論 文
スポンサーシップとブランド知識 の関係に関する文献研究
涌 田 龍 治
要旨 本稿の目的は,Keller(1998)によるブランド知識に沿って,スポン サーシップ研究のこれまでの知見を整理し,その課題を理論的に導き出すこと にある。ここでは次の課題が導き出される。すなわち,スポンサーシップを行 う企業のブランドイメージは,対象となるイベントのイメージとユニークさの 点で似通っているほうが向上するのか,それとも異なっているほうが向上する のかという課題である。これが明らかになれば,ブランド認知に関連する次の 問題をも解くことができよう。すなわち,スポンサーシップを行う企業間のブ ランド認知に差が生じるのはなぜかという問題である。この問題は上記課題に 包摂されているからである。
キーワード:スポンサーシップ,ブランド知識,マーケティング・コミュニ ケーション
目 次
1.諸 言
2.ブランド認知とスポンサーシップ 3.ブランドイメージとスポンサーシップ 4.おわりに
1.諸 言
本稿の目的は,Keller(1998)によるブランド知識に沿って,スポンサーシ ップ研究のこれまでの知見を整理し,その課題を理論的に導き出すことにある。
ここでは,スポンサーシップを行う企業のブランドイメージは,対象となるイ
出典:(左)神戸市市民参画推進局広報課ホームページ
(右)Fuji Rock Festival ʻ13ホームページ
図ઃ スポンサーシップの一例(インタビューボードと公式グッズ)
ベントのイメージとユニークさの点で似通っているほうが向上するのか,異な っているほうが向上するのかという課題が導き出される。これが明らかになれ ば,ブランド認知の領域で残された次の問題も解くことができるようになるだ ろう。すなわち,スポンサーシップを行う企業間のブランド認知に差が生じる のはなぜかという問題である。上述の課題は,異なる領域で残された問題を同 時に解くことのできる,収斂された課題である。
近年,スポーツや音楽などのイベント会場に行くと,さまざまな企業の広告 が並び,そうした企業関係者が優先的に使える座席が用意され,彼らの提供す る商品パッケージにはイベントのロゴが並列されていることを目にする(図ઃ
参照)。このようなマーケティング活動は,スポンサーシップと呼ばれており,
商業的目的を達成するために,スポーツ,音楽,お祭り,フェア,芸術活動全 般などの,ある活動に対して金銭あるいは物品で企業が支援することと定義さ れている(Meenaghan, 1983)。Meenaghan(1995)によれば,スポンサーシップ は,市場競争で生き残るための手段として1980年ごろから展開されてきたとい う。
このような展開は,多くの企業がブランド・エクイティの構築を目指し,
マーケティング・コミュニケーションの一手段としてスポンサーシップを用い たためであると考えられてきたようである(Cornwell et al., 2005)。じっさい,
スポンサーシップを行った多くの企業は,それが自社ブランドの向上の一手段 だったと答えている報告もある(IEG, 2003)。また,Lough et al.(2000)によれ ば,北米の多くの企業がスポンサーシップに自社ブランドの優位性向上を求め ている,と報告している。
そのため,次のように捉えると,これまでのスポンサーシップ研究の知見を 理解しやすくなるであろう。すなわち,これまでの研究の多くはブランド・エ クイティ概念と密接にかかわりながら,いわば上記の実務的な要請に沿う形で 展開されてきた,という捉え方である。事実,近年のスポンサーシップ研究を 包括的にレビューした辻(2011)も,ブランド認知やブランドイメージといっ た概念を別項に立てることで,きわめてわかりやすくこれまでの研究知見を説 明している。ここで鍵概念となるブランド・エクイティとは,Keller(1998)
のいう概念のことであり,「特定のブランドのマーケティングに反応するとき に表れる,そのブランドに関して消費者が持っている知識の差による効果」の ことである。彼によれば,その源泉は「消費者の知覚に生じる知識」であるブ ランド知識にある。ブランド認知やブランドイメージとは,このブランド知識 の下部構成概念である。
Keller(1998)のいうブランド知識は,消費者行動研究や広告研究での膨大 な実証知見から導き出された(Keller, 1993)。大胆にいえば,ブランドや広告に 対峙した消費者に直接尋ねることで明らかになった,その反応の傾向といえる だろう。そのため,スポンサーシップ研究も,ブランド知識を明らかにした実 証研究と類似した調査を行うことで知見を積み重ねてきたと捉えることができ るはずである。
このように,これまでのスポンサーシップ研究の多くは,Keller(1998)の いうブランド知識をベースにしながら整理することができそうである。その理 由は,第に,ブランド・エクイティを構築したいという企業の実務的要請が あったからであり,第に,実証知見を明らかにするための調査方法に親和性 があったからである。もしこれが正しければ,Keller(1998)によるブランド 知識に沿ってスポンサーシップ研究の知見を整理すると,未だ実証できてない 箇所を明白にすることができるはずである。そうすれば,スポンサーシップ研 究の残された課題も浮上するであろう。本稿で示したいひとつの点は,この点 である。
しかし,これまでのスポンサーシップ研究は,ブランド知識を十分に吟味す ることなく受け入れてきたようである。少なくとも,これらの研究をレビュー
した涌田(2004)や辻(2011)の研究では,なぜこれらの研究がブランド知識
をベースにしてきたのかについて言及していない。そのために,導き出される 課題はどちらも,レビュー段階でブランド知識への影響が未だ実証されていな い部分であるとされてきた。もちろん,未実証の部分について研究を進めるこ とは重要である。けれども,Keller(1998)のブランド知識の構造を丁寧に吟 味することで,そうした未実証部分の間の連関を明らかにしておくことも同様 に重要であろう。なぜならば,この連関がわかれば,これまで単に列挙されて いた複数の課題は,より少ない課題へと収斂させることができるからである。
本稿で示したいもう一つの点は,この点である。
以下では,まず,Keller(1998)のブランド知識を簡単に説明した上で,ブ ランド認知に関連するスポンサーシップ研究を整理し,課題を導き出す(第 節)。次に,ブランドイメージに関連するスポンサーシップ研究を整理し,課 題を導き出す(第節)。最後に,結論をまとめ,本稿の限界を述べる(第節)。
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Brand Awareness
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Brand Image ࡉࡦ࠼⍮⼂
Brand Knowledge
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出典:Keller(1998)を基に筆者作成
図 ブランド知識の構造(○は潜在変数,□は観測変数)
2.ブランド認知とスポンサーシップ
2 - 1.Keller(1998)のブランド知識
Keller(1998)のいうブランド知識は,図のように,つの下部構成概念 で構成されている。ブランド認知とブランドイメージである。ブランド認知と は,当該ブランドを消費者が知っている程度である。この認知は再認と再生と いう二つの観測によって測定される。再認とは,いくつかあるブランドのリス トから,該当のブランドを消費者に選んでもらうという観測方法である。再生 とは,そうしたリストが提示されないまま,該当のブランドを消費者に思い出 してもらうという観測方法である。一方,ブランドイメージとは,当該ブラン ドに対して消費者が思い描く連想である。このイメージは,強さ,好ましさ,
ユニークさという軸に沿って観測される。強さとは,再生や再認がどれほど迅 速になされるか,その速度のことである。好ましさとは,好ましいと思う程度 のことである。ユニークさとは,他とは異なる独自性の程度のことである。消
費者がブランドを連想した場合に,強さ,好ましさ,ユニークさがどれほどあ るのかによって,ブランドイメージに差が生じ,それゆえブランド知識に差が 生じることになる。
2 - 2.再認による観測結果
スポンサーシップの初期の研究はブランド認知に注目した。まずは,再認に よる観測が行われた。具体的には,イベントの会場に並んでいる看板にどれほ どの人々が気づいたのか,という問題から解かれていく。この研究が嚆矢とな り,続いてイベント開催の前後で看板に気づいた人々の割合が変化するかどう かという問題が解かれる。さらに,定期的に開催されるイベントの場合はどう かという問題が解かれる。以上が再認による観測で解かれた問題である。次に,
再生による観測も行われるようになる。イベント開催の前後でスポンサーシッ プを行った企業を思い出せる人々の割合が変化するかどうかという問題が解か れる。続いて定期的に開催されるイベントの場合はどうかという問題が解かれ る。以上が再生による観測で解かれた問題である。以下では,それぞれについ て具体的に整理していく。
スポンサーシップ研究の嚆矢となった研究は,Stotlar & Johnson(1989)の 研究である。彼らはイベントの会場に並んでいる看板にどれほどの人々が気づ いたのか,という問題に取り組んだ。具体的には,NCAA(National Collegiate Athletic Association)のスポーツ競技会を対象に調査を行った。調査の結果,会 場内に並んでいる看板に気づいた観客は62〜77%であったと報告した。平均的 な屋外広告の認知が70%であることと比較して,イベントの会場に並んでいる 看板は屋外広告とほぼ同じ程度の認知率である,と彼らは解釈している。同様 の研究は,Cuneen & Hannan(1993)でも行われた。彼らは LPGA(Ladies Professional Golf Association)のゴルフの競技会を調査の対象とした。調査の結
果,451人の観客の98%が看板に気づいた,と報告した。
これら二つの研究は,スポンサーシップが屋外広告と同程度に(ないしは,
それ以上に)効果のあるマーケティング・コミュニケーション手段であること
を示した。消費者である観客は,イベントの会場に並んでいる看板を再認でき たからである。しかも,その割合は,屋外広告の場合と同じ程度であったから である。
しかし,上述の報告の認知率が高かったのはそもそも観客が会場に来る以前 から看板やロゴを提示した企業になじみがあったのではないか。続いて,この 疑問に対する答えが報告される。そこでは,イベントが開催される前後で人々 の認知がどのように変化したのかが調査された。
Hitchen(1995)は,1992年スペインのバルセロナで開催されたオリンピッ ク大会の前後で,企業がスポンサーシップを行っていることに気づいたかどう かを調査した。調査の結果,大会開催以前に当該企業がスポンサーシップを行 っていることに気づいていたという回答者は回答者全体の%であったのに対 し,大会開催以降に同じ企業がスポンサーシップを行っていることに気づいた という回答者は回答者全体の10%に達した。すなわち,イベントが開催される と,スポンサーシップを行う企業を再認する人々の割合は高まったのである。
しかし,Hitchen(1995)の調査は,大会前の調査が1991年月になされ,
大会が1992年月から月にかけて開催され,大会後の調査が1992年月と 1992年月になされていた。そのため,実はこの結果は,オリンピック大会と いう大きなイベントの短期的な効果に過ぎないのではないかという批判があが った。とりわけ,定期的に開催されるイベントの場合は,そのような効果は見 られないのではないかという疑問が呈されたのである。
そこでさらに,定期的に開催されるイベントの場合はどうかという問題が解 かれる。Rajaretnam(1995)による研究である。彼は MRF というインドの自
動車メーカーを1983年から1987年までの間という比較的長期にわたり調査した。
MRF 社は,1987年までに国民大会(National Games)や SAF 大会(SAARC Athletic Federation Games)のようなインドのスポーツイベントでスポンサーシ ップを行っていたからである。具体的には,3,450人の回答者に,ヒントを何 も与えない非助成法と呼ばれる方法によって MRF 社の認知について尋ねた。
1984年の時点では39%の認知にしかすぎなかったが,1985年は72%,1986年は 70%,1987年は76%となった。彼はこの結果を,MRF 社のスポンサーシップ の成果であると結論づけている。
以上から,再認による観測を行った研究からは,スポンサーシップがおおむ ねブランド認知に肯定的な影響を与えていることが明らかにされてきた。その 後の同様の研究でもおおむね同じ結果が示されている(たとえば,Shilbury &
Berriman, 1995; Pitts, 1998; Sparks, 1999)。つまり,イベント会場に看板を提示す ると観客の認知を高める場合がたしかに存在したのである。
2 - 3.再生による観測結果
これまで見てきたように,イベント会場に看板を提示すると観客の認知を高 める場合がたしかに存在した。しかし,それはイベントの開催が単に観客の注 意深さを喚起することになっただけではないか。すなわち,スポンサーシップ を行っていない企業であっても,イベントに参加した観客は注意深くなって認 知を高めてしまうのではないか。再認による観測が,スポンサーシップを行っ ていない企業の認知を測定していなかったために生じた疑問である。そこで,
再生による観測の研究では次の二つの問題に取り組むこととなった。第は,
イベント開催の前後でスポンサーシップを行った企業を思い出せる人々の割合 が変化するかどうかという問題である。第に,定期的に開催されるイベント の場合はどうかという問題である。
Otker & Hayes(1995)は,1986年にメキシコで開催されたサッカーワール ドカップの大会を対象に調査を行った。具体的には,国際サッカー連盟と契約 を結んで,スポンサーシップを行った企業の名前を大会前後で思い出してもら うことで調査した。スポンサーシップを行った企業を大会開催前に思い出した 回答者数を100としたところ,スポンサーシップを行った企業を大会開催後に 思い出した回答者は186であった。さらに,国際サッカー連盟と契約は結んで おらずスポンサーシップを行うことのできない企業を,大会開催後に誤って思 い出した回答者は68であった。この結果からすると,イベントの開催が観客の 注意深さを単に喚起することになったということはできない。スポンサーシッ プを行った企業の認知だけが高まったからである。したがってスポンサーシッ プは,それを実施した企業に対する観客の認知だけを高めていることが明らか となったのである。
むろん,再認の場合と同様に,調査期間の疑問も呈された。Otker & Hayes
(1995)の調査では,大会開催前の調査が月の上旬になされ, 月に大会が
開催され,大会開催後の調査が月の上旬になされたからである。そこで,
Quester & Farrelley(1998)は,定期的に開催されるイベントの場合はどうか という問題に取り組んだ。
彼らは,オーストラリアで毎年開催される自動車レースである F1 グランプ リのイベントを調査対象とした。調査期間は1993年から1996年までである。回 答者には,非助成法によって F1 グランプリから思い出されるブランドを列挙 するよう求め続けた。ところが,回答者によるブランドの認知は経年的に高ま ることはなかった。再認の場合の Rajaretnam(1995)による研究とは異なって,
定期的に開催されるイベントの場合,スポンサーシップはそれを実施した企業 に対する観客の認知だけを高めているわけではないことが明らかにされたので ある。
しかし,この結果はそれほど大きな驚きをもたらしたわけではなかった。再 生による観測を用いたほかの研究でも,たしかに観客の認知は高まっていたけ れども,その上昇率には差があったためである(Stotlar, 1993; Sandler & Shani, 1993; Ishikawa et al., 1996; Kinney & McDaniel, 1996)。たとえば,Crimmins &
Horn(1996)の研究では,次のことが明らかとなった。すなわち,1992年スペ
インのバルセロナで開催されたオリンピック大会でスポンサーシップの策を講 じた VISA,セイコー,J. C. ペニーの社はたしかに観客の認知を高めたけれ ども,前社は J. C. ペニーよりも大きく認知率を上昇させたのである。なぜ 同じスポンサーシップの策を講じたのにもかかわらず,認知率の上昇に差が生 じたのだろうか。
さらに彼らは,次のようなインパクトのある調査結果も示している。調査の 対 象 は,ア メ リ カ ン フッ ト ボー ル の リー グ で あ る NFL(National Football
League)であった。調査の結果によれば,NFL と契約を結んだコカ・コーラ
はスポンサーシップを実施したにもかかわらず,契約を結んでいないペプシコ とほぼ同程度の認知しか達していなかったのである。
以上のように,再生による観測を用いた研究からは,スポンサーシップが観 客の認知をたしかに高める効果をもつものの,その上昇率には大きな差がある ことが明らかとなった。これらの報告は,その後の研究の関心をブランド知識 のもうひとつの下部構成概念であるブランドイメージへとシフトさせることと なる。というのも,このような差は,ほとんど同じスポンサーシップの策を講 じた企業同士でも見られたからである。つまり,認知に差が生じたのは観客が 知覚したブランドイメージに差があったからではないかと疑われたのである。
ここまで,Keller(1998)によるブランド知識に沿って,ブランド認知とス ポンサーシップの関係を明らかにした先行研究を見てきた。再認による観測を
用いた研究からは,スポンサーシップがおおむねブランド認知に肯定的な影響 を与えていることが明らかにされてきた。一方で,再生による観測を用いた研 究からは,スポンサーシップが観客の認知をたしかに高める効果をもつものの,
その上昇率には大きな差があることが明らかとなった。したがって,この領域 における研究課題は,スポンサーシップを行う企業間のブランド認知に差が生 じるのはなぜかに答えることである,といえるだろう。
このように,ブランド認知とスポンサーシップの関係をめぐる議論は,スポ ンサーシップを行う企業間の認知の差に収斂してきた。さらに,この議論は,
認知に差が生じたのは観客が知覚したブランドイメージに差があったからでは ないかと疑われた。すなわち,ブランドイメージとスポンサーシップの関係を めぐる議論へと収斂していくことになる。
3.ブランドイメージとスポンサーシップ
3 - 1.ブランドイメージの好ましさ
第節で示したように,ブランドイメージとは,当該ブランドに対して消費 者が思い描く連想である。このイメージは,強さ,好ましさ,ユニークさとい う軸に沿って観測されるが,強さとは,再生や再認の速度のことであるため,
第節で議論したのでここでは論じない。本節では,好ましさ,ユニークさの 順にこれまでの研究を整理する。
ブランドイメージとスポンサーシップの関係を明らかにした初期の研究は,
認知に差が生じたのは観客が知覚したブランドイメージに差があったからでは ないかという第節で論じたような疑問に答える形でスタートした。じっさい,
Javalgi et al.(1994)は,観客のブランド認知の差がブランドイメージの好ま しさの差と関連していると報告した。具体的には,いくつかのブランドイメー ジを,①いい製品やサービスを持っている,②よく管理されている,③ただ金
を稼ぎたがっている,④地域に関与している,⑤消費者のニーズに応えている,
⑥いい会社として機能しているという つの軸で測定し,看板に気づいた観客 と気づかなかった観客とで,好ましさに差があるかどうかを検証した。その結 果,看板に気づいた観客のほうがブランドイメージの好ましさはおおむね高か ったのである。
また,Nicholls et al.(1999)も,ブランド認知の差がブランドイメージの好 ましさの差によるかどうかを検証している。彼らは,ゴルフとテニスという異 なるスポーツ競技の大会を調査対象にした。そこでは,好ましいブランドイ メージをもつブランドほど,認知率が高いことが明らかとなった。
さらに,同様の結果を Pope & Voges(2000)も示している。彼らは,スポ ンサーシップを行っている企業のブランド認知がブランドイメージの好ましさ に影響を受けることを実証した。さらに,彼らの示したモデルでは,この好ま しさは製品の購入意図にも影響を及ぼすことが明らかとなっている。
その後の研究でも,スポンサーシップの策を講じた場合のブランド認知の差 がブランドイメージの好ましさの差を先行要因としている,という見解でおお むね一致しているようである(たとえば,Pope, 1998; Hoek, 1999; Kropp et al., 1999;
Daneshvary & Schwer, 2000)。それゆえ,ブランド認知の研究と同様の問題が指 摘されることとなった。すなわち,ブランドイメージの好ましさに差が生じる のはなぜかという問題である。じっさい,同じ策を講じている企業同士にもか かわらず,ブランドイメージの好ましさに差が生じたことも報告されたのであ る(Turco, 1994)。
実はこの問題は,初期の Javalgi et al.(1994)の研究でも指摘されていた。
彼らは,観客のブランド認知の差がブランドイメージの好ましさの差と関連し ていると報告すると同時に,次のような特徴も見つけていたのである。すなわ ち, つの軸で測定したブランドイメージの得点の高いブランドの場合には,
スポンサーシップはブランドイメージの好ましさを高める機能をもつけれども,
得点の低いブランドの場合には,スポンサーシップはブランドイメージの好ま しさを低める機能をもつ,ということである。つまり,好ましさの差自体もス ポンサーシップによって変化するというのである。
さらに,Stipp & Schiavone(1996)は,ブランドイメージの好ましさの差が イベントのイメージのユニークさとブランドイメージのユニークさとの結びつ きの度合いによって変化すると報告している。彼らは,1992年スペインのバル セロナで開催されたオリンピック大会を調査対象とした。具体的には回答者に,
①回答者がスポンサーの製品を買う時,オリンピック大会に個人的に貢献して いると感じるか,②スポンサーは値打ちのある社会貢献に関わる責任のある企 業であるか,③当該企業のオリンピック大会のスポンサーシップは選手の技能 を卓越させているか,④スポンサーは国際親善というオリンピック大会の理想 を支持しているか,以上のつの質問を行った。この質問から得られたブラン ドイメージの好ましさが,どのような先行要因によって左右されるのかを明ら かにした。その結果,ブランドイメージの好ましさは,第に,ブランドのテ レビ CM の評価に関連すること,第に,オリンピック大会のイメージのユ ニークさとブランドイメージのユニークさとの結びつきの強さに影響されてい ることが明らかとなった。
以上のように,ブランド認知とスポンサーシップの関係を明らかにした研究 で議論された認知の差は,ブランドイメージの好ましさの差によるという見解 が得られることとなった。さらに,この好ましさの差の先行要因は,次のよう な仮説に収斂されることとなった。すなわち,スポンサーシップの策を講じる 企業のブランドイメージとイベントのイメージとの結びつきが強ければ強いほ ど好ましさは高まるのではないか,というものである。これにより,スポン サーシップ研究の焦点は,ブランドイメージのユニークさという次元へと展開
されていく。
3 - 2.ブランドイメージのユニークさ
ブランドイメージのユニークさを論じる前に,このユニークさという軸につ いて改めて確認しておくことがある。それは,ユニークさという軸が,イメー ジの内容を伴うため,比較が難しいという特徴をもつ,ということである。言 い換えれば,強さや好ましさは差として表れるけれども,ユニークさは差とし て表れない場合がある。たとえば,Keller(1998)は,タバコの「バージニ ア・スリム」と「マルボロ」を例にあげて次のようにいう。前者のイメージが 女性的,後者のイメージが男性的である場合,どちらがユニークだろうか,と。
つまり,ユニークさは差として表れにくい場合があるのである。
このような特徴があるために,ブランドイメージのユニークさとスポンサー シップの関係を明らかにした研究には,二つの対立する命題が併存している状 況にある。ひとつは,前述したように,スポンサーシップの策を講じる企業の ブランドイメージのユニークさとイベントのイメージのユニークさとが類似し ていればしているほど当該ブランドイメージの好ましさは高まる(それゆえ,
認知も高まり,ブランド知識が豊富になる)という命題である。もうひとつは,ス
ポンサーシップの策を講じる企業のブランドイメージのユニークさとイベント のイメージのユニークさとが異なっていればいるほど当該ブランドイメージの 好ましさは高まる(それゆえ,認知も高まり,ブランド知識が豊富になる)という 命題である。
前者のスタンスをとる研究は,Ferrand & Pages(1996)(1999)の一連の研 究である。彼らは,イベントとブランドおよび二つのスポンサーシップを300 ほどの属性に分解し,回答者に評価を求め,その結果を主因子法によって代表 するから の因子にまとめた。それらを回帰分析し,次のような知見を得た。
ブランドイメージのユニークさとイベントのイメージのユニークさとが一致し ていると消費者に知覚される場合,ブランドイメージの好ましさが高まる。
また,同じスタンスをとる研究は,Milne & McDonald(1999)の研究であ る。彼らは,ブランドのもつパーソナリティ(ユニークさ)がイベントのもつ パーソナリティ(ユニークさ)と一致していると,スポンサーシップ自体がよ く適合していると観客に感じられるために,結果としてブランドイメージの好 ましさが高まるという結果を得ている。
その後の研究でも,ブランドとイベント,両者の結びつきが強ければ強いほ ど,好ましさが高まると報告された(Astous & Bitz, 1995; Musante et al., 1999; 涌
田 2002; 山口ら,2010)。すなわち,スポンサーシップの策を講じる企業のブラ
ンドイメージのユニークさとイベントのイメージのユニークさとが類似してい ればしているほど当該ブランドイメージの好ましさは高まる(それゆえ,認知も
高まり,ブランド知識が豊富になる)という命題が提示されてきたのである。
ところが,それとは逆の命題を示す研究も存在する。たとえば,Gwinner
(1997)の研究がそれである。彼は,McCracken(1989)の Celebrity Endorse- ment Model を援用して,イベントのイメージとブランドのイメージとが異な っていても,やがて,前者が後者に転移していくので,ブランドイメージの好 ましさが高まっていくという仮説を提示したのである。
この仮説を検証した研究が,Meenaghan(1999)の事例研究である。ここで は,当初,ブランドイメージのユニークさとイベントのイメージのユニークさ とが異なっているからこそ,ブランドイメージは新しいイメージを獲得し,好 ましさを高めることを示した。その事例として,彼は,バークレー銀行のイギ リスのサッカーリーグ大会へのスポンサーシップ,タバコ企業メンフィスのサ ッカー競技へのスポンサーシップ,および,家電企業フィリップスのロックバ ンド歌手へのスポンサーシップを挙げている。バークレー銀行の事例では,当
初,「古臭く保守的な」ブランドイメージを有していたバークレー銀行が,ス ポンサーシップによって「近代的で冒険を好み英国文化への貢献が高い」とい うブランドイメージを獲得し,観客の好ましさを改善したことを示した。メン フィスの事例でも同様に,スポンサーシップによって「男性的でダイナミック な」ブランドイメージを獲得し,観客とりわけ若者からの好ましさを改善した ことを示している。
以上のように,ブランドイメージのユニークさとスポンサーシップの関係を 明らかにした研究には,二つの対立する命題が併存している状況にある。スポ ンサーシップの策を講じる企業のブランドイメージのユニークさとイベントの イメージのユニークさとが類似していればしているほど当該ブランドイメージ の好ましさは高まるという命題がひとつである。もうひとつは,スポンサーシ ップの策を講じる企業のブランドイメージのユニークさとイベントのイメージ のユニークさとが異なっていればいるほど当該ブランドイメージの好ましさは 高まるという命題である。
ここまで,Keller(1998)によるブランド知識に沿って,ブランドイメージ とスポンサーシップの関係を明らかにした先行研究を見てきた。ブランドイ メージの好ましさとの関係を明らかにした研究からは,スポンサーシップによ るブランド認知の差がブランドイメージの好ましさの差によることが明らかに されてきた。さらに,この好ましさの差はブランドとイベントのユニークさの 一致度合を先行要因とするのではないか,という議論へ収斂してきた。しかし,
ブランドイメージのユニークさをめぐる議論では,ブランドとイベントのユ ニークさが一致するほど好ましさが高まるという命題が示される一方で,それ とは逆に,一致しないほど好ましさが高まるという命題も示されてきた。した がって,ブランド認知をめぐる議論の帰結も鑑みれば,ブランド知識とスポン
サーシップの関係を検討するための研究課題とは,次の課題に収斂していると いえるだろう。すなわち,スポンサーシップを行う企業のブランドイメージは,
対象となるイベントのイメージと似通っているほうが向上するのか,異なって いるほうが向上するのかという課題である。
4.おわりに
本稿は,Keller(1998)によるブランド知識に沿って,スポンサーシップ研 究のこれまでの知見を整理し,その課題を理論的に導き出すことを目的とした。
先行研究の整理の結果,その課題は次の一つに収斂されていることが明らかに なった。すなわち,スポンサーシップを行う企業のブランドイメージは,対象 となるイベントのイメージとユニークさの点で似通っているほうが向上するの か,異なっているほうが向上するのかという課題である。これが明らかになれ ば,第に,スポンサーシップを行う企業間において発生しているブランドイ メージの好ましさの差の要因が明らかになるだろう。続いて第に,スポン サーシップを行う企業間で発生しているブランド認知の差の要因が明らかにな るだろう。最終的に第に,スポンサーシップを行う企業間で発生しているブ ランド知識の差の要因が明らかになるはずである。以上が,本稿の結論である。
もちろん本稿にも限界はある。紙面の都合上,主たるスポンサーシップ研究 しか提示できていない。そもそも網羅的なレビューを行うことは本稿の目的で はなかった。しかしながら,より包括的な研究のレビューも必要である。この 点については稿を改めて論じたい。
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