氏 名 ・(本籍) 石岡 充彬(秋田県)
専 攻 分 野 の 名 称 博士(医学)
学 位 記 番 号 医博甲第 931 号 学 位 授 与 の 日 付 平成 29 年 3 月 22 日
学 位 授 与 の 要 件 学位規則第 4 条第 1 項該当 研 究 科 ・ 専 攻 医学系研究科医学専攻
学 位 論 文 題 名 Altered Gut Microbiota Composition and Immune Response in
Experimental Steatohepatitis Mouse Models
(脂肪性肝炎モデルマウスにおける腸内細菌叢と免疫応答の変化)
論 文 審 査 委 員 (主査) 教授 眞鍋 求
(副査) 教授 中永 士師明 教授 美作 宗太郎
Akita University
学 位 論 文 内 容 要 旨
Altered Gut Microbiota Composition and Immune Response in Experimental Steatohepatitis Mouse Models
( 脂 肪 性 肝 炎 モ デ ル マ ウ ス に お け る 腸 内 細 菌 叢 と 免 疫 応 答 の 変 化 )
申 請 者 氏 名 石 岡 充 彬
研 究 目 的
脂 肪 性 肝 炎 を は じ め 種 々 の 肝 疾 患 の 病 態 に 腸 内 細 菌 や 腸 内 免 疫 の 変 化 が 影 響 を 及 ぼ す と 考 え ら れ て い る が 、 詳 細 は 不 明 で あ る 。 そ こ で 我 々 は 、 食 餌 性 脂 肪 性 肝 炎 モ デ ル と し て 用 い ら れ る 高 脂 肪 食(HF)、 コ リ ン 欠 乏 食(CDAA)、 メ チ オ ニ ン-コ リ ン 欠 乏 食(MCD)各 種 ダ イ エ ッ ト モ デ ル マ ウ ス を 用 い 、 標 準 食(NC)を 与 え た マ ウ ス と 腸 内 細 菌 叢 を 比 較 し 、 脂 肪 性 肝 炎 の 病 態 の 鍵 と な る 腸 内 細 菌 の 解 明 を 目 的 と し た 。 ま た 、 炎 症 性 疾 患 を は じ め と す る 全 身 疾 患 の 病 態 形 成 に 重 要 な 役 割 を 果 た す と し て 近 年 注 目 さ れ る IL-17 に つ い て も 検 討 を 加 え た 。
研 究 方 法
8 週 齢 雄 性 WT マ ウ ス(C57BL/6)を 4 群(各 群 n=10)に 分 け 、 そ れ ぞ れ NC(3.42kcal/g)、
HF(5.06kcal/g)、CDAA(4.35kcal/g)、MCD(3.91kcal/g)を 8 週 投 与 し た 。 肝 ・ 腸 ・ 門 脈 血 を 回 収 し 、 脂 肪 性 肝 炎 の 重 症 度 に つ い て 生 化 学 的 お よ び 組 織 学 的 検 討 を し た 。 腸 内 細 菌 や 腸 管 免 疫 と 関 連 の 深 い IL-17 に つ い て も 検 討 を 加 え た 。 ま た 、 同 時 に 回 収 し た 糞 便 よ り 抽 出 ・ 精 製 し た DNA 溶 液 を 元 に 次 世 代 シ ー ク エ ン サ ー を 用 い て 各 種 脂 肪 性 肝 炎 モ デ ル マ ウ ス の 腸 内 細 菌 叢 を 解 析 し た 。 解 析 に は Roche 社 GS Juniorに よ る エ マ ル ジ ョ ン PCRを 用 い た パ イ ロ シ ー ク エ ン ス 法 と 、Illumina 社 Miseq に よ る ブ リ ッ ジ PCR を 用 い た DNA 合 成 シ ー ク エ ン ス の 両 方 法 を 用 い た(GS Junior を 用 い た 手 法 は デ ー タ 量 や コ ス ト 面 で 劣 る が 、ロ ン グ リ ー ド を 得 意 と し 、質 の 高 い 解 析 デ ー タ を 得 ら れ る 。一 方 で Miseq を 用 い た 手 法 で は 、GS Juniorと 比 較 し て リ ー ド 末 端 の 質 が 落 ち や す い 欠 点 を 持 つ が 、 安 価 に 膨 大 な デ ー タ 量 を 得 ら れ る 利 点 が あ り 現 在 の 主 流 で あ る )。
研 究 成 績
各 食 餌 投 与 に よ り NC、HF、CDAA群 は そ れ ぞ れ 23%、75%、25%の 体 重 増 加 を 示 し た 。一 方 で MCD群 は 35%の 体 重 減 少 を 示 し た 。組 織 学 的 に は HF で 単 純 性 脂 肪 肝 が 誘 導 さ れ 、CDAA お よ び MCD 群 で 脂 肪 性 肝 炎 が 誘 導 さ れ た 。ま た 脂 肪 化・炎 症 細 胞 浸 潤 の 程 度 は CDAA 群 で 最 も 強 く 、ALT 値 や 炎 症 性 サ イ ト カ イ ン 発 現 も CDAA 群 で 最 も 増 加 し た 。加 え て 、組 織 学 的 に は い ず れ の 群 に お い て も 肝 の 線 維 化 は 認 め な か っ た も の の 、CDAA 群 に お い て は 線 維 化 マ ー カ ー の 有 意 な 上 昇 を 認 め た 。 腸 内 細 菌 叢 の 主 成 分 分 析 で は 各 群 間 で 腸 内 細 菌 構 成 が 大 き く 異 な る 事 が 示 唆 さ れ た 。門 レ ベ ル で は Firmicutes門( グ ラ ム 陽 性 )お よ び Bacteroidetes門( グ ラ ム 陰 性 ) と で 全 体 の 85%以 上 を 占 め た 。Firmicutes/Bacteroidetes 比 ( F/B 比 ) は 、 肥 満 と 関 与 す る と の 報 告 が あ り 、HF 群 で は 既 報 と 一 致 し 、体 重 増 加 に 伴 い 著 明 な F/B 比 の 上 昇 を 認 め た が 、 CDAA、 MCD 群 で も 同 様 に F/B 比 の 上 昇 を 認 め た 。 よ り 下 位 の 階 級 へ 解 析 を 進 め る と 、 Firmicutes 門 は HF、CDAA、MCD 各 群 で 増 加 し て い た も の の 、 そ の 構 成 は 大 き く 異 な り 、 NC群 や 単 純 性 脂 肪 肝 の み で あ っ た HF 群 で は Lactobacillus や Lactococcus を 含 む 乳 酸 菌 群 が そ の 大 半 を 占 め た の に 対 し 、CDAA、MCD群 に お い て は そ れ ら 乳 酸 菌 群 の 減 少 が 顕 著 で あ っ た 。 ま た 脂 肪 性 肝 炎 が 最 も 顕 著 で あ っ た CDAA 群 で エ タ ノ ー ル 産 生 能 を 有 す る と さ れ る Clostridium phytofermentansの 増 加 を 認 め た 。一 方 、Bacteroidetes門 に お い て は 抗 炎 症 作 用 を 有 す る と の 報 告 の あ るParabacteroides goldsteiniiの 減 少 を 各 群 で 認 め た 。Firmicutes 門 、Bacteroidetes門 に 次 ぐ 構 成 要 素 で あ る Proteobacteria 門 は 全 細 菌 叢 に お け る 占 有 率 は 少 な い も の の 、 Toll-like Receptor 4( パ タ ー ン 認 識 受 容 体 の ひ と つ で 、 主 に グ ラ ム 陰 性 菌 由 来 の リ ポ ポ リ サ ッ カ ラ イ ド (LPS)を リ ガ ン ド と し 、脂 肪 肝 炎 の 病 態 と の 関 連 が 広 く 認 知 さ れ て い る )の リ ガ ン ド で あ る LPS 供 給 源 と し て 重 要 と 考 え ら れ 、脂 肪 性 肝 炎 を 示 し た CDAA、MCD 群 で Desulfovibrio vulgaris と Helicobacter hepaticus の 増 加 を 認 め た 。 ま た CDAA 群 で は 回 腸 Paneth 細 胞 に IL-17 は 発 現 増 加 を 認 め 、門 脈 血 中 IL-17 濃 度 も 上 昇 し た 。IL-17 に は ケ モ カ イ ン 誘 導 作 用 が あ る こ と か ら 、肝 マ ク ロ フ ァ ー ジ を IL-17 で 刺 激 す る と CXCL-2 な ど の ケ モ カ イ ン の 増 加 を 認 め た 。実 際 、CDAA 群 で は 肝 で の ケ モ カ イ ン 発 現 増 加 と マ ク ロ フ ァ ー ジ や 好 中 球 な ど の 炎 症 細 胞 増 加 を 認 め た 。
結 論
各 食 餌 性 脂 肪 性 肝 炎 モ デ ル マ ウ ス 間 で 腸 内 細 菌 叢 に 大 き な 違 い が あ り 、 特 に 最 も 脂 肪 性 肝 炎 が 顕 著 で あ っ たCDAA群 に お い て は 乳 酸 菌 群 や 抗 炎 症 作 用 を 持 つ と さ れ る Parabacteroides の 減 少 、エ タ ノ ー ル 産 生 菌 や LPS 産 生 菌 群 の 増 加 な ど を 認 め 、脂 肪 性 肝 炎 促 進 へ の 関 与 が 示 唆 さ れ た 。 ま た IL-17 シ グ ナ ル 経 路 を 含 む 腸 管 免 疫 の 変 化 も 病 態 へ の 関 与 が 示 唆 さ れ た 。
Akita University
学位(博士-甲)論文審査結果の要旨
主 査: 眞鍋 求 申請者: 石岡 充彬
論文題名:Altered Gut Microbiota Composition and Immune Response in Experimental Steatohepatitis Mouse Models.
(脂肪性肝炎モデルマウスにおける腸内細菌叢と免疫応答の変化)
要旨
申請者らは、脂肪性肝炎の発症基盤における腸内細菌叢の役割を解明するため、次世代シ ークエンサーを用いて食餌性脂肪性肝炎モデルマウスにおける腸内細菌叢を解析するととも に、腸管 Paneth 細胞における IL-17 発現様式を検討した。その結果、脂肪性肝炎が最も顕著 であったコリン欠乏食群では、(1)乳酸菌群や抗炎症作用を持つ菌が減少している、(2)エ タノール産生菌や LPS 産生菌群が増加している、(3)IL-17 の発現が回腸 Paneth 細胞におい て増強している、(4)門脈中 IL-17 濃度が上昇している、などの所見が得られた。これらの 所見は、脂肪性肝炎の発症基盤である腸管免疫の変化に、腸内細菌叢が重要な役割を果たし ていることを示唆するものである。
本論文の斬新さ、重要性、実験方法の正確性、表現の明瞭さは以下の通りである。
1)斬新さ
IL-17 は種々の全身性炎症性疾患との関連が報告されているが、NASH における報告はまだ ない。本研究の斬新さは,NASH モデルマウスにおいて腸管 Paneth 細胞および門脈血中で IL-17 の発現が亢進していることを初めて見出し、同時にこれらの変化が抗生剤投与により抑制さ れることも示すことで、腸内細菌叢の変化と IL-17 経路の関連性を結論づけたことである。
2)重要性
NASH 患者数の増加に伴い、NASH が今後肝細胞癌の発癌経路として重要性を高める中、その 発症メカニズムは未解明な部分が多く、また十分なエビデンスを持った治療法も確立されて いない。本研究において申請者が、脂肪性肝炎の発症基盤における腸内細菌叢の役割と IL-17 経路を介した腸管免疫の変化を解明したことは、新たな治療介入の糸口として、臨床的にも 有用性が期待できる点において重要であると考えられる.
3)実験の正確性
本研究は、糞便からの DNA 抽出・精製から次世代シークエンサーを用いた腸内細菌叢解析 に至るまで、様々な手法を用い再現性を確認している。これらの結果には統計学的検討が加 えられており,研究結果の妥当性を担保するに十分な客観性、正確性を有していると判断さ れる。
4)表現の明瞭さ
食餌性脂肪性肝炎モデルマウスにおける腸内細菌叢の変化と腸管免疫 IL-17 経路について、
その研究目的、方法、実験結果、考察を簡潔かつ明瞭に記載していると考える。
以上述べたように、本論文は学位を授与するに十分値する研究と判定された。