ハ ム レ ッ ト
日 下 部 正 哉
前論 (弘前大学 「人文社会」第21号,1960)ではハ ム レ ツ 十の感情 の吐露 で あ る独 白を中心に作 品を見,彼 の激情 , 自責 の中か ら彼に一貫す る も の を 求 め.それを彼 の誠実 と純粋真剣 な情愛である とした。 なお其際彼 の感情 と理性 が作 る大 きな振幅,結果を計 る合理性,更に彼 の 目的が世 の歪 みを正す ことに
あ ることを述べ ておいた。
本論 は主に行為 の面 でハ ム レツ 十を見 よ うと思 う。 それは独 白には感情が, 行為には理性が現れ ると思 うか らであ り,独 白と行為,感情 と理性 の両面を併 せ て,ハ ム レ ツ 十の人柄が きま り,作 品の正 しい解釈が成 り立つ と思 うか らで あ る。
ハムレtyトの理性
彼 の理性が継続 した働 きをは っき りと見せてい る箇所 は, まず無い と言 って よいだ ろ う。 併 し,前論 に も触れた よ うに,思考,批評,反省,計 画,効果 の 計 算な どの形で頗繁に現れ てい る。又素早い理解,鋭 い洞察,機 に臨み変に応 じて喚宍す る才気 ,相手 と場合に応 じて彼が駆使す る多様 の意味を持つ含み の 多い言葉 な どは,彼 のす ぐれた知力を表 し,それ も彼 の誠実に基づいて,彼 の 人柄 と一体 の知力 として,人間ハ ム レツ 十の知 の働 きとして現れてい る。
彼は 十ロイ叙事詩に感動 し,暫 くしてのち激 しい 自責 の独 白に入 るが,その あいだ彼 の激情は強 く押え られ て撃ほ ども顔に現れ ない。 それだけでな く,そ の間,彼は ボローニアスに役者達 を扱 う心得を諭 し,亡霊 の言葉 の真偽を 自分 の眼で確かめ る計画を立 て,それに 自分 の言葉 を加 え る構想を立 て,更に役者 に, 『あの男をか らか うな よ』 と親切 な心使いを してや る。 『や っと一人にな
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一F ‑ I I
れた』 と言 うまでの この抑黄銅こ,彼の激情に見合 う彼 の理性 の強 さ を 見 る な ら,彼の 自責 の激情の吐露に感歎す ると同様 に,彼 の腎 性の力に驚歎せずにお れ ないであろ う。 この激 しい独 白その もので も,半ばを過 ぎた処で彼 の反省 と 思考が頭を もたげ ,彼が計画 した夜 の演劇 の意図 と意義が ,ず っと落着いた調子 で述べ られ る。 深い憂宙 の剤に沈 んで,彼がそのまま露 と消え るか と思え る快 悩を吐露す る第一独 白は,父 の急死 と母 の再婚のニ ッの時を正 しく刻み,激 し
く揺れ動 く彼 の感唐 のその裏を理知 の見事 な線が貫ぬいてい る。 この独 白の終 りに, 『不吉な ことだ , よい結果になる筈はない』 とい う言葉が あ って,彼 の 理知が彼 の意識 の表に現れ て くる。
この激情 と,それに見合 う強い理性 は,ノ\ム レッ 十の長所 である。併 し前論 に論 じた様 に ,又上 の例で明 らか な様 に ,彼の内の このこ ツの長所 は調和 した形 で外に現れ ないで,その間にずれがある。 そ して感情は理性を麻捧 させ ること な く,理性が感情を冷却す ることが ないか ら,彼は このニ ッの大 きな振 幅の内 を揺れ動いて苦 しむ。之は彼 の様 な人柄 の宿命である。 この不調和が,後述す る様 に,彼 の運命をつ くる。 ホVイシ ョウで も,王子 と同 じ条件 の下に置かれ た ら,同様 の激動 の苦を体験 しただろ う。ハ ム レッ トが彼 よ り大 き く見え るの は,主役 とい うことや身分 よ りも, この激動 の中で前進をやめず 自己を練上げ てゆ く,その人間の成長にある。
この理性 の働 きには‑ ツの特徴が あ り,それは国外追放 の時迄一貫 して存続 す る。 効果を計 り結果を考え過 ぎることである。 例えは ,生か死か ,の問題で, 彼 の思考が死後 の煩いに迄及ぶのは このせいであ り,又『この様 に して意識が我 々全てを臆病者にす るのだ』 とい う 「意識」 は結果を計 る理性 である。王をた めす演劇は彼 の理性がた てた計画であ るが,それ も効 果を計 る処か ら生れ,演 劇で真実を確認す る迄始終王を彼が刺戟挑発す るの も,後述す る様 に,効果を 計算 しての ことである。祈 る王を見逃す の もそのせいである。 上述 の第一独 白 の慎悩 の中で も最後は結果を考え るのである。併 し劇 中劇 の王は 『考え るのは 我 々だが結果は別 の ところで起 る』(3・2・223)と言 う。 そ して ハ ム レツ 十が
「結果を思い煩いす ぎる」(4.4.41)と 反省す るのは 離郷 直前 である。彼が
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= 一▼≡.物
効果結果主義を捨て る ことは 「運命」 を知 ることであ り,知 ることに よって運 命の上位に立つ ことである。併 し彼 の結果主義は既 にほ ぐし得ぬ死 の運命の糸 を彼に よっていた のである。 後述す る様 に彼は効果を計 って伴狂 した。 同 じく 効果を計算 して伴狂 の テス 十に オ フ ィー リアの愛を利用 した。 これが ボ ローニ アスの人柄 と結 んで彼 の刺殺に到 り, レアチ ーズの復讐,愛人の狂気を導 くの である。
今第一幕 の第‑独 白 と,上述 の演劇計画を述 べ る独 白を,理性を 中心に して 比べ る と,彼 の理性は後者に遥かには っき り現れてい る。 中心を感情 に置 いて 見 る と,前者は激 しく人を責 め,後者は激 しく自分を責 める。 この変化の間に は,彼に於 け る最 初の転期が潜 んでい ること,そ してその 自責 も彼 の理性 の働 らきか ら由来す ること,が次項以下 で 自ら明かにな るであろ う。
ハ ム レッ 十は拝情 の独 白だけで十分悲劇的であ る。併 し彼を悲劇 の主人公に す る主要素は彼 の行為 である。 その行為 の主特徴 は彼 の理性 である。感情 は常 に未知数を残す。彼 の感情 に惑わ され,その未知数が重 な ると,得体 の知れぬ 人間像が出来 る。我 々は彼 の内に理性を見落 してはな らない。激 しい感情 と強 い理性,彼 は感情 に於 て20才り青年であ り,理性に於て30才の大人である。 そ
こにハ ム レツ 十の本当 の姿が ある様 に思 う。
ハム レッ トの オナー 〔名誉〕
ホ レイシ ョウの言葉 , 「心 の眼を痛 める吠」(1,1.112) 「最後 の審 判 の 日 を迎 えた様 に」(120)か ら 「翼 振 る天使の群が」(5・2.371)まで, キ リス 十 教信仰 の吉葉が, この作 に無数にある。 中で も第一独 白で寺院法を犯 した母 の 罪を悩む王子 の苦 しみは深刻 で真実である。その深い傷は寝室の場 まで彼 の心 の中に生 々 しく口を開いてお り,尼寺 の場で イープの原罪 の欺 き と な っ て 現 れ,又 自分を神の前に罪人 として,甚だ倣鰻 で,執念深 く,野 山強 き 男 と 言 う 。又亡霊は聖餐礼 も塗油式 も受けず哉 され,生 前の罪業を煉獄 の責苦 で磨 っ てい る と語 る。 ハ ム レ ツ 十がそれ を真実 に受坂 ってい ることは,祈 る王を見逃 す時の彼の言葉 に照 らして明白である。
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併 し/\ム レ ツ Tlの第一独 白冒頭での肉体の汚れ の嫌悪には,従 って原罪の欺 きに も, 自然 に よ って結ばれ てい る骨 肉の繋が りが含 まれ てい る。 それ は リア が リーガ ンに 『お前はわ しの血,肉,わ しの娘だ。いや この肉に潜む病だ・‑‑
‑」(2,4,224)と言 うの と同 じものであ る。 自 分 自身 の人生体験 に基 いて, 死後 の世界は未知 と言い,死ぬ時は神 の慈悲を祈 るでな く 「あ とは沈黙」 と言 う。骨 肉の歎 きゃ恨み,不実 な人間の侮蔑 ,更に復讐の堅い意志は随所 に見 ら れ るが,彼が神に祈 る姿は何処に もない。彼は彼 の苦 しい人生で 自己を離れ る● ■ ことな く,死ぬ まで 自己を立 て貫いてい る● ● 。 デ ンマー ク王の臥所を近親 相姦 の 情欲の寝床に してはな らぬ (1.5.82)と言 う亡霊 の言葉 には,王家 と国の名誉● ● が含 まれ てお り.秘密の真相を明かす時 の呼懸け 「汝高貴 な る青年 よ」(38) は直接復讐の期待 と繋が ってお り, 「高貴 な る」 は我子が骨 肉の繁 りと名誉を●●
重 んず ることを知 ってい る父 の言葉であ る。子は父をハ イピー リオ ン, ジ ョー ブ英人, として尊敬 してい る。又 ホ レイシ ョウも.チ ャー ミア ンの様 に,ハ ム レッ Tlの死 に殉 じよ うとす るのであ るO此の作 の基調 は異教倫理 の.心 情 で あ る。基督教信仰は,謂は観念 として働いてい るにす ぎない。 そ してハ ム レ ツ Tl の理性は アキナスの神 の光 ,神 の知 に通 じるのではな く,人倫 の理性,名誉 と不 可分の理性であ ることが判 る。祈 りの場の彼 の残酷な心情 もこの観点か ら理解 されねばな らぬ,死ぬ時 の彼 の願いは神 の許にあ る魂 の永生ではな く,死後に 誉れ の名を残す ことである。 この心情 の消足は ブル ータスの死 出 ±,5・
5・24‑60)に明 らかである。
第‑独 白の欺 きには,宗教 と人倫 のニ ッの悩みが とけ合 ってい る。 「バ ル カ ンの鍛治場」(3・2・89)とい う言葉,又 ボ ローニアスの「国王には忠誠 を 神 に は魂を捧げ る者」,又 モ ー了の崇高 な言葉 「第一に神 の僕次に王 の僕」 に伺わ れ る様 に,時代が誠実 名誉 と敬塵篤信の調和を保 っていて,魂 の救済を神に求 め る信仰 と人間 として名を惜む人倫 のニ ッの価値体系が調和 していた時代であ る。若 し王子に, 「この美 しく頭上 にひ ろが る蒼守」(2.2.312)の下 で,人 間を 「その行い天使に似た るもの」 と見つずけ ることが許 され ていた ら,彼 の 名誉 と篤信 の調和は破れず,恐 ら く彼 の願 いであ り,其為 に文武を練 って来た
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と思われ る, 「美 しい国」 の実現を成就 し,彼はその国を飾 る 「バ ラの花」 と して気高い生涯を終えたであろ う。 しか し運 命はそれ を妨げ,亡霊 の話を聞 く に及んで,彼は人間に絶望 し人生に幻滅 した のであ る。亡霊 との対面 を境に し て,誠実 名誉 と敬慶篤信 の間の調和が破れ.以後信仰は観念 として働 くものに な り,彼 の独 白 も行為 も,彼 の誠実 名誉の気質心情 に英す るもの とな る。
名誉は誠実 をその質 として初めて兵に存在す る。誠実は 自然 の情 に従い人倫 の理 を守 ることである。 父母に何んな欠点が あろ うと敬愛を捧げ て孝順であ り , 自分が愛 し敬 う人 に生涯変 らぬ誠 を貫 き,虚偽を嫌い,恥を知 り,如何な る ときも堂 々所信を述べ ,且つ行 うことであ る。 (この親子 の自然 を逆手に使 っ て 自己の野心 の手段に した のほ エ ドマ ン ドと, リアの二人 の娘である。) それ は勇気 あるJbの美徳であ り人生の経験 に於 て自己を確立す る力である。 これは 封建 の儒教倫理に よって,今 日もなお 日本人 の気質に生 きてい るものである。
名誉は, この様 に して鍛え上げた 自己の,人間 としての価値 を,その真価に於 て世人 の前に英揮す ることであ り,且つ その真価に対 して世人か ら受け る尊敬 と名声であ る。誠実 も名誉 も,肉体的生命以上に大切 な 自己の生命であ る。 そ れは人倫に基 いて国,社会 の秩序美風を支え る力であ る。 名誉はモ ール ドンの 詩 に歌 う老執事 の誠実 ,剛勇,恥を知 る心であ り,王子が遠征 の フォ ーテ ンブ ラスを評 して 「神 々 しい野心」 と名付け るものであ るが,それは 日常生活 の全 てにモ ラル として重大な意義を持つ。 ボローニアスが下僕に, 『息子を不名誉 にす る様 な無茶は言 ってはな らぬ』 と注意す るのは,彼 の本当 のJbを言 ってい る。娘 の誠実 名誉は父 の敬愛 と淑徳であ る。妻 のそれは何 よ りも天へ の貞節 であ る。父に誠実 な恋人を王子が厳 しく責 め るのは ,識 らず して行 ってい る団が名誉 に反す るか らである。母 を慨 くのは,宗教上 の技 と同 じく,後述す る様 に,母が 名誉に外れ てい るか らであ る。彼が王を責 め,又 自責す る ときの下郎,百姓奴 隷 ,無頼 の徒 ,等 々は身分卑 しく教養な く,人倫を外れ て恥を知 らぬ者を指 して い る。彼が小 さな汚点‑ ツで全 ての美徳が世人 の眼に失われ る (1.4.15以下) と言 うのは,個人や国の名巻 を尊 ぶ心である。彼 の仕事はデ ンマークの人倫 の 乱れを正 し,名誉 の国に返す ことであ る。
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基督教 は汝 の敵を愛せ と言 う。 名を重んず る異教倫理は復讐,決斗を名誉 と す る。 但 し敵 の名誉は これを正 しく認め重んず る。誠実 名書を炊 き,恥を知 ら ぬ敵は極度の侮蔑 を もって これを乾す。基督教は神 と人間の交 りを説 く。異教倫 理は人間 と人間の誠実 なる交 りを薦め る。 それは恋愛 と境を分たぬ友情,所謂 刻頚の交 りである。ホ レイシ ョウは劇の人物 として,又ハ ムレ ッ トに対 して,壁 か超然 としてい る様 に見え る。彼は最 も必要な時に最 も適切 な ことを簡潔に言 う人である。 二人の交 りは一言一瞥で事足 りるのである。王子は性格.知力, 教養,勇気全て優れた人であ る。 余計な忠告出者張 りは無用であ る。 じっと控 えて真剣に王子を見守 ってい る。王子 が彼の 「誠実公正 な」(3.2.59)人 柄 を讃 えて多言を費す とき,彼は意外な面持ちでい る。 そ して王子 の死に殉 ず る 人である。 これはノ、ム レッ トが誠実な人であ った とい うことである0(誠実に よ って交 りに信頼が生れ るのだか ら,庶民の上に立つ王者が誠実であ って こそ美 しい国が生れ る)。 そ して悲運 の王子は 自分 の名誉を彼 の手に託す。作者は こ
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こに美徳 の交 りを描いてい るのであるO ホ レイシ ョウは劇 の人物 として,王子 を無言で支え,且つ作 品の意義を鮮明 してい るのであ る。
『前 を 遮 ぎってや る,呪を受けてもか まわぬ』 (1.2.127)と言 うホ レイ シ ョウは真の勇気 のある人であ る。 その彼が最初に亡霊を見たその後で 「震え 青 ざめてい る」 (53)。ハ ム レッ トも 『その ものが気高い父 の姿を仮 りていた ら 話 しかけてや る,地獄が 口をあけて黙れ と叫ぼ うとも』 (1.2.244)と 言い, 亡霊に会 った後は陽気 である。 尤 も寝室の場に明 らかな様 に対面 のあいだ 中, 彼 の眼は異様に輝 き髪 は逆立 っていたであろ うが。併 し之等は特に彼 の勇気を 示す ものではない。 それは寧 ろ自分の 「生命を ピン一本 の値打に も思 っていな い」(1.5.65)深い憂欝 と, 『僕の運命が大声で呼んでい るのだ』(81)とい う期待か ら生れ て くるものである。『邪魔だてす ると亡霊にす るぞ』 も同断であ る。此 の場 の彼 の勇気は ,祈 りの場に照 らして明 らかな様に,彼が亡霊 の一言一 句を確 りと聴 き止めてい る沈勇にある。 亡霊は『復讐 の覚悟十分 と見た』 (31) と言 う。我子を知 る父は ,息子 の意志 と勇気 と手練を認 めてい るのである。フ ォ
ーテ ンブラスは 「葦膏 なまだ若葉 の王子』 (4.4.48)であ り,又彼 の終 幕の吉
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葉か らみれば,ハ ム レ ツ 十の武名は近国に聞えていた様 であ る。 スパ イ達 に 自 分 の秘密 の板 の深 さを暗示す る言葉を始終吐 くのは,壬を刺戟 挑発 し,不安を 暮 らせ,神経 を苛立たせ る計算 であろ うが.敵 の前に 自分を投げ出 した 大 胆 さが見 える。 父王 の武威は遠国に まで響いた。 墓掘人 もそれが 自慢 で あ る 。 ハ ム レ ッ 十は レアチ ‑ズ出英後即ち亡霊対面 の時か ら,再び武を練 っ て い る (5.2.221)。仇 討 のた め と共に ,寧 ろそれ以上に, もともとか らの心得,即 ち王者 の資格 として。 リアが国王の資格を見せ る最後の行為は牢獄 内で士官を 締着す勇気 であ る。
王はハ ム レッ 十が国民に愛 され てい ることを四幕で二度言 ってい る (3・4;
7・18)。墓掘人 も 『どんな阿呆で も知 ってまさあ。ハ ムレツ 十王子が産れなさ った 日だか らね』と言 ってい る。/\ム レッ 十も国民 の愛を知 っていて,文武に励 ち,美 しき国の実現を期 していたであろ う。 オ フィー リアが ,ほん とに高貴 な お心.宮廷人,武人,学者 の鑑.あの気高 くて類い無 く御立派な 理 性 (3・1・ 158以下) と言 うのほ彼女だけがそ う思 うのでは あるまい。誠実.文武.理性, 高貴は全 て名誉 の,従 って王者に不可欠な,美徳である。
ハムレッ トの幻滅
一幕‑場は質問形が多 く,慌 しい軍備,亡霊 の二度 の出現な ど,闇の中に疑 い,怖れ,不安定な気分が添 ってい る。二場 の国務会議 では,王は王子 の柔順 を切 望 し,王子は王子で母に恨 み と欺 きを訴 えて父生前の母 ,今は幻 と化 した 十倍 も母 らしい母 を慕 う。 第一独 白は一見断定的であるが実は内に現実 の もの の価値に就 ての強 い疑 いを含 んでい る。亡霊に就 ての矢継 ぎ早 の質 問には期待 と焦 りが顔を覗かせてい る。 全 てが,現実を不安定に揺 り動か してい る。
その中で慎悩 の王子を,亡霊対面 の王子に結ぶ条が第一独 白に用意 されてい る。 その‑ ツは母 の肉の惑溺 の欺 き(144),父 と伯父 の問の落差(140),近親 相姦 の歓 き(157)の,内に閉 ざされた慎悩が ,亡霊 の言葉 と一致 してい ることで あ る.従 って陸劣 な伯父 に就 て王子 の胸 に 自然 に起 る疑惑が,対面 の場 の 『何 か あると感 じた通 りだ』に通ず ることにな る。 ただ, この感応には,その根抵
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に,王子が父母に捧げ る誠実 の敬慕,運 命が呼ぶ声,が貫いてい るのであ る。
亡 き親を慕 う源九郎狐が静が うつ小鼓 の鳴 りに惹かれ寄 る心板 である。次は,
「誰に も言えぬ」 (159)閉 された心 の悶えか ら,二場最後の 『武装 した父 の霊 /‑。何か怪 しか らぬ秘密が あるな。 ‑怪 しか らぬ所業が明 るみに出 るぞ,大 地が覆い隠そ うとも。 』 と外に向 って開 き動 く,王子 の心の変化である。
この様 な心の慎悩 と変化を内に含み,強 い期待を抱いて,王子は雲間洩 る月 影 の夜陰の中で一人亡霊 と吉葉を交す。 明 るい嘘 中の版かな王 の祝 宴 を 背 景 に,彼は其処で真実を知 る。王の歓 楽 は非 道 な犯 罪 の上に成 立 ってい る現実 である。 高貴 な王子は,今初めて現実 とその 裏 面を, 比 の人生 の二面の事実 として知 った のであ る。 自&JLを願 い女 の性を怨み,此 の世 を雑草の生い茂 る庭 と見た慎悩は,まだ,彼が足を現実に置 く情感,主観 の情緒 の悩みであ った。
今彼は現実の裏側拍こ立ち,そ こか ら逆に現実を見 る人にな った。現実を不安定 に揺 り動か していた ものの世界に立 った のである。 それは立派な王を殺 し.や がて美 しい 「五 月のバ ラ」(4.5.157)を散 らし,又優 しい母を 「惨 めな妃」
(5.2.344)に し,美 しい現実を破壊 した世界である。母 の罪 と堕落の慎悩は彼 が現実 の裏 を知 る幻滅に通 じていた ので ある。その幻滅の中で ,尚彼を支 え るも のは彼 の名誉感 であ る.実に,私は彼 の心身 のエネ/レギ ‑の強 さに感歓せずに おれ ない.それは彼 の感情 と理性 との大 きな振幅の関係に就 て も同様 である。
以後,彼は王 の巧みな仮面 の裏 の真実を衝 いて,絶えず王を挑発す る。慎悩 期 の,冷い軽蔑 の,反抗期 は過 ぎた。誠実は一万人に一人,頭上に拡が る美 しい 蒼考は毒気 の凝 り固 り,天使に似 ていた人間は実は唯 の塵塊に過 ぎぬ 。オ フィー リアを田に使 う男が居れ ば,一方女 はお化けの粧いに余念がない。女が この世 で誠実を通すには.尼寺に行 く他ない。男 も女 も自分を喜ば さぬ と言 う彼の吉 葉 仁は.幻滅を見つめてい る人 の警告の響 きが きこえ る。(キ‑ツがノ\ム レツ 十
と同 C,b情だ と言い, 『僕は男を憎む,女を一層憎む』 とファニ ‑に書 き送 っ た手紙には, まだ第一独白 と同 じく現実に足を置 く人 の人生執着が見え るので はないだ ろ うか。)此の幻滅か ら,ノ\ム レツ 十の矛盾 と見え るものの多 くが生れ る。愛情 に不似合な彼 の辛妹,温容 と皮肉,誠実 と孤絶,勇気 と沈痛,寛容 と
酷烈 な ど。之等は仇討主義 の解釈か らは出て来 ない ものであ る。
ボローニアスや オズ リックは滑稽である。 しか し専 門の道化が,事 もなげに 次 々 と頭蓋骨を地上に掘 り上げ乍 ら人生 の無を歌 うとき,我 々の笑いは寒 々 と して消えるのではないか。彼は死か ら生を見てい るのであ る。沙翁の道化は人 生 の価値を裏返 え して見せ る。併 しこの墓掘 りの様 な道化は他にな い で あ ろ う。王子は地上に転が り出 る頭蓋骨を見 て 『それを見 て とるこつ を心得 ておれ■ ● ば今眼の前に運 命 の転変をあ りあ りと見て とることが出来 る。』 と言 う。彼が 嘗 て化粧 の愚を説 き,国王 の乞食の臓 内巡行論をや り,又独 白の中で敗者の善 が勝者 の悪 に侍 る (ソネット,66)世 の姿 を思 った のは,幻滅か ら現実を批判 し ,その批判 を現実 の人生にぶ っつけた のである。 今場墓 で彼が権謀術数 の策士 .廷 臣の阿 ゆ.貴人 の括 り,弁護士 の利欲 の空 しぎを言い,ア レキサ ンダ ー酒 樽栓 の論 を立 て, ヨ リックの頭蓋骨を手 に して‑吋 白粉を塗 って も, とどのつ ま りは比の顔だ と貴婦人 に教 えてやれ と言 う言葉 は,非情 の風に消 えて行 く。
人生 の苦 しい体験 を重ねて人生 の幻滅に徹 し,終に飛躍 して幻滅を放下 し仏教 的な大悟 の境地に今彼は立 ってい るのである。 7 レキサ ンダ ーの論 に対 し. 『 その様 に考え るのは,考 えす ぎで しょ う』 と言 うホ レイシ ョウと,彼 との違い であ る. 道化は 『川が人 間に近付いて溺死 させた ら入水ぢ ゃない。然れば 自業 の罪なき者は己の命を縮 めぬのぢ ゃ』 と言 う。運 命がハ ムレ ッ トに近づ き彼を 殺 して も,精一杯に彼 の道を進 んだハ ムV ッ 十の生命は,それに よ って死ぬ こ とはないであろ う。 『今警 ら く死 の幸福を遠 慮 して くれ給え,苦 しいだろ うが この苛酷 な世に息をつずけて』 とい う友情 の情味深い言葉 も. 『あ とは沈黙』 ち.ハ ムレ ッ トを幻滅に据 えて理解 され得 る言葉であ る。
彼は 『「様子」 な ど関知 しませ ん』(1.2.76)で彼の誠実を初めて 我 々 に 見せ,母の喪服は偽 りであ った と恨み責 め る気持 ちを表す。亡霊は 「実に美徳 然た る顔 の妃」(5.46)と言 う。王は 「柔和 な裸 を した悪党』 (5.108)で あ る。実に比の作には影 と実体, 肉 と心,仮相 と実相の対比が無数に あ る。仮相 の世界は形の.感覚の世界, また流行む ら気 の世界 であ り,視点や噂好に従 っ て,又夫 自身 .様 々に変化す る世界であ る。‑ ツの雲の形が 〔砂漠 を重い荷を
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運 んでゆ く〕終駅 で も, 〔臭 くて放 くて こそ こそ していて残忍 な〕朗 で も, 〔 荘 々た る大海 を溝‑tす る〕鯨で もある世界 であ る。 これをボ ローニアスに設 問 す る幻滅の人は当に禅僧の如 く見 え る。 流転の裡を観ぜず してその 相 に 囚 わ れ,仮 象に執す る人 々に野心、欺隔術数はつ きものである。幻滅の王子には言葉 共助 も仮相にす ぎない (2.2.194,614;4.6.26)。 併 し彼 自身狂気 を装い, 為に恋人 を誤 り,仮相に欺かれ抜いた剣を鞘に納 め,復讐 の好機 を失 う。 この 作 は仮相 と実相が その生地 であ り,その両者を誠実の線で分ち,そ こに王子の 幻滅を据 えた作品であ る。仮装 と本体の関係は,早 くか ら手法 として も用い ら れ てお り,沙翁の作 の‑ ツの特徴 であ る。 そ もそ もハ ム レツ 十誕生の地盤は こ
うした処に あ るのではないだ ろ うか。
ハ ム レ ッ 十は上掲 の 「様子」 や, 「父 を見 る様 に思 う●●」(1.2.134)か ら 「 は っき り見たかね ?● ● 」(3.2.298),『僕は貴方の意図を見抜 くチ ェラブを見てい る』(4・3・50),そ して上掲 の 「それを見て とるコツ)●● ●● (5.1.99)へ ,彼の人 生体験 を通 して進 んで行 くのである。
物事を一般化 し法則化 して表す ことは王 もボ ローニアス も盛 んに行 う。彼等 のそ うした表現 こそ皮難 さるべ きであ る。誠実を欠いてい るか らであ る。処が ハ ム レ ッ トの 『脆 きもの,汝 の名は女だ !』 の叫びは彼の肺肺 を絞 る坤 きであ る。 それは突然破れた彼 の理想 と,彼 の誠実が英す る坤 きであ る。 この世 を天 国の如 く人間を天使の如 く見 敬慕す る父母を最高天使 と見て来た。彼は美 し い国を作 る理想 と希望に燃 えていた。 子が父母に捧げ る誠実は何時で も命を も って我が父母の恥を雪 ぐものである。 それは Vアチ ーズを見て もわか るであろ うし,オ フ ィー リアの狂気 の原因の一半は父 の理 由不明の死にあ る。処が突然母 が獣の性を現わ し,母の方か ら誠実の愛を絶ち切 ったのであ る。 彼が今迄生 き て来た美 しい人生 と誠実 を突然覆え した母である。裏返 えされた母は裏返え さ れた彼の人生,雑草が生い茂 る庭であ り,裏返 えされた る女性,その脆 きさが●●
で ある。 この欺 きは形而上的普遍化で も憂欝 の誇大で も激情 の飛躍 で も彼の不 合理で もない。其処に見 るべ きは,寧 ろ全 てに徹底す る誠実であ る。更に幻滅 に落ちて以後は,現実の裏か ら現実を見 る彼に普遍的表現の形を とる言葉が 多
くなるのは当然である。
世 直 し
父 の亡霊に対面 した直後の王子 の 「混乱 した頭」は,父の煉獄 の苦 と現実 の 晒劣な裏面,今迄の彼には想像 も出来ぬ そ うした事実 を.初めて知 った異常 な 衝撃か ら来 る混乱である。 併 しこの対面に よ り.彼は 自分 の人生に責任 と目的 を持 った。 今迄無価値に思 った命が今大切 な命にな った。彼は憂夢 の谷底 の重 い闇か ら今陽光の丘に立 ったのである。闇を離れた とき,眼前には嘗 ての美 し い人生ではな く幻滅の砂漠が広が っていたけれ ど,彼はそれ を貰ぬ く自分の進 む遠をそ こに見出 したのであ る。これは彼 の第一転期である。その心 の弾みが 『 地獄 も一枚加え よ うか ?』とな る。 この喜びは,床下亡霊の場に続 き,そ こで は っき り現れ る。 (今‑ ツ彼が浮 々す る箇所が あ る。劇中劇 のあ とであ る。 こ れは第二転期である。 之等ニ ッの転期は更に平原の場 の第三転期へ と続 き,之 等は亡霊対面を起点 として彼 の生涯 を貫 く同 じ一本の線上に ある。)仇討は.父 の亡霊の命令 と彼の名誉感が誠実 な彼に課す る,当然 の義務であ る。とけて露 と なれ と言 った身体に,今は 『この筋肉 よ,他愛な くよぼ よぼにな らないで ,確 か りし ゃん としていて くれ』 と言い,王 を 「に こに こ顔 を していて,正体は下 衆下郎だ」 とは っき り評定す る。 誠実激 情意志 名誉感 に駆 られ て直 ぐに も仇討 に出かけそ うな勢いである。処が此の場 を結ぶ彼 の言葉 は, 『世 の中ががたが たに狂 ってい る。 ああ何 とい う悪因縁だ, この世 に生れて来てそれを正す巡 り 合せ とほ ./』であ る。 彼 の第一転期 の この言葉には もっと多 くの注意が注がれ て よい。 なぜ 「世 の中」 なのか。裏返えされた王は王子 の裏返えされた人生で あ り裏返え された男性 である。次に これ は‑家庭内の歪みではな く王宮 の堕落 である。 国王 の堕落は附属す る多 くの小 さい ものの堕落を伴い, 「国王 の溜息
‑ ツは全国民 の坤 き」(3.3.23)になる。王子は現に, 『父 の生前には伯父に 壁面を しかね ない連 中が今では伯父 の小型絵に大金を惜 しまない』(2・2・381) 有様 を 目に してい る。即ち,王宮の腐敗は直接国民 の腐敗に繋が り,それ 自身 デンマ‑ク国の腐敗であるか らである。 その腐敗 を直す運命を背負 うた ことが
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なぜ 「悪因縁」 なのか。第一に彼は この運命 の醸成に全然無 関係であ り,彼は 完全な被害者であるか らである。 次 に,彼 の名誉感は宮廷の腐敗 を直 し世 の歪 みを正す ことを彼 の当然 の義務 とす るが,今迄人生 を美 し く高貴 な ものに思い 育 て られた貴公子 の背 には,背負い切れ ない重荷だ とい う意識或は 自覚が働い てい るか らであ る。 彼は第一独 白で真剣な気持で父 と伯父 をノ、イ ピー リオ ンと サクーで比べ,それ を更にノ、‑キ ュ リーズ と彼 自身 の差 で表 した。 この英雄は 文武に長け難難栄光 の人生行路を選び,12の大業 を遂 げて, この世か ら人間を 害 し自然 の道に背 く悪 を滅 し,その努力を人類 のた めに捧げた神である (彼が 野卑 なセソ トーの企みにおち毒 のついた下表で死ぬ のは暗示的である)。 今共 通 の仕事 を前に して,彼は此の英雄神 と自分 を比べ てい るのである。 彼 の責任 を避 け るのな ら上 の欺 きはない。 この欺 きは 自分 の卑小を 自覚 して 尚内か ら彼 を推 し進 め る名誉 の道を歩む意志 を彼が持 ってい るか ら起 るのであ る。 ただ王 を刺 して仇を報ず るだけな ら此の作に見 る武勇 の王子には容易い仕事である。
名誉は 自己の名を惜 しみ家 名を尊び大義名分を重んず る。感情 に促 された復讐 は,正義 を頭 に戴いて も, レアチ ーズの様 に名誉に障 り,又 国を考えず群集 を 煽動す る軽挙に陥 る。 名誉は理性が伴 って初 めて兵 の名誉になる。 卑怯 な手段 は勿論許 され ない。先づ母 の悔悟 な くして家 名の挽 回はない。次 に事 の異相は 世人は知 らない。 これ は初めか ら世人にその大義 名分が通 ってい る曾 我 物 語 や忠臣蔵ではない。更に彼 の理性は,彼 の名誉 のた めに秘 密 の真偽を確 め るこ と を要 求 す る。 その上彼に寄せ る国民 の愛は彼 は当然知 ってい る筈であ り, 仇討に よって廷臣に動揺を起 し,国民に疑惑を残 し,更に国内の乱れを誘致す るよ うな ことが あ ってはな らない。 これ は単 な る家庭悲劇ではない。彼 と王家 と国 家 の名 誉 が かか ってい る大問題である。 煉獄 の苦が魂に泌みてい るせい か,頻 りに復讐を求め急 ぐ亡霊 との違いが ここにあ る。 ここに前代未 聞の新 し いノ、ムレ ッ トが生れた のである。 強 い理性 と名善感が,折に触れ て激す る彼 の 感情 を確か り押 え るノ、ムレ ッ トである。 仇討 の遅延 は ここか ら起 り,激 しい 自 責 もそ こか ら起 る。亡霊対面後二 ケ月余真相 を 自分 の眼で確 め るまで,彼 は疑
うのでな く周囲の凡ゆ るものを見,批判 し,計 り,考え乍 ら目的に向 って誠実
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の一路 を進んで行 くのであ る。彼 の思考は疑いに終 るのでな く,覚悟に通 じて い るのであ る。
独 白,行為 を通 じて誠実が/、ムレ ッ トの性格 の基本であ る。彼 は地位財産 を 超 えて,人をその人 間の価値に於 て過 し,交 っては魂 の交 りを求め る。地位財 産 は容易 に従者追従 者を作 るが.彼等は劇 中劇 の王が言 う離合集散定めなき徒 輩 であ り.他方彼等は/\ムレ ッ トが言 う 「海綿」(4.2.22)であ る。彼 が こ の語 を向け る狂言娼 しの二人 のス/くイは,彼に 「野心」 とい う言葉を向け る.
/、ムレ ッ トは亡霊対面直後友人達 に, 「/、ムレ ッ トの様 な貧 しい男」 と言 う が ,これは人生 の充実 した希望を失 って幻滅に立 ってい る自分を言 ってお り,彼 が彼等に報い ると言 うものは 「変 と友情」 ,彼 の恋人へ の贈物 の場合 と同 じく 真心,なのであるO二幕二場で スパ イは,彼 の 「野心が デンマ‑ク国を 尚狭 L と思わせ る」 のだ(258)と彼に言 う。 これ は次期 の国王に指名 されてい乍 ら, それが待 ち切れ ないでい るとい うことの碗 曲な表現であ り,彼は これ を踏 まえ て,彼等の最後の探 りを, 『草が のび るのを待 って るまに』 (3.2.358)と 巧 みにあ しら う.上 の 「野心」 には彼 の乞食論が続 く。即 ち貧乏 と乞食は同質で ある.それに対 し上 の野心は異質である.野心には二種 ある.誠実 であ って名 答 を求め る心,上述 した 「神 々しい野心」 であ って,優れた徳 の源である。他 は誠実を離れ, 自己の価値以上 の名誉を求め る野望である。 王 とこの二人 のス パ イの野心であ る。乞食は貧乏であるが 自分 の価値に応 じて暮 らしてい る。乞 食は よ り高 尚である。だか ら乞食は本体 であ り王は乞食 の影(269)である とい うのである。それは又上述 した乞食 の臓 内巡行論 のある所以である。演劇 を見 て王は怒 り心頭 に英 した。之を見 て.二人 のスパ イは手柄を立つ る は こ の 時 と,今迄 の不実無礼 を知 らぬ顔 で.厚か ま しく 『貴方 の友達 に欺 きの種 をお明 か しなさ らぬ のは 自分で 自分 の憂悶に 出口を塞 ぐ様 な もので す』(3.2.351) と言 う。斯 て作者は誠実 名書 と不誠実野心を徹底的に露わに して見せ る。王子は 皮肉に答えて 「ア ドバ ンス メソ トを欠いてい るか らだ」と言 う。自分達 の野心 の 尺度 で王子を計 る彼等は王位へ の昇進の途が塞がれ てい るとい う意味に とるで あろ う。王子 の方では,王 の犯罪が明 白にな り王 と自分が真正面か ら対決す る
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時期に入 った のだか ら, も うお前連 が スパ イで昇進す る時期はす ぎた のだ とい う皮 肉 と,王 の犯罪が確定 した今名誉の仇討 を遂 げ る途 をあれ これ思案 してい るところだ ,とい う意味である。一幕二場 の 「陽に あた りす ぎてい ます」は ,心 の奥 では誠実 の愛を母 の方か ら絶 ち切 られた恨 を言 ってい るであろ うが,王へ の冷たい答 え としてほ王位纂奪を言 ってい る。即ち王は要領 よ く顧 問官会議 の 選挙を工作 し,恥を恥 と思わず,主た る資格 のないその随劣 な品性を持 って位 に即 き,父生前に彼がそのた めに 自分 を練磨 し数 々の希望を抱いて想見 してい た美 しい国の実現を一挙に破壊 した男, 「選挙 と僕 の希望〔複数〕の間に ヒ ョィ .と飛び込んだ奴」(5.2.65)なのである。 以上に よって,王位 とノ\ムレ ッ 十の 間にほ,所謂野心は全然無い ことが明かであろ う。 『とんで もない ,僕 は ク/レミ の殻に入 っていて も自分 を無限世界 の王 と思 うことが 出来 る。』(2.2.260) とい う仮象を離脱 した人 の言葉 を素直にその まま受板 るべ きである。 尚,彼が ホ レイ シ ョウを特に讃 え る処に ア ドバ ンス メン 十の語があ る。 これはその前に
「へつ ら う」 とい う語が あ り,そ してその前に二人 のスパ イが彼 と 一 緒 に 居 た,その関係を逆に辿れ ば語 の由来は明かであろ う。 そ して これが.上述 した 二人 のスパ イに対す る皮 肉な答 え と繁 ってい ることも.明かであろ う。
伴 狂
亡霊対面 のあ と世直 しの悪因縁 を欺 く以前に彼は友人達 に, 「今後気 のふれ た様子 をす る必要が あ ると思 うが」(1・5・171)今迄通 り知 らぬ振 りを してい て くれ と頼むでい る。 も うこの時は彼 の頭 の計算知が働 きを開始 してい るので ある. では どんな数字が並んでい るだ ろ うか。 ホ レイ シ ョウがつい先言 った 「 狂気」, これ は外か ら入 った数字である。 内か らの もの としてほ,王 も廷臣達 も皆が知 ってい る自分 の憂夢 と,つい先 自分が言 った 「混乱 した頭」 ,何故 な ら之等ほ狂気 と隣合せだか ら ;現実仮相 の世に栄え る王 の欺隔術数に対抗 し, 且つそれ を乗 り切 るには必要 な手段 ;この仕事は王宮国家 の名誉がかか ってい る大事業であ り数 日で片付 くものではないか ら,その間胸底に生 々しく傷 口を 開いてい る母 の罪の苦 しみ と,今陥 った幻滅 の苦を気俵 な振舞言動に転 化す る
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ことが 出来 る ;亡 霊の真偽は今の処不明だが.公認 され得 る吉行の 自由を十分 に使 って,世 間の慣 習を外れた言行 を他の人 々に怪 しまれ ることな く,其直 ぐ 王 を刺戟挑発 し,王 を疑惑不安焦燥 にお とし入れ,そ こか ら犯罪の真否を掴 み 得 る可能性が ある ;なおそのた めに,凡ゆ る手段 を採 り用い るのに好都合であ
る,な どである。
これは 「様子」 をす ることであ り芝居 をす ることであ り.ペ テンをつか って 王 を 「鼠落」 にかけ ることである。 ボローニアスが下僕に言 う様 に人生の知英 は多少汚れ な くてほつかない,王 を相手にす る以上/、ムレ ッ十も少 し汚れ ざる を得 ないのである。 誠実 な王子には却 って難か しい。 自信がつ くまでにニ ケ月 余かか った。 そ して先づ その効果をオ フ ィー リアに試みてみた。何故彼女 に。
二人 の愛を利用す るのは彼の誠実 名誉には反す るが.事は王宮国家 の大事で あ る。 それ に彼 のJLには彼女の愛をではないが,一般に女性の愛を軽視す る気持 が働いていたか も知れぬ。次 に父生前か らの二人の愛情 の結びに よって彼女 の 無邪気純真誠実 は判 ってい る,伴狂が失敗 である場合 も彼女 な ら最 も安全であ る。次 に近頃すげない風をす るが これ を狂気 の原因にすれ ば最 も自然 であ り,又 無断聞入 して彼女 の本心をぢかに見て とるこも出来 る。次 に伴狂が彼女に成功 すれば彼女には気 の毒だが.それ も,大義名分に則 って世直 しの仕事を終え, 結 婚 し,美 しい国造 りを始め る,その時 までの辛抱だ とい う計算が働いた と考 えて よいだ ろ う。芝居は迫真 の技を もって大成功だ った。 これは彼 の第一転期 の最初の行動であ る。 これが失敗す るのでは大事の遂行は最初か ら危か しい。
併 し, この時,彼 は 自分 の手 で 自分 の悲運 の種を蒔いたのである。 前を見後を 顧 み る筈の彼 の理性はその計算知が.愛を計路の具 として用 いたか らである。
彼女 を信頼す るが故 に,彼 は彼女の愛に甘えた.寧 ろ協力を求めたのであ る。
それ は この場合に止 ま らない。後述す る様 に演劇 の場 で も同様 であ る0
劇 中劇 の王は,何 らか利をはか る考慮が介入すれ ば愛は最 早愛ではない と言 う。 沙翁は ソネ ッツで,言葉を用いず して心が通い 自他を‑ ツに融合す る愛, 全 てを破壊す る時 や運 命の玩弄物でない愛を歌 ってい る。劇で も早 くか ら愛の 神聖を テーマに してい る。 リア も末娘の愛を蔑 しろに したた め悲劇 の主人公に
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な る。 /、ムレ ッ 十も同 じ理 由で最愛の恋人を狂気に追いや り,死 なせ, 自分 も 死ぬ運 命を作 る。 『誰 で も今の ことは判 ってい ますが,一寸先は闇で御座 い ま す』(4.5.42)は,無邪気 な彼女が身辺 の激変か ら全心をかけて学び と っ た 人生の真理 であ る。 劇 中 目立たぬ乍 ら,彼女の悲劇 は彼女 な りに大 きい ことに 注意 しなけれ ばな らぬ。 この 「闇」 は.劇 中度 々指摘 され る意志,計画, 目的 とその実行,結果 との間の運 命的 なずれ である。純真誠実 な愛を手段道具にす ることは名誉か らもキ リス Tl数的愛か らも,変の冒涜 であ る。
伴 狂は成功 した。王は絶 えず猫疑 と不安に悩む。早速王子の幼友達 を帰 国さ せ王子の心底を採 らせ る(2.2)。 ボ ローニアスも王子の狂気 を信ん じこ ん で
しま った 。
妻を亡 くした此の顧 問官は二人 の子供か ら誠実 な敬愛を受け乍 ら,彼等に心 か らの情愛を注いでい る。 併 し仮相 の現実に術策を誇 り 「我 々知英 と洞察を持 つ者は」 と大得意で下僕 に息子を偵察 させ,娘を団にす る人であ る。 彼 の術策 は 「回 り道 のや り方 で近道を見つけ る」 ことで,下僕 の訓辞に判 る様 に仮面を かぶ り,スパ イをす ることであ る。匠酌こ仕立 てた娘 の手に祈祷書を持たせ て虚偽 の手本をは っき り我 々に見せ るが,それ は彼が権謀術数の哀れ な犠牲 者であ る ことを表 してい る。 権謀術数は本来 国家経輪 の策 であ る。 『私がは っき り 「こ う」 と申 しま して逆 目に 出た ことが御座い ましたか』 と言 うのは彼 の政治家 と しての過去 の実績を言 ってい る。 処が今その範囲を超えて個人対個人の人倫の 領域 にそれを用いてい る。 其処には誠実 も人間の尊重 もない。 「政策,あの不 実漢」(ソネット,124)であ る。 しか も洞察力は既 に欠け,後に哀れ な形骸 を残 してい るだけである。 彼の文芸演劇 の噂み までが そ うであ る。その彼が 尚 自分 を国家の大黒柱 と思い,形骸 の術策を振 って王に忠勤を励む。 そ して遠に俊敏 な術策家の王に唇歯輔車の関係 な どと煽 られ て巧みに利用 され てい る。 旅立つ 息子に説いて聞かせ る,術数の処世道の結び, 「汝 自身に誠実 であれ」 は汝の 権利又は利益に忠実 であれ とい うことである。 「簡潔は知英の精髄」 と言 う彼 自身甚だ鏡舌である。 娘 に よせ る王子の愛は証か しである。 要す るに不誠実 な 彼の行動は空虚な勿体振 り,老槍な周到 と出者張 りであ って,彼の横死は 「白
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業 自得の運 命」(3.4.32)で あ る。 「ええわ しの恵推 量 め ./」(2.1.113) とい う反省 も彼 の誠実を呼び起す機会にな らず ,頭か ら狂気 を信 ん じた彼は ,二 人の スパ イを競争相手に,恋の物狂いの確証の入手に夢 中にな る。 彼 の横死 は ,勿論 それに王子の側か ら働 く力が加わ るが ,彼の性格の必然の帰結である。
他方,それは王子の狂気遠 国 と相侯 って,オ フ ィー リアの狂気水死,誠実 な レ アチ ーズの猛烈 な復讐心 ,そ して王子の死を導 く。伴狂の成功は必然 の径路に於 て恋人の死 と彼 の死に通 じ,世直 しの仕事は彼が想見 していた形 でな く,行わ れ るのである。
/\ム レッ十が不誠実 な相手をあ しら う時 の言葉は難解であ る。 併 し誠実 な人 に対す る時の言葉, 母諌言の時の言葉は難解 でない。難解 とい うことは彼が現 実 の人生で とる伴狂が ,彼の立つ人生の裏 ,幻滅 と直結 してい るところに生れ, それを我 々が現実人生の常識で とらえ ることか ら起 る。 王の秘密を確かめ・るま で王子が用 い る利器は言葉 である。 我 々を王子の幻滅に置 くとき,彼の言葉 に 素晴 らしい理知 の働 らきを見 るであろ う。 例 えば 『僕は北北西に狂 って るだけ だ ;南風になれ は鷹 と青鷺の見分けがつ くさ』(2.2.396)は ,伯父 ‑父 ,伯母 ‑ 母 の人倫の歪 みが純 風に返 るまでの間の僕 の苦悩だ,又は亡霊の話 の真偽 を確 め るまでの間の伴狂だ ,とい う風に。又彼 の行動は計算に基づいてい る。 ボ ロー ニアス刺殺の時 でさえ後述す る様 に,計算に基づいてお り,決 して衝動的でな い。 異常なのは王子の運 命であ って,王子の精神ではない。王子は気がふれた 様 子をす ると言 う。 作者の言葉 を我 々は素直にその通 りに受乗 ることが大切 で あ る。 併 し王に対 し伴狂す る王子は,見物に も,如何に も狂人 らしく見えなけ ればな らぬ 。其処に作者のマジ ックが ある。それは作者のわ ざの見せ処であ る●● 。
それ に魅せ られ て,王子を完全狂気 とか半狂 と考え るのは,我 々を ボローニア スに近 くす ることであ る。
劇 作 晶 ・演 技 論
ここもハ ム レ ツ十の誠実を板抵に置いて見 なけれ ばな らぬ。彼が 「悲恰 な‑
くだ り」 と言 う十ロイ落城の叙事詩 を 中に含む作品に就 て, 「気板 りがな く」
「自然に備わ る美 しさ」 をはめ ,「内容 を真率に表す表現法」 と評 してい るが,
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ここでは誇張 を特に問題に してはいない。続 いて叙事詩が始 まる。 詩が物語 の 筋を離れ 「運 命」云 々の感慨になると,突然 ボローニアスが 『これは長過 ぎる
』 と言 う。彼には この生 きた倭恰 な絵巻は感動を与えないのである。彼は筋 と 用語 を吟味鑑定 してい るか らである。感動が あれは詩が長す ぎるとい うことは ないだ ろ う。 これは梶本には聞 く人の側の誠実の有無 である。 凡そ一 国の滅亡 はそれだけで十分悲恰である。 沙翁は恐 らく青少年期に トロイ落城の物語 に感 動 した であろ う。 その感動 を この挿入詩に見 よ うとしないで,唯 マ‑ロウ抑捻 ,ナ ッシュ訂正云 々の説 で済 ませ るのは沙翁を単 なる才子にす るものであろ う
。 この叙事詩が王子に与えた感動は続 く独 白に明 らかであ る。 彼が演劇 を 「王 の急所 に探針を入れ る」決 め手に使 うの も,その感動の故 である。愈 々演劇 を 行 うに当 って彼は叙事詩 を朗話 した時の俳優の情熱が心配にな った.高い教養 で育 った ものには激情 を 「自然 の節度」 の中で表 して,初 めて心に泌む もの と 彼は考えてい るのであ る。 彼が誇張 を戒め るのは , この舞台上 の演掛 こ就 てで あ り. 特に彼は彼が挿入 した部分 を考えてい る。誇張 の演技は 目や耳 を捕 え る が心を とらえない。仮相に流れ て実体を喪失す る。誇張 の戒 めは単に彼の演技 論 でな く,その中に彼の祈 る願 いが込 め られ てい る。
オフ ィー リ7の国役
今迄彼の逸 る心を押えて来た彼 の理 性 が 愈 々彼 の進 路を決定 しよ うとす る 時に当 って,彼に 自分の生 き方即ち敷難 名誉の道に就 て思考 させ る。情緒の勝 った第一独 白に比べ これは内容が遥かに具体的現実的 であ る。 怖 しい破暴力 と して作者が ソネ ッ 十に も劇に も用いてい る海 をイ メヂに して,獲 ない海 の波 と 寄せ くる人生の煩いに敢然 と挑むか , とい う処に王子の死 を賭けた前進 の決意 を読み とることが 出来 るであろ う (尚特別 の条件 な しにAorB?と自分に問 題を置 くとき,Bに心理的重点が あるのが普通 であろ う)。従 ってす ぐ死に裁 ての思考がつづ く。彼が死後の 「障 り」 と言 うのは比の人生 と同 じく死後の世 界に も幻滅が あることを気 に してい るのである。 併 し彼は現 に幻滅 を踏 まえて 前進 してい るのである。だか らこれは形而上的思考で も懐疑不決断の迷いで も
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ない。「旅人」 とい う言葉が あ る。 これは 『人間は何 とい う傑作だ./』 と同 じ くル ネサ ンス精神を奏 し,未知の世界への探険者を内容 に持 ってい る (更に我 々全てが旅人である)。彼が理性 に よって 自分の モ ラルを確認 してい るとき, 彼の理性が その真偽 を疑 う 「亡霊」 を この 「旅人」 と結び合せて考え ることは 当 らぬだ ろ う。独 白は途 中で切れ る。 オ フ ィー リアに気 付いたか ら。
ハ ム レ ッ トは王 〔太陽〕が妃 を死 んだ 〔人倫に外れた〕牝犬 に して楽 しんで い る以上誠実は万人に一人だ,その間を坂 りもった不誠実 なお前の ことだか ら 娘 の妊娠 させ方には よく気 をつけ るがいい (2.2.174以下)と ボ ローニ7スに 諭 した。併 し王子の言葉 を全て娘への失恋 と結び合せて解釈す る彼は ,二人の スパ イの競争相手 もあ る (王子か ら見れ ば己惚れ と阿里 の競 い合いである) こ とだ し, 自分の慧眼 を実証す るために御 本尊 と彼が思い込 んでい る娘 まで動員 しかねない。 それ で王子は更に ジ ェフタの真似 を して娘 を著す 〔徳 性 を 損 ず る〕様 な ことはす るな (422以下)と教 えた。処が彼は娘 を田にす ることを王に 申出 る.王は二人の スパ イでは均があかぬ ので, この申出を好債 に愈 々自分 も スパ イに乗 り出す. そ して王子に呼び 出 しをかけ 「偶然 オ フ ィー リアに遇 う」
(3,1.30)形 に す る。併 し既 に彼女 の こ とを心配 していた王子には偶然以上 の疑いが起 る。初め手軽 くか らか ってかか る。 併 し彼の贈物 を返す とい う言葉 に,彼の心配が現実にな った ことを知 り, その誠実を ここまで 利 用 さ れ る彼 女 の無 邪 気 さが こわ くな った。急に調子 を変 え彼女に貞節 を厳 しく説 く。無 邪気 に威 されて罪におち るとい うこと, それは彼の母 も同様 である。彼女が贈 物 を返えそ うとした時,彼は 『お前に ものをや った憶えはない』 と言 う。彼は 彼女に贈物を した のではない,王が母を贈物で龍絡 したの とは違 う。僕は真心 の愛を君に捧げたのだ とい う意味 である。 それ に答え る彼女 の言葉 も同 じ意味 を言 ってい るのであるが, 自分のJbを 自分の言葉 で言 ってい るのでないか ら合 致 しない。二人の間の このずれは幻滅を見据えて立つ男 と,未だ人生の経験が 浅 く, 自分の誠実 を仮相の世の詐術に利用 されてそれに気付かぬ娘 との違 いか ら来 る。彼の言葉は益 々真剣に厳 しくな る。彼女が未だ誠実 を損 ってお らず, 彼女は彼が真心の愛を傾けてい る娘だか らである。彼女は スパ イの出来 る娘 で
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