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姿 勢 と ポ ケ ッ ト

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(1)

79

巻 第

3

2006

12

‑23 

姿 勢 と ポ ケ ッ ト

守 矢 信 明

0. 

は じ め に

姿勢は普段,日常生活ではあまり意識されない。物事をじっくり考えるから こういう姿勢をとろうとか, くつろぎたいからこういう姿勢にすべきであると いったことは一切ない。自由気ままに好きな姿勢が取られている。ベンチで腕 組をしながらぼんやり鳩を眺めている人に,あなたはなぜ腕を組みながら,ぼ んやりしているのですか? と尋ねても,その人は何も答えられないだろう。

後ろ手になって訓示を垂れる校長先生に,その訳を尋ねてもおかしなことを聞 く人だという顔をされるだけで,たぶん相手にされないだろう。

しかしながら,考える人には一定の姿勢があり, くつろぐ人にも一定の姿勢 がある。訓示を垂れる校長先生が手を腰の後ろにあてがい,分別くさい顔で話 すことはあっても,それを聞く生徒が同様に分別くさい顔をして同じ姿勢をと るということは通常ありえない。人はそれらの事実をほとんど意識することな く,見えない手にあやつられるかのように,一定の姿勢を取りつづけている。

人が取る姿勢は自由気ままにみえて,実は,姿勢の形態と姿勢の意味内容には 因果関係がある。

姿勢とは?

姿勢とは何か。辞書は「体のかまえ」であるとしている(『広辞苑』,『日本 国語大辞典』)。その上にさらに比喩的な意味として気持ちゃ精神のありよう

(戦う姿勢,前向きな姿勢…)という説明が加わる。フランス語では単に体の

かまえを意味する

Position

のほかに,体のかまえに意図性を加味した

Posture

(2)

‑2‑

香川大学経済論叢

320 

という言葉がある。後者について,たとえば

Bordas

では《①A

ttitude  du  corps  que  l'on  remarque, parce  qu'elle  est'particuliere 

quelqu'un  (choquante,  insolite ....) , ou attitude que l'on veut faire remarquer:  les dif.ferentes posture d'un  gymnaste. 

② 

(figure) 

...》(①特有なるがゆえに[不作法な,異様な…]目に つく体の保ち方。あるいは目につくように意図された体の保ち方:「体操選手 のさまざまなポーズ」②(比喩的な意味)…)という説明がみられる。日本語で は

PositionもPostureも,ともに「姿勢」という言葉の中に含まれているが,

われわれに目下のところ関心のある「姿勢」は,意図性の加わった後者の意味,

すなわち

Postureとしての姿勢である。あるいは当人は意図性をもたなくても,

結果的に意図性が読み取られるポーズである。単に構造的な意味での手足,胴 体のあり方といった意味ではない。また「戦う姿勢」,「前向きな姿勢」といっ

た比喩的な意味での「姿勢」は本論では考察の対象外とする。

2. 

姿勢の構成要素

姿勢の構成要素とは,われわれの肉体の構成要素にほかならない。大まかに は胴,手(腕),足(脚),首,顔,頭である。これらのすべて,あるいはいく つかが組み合わさって一定の姿勢ができる。また,

D.

モリスは『ボデイウォッ チング』において,観察の対象を頭髪,額,目,鼻,耳,頬,口,ひげ,首,

肩腕,手,胸,背,腹,腰,尻,性器,脚,足の

20

部位に分けて考察して いる。これらすべてが姿勢に直結する要素ではないが,姿勢の意味づけには強

く関係している。

次に姿勢は,肉体だけが独立して展開する性質のものではない。さまざまな

状況,背景,道具,小物などが関わってくる。頬杖をつくにはテーブルが必要

だ。イナバウアーはスケーターが氷上で決めるポーズである。雪見酒の光景を

思い浮かべようとすれば,必ずや和室の矩撻と日本酒と外の雪がほぼワンセッ

トで浮かんでくる。あるいは椅子に座るとしよう。膝をそろえて座るか,広げ

て座るか,脚を組むか,それも片方の腿に片足の腿をのせるか,片方の腿に片

方の足首を乗せるか,等々でそれが人に与える印象は大いに異なる。公園の桜

(3)

の樹の下で写真を撮るとしよう。その際,桜の枝に手をかけたポーズをとるか,

樹木の横で朴訥と仔んでいるだけかによって,これまた後年アルバムを繰ると きの思い出は一様ではあるまい。ファッションモデルに帽子が与えられれば,

モデルは帽子によって数々の魅力的姿勢を案出してみせるだろう。ポーズの良 し悪しはその年の流行や服の売り上げに影響する。こうした状況や,小道具と の関連をあげたてれば,姿勢が作り出すニュアンスはほとんど無限である。し かしながら姿勢の構成要素ということを考えれば,肉体と状況,肉体と小道具 の境は簡単に分けて考えることはできない。

3. 

身 体 像

姿勢というものは肉体的現象に見えて,実は大いに社会的な事象である。姿 勢はわれわれの肢体が繰り広げる現象でありながら,そこに展開されるものは たんなるフィジカルな営みではない,社会的な営みである。自分をフィジカル な肉体としてではなく,自分以外の他人の目にどう映るかに興味を示した最初 の人物は,おそらく,ギリシャ神話に登場するナルキッソスだろう。彼は水辺 に映る己が姿を,自己のものとしてではなく,他者のものとして受けとめ,そ れに恋をした。人類が自らの姿を自らのものとして眺めるようになったのは,

そう古いことではない。これは鏡の発明に深く関係している。『個人生活の歴 史』の著者の一人,ジェラール・ヴァンサンによれば鏡がフランス社会にもた

らされたのは

16

世紀のことである。

鏡が出現するのはようやく

16

世紀になってからである。ベニスからも たらされた貴重品だった。鏡は珍しく,高価であった。両大戦間の頃は,

労働者の住宅あるいは田舎においては,男性のヒゲそり用に,小さな鏡が 洗面台の上に一つ掛かっているだけだった。全身を映し出すことのできる 大きな鏡は裕福な家庭にしか存在しなかった。[…]大鏡の出現により他 人の視線を通じての,肉体の自己同一性

(l'identitecorporelle)

の認知は終 わりを告げ,人は浴室の大鏡の中で己が肉体を凝視するようになる。

(Histoire de la vie privee;  Tome 5,  p. 308) 

(4)

‑4‑

香川大学経済論叢

322 

ここでジェラール・ヴァンサンが言う「肉体の自己同一性」を,われわれの言 葉で言い換えるなら,社会性を取り除いたフィジカルな肉体の確認ということ

になる。すなわち社会性を帯びた衣類,アクセサリーを脱ぎ捨てた姿というこ とである。ジェラール・ヴァンサンの引用をもう少しつづけよう。

大鏡は

1880

年頃にブルジョワジーの浴室に出現する。そこは家の中で も最も秘められた場所である。そこで人はまやかしの品々(ウエストを締 めつけるゲピエール,コルセット,かつら,義歯,等々)を取り外し,よ

うやく自らの社会的外見ではなく,完全なる裸体の中で,己が姿を見るこ とができる。時に堪え難くもあるこの瞬間は,いまやすべての社会階層に 課せられている。

INSEE

(国立統計経済研究所)によれば,

1980

年には

80%

の住居で,浴室もしくはシャワーが利用されている。おそらくこの 場所では体を洗うこと以上に,自らの姿が見つめられているのであろう。

なぜならフランス人は年に石鹸を

2.5

個しか使わないし,歯ブラシは住民

3

に対して

1

本しか存在しないのだから。

(Ibid.,p. 308) 

はたして著者が推察するように,浴室が体を清潔に保ち,身支度を整えるため の場所というより,自らの赤裸々な姿を見つめるための場所であったというこ とを,石鹸の消費量だけで判断しうるものかどうか,本論の筆者には判別しが たい。しかしいずれにせよ全身を映しだす大鏡の出現は,人々の肉体に対する

自己意識をより直接的なものにした。ナルキッソスにとって,水面に映し出さ れた像は自己同定されていない自己である。彼の美しさに多くの女たちゃニン フが心惹かれるが,彼はそれに見向きもしない。彼が愛するのは泉に映る自己

=他者の姿だけである。そこでは自他の認識すらない。一方,近代になって出 現した鏡は好むと好まざるとに拘らず,自己の裸の姿を見せつける。肉体の自

己同一性を認識するとは,自己を他者の目で見ることであり,自分はどのよう

に他者の目に映っているかを確認する作業である。

17

世紀フランスのプレシ

オジテは鏡のことを「美の相談相手」と言ったが,鏡はわれわれにとって自ら

の視線と他者の視線が相談しあう場である。われわれはまず社会性を剥ぎ取っ

た赤裸々な自己を見つめ,ついでそれに衣裳をまとわせ,化粧をし,眼鏡,帽

(5)

子,ネクタイ,その他もろもろを身につけて「これでよし」とつぶやく。『被 服と化粧の社会心理学』において牛田聡子は,「身体像」についてつぎのよう

に述べている。

身体像

(bodyimage)

とは自己の身体についていだくイメージ(心像)

で,これは必ずしも他人の目で見た場合と一致するとは限らない。人は身 体像や身体的魅力に関しての社会における基準により,自分の身体像に満 足したり不満を覚えたりする。そして身体像は被服の好みや被服に対する 態度の形成に大きな役割を果たしている。

(54

頁 )

「身体像」とは,いわばその人の生活スタイルとしての身体イメージである。

鏡や他人の視線は,社会的存在としての自己を確認するのに役立つ。われわれ は社会的衣裳を脱ぎすてるときに鏡を見るが,それ以上に社会的衣裳を身にま

とった姿を確認するためにも鏡をのぞく。ヒゲをそり,髪に櫛を入れ,ネクタ イを直す。女性は男性よりもさらに念入りに鏡と向かい合う。鏡と向かい合い ながら,自己を付け足し,修正し,確認する。そこで付加され削除されたもの は,眼鏡や,アクセサリーや,ネクタイや,帽子も含めて,全体が自己のイメ ージであり,社会的自己であり,自らが選びとった身体像である。このような

とき,眼鏡や,アクセサリーや,ネクタイや,帽子はもはや単なる物品ではな くなる。自己のイメージに取り込まれた,自分自身,あるいは自分自身の延長 である。

シルダー

(Schilder,1935)

が「ある婦人の身体像は,帽子の羽根にま で広げられている」といったように,身体像の特徴として,衣服をはじめ 身につけるものはすべて身体像の一部であり,自己を取り巻く空間も身体 像に含まれる。フィシャーとクレブラント

(FisherCleveland,  1968)

は , 身体像が身体と外界とのあいだの心理的な境界であるといっている。

(同上書,

54

頁 )

ここには「身体像の特徴として,衣服をはじめ身につけるものはすべて身体像

の一部であり,自己を取り巻く空間も身体像に含まれる」という,興味深い指

摘がなされている。姿勢というのは,顔の表情と同じで,われわれの肢体が作

(6)

‑6‑

香川大学経済論叢

324 

り出すものであるが,それだけではうまく説明しきれないものがある。なぜな ら表情も,姿勢もそれを取り囲む状況や,背景,またそのときどきの衣裳や小 道具が一体となって,そこでの「身体像」を演出しているからである。

4  . ポ ケ ッ ト

本論ではポケットと姿勢の関係を取り上げる。まずポケットについて簡単に 考察しておきたい。言うまでもなくポケットは衣服の一部であって,あるとき は物入れとして,あるときは防寒用として用いられる。しかしながら後述する ように,ポケットは姿勢との関係においてさまざまな社会的,心理的役割をは たしている。ポケットがわれわれの所作とかかわることで,あるいはかかわら ないことで,いくつかの興味深い事実が浮かび上がってくる。

ポケット

(pocket)

はもともとは「膨れる」の意味のゲルマン語

pokka

から 来ている。やがて衣服に縫い込まれた財布を意味するようになり,さらには今

日見るような,単に衣服のポケットを指すようになった。しかし衣服との関係 で言えば,ポケットは必ずしも衣服に「縫い込まれ」ていたとはかぎらない。

今日的な意味でのポケットがまだ十分に発達していない時代,ヨーロッパ社会 では,男性は「ブラゲット」

(braguette), 

女性は腰から長く垂らした小物入れ を用いた。

16

世紀の頃の男性は膝ぐらいまでの半ズボン

(hautsdechausses)

とストッキング

(bassdechausses)

を着用していたが,その半ズボンの股間部 分に取り付けられたポケット状のものがブラゲットである。これはもともと装 飾用の袋だったが,やがて詰め物などをして男性器の誇張に見せかけるのが主 目的だったらしい。さらに,これを実用というべきかどうかはともかく,ポケッ

トの代わりもしたようで,『世界服飾史』の筆者は次のように書いている。

ラブレーの記述によればブラゲットはポケットの役目を果たしており,

ここからテニスの元祖ともいえるジュ・ド・ポームのボールやオレンジの

実,時祷書までが出てくる。諷刺・皮肉をまじえていくらでも話をつくり

出す作者のことだから,そのまま信じるわけにはいかないが,ポケットがま

だ一般的でない時代にその代用の役を果たしたことはまちがいない。女性

(7)

は腰から長く下げた袋を携えるのが下層から上層階級までヨーロッパの広 くで見られることも,ポケットが普及していないことの証である。

(61

頁 ) ヨーロッパの女性が腰から紐で垂らした袋は,韓国の伝統的衣服である韓服 姿にも見られる。こちらは女性にかぎらず男性も用いたようである。韓国文化 院の「衣文化」を紹介する頁

(http: /www .koreanculture.jp/cultureO .html)

には

こう記されている。

一方全ての韓服にはポケットが無いため別途に チュモニ(巾着) を 作り,それを財布代わりとして使用していました。チュモニは丸いものと シワをよせて作った三角形の

2

種類があり,それぞれ上部を紐で締めて使 用しましたが,この部分にメドウップ(結び目)とスル(房)を飾ったりも

しました。

16

憔紀初頭の朝鮮王朝時代を舞台にした時代劇『大長今』(日本語版『宮廷料 理人 チャングムの誓い』)に,王宮の宴会料理などを担当する出張料理人力

ン・ドックがのんびり池の端を歩いている場面がある。伝統的な韓服を装い,

腰から垂らした長い紐の先にはチュモニが揺れていた。チュモニは財布として 使われていたが,ポケットの役割を果たしたのはソメ(袖)である。日本のた もとにあたり,手で何か物を取ろうとするときなどに,他方の手で袖がじゃま にならないように手繰り寄せた。今日,韓国の人々が敬意を払って握手などを するとき,もう片方の手を握手する手の肘のあたりに添える仕種をするが,こ れは韓服の袖を手繰り寄せる仕種から来ているという説を,筆者は同僚の韓国 人の先生から聞いたことがある。

一方,中国の歴史ドラマでは,ハンカチや簡単な書類などを手首の袖に入れ ている様子がうかがえる。さらに皇帝など身分の高い人物の前で,家臣は平伏 して額ずく際に,まず左右の袖を払い,叩いて見せる。これは一見して手先の よごれを払い,みそぎをしている行為にも見えるが,実は袖の中には何も武器 は隠し持ってはいないということを示しているのではなかろうか。このことは 中国服の袖がポケットとして用いられていたことと深く関係があるように思わ

れる。

(8)

‑8‑

香川大学経済論叢 326 

5. 

ポケットと姿勢

筆者の担当する授業「文化記号論」において,筆者は平成

16

年度に約

200

名の受講生を対象に,ポケットと姿勢に関する質問を行った。質問は

3

点で,

「あなたはどんなときにポケットに手を入れるか」,「あなたはどんなときにポ ケットに手を入れないか」,「ポケットに手を入れている人に,あなたはどんな 印象を抱くか」である。以下はそのレポートによる回答を整理してまとめたも のである。

◎あなたはどんなときにポケットに手を入れるか

寒いとき。

ポケットの中身を確かめる。

ゴミを捨てようとして,ゴミ箱がないとき,ポケットに手を入れる。

気まぐれで入れる。

手持ちぶさた。

手に持つ物がなくそわそわしているとき。

手のやり場に困るとき。

・ 近くに手を添える手すりや,机がないとき。

・ 考え込むとき。

さびしいとき。

機嫌がわるいとき。

すねているとき(地面をけったりしている)。

怒りを抑えているとき。

うしろめたい。何かを隠したい。

・ 気分がいいとき(鼻歌まじりで)。

人を待っているとき(ただ立っているわけではないことを示す)

待ちしぐさ。同時にタバコを吸っていることが多い。

不馴れな場所で自分を強く見せたいとき。強ぶってみせたい。虚勢をはる。

(9)

緊張していないよ,動揺もしていないよという態度。

威張ってみせる。相手を卑下する。

・ 恐い人たちが 自分は手を使わなくてもあなたより勝っている ことをア ピール

(cf.

私は幼稚園のとき,転ぶとあぶないので手を出せとよく言われ た ) 。

・ 会話に加わらないとき:相手に警戒心があり,心を開いていない。自分の 胸のうちはかくしている。

話題がなくなり,話さなくなったとき,ポケットに手を入れる。

・ 無関心を装う(目線は空。ほろほろ歩き回る)。

・ (例外的に)男友だちと話すとき(異性としてでなく,友だちとして見て もらいたいから)。

・ カメラの前でポーズをきめるとき。

・ 女性は寒いときか,恥ずかしがっているとき。

◎あなたはどんなときにポケットに手を入れないか

・ カメラの前でポケット・ポーズをとることはない。

・ きちんとしたとき(失礼になる)。

・ ポケットに手を入れると心を開いていない態度に受け取られる。

目上の人と会ったとき,会話を交わすとき。

式典。

・ やる気がみなぎっているときは決して入れない。

・ 服の形が崩れる:大学生になってからポケットに物を入れる事さえしなく なった。今はまったくこの姿勢はとらない。

・ 映画などで武器を隠していない,やましくないことを示すために。

・ コートにはよく手を入れるが,ズボンのポケットにはあまり入れない。男 性と違って女性は実用的な理由で入れる(男性は心理的な理由があるので

は ) 。

(10)

‑JO‑

香川大学経済論叢

◎ポケットに手を入れている人に,あなたはどんな印象を抱くか 偉そうな態度。

キザ。かっこつけている。

. 

威嚇。不良。相手に見せようという気がある。

1

言満々。スーツ姿で,背筋を伸ばして入れている。

背の高い人がポケットに手を入れている姿はとてもいやな気分だ。

リラックス。ラフな感じ。

片手にたばこ,片手はポケットのしぐさ。

328 

複数がポケットに手を入れていると友だちどうしの気兼ねのない感じ。親 しい間柄。

表情がなく,元気なさそう。

不安げ。

することがなくヒマそう。

体が小さく見える。

自分の中に小さく閉じこもっている。

手の入れ方で自分を大きく,かっこよく見せられる。

心理的に大きな態度。

話しかけにくい。

忙しそうで,構わないでくれという印象。

だらしない:背筋がまがり,格好わるい。

相手に失礼。反抗的。

寒そう。

手に何かもっている,隠しているという不安を潜在的にあたえる。

・ 会話中だと,話に関心がなく,退屈しているのかなと思う。

人と接触したくない,会話中に隠し事をしている場合,話したくないこと がある場合。

ジーンズ:後ろポケットに指を

4

本だけ入れている。荒っぽさと人生面倒

くさそう。「かったる一」みたいな台詞が似合う。

(11)

これらを通覧して驚かされるのは,その観察の多様さである。重なり合うも のは一つの表現にまとめたが,一見似ているものでも,動機が微妙にずれてい るものは別にした。次節ではこれらの回答に対する筆者のコメントと考察を述 べていきたい。

6. 

回答に対するコメントと考察

筆者によるコメントと考察は

Rem.(Remarque)

で示してある。

A. 

あなたはどんなときにポケットに手を入れるか

A‑1

寒いとき。

Rem.  : 

ポケットがもつ実用性。防寒機能 A‑2 ポケットの中身を確かめる。

Rem.  : 

中に何が入っているか確かめるには確かに「ポケットに手を入れる」

しかない。あたりまえのことを書いているようだが,あえてこう書く ことの心理的意味を憶測するなら,確かめてどうだというわけでもな

く,単に確かめるふうを装った動作ということだろう。所在ないとき など,人はよくボールを投げるふりをしたり,後頭部を掻いてみたり,

脚をぶらぶらさせたりする。その一種か。

A‑3

気まぐれで入れる。/手持ちぶさた。

Rem.  : 

気まぐれの意味を「理由なく,偶然に」と解釈することもできるが,

文字通り「気を紛らわす」ためであれば,もう一つの「手持ちぶさた」

という回答に重なる。ここではそう解釈しておく。

A‑4 手に持つ物がなくそわそわしているとき。

Rem.: 

「手持ちぶさた」を字義的に解釈すればまさにこれである

(cf.

「手持ち ぶさた:手があいていて間がもたないこと。することがなくてたいく つであること。また,することがわからず格好がつかないことやその

さま」(『日本国語大辞典』)。空いた手があるから人は落ち着かない。

そんなときは手そのものをしまってしまえばいいのだ。

A‑5

手のやり場に困るとき。

(12)

‑]2‑

香川大学経済論叢

330  Rem.  : 

上記の状況より,さらに切迫している場合である。単に手の無聯をか

こつのではなく,積極的に空いている手のやり場に困るとき。ふだん われわれは手の動きを意識しないが,あるとき突然,手を意識し,適 切なやり場が分からなくなり,仕方なくポケットに格納するしかない,

というときがある。一旦格納してしまえば,悩みは解消する。

A‑6

近くに手を添える手すりや,机がないとき。

Rem.: 

これも手のやり場に困った場合のバリエーションである。ふだんわれ われの手というものは,なんらかの作業(掴む,握る,触れる)をし ている。無意識に何かに触れていることが多い。触れていない状態を 意識し,適切なやり場に困った時,人は手をポケットに「しまう」。

A‑7

考え込むとき。

Rem.  : 

外部から遮断されていたい,考えることに集中していたいという心理 が,手をポケットにしまいこませる。「手」は「心」に相当している。

A‑8 

さびしいとき。/すねているとき(地面をけったりしている)。

Rem.: 

小林祐子編『しぐさの英語表現辞典』には「手をポケットに入れる:

put  one's hand [hands] in one's pocket [pockets]

」について,「上着やズボン のポケットに手を突っ込んで歩いたり,人と話をしたりする姿は,一 見リラックスして見える。しかし見方によっては,感情を敏感に伝え る手を人目にさらすまいとする潜在的な防衛姿勢という解釈も成り立 つ。手のしぐさから人の性格を判断する専門家の中には,習慣的にポ ケットに手を入れる人は,自分に不安感を抱き,本心を人に見せたが らず,人に対してとかく警戒心が強い,といった見方をする者もいる

(ソーレル,

1973)

」という注記がある。ここには二つの異なる心理が 指摘されている。一つはリラックスしていることの現れとする見方,

二つは感情を敏感に伝える手を人目から隠そうとする心理,またつね

づね本心を人に見せたがらないことからくる習癖。本論の筆者はもう

一つ,三つ目の点としてポケットが「隠す」役割だけでなく,不安な

気持ちを外部から守る「保護者」の役割,防壁の役割をになっている

(13)

ことを付け加えたい。レポートの回答にある「さびしいとき」,「すね ているとき」という心理には,それを隠そうという気持ちは含まれて いない。むしろポケットに手を入れることで,包まれていたい,匿わ れていたいという心理を表している。

A‑9 

うしろめたい。何かを隠したい。

Rem.: うしろめたさには「隠したい」気持ちと,不安で落ち着かない気分を

何かに包まれることで,いやされたいという思いが混じっている。

A‑10

怒りを抑えているとき。/機嫌がわるいとき。

Rem.: 

怒り,不機嫌からポケットに手を入れるのは,それを隠すことで感情 を抑制しようとする心理の現れである。

A‑11

気分がいいとき(鼻歌まじりで)。

Rem.  : 

前述の「リラックスしていることの現れ」

(cf.A‑8,  Rem.)

A‑12

威張ってみせる。相手を卑下する。/不馴れな場所で自分を強く見せ たいとき。強ぶってみせたい。虚勢をはる。/緊張していないよ,動 揺もしていないよという態度。/恐い人たちが 自分は手を使わなく

てもあなたより勝っている ことをアピール。

Rem.: 

ポケットの語源が「膨れる」から来ていることはすでに述べた。人間 や動物はいろいろなやり方で自分を 膨らませ ,大きく見せようす る。それによって,自分が相手より上位にあること,強者であること を見せつけようとする。ポケットが自分を 膨らませ るのに利用さ れることもある。ここで述べられていることがまさにそれである。ポ ケットに手を突っ込むことがなぜ「威張ってみせる」ことになるかと いう理由は,一つは自分を 膨らませ ているからであり,一つは緊 張した場面でも自分は リラックス しているというポーズを示して

「余裕」を見せつけようとしているからだ。

A‑13

人を待っているとき(ただ立っているわけではないことを示す)/待 ちしぐさ。同時にタバコを吸っていることが多い。

Rem.  : 

ここでは,イバっているわけではない。待つ人はたいてい不安な顔を

(14)

‑14‑

香川大学経済論叢

332 

している。人目にさらされながら,不安そうな視線を一定方向にちら りちらりと送りつづけている。彼らはたいてい壁や柱を背にしている。

これも不安からくる防御策である。女性は紙袋やハンドバッグを胸や おなかのあたりに抱え,あたかも身を守る盾のようにしている。両手 で両肩を抱くポーズはそのバリエーションである。ポケットに手を 突っ込んだポーズは,不安なるがゆえに,自分を大きく見せようとし たものだ。あるいは不安なるがゆえにリラックスした態度を装ったも のだ。それが「ただ立っているわけではないことを示す」という主張 につながり,「同時にタバコを吸っていることが多い」という行為につ ながる。

A‑14

会話に加わらないとき:相手に警戒心があり,心を開いていない。自 分の胸のうちはかくしている。/話題がなくなり,話さなくなったと

き,ポケットに手を入れる。

Rem.: この二つは会話の輪を離れ,一線を画した状態にあるときである。た

だし輪を離れた理由は同じではない。最初のケースは相手を警戒して おり,こちらの心を閉ざしている。これは「感情を敏感に伝える手を 人目から隠そうとする心理」

(cf.A 8, Rem.)

と同じである。ピータ ー・コレットに次の記述がある:「『寄って来ないで』サインには,あ

くび,しかめっつら,ふくれっつらなどの顔の表情のほかに,頭を振 ることや,手をポケットに突っこんだり,腕を交差させるなどのしぐ さがある。」(『うなずく人ほど,うわの空』)。「手」は「心」に等しい。

2 番目のケースは話題がつきて,前述した「手持ちぶさた」と同じ心 理状態に置かれたときのものである。

A‑15

無関心を装う(目線は空。ほろほろ歩き回る)。

Rem.  : 

他の人が関心を示している中で,自分は関心がないことを示そうとし

ている。会話から離れているのかもしれないし,他の人たちが何かを

見物しているのかもしれない。それを尻目に本人は集団とは異なる雰

囲気をかもし出そうとしている。ポケットに手を入れていることは,

(15)

休憩中のしるし(リラックス)でもある。おれは休憩中だから関係な いよと目を虚空に向け,「ほろほろ」ぶらついている。

A‑16 

(例外的に)男友だちと話すとき(異性としてでなく,友だちとして見 てもらいたいから)。

Rem.: 

次の「あなたはどんなときにポケットに手を入れないか」で,女性の 回答者の中で女性は実用的な理由を除いて,男性ほどポケットに手を 入れないという指摘がある。ここでの回答者も女性であるが,ふだん は心理的な理由でポケットに手を入れない女性が,あえて男性と同じ ようにポケットに手を入れることで自らの性を中性化しているという 興味深い指摘である。

A‑17

カメラの前でポーズをきめるとき。

Rem.: 

ポケットがファッションとして用いられることを言っている。

A‑18

女性は寒いときか,恥ずかしがっているとき。

Rem.: 

女性は恥ずかしいからポケットに手を入れるという興味深い指摘であ る。一つは手=心を隠したいという心理が考えられる。同じことの二 面であるが,ポケットに手を入れる姿は,一面では体を膨らませるこ とであるが,別の角度から言えば手をしまい込むことで,体を縮めて いると見ることもできる。人は威張ってみせるとき,両手を広げてエッ ヘンと勝ち誇ってみせる。その反対がふだんポケットに手を入れない 女性が恥ずかしがってポケットに手をしまい,身を縮めている仕種だ

ろう。

B. 

あなたはどんなときにポケットに手を入れないか

B ‑1 

カメラの前でポケット・ポーズをとることはない。

Rem.  : 

この回答者の場合,ポケット・ポーズはだらしない,改まった姿では ないという認識があると思われる。したがって後々まで残る写真撮影 においては,ポケット・ポーズは取らないのである。

B‑2  きちんとしたとき(失礼になる)。

(16)

‑16‑

香川大学経済論叢

334  Rem.  : 

同様の認識である。ただし上との違いは,カメラではなく相手が人間

だという点である。

B‑3 

目上の人と会ったとき,会話を交わすとき。/式典。

Rem.  : 

同じくポケット・ポーズは威儀を正す状況ではふさわしくないという 認識がある。

B‑4 ポケットに手を入れると心を開いていない態度に受け取られる。

Rem.  : 

すでに見たように,手は心理状態を反映しやすいことから,手を隠す ことで心の動きを読まれないようにする傾向がある。逆に,この場合 のように,手をポケットに隠すことで心を閉ざしていると見られるこ

とを避けようとする心理が働く。

B‑5 

やる気がみなぎっているときは決して入れない。

Rem.: 

行動するには手が自由に使える状態でなければならない。心理的にも 手を人目にさらして,開放的(オープン)であることを示す必要があ

る。やる気がみなぎっているとは,まさにアクテイヴな状態(動作開 始の状態)にあるということであり,積極的かつ行動的ということで ある。

B‑6

服の形が崩れる:大学生になってからポケットに物を入れる事さえし なくなった。今はまったくこの姿勢はとらない。

Rem.: 

ポケットは「物入れ」でもあるが,実用性をもたない単なる装飾品で もある。おしゃれな人にとって物でふくらんだポケットは見苦しい。

この回答者は高校生から大学生になったことで,よりおしゃれな人間 に変身した。同時にポケットは「物入れ」から,非実用的なアクセサ リーに変わったのである。

B‑7 

映画などで武器を隠していない,やましくないことを示すために。

Rem.  : 

日本語でポケットのことを「隠し」と言うように,ポケットは物をし

まったり,隠したりする場所である。武器を隠しもたないことを示そ

うとして,昔の中国の家臣たちは皇帝の前で袖をたたき,払ってから

地面に額ずいた。

(17)

B‑8 

コートにはよく手を入れるが,ズボンのポケットにはあまり入れない。

男性と違って女性は実用的な理由で入れる(男性は心理的な理由があ るのでは)。

Rem.: 

ズボンのポケットのときはあまり手を入れないが,コートにはよく入 れるとしている。コートの着用は寒い季節と重なるので実用的な理由

というのは,主として防寒と考えてよいだろう。

C. 

ポケットに手を入れている人に,あなたはどんな印象を抱くか

C‑1 

偉そうな態度。/キザ。かっこつけている。/威嚇。不良。相手に見 せようという気がある。

Rem.  : 

手はもともと仕事をするようにできている。「人体の中で,手ほど活発 に動く部位はないだろうと思うのに,『手がつかれた』と訴える声はほ とんど聞かない。機械装置の複雑な部品として,手はそれほど最高な のである。一生で指は少なくとも

25,000

万 回 は 屈 伸 す る と 推 定 さ れ る 。 」

(D.

モリス『ボデイウォッチング』)。あるいはつぎの英語群,

manager 

(支配人,手代),

manage

(扱う,管理する),

manual

(手の,

手ごろな冊子),

manufacture

(手工業),

manufactory

(製造所,工場),

manuscript 

(手書きの本,写本),

manner(

手ぶり,挙動,やり方),

maintain

(手で支える,維持する),

maintenance

(維持,保持)ーー一これらの語 はいずれも

manus

(手)を語源としている。このように手は「労働」

の中心的担い手である。その手をポケットにしまいこんでいるのは,

肉体労働をしなくても暮らしていける安楽な身分の人ということにな る。立場の低い者はいつでも作業ができるように手を出している必要 がある。また隠し事がないように手を表に出していなければならな い。さもなければそれは偉そうな態度,不遜な態度とみなされるおそ れがある。

C‑2 

自信満々。スーツ姿で,背筋を伸ばして入れている。

Rem.: 

上記同様,ポケット・ポーズは「余裕」の誇示である。さらに背筋を

(18)

‑ ] 8 ‑

香川大学経済論叢

336 

伸ばす姿勢は優位者の姿勢である。なぜなら反対の身を屈める姿勢は 敗者のポーズだから。すなわち「服従の最も重要なポイントは,自分 を小さく見せることである。これは,二つの方法でなされる。体を縮 めて丸くすることと,攻撃者より姿勢を低くすることである。その二 つの要素は,極端な場合には,すすり泣きながら地面に座りこんで,

体を硬いまりのようにしている屈服者に見られる。一方,それほどド ラマチックではない形が,道を歩いている多くの人の姿に見られる。

万年敗者,社会的落伍者,気分のふさいだ劣位者は,猫背で,肩を丸 め,首をうなだれたスランプ姿勢で歩く」

(D.

モリス『マンウォッチン グ 』 ) 。

C‑3 

背の高い人がポケットに手を入れている姿はとてもいやな気分だ。

Rem.  : 

背が高い,すなわち「大きい」ということ自体が優位を示している。

その上にさらにポケットに手を入れるという余裕のポーズが,この回 答者に不快感を与えている。

C‑4 

リラックス。ラフな感じ。/片手にたばこ,片手はポケットのしぐさ。

Rem.  : 

「気を付け!」の姿勢は両足をそろえ,両手の指先をそろえて伸ばし,

体の側面にあてている状態である。「なおれ!」あるいは「休め!」は その改まった姿勢の解除であるが,さらにポケットに手を入れ,緊張 をくずした姿勢は拘束から解き放たれた印象をあたえる。喫煙は「一 服する」とも言われ,「休息」のしるしである。

C‑5

複数がポケットに手を入れていると友だちどうしの気兼ねのない感 じ。親しい間柄。

Rem.  : 

これはモリスの言う「姿勢反響」がポケット・ポーズの形で現れてい る場合である。「二人の友人が出会って,うちとけた話をしていると,

彼らは似た姿勢を取るのがふつうである。二人が特に親しく,その話

題に対して同じ立場を取っている時には,お互いがコピーだといって

もよいほど,よく似た姿勢を取るようになる。これは,わざわざ相手

を模倣しているのではない。その二人は,知らずして〈姿勢反響〉と

(19)

いわれる状態を満喫しているのである。」(同書)

C‑6 

表情がなく,元気なさそう。/不安げ。/することがなくヒマそう。

Rem.: 

これは仕事がなく,活動の場が得られぬまま,不承不承ポケットに手 を収めている状態だ。次とも重なるが,背中も丸まって,力がなく,

敗者の姿勢になっている。

c‑

7

体が小さく見える。/自分の中に小さく閉じこもっている。/だらし ない:背筋がまがり,格好わるい。

Rem.  : 

ポケットに手を入れる事で,背中が丸くなり,仕事のない無為の状態 になる。手をしまいこむことで,活動停止を表示している。

C‑8 手の入れ方で自分を大きく,かっこよく見せられる。/心理的に大き

な態度。

Rem.: 

まさに手の入れ方で,人は「尊大」にも,「畏縮」したふうにも映る。

ポケットは敗者を演ずるポーズにも,優位者を演ずるポーズにも利用 することのできる小道具である。

C‑9 

話しかけにくい。/忙しそうで,構わないでくれという印象。

Rem.: 

考察の最初の方の「近くに手を添える手すりや,机がないとき」

(A‑6)

でも触れたが,ポケットに手を入れる仕種は感情を敏感に伝える手を 人目にさらすまいとする潜在的な防衛姿勢であるとされている。その ために自己防衛的,排他的な印象を人にあたえることになる。

C‑10

相手に失礼。反抗的。

Rem.: 

なぜ失礼であるかについては,これまで述べてきたいくつかの理由が 該当するが,最大の理由はポケットに手を突っ込んだ姿勢が,「気を付 け」というもっとも正統的な姿勢の対極にあるからである。これにつ いては本論の別の章であらためて取り扱うことにする。

C‑11

寒そう。

Rem.: 

ポケットの第一義的存在理由は「もの入れ」のほかに,「防寒」である。

C‑12

手に何かもっている,隠しているという不安を潜在的にあたえる。

Rem.  : 

もの入れの別名が「隠し」であるように,しまうことは隠すことでも

(20)

‑20‑

香川大学経済論叢

338 

ある。

C‑13

会話中だと,話に関心がなく,退屈しているのかなと思う。/人と接 触したくない,会話中に隠し事をしている場合,話したくないことが ある場合。

Rem.  : cf. A. 

「あなたはどんなときにポケットに手を入れるか」のなかの,

A

‑14

「会話に加わらないとき:相手に警戒心があり,心を開いていな い。自分の胸のうちはかくしている。/話題がなくなり,話さなくなっ たとき,ポケットに手を入れる」の項,および

A‑15

「無関心を装う

(目線は空。ほろほろ歩き回る)」の項。

C‑14

ジーンズ:後ろポケットに指を

4

本だけ入れている。荒っぽさと人生 面倒くさそう。「かったる一」みたいな台詞が似合う。

Rem.  : 

これは単にポケットに手を入れるか入れないかという選択の問題では なく,手の入れ方に言及している。これについては後述したい。

7. 

考察のまとめ

ここまでの考察から分かるように,人が取るポケット行動には大きくわけて 二つの要因が働いている。一つは物理的要因であり,もう一つは心理的要因で ある。

物理的要因としては,物入れとしての機能,および防寒のための機能をあげ ることができる。ただしこの二つの機能は,今日,必ずしも一般的ではなくなっ た。とりわけ女性の衣服においてポケットは, しばしば単なる装飾の役割しか はたしておらず,女性自身もポケットを物入れや防寒の道具とみなす意識がう すれているように見受けられる。これに対して男性の場合はまだまだポケット を物入れ,防寒の道具と見なす意識は高い。しかし,そうした中にも物入れや,

防寒のためにポケットを利用することは「おしゃれ」ではないと見なす傾向は 男性の中にも見られるようになっている。

もう一つの要因である心理的要因はニュアンスとしては多岐にわたる。しか

し原理そのものは複雑ではない。手はわれわれの活動の拠点であり,活動の大

(21)

いなる担い手であるが,その手をポケットに仕舞い入れることで,二つの効果 が生まれる。一つは活動を止めて,休止していることを示す。リラックスした いとき,あるいはリラックスしているふりをしたい時に,人はこれをする。も

う一つの効果は活動の拠点であり,担い手である手をポケットに隠すことで,

自分と外界との間に壁を設ける効果である。それによって人は自らを防衛し,

保護しようとする。ポケットはいわば持ち運びできるシェルターなのだ。こう してポケットは,一方でリラックスしたときの余裕のポーズ作りに利用され,

他方で外界から心を閉ざし,身を縮こまらせたポーズと受け取られる。前者は 自らを膨らませて見せる優位者のポーズであり,後者は自らを縮小して見せる 劣位者のポーズとなる。

8. 

終 わ り に

これまではどちらかといえば「しぐさ」としての手とポケットの関係を中心 に考察を進めてきた。最後に,「姿勢」という観点から手とポケットのかかわ

りを見てみたい。

まず二つの対照的な姿勢を考えてみよう。一つはいわゆる「気を付け」の姿 勢で,直立不動の姿勢である。この姿勢では頭部から足首までがまっすぐに伸 び,両手も体の側面に添わせるかたちでまっすぐ伸びている。この姿勢は生ま

じめで,堅苦しく,四肢と胴体は緊張し,改まった儀礼的印象をあたえる。

D.

モリスのユニークな呼び方を借りれば,「迷惑デイスプレイ」(・

mconvemence  display)

の一つと見ることができる。

The Inconvenience Display.  To show the strength of our friendliness,  we'put  ourselves out'to varying degrees. We demonstrate that we are taking trouble.  For both host and guest,  this  may mean'dressing up'.  For the guest it  may  mean a long journey.  For the host it  also entails a bodily shift from the centre  of his home territory.  The stronger the greeting,  the greater the inconvenience. 

(MANWATCHING, p. 79) 

相手に敬意を払い,相手を歓迎するとき,われわれは時間的,金銭的犠牲を払

(22)

‑22‑

香川大学経済論叢 340 

い,労力を払うことでその意を示す。犠牲が大きければ大きいほど敬意,歓迎 の念も大きい。「気を付け」の堅苦しさは,まさにそうした気持ちの意思表明 である。式典に臨む皇族。空港で賓客を迎える総理大臣や出迎えの人々,儀礼 兵。皇居に招かれ参内するモーニング姿の人々。上官に向き合う軍人。そこに はポケットに手を突っ込み,姿勢を崩した人は一人もいない。ポケット行動の

もっとも対極にある姿勢である。

この「気を付け」の対極にあるのが,両手をポケットに入れ,緊張感を解き,

リラックスした姿勢だ。ぽんやり一人でたたずむとき,親しい者どうしがたむ ろするとき,人々,とくに男性がしばしばこうした姿勢を取る。対立する相手 を前にしたときもこの姿勢が見受けられる。ゆとりや自信を誇示し,相手を恐 れていないことを示す。リラックスを装うことで,実は相手を威嚇しているの だ 。

気を付けを

+Formalとするなら,その対極のポケットに両手を突っ込んだ

姿勢は一Formalとすることができる。この二つの姿勢を四角形の対極に配置 するとき,残る二つの角をそれぞれ中間の姿勢が占める。その一つは片手だけ ポケットに入れた姿勢で,リラックスを装いつつ,儀礼的折り目正しさも表現 したポーズである。善良な庶民がカメラの前でちょっと気取って見せるときの キメのポーズであり,プロのモデルが「休め」の姿勢でキメているポーズであ る。これを士Formalとする。残りの一角を占めるのは,柔道選手や力士といっ た格闘家,あるいは男を売り物にする仁侠道の人たちが示す構えの姿勢だ。手 は両脇を少し離れて軽く彎曲し,両足はそろえずに開いている。この姿勢はカ 強さを誇示しており,全身に緊張感がみなぎっている。これを平F

ormalとす

る 。

以上の四つをまとめて図にしたものが「ポケットとスタイルの構造図」であ

る。この四つの姿勢は誰もがいつでも取りうる姿勢であり,ゆるやかに,あい

まいな形では「通常の状態」の中に含まれているものである。それらがより純

化 し 典 型 化 し て い く と き , +

Formal,  ‑Formal, 

Formal,Formal

の弁別特

徴をそなえた四つのパターンとなる。

(23)

【ポケットとスタイルの構造図】

通常の状態

ーー

ーー

ーー ーー

+Formal 

IFormal

[皇族,式典]</ ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑、、[格闘家]

// 

 

Formal ‑Formal 

[モデル,ポーズ] [リラックス,だらしなさ]

参 考 文 献

Collett,  Peter (2003) : THE BOOK OF TELLS, Doubleday, 

古川奈々子訳『うなずく人ほど,

うわの空』,ソニー・マガジンズ,

2004

Moris, Desmond (1977) : MANWATCHING, Elsevier  Publishing  Projects  SA, 

藤田統訳『マン ウォッチング』上,下,小学館,

1991

Moris, Desmond (1985) : BODYWATCHING, Equinox (Oxford) Ltd, 

藤田統訳『ボデイウォッ チング』上,下,小学館,

1992

牛田聡子

(1996): 

「被服による着装感情と自己の変容」,『被服と化粧の社会心理学』,北大 路書房,

pp.5276

小林祐子

(1991): 

『しぐさの英語表現辞典』,研究社

徳井淑子

(1998): 

16

世紀 形態と装飾」,『世界服飾史』,美術出版社,

pp.5462

参照

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