湿地保全をめ ぐる法システムと今後の課題
田 中 謙
Abs t r ac t
We t l a ndsa r eno wi nc r i s i s . TheRa ms a rCo nve nt i o no nWe t l a ndswa sa do pt e di n1 9 7 1 ・Butt he de t a i l sa bo utt hec o ns e r va t i o na ndt hewi s eus eo fwe t l a ndsa r er e f e r r e dt oe a c hCo nt r a c t i ngPa r ‑ t i e s . I nJ a pa n, t hewe t l a ndsr e gi s t e r e di nt heRa ms a rLi s ta r ea l r e a dyde s i gna t e dunde rt hec ur r e nt l a wss uc ha st heNa t ur a lPa r ksLa wa ndWi l dl i f ePr o t e c t i o na ndHunt i ngLa we t c. Wi t hr e ga r dt o t hel e ga l s ys t e mso nwe t l a nd si nJ a pa n, Ic a npo i nto utf i vepr o bl e ms ・1 )Thepr o bl e mi st oma ke t o omuc ho fpr o pe r t yr i ght s .2 )Thepr o bl e m i st oma keus eo ft hes ur pl use nvi r o nme nt ・3 ) The r ei snovi e wpo i nto fe c o l o gi c a lc o ns e r v a t i o n.4 )Thepr o bl e m i sno tt ode s i gna t et hewe t ‑ 1 a ndsa ppr o pr i a t e l y・5 )Thepr o bl e mi sno tt or e gul a t et hede ve l o pme nta c t ss t r i c t l y.
Ke ywor ds:We t l a nd,Wi s eUs e,Sus t a i na bl eUs e,Co ns e r v a t i o n
【要 旨】
湿地は,今 日もっ とも危機に瀕 している自然生態系の 1つである 。1 9 71 年にラムサール条約が 採択 されたが, どの ような湿地を, どの桂度, どの ような法制度で保全するのかについては,す べて締約国の 自主的な判断に委ね られていて, 日本においては,ラムサール条約の指定登録湿地 は,鳥獣保護法の鳥獣保護区や, 自然公園法における国立公園の保護地域などにすでに指定 され ている地域ばか りである。
現行の湿地保全の法システムに対 しては,①現行の法システムは,土地所有権を手厚 く保護 し て規制を最小限度 に抑 える 「 財産権偏重」の法システムである とともに, もともと自然はあ り余 ってお り,その利用を図るとい う前提でで きているために,自然を保護 しようと多少の修正を加 えて も,今 日の 自然環境保全の要請 に応えることがで きない,②湿地の 自然環境を保全するとい う機能が非常に弱い一方,自然を過剰 に利用する結果, 自然環境が破壊 されている,③生態系を 保全する という観点が とても弱 く,過剰利用による生態系の破壊が絶 えない,④登録湿地は水鳥 重視で選定され,また地元合意を重視 しているため,湿地保全の対象地域が適切 に指定 されてい ない,⑤ ゾーニング手法が用い られ,また既得権が重視 されている結果,土地所有者な どに対す る開発規制が とて も甘い,などの問題点を指摘することができる。
今後の課題であるが,湿地一般の保全を 目的 とした総合的な 「 湿地保全法」を策定する必要が ある。なお,総合的な 「湿地保全法」を策定する際には,①土地所有権を手厚 く保護 して規制を 最小限度に抑える 「 財産権偏重」の法システムを転換 し,土地利用規制を強化する,②環境保全 機能を強化するとともに,過剰利用を抑制する,③生態系保全の観点を確保する,④ ラムサール 条約の 「国際的に重要な湿地」の選定基準を踏 まえて,保全対象地域を適切な方法で指定する,
⑤湿地保全対象地域の公有化,戦略的環境アセスメン トの実施,湿地の保全 と 「賢明な利用」を 組み入れた利用計画の策定 ・実施な どによって,開発規制を強化する,な どの視点を盛 り込む こ
とが必要である。
【目次】
第 1章 は じめに
第 2 章 湿地保全の法システムの概要 第 1節 ラムサール条約の概要
第 2 節 湿地保護 に関連する 日本の法律 第 3 章 湿地保全の法システムの問題点
1 .財産権偏重の法システム 2. 弱い環境保全機能 と過剰利用 3. 弱い生態系保全の観点
4. 問題の多い保全対象地域の指定 5. 湿地保全 をめ ぐる甘い規制
第 4章 湿地保全の法 システムの今後の課題 1.財産権偏重の法システムの転換 2. 環境保全機能の強化 と過剰利用の抑制 3. 生態系保全の観点の確保
4.適切な保全対象地域の指定 5. 湿地保全をめ ぐる各種規制の強化 第 5 章 おわ りに
第 1章 は じめに
湿地は,今 日もっとも危機 に瀕 している自 然生態系の 1つである。
湿原,沼沢地,干潟な どの湿地は,多様な 生物を育み,特 に水鳥の生息地 として非常 に 重要である。 しか し,湿地は干拓や埋立てな どの開発の対象にな りやす く,その破壊を く い止める必要性が認識 されるようになった。
湿地 には国境 をまた ぐもの もあ り,また,水 鳥の多 くは国境 に関係な く渡 りをすることか ら,国際的な取組が求め られる。そこで,特 に水鳥の生息地 として国際的に重要な湿地及 びそ こに生 息 ・生育 す る動植物 の保全 を促 し,湿地の 「賢 明な利用
」( Wi s eUs e )
を進 めることを 目的 として,1 9 7 1 年 2
月2
日,イ ランのラムサールで開催 された 「湿地及び水 鳥の保全のための国際会議」 において,
「特 に水鳥の生息地 として国際的に重要な湿地 に 関す る条約」 ( Conve nt i ononWe t l a ndso f I nt er nat i onalI mpor t anceEs peci al l yas
Wat e r f o wlHa bi t at:
以下,「ラムサール条 約1 」
とい う)が採択 された( 1 9 7 5 年 1 2
月21
日発効)0
湿地は,生物の多様性 に とって もっとも重 要な地域であ り,また海水の水質浄化の役割 も果た している
2
が,その機能は十分 に評価 されているとはいえない。その結果,湿地は, 埋立ての対象 とされることが少な くな く,最 近で も,1 9 9 7 年 4
月1 4
日に,諌早湾干拓事業 によって水門が閉鎖 され,大規模な湿地が消 滅 した こ とは記憶 に新 しい ところであ る3。
また,湿地は,工場な どか らの汚水や生活雑 排水の脅威にもさらされている。
本稿では,まず,湿地をめ ぐる法システム は どの ような法システムになっているのか確 認 し (第
2
章),現行法における湿地保全の法 システムの問題点を指摘 した (第3
章)うえ で,今後の課題 を提示す る (第4
章)こ ととしたい。
なお,本稿 においては,① 「保全
」 ( Con‑
s e r va t i on)
を 「環境 の現状 を守 り維持す る こと」 と定義する とともに,
「持続可能 な利 用」( s us t ai na bl eus e)
とい う考 え方 を含む 概 念 として,② 「保 護」 ( Pr ot ect i on)
を「環境 を守 るとい う 『活動や行動』の側面を 重視 した表現」 として,③ 「保存
」 ( Pr e s e r
‑va t i o n)
を 「まった く手 をつけず,そのまま 残す こと」 という意味で,それぞれの用語を 用いることとしたい。第
2
章 湿地保全の法システムの概要湿地保全に関する条約 としてラムサール条 約があげ られる。一方,国内法に 目を向けて みると,わが国においては,湿地一般の保全 を 目的 とする法律は存在 しないものの,い く つかの国内法で対応 している。そこで本章で は,ラムサール条約 とい くつかの国内法を素
材 として,湿地保全の法システムについて概 観する。
第
1
節 ラムサール条約の概要以下,ラムサール条約の法システムについ て概観する。同条約 によると,締約国は,
3
年 ご とに締約国会議を開催 し,条約の実施などに関 して協議をす ることになってお り (
6
条 1項,2
項),実際にも, これまで締約国会 議は9
回は ど開催 されている4
が,本節では,この締約国会議の内容 も踏 まえて概観する。
1.湿地の価値の確認
ラムサール条約は,水鳥の保護を 1つの 目 標 にしているが,同時に水鳥の生息地である
「湿地の保護」を正面か ら唱っていることが 肝心である。 この点につき,ラムサール条約 の前文 は,「締約国は,人間 とその環境 とが 相互に依存 していることを認識 し,水の循環 を調整するもの としての湿地及び湿地特有の 動植物特 に水鳥の生息地 としての湿地の基本 的な生態学的機能を考慮 し,湿地が経済上, 文化上,科学上及び レク リエーシ ョン上大 き な価値 を有する資源であノる」 としている。
さらに,ラムサール条約の前文では,人間 とその環境 とが相互に依存 しあっている とい う生態学的な考えが示 されているはか,湿地 は,生態学的な価値だけでな く,経済学的価 値 ・文化的価値 ・科学的価値 ・レクリエーシ ョン価値 も有 しているとい う考 えも示 されて いることが伺 える。
2.
「湿地」 とは ?ラムサール条約 によれば,「湿地」 とは,
「天然の ものであるか人工のものであるか, 永続的な ものであるか一時的な ものであるか を問わず,更には水が滞 っているか流れてい るか,淡水であるか汽水であるか鹸水である
かを問わず,沼沢地,湿原,泥炭地叉は水域 をいい,低潮時における水深が 6メー トルを 超 えない海域 を含む」 とされている (
1
条1
項)。 この定義 によれば,湖,貯水池,河川, 運河,用水路,水田,汚水処理場,干潟,珊 瑚礁な ども対象 とな り,通常 「湿地」 とい う 言葉から想像 されるよりも広い範囲の土地が 含まれることに注意する必要がある。3.
一般的な湿地の保全 ・管理 (締約国の義務 1)
締約国は,湿地が登録簿に掲げ られている か どうかにかかわ らず,すべての湿地 につい て 自然保護区を設けることにより湿地および 水鳥の保全を促進 し,かつ 自然保護区の監視 を十分 に行 な うこ とを義務づ け られてい る
(4
条 1項)。また,締約国は,湿地を管理す ることによって,適当な湿地 における水鳥の 数 を増加 させ る努 力義務 が課せ られてい る(4
条4
項)ほか,湿地の研究,管理 お よび 監視について能力を有する者の訓練を促進す ることも義務づけ られている (4
条5
項)。な お,締約国は,湿地およびその動植物の保全 ・ 管理などに関 して締約国会議か ら勧告がなさ れた場合 には (6
条2
項d 号)
,当該勧告 を考 慮 に入れることが義務づけ られている (6
条3
項)0また,複数の締約国の領域 にわたっている 湿地,複数の締約国に及んでいる水系につい ては,当該締約国が相互に協議することとし てい る (
5
条)。 さ らに,湿地 お よびその動 植物の保存 に関する施策や規制について も, 締約国に対 して調整 ・支援する努力義務を課している (
5
条)04.
湿地の指定 と登録 (締約国の義務2)
締約国は,水鳥の生息に とって 「国際的に 重要な」湿地を指定 して,指定 された湿地は事務局の登録簿 (ラムサール ・リスト)に記載 される (
2
条 1項)。各締約国は,条約に署名 するか批准書や加入書を寄託するに際 して, 最低1
カ所の湿地を指定 しなければな らない(2
条4
項)。なお,登録簿は,事務局が保管 する (8 条 2 項 b 号) 0
「国際的に重要な湿地」 と判断するための 基準であ るが,「生態学上,植物学上,動物 学上,湖沼学上 または水文学上の国際的重要 性
」
のはか,「水鳥 に とっていずれの季節 に おいて も国際的に重要」 とい う基準があげ ら れていて (2
条2
項),水鳥重視の条文 となっ ている。 しかし,最近では,登録湿地の選定 に当たって,水鳥以外の要素 も重視 される傾 向が強ま り,第7
回締約国会議の決議7. 1
1に おいて,「国際的に重要な湿地選定のための ラムサール基準」 が採択 され5,基準グルー プA
「代表的,希少 または固有 な湿地 タイ プを含む湿地」 と基準グループB
「生物多様性の保全のために国際的に重要な湿地」の
2
つのグループに分けた うえで,① 自然のまた は 自然度が高い湿地の湿地であって,代表的, 希少または固有な例を含む湿地,②危急 ・絶 滅危倶動植物等の生態学的群集の生息 ・生育 地,③生物多様性の維持に重要な動植物個体 群の生息 ・生育地,④ ライフサイクルの重要 な時期 における動植物種の生息 ・生育地,⑤ 常時水鳥2
万羽以上を維持する湿地,⑥水鳥 の種 ・亜種個体群 の1%
を常時維持す る湿 地,⑦在来魚類個体群等の相当割合を支 え, 世界的な生物多様性 に貢献する湿地,(参魚類 の給餌源,産卵場,稚魚の成育場,漁業資源 の母川 ・回遊路 といった8
つの基準が明記 さ れている。 さ らに,第9
回締約国会議9. 1 付
属書Bでは, ラムサール条約湿地 に係 る上 記8
つの基準に加 え,⑨湿地 に依存する鳥類 以外の動物種 (又は亜種)の地域個体群の1
%以上を支える場合に適用する基準が新たに
追加された。以上の ように,現在では,登録 湿地に選定するかどうかを判断するにあたっ て
9
つの基準が明記 されていて,水鳥基準は, 多数の基準の中の 1つの基準 にすぎないこと がわかる。湿地 の指定 に当た っては,各締約 国は,
「渡 りをする水鳥の保護,管理及び適正な利 用 についての国際的責任を考慮する」 とされ てお り (
2
条6
項),湿地の指定が各締約国の 自由裁量 に委ね られているわけではないこと にも注意する必要がある。日本は,ラムサール条約を
1 9 8 0
年 に批准 し, その ときに釧路湿原が指定登録された。従来, 日本においては,主に水鳥の生息地が指定登 録 されていたが,2 0 05
年1 0
月に新たに2 0
湿地 が条約湿地 として追加指定登録 された際 に は,マングローブ林,サンゴ礁,地下水系, さらには水田を含む沼地,アカウミガメの産 卵地な ど,水鳥の生息地以外の形態の湿地 も 指定登録 された。なお,2 0 0 8
年1
月現在,登 録湿地数 は33
カ所で (【ラムサール条約湿地 ・ 登録地 位置図】参照),面積合計は1 3 0, 29 3ha
に及んでいる6。
5.
登録湿地の保全 ・管理 (締約国の義務3)
登録湿地 について,各締約国は,その 「保 全」および 「賢 明な利用」をするため,一般 的な湿地 の保全 ・管理 に関す る各種 の義務( 本節 3
.)に加えて,以下 に述べる各種の措 置を講 じることが要求される。(1)登録湿地の 「保全」および 「賢明な利用」
登録湿地について,締約国は,登録湿地の
「保全」 と 「賢明な利用」を促進するための 措置を講 じることとされ (
3
条 1項),ラムサー ル条約では,湿地を 「保全」( c o ムs e r va t i o n)
することのみでな く,その機能を 「賢明に利 用」( wi s eus e )
することも目的 としている。【ラムサール条約湿地 ・登録地 位置図】
秋吉
台
地下水系
串本沿岸海域
くじゆう坊ガツル ・
タデ原湿原凡 例
⑳ 監 査 鑑 也 13カ所
伊豆沼 ・内沼
蕪黒沼 ・周辺水 田
奥 日光の湿原
※1 野付半島・野付湾
( 出典)環境省 HP ( h t t p: / / v v ww. e n v. go. j p/ pr e s s / 用e ̲ vi e w. ph p? s e r i a l ‑7 3 4 2 &h ou jd = 6 5 1 8 )
第 3回締約国会議の勧告附属書 による と,
「賢 明な利用」 とは
,
「生態系の 自然特性 を 変化 させないような方法で,人間のために湿 地を持続可能なように利用すること」 として いる。 ここにい う 「持続可能な利用」 とは,「将来の世代の需要 と期待に対 して湿地が対 応 しうる可能性を維持 しつつ,現在の世代の 人間に対 して湿地が継続的に最大の利用を生 産で きるように,湿地を利用すること」 とさ れている。
その後,第
9
回締約国会議で湿地の 「賢明 な利用」の定義が改訂 された。第9
回締約国 会議決議9.1
付属書A
「湿地の賢 明な利用及 び生態学的特徴の維持のための概念的な枠組 み」段落22
による と,
「湿地の賢 明な利用」とは
,
「持続可能 な開発の範 囲内において生 態系アプローチ( e c o s y s t e ma p p r o a c h)
を通 じて達成 され る湿地 の生態学 的特徴( eco
‑l o gi c a lc ha r a c t e r )
の維持である」 としている
7
。すなわち,我 々人類 が湿地 を利用す る にあたっては,湿地の生態学的特徴の全体が 将来 にわたって維持で きるようにす る (‑坐 態系アプローチ) とともに,湿地 の恩恵 を, 現在の世代だけでな く,将来の世代 も同様 に 享受で きるように工夫す るこ と (‑持続可能 な発展)が意 図 されてい る。 した が って,「賢 明な利用 」 とは
,
「持続 可能 な発 展」( s us t a i na bl ede ve l o pme n t )
の湿地 について の派生概念である と考 えられる8。
締約国は,湿地の利用を生態系の 自然特性 を変化 させない範囲に とどめることが要求 さ れ るが
,
「賢 明な利用」 に関 しての具体的な 内容の基準がない と,各締約国の対応 もまち まちになって しまう。ただ し,締約国会議や 常設委員会 において,ガイ ドライン (第4
回 締約国会議における勧告4. 1 0
附属書)や決議 (第5
回締約国会議における 「賢明な利用に関する決 議5. 6
」,第7
回締約国会議における 「湿地の保全と賢明な利用を促進するための法制度の見直しに 関する決議
7. 2 」)
が作成 されてい る。
ガ イ ド ラインにおいては,湿地の基本政策および, 個 々の湿地 についての管理計画の策定が,漢 義では,ガイ ドライン実施の うえでの手引 きとして,環境影響評価およびモニタリングの 実施,土地利用計画への湿地保全の組入れ, 行政決定に対する民間団体の不服 申立ての権 利の確保な どが,それぞれあげ られている。
( 2 )管理計画の策定および実施
登録湿地 については,締約国は,登録湿地 の 「保全」 と 「賢明な利用」を促進するため の措置 を講 じるこ ととされ,具体的 には,
「管理計画」の策定および実施が義務づけ ら れている (
3
条1項)。 もっとも,条約では, 湿地の保全や賢明な利用のために 「計画を策 定 し,実施する」 としか定めてお らず,具体 的にどの ような計画を策定 し, どの ような対 策を講 じるのかについては,各国政府の判断 に委ね られている。ただ し,
「管理計画」の 策定に関 しては,第 8回締約国会議において, 決議8.1 4「ラムサール条約湿地及びその他の
湿地 に係 る管理計画策定のための新ガイ ドライン」が作成 されている
9 。
( 3 )湿地の生態学的特徴の変化に関する情報
の入手および通報各締約国は,湿地の生態学的特徴の変化ま たはそのおそれに関する情報をで きる限 り早 期に入手することがで きる措置を とるととも に,これ らの変化に関する情報を遅滞な く事 務局 に通報 す るこ とも義務 づけ られてい る
(3
条2
項)0( 4 )新たな 自然保護区の創設
締約国は,登録湿地の区域を緊急な国家的 利益のために廃止または縮小する場合には,
できる限 り湿地資源の喪失を補 うべ きである とされ,そのための具体的な措置 として,新 たな 自然保護区の創設することがあげ られて いる (
4
条2
項)。 もっ とも,締約国がこの新 たな 自然保護区を指定登録することは,義務 づけ られているわけではない。第
2
節 湿地保護 に関連する日本の法律 ラムサール条約は法的拘束力のある国際条 約ではあるが,1
カ所以上の登録湿地の登録と
,登録湿地などを保全するための管理計画 作成を求める以外は,特定の義務を締約国に 課 しているわけではない。そのため, どのよ うな湿地を, どの曜度, どのような法制度で 保全するのかについては,すべて締約国の 自 主的な判断に委ね られている。湿地は
1
つのま とま りを持 った特徴のある 生態系を構成 しているが, 日本においては, こうした湿地の特徴や価値 に着 目し,湿地を 独 自に保護するための法律は存在 しない。す なわち, 日本においては,湿地一般の保全を 目的 とする法律は存在せず,湿地は,それが 存在する土地に適用 される法律によって間接 的に保護 されるに過 ぎない。た とえば,河川 湿地は河川法により,海岸湿地は海岸法や港 湾法 ・漁港法 により,都市近郊の湿地は都市 計画法 な どに よ り,農業地帯の湿地 は農地 法 ・ため池保護条例な どにより,それぞれ保 護 もしくは管理 されている。また,国立公園 や鳥獣保護 区の中の湿地 は, 自然公 園法や「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」
(以下,「鳥獣保護法」 という)で保護 され, 生息する鳥類が天然記念物や絶滅のおそれの ある種であれば,文化財保護法や 「種の保存 法」で保護 されている。
ところで, どの ような湿地がラムサール条 約に登録 されているのかが問題 となるが, 冒 本 におけ るラムサール条約の指定登録湿地
は,ほ とん どが鳥獣保護法や 自然公園法な ど の国内法で,すでに保護対象 となっている地 域であ り,かつ,地元 自治体の賛成が得 られ た地域である。 これは,既存の法制度によっ て湿地の保全が担保 されていることが選定条 件の
1
つになる との環境省の考 え方に基づい ている。そのため,ラムサール条約の指定登 録湿地は,鳥獣保護法の鳥獣保護区や, 自然 公園法における国立公園の保護地域な どにす でに指定 されている地域ばか りである。本節では,ラムサール条約の登録湿地のほ とん どが,鳥獣保護法の 「特別保護地区」か, 自然公園法の 「特別保護地区」「特別地域」
として,すでに指定 されている湿地であるこ とを踏まえて,これ らの地域 ・地区を中心に, 鳥獣保護法 と自然公園法の法システムを概観 する。
1
.鳥獣保護法 による規制ラムサール条約の登録湿地の中のい くつか の湿地は,鳥獣保護法の 「特別保護地区」の 指定 を受けている ところが少な くない。そこ で,鳥獣保護法の 「特別保護地区」の指定 と 規制を中心に,鳥獣保護法の法システムを概 観することとする。
(1)鳥獣保護法の 目的 ・対象
鳥獣保護法 は,「鳥獣 の保護 を図るための 事業を実施するとともに,鳥獣 による生活環 境,農林水産業又は生態系に係 る被害を防止 し,併せて猟具の使用に係 る危険を予防する ことにより,鳥獣の保護及び狩猟の適正化を 図 り, もって生物の多様性の確保,生活環境 の保全及び農林水産業の健全な発展に寄与す ることを通 じて, 自然環境の恵沢を享受で き る国民生活の確保及び地域社会の健全な発展 に資す るこ と」 を 目的 としてい る (
1
条)。 なお,同法 において 「鳥獣」 とは,「鳥類叉は晴乳類 に属する野生動物」 を指す (
2
条1
項)0( 2)
鳥獣保護区の指定 と規制環境大臣または都道府県知事は,鳥獣の保 護のために必要があると認めるときは
,2 0
年 以内の存続期間を定めて,「鳥獣保護区」 を 指定す ることがで きる( 28
条 1項,7
項)。た だ し,鳥獣保護区を指定するには,環境大臣 は農林水産大臣 と協議することを要する( 28
条9
項)ほか,関係行政機関の意見聴取( 28
条3
項),住民 お よび利害関係人 に よる意見 書の提 出( 28
条‑ 5
項),公聴会 の開催( 28
条6
項)な ど 「地元の合意」を重視 している。そ の紘果,鳥獣保護区は,環境省 と農水省が合 意 しない と実際上 はなかなか指定 されない し,地元で もめている場合に指定 されること もほ とんどないのが実状である。なお,鳥獣保護区の主要な効果は鳥獣の捕 獲の禁止であ り (
8
条以下),開発行為を抑制 することはで きない。開発行為 を抑制するた めには次に述べる 「特別保護地区」を指定することが必要 となる。
( 3)
特別保護地区の指定 と規制開発行為を抑制するためには,鳥獣保護区 を指定するだけでは不十分であ り,「特別保 護地区」を指定することが必要 となる。特別 保護地区は,鳥獣保護区の中で特 に必要な場 合に,環境大臣または都道府県知事 により, 鳥獣保護区の存続期 間の範 囲内 (すなわち,
2 0
年以内)で指定 される( 2 9
条1
項,2
項)。 ま た,環境大臣または都道府県知事は,特別保 護地区の中でさらに厳重な保護を図るため, 特別保護地区の区域内に「特別指定保護区域」を指定することがで きる
( 2 9
条7
項4
号)0 特別保護地区では,建築物の新築 ・改築 ・ 増築,水面の埋立て,干拓,木竹の伐採な どについて,環境大臣または都道府県知事の許 可が必要 となる
( 2 9
条7
項)。また,特別指定 保護区域では,木竹以外の植物を採取,動物 の卵の採取,た き火,犬その他鳥獣 に害を加 えるおそれのある動物 を入れること,球具そ の他の器具を使用 して,野外スポーツまたは 野外 レク リエーシ ョンをすることな どについ て も,環境大臣または都道府県知事の許可が 必要 となる( 2 9
条7
項4
号,施行令2
条)0これ らの要許可行為 について許可を受けず に行 った者は,
6
カ月以下の懲役または5 0
万 円以下の罰金 に処せ られる( 84
条 1項5
号)0 また,環境大臣または都道府県知事は,当該 違反者 に対 して,違法行為の中止 と,それに よる自然資源の改変 について原状回復を命ず ることがで きる( 3 0
条2
項)。2.
自然公園法による規制ラムサール条約の登録湿地の中のい くつか の湿地は, 自然公園法の 「特別保護地区」や
「特別地域」などの指定を受けているところ が少な くない。そこで,自然公園法の特別保 護地区や特別地域の指定 と規制を中心、に, 自 然公 園法 の法 システムを概 観す る こ ととす
る。
(1) 自然公園法の 目的 ・対象
自然公園法は,① 「優れた 自然の風景地を 保護」するとともに,② 「その利用の増進 を 図 り, もって国民の保健,休養及び教化に資 すること」を 目的 としてお り (同法 1条), 自 然の 「保護」 と 「利用」の両方を推進すると いう考 え方が示 されている。
また, 自然公園法は,同法の対象 となる自 然公園 として,①国立公園,(参国定公園,③ 都道府 県立 自然公 園の
3
種類 をあげてい る(2
条 1号)。 さ らに同法 は,① 国立公 園を「我が国の風景を代表するに足 りる傑出した
自然 の風 景地
」 (2
条2
号),② 国定 公 園 を「国立公園 に準ず る優 れた 自然 の風景地」
(2
条3
号),③都道府県立 自然公園を 「優れ た 自然の風景地」 (2
条4
号)とそれぞれ定義 してお り, 自然公 園法 の対象 とな るのは,「風光明婚な景観を備 えた 自然」だけである ことが伺 える。
( 2 )
自然公園の指定①国立公園は,環境大臣が,関係都道府県 および中央環境審議会の意見を聴いて指定 し
(5
条1
項),②国定公園は,関係都道府県の 申出により,環境大臣が同審議会の意見を聴 いて指定 し (5
条2
項),③都道府県立 自然公 園は,都道府県が,条例の定めるところにより指定する
( 5 9
条)0( 3)地域 ・地区の指定
自然公園は,景観の優秀性, 自然状態を保 持する必要性の度合い,公園利用上の重要性 によって,特別保護地 区
(1 4
条),利用調整 地区( 1 5
条),特別地域( 1 3
条),海 中公園地 区( 24
条),普通地域( 26
条)に区分 され る (ただし,都道府県立自然公園については,特別 保護地区,海中公園地区は設けられない)。特別 保護地区は,特別地域の中で景観維持のため 特に必要のあるときに指定 される( 1 4
条 1項)0 利用調整地区は,公園の風致 ・景観の維持 と その適正な利用を図るため特に必要のあると きに特別地域の中に指定 される( 1 5
条 1項)0 特別地域は,風致維持の必要性に応 じて,第 1種か ら第3
種までに分類 される( 1 3
条 1項,施行規則 9
条の2
)。海中公園地区は,海中の 景観を維持するため,その区域の海面内に指 定 される( 2 4
条 1項)。普通地域は,公園区域 の うち,特別地域 にも海中公園地区にも指定 されていない地域である( 2 6
条 1項)0( 4)特別保護地区 ・特別地域 ・海中公園地区
の規制特別保護地区,特別地域,海中公園地区に おいては,建築物の新築 ・改築 ・増築,水面 の埋立て,干拓,木竹の伐採な どについて, 国立公園については環境大臣の,国定公園に ついては都道府県知事 の許可 が必要 とな る
( 1 3
条3
項,1 4
条3
項,2 4
条3
項)。許可 ・不許 可の判断基準は,「国立公園内における各種 行為に関する審査指針」 ( 昭和49
年環境自企57 0
号)に基づいている。なお, これ らの地域 ・ 地区においては,公園利用 に関 して,みだ り にゴミを捨てた り,騒音を発生 させた りする 行為 も禁止 されている( 30
条)0なお,国立公園および国定公園内における 森林の伐採 は,「自然公園区域 内におけ る森 林の施業について
」 ( 昭和 3 4
年国発6 4 3
号,都道 府県知事宛国立公園部長通知)に基づいて,国 立公・園等における地域 ・地種区分に応 じて伐 採方法が定め られている。た とえば,特別保 護地区の森林は禁伐であるが,森林の施業に 関す る制限 について,厚生大臣 (現在は環境 大臣)はそれぞれの地区につ き農林大臣 と協 議 して定めるもの とされ,第 1種特別地域に おいては,原則 として禁伐であるが,風致維 持に支障のない限 り1 0%以内の単木伐採は可
能 とされている。( 5)
利用調整地区の規制利用調整地区の制度は,アメリカな どの国 立公園の仕組みを取 り入れ,利用可能人数の 設定な どにより自然生態系の保全 と持続的利 用を推進 しようとするものであ り
,2 0 0 2
年の 改正法で導入された ものである。利用調整地 区に立ち入 るにあたっては,環境大臣または 都道府県知事 の認定 を受 けなければな らず(16
条),その際の手数料 の規定 も置 かれて お り( 2 3
条),経済的手法 が明文化 されている。
( 8 )普通地域の規制 ( 2 6
条)普通地域 においては,大規模な影響のある 一定の行為について事前の届 出義務が課せ ら れているに とどまる
( 26 条
1項)が,環境大 臣または都道府県知事は,風景を保護するた めに必要な限度において,当該行為を禁止 し, または必要な措置を命ずることがで きる( 2 6
条2
項)0第
3
章 湿地保全の法システムの問題点
本章では,ラムサール条約のほか, 自然公 園法や鳥獣保護法な どの国内法の法システム を踏 まえて,湿地保全の法システムの問題点 を指摘することとする。
1.財産権偏重の法システム
現行の法システムは,土地所有権を手厚 く 保護 して規制を最小限度に抑 える 「財産権偏 重」の法システムである とともに,「もとも
と自然はあ り余 ってお り,その利用を図る
」
とい う前提でで きているために, 自然を保護 しようと多少の修正を加えて も,今 日の 自然 環境保全の要請 に応 えることがで きない とい
う根本的な制約がある。
(1
)
「自然環境保全」 と 「財産権」の調和条 項現行の法システムにおいては,「自然環境 保全」 と 「財産権」の調和条項の問題点を指 摘することがで きる。た とえば, 自然公園法
4
条では,
「この法律の適用 に当たっては, 自然環境保全法第 3条で定める ところによる はか,関係者の所有権,鉱業権その他の財産 権を尊重するとともに,国土の開発その他の公益 との調整 に留意 しなければな らない」 と いった財産権偏重思想が法律の中でわざわざ 横並びで明記 されている。 この条項は
,
「公 害対策」 と 「経済成長」の調和条項1 0
と同様,「自然環境保全」 と 「財産権」の調和条項 と で もい うべ きものであるが,この ような条項 がある結果,常 に財産権 が優先 され,「賢 明 な利用
」 ( 「持続可能 な利用 」)
はなかなか実現 されない。た とえば,釧路湿原が19 8 7
年 に国 立公園に指定 されたが,土地所有者の反対を クリアするために,規制は緩やかな もの とな り,実際にも,釧路湿原の周辺にはゴルフ場 予定地,廃棄物処分場予定地,牧場な どがあ るな ど,土地所有者の財産権を過度に尊重 し た規制 になった とい う。( 2 )
「自然はタダ」 という発想現行の法システムにおいては
,
「自然 は タ ダ」
とい う発想が存在 しているとい う問題点 を指摘することもで きる。 自然環境が脅かさ れるのは,
「自然は タダ」 とい う発想の もと に行なわれるその略奪利用,土地所有者の濫 開発および国民の過剰な利用 による。しかし, 現行の法システムは, もともと自然はあ り余っていて,「自然は タダ」 とい う発想 の もと で自然の利用を図るという前提でで きている ために, 自然を保護 しようと多少の修正 を加 えて も,今 日の 自然保護の要請 に応 えること がで きない という根本的な制約 も指摘するこ とがで きる
1
1。 また,「自然 は タダ」 と考 え る背景 として,「環境容量は無限であ る」 と いうことが前提 とされているが, この前提 も 問題である。( 3)
自然環境は将来の国民や地球民共有の財 産 とい う視点の欠如現行の法 システムにおいては
,
「自然環境 は,現在および将来の国民や地球民共有の財産である」 という視点 も欠けている。 自然環 境は,土地所有者や現在の国民だけの財産で はな く,現在および 「将来の」国民や 「地球 民共有」の財産で もある。 とすると, 自然環 境の保全は,土地所有者および 自然の利用者 の共同義務である とい う基本理念が必要であ る と考 えられるが, とりわけ, 自然公園法や 鳥獣保護法か ら,この ような基本理念を読み 取 ることは困難である。
( 4 )開発 ・建築 自由の原則
現行の法システムは 「開発 ・建築 自由の原 則」が前提 となっていることも問題である。
日本における土地利用規制 (土地利用計画,痩 築規制等)の法システムは,土地所有権は憲 法で保障 された財産権であるということで, 元来 ,所有者 が 自由に利用 で きるこ と (‑
「開発 ・建築 自由の原則」)を前提 とした う えで,法令による制限を設けている (民法
2 0 7
条)。 しか し,憲法29
条 は財産権 を保障 しつ つ,その内容は法律で定めるとしているが, 財産権を制限する法律は少な く, しかも,氏 法207条は,土地の所有権 は法令の制限の範 囲内でその上下に及ぶ としているので, しば しば,土地所有権は絶対で,天空,地下深 く 及ぶ と考 えられている。したがって,現行の法システムの下では, 法令の制限のない限 り,土地所有者は 自由に 開発 ・建築することがで き,しかも,法令の 制限は基本的に厳 し くない
1 2
。 こうした 「開 発 ・建築 自由の原則」の法システムの下では, 環境保全の視点か ら土地利用規制を強化 しようとして も,土地所有者を納得 させ ることは 難 しく,その結果,土地所有者 による濫開発 が行なわれ,環境が破壊 されることが少な く ない。
2.
弱い環境保全機能と過剰利用次に,湿地の 自然環境を保全するとい う機 能が非常に弱い一方, 自然を過剰に利用する 結果,自然環境が破壊 されていることを指摘 することがで きる。
(
1)「環境保全」の視点の欠如現行の法システムは,「環境保全」の視点 か らは不十分でない法システムになっている とい う問題点を指摘することがで きる。た と えば, 自然公園法の法 システムの下では,風 光明娼な景観を有 しない湿地はなかなか保全 されない。すなわち, 自然公園法は,風光明 婚な景観を保護する法律であるため,人の立 入を認め,往 々にして観光用の施設 (スーパー 林道,ホテル,観光道路等)を造 ることを正当 化 して自然破壊に手を貸 し,景観的に優れて いない自然は,いかに生物学的に貴重であっ て も保護 しないな ど, 自然環境の保全 とい う 視点 か らは不十分 な法 システム とな ってい
る。
( 2 )過剰利用 (
「利用」の重視)現行の法システムは, 自然環境を利用する ことを重視 した法システム となっている。た とえば, 自然公園法の法システムでは,環境 を保護 しつつ利用する,あるいは利用のため に環境を保護するということを意識 した法シ ステム となっている。すなわち,形式的には,
「保護」 と 「利用」の両方を推進する として いるものの,実際には,往 々にして 「利用」
の方 を優先 させ,その結果 として,「観光」
という名 目で開発が促進 されるとともに,刺 用者の増加による環境への悪影響が指摘 され ているところであ り,いわゆる 「過剰利用」
が大 きな問題 となっている
1 3。
3.
弱い生態系保全の観点ラムサール条約は,主 として水鳥に着 目し た条約であったが
,1 9 9 9
年の第7
回締約国会 議 において,広 く生態系の保全に重要な湿地 に対象を拡大 し,2 0 0 5
年 までに登録湿地を倍 増する計画を立てた。 しか しなが ら, 日本に おいては,依然 として,生態系を保全すると いう観点が とて も弱 く,過剰利用 による生態 系の破壊が絶 えない。た とえば, 自然公園法の法システムでは,
「優れた 自然の風景地」が保護の対象であ り, 開発規制 も主 として景観保護の視点か ら規定 されているため,生態系を保全するとい う観 点か らは十分ではない。 もっとも, この 自然 公園法の趣 旨については
,
「自然の風景地」(自然景観)を保護するということは,その 風景地を形成する自然のすべて,すわなち, 生態系を保全することである という解釈 もあ り得 る。また
,1 9 8 7
年 に指定 された釧路湿原 国立公園が,「優れた風景地」だか らでな く, その特徴的な生態系ゆえに国立公園に指定 さ れた ことをもって, 日本の国立公園の指定 も 生態系保全を重視する方向に転換 した とい う 理解 もある。 しかし,現実に国立公園内で実 施されている管理の状況は, とて も生態系を 重視 した もの とはいえない。4.
問題の多い保全対象地域の指定湿地保全の対象地域を指定する際にも,い くつかの問題点を指摘することがで きる。
(1)水鳥重視の登録湿地選定基準
ラムサール条約では,「国際的に重要な湿 地」 と判断す るための基準 として
,
「生態学 上,植物学上,動物学上,湖沼学上 または水 文学上の国際的重要性」のはか,
「水鳥に とっていずれの季節において も国際的に重要」
とい う基準があげ られていて (
2
条2
項),水鳥重視の条文 となっている。 とりわけ, 日本 では,ラムサール条約の 「国際的に重要な湿 地」の選定基準 として,湿地 自体や動植物一 般 に関する基準を用いず,水鳥に基づ く特別 基準 に関連 す る基準 を過度 に重視 して きた が,これに対 しては,条約の趣 旨に十分に配 慮 していない と批判 されているところで もあ
る
1 4 。
もっ とも,最近では,登録湿地の選定に当 たって,水鳥以外の要素 も重視される傾 向が 強ま り,第
7
回締約国会議の決議7. 1
1や第9
回締約国会議9. 1
付属書B
な どのガイ ドライ ンでは,水鳥以外の基準 も示 され, 日本にお いても, 2 0 0 5
年1 0
月の追加指定登録の際には, 水鳥の生息地以外の形態の湿地 も指定登録 さ れた。 しかし,諌早干潟,曾根干潟,和 白干 渇,三番瀬な どは,その生態的な価値が世界 的な評価を受けているにもかかわ らず,登録 湿地 とはされなかった。( 2 )湿地保全 という視点か ら指定 されない保
全対象地域日本政府は,ラムサール条約上の湿地 とし て登録すればその保全が国際的義務 になると いうことで,保護で きるところしか登録 しな い とい う方針の ようである。そして,保護で きる ということは,国内法ですでに指定 され ている地域,た とえば,鳥獣保護法の鳥獣保 護区や, 自然公園法における国立公園の保護 地域にすでに指定されていることを要求 して いる。そのため,鳥獣保護法や 自然公園法に おいて どの ような地域が保護対象地域 として 指定 されるのかが問題 となる。
鳥獣保護法では,鳥獣
( 「鳥類又は晴乳類 に 属す る野生動物」)
のみが保護 の対象1 5
であ る(2
条 1項)し, 自然公園法 で も,保護 の対 象 となるのは,
「風光 明婿な景観 を備 えた 自 然のみ」 であ る (2
条)。 したが って,鳥獣保護法や 自然公園法による保護対象地域は, 湿地を保全するとい う観点から指定 されるわ けではな く,湿地を保全する必要がある地域 であった としても,当該湿地に鳥類や晴乳類 が生息 していない湿地や,風光明婚な景観を 備 えていない地域は,保護対象地域 として指 定 されない ということになる。 しか も,ラム サール条約では 「国際的に重要な湿地」の選 考基準 として湿地 自体に関する基準が用い ら れているにもかかわ らず, 日本においてはそ の重要性が認識 されてお らず,水鳥のみに着 目して選考がなされている嫌いがある。 この ように,湿地保全 とい う観点か ら見た場合 と て も不十分な法システム となっている。
( 3)
自然環境保全法 との重複指定禁止 鳥獣保護法や 自然公園法に基づいて保護対 象地域を指定するりでは湿地保全 とい う視点 か らは不十分・であるが, 自然環境保全法 に基 づいて保全対象地域を指定するのであれば, 湿地保全の効果はそれな りに期待で きるもの の,問題は少な くない1 6。
風光明楯な景観を保護することを 目的 とし た 自然公園法に対 して, 自然環境保全法は, 自然環境その ものを保全することを 目的 とし て
1 972
年 に制定 された法律である。同法では,自然を原生のまま保全する 「原生 自然環境保 全地域」のほか,「自然環境保全地域」,「都 道府県 自然環境保全地域」が指定 される
( 1 4 粂
1項,2 2
条 1項,4 5
条1
項)0原生 自然環境保全地域は, 自然状態のまま 保全する地域で,竹林の伐採が禁止 されるこ とは もとより,落葉 ・落枝の採取,動物 ・そ の卵の採取 も禁止 される
( 1 7
条)し,立入禁 止地 区を設 けるこ ともで きる(1 9
条)。
ただ し,これは財産権 に対する厳 しい制限になる ことか ら,国有 ・公有地 に限 られていて,氏 有地を指定することはで きない し,国有地でも森林法に定める保安林 については指定で き ない といった制約がある
( 1 4
条 1項)0自然環境保全地域については, 自然公園法 との重複指定 は禁止 されてい る
( 2 2
条2
項) ので,生態系保全の必要があった として も, すでに自然公園法で指定 されている場合 には 自然環境保全法による指定はで きない し,保 安林開発 も規制 されない( 2 5
条4
項,2 8
条1
項)といった制約がある。
( 4 )繭発 してはいけない ところを限定的に指
定現行法は,開発 ・建築 してはいけない とこ ろを限定的に指定するという法システムにな っている。た とえば,自然公園法の法システ ムの下では,地域の指定は開発 してよい とこ ろを指定す るのではな く,「開発 ・建築 自由 の原則」を前提 として,開発 ・建築 してはな らない ところを限定的に指定するという法シ ステムであるため,地域の指定は後手後手 に な り,その結果,開発の波にさらされた。
( 5)
「地元合意」を重視す る保護対象地域の 指定方法 (手順)日本政府は,ラムサール条約上の湿地 とし て登録すればその保全が国際的義務になる と いうことで,保護で きるところしか登録 しな い という方針の ようである。そ して,保護で きる とい うことは,国内法ですでに指定 され ている地域,た とえば,国立公園の保護地域 や,鳥獣保護法の鳥獣保護区にすでに指定 さ れていることを要求 している。そこで,国内 法の指定の仕方が問題 となるが,た とえば, 鳥獣保護法では,鳥獣保護区を指定するため には,農林水産大臣 との協議
( 2 8
条9
項) と 地元の合意( 2 8
条3
項〜6
項)を要求 している。た しかに,最終的には環境大臣または都道 府県知事が一方的判断で指定することがで き
る法システムになっている。 しか し,実際に は,農水省 と合意で きなかった場合や地元が ま とまって賛成 しなかった場合には,鳥獣保 護区に指定 しない という弱腰の運用がなされ ている。その結果, 自然保護団体がラムサー ル条約に登録 してほ しい湿地は開発の危機 に さらされている地域であるが,その ような地 域は開発派の圧力が強 く,地元合意はなかな か とれないので,鳥獣保護 区 に指定 されな
い1
7。
( 6 )
新たな自然保護区の指定登録の義務づけ な しラムサール条約によれば,締約国は,登録 湿地の区域を緊急な国家的利益のために廃止 または縮小する場合には,で きる限 り湿地資 源の喪失を補 うための具体的な措置 として, 新たな 自然保護区を創設することを求めてい る (
4
条2
項)が,締約 国が この新 たな 自然 保護区を指定登録することまで義務づけ られ ているわけではない。 しか し,新たに自然保 護区の指定登録を義務づけないのであれば, 湿地保全 とい う観点か ら見た場合,不十分 と 言わざるを得ない1 8。
5.
湿地保全をめ ぐる甘い規制財産権偏重の法 システム (本章 1.) にな っていることとも関連するが,湿地をめ ぐる 各種規制が とて も甘い とい う問題点を指摘す
ることがで きる。
(1)ゾーニング手法に基づ く甘い規制 自然環境保 全 に関す る現在 の 日本の法律 は,現在の 自然環境を形成 している地域な ど を保全することを 目的 として,必要な地域指 定を行ない,その地域内では一定の開発行為 の規制 (公用制限) をす る とい う地域規制 (ゾーニング)の手法 を採用 してい る点 に特
色がある。ちなみに,アメ リカの ヨセ ミテ, イエロース トーン,グラン ド ・キ ャニオンな どの国立公園は国有地であって営造物公園で ある。 これに対 して, 日本の国立公園は,氏 有地を取得 して造 るものではな く,土地利用 規制手法 によるいわゆるゾーニング公園であ る
1 9
。国が管轄管理する 「国指定鳥獣保護区」( 鳥獣保護法 2 8
条 1項,28
条の2第
1項)もある ものの,鳥獣保護法 による保護地区 もゾーニ ング地区である。ゾーニング手法は,動植物を保護するため に特定の地域を指定 し,そこにおける動植物 の捕獲行為その他その生態系を保護するため に一定の行為を禁止する法システムをおいて いる。 しか し,地域 内の規制手法の多 くは, 地権者を中心 とする数多 くの関係者の間での 利害調整 と妥協の上 に成 り立つもの とな らざ るを得ない もの とな り,その結果,ついつい 規制は甘い もの となって しまう。
( 2 )
既得権の重視既得権や財産権を必要以上 に尊重 して,甘 い規制が少な くない。た とえば, 自然公園法 では,「特別地域」や 「特別保護地区」 に指 定 された ときにすでに着手 していた行為は, 既得権保護 という名 目で規制 されない
( 1 3
条3
項但書,14
条3
項但書)。すなわち,既存の 旅館や飲食店な どは規制 されないのである。また,軽易な行為 として規制 されない行為は, 驚 くほ ど多い