養護学校(精神薄弱児対象)における健康診断のすすめ方について
中村 朋子*・新家美恵子*
(1986年9月27日受理)
AStudy on Medical Examination in the Schools
for the Mentally Retarded
Tomoko NAKAMuRA*and Mieko SHINKA*
(Received September 27,1986)
1 はじめに
されていた子どもが就学することとなった。
そのため養護学校に就学する児童生徒の障害が重度化,重複化する傾向にある。1)
精神薄弱児の場合,自分自身の障害や疾病に対する自覚が乏しいこともあって,健康を管理する
能力に欠けているといわれている。2)また,精神薄弱児は,心身に様々な程度の疾病や異常を合併することが多く,抵抗力の弱さから
病気にかかりやすい傾向にある。このような児童生徒が,障害を改善させながら,健康を維持,増進させるために,学級担任,養 護教諭をはじめ,周囲の人々が,児童生徒の健康状態を適確に把握し,連携をはかっていくことが
必要である。児童生徒の健康問題は,毎日の健康観察,出欠状況,保健室に何らかの心身の症状の訴えをもっ
て来室した時,父兄からの健康相談,健康診断等から把握できる。本研究はこれらの健康問題の把握の中で健康診断にっいてとりあげた。
学校における健康診断は, 「学校保健法」に健康診断の項目,方法及び技術的基準等にっいて規 定されている。
養護学校における健康診断では,普通学校にみられるもののほか,特別のものが行われているの ではないか,また普通学校で行うより,詳しく行っているものもあるのではないか,測定,検査,
検診を行うにあたっては,体位の問題,検査に対する理解や反応の問題,医師,検査器具等に対す
*茨城大学教育学部教育保健学科
る恐怖などで実施しにくいことも多いのではないか。それらに対し,少しでも正確に健康問題を発
見把握するよう,さまざまな配慮,工夫がされていると思われる。発見された健康問題に対し,受診,治療,継続観察等をすすめる際にやりにくいこともあると思
われる。以上のような仮説のもとに,健康診断の実態を明らかにし,望ましい健康診断のあり方を検討し
ていきたい。H 調査対象と調査内容
1.調査対象と調査方法
全国の養護学校(精神薄弱児対象)の中から192校を抽出し,各学校の養護教諭に質問紙郵送調 査方法により,調査を依頼した。回収は124校の養護教諭126名。回収率は65.1%であった。
養護教諭の経験年数にっいて。養護学校での経験年数は1〜3年57名(45.2%), 4〜6年30名
(23.4%),7〜9年22名(17.5%),10年以上17名(13.5%)。
普通学校で養護教諭の経験のあったのは,79名(61.7%)であった。
2.調査内容
(1)健康診断のすすめ方にっいて(測定項目,回数,測定者,測定状況,校医等による検診にっ
いて)。実施上の問題点と解決方法,臨時健康診断の機会と内容,等。)(2)事後措置にっいて(健康診断で発見された健康問題,継続観察の対象となる疾患,継続観察
を行うにあたっての困難点,治療状況等)3.調査期間 昭和60年11月
4.調査対象校及び児童生徒にっいて
対象校は124校,学級規模は100人未満,62校(49.2%),100〜200人未満46校(36.5%),
200〜300人未満14校(11.1%)等であった。児童生徒数は合計14,422名。
知能指数IQについて,124校のうち回答のあった6,901人についてIQの分布は次のようだっ た。IQ40以下65.3%,41〜55,16.9%,56〜70,7.6%,71以上1.7%等。
児童生徒の中で精神薄弱のみ9,562名(66.3%),精神薄弱と肢体不自由1,987名(13.2%)等で あった。
皿 結果と考察
1.健康診断のすすめ方
1)各種健康診断の実施校数の割合
各種の健康診断をどのくらいの学校で実施しているか実態を回答してもらった。
④ 身体計測(身長,体重,胸囲,座高)
それぞれ100%近い実施率だった。後述するように測定に際しては多くの問題点があげられてい るが,各学校ごとにその問題点を解決するために工夫しており高い実施率をあげている。
② 視力,色覚
視力は,小学部85.1%,中学部87.0%,高等部93.5%,色覚はそれぞれ76.9%79.7%,81.8%
で,他の測嵐検査と比較して実施率は低い。また,測定状況では,全員が測定できる学校はわず
かであった。検査するにあたっての問題が多くあげられた。③ 聴 力
実施率は小学部70.2%,中学部72.4%,高等部76.6%で,視力,色覚の場合と同様に,実施困 難者が多いため,実施率が低くなっていると思われる。視力,色覚,聴力検査は,本人の知覚や,
表現力をある程度必要とする自覚検査のため,実施困難なものと思われるが,学年が進むにつれ実
施率は高くなっている。④ ツベルクリン反応検査
小学部95.9%,中学部95.9%,高等部93.5%で,ほとんどの学校で実施されている。
⑤尿,寄生虫卵検査
尿検査は,小,中,高等部9割以上が実施している。寄生虫卵検査は小,中学部が9割以上,高
等部は80.5%の実施率であった。⑥ 校医による検診
内科,耳鼻科,眼科,歯科検診とも9割前後の学校で実施している。校医による検診で,普通学 校より詳しく行っていると回答した例は,次下のようだった。治療等の回答もみられた。
毎年,心電図検査を全学年に実施。血圧測定。眼底検査。眼位の異常,屈折異常検査,視野検査 眼圧検査。後述する治療を受けにくい疾患では歯がもっとも多かったが,検診時に,う歯C1程度の 治療を行う。抜歯(歯根のみの簡単なもの),ふっ素塗布,歯みがきテスト等を行っていると回答
した学校もあった。検査時に治療まで行うためには,校医の理解や協力が必要であろう。
⑦ その他の検査,検診
①〜⑥以外で行っているものは以下のようである。
精神科検診は70校(55.6%)(検診内容は,問診,相談44校,脳波18校,視診・聴診5校等)
相談,問診,会話形式で検診をすすめている学校が多い。相談内容は,自閉的傾向,問題行動,
てんかん,教育的問題など多岐にわたり,保護者を同伴させている学校も多かった。精神科医を校
医としている学校は70%あった。整形外科検診は25.4%の学校で実施している。背柱の異常,運動機能検査,歩行異常,筋肉の萎
縮,等の検診があげられた。その他,脳性まひ,ジストロフィーなど個々の疾患にっいて検診を行
っているという回答もあげられた。
検査では,脳波検査遠城寺式乳幼児発達検査,狩野式運動機能検査等があげられた。
いずれも普通学校ではあまり行われていない検診,検査である。これらの検診,検査をすること により,より正確に児童生徒の健康状態を把握でき,健康管理に役立ることができよう。
2)健康診断の年間の実施回数(昭和60年度を中心として)
健康診断の実施回数にっいて60年度のものを回答してもらった。(実施予定も含めて)
全体的にみると,小学部,中学部,高等部の校種差はみられず,同じような割合だった。
① 身体計測
身長は年3回実施が各学部とも7割を越えており,1学期に1回の割合で測定している学校が多
かった。体重は,年間11回,12回測定する学校が7割を越えている。普通学校でも小学校では,毎 月体重測定を実施しているところが多いが,中学部,高等部においても毎月測定しているのは,養 護学校の特徴といえよう。胸囲,座高は年1回が5割,3回実施が3割近くみられた。
②視力,色覚検査
視力は年1回が小学部74.4%,中学部75.6%,高等部77.9%であった。年2回は各々1割であ
った。色覚は,小学校で1年と4年中学1年,高校1年で検査することになっている。当該学年で実施しているのは7〜8割であった。
③ 聴力検査
聴力検査は年1回が,小学部64.5%,中学部66.7%,高等学部70.1%であった。年2回は1割
以下であった。④ ッベルクリン反応検査,尿検査,寄生虫卵検査 ほとんどの学校が年1回実施していた。
⑤校医による検診
内科検診は,臨時健康診断も含めての回答が多く,年1〜3回が小学部で77.0%中学部74.8
%,高等部71.5%であった。年4〜6回は各々1割であった。毎月検診を行っている学校も2,3 校みられた。歯科検診はほとんどが年1回であった。
3)身体計測,検査の測定者について
普通学校では,養護教諭が中心となって身体計測や検査が行われることが多いが,養護学校では 児童生徒のことをよく知っている担任の協力が多いと思われる。身長体重,胸囲,座高,視力,
色覚,聴力検査について測定者を回答してもらい表1にまとめた。
表1 健康診断の測定者
種類 身長 体重 胸囲 座高 視力 色覚 聴力
測定者 n=124 n=123 n=123 n=124 n=125 n=125 n=125
担任が中心
11 (8.3)
6(4.5) 4(3.1)13 (10。0) 10 (7.1) 19 (13.0) 6 (5.3)
養教が中心 32*(241)
47(35.3) 53(41.1) 2 *(17.7) 86*(61.0) 79*(53.7) 52*(45.2)
担任と養教
61 45B 57(42.9) 47(36.4) 57*(43.8) 25*(17.7) 23*(15.6) 19*(16.9)
そ の 他 27 (203)
22(16.5) 22(17.1) 33 (25.4) 8 (5.7) 6 (4.1) 6 (5.2)
無 回答
2 (1.5) 1(OB)
3(2.3)4 (3.1) 12 (8.5) 20 (13.6) 32 (27.8)
( )内は% **1%水準で有意差あり
① 養護教諭が中心となって測定しているのは,視力,色覚,聴力検査だった。これらは他の検査 測定と比較すると,より専門的知識が必要と思われる。しかし,後述表4の工夫点にあげられてい
るように,測定時,または事前指導を行うためには,担任が大きく関与していると思われる。
② 担任と養護教諭が中心となって測定しているのは,身長,座高であった。
③ その他の測定者としては,保健部,担任外教員,保健体育科の教員などがあげられた。またど の教師が中心になって測定するということではなく,全職員で測定にあたっている学校が,身長,
体重,胸囲,座高に多くみられた。小,中,高等部別に回答のあった3校では,小,中学部では担 任や養護教諭が中心となり測定し,高等部ではその他の教員が中心となり測定していた。低学年の 場合,測定に対する恐怖等をやわらげるために,担任など日常接触する機会の多い担任が中心にな
って測定していると思われる。
4)測定状況
健康診断の種類によっては,測定困難者がいると思い,測定状況にっいて実態を回答してもらっ た。表2に身長,体重を,表3に視力,聴力にっいてまとめた。
表2 身長・体重の測定状況
種類 身 長 体 重
測定状況 学部
小n−121
中n=123 占局n=77小nニ121
中n=122高n−76
全員が実施できる115(95.0) 115(93.5) 73(94.8) 116(95.9) 116(95.1) 73(96.1)
約半数が実施困難者
2(1.7)
2(L6)0
1(α8) 1(OB) 0 無回答4(3.3) 6(4.9) 4(5,2) 4(3.3) 5(4.1) 3(3.9)
( )内は%
表3 視力・聴力の測定状況
種類 視 力 聴 力
測定状況 学部 小n=103 中n=107 高n−72
小n=85
中n=89 局n=59全員が実施できる
2(1.9)
15(140)23(31.9)
12(141)20(22.5) 23(39.0)
ほぼ全員が実施できる
7(6.8) 17(15.9) 10(13.9) 8(9.4) 12(13.5) 10(16.9)
約半数が測定困難者
52(5α5) 50(46.7) 28(3&9) 30(35,3) 34(38、2) 20(33.9)
ほとんどが測定困難者
22(31.1) 14(13.1)
3(42)30(35.3) 15(16.9) 3(5.1)
無回答
10(9.7) 11(10.3) 8(11.1)
5(59) 8(9つ)3(5.1)
( )内は%
① 身体計測
「全員が実施できる」と回答した学校がそれぞれ9割以上をしめている。後述のように,測定に 際し困難点は多くあげられているが,いろいろ工夫し,実施していることがわかる。
② 視力,色覚,聴力検査
実施校数の割合も7割ぐらいと低かったが,実施している学校の中でも「約半数が測定困難者」
「ほとんどの児童生徒が測定困難」と回答した学校の割合が高くなっている。各検査は,中学部,
高等部と学年が高くなるにっれ,「全員が実施できる」という回答が増加する傾向がみられる。学 年がすすむにっれ,検査を理解できる生徒が増えてくるためと思われる。
③ ツベルクリン反応検査,尿検査,寄生中卵検査
X線,ツベルクリン反応検査は,「全員が実施できる」は7〜8割であった。
尿,寄生虫卵の採集状況は, 「全員が実施できる」は7〜8割であった。この尿や糞便の採集は 家庭で実施するものなので,保護者あるいは施設等の協力が大きいものと思われる。
④ 校医の検診
内科の検診は「全員が実 表4 身体計測(身長.体重.胸囲.座高)の工夫点
施できる」は9割だった。
歯科検診は全員ができるが
やりにくい点 工 夫 点8割,ほとんどが実施でき
1.多動児童の拒否・静止 a 身長測定の工夫(44)るが0.15〜1割であった。 ができない(n=90)
Q。正常の立位・座位がと
。寝かせてメジャーで測定。仰臥位身長計
眼科検診,耳鼻科検診は8
れない (n=81) 。関節ごとに測定 a@体重測定の工夫(44)割が全員実施できるとして
。先生(親)といっしょに測定した後,先 カ(親)の体重を引くいる。いずれも学年がすす 。座らせて測定。カゴを利用
むにっれ増加の傾向がみら
。一瞬をねらって測定メ@ポイントを固定する・介助(39)
れた。 d 気持ちを落ち着かせる(3)
・ラポールをとる
5)各種健康診断の実施上
。せかしたりせず,雰囲気づくりに努める e ゆっくり時間をかける(3)の問題点と工夫点
f 測定は素早く行う(2)養護学校では,健康診断
g 声がけをしてできるだけじっとさせる(2)h 教師への事前打ち合わせの撤底(2)
を実施するにあたって,さ
1 その他(3)まざまな問題点があり,そ
3.左右の足の長さが違う@ (n=39)
a 常に同側を測定(7)
@・長い方を基準
の問題点に対して,多くの
4.測定器具に対する恐怖 a 教室の壁で測定(2)
工夫がなされ,全員実施, 身長計 (n=8) b 身長計に足形を書いた紙をはる(1)
メ@下着を身につけ,冷たい感じを与えない(1}
より正確な実施をめざして 体重計 d 担任が抱いて測定(1)
e カゴを利用(1)
いると思われる。 f 体重計に足形を書いた紙をはる(1)
各種健康診断について問
g その他(1)題点や,やりにくい点と, 5.測定をいやがる
@ (n;7)
a 友達の測定する様子を見せ,測定器具や ェ定のムードに慣れさせる(3)それらにっいてどのように b 情緒の安定したElに行う(2)
メ@なだめる(2)
工夫して実施しているか回
d 押さえて測定(2)答してもらいまとめた。 6.その他 (n=22)
@ 全体的
a 担任・その他の教師の協力(5)b 児童生徒の様子を見て,落ち着いている
〔1)身体測定にっいて 日に行う(4)
メ@事前指導(3)
問題点とそれに対する工
測定方法が理解でき d 担任より事前指導してもらう(1)ない
e 測定者がデモンストレーションをする(1)夫点を表4にまとめた。
保健室をいやがる f 教室で測定する(1)多動児童の測定拒否,正
集団参加がむずかしい゚服の着脱に時間がカg 比較的好状態を選んで個別に来室させる(1)h 計画をたてる時に,測定時間にゆとりを
常の立位,座位がとれない, かかる@その他
もってたてる(1)
P その他(5)
等が多くの学校であげられ
ている。
体重計の上で静止ができない児童生徒に対しては, 「体重計の上で気をっけができるように練習 させておく」「静止した一瞬をねらって測定する」などの工夫がみられた。
「その他」は, 「児童生徒の落着いている日に行う」「事前指導を行う」という工夫は,身体計測 ばかりでなく,すべての問題点に共通にいえることである。
(2)視力,色覚検査について
学校で使用している視力表は,試視力表(ひらがな,小児用)95校,国際標準視力表60校,その 他,単独視表(ランドルト環一っ),回転式視力検査器,○△口のカードやくだものの絵を視力表 のかわりに使用したり,工夫している。視力表をいくっか用意し,児童生徒の能力に合ったものを
使用していると回答したのは54校みられた。問題点としてあげられた
のは, 「視力表や色覚表を 表5 視力・色覚の工夫点 注視しない」「言葉がでな
い」「数字が読めない」(色 やりにくい点 工 夫 点 覚)」「どの程度みえている 1.視力表・色覚表を注視
@しない (n=90)
a 字ひとつ式を利用(1①
a@カード式にして1枚ずつ見せる(10)
かわからない」等があげら c 注視させたい部分以外はかくす(6)
п@5mより短かい距離で測定(7)
れた。それぞれ工夫して測
e ラポール形成ができている担任が上手に?竄オながら実施(5)
定していることがわかる。 f 本人の興味のあるものを見せ反応を見る③
〟@時間をかけて注視させる(3)
「視力表を注視しない」で h 個別に測定(2)
1 その他(5)
は,1つの指標にのみ注目
させるために余分なものが 2.言葉が出ない
@ (n=85)
a マッチング(78)(絵あわせ,字あわせ)
a@指さし(4)
目に入らないよう工夫して
c 動作(4)п@ランドルト環をもたせ,見えた方に向け
いる。
させる(2)?@担任の協力(2)
瀬尾らは3)「1枚の視力表 f その他(2)
に40以上の視標が並んでい 3.数字力,読めない
@く色覚〉 (n−57)
a 指・筆でなぞらせる(16)
a@マッチング(16)
る中からひとっの視標をと c 幼児用(動物)利用(3)
п@赤・青・黄などの弁別(2)
り出してみる字づまり視力 e その他(1)
は,視標を一つだけ切り離
4.理解できない(n=41) a 事前学習(5)して,個々に読む視力っま どの程度見えているの ゥわからない
b 日常生活の中でどの程度見えるかを判断
@ (6>
り字ひとっ視力より劣ると 5.集中できない(n=12) a できるだけ短時間に検査する(5)
いわれている。この傾向は, b 遊ばせながら実施(2)
メ@その他(3)
幼児期から小学校3年ごろ
・ポイントをしぼる(1.0,0.7,0.3)まであるといわれている」 6.測定上の問題(n=7)
@片眼で測定できない
a 両眼で測定(12)と述べている。精神薄弱児 遮眼器が使えない b メガネフレームを利用(2)
メ@担任に遮眼器を押さえてもらう(1)
の場合,字ひとっ式の視力
沚クの方が望ましいと思わ
7.その他 (n=10)@全体的なもの
a 視力表を,児童生徒によって使い分ける (54)
れる。5mより短い距離で b 事前学習(13)メ@他覚的検査(3)
測定している学校もみられ
た。大和田4)らの視力検査距離の研究では,「検査距離が短かくなるほど,視力がよくなる。……適
応できる距離の限界としては,3mがよいのではないか」という結果を出している。検査距離が短 かくなると,他の物が視野の中に入りにくくなり,注視しやすくなると思われる。3mぐらいの距
離から測定するのがよいと思われる。言語障害をもつ児童生徒は調査対象の3割いた。「言葉がでない」は,言語障害ばかりでなく,
視力検査を理解していなければ,言葉にして表現することができないと思われる。「言葉がでない」
という問題点をあげた85校のうち92%の学校では,マッチング法を実施している。マッチンク法は,
視力表と同じものを手元に置いておき,児童生徒に視力表でみえたものと同じものを指さしさせた
り,とらせたりする方法である。言葉がでない場合も,視力検査方法がよく理解できない場合にも,遊びのような形で検査が行われるため,精神薄弱児の場合,やりやすい方法と思われる。
大和田らは4)「ランドルト環の切れ目の部分に果物の絵を書き,マッチングさせていく方法,その
結果果物をとり入れることにより,児童の興味を検査に向けることができ,検査可能者がふえた。
……
距ヘ検査をする時,立位で行うよりも,普段の学習と変りないように机と椅子を便用した方が 落ち着いて検査できる」という結果を得ている。マッチング法にもう一つ工夫を加えた方法で,参
考になると思われる。また,三島は,)色覚検査法に「マッチング法を利用し,測定不能者が減少した。カードを使用
することによって児童生徒に興味をおぼえさせ,ひとりあたりの検査時間を短縮することができる」と述べている。
以上,視力検査,色覚検査では種々工夫し実施されており,普通学校でも低学年や,特殊学級で
の実施に参考になろう。(3)聴力検査について
聴力検査は一般にオージオメーターによって行われる。今回の調査では74校(58.7%)がオージ
オメーター以外のものを併用していた。乳児用オージオメーター(22校),ストップウオッチ(17),名前,言葉かけ(19),じ語
法(10),楽器(7),医師に 表6 聴力検査の工夫点
よる検査(5),その他(9)
等であった。
やりにくい点 工 夫 点
表6は,オージオメータ
一によるやりにくい点と,
1.検査音を感知しても表現しない (n=82)
a興幣繋甥裏翻9)
その工夫点をまとめたもの
2 聞こえているかどうか 墲ゥらない (n=81)b 日常の様子から判断する(14)c 聞こえたら手をあげさせる(6)
である。 d 事前練習(4)
?@担任の介助(2)
「検査音を感知しても表
f 断続的に聞かせる(2)〟@大きい見本用の音を聞かせる(2)
現しない」「聞こえている
h その他(2)@。「どこから聞こえる?」というように
かどうかわからない」が6
答えやすい質問にする。。何度か再検査を行う割強だった。これらに対す
3.レシーバーを拒否 a 両方の耳で聞かせる(2)
る工夫としては次のような
(n=44)
b その他(2)。聴力計わレシーバーを使って遊ばせる
ことがあげられた。 。「モシモシするよ」といって耳にあてさ
「聴性反応から判断する」 せる
は,検査音を感知してもボタンを押したり,表現できない生徒の場合,聴性反応からきこえるかど うかを判断している。眼球を動かす,または音源の方を注視する,ゆっくり振り向く,驚いた顔を する,笑い出す,泣き出す,今までしていた動作を止める,等がある。この聴性反応も視力検査の ように,養護教諭と担任とで反応をみている。 1
「日常の様子から判断する」は,検査が不能な児童生徒に対しては日常生活の中で困らない程度 の聴力があるかどうかを担任等に依頼し,日常の様子から判断している。
その他種々の工夫点があげられた。 「レシーバーを拒否する」も3割強の児童生徒にみられた。
両方の耳で聴かせる,レシーバーを使って遊ばせて慣れた段階で検査するなどがあげられた。後 述する乳幼児用オージォメーターも,レシーバーを拒否する児童生徒にむいていると思われる。
オージオメーター以外のものを利用しているものでは次のような方法があげられた。
。乳幼児用オージオメーター。2個のくまや犬のぬいぐるみを用い,腹部にスピーカーを内臓し,いず
れか一方のスピーカーから検査音を発生させ,その時の児童生徒の反応の見るという方法である。
ぬいぐるみを利用することで児童生徒の興味を引くことができる。
。ストップウオッチによるもの。ストップウオッチの小さな音に対する反応をみる。また2個のス トップウオッチを用意し,ONとOF Fにし, ONの方をっかませるという方法をとっている学校も
あった。
。名前,言葉かけ。小さな声で,児童生徒の名前を呼んで反応をみたり,後から声をかけて振り向 くかどうかで判断する。他の生徒の名前などととりまぜてその生徒の名前を呼んだ時だけに手をあ
げさせる方法などの回答もあった。。囁語法。囁語法は検査者の言った単語を,被検査者が復習し,正確がどうか判断する方法である。
検査用語は決まっているが,養護学校の場合,生徒にわかるような単語を使って実施されている。
。楽器によるもの。楽器としてはカスタネット,タイコ,鈴,タンブリンなどが使用されている。
安増らは6)「日常生活で使われる器物を使い,その品物から生じる音はどの程度の距離で聞こえる かを検査する方法である。この場合その品物を音響的にバンドハスフィルターや騒音計により分析 することにより聴力を部分的に知ることができたり,大まかに知ることができるものであり,一般 の聴力検査を受け難い特別な幼児…の聴力を早く見当づける場合に有効である」と述べている。こ のように楽器などの音に対する反応をみることは有効な手段といえよう。
。その他。お菓子のっっみ紙,テレビの音,生徒の好きな曲を録音して聞かせる,等により生徒の 反応をみている。また四方にスピーカーのある部屋に入れて,一方から音を流し,音に対する反応
をみている学校もあった。那須ら7)は「自然音(犬,ニワトリ,カエルの声,赤ちゃんの泣き声,電話のベル等)をテープに録音し,生徒の反応をみる,乳幼児用オージオメーターで検査不能であ
った生徒も,この方法で可能になった」と述べている。視力,色覚検査にも同様に言えることだが,正確な数値よりも,日常生活に支障をきたさない程
度の聴力があるかどうかの判断が大切であろう。(4)ッベルクリン反応検査にっいて
ツベルクリン反応検査は小学校1年,中学1年で全員実施することになっている。検査のやりに
くい点,工夫点を表7にまとめた。注射に対する恐怖が多くあげられた。普通児の場合でも,注射に対する不安や恐怖はあるが,精
神薄弱児の場合,かなり強
表7 ツ反の工夫点 い恐怖があると思われる。
「複数の先生が押さえて実
やりにくい点 工 夫 点 施」は,あばれたり,動き
1.注射に対する恐怖や不 a 複数の先生で押さえて実施(28)
まわったりするためである。 安 (n−62) b 気持ちを落ち着かせる(13)
@。担任が抱いて行う
気持ちを落ち着かせ,不
。なだめたり,言葉かけをする c 事前に説明(10)安をとりのぞくよう配慮し
d 注射する順番を考慮(7)ている回答もあげられた。 ・こわがらない子から先に行う
?@注射器に対し慣れさせる(3)
担任が抱いて行う場合は, 。注射器で事前練習。注射器をいつも保健室に置いておき,見
不安をとり除くためと,生
慣れるようにしている?@その他(4)
徒が動くと危険なので固定
2.保護者の問題(n−6) a 事前にプリントで連絡 するということである。 b 検査であること,結核予防の重要性などPTA全体会などに伝える
保護者の問題には,「てん
3.注射部位にさわる a 1人1人おさえてみている(1)
かんのある子は父兄が受け
(n=5)させようとしない」「今まで
予防接種なども受けさせた 表8 尿.寄生虫卵検査の工夫点
ことがないので,受けなくてよい」などがあげられた。 やりにくい点 工 夫 点 その他の問題点としてぽ 1,採尿・採便困難 a 採尿バックを使用(5)
他校に出かけて実施するの (n=43)
b ビニール袋をテーピングして採る(2)メ@おむつ・下着から採尿・採便(3)
で不便,皮膚の状態が普通
便秘 d 学校で排便した時採取(2)?@その他(6)
と違い反応が現われないな 2.実施上の問題(n=15) a 登校後,学校で採尿(9)
どがあげられた。 G腺尿・採便のタイミング
@ぎょう虫
b 保護者や施設の保母の協力(4)c 児童の睡眠時に実施(2)
⑤ 尿,寄生虫卵検査
d 採尿バックを利用(2)?@その他(2)
尿,寄生虫卵検査は,家
qDその他@ コップの中に採尿で a 大きなプラスチック容器を使用(1)
庭で採尿,採便することが
きない b 便器をきれいにふき,便器の中で採尿(1)c おまるを使用(1)
多いが,家庭でできない場
合学校で行っている。 3.保護者の問題(n=14)
@家庭の協力が難しい
a 家庭連絡の強化(7)
a@寄宿舎・学校生活の場で採尿・採便を行
表8に尿,寄生虫卵検査
う(2)の工夫点について回答をま 4 提出日が守れない
@ (n=11)
a 何日か提出日を設ける(5)
a@採尿できた日にもってきてもらう(2)
とめた。 5.その他 (n=15) a その他(3)
「おむつをしていてやりに 寄宿舎生の実施がむず 。できるだけ帰省日に採尿・採卵 かしい
くい」という学校が22校あ った。それらに対しては,
「採尿パックの利用や,おむっをしぼって採尿する」等があげられた。
保護者の問題では,「親が無理解,無関心である,協力してくれない」等があげられ,連絡を強
化したり,学校で採尿,採便している例もあった。その他,提出日を何日か設けて,採尿できた日に持ってきてもらうなどの対応策を講じている。
検査機関に依頼する場合,その協力が必要になる。
{6}医師による健康診断の問題点と工夫点
内科,耳鼻科,眼科,歯
科等校医を中心とする医師
表9 検診の工夫点による検診上の問題点と工
夫点をまとめ,表9に示し
やりにくい点 工 夫 点た。検診の中にX線撮影も
1.検診拒否(n=77)ii)医師に対する恐怖 a 白衣を着用しない(26)
a@医師の対応の仕方(4)
含めた。 (63) c その他(4)
@。医師と少し遊ばせる やりにくい点としては,
q器具に対する a 器具に慣れさせる(13)
検診をいやがる,担否する
恐怖・問題(74) (お医者さんごっこ等)a@器具をなるべく使わない(12)
等が半数以上の学校でみら
レントゲン検診車に恐ュて入れない c 器具をなるべく見せない(2)
п@保健室に旧式のレントゲン器具を設置(1)
れた。その他検診の体位が
その他 e その他(3)とれない,検診に対する理
ql}その他(3) a 介助・押さえつける(32)解がない等があげられた。 b 順番を考慮する(7)
@。恐がらない子から先に実施
「医師に対する恐怖にっい ・高学年から実施メ@不安をとりのぞく配慮(5)
て」 検診に対する理解が
。友達の実施する様子を見せる。だっこして,手を握ってあげるない児童生徒にとって医師
。言葉かけを多くする п@検査場所の配慮(2)に対する恐怖が大きいと思
。子どもに抵抗の少ない場所で検診を行う われる。恐怖をやわらげる 2.正常の体位がとれない@ (n=15)
a 仰臥位で実施(1)b 担任・養護教諭が介助(6)
ために「校医は白衣を着用
立位不可 c 特別に保健所で丁寧に行う(1)X線で静止できない d 歯みがきをさせて開口する しない」「養護教諭自身が 歯科一口をあけない
e その他
予防接種等の機会に白衣を 。開口器を使う。事前に大きく口をあける練習をする
着用し,白衣に対する恐怖
。鼻をつまむと口をあけるをなくす」等の工夫をして
3.検診に対する理解がな@い (n=5) a 事前に説明する(7)
いる。医師の対応の仕方を
4.校医の問題(n冨3) a 校医に生徒の特色を話す(2)
工夫してもらい,優しい言
校医の理解がない葉をかけてもらったりして
いる学校もあった。
その他,「検診前に,少し医師と遊ばせて慣れさせた状態で検診を実施する」などの回答があった。
医師に対する恐怖をとり除くばかりでなく,検診に関する問題点を解決するためには,養護教諭や 教師はもちろん,校医の協力が必要となる。校医に養護学校の実状を理解してもらうための働きか
けが必要である。
「器具に対する恐怖」は,「聴診器など事前に器具を渡し,お医者さんごっこ等により器具に慣れ
させる」工夫もある。また検査時に「なるべく器具を使わないように検診してもらう」「器貝をみ
せないようにしている」という回答もあった。その他では,どうしても検診が受けられない場合,「押さえっけて」検診を行っている。しかし
この方法は,ッベルクリン反応検査にもあった。恐怖がいっそう高まる結果になるかも知れない
が,どうしてもという時はやむを得ない手段と思われる。「順番を考慮する」は, 「恐がらない生徒,情緒の安定した生徒,高学年の生徒から先に実施している」という回答がみられた。1人が泣 き出したりすると連鎖反応をおこすためと思われる。検査場所に対する配慮もされている。保健室 に対する恐怖があると検診を拒否してしまうので,「生徒に抵抗の少ない場所で検診を実施」した
り,「日ごろから保健室を開放する」などしている。「検査の体位がとれない」ではX線撮影の場合,静止ができなかったり,肢体不自由児では,「撮
影時の体勢がとれない」などの問題があげられた。対応策として担任や養護教諭が介助にあたって
いる。プロテクターをつけて介助する必要がある。
歯科検診では「口をあけない」生徒がいる。「歯みがきをしよう」とカムフラージュして口をあ けさせたり,「鼻をつまんで口を開けさせたりしている」という回答があった。また開口器や木片
に包帯を巻いたものを利用」して口をあけさせている学校もあった。「検診に対する理解がない」これは検診に限らず,健康診断すべてに言えることであるが,なぜ 検査,測定をうけるか,健康診断の目的や,意義を理解していれば望ましい。普通学校でもそれら の認識に欠ける児童生徒も多い。養護学校の場合,わかりやすい言葉を使う,視聴覚教材の利用な
どの配慮が必要となってくる。以上各種健康診断ごとに問題点と,それに対する工夫点をまとめた。それぞれ細かい配慮,工夫
がなされ,養護学校ばかりでなく,普通学校でも参考になることが多いと思われる。回答例に,「初めから出来ないと判断される生徒でも,全員実施してみることに教育的意義がある」というのが あった。実施してみること自体に健康診断の教育的意義があると思われる。
2.臨時健康診断の機会と方法
1.では定期健康診断を中心に述べてきた。ここでは臨時の健康診断の機会と内容にっいてまとめ
た。
1)機 会
実施している機会としては,水泳時79校(63.7%),宿泊学習66校(53.2%), 修学旅行58校
(46.8%),マラソン38校(30.6%),その他体育的行事33校(26.6%)等であった。数校づっで
あったが,長期休みのあと,卒業前,児童生徒の健康状態をみて必要な時等に実施している学校も
あった。
2)臨時健康診断の内容
各機会とも内科検診が7〜8割をしめていた。水泳の場合には眼科,耳鼻科の検診を行っている が1割程度あった。その他は,健康相談を実施,健康調査,神経科医の検診,等があげられた。
「特に健康診断を実施していない」と回答した学校の中には,各自に主治医がいるため, 「主治
医の診断を受けさせ,その結果を学校に報告してもらい,行事等の参加の資料にする」という形式 をとっていることが多いようである。臨時健康診断をする目的は,児童生徒が健康な状態で行事等 に参加できるかどうかを早期に把握することにある。年1回の定期健康診断だけでなく,必要に応
3.健康診断の事後措置
健康診断結果,何らかの異常が発見された場合,保護者に治療や精密検査の勧告がなされる。健 康に問題をもつ児童生徒の学校での継続観察や治療状況にっいて実施をまとめた。
1)精密検査結果の把握
学校での健康管理をすすめていく上で,受診して正しい疾病について把握しておく必要がある。
健康診断により,精密検査を受けその結果を把握していると回答した学校は「全員把握している」
が43.9%,「8割以上把握している」43.9%だった。養護学校の場合,一校あたりの在籍者数が普 通学校に比較し,少ないため,検査結果を把握しやすいと思われる。精密検査結果,診断名がつい
たものは以下のようであった。 (60年度の健康診断結果を中心に回答してもらった。)
う歯(5,866名),肥満傾向(1,874名),てんかん(1,502名),言語障害(4,166名),視力障害
(1,615名),難聴(186名),情緒障害(1,949名),眼疾患(933名),耳疾患(816名),咽頭疾 患(27名),心疾患(448名),腎疾患(83名)等であった。
在籍数は14,422名だったが,前述のように,全員検査,検診が実施できていないので,罹患率は
出せなかった。西谷ら8)は「精神遅滞では,心身に種々の病気や異常を合併することがみられる。文部省の調査によると,感覚や運動の障害をはじめ,てんかん,心臓病,自閉症などの病気をもっ たものは7%にも達している。また,このような重複障害は知能の遅れの著しい者ほど多いことも
明らかにされている」と述べている。2)継続観察にっいて
1)の疾患にっいて 養護教諭が治療状況屯 表10継続観察をするにあたってやりにくい点
学校での保健指導,保健管理をしているもの
一いわゆる継続観察をしている学校の割合
にっいてまとめた。多くあげられたものは, 1.保護者の問題 48(55。8%)
心疾患72.6%,てんかん71.0%,腎疾患64.3
無理解・無関心21
連絡・協力がうまくいかない 20
%,う歯64.4%,眼疾患50.5%,耳疾患477
その他 6
%,肥満傾向63.1%,等であった。 その他
2.児童・生徒の問題 46(53.5%)
各疾患とも半数の学校で継続観察の対象とし
本人の自覚が乏しい 17
ていた。 体の異常を訴えられない 12
表10は継続観察を行うにあたってやりにく
治療をいやがる 5い点をまとめたものである。 その他 12
保護者の問題,児童生徒の問題が多くあげ
3.医療機関の問題 33(38.4%)られた。 連絡がとりにくい 12
「保護者が児童生徒の疾病に無理解,無関 医療機関が少ない 11
心である」や「児童生徒の精神発達遅滞が根
医療機関が遠い 6本にあるため治療等が必要な疾病にっいての
その他 4関心が薄くなってしまう」等があった。連絡
4.担任の問題 10(11.6%)では, 「医療機関へ検査に行った衝詳しい
5.施設の問題 9(10.5%)結果を知らせてくれない」「施設から通学し
6.養護教諭の問題 8(9.8%)7.その他 20(23.3%)
てくる子どもの場合,保護者となかなか会う
機会がない」などの回答があげられた。児童生徒の問題では, 「自分の病気や障害に対する自覚が乏しい」ため,自分自身で,積極的に
病気を治そうとする努九例えば,肥満傾向児が,意識的に食事を制限したり,運動をすることな
どはしない。理解力が乏しいため,保健指導を行っても効果があがらない等の回答があった。
例えばう歯にっいてでは, 「う歯とは何か,なぜむし歯になってはいけないのか等,全く理解で
きない子ども達にとって,歯みがきは,先生にやらされる苦痛の一っとなってしまう。また歯みが きができても,力の加減などわからないので,かえって歯肉をいため歯肉炎等になる子が多い」と 新たな問題をひきおこす例もみられた。児童生徒の能力に合わせた指導をするための配慮,工夫が
必要だが,なかなか困難である。担任との問題では, 「教師の中でも教育観が違うため,学級の中に入っていきにくい」「一斉指導がむつかしい」等があげられた。養護教諭自身の問題では,「多 種多様な病気をもっているのでやりにくい」「どう管理してよいかわからない」等疾病の知識,と
りあっかい方に関するものが多くあげられた。その他には, 「難治性の疾病をかかえている児童生徒の場合,放置された状態にある」「病院で検査を受けたからといって治るわけでも,指導法がか
わるわけでもない……」等の指摘もあった。3)治療状況
健康診断で発見された疾病にっいて,その治療状況を調査した。
「半数の児童生徒が治療を受けている」60
校(47.6%),ほとんどの児童生徒が治療を受 表11治療をうけられない理由 けている41校(32.5%),「治療を受けていな
い」7校(5β%),「治療を受ける科によって n=92
異る」16校(12.7%)であった。 1.保護者側の要因 115(125.0%)
精神薄弱児の場合,治療状況は普通児に比
a 理解不足・無関心 51 べで低い。治療を受けにくい疾患としては, b 時間がない 36c 連れていくのが困難 15 う歯(98.5%),耳鼻咽喉科疾患(20%),眼
d 経済的困難 5 疾患(18.5%)等があげられた。
e 車がない 3
表11は,治療を受けられない理由をまとめ
f その他 5
たものである。 2.本人側の要因 95(103.3%)
保護者側の要因,本人の要因,医療機関の
a 本人がいやがる 80要因等,多数あげられた。 b 本人の訴えがない 4
保護者側の要因で,連れていくのが困難は
c 病気の程度により治療できない 4「子どもがあばれたり,重度の障害の場合, d 入院しないと治療できない 3
母親1人では病院に連れていくのが困難とな e その他 4
り,医療機関へ行く回数も減ってしまう」施
3.医療機関の要因 91(98.9%)設の場合, 「一度に大勢の児童を治療に連れ a 治療してくれる病院がない 56 ていくのは大変である」という回答もあった。 b 治療を拒否される 21
本人側の要因は,本人が治療をいやがる子が
c 医療機関が遠い 11多かった。校医の検診の場合にも多数回答が
d その他 3 、
4.その他 1(Ll%)
あったように,医師や病院に対する恐怖が大
きいものと思われる。医療機関については,障害児を専門にみて
表12 健康診断の事後措置くれる,あるいは好意的に治療してくれる医 一
療機関の設置が望まれる。
4)健康診断の事後借置内容 n=111
健康診断の結果,養護教諭が,教育的事後
1.授 業 92措置として,担任教師へどのようなことを行
a 体育の授業を制限・軽減 65っているか回答してもらった。回答の中には, b 座席の調整・変更 15
養護教諭が実施している内容や,担任が実施
c 授業への参加 8している内容が混合していたため,一括して
d その他 4
表12に健康診断の事後措置としてまとめた。 2.学校行事 60
a 参加制限・軽減54
多くあげられたのは「授業に対する措置」
b その他 6 で,その中でも体育の授業を制限,軽減する
3.保健指導 31
という回答が多かった。ついで学校行事に対
a 肥満 10
する措置である。行事に参加させるか否かは 食事 10 運動 4 かなり難しい問題と思われる。多くの回答は
b はみがき指導なるべく参加させる方針であった。養護教諭
c 伝染性疾患の予防・配慮の立場として医学的,専門知識を助言するこ
d 食事指導とは必要だが,最終的には親や主治医の意見 e その他
で判断することが多いようだ。学級での保健
4.健康診断結果疾病にっいての説明 25指導にいかす意見も多くあげられている。健
5.日常生活指導上の留意点の助言 16康診断結果や疾病にっいて,正しく理解して
6.毎日の観察の連絡 12もらうために,教師へ説明したり,プリント 7.視機能障害児への配慮 8
配布している学校もみられた。またその内容
8.てんかん児の日常観察 6を,懇談会時話題にしてもらったり,学年だ
9.その 10より等で呼びかけてもらい,保護者への啓豪
に努めている学校もあった。健康診断結果を
いろいろな面に活用されていることがわかった。IV まとめ
養護学校(精神薄弱児対象)における健康診断の実施方法と,事後措置にっいて,養護教諭126 名から回答を得た。お、よそ次のようなことにまとめることができた。
1.各種健康診断の実施校数の割合は,身体計測,ッ反,尿,寄生虫検査,校医による検診は9割 以上だった。視力,色覚,聴力は7〜8割の実施率であった。
2.健康診断の年間実施回数は,体重は月毎に,身長,胸囲,座高は年3回,その他の検査,検診 は年1回実施している学校が多かった。
3.測定困難なものは,視力,色覚聴力が多かった。学年がすすむにっれ,困難者は減っていた。
4.特別な健康診断として,精神科検診が55.6%,整形外科検診が25.4%の学校で行われていた。
5.各種健康診断の実施の問題点と,それに対応する工夫点にっいてまとめた。
6.臨時健康診断は,水泳,宿泊学習,修学旅行などの機会に行っており,内科検診が多かった。
7.健康診断後の精密検査結果を把握している学校は82.8%だった。
8.健康診断で発見された健康問題は,う歯,言語障害,肥満傾向,視力障害,てんかん等が多く
あげられた。9.健康診断で発見された健康問題で継続観察をしているのは,心疾患,てんかん,腎疾患,う歯,
眼疾患,耳疾患,肥満傾向などがあげられた。継続観察を行う上での問題点として保護者,児童
生徒本人の問題が多くあげられた。10.疾病の治療状況は,半数の児童生徒が治療を受けている47.6%,ほとんどの児童生徒が治療を
受けている32.5%であった。 治療を受けにくい疾患には,う歯,耳疾患,眼疾患があげられた。治療を受けられない理由としては,保護者側の要因,本人の要因,医療機関の要因があげられた。
11.健康診断の事後措置内容では,体育の授業を制限,軽減する,学校行事の参加に対する措置,
保健指導,健康診断結果,疾病にっいての説明などがあげられた。
注
1)山口 薫 「特殊教育の今後の課題」 『健康教室』34,8(1983)pp.5−10.
2)中沢和彦他r精神薄弱養護学校における健康問題』34,8(1983)pp.104−107.
3)瀬尾政雄他「視覚障害児の理解と指導法」『健康教室』26,13(1970)p.45,
4)大和田成美他「精神発達遅滞児における視力検査のあり方について」『山形大学保健養護研究集録』(1977)
PP.60−62.
5)三島ハツ子「重度精神薄弱児の色覚検査法についてのこころみ」『健康教室』26,13(1970)pp.113一
116.
6)安増 彬 「聴党障害に関する研究」『健康教室』36,13(1970)p.53.
7)那須厚子他「精神発達遅滞児に対する効果的な聴力検査に関する研究」『山形大学保健養護研究集録』
(1977)PP.167−170.
8)西谷三四郎「心身障害の原因と養護」『健康教室』35,9(1984)p.54.