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1 はじめに

当機構では、職業リハビリテーションに関す る研究や実践経験の成果などを広く周知すると ともに、関係者相互の交流を行うことを目的に 「職業リハビリテーション研究発表会」を毎年開 催している。 14回目を迎えた今年度は、平成18年12月5日 (火)・6日(水)の2日間、千葉市美浜区の海 外職業訓練協会(OVTA)と障害者職業総合セ ンターを会場に、研究発表のほか、①発達障害 についての理解と支援に関する特別講演、② 「ジョブコーチ支援の現状と今後の展望」をテー マとするパネル・ディスカッション、③「障害 者の就労支援と関係機関の役割」と、「医療リハ と職業リハの連携による就労支援」をテーマと する2つのワークショップを盛り込み開催した。 ここ数年、参加者数は増加傾向にあり、本年度 の参加者は労働関係機関のほか、企業、福祉、 医療・保健、教育等の障害者の職業リハビリテ ーションに関わる方々900名であった。

2 研究発表会

a 1日目の午前は、当総合センターの研究員 から職業リハビリテーションに関する基本的 な知識や情報をわかりやすく解説する講座と して、「発達障害の基礎と職業問題」及び「高 次脳機能障害の基礎と職業問題」という2つ の基礎講座を実施した。 午後からは、当機構の荒川春理事長による開会 の挨拶の後、発達障害の診断及び治療の第一人者 である東京都立梅ヶ丘病院院長市川宏伸氏を講師 に迎え、特別講演(演題:発達障害についての理 解と支援)が行われた。続いて、「ジョブコーチ 支援の現状と今後の展望」をテーマとして、職業 能力開発総合大学校福祉工学科講師(前同学科教 授)佐藤宏氏を司会に、4名のパネリストにより パネル・ディスカッションが行われた。 基礎講座、特別講演、パネル・ディスカッショ ンともに、最近、急速に関心が高まっているテー マ・分野を扱った内容であったことからも、会場 では多くの参加者が話に聞き入り、熱心にメモを 書き留める姿が一日を通して見受けられた。

14回職業リハビリテーション研究発表会

の概要

障害者職業総合センター 企画部企画調整室

 第14回職業リハビリテーション研究発表会

特 集 2

会場(障害者職業総合センター) 基礎講座

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s 2日目は会場をOVTAから障害者職業総合 センターに移し、研究発表(口頭発表75題、 ポスター発表19題)及びワークショップ(2 テーマ)を行った。口頭発表は、当機構、企 業・企業団体、福祉、医療・保健の関係者に よる発表が増加したため、前回より4増の14 分科会とし、「発達障害」「精神障害」「高次脳 機能障害」「障害者の雇用管理・職場環境改 善」「福祉的就労から一般雇用への移行」「ジ ョブコーチ」などのテーマに沿い、幅広い内 容の研究発表が行われた。 2つのワークショップでは、ワークショッ プⅠとして埼玉県立大学助教授・さいたま障 害者就業サポート研究会会長朝日雅也氏をコ ーディネーターに障害者自立支援法の施行を 踏まえての各機関における就労支援のあり方 や役割分担について、また、ワークショップ Ⅱとして吉備高原医療リハビリテーションセ ンター院長徳弘昭博氏をコーディネーターに 昨年、一昨年に続くテーマである医療リハと 職業リハのネットワーク形成のあり方につい て、それぞれ、各分野で豊富な知見を有する コメンテーターにより熱の入った意見交換が 行われた。

3 最後に

研究発表会では例年参加者の方を対象にアン ケート調査を行っているが、各プログラムの中 で「参考になった」との回答が最も多かったの は、「口頭発表」が95.9%、次いで「ワークショ 特別講演 口頭発表 ポスター発表 パネル・ディスカッション ワークショップ

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ップ」が94.5%、「基礎講座」が92.7%であり、 研究発表会全体を通しては92.7%の参加者が参 考になったとの回答であった。また、研究発表 会に参加して得た知識・情報の活用については、 「現場実務の参考として」という回答が約半数を 占める結果であった。 以上で述べた特別講演、パネル・ディスカッ ション、口頭発表、ワークショップ及びポスタ ー発表の内容は、本誌に掲載しているほか、障 害 者 職 業 総 合 セ ン タ ー ホ ー ム ペ ー ジ (http://www.nivr.jeed.or.jp)に「第14回職業リ ハビリテーション研究発表会発表論文集」とし て登載し、ダウンロードもできるようにしてい るので、詳しくご覧になりたい方はホームペー ジのご利用をお願いしたい。 併せて、当機構では職業リハビリテーション 研究発表会の更なる発展と充実のために今後と も努めていきたいと考えているので、関係機関 の方々のご意見、ご要望等をお寄せいただきた い(e-mail:kikakubu@jeed.or.jp)。

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(発症年齢と精神疾患) 精神疾患の発症年齢には随分違いがあり、例 えば、知的障害(医療では精神遅滞)は重症度 によって重ければ重いほど早く分かります。対 人関係の問題、コミュニケーション上の問題、 独特の思考や行動を特徴とする広汎性発達障害 は3歳ぐらいまでに、不注意や多動、衝動性等 を中心とする注意欠陥多動性障害は7歳までに は症状が出てきます。チック障害も早い方は就 学前から出てきて、逆に思春期を超えると、症 状が治まる方が多いと考えられています。これ 以外にも、選択性緘黙、強迫性障害は小学校低 学年から、解離性障害、摂食障害、統合失調症、 気分障害なども小学校高学年あるいは中学校年 齢から発症することがあります。この中で発達 障害の代表と言われるのは、知的障害、広汎性 発達障害、注意欠陥多動性障害です。 (発達障害から軽度発達障害へ) 発達障害には、厳密な定義はなく、「18歳まで の発達期に何らかの永続的な心身の機能不全が 生じてこれがずっと続き、日常生活に何らかの 制限や治療やケアの必要がある」という概念で よいと思われます。肢体不自由、視聴覚障害、 知的障害などがその代表ですが、最近は軽度の 発達障害と呼ばれるものがあります。これは、 障害そのものが軽いという意味ではなく、知的 障害がほとんどないか、あっても軽いという意 味の軽度です。また発達期まで(18歳まで)に は明らかになりますが、対応によっては思春期 以降に援助が不必要になる場合もあるし、逆に 思春期以降になって社会生活が困難になること もあります。発達障害と軽度発達障害の違いは、 障害があるかないかという概念ではなく、障害 は連続的なものであって、その中でも多少異動 があると考えられることです。 (精神遅滞の診断基準) 精神遅滞の診断基準は、いわゆる知能指数で 言うと70以下くらいです。ただ、IQが低ければ 精神遅滞という定義ではありません。それが低 くても社会的に大きな問題がなければ精神遅滞 とは呼ばず、幾つかの分野のうち二つ以上の領 域で何らかの適応の欠陥あるいは不全があるこ とが前提です。もう一つは、18歳未満に生じて きているということです。40歳になって知的な 遅れが生じた場合は、精神遅滞ではなく「痴呆」 と呼ぶわけです。 現在、精神遅滞について医学的に分かってい る原因は、遺伝的な背景、ごく早期の胚の発達 異常の問題、妊娠後期あるいは周産期の問題、 幼児期・小児期の身体疾患、これ以外にも環境 の影響や何らかの精神疾患という例も報告され ています。これを全部足しても70%ぐらいであ り、残り30%ぐらいは現在の医学でもよく分か らないと考えられています。特に軽度発達障害 と呼ぶものについては、周産期の、例えば低酸素 状態などが何らかの関係があるのではないかと いう報告はありますが、原因不明が大多数です。 (精神遅滞と身体的問題) 知的障害に伴う身体的問題には、てんかん発 作があります。知的障害が重いほどてんかん発 作の合併例が多いと言われていますし、そのて んかんに基づく行動上の問題もあると言われて

発達障害についての理解と支援

東京都立梅ヶ丘病院 院長 

市川 宏伸

 第14回職業リハビリテーション研究発表会

特 集 2

特別講演

(要旨)

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います。それ以外にも運動機能の障害、不器用、 筋肉の緊張が低い、あるいは視覚や聴覚的な障 害が合併します。また、重度の心身障害と呼ば れる、知的な遅れが重く、かつ運動機能の遅れも 重い方もいます。例えば、肢体不自由の養護学校 で肢体不自由だけの問題を抱えている生徒は30% くらいで、残りの70%は同時に知的障害、あるい は視聴覚障害などの障害を合併しています。 (精神遅滞と統合失調症) 知的な遅れが軽い方が中心ですが、統合失調 症を伴いやすいという概念もあります。統合失 調症では幻聴が中心ですが、この場合は幻聴、 幻視、幻触、妄想などの症状が報告されていま す。ただ、知的障害の方が訴える幻覚や妄想は、 その中に「願望充足的」(あったらうれしいよ う)な内容も含まれているところが少し違いま す。統合失調症と違って少量の向精神薬等を投 与すれば治まるので、知的障害の存在をうまく 判断していかないと、薬が強くて眠気ばかり出 るということになります。 (精神遅滞と気分障害) 知的障害を持っている方は、非常に元気な時 と、元気がなくなる気分障害があるという報告 もあります。知的障害の軽い方が思春期以降に なって気分の変動が激しくなり、活動性、生活 リズム等に問題をきたします。こういう場合も、 少量の気分障害に使用する薬を使うことで安定 することが分かっています。 (精神遅滞と老化) 知的障害を持っている方について統計を取る と、老化が少し早いのではないかという報告も あります。おそらくご本人が身体的不調を訴え られずにいて気が付いた時には手遅れになって いるということや、現在では栄養が良くなって きて、知的障害の方にも生活習慣病が起きてい ることも関係していると思います。また、医療 機関によっては治療に協力してくれないという 理由で、なかなか診療を受けられない場合もあ ると思います。 (精神遅滞の治療) 根本的な治療法がないため知的障害を変える ことは難しいと言われていますが、環境を調整 したり対応を変えたりすることによって、非常 に落ち着いて社会適応可能な方もいます。低年 齢の場合は療育的な対応が中心になりますが、 やはり年齢が低ければ低いほど効果が得られる と考えられます。 (自閉症は幅が広い) 広汎性発達障害は、発達障害の代表のひとつ です。これは長らく自閉症と総称されていまし たが、最近では広汎性発達障害という言葉でく くり、その中に自閉症やアスペルガー障害など があると捉えています。また、以前は、知的障 害を伴う自閉症が自閉症の代表と考えられてい ましたが、最近は知的障害を伴わない自閉症、 あるいはアスペルガー障害が注目されています。 (自閉症の本態をどうみるか) 自閉症そのものをどう考えているか、これは 医学的に歴史を見てもいろいろと変わってきて います。19世紀末には小児精神病の中に含まれ るという考え方でした。1943年にレオ・カナー が初めて自閉症の子供の特徴を報告していて、 その大部分は知的な遅れを持つ子供たちでした。 この報告の一部だけが誇張され、「自閉症は親の 愛情が足りないからなる」という今では誤った 考えが一時的に世界に広まりましたが、それか ら約20年後、「自閉症の発症と親の愛情とは直接 は関係ない」ことがわかりました。親の愛情だ けを注いで大人になった自閉症者は、一人で身 の回りのことが何も出来ないことになった反省 から、「どんなに知的障害が重くとも、小さい頃 からトレーニングをして、その子どもなりにで きることを少しでも身に付け、大人になってか ら困らないようにしよう」というのが、今の考 え方です。 それまでは、「自閉症は最年少で発症した統合 失調症である」という考え方が主流でしたが、 1970年代初めぐらいになって、自閉症と統合失 調症は別の疾患であると分けられました。そし て1970年代以降、ヨーロッパの研究者であるギ ルバーグやウィングらが中心になり、「自閉症は 非常に幅が広いもので、カナーが報告している

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ような知的な遅れのある自閉症は、スペクトル (連続体)のごく一部だ」と報告しました。この 考え方は、1980年ぐらいになって、ヨーロッパ を中心に、それ以外にも知的水準の高い自閉症 や、コミュニケーション上の問題を伴わないア スペルガー障害も含む「自閉症スペクトラム」 という概念に発展しました。 (自閉症の診断) 1980年代以降、自閉症の診断については、 DSM-Ⅳ(米国精神医学会)やICD-10(世界保 健機関)という操作的診断基準を用いるように なりました。この分野では、客観的な評価をす るものがないので、世界的に有名な研究者が集 まって、「こういう症状がいくつあったらこうい う疾患にしよう」ということを積み重ねて作っ たものが「操作的診断基準」です。これは世界 共通の診断基準になっていて、現在、日本国内 でも二つとも使われています。 (自閉性障害の診断基準) 最新版のDSM-Ⅳ-TRに従えば、自閉性障害の 診断基準は、①目と目で見詰め合えない、表情 で相手に気持ちを伝えられない、体の姿勢、身 ぶりができないなど人間関係に問題がある。② 話し言葉がないとか遅れている、あるいはしゃ べるけれども続かない、いつも同じ言葉を使っ ている。また、ごっこ遊びや物まね遊びをしな いなどコミュニケーションに問題がある。③い つも同じことを繰り返している。それから習慣 や儀式、周りから見るとよく分からない行動を 取っている、の各項目を含むことが条件です。 また、アスペルガー障害の診断基準は、①と③ を満たせばいいということになっています。つ まり、コミュニケーション上の質的な障害があ るかどうかが、自閉性障害とアスペルガー障害 の違いだと考えられています。 (自閉症とアスペルガー障害の経過) 次に、予後を追跡したド・マイヤーの機能別 分類で見ると、その経過は随分違うことが分か ります。重い知的遅れのある群(低機能群:概 ねIQ50未満)については、早めに気が付かれま す。学校教育で言えば養護学校教育が多く、大 きくなると、福祉施設等での対応が中心になる 方が大多数です。 軽度の知的障害がある群(中機能群:概ね IQ70未満)については、学校教育ではいわゆる 特殊学級に通っている方が中心だと思います。 また、年齢があがるにつれて、要求水準と現実 能力の乖離に悩むこともあります。 知的遅れのない自閉症(高機能群:概ねIQ70 以上)については通常教育が可能です。一般の 就労も可能ですが、対人関係を要求されるよう な職場ですと、人間関係に疲れて社会的自立が 困難になることは珍しくありません。 コミュニケーション上の問題は一応ないと言 われているアスペルガー障害の方も、「学力が普 通以上であって、一流高校から一流大学、中に は一流の企業に就職したのだけれども、協調性 を要求される職場だったのでうまくいかなくて 仕事を辞めてしまった」という話を聞きます。 どちらかというと、知的遅れのない群のほうが、 かえって思春期以降になっていろいろ問題を生 じることがあります。 しかし、これはあくまでも連続体と考えてい ただければいいと思います。アスペルガー障害 や高機能自閉症ではないかと言われる方の中に は、社会性をある程度身に付けて、成人してか ら偉大な業績を残す方もいらっしゃいます。思 春期になって被害感を持ったり、反社会的な感 情を持ったりするようなことなくうまく大人に なっていけば、ほかの人と違う発想で素晴らし い仕事をされる方もいらっしゃるのではないか と思います。 (原因と症状) 自閉症の原因については、まだはっきりした ことは分かっていませんが、脳の何らかの機能 的障害があって、その結果としていろいろな自 閉症特有の症状が現れたと考えられています。 症状としては、①言語の認知がうまくいかない、 ②感覚の過敏、③集中力の欠如、また、特徴的 なものとして④視覚と聴覚理解の乖離が挙げら れます。通常の人間は、いろいろな感覚のうち 視覚が優位になっていて、聴覚がこれに続きま

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すが、広汎性発達障害の方の多くは視覚理解が 極端に発達していて、聴覚理解が苦手です。 (二次的症状) 二次的な症状と言われているものについては、 一つは変化への抵抗があります。「いつも同じや り方をしていると安心だ」というものです。次 にスケジュールの障害とされる、「いつ始まって いつ終わるか分からない」、「次に何があるか分 からない」、「いつまで続くか分からない」とい う状況は非常に不安なわけです。また、コミュ ニケーション上の障害については、「相手の気持 ちが読めない」ことが一番です。突如嫌な記憶 が戻ってきてパニックを起こしたり、楽しい記 憶が戻ってくるとにこにこしていたりするとい った瞬間想起現象は、自閉性障害に特徴的なこ ととされています。 (統合失調症様症状、気分障害様症状) 必ずしも自閉症だけの特徴ではありませんが、 統合失調症様症状や気分障害様症状をきたすこ ともあります。知的水準の高い方を中心に、思 春期以降、「自分はこんなに努力しているのに社 会はどうして受け入れてくれないのだ」と悩ん だ結果として、家にひきこもってしまう人もい ます。その逆に、「こんなに努力しているのに社 会が受け入れてくれないのは、社会が間違って いる」と考えて社会に対して被害的となり、時 には反社会的行動にいたる方もあります。また、 一般の人に比べて、てんかん発作の比率が高い ということや睡眠の異常もあります。特に低年 齢の方ですと、「夜中に一度目を覚ましてしまう となかなか寝付かないで騒いでいる」方も報告 されています。 (ADHDの診断基準、病型) さて、もう一つ、ADHD、つまり注意欠陥多 動性障害の方も医療機関では増加しています。 その診断基準(DSM-Ⅳ)では、不注意項目と 多動性−衝動性項目があります。 不注意項目として、「綿密に行動できない」、 「注意の持続が困難」、「話しかけられても聞いて いないかのような様子」、などの9項目があり、 同じように、多動性−衝動性項目として、「手足 をそわそわと動かしてもじもじする」、「座って いなければいけないのに席を離れる」、「質問が 終わる前に答え始めてしまう」、などの9項目が あり、どちらかの項目から6つ以上の項目が6 ヶ月以上続き、症状のいくつかは7歳未満から 見られ、症状による障害は2つ以上の状況で存 在する、などが診断基準です。また、不注意項 目のみを満たすものを不注意優勢型(25∼30%)、 多動性−衝動性項目のみを満たすものを多動 性−衝動性優勢型(15∼20%)、両方満たすもの を混合型(50∼60%)と呼んでいます。 (合併しやすい障害はあるだろうか) これに伴うものは、学習上の問題、不器用さ、 チック障害などがあります。また弱いですが、 こだわりを持っている方もいます。ただし、年 齢が低いときの話ですが、「正常範囲の子供でも 小学校に入る前後は多動ではないか」、「環境に よって落ち着かなくなる子供もいる」「知的障害 も、ある程度以上重いと多動なのが当たり前で ある」という考え方があります。それから、「他 人の人権を反復して平気で踏みにじってしま う」、という行為障害も多動な場合があり、間違 えやすいとされています。 (学習障害について) 次に、学習障害と言われるものですが、これ については神経心理学の学習障害という概念が あります。言語性の障害といって読み書き計算 の障害、もう一つ、非言語性の障害といって習 慣や常識、社会的ルールなどがうまく理解でき ない障害です。 (ADHD児のかかえる問題とは?) ADHD児が抱える問題としては、「先生に注意 されてもよく意味が分からずまた同じ失敗を繰 り返す」ことです。同じ失敗を繰り返して、注 意されることを繰り返すと、子どもさんによっ ては、「どうせ僕は何をしても注意されるばかり だから」ということで自己評価が低下し、劣等 感が芽生えてくる方がいます。このような状況 になると、自暴自棄的な行動に走ってしまうこ ともあります。また、社会的ルールなどがうま く理解できないため、からかわれたり、いじめ

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の対象になったりしやすいということにもなり ます。平気で相手の嫌がることを言ってしまっ たりするため、無意識にほかの子どもさんの気 持ちを傷つけてしまうこともあります。 (心がける対応とはなんだろうか?) そのようにならないために一つは、どうした らその子供さんの劣等感が減って自信がつくよ うになるか考えることです。お母さん自身も、 「保護者としてしつけのできない親だ」と周りか ら責められて、精神的に余裕がなくなってしま い、子どもの良いところになかなか目がいかな くなっていることもあるかもしれませんが、褒 めてあげることが大変重要だと考えられます。 それから、友達関係をうまく作ることを本人 に要求するのはなかなか難しいところです。周 りの大人が工夫して、「彼にもいいところがあ る」「こういうことなら彼に聞けばいい」とか、 「ゲームをやらせたら素晴らしい」など、本人の 特徴を生かして存在感を示し、周囲から孤立し ないようにすることも大切です。 社会性は、自然に身に付いていくというより は、積極的に教えてあげる必要があると思いま す。それから、言葉の理解、あるいは解釈が間 違っていることもあって、表現も理解も苦手で すから、皮肉や冗談が通じなくて「からかわれ た」、「軽蔑された」と言って怒り出すこともあ ります。こういう場合は、短く、分かりやすく、 はっきりと言ってあげないといけないかもしれ ません。 それから、状況に依存しやすいので、周りが 騒々しいところに入ると落ち着かなくなってし まい、逆に静かな環境にいると落ち着きます。 また、本人がかっかしているところに何か言っ たりするとますます興奮させてしまうので、落 ち着く方向に持っていくためにはクールダウン することが重要だと考えられています。 (注意欠陥多動性障害と薬物) 臨床的に使用される薬物については、代表的 な薬として中枢神経刺激薬があり、集中力を高 める効果があり、使われています。これを服用 している間に分かりやすい働きかけをして、意 味のある行動をとった場合は、それについて褒 めてあげることが重要だと思います。これ以外 にも、気持ちを落ち着かせる薬、脳波異常を治 す薬、興奮を改善する薬、二次的に元気がなく なったり不安が強まったりしたときに投与する 薬などが使われています。ただ、これらを服用 すればすべてが解決するというわけではありま せんし、薬で注意欠陥多動性そのものが改善す るとは言えないと思います。 (予後はどうか?) これらの方々の予後はどうかというと、昔は 「放っておいても良くなる」と考えられていたの ですが、現在は症状で大きく異なると考えられ ています。多動は自然の経過の中でほぼ治まっ ていきますが、不注意は大人になっても続く場 合が多いですし、かっとなりやすさは個別で、 環境や周りの作用で大きく異なると言ってよい のではないでしょうか。逆に言えば、こういう 方で成人に達して社会適応している方は、自分 なりにいろいろな工夫をして不注意を補ってい るのではないかと考えられます。 (軽度発達障害と不登校・ひきこもり) 最近話題になっている軽度発達障害について 言うと、高機能自閉症あるいはアスペルガー障 害と言われる方は、社会不適応が自分ではうま く理解できないために、一部が引きこもりや反 社会的行動に走る場合があります。それから、 不注意だけが目立つADHDの方は、周りの方が 気付かないことが多く、中学生ぐらいですと 10%ぐらいが不登校です。両方とも相手の気持 ちを読めないということと関係があると思いま す。 (軽度発達障害と虐待) これらの軽度発達障害があると、家庭での虐 待の対象になりやすいということも言われてい ます。子どもが何人かいる場合、保護者から見 ると1人だけ何を考えているか分からない、か わいくない子どもであり、注意しても同じ失敗 を繰り返すために、場合によっては反抗的な子 どもと思われてしまうのです。そうすると、も とから持っている軽度発達障害の症状がより顕

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在化してしまい、ますますしかられるというこ とがあります。また、学校などでは、周りから 少し変わっている子どもと思われることがある ので、“からかい”や“いじめ”の対象になりや すいということもあります。 (発達障害と医療) 残念ながら、現在、こういう発達障害の方々 を専門的に診る医師は非常に少ないというのが 現状です。厚生労働省が中心になってこういう ドクターを増やそうという方向に進んでいます が、医療的なケアも決して十分ではありません。 (発達障害は社会的に無用なのか?) 最後に言いたいのは、「発達障害は社会的に無 用か?」というと、「決してそんなことはない」 ということです。特定の分野で素晴らしい業績 を残した方もいらっしゃいます。社会を積極的 に動かしている方の中には、発達障害的な方は 決して少なくないのです。また、知的障害の重 い人は直感的に行動しているので、相手を見る ときに、自分の味方か敵かを容易に見破ります。 逆に言うと、発達障害の中には非常に正直でう そをつけない、人間の良い部分を持っている方 もたくさんいらっしゃいます。人間の社会は本 音と建前で動いていますが、本音と建前が一致 している人たちなのかもしれません。そして、 これはよく学校の先生にお願いすることですが、 大人になってからどういう対応をするかについ ても、もちろん工夫が必要だと思いますが、子 どもの頃の対応こそが重要であり、思春期をう まく乗り越えて大人になっていただきたいとい うことです。 では、これで終わりにさせていただきます。 ご清聴ありがとうございました。 (なお、本稿は、特別講演の講演録を元に市川宏 伸院長に加筆いただき、掲載しております。)

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 第14回職業リハビリテーション研究発表会

特 集 2

パネル・ディスカッション

(要旨)

【佐藤】 平成17年に障害者雇用促進法が改正さ れ、引き続いて同年秋には障害者自立支援法が 成立し、障害のある人たちへの就労支援をこれ まで以上にきめ細かく行っていくことが現在求 められていますが、そうした就労支援を行う場 合の重要な手段の一つとして、ジョブコーチ制 度に大きな期待が持たれていると思います。 ジョブコーチ制度が世界的に注目されました のは、1986年の米国リハビリテーション法改正 に伴いまして、援助付き雇用制度が制度化され た こ と に 始 ま る か と 思 い ま す 。 S u p p o r t e d Employment、つまり援助付き雇用につきまし ては既にご存じの方も多いかと思います。それ まで施設の中で訓練や指導を受けてきた人たち、 施設の中で囲い込まれていた方たちを、できる だけ早期に町の中に出し、一般企業の中に出し て、そこで実際的な就労支援を行う。そのため には職業リハビリテーション機関から作業の現 場に指導員を派遣しよう。そういう制度が1986 年に導入されました。 我が国でもこの制度が非常に注目され、1992 年に職域開発援助事業という、いわば日本版ジ ョブコーチ制度が最初の公的制度としてできて おります。その後、平成12年、13年にジョブコ ーチによる人的支援パイロット事業を経て、現 行の職場適応援助者支援事業が平成14年に発足 しております。さらに昨年(平成17年)10月か ら、この職場適応援助者制度が拡充され、現在 に至っています。さらに今年に入ってからも、 ジョブコーチ養成の観点から民間の活力を生か した民間機関によるジョブコーチ養成事業が動 き出しています。 以上、ごく簡単に、そもそもジョブコーチ制 度とは何かということについての由来を述べさ せていただきました。参考までに、アメリカ労 働省のホームページ上の資料を見ますと、ジョ ブコーチとは、「障害者が仕事を習得あるいは実 行していく上で、職場環境への適応を援助する ために仕事の現場で支援を行う人であって、就 労支援機関から派遣されている専門家」を指し ます。ただ、アメリカの制度を見ましても、 1986年以降、逐次改正をされてきております。 我が国でも今ほど申し上げましたように、日本 版ジョブコーチ制度が導入されて以来、逐次発 達してきております。また、公的機関だけでは なくて民間部門でも、実質的にジョブコーチ的 な仕事をなさっている方々も大勢いらっしゃい ます。そういう意味では、ジョブコーチ制度に つきましてはいろいろな在り方があると思いま す。日本の実情に即した効率的、効果的なジョ ブコーチ制度をこれからどうやってつくってい くかが、重要な課題ではないかと思います。そ ういうことで、この後パネリストの方たちから お話をお聞きした上で、今日の議論に入りたい と思います。 それでは白石さんから、よろしくお願いいた します。 【白石】 まず初めに、「ジョブコーチ支援制度 の概要」ということで、少しご紹介させていた だきます。 私ども高齢・障害者雇用支援機構では、現在 では全国の52カ所の障害者職業センターに約300

パネル・ディスカッション

(要旨)

ジョブコーチ支援の現状と今後の展望

コーディネーター:職業能力開発総合大学校福祉工学科 講師(前同学科教授)

佐藤 宏

パ ネ リ ス ト :高齢・障害者雇用支援機構 職業リハビリテーション部 次長

白石 肇

社会福祉法人みずなぎ学園 障害者就業・生活支援センターわかば センター長

和田 和憲

株式会社京急ウィズ 取締役社長

熊谷 孝次

北海道障害者職業センター 主任障害者職業カウンセラー

鈴木 瑞哉

パネル・ディスカッション

(要旨)

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名のジョブコーチが配置されており、年間で約 3,000名の障害者の方を対象として支援を行って います。ジョブコーチ支援については民間でも さまざまな取り組みが行われておりますが、そ の中で私ども機構が実施しておりますジョブコ ーチ支援についてご紹介する際に必ずお伝えさ せていただくポイントが3点あります。 まず第1のポイントは支援の対象です。支援 の対象者は障害者本人だけではなく、事業主や 家族を含めた3者です。障害者本人に対する支 援と同じくらいに、事業主に対しても障害特性 に配慮した雇用管理の在り方、障害者とのかか わり方、効果的な指導方法について助言などの 支援を行っていくことが非常に重要であると考 えています。また、障害者が安定した職業生活 を送るためには、毎日の規則正しい生活などを 家庭でもしっかりと生活場面の中で支えていた だく必要があります。そういう意味でご家族に 対する助言などの支援も欠かせないものである と考えています。 第2のポイントは、支援のきっかけです。障 害者が新しく就職する際の支援というイメージ が強いジョブコーチ支援ですが、同じ会社で長 い間働き続けている障害者であっても、その間 に職場の環境や人間環境に変化が生じて、後か ら適応上の問題が発生してくる場合が少なくあ りません。そのような場合にも、障害者職業カ ウンセラーが不適応の原因や対策をしっかり分 析いたしまして、その状況を基にジョブコーチ 支援の計画をご提案させていただきます。この ような雇用後の支援も、ジョブコーチ支援の非 常に重要な活用場面だということをお伝えする ことにしています。 第3のポイントは、最終的には事業主による ナチュラルサポートの形成を目指すということ です。障害者が職場に適応できるようにするた めには、まず企業がその人のために用意してい る仕事の内容や職場環境をしっかり分析して、 一つ一つの課題ごとに具体的な解決方法を考え て、それを障害者と事業所双方に実践していた だくことが必要になります。これは手間が掛か りますので、どうしても初めのうちは週に3日、 4日と頻繁にカウンセラーやジョブコーチが事 業所を訪問して支援しなければなりません。こ の時期を私たちは「集中支援」と呼んでいます。 しかしながら、そのままジョブコーチが職場に 居続ければ、ご本人や職場の方は安心はできる と思いますが、やはり外部の支援者がサポート をし続けている状態は、雇用の現場としては自 然なものではないわけです。ノーマライゼーシ ョンの観点からも、会社のために一緒に働いて いる職場の上司や同僚が、日常的に自然な形で 障害者を支えていけるようにする、いわゆるナ チュラルサポートの状態を目指すことが望まし いと考えています。適応上の課題を解決する方 法について見通しが立った後は、そのノウハウ をいかに事業所のノウハウとして定着させてい くのか、またそのために事業所内のキーパーソ ンをどのように育成していくのか。そのような 支援の主体を職場に移していくための「移行支 援」に力点を置いて、徐々に事業所を訪問する 頻度も減らしていくわけです。全体では2∼4 カ月ぐらいで支援を終了しているケースが大半 です。これでは短過ぎて効果がないのではない かとお考えの向きもあるかもしれませんが、支 援を終了して6カ月後の状況を調べてみますと、 8割以上の方は引き続き在職しています。事業 所内にしっかりと支援のためのノウハウをつく り上げることができれば、ジョブコーチ自身は 必ずしも長期間にわたって訪問し続ける必要は ないと私どもは考えているわけです。 ここまでは、私たちのセンターが直接ジョブ コーチを派遣して支援している状況をお話しし ました。あと二つ、ジョブコーチに関連して高 齢・障害者雇用支援機構が行っている業務があ ります。 一つは、ジョブコーチを養成するための研修 の実施です。平成12年以降、当機構ではジョブ コーチの職務に従事する方々に専門的な知識と 技能を身に付けていただくために養成研修を実 施しています。今日までに1,246名の修了者の方 を出しております。そのうちの3分の1ほどは、

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私ども機構の職員として地域センターで業務に 携わっているジョブコーチですが、それ以外の 方については、社会福祉法人や企業に所属して、 地域センターと連携しながら支援を行っていた だいている外部の方々です。後で述べます助成 金制度の創設も影響しまして、ジョブコーチの 養成機関に対する社会のニーズは大変増してき ております。一定の基準を満たす民間機関によ る養成研修を厚生労働大臣が指定する制度も始 まっておりますが、私ども機構といたしまして も、より多くの方々に質の高い研修の機会を提 供できるように、実施規模の拡大と研修内容の 充実に努めています。 もう一つは、昨年10月に制度改正がございま して、新しく創設された職場適応援助者助成金、 いわゆるジョブコーチ助成金の支給に関する業 務です。ジョブコーチ支援のノウハウが、徐々 に民間の方々の間にも普及してまいりました。 また、ジョブコーチ支援に対するニーズが非常 に増してきた中で、地域センターだけでは必ず しも十分な支援体制を構築できない状況も出始 めています。そういう中で、社会福祉法人や企 業などが自らジョブコーチを配置して、より主 体的に支援に取り組むことができるようにとい う趣旨で、職場適応援助者助成金という制度が 創設されました。その結果、ジョブコーチ支援 の実施体制といたしましては、従来からの地域 センターによるジョブコーチ支援の枠組みに加 えまして、新たに助成金を活用した社会福祉法 人等が行う職場適応援助の事業、それから事業 主が配置する職場適応援助者による支援という 二つが可能となりまして、障害者の方にとって は支援の選択の幅が広いものとなってきました。 これらの助成金を活用したジョブコーチ支援は、 もちろん社会福祉法人や事業主が主体的に単独 で行うことも可能ですが、私ども機構といたし ましては、より質の高い支援が可能となるよう、 効果的な支援の進め方について、いろいろな機 会にアドバイスさせていただいたり、地域セン ターのジョブコーチが一緒に支援して技術移転 に努めていくという形で、さまざまなご協力を させていただいているという状況です。この辺 りの状況につきましては、後のパネリストの方 たちの報告の中でも触れていただける部分があ ろうかと思いますので、私からの冒頭のご報告 は以上とさせていただきます。 【佐藤】 白石さんからは、最初に制度全体の仕 組みについてお話をいただきました。それでは 次に就労支援機関の立場でのお話をしていただ きます。和田さんよろしくお願いいたします。 【和田】 私が所属しておりますわかばの母体法 人はみずなぎ学園というところです。主に知的 に障害のある方が利用されております。みずな ぎ学園の施設を利用されている方々は、現在193 名いらっしゃいます。その方々のここ数年の傾 向としまして、企業を中途退職された方や、養 護学校の卒業生の割合が大変増えてきておりま す。それに比例するように、企業への就労希望 者の方も増加しております。ただ、就労希望者 に対して施設の中で提供できる作業が、簡易な 作業ですし、作業時間も午前午後合わせて4時 間弱程度のもので、なかなか働いているという 実感が乏しいという感じを持っています。 そういう状況の中で、10年ほど前から施設職 員がいろいろと企業へ出向きまして、実習場所 の確保に努めていました。その中で少しずつで はありますが、実習場所が増えてまいりました が、本当に実習だけで終わって、後の雇用にな かなか結び付かない現状でした。施設の中での 作業と、実際の企業で働くことの違いは、我々 施設職員はすごく理解していたつもりなのです が、実際に障害のある方が企業に勤めることは どんなことなのか、企業で働くためにはどのよ うな視点が必要なのかが、我々側に理解がなか ったように思います。 平成14年に、地域センターさんと協力機関型 ジョブコーチの契約を結ばせていただくことに なりました。そこで初めて、企業で働くために は、また働き続けるためには、どのような支援 が必要なのかを学ばせていただきましたが、私 の中で一番衝撃を受けたのは、ナチュラルサポ ートという発想です。実際、施設から除籍して

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就労移行するという中で、ナチュラルサポート の発想が全くありませんでした。ナチュラルサ ポートをするためにはまず何が必要なのかとい うことで、対象者や企業さんのより具体的な随 時のアセスメントが重要であると痛感しました。 これは就業生活支援においても同じことだと考 えております。 現在、みずなぎ学園は、第1号法人としてジ ョブコーチ支援を実施しています。平成18年度 9月までですが、今のところ新規が2名、フォ ローアップが4名の方の支援をさせていただい ております。私自身も今年からジョブコーチと して支援活動を行っていますが、支援の難しさ をすごく感じています。どうしても働くことば かりに気を取られすぎて、言葉遣いも含めて、 働くために必要な社会性が身に付いていないこ とで、就労能力そのものの評価が下がることも あるように感じております。その辺りも含めた 支援が多いわけですが、当然就労するに当たり、 まず連絡や報告や質問、この辺りはぜひとも身 に付けておかなければいけないことだと感じて います。 私がいるわかばは、今年の4月から京都府北 部の5市2町を圏域として活動しております。 スタッフは4名です。何らかの形でかかわって いる対象の方、登録者が大体100名強いらっしゃ います。障害別でいいますと、知的の方が6割 で、精神の方が大体3割、身体その他の方が1 割。特に最近相談に来られる方で、精神の方の 相談が非常に増えてきております。就業・生活 支援センターとして、関係機関の方々とどう連 携していくか、どのように動くことが一番効果 的なのかをいまだに右往左往しながら考えてい ますが、その中で、やはり実習のあっせんが一 番大事だろうと、あらためて感じております。 スムーズな就労移行へ結び付けるには、実践の 場の提供を数多くつくり出すことが必要だと考 えております。実際にサービス業に行きたいと 相談に来られて、サービス業に行ったら、全然 イメージと違ったと必ず言われます。やはりイ メージと現実のギャップを分かっていただく。 また我々も、その中で本人さんがどのように対 応されるのかという部分もありますし、できる だけ実習の場を確保して、まず自分のイメージ している業種に実習に行っていただけるように、 下支えをさせていただいております。その際は、 各市、各町にお願いしまして広報を打ってもら い、こちらから出向いて巡回相談をさせていた だいております。そこで就労に向けた相談の受 け付けや、その場で簡単な作業能力判定のよう なこともさせていただいております。 また、自立支援法後の影響ですが、今後、就 労移行支援事業に移行することになるとは思い ますが、今まではどうしても施設と事業所が、 例えば授産部と会社ということで、一つの団体 と会社という形で実習契約などを結んでいたの ですが、やはりこれからは対象者個々の業務を より明確にして、個々と契約していくイメージ で取り組んでいかなければいけないと考えてお ります。その中で具体的な課題と支援ポイント を、関係する人たちと共通認識を持って支援を していかなければいけないと思っております。 あと、就労移行支援事業になりましたら、入所 して2年後には出ていかれることになるのです が、その中で一番大事なのは、やはり家族の理 解、協力が不可欠だと思います。私も今いろい ろと相談を受け付けて、さあ今から動こうかと 思ったときに、ストップをかけられる保護者の 方がたくさんいらっしゃいます。当然かと思い ます。一番不安を持っておられるのが、保護者 の方ではないかと思っております。その辺りも 含めてそれぞれの立場で、実習をしているとき もご家族を交えてしっかり状況を伝えて、今こ のようになっておりますと進捗状況も伝えて、 少しでも家族の方々の不安を取り除けるように、 また家族も含めた支援チームがつくれるように、 そのネットワークの一端を担わなければいけな いと考えます。以上です。 【佐藤】 どうもありがとうございました。和田 さんのところは、地方と言っては失礼ですが、 社会資源がそれほど大きくない、企業も少ない 地域で、しかもこれまでは福祉施設としてやっ

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てきたところが、これからは就労支援に向けて 施設の在り方自体を変えていかなければいけな い。その場合の体質改善の一つの手段として、 第1号型のジョブコーチ制度の導入が施設その ものの在り方にも大きな影響を及ぼすのではな いかというお話をしていただきました。それで は3番目は、障害のある方を受け入れる企業の 立場でいらっしゃいます熊谷さんからお話を頂 戴したいと思います。 【熊谷】 最初に特例子会社としての当社の設立 経緯を紹介させていただきます。当社の親会社 であります京浜急行の障害者雇用率は、法定雇 用率を大きく下回っており、現在は2.04%です が、平成10年からの数年間は、それこそ1.1%から 少し出たぐらいの数字でした。そのような中で、 障害者の雇用促進で社会貢献をコンセプトに特 例子会社設立に向けてスタートしたわけです。 特例子会社の設立に向けて、まずプロジェク トチームを発足しました。「特例子会社とは何ぞ や」から始まった次第です。その後、当社で初 めて知的障害を持った方を2名ほど採用してみ ました。また、地域社会に貢献することで、京 急のグループ全体のイメージ、信頼度がアップ するのではないか、障害者雇用率を京急グルー プ全体に波及させることができて、一元管理を することによってグループ全体の雇用率が向上 するのではないか、各種の助成金制度を有効活 用することによって定着を伴う業務の効率化を 図れるのではないか等々の特例子会社に対する メリットについて、社内でのコンセンサスを図 ってまいりました。 平成15年9月にいよいよ京急ウィズが立ち上 がりました。あらゆる人が共に住み、共に生活 できる社会を築くというノーマライゼーション の考え方を社員一人一人が認識し、明るい職場 を築こうという「ノーマライゼーション意識の 徹底」、また、企業でございますので、生産性を 発揮することも大切なことです。障害者だから ではなくて、障害の特性に合わせた職種の配置 等を考えて、生産性の向上を図る努力をする 「生産性を発揮できる仕組み作り」、そして、当 然これからもいろんな職域を拡大しながら、障 害者の雇用促進を図っていこうという「職域拡 大の推進と個々人の能力向上」の3点を理念と して掲げました。 当社の取り組みとして、障害者生活相談員の 配置ということで、指導者クラスは必ずこの障 害者生活相談員のセミナーに参加しています。 また、各就労支援機関との連携ですが、これは もう三位一体のものの考え方が必要だというこ とを実感しております。会社だけでは、問題解 決が大変難しゅうございます。そのためには会 社、就労支援にかかわる機関の皆さま方、ご家 族との三位一体で、障害者の雇用の問題解決に 励んでいるところでございます。それから、コ ミュニケーションの場の提供として、たまには ご家族や就労機関の先生方と一緒に懇親会を行 うことも必要かなということで、私どもでは年 に2回ほど機会を設けています。指導員への教 育の徹底ということで、企業内ジョブコーチが 講師をしながら、指導員のレベルアップを図っ ています。各種制度・助成金の活用についても、 いろいろ情報をいただきながら、こういう助成 金の制度もあるんだなと、勉強しながら、大い に活用を心掛けています。 当社では障害者の皆さんをクローバースタッ フと呼んでいます。現在では35名おり、うち重 度の障害を持ったクローバースタッフは20名で す。ちなみに知的の障害を持ったクローバース タッフが30名。そのうち重度が19名ほどです。 身体の障害を持ったクローバースタッフが3名、 重度が1名。精神の障害を持ったクローバース タッフが2名です。どんな仕事をしているか、 簡単にご紹介したいと思います。 駅構内での清掃業務は、知的が14名、身体1 名、親会社を定年退職した社員であるシニアス タッフが2名と一緒にクローバースタッフが働 いています。京急川崎駅、横須賀中央駅、汐入 駅の清掃を担当しています。採用当時は配置型、 あるいは協力機関型のジョブコーチのご支援を いただきまして、現在では出身母体の就労支援 担当者の支援をいただきながら、問題のあるク

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ローバースタッフに対して、週に1回あるいは 月に何回かおいで願いまして、事が小さいうち に解決して、ドロップアウトしないような努力 をしています。また、当社のグループ会社が経 営している㈱ホテル京急と㈱ホテルグランパシ フィックで指導員が1名、クローバースタッフ が3名のそれぞれ4人体制で、ホテル周辺の清 掃あるいはリサイクル業務を担当しています。 ここでは配置型ジョブコーチ1名、協力機関型 ジョブコーチ1名の支援をいただいています。 新逗子の事業所では、シーツ、枕カバー、襟布、 そういうものに特化して、水洗い、お湯洗いを 専門としたクリーニング業務をしています。1 日約400枚を、クローバースタッフ5名が作業し ています。開業の前後数カ月間、企業内のジョ ブコーチが教育指導を担当していただきました。 9カ月前にオープンしたパン屋では、開業する までの間が約3カ月ございましたので、私ども の企業内ジョブコーチが教育指導を担当しまし た。ここには8名のクローバースタッフのうち、 精神の障害を持ったクローバースタッフが2名、 私どもが初めて採用して今頑張って働いている ところです。この支援については、NPO法人の メンタルサービスネットワークさんのスタッフ からご支援をいただきながら、精神の障害を持 ったクローバースタッフの問題解決等に努力し ていただいております。 ということで多くのジョブコーチ支援を受け てやってきましたが、例えば、私どもの企業内 に昨年4月にジョブコーチとして採用した方に ついて言えば、これまで民間企業での経験がな い中で今までジョブコーチとして実践してこら れたということもあり、まずその辺、私どもは 少し歯がゆい思いをしたことは確かです。障害 のある人だけを見た支援ではなくて、企業を理 解し、職場の状況を把握した上で支援する、そ のようなことをつくづくご本人にも言いますし、 今後ジョブコーチとして来ていただく方も、そ ういった協力型の人たちであってほしい。まず は企業を理解する努力をしていただきたいと思 っています。 最後です。今後の課題ということで、職場定 着の推進を図るには、指導者のレベルアップ、 障害者の指導育成、第2号ジョブコーチの資格 取得ということです。第2号のジョブコーチの 資格取得のために、今後、京急ウィズも頑張っ ていかなくてはいけないと思っているところで す。以上です。 【佐藤】 鉄道企業は、これまで障害者の職域が 少ないのではないかと思われていたわけですが、 熊谷さんのところでは企業の中でいろいろな職 場を開拓し、障害のある方の採用を考えておら れます。ご説明の中では、職業センターがジョ ブコーチを派遣する配置型、協力機関型、それ から民間のジョブコーチ支援をされるスタッフ、 こういった方々をそれぞれうまく使っていらっ しゃるというご報告であったと思います。 それでは最後になりますが、鈴木さんから、 職業リハビリテーション機関の第一線機関であ る地域障害者職業センターの立場からお話しい ただければと思います。 【鈴木】 日頃ジョブコーチ支援に取り組んでい る中で感じていること、あるいは実際どのよう にやっているのか、調整をしているのか、今後 の課題はどういったことなのか、北海道障害者 職業センターでの取り組みを中心にご説明した いと思います。 最初に確認しておきたいのは、ジョブコーチ 支援の実施体制ですが、北海道には札幌と旭川 に職業センターがあります。1号法人につきま しては、助成金化以前から協力機関型ジョブコ ーチとして支援を行ってきた法人が5法人と、 昨年の助成金化以降新たに認定を受けた法人が 3法人新たに加わっています。2号法人につい ては、札幌地区に1事業所です。ただし、2号 法人に関しては、現時点では、実際に連携して の支援はまだ十分な実績がないといった状況で す。道内くまなくとまではいきませんが、要所 要所に認定法人がいつでも支援できるような状 態で配置されています。ただし道北地域になる と少し弱いので、今後の課題だと思っています。 このような実施体制で、北海道ではジョブコー

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チ支援を進めています。 実際にいろいろな支援ニーズが出てきたとき の配置型ジョブコーチ、あるいは1号法人、2 号法人との役割分担、どういったすみ分けをし ているかを、幾つかの視点で整理してみます。 まず地理的条件です。支援ニーズがどこで発 生しているかにより、一つのすみ分けがあると 思います。北海道は非常に広大なエリアですの で、なかなか札幌や旭川から遠方に頻繁に出向 くのは難しいところです。ですから遠隔地域に ついては、その地域の1号法人を中心に支援を 行っています。むしろそちらのほうが、それぞ れ1号法人がこれまでそれぞれの地域で築き上 げてきたネットワークや他の社会資源との調整 等を得意とするところですから、そういったと ころを十分に生かして対応をしてもらっている という現状です。ただ、1号法人は全道くまな くというわけではありません。ですから当然1 号法人で対応できない地域も出てきます。そう すると、そこは札幌なり旭川の職業センターで 対処していくことになります。職業センターは 公的な性格を帯びた機関であり、一つのセーフ ティネットの役割として、どこの地域でニーズ が発生しても、それに対してできるだけ応えて いけるようにしています。あと、全道の中で比 較をしていくと、やはり札幌圏域に支援ニーズ が集中します。そこに発生する大量の支援ニー ズを全部札幌の職業センターで吸収して対応す るのは難しいので、札幌圏域の認定法人とその 支援ニーズを分散化させるということもしてお ります。 次に、対象者像から整理してみます。1号法 人なり2号法人で対応が難しい重度の障害者は 職業センターで対応するという対象者像のすみ 分けがあると思います。また、事業主支援のニ ーズの必要性が高いところ、つまり一人の障害 者をマッチングさせるレベルの支援ではなくて、 その事業所が社としてこれから障害者雇用の取 り組みを一つずつ築き上げていくといった支援 ニーズについては、職業センターでできるだけ 対応していくことも考えております。一方、1 号法人につきましては、当然これまで法人とし て長年支援実績を積み重ねてきており、それぞ れの法人が得意とする対象障害者がいるわけで すから、そういった方々についての支援は安心 してお任せしています。あと、現在の福祉的就 労から一般就労への移行という流れの中で、法 人の利用者を一般就労に移行させるときには、 できるだけ法人で一貫した支援をお願いしてい ます。2号法人については、先ほどあまり支援 実績がないと申し上げましたが、要件的に見て いくと、支援対象は自らが雇用する障害者であ り、その関係性を踏まえて機能していくと非常 に心強いと思います。我々が外部から事業所に 入っていくと、第三者という立場でいろいろと 気付くこともあるかもしれませんが、第三者だ から力が及ばないところや手を出せないところ もあるわけです。そういったときに、職務に精 通し、職場内にも精通して、その事業所の中で 調整能力を持つ方がジョブコーチとして機能し ていただければ、非常に力強い存在だと感じて います。 その他、配置型ジョブコーチの役割としては、 ジョブコーチとしての先輩になるわけですから、 1号ジョブコーチあるいは2号ジョブコーチの 養成、スーパーバイザーといった機能も当然出 てくるだろうと考えております。 支援実施にあたっては、節目節目でケース会 議を開催し、支援の方向性がずれないように確 認をしております。1号ジョブコーチと配置型 ジョブコーチがペアで組んでいる場合の支援で は、支援を行った日に、その日の支援の状況に ついて必ず情報共有をするように心がけていま す。支援記録等も、次の支援に繋がるようでき るだけ迅速に書き上げてもらっています。一方、 1号ジョブコーチによる単独での支援について は、できるだけ法人主体で動いてくださいとい うことでお願いをしております。ただし、こち らは全然関知しないということではなくて、必 ず事前のケース会議、あるいは中間ケース会議 というように、やはり節目節目では必ずその支 援の進捗状況を職業センターとして確認するよ

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うにしています。ただ、日々の支援記録につい ては、その日その日で確認するのではなくてケ ース会議毎に整理していきますので、職業セン ターとしては、法人にお任せしている度合いが 大きい状況になっています。 最後に今後の課題と展望です。まず1点目と して、事業スキームの視点からです。今後、自 立支援法の関係で、障害者の就労に対する支援 ニーズの増加が見込まれます。具体的には平成 23年度中に、福祉施設から一般就労に移行する 障害者を現在の4倍以上にするという数値目標 が示されています。その中で5割の者がジョブ コーチの支援を受けるという、国としての一つ 指針が示されています。さて、今後見込まれる この大幅なジョブコーチ支援ニーズの増大にい ったいどう対応するのでしょうか。体制をどう 整備していくかももちろん大きな問題ですが、 併行して事業スキームそのものを見直していく 必要があるのではないかと感じています。今そ れぞれの支援について、地域センターがリハ計 画を策定する、支援計画を策定する、あるいは それを承認するという行為をしておりますが、 今後支援ニーズが飛躍的に増大したときに、ど こまで今の事業スキームで対応できるのかが、 一つ今後の課題になってくると思います。 2点目として、ジョブコーチ支援が必要な人 とは一体どういう人なのでしょうか。現状、例 えば、知的障害者、精神障害者、発達障害者だ からという理由だけでステレオタイプにジョブ コーチ支援を適用してしまっていることがない か、そこのところを私は個人的に少し危惧して います。もう少し、本当にジョブコーチ支援が 必要な人なのかどうか、今後のニーズの増大の 中で適切に支援を展開していくためには、そう いった支援ニーズを精査する必要性が出てくる のではないかということを感じています。 3点目として、ジョブコーチの方は、最初に 研修を受けていただいて、集合研修から始まっ て、地域での実践研修、あるいは実際の支援を 行っていく中でのOJTを通じて、ジョブコーチ としてのいろいろな資質なりノウハウを蓄積し て、小さな芽だったものが最終的には大木とな り、それぞれの地域で就労支援の核として活躍 してもらいたいと考えておりますが、ジョブコ ーチの資質向上のためには、全国でどのような 支援が行われ、どのようなノウハウが蓄積され てきているのかを、やはりまた節目節目で、オ フJTの形で共有する機会があってもいいのかな という感じもいたします。その養成の過程で、 先ほど事業スキームを変更していく必要性につ いてお話をしましたが、ジョブコーチの役割が 今以上に拡大していった場合には、その拡大し た範囲に応じて、どういった研修カリキュラム を組んでいくのかということも一つの課題にな ってくるという気がしています。一方で私がも ったいないと思っているのは、1号ジョブコー チの方が一生懸命研修を受けて、OJTを繰り返 して育っていくのですが、法人の中の人事異動 などで、大木となる前に伐採されてしまって、 また新たな方に入れ替わっていく、これは非常 にもったいないと思っています。やはりジョブ コーチとして一定のノウハウを身に付けていく には、それ相応の時間がかかると思います。人 が入れ替わることですそ野は広がるのかもしれ ませんが、ジョブコーチとしての資質の深さと いった点から見たらどうなのでしょう。少し寂 しい思いというか、もったいないという思いが あります。 以上、日々仕事をする中で感じていることを、 少し思い付くままにお話ししてみました。 【佐藤】 どうもありがとうございました。鈴木 さんからは、配置型、1号型、2号型、それぞ れのジョブコーチの役割分担の実情と、現場で 感じた問題点についてご報告いただきました。 最初に職場適応援助者制度全体の仕組みにつ いて、白石さんからご説明いただきましたが、 今後の課題についても白石さんのお立場でいろ いろお考えになっているところがあるかと思い ますので、少しご説明いただければと思います。 【白石】 既にここまでの和田さん、熊谷さん、 鈴木さんのご発言の中に、かなり今後の課題に ついてのヒントが出てきている感じがします。

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最初に前提として頭に置いておかなければい けない話として、障害者自立支援法の施行を追 い風として、ジョブコーチ支援に対するニーズ が今後さらに高まっていくだろうということが あります。福祉の世界からも就労移行支援とい う概念が非常に注目されるようになりました。 各地域で障害福祉計画がこれから作成されてま いります。その中でジョブコーチ支援について も数値目標が求められることになっています。 具体的には厚生労働省の告示に、就労移行支援 事業の利用者数や、ハローワーク経由による福 祉施設利用者の就職件数、あるいはジョブコー チによる支援の対象者数といったものが、数値 目標として定められるべきだという考え方が示 されています。ジョブコーチ支援については、 単に対象となる方の数だけではなくて、そのよ うな方に対する支援体制を担保できるように、 助成金の対象となる援助者が全国で800人養成さ れることを目指して、計画的な養成を図っていく というようなことも具体的に示されております。 そこで、今後の課題を考えますと、こういう 状況を踏まえて、質・量両面からいかに支援を 充実させていくのかを見ていく必要があろうか と思います。量的な面からの話については、地 域的なばらつきが非常に大きいものですから、 個別の地域毎で非常にさまざまな課題があろう かと思いますが、全国的な状況を考えれば、こ れから民間機関による研修機会もいろいろと増 えてまいりますし、助成金を活用した自主的な 取り組みも広がってまいりますので、数的には ある程度見通しが立つと思っております。 しかし一方で、質的な面をいかに維持してい くのかが、大きな課題となっていくのではない かと思います。私ども機構が実施しております ジョブコーチの養成研修は、機構本部で初めに 5日間の基礎研修をやりまして、ジョブコーチ 支援の理論的な面について学んでいただきます。 その後、それぞれの地域に戻っていただいて、 地域障害者職業センターで実務研修を4日間行 います。それではこの9日間で本当に実践的な 技術が身に付くのかというと、やはりそれほど 簡単なものではないわけです。実際には研修が 終わった後、障害者職業カウンセラーや、ベテ ランのジョブコーチと連携して経験を重ねてい く中で、ある程度時間をかけて一人前のジョブ コーチとしての技術やスキルを習得できていく 性質のものなのです。現在は、地域センターの ジョブコーチと新しく職場適応援助者の助成金 の認定を受けた法人の援助者がペアで支援を行 うことによって、技術移転を積極的に進めてい くような取り組みを行っております。ところが、 これから民間機関による職場適応援助がさらに 広がってまいりますと、今、鈴木さんからもお 話がありましたように、地域センターの体制で どこまでそれをサポートしていけるのかが、ち ょっと心配です。地域センターにおいても、よ り効率的で効果的な方法を考えていかなければ ならないかもしれません。それから各民間機関 においても、ベテランの援助者の方のノウハウ を、どうやって後進の方に伝えて、定着させて いくのか。これは短時間の講習会をやるだけで は不十分で、やはり継続的な職務に一緒にかか わっていくことで、徐々に身に付けていただく ような、しっかりとしたシステムを各民間機関 の中でも考えていただく必要があるのではない でしょうか。 また、ジョブコーチ支援と言った場合、実際 に事業所に行って障害者を支援するのは大きな 局面としてございますが、実際にはその前の段 階として、障害者の特性や事業所の環境につい てしっかりとアセスメントを行って、支援のた めのコーディネートをしていく、その段階のか かわりが非常に重要です。現在は地域センター のカウンセラーがその役割を担っておりまして、 ジョブコーチとの間で役割分担がなされている わけです。では民間機関が行うジョブコーチ支 援の場合、そういったカウンセラーの役割をど こが果たしていくのか。今までどおり地域セン ターがやっていけるのだろうか。あるいは民間 機関の中で、誰かその役割を果たせる人を育て ていかないといけないのか。そういう観点から の議論も必要になるかもしれません。

参照

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