青年期の愛着スタイルがアイデンティティ危機に及ぼす影響
―児童期後期における両親の夫婦関係と母親の養育態度に注目して―
18003PCM 桂川 斐斗美
Ⅰ.問題・目的
青年期の発達課題としてアイデンティティの 確立が挙げられ,Erikson(1959 西平・中島訳 2011)によると,アイデンティティとは,個人の 内的な斉一性,連続性と,他者に対する自己の斉 一性,連続性が一致するという感覚であるとされ る。アイデンティティの確立は他者との関係性の 中で起こるとされ,関係性を考えるうえで,愛着 スタイルが影響を及ぼすと考えられる。他者に対 する不安感が低い愛着行動特徴はアイデンティ ティの確立を促進し,不安定はアイデンティティ の確立に負の相関があるとされる(Yijun,2011)。
安定型は対他調整をしながら自分の主観的安全 感に焦点をあてた愛着行動を行うことができ,危 機を乗り越えていくと考えられるが,不安定型は 対他調整にとらわれたり,相互作用を回避するた め愛着行動を行うことが難しく,アイデンティテ ィの危機を乗り越えることが難しいと考えられ る。青年期の愛着スタイルはそれまでの家族関係 や対人関係の中で形成されるため,本研究では青 年期の愛着スタイルに影響を及ぼす要因として,
児童期からの愛着スタイルの連続性や変化,およ びその過程における家族関係に注目する。児童 期・思春期では,友人と結びつくことで親から自 立する際に生じる不安が和らげられ,重要他者と して友人の存在が大きくなる(下條・種浦・花田・
永江,2012)。友人関係には愛着スタイルが問題 となると考えられ,児童期の精神的安定や学校適 応には家族関係が健全に機能していることが問 題となり,愛着スタイルにおいても児童期の養育 環境が影響を与えると考えられる。児童期から青 年期にかけて愛着スタイルが安定型で連続して いる者は,他者との安定した愛着関係をベースに アイデンティティの危機が低減されると考えら れる。そして養育環境として母親の心理状態や養
育態度には夫婦関係も影響し,間接的にも子ども の精神的不健康や問題行動に影響すると予想さ れている(菅原他,2002)。以上より研究1では 児童期の両親の夫婦関係および母親の養育態度 と子どもの愛着スタイルとの関連,そして児童期 から青年期にかけての愛着スタイルの連続性や 変化とアイデンティティ危機との関連について 量的な研究を行い,研究 2 では研究 1で見出さ れた関連について,両親の夫婦関係や母親の養育 態度と愛着スタイルの変化の観点から面接調査 による質的研究を行う。
Ⅱ.研究1 1.方法
調査協力者 大学生230名(男性53名,女性 177名:平均年齢=20.37,SD=.933)であった。
質問紙の構成 (1)中尾・加藤(2004)の一般 他者版愛着スタイル尺度(ECR-GO),(2)ECR- GOを児童期用に修正したもの,(3)長尾(1989)
の自我発達上の危機状態尺度 A 水準,(4)諸井 (1996)の夫婦関係満足尺度を子どもが回答する よう修正したもの,(5)小川(1991)の母親の養 育態度尺度(PBI日本版)を使用した。
2.結果と考察
児童期の愛着スタイルを独立変数,両親の夫婦 関係,母親の養育態度を従属変数とした一元配置 分散分析を行った。その結果,「夫婦の関係全体 の良さ」(F(3,226)=3.03,p<.05),「養護」(F
(3,226)=5.50,p<.01),「過保護」(F(3,226)
=7.46,p<.001)に有意差がみられ,多重比較の 結果,愛着スタイルが安定型の方が「夫婦の関係 全体の良さ」が高く,恐れ型であるほど養育態度 の無関心・拒否の傾向が高くなり,安定型である ほど自主・独立の促しが高くなることが示された。
次に,青年期の愛着スタイルを独立変数,青年期
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のアイデンティティの危機を従属変数とした一 元配置分散分析を行った。その結果,「親とのア ンビバレンス」(F(3,226)=5.55,p<.01),「自 己収縮」(F(3,226)=116.43,p<.001),「同一 性拡散」(F(3.226)=16.16,p<.001),「自己 開示対象の欠如」(F(3,226)=57.59,p<.001)
において有意差がみられ,多重比較の結果,恐れ 型は「親とのアンビバレンス」,「自己収縮」,「同 一性拡散」,「自己開示対象の欠如」が他の愛着ス タイルより有意に高く,安定型は有意に低くなる ことから,見捨てられ不安と親密性の回避が高く なることでアイデンティティの危機が高くなる ことが示された。そして,児童期と青年期の愛着 スタイルを安定型-不安定型および連続-不連 続で4群に分類し,その4群を独立変数,アイデ ンティティの危機を従属変数とした一元配置分 散分析を行った結果,「親とのアンビバレンス」
(F(3,226)=6.30,p<.001),「自己収縮」(F(3,
226)=33.02,p<.001),「同一性拡散」(F(3,
226)=8.40,p<.001),「自己開示対象の欠如」(F
(3,226)=27.26,p<.001)において有意差がみ られ,多重比較の結果,連続安定群(児童期から 青年期にかけて安定型)は,「親とのアンビバレ ンス」,「自己収縮」,「同一性拡散」,「自己開示対 象の欠如」が低かった。児童期から青年期の愛着 スタイルが安定している者ほどアイデンティの 危機が低くなることが示された。以上より,児童 期に両親の夫婦関係が良好で,母親の養育態度が 自主・独立を促す場合は愛着スタイルが安定型と なり,青年期にかけて安定型が維持されることで アイデンティティの危機状態が低くなることが 示唆された。
Ⅲ.研究2 1.方法
調査協力者 研究 1 の質問紙調査実施の際に 面接協力を承諾した 16 名(男性 2名,女性 14 名:平均年齢=19.87,SD=.957)であった。
手続き 児童期後期から現在にかけての母親 との関係および友人関係について尋ねる30分か ら40分程度の半構造化面接を行った。
2.結果と考察
アイデンティティの危機状態の高群低群とも に青年期の母親の養育態度には自立に向けた関 わりがみられた。低群はそれに加え必要に応じて コミュニケーションを取るなど母親からの養護 的関わりや応答性がみられた。しかし高群は母親 からの養護的関わりおよび応答性の乏しさがみ られた。高群の連続不安定群(児童期から青年期 にかけて不安定型)の母親の養育態度は,児童期 の過保護,統制から青年期には自立を促す関わり へと変化するものの,応答性の低さから青年期に 母親から見捨てられたと認知され不安定型が維 持されるのではないかと考えられる。また低群の 連続安定群の母親の養育態度は,児童期では子ど もの行動を適切に統制しつつ,青年期で自立を促 す関わりに変化することに加え養護的関わりが みられるようになり,青年が見守られていると認 知できるような養育態度に変化することで安定 型が維持されるのではないかと考えられる。以上 より,母親の養育態度が自主・独立を促す態度に 加えて,情緒的応答性がみられることで青年が見 守られていると認知でき,愛着スタイルの安定型 の維持につながると考えられる。反対に自主・独 立を促す関わりがみられても,母親の情緒的応答 性が低い場合には不安定型が維持されると考え られ,その結果,危機状態が高くなるのではない かということが示唆された。
Ⅳ.総合考察
児童期における両親の夫婦関係および母親の 養育態度が児童期の愛着スタイルに影響し,その 後,青年期にかけて母親の養育態度が自主・独立 を促す態度に変化するとともに,養護的であるこ とが愛着スタイルの安定型を維持することにつ ながり,危機状態が低くなることが示唆された。
他方,児童期において愛着スタイルが不安定型で あっても青年期に安定型に変化することにより,
危機状態が低くなる者も研究 1 でみられたこと から,思春期・青年期にかけて愛着スタイルを安 定させることが重要であると考えられ,青年期の 支援における愛着の重要性が示唆された。
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