990年 高血圧,肺水腫にて他院へ緊急入 院,シャント増設術が施行され1回/週の血液 透析が開始。腎症の精査目的に当院転院。 入院時現症:身長:167cm,体重:60.5 kg,血圧: 158/80 mmHg, HR 72/min. reg. , BT 36.5℃,皮膚: 体幹部に黄色腫散在,頭頸部:眼瞼結膜に貧血 (+) 眼球結膜に黄染なし,両側角膜混濁を認 める,胸部:心音:I→II→III(-)IV(-), 呼吸音正常,腹部:腸雑音正常 平坦かつ軟  圧痛・腫瘤・筋性防御なし,肝脾腎:触知せず 腹部・鼡径に血管雑音なし,四肢:両側下腿浮 腫 橈骨・足背動脈:触知,リンパ節:頸部・ 鎖骨上・腋窩・鼡径:触知せず 血算 WBC 3700 /μl RBC 2.27×106 /μl Hb 8.0 (MCV 100fl) g/dl Ht 25.0 % Plt 13.6×104 /μl 標的、奇形、多染赤血球 生化学 TP 5.9 g/dl Alb 3.6 g/dl UN 64 mg/dl Cre 2.6 mg/dl UA 7.3 mg/dl Na 144 mmol/l K 3.8 mmol/l Cl 109 mmol/l Ca 4.1 mEq/dl iP 4.6 mg/dl T.Bil 1.3 mg/dl 間接Bil 0.8 mg/dl AST 7 IU/l ALT 3 IU/l LDH 184 IU/l ALP 316 lU/I γGTP 68 IU/l 葉酸 3.7 μg/l VitB12 437 ng/l CRP 0.1 mg/dl Fe 97 μg/dl フェリチン 225 μg/l 免疫 ハプトグロビン 140 mg/dl クームス定性 陰性 (直接法,間接法) 抗核抗体 陰性 内分泌 TSH 2.6 μIU/ml F-T4 0.8 ng/dl F-T3 320 pg/dl 随時尿所見 尿定性 比重 1.015 pH 5.5 糖 (-) 蛋白 (3+) 潜血 (2+) 尿沈査 赤血球 6-10 /HPF  白血球 1-5 /HPF 24時間蓄尿所見 尿量 764 ml/日 尿蛋白定量 6.11 g/日 クレアチニン 0.8 g/日 Na 13 mEq/日 K 11 mEq/日 Cl 9 mEq/日 β2MG 242 μg/日 Ccr 20.5 ml/分 入院時検査所見

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図1 図2 図3 図4 総コレステロール 108 mg/dl コレステロール-エステル比 12 % (71-76%) 中性脂肪 271 mg/dl HDL-コレステロール 12 mg/dl (35-70 mg/dl) LDL-コレステロール 46.2 mg/dl (60-140 mg/dl) HDL/LDL 11 (25-74) レシチン 97.3 % スフィンゴミエリン 2.7 % リゾレシチン 感度以下 LCAT活性 0.0 U/ml (長崎-赤沼法) LCAT抗原量 0.07 μg/ml リポ蛋白分画 α 分離不能 preβ1 分離不能 preβ2 β 100 % アポ蛋白分画 Apo-A1 38.3 mg/dl (89.4-192.4) Apo-A2 4.2 mg/dl (19.3-46.6) Apo-B 70.7 mg/dl (40.2-128.0) Apo-C2 2.7 mg/dl (1.2-6.4) Apo-C3 6.6 mg/dl (3.4-12.6) Apo-E 4.8 mg/dl (2.2-6.9) 脂質分析

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図5 図6 図7 図8 図9 図10

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図11 図12 図13 図14 図15 図16

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図17 図18 図19 図20 図21 図22

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病理像の特徴

LM: 早期では軽度のメサンギウムの拡大と GBMの 点 刻 像(bubble appearance) 或 はspiculationを伴った不規則な肥厚像と vacuolation. 進行するとメサンギウムと係蹄は拡大し, 内部に泡沫化。 尿細管間質や血管壁にも空胞化がみられ ることもある。 IF: 免疫グロブリンや補体の沈着は陰性のこ とが多い。時にIgMやC3が陽性。apo Bと apoEが強陽性,HDLの主要アポ蛋白であ るapoA1は陰性。 EM: 不規則な小空胞状構造を伴う脂質の沈着 がGBM,上皮下,内皮下,パラメサンギ ウム,ボウマン嚢の上皮下にみられる。 進行すると内皮下やメサンギウムに広範 に拡大,係蹄腔を充満。強拡大では二重 の膜様構造物(striated membranous struc-ture)が出現。

本症例のその後の臨床経過

1990年  LDLがHDLに対して相対的に高いこ とに注目し,1/週のHDに加え,LDL 吸着療法を3回/月開始。 1993年  1/週HD→2/週HDへ。 1997年  2/週HD→3/週HDへ。1/月LDL吸 着 療法へ。 1999年  4回PTAと4回目のシャント再建術。 2000年  シャント閉塞予防でticlopidine投与後 高コレステロール血症     (TC 102 mg/dl→1002 mg/dl)発症。     その後も9回PTA施行。 2001年  溶血性貧血が進行。凍結血漿の輸注 により改善。 2003年  LDL吸着終了。 2005年  汎血球減少症出現。骨髄穿刺で骨髄 異型性症候群と診断。

LCAT欠損症

◦ LCATの低下,欠損による遺伝性(常染色体 劣性遺伝)の脂質代謝異常。 【検査所見】 ◦ 著明なHDL低下,遊離コレステロール増加 が特徴的。apoA-1,apoA-2の減少。 【臨床症状】 ◦ 幼少時より出現する角膜混濁,視力障害は少 ない。 ◦ 貧血は,溶血性貧血像をとり,標的赤血球が 出現。 ◦ 腎症は全例が発症するわけでなく,発症年齢 や経過も多彩。蛋白尿が主体で,進行例での 透析導入時期は最年少は21歳だが,40-50代 が多い。 ◦ 早発動脈硬化症,腱黄色腫は見られない。 【治療】 ◦ 食事療法,輸血,腎移植

まとめ

◦ 常染色体劣性型の家族性LCAT欠損症を経験 した。 ◦ 角膜混濁,溶血性貧血,蛋白尿,腎機能障害 を主徴とした。 ◦ 低HDLコレステロール血症が特徴的であっ た。 ◦ 腎生検ではメサンギウム領域と係蹄内皮下中 心に空胞化を伴い強拡大では膜様構造物が確 認される沈着物が大量にみられ,係蹄壁は膜 性腎症様の病変がみられた。 ◦ LDL-cholの沈着が腎臓病変に寄与しうるの ではないかと考え,LDL吸着療法を約13年 施行した。 ◦ 本症の58歳までの観察によると肝腫大を認 めない脾腫(中等度),軽度の心肥大を認め るのみで透析経過は良好である。

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討  論

平松 よろしくお願いします。今回,LCAT欠 損症の一例を経験しましたので,報告いたしま す。  まず初めにLCAT欠損症とは,血清LCATの 低下および欠損による,まれな遺伝子病で,本 邦では現在までに約14家系の報告があります。 コレステロールのエステル化障害による著明な 低HDLコレステロール血症を特徴としまして, 臨床的には角膜混濁,貧血,腎障害の3徴候を 主徴といたします。  今回の報告では,まずLCAT欠損症発見の背 景について。次に今回の症例となります本邦で 初となりました家族性LCAT欠損症の症例につ いて,本症例発見の経緯。次に症例を呈示し, 最後に診断時および14年経過後の2回の腎生検 組織について呈示いたします。  まず背景ですが,1938年,血清コレステロー ルがLCATにより血漿中でエステル化されるこ とが発見されましたが,その意味づけについて は重要視されることがありませんでした。1967 年,Norumらが角膜混濁,貧血,蛋白尿,高脂 血症を呈した33歳のノルウェー人女性に対し 腎生検を行い,糸球体に泡沫細胞が目立ち,脂 質検索を行いましたところ,コレステロールの 大部分が遊離型であり,LCAT活性の消失が判 明いたしました。ほかの2人の姉妹も同特徴を 有しまして,同様な症例がスウェーデンからも 紹介されるに至り,LCAT欠損症という遺伝性 の疾患概念が初めて確立されました。  まず本症例,発見の経緯ですが,発端者は姉 でしたので,まず姉の病歴について簡単に述べ ます。姉は12歳のときに角膜輪や眼球,皮膚 の黄染に母親が気づいていましたが,放置して いました。15歳のときに意識障害を伴わない touic crampが出現。16歳時にWilson病が疑わ れ,他院に精査入院いたしましたが,Wilson病 は否定されました。30歳,1976年のときに繰 り返す黄疸の精査で再び他院に入院し,高間接 ビリルビン血症,貧血を認め,溶血性貧血と診 断されました。このとき,血清の総コレステロー ル値は42と低値でしたが,診断が確定しませ んでした。  国際血液学会のために京都に来ていたノル ウェーの医師に診察を依頼し,LCAT活性の低 下が認められ診断が確定しました。家族検索を 行い,弟2名もLCAT欠損症と診断され,その 後,この弟2名のうちの1人が1990年9月,42 歳のときに当院を受診しました。これが他院で の本家系の脂質像および臨床像をまとめた表で すが,こちらの3名がLCAT欠損症と診断され た3名で,こちらがトータルコレステロール, 遊離コレステロール,コレステロールエステル 比,LCATですが,3名とも著明なコレステロー ルエステル比の低下とLCAT活性の低下を認め ます。  臨床像については,姉が角膜混濁,黄疸,貧 血を認めまして,ほかの弟2名に関しては,そ れに加えて蛋白尿の出現を認めています。  症例ですが,42歳の男性。既往歴に16歳の ときに虫垂炎があります。生活歴はこちらに 示したとおりです。家族歴で父母がいとこ婚。 先ほど申しましたように,姉と弟がいずれも LCAT欠損症と診断されています。こちらが本 家系の家系図になりますが,両親がいとこ婚の 関係でした。こちらに示した3名がLCAT欠損 症患者で,姉,本症例の弟,さらにその下の弟 がLCAT欠損症患者でした。  現病歴です。繰り返しになりますが,1976年, 姉がLCAT欠損症と診断されたのを契機に同疾 患と診断されました。このときに軽度の蛋白尿 を認めたために腎生検が施行されています。そ の後,他院で保存的管理となっています。1985 年,両側の下腿浮腫が出現し,ネフローゼ症候 群を呈し,他院で入退院を繰り返しましたが, 徐々に腎機能が増悪しました。1990年になっ て,高血圧,肺水腫で他院へ緊急入院。シャン ト造設が行われ,週1回の血液透析が開始され ました。腎症の精査目的に当院へ転院され,入

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院後に腎生検2回目が行われました。  入院時の現症ですが,身長167cm,体重は 60.5kg,血圧は158/80でした。皮膚では体幹部 に黄色腫が散在していました。また眼瞼結膜に 貧血を,両側の角膜混濁を認めました。胸腹部 に明らかな異常所見はありませんでした。四肢 には両側の下腿浮腫を認めました。  こちらは入院時の検査所見ですが,血算では Hbが8.0と低下を認め,末梢血に標的,奇形, 多染赤血球の出現を認めています。また後ほど 申しますが,間接ビリルビンの上昇も認めてお りまして,溶血性貧血の像と考えられました。 生化学ではアルブミンが3.6,腎機能ではBUN が64,クレアチニンが2.6と腎機能の増悪を認 めています。トータルビリルビンが1.3とやや 上昇し,間接ビリルビンが有意でした。hapto-globinの方は一応基準値以内でした。  内分泌は甲状腺機能は正常でした。尿所見 で蛋白が3+,潜血が2+,沈渣赤血球は6 ~ 11/HPFでした。24時間蓄尿の所見ですが,蛋 白定量が6.11g/day,CCrは20.5でした。  こちらが本患者の腹部エコー所見ですが,腎 臓のサイズが約13cmと両側ともにやや腫大 しておりまして,通常のCGNパターンとは異 なり,皮質の厚みは保たれ,皮質の最外層が hypo echoic,内部がhyper echoicを示すという 所見を呈していました。  腹部CTですが,こちらも腎臓の腫大,両側 腎臓の腫大を認めました。血管の方は特に石灰 化等は認めず,動脈硬化を示唆するような所見 はありませんでした。  脂質分析ですが,総コレステロールが108と やや低値。コレステロールエステル比が12% と著明な低下を認めました。またHDLコレス テロールも12と,こちらも著明な低値を認め ています。  脂質分画ではレシチンが97.3%と非常に上 昇しておりまして,逆にリゾレシチンが感度 以下という結果でした。LCAT活性は検出され ず,抗原量についても0.07と,こちらも著明な 低値を認めました。リポ蛋白分画ではαおよ びpre-βが分離不能,βが100%の所見でした。 アポ蛋白分画に関しましては,Apo-A1,A2の 減少を認めましたが,そのほかのアポ蛋白に関 しましては基準値内でした。  こちちはLCAT反応を図式したものですが, LCATはApo-A1を活性化因子として持ち,レ シチンのβ位の脂肪酸を遊離コレステロールに 転移することにより,コレステロールエステル を生成します。LCATが欠損することにより, 酵素の反応がうまくいかなくなりますので,レ シチンの上昇,遊離コレステロールの上昇,逆 にリゾレシチンとコレステロールエステルが低 下するという結果になり,本症例もこのよう な結果となりました。確定診断のためにLCAT のコーディング領域を解析しましたけれども, 141番目のコドンにGGCという三塩基が挿入さ れるという変異で,こちらの方もホモ接合体で した。  次に腎生検の組織をお示しします。こちらが 1976年,軽度の蛋白尿,腎機能は正常でした。 そのときに行われた腎生検ですが,係蹄壁の肥 厚と空胞化が目立つという所見です。こちらは 1990年,6gの蛋白尿,血清クレアチニンが2.6 の時点で行われた2回目の腎生検ですが,糸球 体が28個で13個が全節性の硬化,保たれた糸 球体も腫大しているものが多いです。好酸性の matrixの増加や空胞状の変化が認められます。 こちらも別の糸球体ですが,同様の変化を認め ます。こちらも好酸性のmatrixの増加と空胞状 の変化を認めています。  PAM染色では係蹄壁が不規則に肥厚してお り ま し て,spike様 に 見 え る 部 分, あ る い は bubble appearanceに見えるところもあります。 沈着物が増えてmesangium領域,あるいは係蹄 腔の介在により微小血管瘤様に見える部分もあ ります。大粒の微小血管瘤状の構造物の内部に 好酸性の部位と大小さまざまな空胞病変の部位 が見られます。尿細管間質にも泡沫細胞の浸潤 と関係した空胞化が目立ちます。

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 こちらはIFの所見ですが,本疾患では有意 な免疫染色では染まらないという報告が多いの ですが,時折,IgMやC3が染まるというもの もありまして,本例ではC3がやや染まってい ます。アポ蛋白を染めたものでは,ApoEが非 常に強陽性に染まっています。  こちらは電顕の所見ですが,mesangiumと係 蹄壁の内皮下を中心に小空胞状の構造物を伴っ た沈着物が見られます。これです。こちらを拡 大しますと,内部に二重の膜様構造物が充満し ていることが分かります。こちらも小空胞を 伴った蛇行した二重の膜様構造物が確認されま す。こちらはさらに拡大したものですが,同様 の所見です。  こちらは報告されている本疾患の病理像の特 徴ですが,まず光顕像では,早期の段階では 軽度のmesangiumの拡大とGBMの点刻像,あ るいはaspirationを伴った不規則な肥厚像やバ キュキレーションを認める。進行すると,me-sangiumと係蹄は拡大し,内部に泡沫化を認め ます。尿細管の間質や血管壁にも空胞化が認め られることがあります。IFでは免疫グロブリ ンや補体の沈着は陰性のことが多いのですが, ときにIgMやC3が陽性となることがあります。 アポ蛋白を染めますと,ApoBとApoEが強陽 性,HDLの主要アポ蛋白であるApoA-1は陰性 です。  電顕では不規則な小空胞状の構造を伴う脂質 の沈着がGBM,上皮下,内皮下,paramesan-gium,ボーマン嚢の上皮下に見られます。進行 すると内皮下やmesangiumに広範に拡大し,係 蹄腔を充満するようになります。これを強拡大 で見ますと,二重の膜様構造物が出現していま しす。 【スライド】 本症例ではこちらの色に示した 部分が病理像で認められました。本症例のその 後の臨床経過について簡単にお話ししますが, 1990年,当院に転院されてから,LDLがHDL に対して,相対的に高いことに注目し,週1回 のHDに加え,LDL吸着療法を開始しました。 その後も徐々に透析の回数が増えまして,LDL 吸着の方は月に1回定期的に行っていました。 その後,1999年以降,頻回なシャント閉塞予 防を来しまして,2000年にシャント閉塞予防 でチクロピジンを投与したところ,トータルコ レステロールが102 ~ 1002と著明な高コレス テロール血症を来したというエピソードがあり ます。その後も9回のPTAを施行しました。  2001年になり溶血性貧血が進行し,これは 凍結血漿の輸注により改善しました。2003年, LDL吸着を終了し,2005年になり汎血球減少 が出現し,こちらは骨髄穿刺で骨髄異形成症候 群との診断をされています。  まず最後にLCAT欠損症についてですが, LCATの低下,欠損による遺伝性の脂質代謝異 常です。検査所見では本症例でもありましたよ うに著明なHDLの低下,遊離コレステロール の増加が特徴的でして,ApoA-1,ApoA-2の減 少も認められます。臨床症状は幼少時から出現 する角膜混濁で,これは視力障害は少ないとの ことです。貧血は溶血性貧血像を取り,標的赤 血球が出現します。腎症に関しては全例が発症 するわけではなく,発症年齢や経過も多彩です。 蛋白尿が主体で,進行例での透析導入時期に関 しては,報告では最年少は21歳ということで したが,多くは40 ~ 50代が多いです。早発動 脈硬化症や腱黄色腫は一般には見られません。  治療ですが,食事療法や輸血または腎移植な どが挙げられています。  まとめですが,常染色体劣性型の家族性 LCAT欠損症を経験しました。角膜混濁,溶血 性貧血,蛋白尿,腎機能障害を主徴としました。 低HDLコレステロール血症が特徴的でした。 腎生検ではmesangium領域と係蹄内皮下を中心 に空胞化を伴い,強拡大では膜様構造物が確認 される沈着物が大量に見られ,係蹄壁は膜性腎 症様の病変が見られました。LDLコレステロー ルの沈着が腎臓病変に寄与しうるのではないか と考え,LDL吸着を約13年施行いたしました。  本症の58歳までの観察によりますと,脾腫

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と軽度の心肥大を認めるのみで透析経過自体は 良好で経過しています。ありがとうございまし た。 座長 ありがとうございました。大変貴重な症 例だと思いますが,診断とか,そのへんについ ては疑う余地はないのかなと思いますが,臨床 の先生方へ何かご質問は。どうぞ。 木村 聖マリアンナ医科大学の木村です。貴重 な症例をどうもありがとうございます。教えて いただきたいのですが,LCAT欠損症は動脈硬 化は進まないということがさっき書いてありま したが,それでLDL吸着をやられたのは,こ れは腎疾患の進行を抑制しようということでや られたわけですか。 平松 そうです。 木村 その結果は,先生方はどういうふうに評 価されていますか。 平松 LDL吸着を行った前後での腎生検の組 織があればよかったのですが,今回は残念なが らされていません。結局,その後,途中で他院 に転院されてしまいまして,その後の吸着療法 について効いたか,効かないかという詳細な検 討ができていないのが実情です。 乳原 共同演者の虎の門病院の乳原ですが,先 ほど動脈硬化を起こしにくいと書いてありま す。それが分かったのは今回の演題をつくって いるときであって,その当時は記載がほとんど 書かれていないのです。これが本当に動脈硬化 と予後の関係はほとんど成害には記載されてい ない。ほとんどの報告は遺伝子異常が見つかり ましたよ,そこで止まってしまっている。 木村 ありがとうございます。 座長 原先生,どうぞ。 原 虎の門病院の原です。LDL吸着療法をやっ た当時にかかわっていました。  実はLDL吸着療法をやる前とやってからの ある期間では,クレアチニンクリアランスは改 善しました。ですから治療効果はあったと思い ますが,LDL apheresisをやるときに,どうし てもカラムを生食で洗います。そうしますと概 略で計算しますと塩分が10gぐらい入ってしま う。心機能も少し悪く浮腫を来しやすくて,そ のためにLDLを途中であきらめたということ があります。腎と脂質代謝研究会で当時報告し ております。 上杉 筑波大学病理の上杉と申します。わたし はLCAT欠損症の症例を集めていた時期があっ て,そのときにいろいろ勉強しました。LCAT 欠損症は脂質代謝異常の中では動脈硬化を伴わ ないことで,非常に昔からわりと有名だったと いうことがありますので,わりと最初から分 かっていたことではないかなと思うのと。  そのときに調べたときに,酸化LDLの値を ずっと測っていたのですが,LCAT欠損症は酸 化LDLが非常に多くなる病気で,血清を正常 人と比べても,明らかに高い濃度の酸化LDL が血沈の中にあって,しかもそれが糸球体の中 にも沈着するということで調べたことがありま した。わたしの調べた症例も確かにそういうの があることでLDL吸着をやりましたが,やっ ぱり効果は全然なかったです。治療は何となく 合目的な気がしますが,やっぱり全然効果がな かったというのは同じです。 座長 お願いします。 山口 ちょっと教えてほしいのですが,赤血球 のいろいろな変形が出てきたり,溶血性の貧血 が出てくる理由は何ですか。 平松 言われていますのは赤血球の膜の構成で す。 山口 膜の構成に絡んでいるわけですね。 平松 膜の脂質の構成に絡んでいて,遊離コレ ステロールとか,レシチンが増加することに よって,膜が非常に脆弱化することで壊れてし まうということが言われています。 山口 そうすると変形赤血球による臓器障害と いうのは何かあるのですか。脾腫が来るとか。 平松 脾腫は見られます。 山口 脾腫ぐらい。 平松 はい。溶血性貧血自体は軽度のものが多 い。それほどひどくないものが多い。なぜかは

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ちょっと分からないのですが。今まで言われて いるのは脾腫ぐらいです。 山口 あと,MDSになったというのは何か関 係があるのですか。 平松 それについては検索しましたが,そう いった文献は見つかりませんでした。 平和 横浜市大医療センターの平和です。あり がとうございました。ちょっと教えてほしい のですが,これは同胞の方,2人が同じように LCAT欠損症ということですね。その方たちは 蛋白尿とか,腎病変はどうだったのでしょうか。 平松 姉と弟の2名がLCAT欠損症だったので すが,腎生検ができたのは今回のわれわれの症 例だけです。姉と弟,三男についてですが,蛋 白尿の出現については,弟2人にはありました が,姉には蛋白尿は認められませんでした。実 際,三男の方は診察はしていないのですが,聞 きますとその後,透析導入はされていたという ことです。 平和 文献的には多くの方,よく分からないの ですが,どの程度腎臓に病変が出てくるのかな ということと,あと,どういう人が腎機能障害 を起こすのですか。要は同じような遺伝欠損が あるけれども,ある人は腎障害が出て,ある人 は出ないということですよね。そのへんは何か ありますか。教えていただければと思いました が。 平松 LCAT欠損症自体が非常にまれな病気と いうことで,例えば何パーセントの症例が腎障 害を来しましたという報告はないのです。同一 の遺伝異常を,つまり同一家系で同じ遺伝子異 常があるにもかかわらず,軽度の蛋白尿にとど まる症例と,もしくは透析にまで至ってしまう ような症例と,臨床像は非常に多彩でして,こ の病気の進展には遺伝子異常だけではなく,例 えば食事の内容といった,ほかの修飾因子が絡 んでいるのではないかと思われます。例えば, 同一の家系の兄弟の症例でも,菜食主義の人は 蛋白尿は全くないのに,脂質を好んで食べる方 は腎障害が来たという報告もありますので,そ ういった生活習慣とか,遺伝以外の部分が病気 の進展には関与しているのではないかと思われ ます。 平和 蛋白尿が出ていない症例でも,糸球体変 化は同じような変化があるものなのでしょう。 そういう報告はないのですか。 平松 それについては報告がありません。 平和 ありがとうございました。 座長 なかなか難しいですね。ない人には出な いかも分からないですね。ほかにございますで しょうか。どうぞ。 吉村 私どもに1例,LCAT欠損が今いますが, 1年ぐらい前にこの会に出そうと思ったら,順 番が遅くて外されてしまったので,英文の論文 で投稿しています。載るかどうかまだ分かりま せん。  その人は10年ぐらいほかの病院でIgA腎症 を疑われて,点滴パルスをやってくれと僕の 外来に来ました。そのときにHDLが一桁だっ たので,これは変だなと思って腎生検をしたら やっぱりLCAT欠損だったのですが,僕も初め て診ました。かなり激しいのです,組織は。全 然悪くならなくて,クレアチニンが0.5か0.6ぐ らいで40歳代の女の人です。治療をどうする かいつも迷っています。3カ月にいっぺんぐら いしか来ていません。そういう人は何かほかに いい方法,蛋白尿,血尿は相変わらず1mgぐら い出ていますが,腎機能は全く動かなくて,家 族歴もかなり調べましたが,ほかの同胞の中に はいなくて。ただ見た感じも明らかに皮膚が黄 色っぽくて,目はあんな感じでおかしくて,典 型的だなと。本を読もうと思いますが,こうい う患者にどういう治療をするのかなといつも 迷っていて。確かにLDLはHDLに比べれば相 対的に高いのですが,抜いてもなという感じで, 悪くなっていないもので。内服薬とか,スタチ ンは効果がありますか。 平松 文献的な報告では,スタチンなどの抗高 脂血症剤が有意に進展を抑制したという報告は 検索した限りありませんでした。腎障害になっ

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てしまってからでは遅いけれども,腎障害の進 展の予防には,食事療法がいいのではないかと いう報告はいくつかありました。 吉村 はっきりしたものはないということです か。 平松 はい。 座長 珍しい症例なのでなかなか難しいです ね。それではほかに臨床の先生方はございます か。それでは病理の先生,お願いできますでしょ うか。重松先生,お願いします。 重松 わたしがLCAT diseaseに出会ったのは, 1968年で『Acta medica Scandinavica』で電顕の 写真とともに症例が報告されていました。非常 にびっくりして,文献請求をしたぐらいに印象 に残っている病気です。けれども,わたし自身 は今まで実際に自分の担当する生検では見たこ とはないので,今回こういう機会を与えても らって非常に勉強になりました。depositionの ところについてコメントを入れたいと思うので 画像をざっと流します。 【スライド01】 この症例はご覧のようにneph-ronが非常に肥大しているところと,萎縮して いるところ,要するに代償肥大ネフロンがある ものですから,かなり腎不全に近い状態に陥っ ている腎生検だと言えると思います。 【スライド02】 PAMで実際にglobal sclerosisに なっているのと,少し肥大気味の糸球体を比べ てみますと,だいたい半数以上がglobal sclero-sisになっていますね。だから代償不全に陥る 寸前まで来ているような腎生検だと思います。 【スライド03】 糸球体病変を見ると,あっと 驚くのですが,これは先ほどの議論をくりかえ すようですが,thrombosisなのかdepositionが亢 じてこうなってしまったのか,ちょっと分かり ませんね。 【スライド04】 PAM染色でみると,mesangial matrixがこんな端っこに圧排されています。こ こに大きな油滴を伴ったものがあります。これ が塞栓だとするとlipoprotein glomerulopathyと か,新手の病気も考えなければいけないですね。 今回は臨床側がちゃんと全部答えを出しておい てくれましたので,そんなに心配しないで検索 を進めることができたわけです。 【スライド05】 これはdepositionではないかと 言えるのは,点刻像とか,水泡状と言われるよ うなdeposition的なものが基底膜に見られると いうことですね。ですからここも内皮下にた まっているということで,これは血栓的な,あ るいはembolicなものではなくてdepositだとい うことになります。 【スライド06】 この症例は標本を2回に分けて 新しい染色をしていただいているのが混じって いますから,やっぱり2回目のというか,新し く標本を切り直していただいたものでも末梢の 点刻像がよく見えています。 【スライド07】 そのdeposit自体は油滴の部分 は抜けてしまっているところと,染み込みが一 緒に混じっているところがあり,全体にdepo-sitionは少し青みを帯びているという特徴があ ります。 【スライド08】 deposition以外に血管病変とか matrixの増加がありますが,これは代謝障害に 伴う二次的なものだろうと考えます。 【スライド09】 糸球体だけではなくて,おそ らく同じようなことが血管にも起こる可能性が あるということですね。 【スライド10】IFでIgAのdepositionが糸球体と 尿細管にみられます。尿細管にかなり再吸収の 顆粒として見られていますので,ここにたまっ たIgAが染み込みで来たのかもしれませんし, こういうものが流れて再吸収されているという 像ではないかと思います。 【スライド11】 C9ですね。これはどういう意 味があるのかよく分かりません。 【スライド12】 ApoEはコレステロール関連の 脂質の仲間ですから,沈着しているということ ですね。 【スライド13】 ApoAもある。 【スライド14】 ApoBはあまり目立たないとい うことですね。

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【スライド15】 電顕所見がこの症例には特徴 的なものですね。まず目につくのは,こういう 空胞の中に黒いしみみたいなdepositが,これ がいちばん初めに目に入ってきます。 【スライド16】 ところがこういうしみ状の 沈着の他に,先ほど演者が言われた,この organized deposit構造です。これがまさしくこ の症例の特徴だと思われますね。いろいろな文 献の記載を見ますと,こっちだけに注目してい る人もいるし,こっちにあまり注目が行ってい ない記載もありますね。 【スライド17】 しみ状のdepositのまわりは抜 けてしまっています。このしみ状の構造物自体 はあまり特異的なdepositではないと思います。 やっぱりこのcylinder likeの構造がこの病変の 特徴的なものではないかと思います。 【スライド18】 このしみ状の沈着物は坂口先 生が肝硬変あるいは肝病変,特にcholestasisが あるような胆汁うっ滞型の病変がある症例によ く見られるので,これは肝臓のビリルビンの関 係するdepositionではないかということをおっ しゃっていましたが,まさしくAlagille症候群 という先天性の胆管閉塞であるとか,cholesta-sisのある肝硬変のときの糸球体には,このタ イプのdepositがよく観察されています。もう 少し大きくしましょうか。 【スライド19】 このcylinder likeの構造物です が,Alagille症候群の電顕像では見られないと いうことがあります。 【スライド20】 上杉先生がたくさん見られて いるので,コメントを欲しいと思いますが,こ れが特徴的なcylinder likeの構造物です。しみ 状の沈着物はこれの代謝されたものかもしれな いけれども,あるいは肝臓などでできたchole-staticなものの腎への沈着の反映ではないかと, この症例を見て感じました。以上です。どうも ありがとうございました。 山口 この症例は,診断的にはあまり問題には ならないのですが,どうして腎機能障害が進展 してしまったのかということですね。先ほど動 脈硬化があまりないという話なんですが,僕は 非常に変わった細動脈病変が随分あるように思 います。ですから,動脈病変によって,随分進 展したのではないかなと思います。 【スライド01】 fibrosisとつぶれた糸球体がだ いぶ際立っているわけですが,CTなどでは, 腎が萎縮をしなかった。そのへんのdiscrepancy をどういうふうに考えるのか。私の頭の中でも 整理ができていないですね。糖尿病性の進展し たものでも,腎の萎縮があまり起こらない。最 後まで血流が残っていることもあるとは思いま すが,なかなかそれだけでは説明ができないよ うに思います。 【スライド02】 つぶれた糸球体はどうでしょ うか。非常に大きいことは大きいですね。通常 の虚血でつぶれたやつとはだいぶ違って,こう いう何となくボワッとしたつぶれ方をして,代 償性の尿細管の肥大も見られています。 【スライド03】 通常,教科書に出ているのは, こういう派手な変化はあまりなくて,係蹄内に 何となくボワッと泡沫状のfoam cellがだいたい 出てきていますが,この例は少しざらざらし たような硝子様物が係蹄内に相当入り込んで きて,あとは泡沫化した細胞なのか,あるいは matrixなのか分からないのですが,泡沫様の物 質が糸球体全体に沈着しているということで糸 球体そのものが相当大きくはなっているのだろ うと思います。 【スライド04】 ほかの染色で見ても,このよ うなmesangiumのところも非常に泡状の感じが しています。われわれはmesangiumを見ても, lipidがあれば,だいたい明るく抜けてきますの で,そういったものを示唆するような,ただ, ここは係蹄内の何か別なもので置き換わってい るのだろうという感じでしょうか。 【スライド05】 先ほど重松先生が言われた ように,何だか知らない,普段見ないような globularな球状の沈着物としか言いようがない と思いますが,血栓なのか。係蹄はだいぶ構造 が壊れてしまっていますので,癒着もあります

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し,こちらは何でしょうか,アミロイドか何か ですか。 【スライド06】 細動脈のところがあまり問題 にされませんでしたが,ちょうど入り口のとこ ろ,構造が分からないのですが,何となく内皮 が分かりませんが,浮腫状の肥厚があって,細 動脈の平滑筋が淡く抜けたようになってきてい ます。このへんもやはり何か絡んでいるのかな という感じですね。  やはり膜性腎症を思わせるようなspikeが あったり,bubblingがあちこちにある。parame-sangial nodular deposit様のものも見られるし, aneurysm様にもなっている。mesangiumのとこ ろがだいぶlooseにもなって溶けてきていると いう感じですかね。内皮下の拡大も見られると いうことですね。ここも内皮の染み込みと,さ らに何かモワッとしたものがこちら側にたまっ ています。本来の内腔はこっちだろうと思いま す。もちろん糸球体がある程度つぶれてきてし まいますと,細動脈硬化も強くなることは言わ れていますが,何かこちら側,細動脈にもたまっ てきているのではないかなという印象です。 【スライド07】 小葉間から細動脈に移行する ところですが,通常のhyalinosisですと,こう いう染まり方はしないので,やはりミックスし た異常な脂質を含んだような内皮下への染み込 みといったものもあるのではないかなと思いま す。 【スライド08】 これはあまり所見はない。 【スライド09】 IgAの染まりがあまり見かけな い染まりですね。普通は円柱がIgAによく出て きますですが,どこが上皮側なのでしょうか。 普段見ないような染まり方のような気がしま す。C3がなぜこんなに出ているのかよく分か りません。いろいろなときにC3はactivationを 受けますが,mesangiolysisあるいはthrombotic なhyalinに絡んで何か出ているのでしょうか。 IgMはあまり出ていませんので,ちょっと分か りません。 【スライド10】 ApoAが主体的に出ているとい うことだろうと思います。 【スライド11】 同じようなあれですね。ほと んど糸球体の基底膜がここにありますので,内 皮がほとんど消失して泡沫状の明るく抜ける場 所と,先ほど重松先生がcylinder,蛇がウヨウ ヨ泳いでいるような雰囲気の沈着物ですね。そ れがおそらく内皮も破ってmesangiumがここに 残っていますので,mesangiumの領域にまで及 んで占拠してしまっているという状態だろうと 思います。 【スライド12】 同じような感じだろうと思い ます。このへんも両方がミックスした形でme-sangiumの領域にもだいぶ,本来の係蹄腔がほ とんど消失してしまって占拠されているという ことだろうと思います。 【スライド13】 同じようなものですね。これ は癒着がある場所で全体にこちらがmesangium が少し残っている場所でしょうか。少しlamel-larに出ているところもあります。 【スライド14】 通常,教科書的にはよく見る のが,基底膜にこのようなdense coreのある vacuolarな変化ですかね。そういったものが intramembranousあるいは内皮下にも出てくる。 あるいは上皮側にも及ぶというのが一般的な記 載だろうと思います。 【スライド15】 こういうtubularなstructureなも のがミックスしてきている。 【スライド16】 同じようなものですね。 【スライド17】 そのようなことでamorphousな

eosinophilicなnodular depositとspike bubble like appearanceということで蛇のウヨウヨしている ような,vacuolar heavy linearという表現で英語 では書いてありましたが,そういったものの沈 着があるということではないですか。細動脈に も似たような沈着が見られるということで,全 体に診断的には問題はないように思いました。 以上です。 座長 ありがとうございました。今の病理の先 生方のコメント等に何かご質問はございますで しょうか。乳原先生。

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乳原 今回の症例は古い症例だったのですが, 前回のときに昭和大学藤が丘の方から,LCAT 欠損症の軽い症例が出てきましたが,実際には もっと激しくなるとこうなるというのを,私た ちと原先生とは経験してきたわけです。私と原 先生の頭の中だけに残っていてはいけないと。 これはみんなの記憶にのこらなければいけない と考えました。LCAT欠損症は教科書にも載る ぐらい有名な代謝異常と関係した腎障害です が,1度見て覚えて頂ければ,もしかしたら診 断ができるかもしれないと考え,古い症例です が,提出させていただきました。  症例を準備するにあたって感じたことは,先 ほどの空胞状の部分と実質様の部分があり,実 質様の部分は本来,ただ,やみくもに沈着する なら,あんな構造物が出てこないだろう。にも かかわらず,きれいな構造物が出てきていると いうことで,その違いは何だろうかなというこ とで,先ほど重松先生にも個人的にお聞きしま したが,これをどういうふうに脂質代謝と実質 物の違いというものを,区別したらいいのかと いうことを文献上ではなかなか確認できなかっ たのですが,上杉先生が,もしも知っておられ たら。 上杉 筑波大学の上杉です。さっき蛇状と言わ れましたですが,LCAT欠損症のもう一つ,脂 質代謝の特徴はリン脂質が非常に高いというの があって,リン脂質というのは膜様構造物を構 成するので有名だと思います。あれは膜になっ ていて特異な脂肪組織の一部に何かがついてい るかもしれないのですが,リン脂質が主体の構 造物だとわたしは思っています。  実際に染色をしてみると,通常,脂質に陽性 になるようなoil red,sudan blackは染まらなく て,トリグリセリドとかリン脂質に特徴的な脂 質の染色をすると,そこだけはきれいに染まっ てきます。  だからわたしは膜様構造物と呼んでいます が,あれはたぶんリン脂質由来の何かではない かというのと,それから空胞状に変性した点, 黒いポッチみたいなものがあると思いますが, あれもやっぱり普通の脂肪の沈着によるような 脂質ではなくて,LCAT欠損症に特徴的なリン 脂質が高いとか,酸化LDLが多いとか,そう いうものによる特別な構造物なのではないかな とは思っています。  今日,重松先生と山口先生にきれいな電顕の 写真を見せていただきましたが,確かにLCAT 欠損症は,大きな動脈の動脈硬化はないという のは報告されていますが,小さな動脈に関して は,たぶん報告はあまりないので,山口先生が 言われるように,あのような小さな動脈にも, 本当を言うとたくさん変化があるのかもしれな いのですが,それは今までは報告はないと,私 が調べたときはありませんでした。 乳原 剖検とか,そういうのでほかの細小動脈 を含めて何か変化があるという報告はないので すか。 上杉 わたしが調べたところはそういうのはな かった。やっぱり腎臓病なので,どうしても腎 障害が進んでしまうと動脈硬化は進んでしまう ので,それが二次性の変化なのかというのはな い。それとあとは通常,動脈硬化に出てくるよ うな脂質の沈着はほとんどがコレステロールエ ステルです。でもLCAT欠損症に関しては,コ レステロールエステルは非常に低いというか, つくられないと言われているので,それが動脈 硬化を進展させない一つの要因と,動脈硬化の 世界では言われていました。今はどうなってい るのかはよく分かりませんが。 座長 ほかにございますでしょうか。それでは, どうもありがとうございました。

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