様 々な出会い,解 けぬ謎,見果てぬ夢
土屋勝彦*
UnforgettableMentorsandAssociates,UnsolvedPuzzles,
UnendingDreams
KatsuhikoTSUCHIYA
私は
2007年
3月
31日をもって長崎大学 を定年退職 した。岡山大学医学部生理学講座 に文部教官助手 とし て職を得てか ら通算
40年 となる
。2007年
3月
4日に最終講義 としてお話 した事 をもとに記録 に留 めることにし た。
「 1 . 様 々な出会い」では通算
40年の職歴のうちで出会 った多 くの人々に影響 を受け、共 に研鋳 しあった事 を 記 したいo
r2.解 けぬ謎 」 においては,私 の研究歴 を 振 りかえって、中でも特 に印象に残 る未解決な ことが ら のその幾つかについて解説する。最後 の
r3.見果てぬ 夢」については特 に身近な 自然環境、長崎大学文教キャ
ンパス、浦上川及び浦上水源池周辺 において観察可能 な野鳥 について記述 し、長崎市の都市開発や浦上水源 池周辺の森 の開発等 について言及する。
表
1私の職歴( 研究歴)
1.自己紹介
私の職歴 を示せば 表
1のごとくなる。
私の研究上の興味は 「 動物生理学
」か ら始まり中頃は 主 として 「 生理学」、「 環境生理学」、そ して終盤の環境 科学部 においては、 「 環境生理学 ・動物生理学
」をめ ざしなが ら次第 に 「自然環境
」に注意が移 っていった。
2.
様 々な出会い
表
1に示 した研究歴 を経 る間に幾多の人々の薫陶 を 受 け、直接 または間接的に助 けて頂 いた。すでに故人
とな られ た先生方 もあるが、 この人々な くして今 日の私 はあり得ないと言える。過去 をかえりみて感謝 に堪えな い。
40
年間にわたる大学 ・研究所の勤務 の うちにめぐり あった恩師、同僚 または共 同研究者の一覧 を表
2に掲
1 ) 岡山大学理学部 動物生理学研究室
(1967‑)技術補佐員
2)岡山大学 医学部生理学教室 (
1967‑)文部教官助手
3)東京都老人総合研究所生理学部 (
1973‑)研究員
4) MaxPlanckInstitute,KerckhoffInstituteforPhysiologicalandClinicalStudy (1976
‑ )
5)長崎大学熱帯医学研究所疫学部門 ( 環境生理学) (
1979‑)文部教官講師および助教授* 長崎大学名誉教授
受領年 月 日
2007年 ( 平成
19年)
3月
31日
受理年 月 日
2007年 ( 平成
19年)
8月
31日
表
2恩師,同僚,共同研究者
岡山大学理学部 ・医学部時代
岩 田 清二先生* ,吉田 正夫先生* ,渡辺 宗孝先生,
福原 武先生* ,中山 沃先生, 難波 良司先生,福田 博之先生,禰屋 俊昭先生, 山里晃弘 先生
東京時代
入来 正窮 博士,長崎 紘明博士* ,永井 正則博士,野本 茂樹博士 ドイツ留学時代
Prof.E.Simon,Prof.Fr.K‑.Pirau*,Dr.K.Goerke
長崎大学熱帯医学研究所
片峰 大助先生* ,小坂 光男先生,大渡 伸 先生, 松本 孝朗先生 長崎大学医学部
尾崎 正若先生, 相 川 忠 臣先生,松本 逸郎先生,嶋 田 敏生先生, 関根 一郎先生,伊東 正博先生,七候 和子先生
長崎大学歯学部
佐藤 俊英先生,岡田 幸雄先生,宮本 武典先生 活水女子大学
井上 靖久先生
* は故人を表す.
げ る
。1976年か らの
2年間、及び
1993年の
3ケ月にわたるドイツ、
BadNauhelmの
Kerckhoff研究所での 留学は以前か ら外国語が特意ではな く、かつ外国人 と の接触の経験 に乏 しかった私 とって言わば カルチャー ショックであったが、 この経験 によって、研究生活 には 国際的視野 を持 たな くてはな らないとの気持ちを植 え つけられた。このことはその後の熱帯医学研究所時代 に とくに発展途上国の研究者 との共 同研究な どに大 いに 役立ったと思われ る。
解けぬ謎
ある時期 においては全 く解けそうもない謎であったが、
その後なんとか説明がついたとか、もう少 しでなんとか 解 りそうであるとか、もう少 しで正解 にたどり着けたのに とかその様態は様々であるが、このような謎の幾つか選 んで述べてみたい。
A)
師の説になづまざること
幸運 にも私 は各 々 の研 究 分野 にお い研 究 熱心 な 人々と接することが多かった。 しか し永 い間には研究 上の指導者の学説や考え方 に必ず しも同意 し難 い局面 にも立たざるを得ない場合 もあった。また研究上の論議 をしている途 中で見解 ・理解の相違が明 らかになって、
研究上の論議であるにもかかわ らず、時に感情的なしこ りが残ることもあった。このような局面でのいつも脳裏に
二五︺おのれー部へ撃学に、麻の警たがへること多く,師の税のわろきことあるを
は、きまへいふこともおはかるを、いとあるまじき1とと息ふ<おはかめれど、これすな
はちわが肺の心にて、つねにをLへられLは、後によき考への出で来たらんには、かたらず
Lも師の悦にたがふとて、なはばかりそとなむ'敬へられし。こはいとたふときをしへに
て,宗師の上にすぐれ給へる10な。。お監た票霊むがふること、さらにひと。二
人のカもて'ことごとくあきらめつくすべくもあらず。またよき人の悦ならんからに'多く
の中には取りもなどかなからむ'必ずわろきこともまじらではえあらず。そのおのが心に
は'今はいにLへのところことごとく明らかなり、これをおきては、あるべくもあらずと,
息ひ定めたることも'おもひの外に'また人のことなるよきかむがへもいでくるわざなり。
あまたの年を在るまにまに'さきざきの考への・nへ宅なほよく考へきはむるからに,つぎ
っぎにくはしくなりもてゆくわざなれは'師.の説なりとて'かたらずなづみ守るべきにもあ
らず。よきあしきをいはず、ひたぶるにふるきをまもるは'学問の遠にはいふかひなきわざなり? 式..&即
一 ・gと
もJF.のゥセー̲本居宣長図
1玉勝間「 師の説になづまざること」
浮かんだのは本居宣長の 「 玉勝間
」の一節 「 師の説に
なづまざること
」(国 1)であったO この短文は 「 真 に師
を敬 うことは師の学説を専守 ことではな く、師の説の不
十分な部分を改良 してより良いものにすることである」と
簡潔に説いている ( 保坂,1
956)。 研究者の使命は世
に使われている 「 教科書」のたとえ一行でも改訂 または 書き加えることであり、そのためにたとえ自分の師の考 えと違 っても真実を明 らかにすることに尽 くす ことが大切 であると信 じてきたつもりである。
B) ラット椎骨突起の番号
ドイツ連邦共和国マックスブランク研究所,ケル クホッ フ研究所に共同研究のため 2 年間の滞在 を許 され た。
その間、
Fr.‑K.Pierau先生,
E.Simon先生を始め多 く 研究者 との親交 を得たことは私の研究生活 において非 常 に重要な点である。 この時、私の 日本 における上司 は東京都老人総合研究所生理学部の入来正窮先生で あり、ケル クホッフ研究所の生理学部門主任は
Simon先生であった。両人は,入来先生の ドイツ滞在時代に,
Thauer一門として、脊髄温度受容の研究の進展に重要 な役割 を演 じて、その後 の 「 交感神経地域性反応」研 究の推進者であったOこの研究所 には
Thauer先生の現 役の時代か ら日本か らの研究者が数多 く滞在され た関 係か ら、 日本人研究者およびその家族はきわめて友好 的で手厚い取 り扱いを受 けた。 私の直接的な指導者 は
Pierau先生であり、先に岡山大学医学部か ら来て2 年間滞在 されていた禰屋俊昭先生のお仕事を継承する
ことになった。
S
図
2ラット陰嚢皮膚温度刺激時の上行性の感 覚神経信号に関する美妓の様子
A:
陰嚢皮膚温度刺激
B:頚髄 の冷却ブロック
A,Bにおける
Thermodeの温度 を変化 させ ることによっ て、陰嚢皮膚及び脊髄 の温度 を実験的 に変化 させ る。
この研究室で私の研究テーマは 「 ラット 陰嚢皮膚温度 刺激 による上行性 の感覚信号が途中の脊髄後角にお いて、上位中枢か らの下行性の信号によって如何なる 支配影響 をうけているか
」を調べることであった。 この 実験計画 の遂行は困難 を極めた。一方 において陰嚢皮 膚の温度刺激 を行 いなが らく図 2
‑A),同時に腰髄 レベ ルにおいて脊髄後角にガ ラス微小電極 を刺入 して陰嚢 皮膚温度 の変化 に呼応する脊髄後角細胞の電気信号 を誘するく図
2‑B)のが第一段階であった。複雑な実験 装置のセ ット アップや微小電位の記録のために電子記 録装置の調節を行 っているうちにラット の 血圧が下降 し て、絶命 してしまうことが多かったか らであった。脊髄 の 伝導 を断つ目的な ちぎ脊髄の局所麻酔で ことたりるとこ ろであるのに、 この ことを可逆的に行 うために脊髄伝導 の 「 冷却ブロック」を採用 し、その後 に適当な温水をこ の装置に環流 し、速やかな温度の回復 によって脊髄伝 導の阻害 を可逆的にコントロール しようとの作戦であっ た。 以上の実験 を遂行するために部分的に露出され ている脊髄が一体、第何節であるかを的確 に知る必要 があった。
まヂ、脊椎骨の分節 と脊髄の分節には微妙なずれ が あり、各動物種 によってそのずれ にも差異のあることを 知った(図
3lA). ラッ吊こおける脊椎分節 と脊髄分節 の関係は図
3‑Aに示す
(Waibl,1973)。 このような図を 実験室で,座右におけば 脊椎骨分節の番号 さえわかれ ば 、その直下の脊髄分節が正確 にわかることになる。
しか しなが ら当初,麻酔 したラット の背部で部分的に露 出した脊椎骨分節の番号を確実 に言 い当てるのは難 し か った.そ こで ラットの解剖 の詳細 な本等
(Greene,
1963; Waibl,1973)によって検討 したOその結果,胸椎
(Th)
の
10番の椎骨突起が 3 角形で小さい富士山のよ うな形状 をしていて、その尾側 に位置する分節の突起は 頭側 になび き、それ より頭側のものは後方 になび くこと に気がついた( 図
3‑B)。この ことによって胸椎
(Th)の
10番の椎骨突起は容易に同定できるようになった。
他方頚部の脊椎骨 を露出すると,際だって大 きい椎
骨突起が見て取れ ,それ より前方の脊椎分節は胸椎の
各分節よりも椎骨突起は小さく頚部のものと同様 に思え
た。そ こでこの大 きい椎骨突起 を持つ脊椎分節が第 1
胸椎骨分節 と思ってしまった。ところが この
10番の胸椎
の突起 を起点 に頭側 に数えなが ら遡 ると頚部でひ とき
わ大きい椎骨突起は 2 番になってしまう(図
3‑B)。何か
の誤謬が あるのでは と何 日も同じ事を繰 り返 し、悩んだ
末、麻酔 ラッドご不十分 にしか露出できない椎骨におい
て計測同定 しているためではないか と考えた。そ こで実 験で使用後 のラット を使 って,頚部か ら胸椎 ・腰部 まで 一挙 に、完全 に掃 出 してこれ をホルマ リンで固定 して、
脊椎骨のモデル標本 を作製 した。その結果、ひ ときわ 大 きい椎骨突起 を持つ分節は第
2胸椎
(Th2)で間違 い ないことを確信 した。椎骨突起 の大 きさにより判然 とし た差異か ら大 きな椎骨突起 をもつ椎骨列 をそのまま胸 椎列 と考えたのが誤 りであることがわかるまでに
10数 日を経てしまった。しか も解剖学の本 を丹念 に読めば こ の ことは明確 に記述 してあった
(Greene,1963)。安易な 思 いこみの故 の誤謬であったが この経験 によって思考 の柔軟性 の大切な ことを強 く印象づけ られ た。また解剖 学の本は図のみを見 るのではな く記述部 も詳細 に 「 読 む
」べきであることを身にしみて学んだ。
魚類の分類学が教えるところによると,魚 の鰭の中に は何本かの軟骨状の鰭条が存在する。背びれ について 言えば 、これ ら鰭条 を立てた り伏せた りすることによって 背鰭の形状 を変化 させ ることができる。分類学 において は種の同定 に各鰭 の鰭条 の数が判定基準 になっている。
その場合、「 一番前の長い鰭条 より前の短 い麻状のもの を数 に入れ ない」ことが分類学上の約束事であるとの こ とである ( 上野 & 坂本,
2004)。この ことは上述のラッ
ト 脊椎骨の計数の ことに関連 して興味深かったO
三二...;≡...:1.:I..1.I./I,,
A
囲 卜1,各脊椎骨 と脊髄分節の位置際 A :辞職骨各分節の僻面団
B:脊椎骨各分節の背面図
C:脊髄各分節の背面図 (Cl及びThl等は脊縫骨▲
脊髄及び脊髄神程の番号を示す, 8,Cは似 bl,1973による)
‑:∴
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図
3ラット脊椎分節と脊髄分節の関係を示す図
A:Weibl(1973)か ら引用
ち:
摘出 ラット 脊椎 ・脊髄標本のスケッチ ( 土屋)
C)
脊髄ラットにおける血圧と心拍数の変化の鏡像関係 脊髄 レベル による自律機能 の調節 に関する研究 は 自 律神経系 に関する研究 上の興味のみな らず不幸 にして 脊髄 の機能 を損なった人々の健康のためにも重要なテ ーマである。
長崎大学熱帯医学研 究所小坂光男 先生の研究室 に おいて、実験のためにラット 頚部で脊髄 を切断 して、 こ のラットを暖かい飼育室で数 日間飼育 して 「 慢性的脊髄 ラッ
hとして実験 に供 していたころの事であるo あら か じめ血液凝固阻止剤 を授与 され た慢性脊髄 ラット の 大腿動脈 にポ リエチレン細管 を挿入 し、観血的に動脈圧 を連続的 に計測 し,同時 に両膝下 に刺入 され た電極か ら心電 図 を誘導 し、 これ をもとに心拍数 を計測 した。
図
4は血圧、心拍数、直腸温、尾部皮膚温 を同時記 録 した図である。血圧が下降する時に心拍数は増加 し、
逆 に血圧が上昇する時は心拍数が下降 している。血圧 tJ L指数 を表す曲線は互 いに鍍像関係 にあるo通常、
血圧 の変動 を頚動脈や大動脈 に存在する動脈性 の圧 受容器が感知 し、その信号 を脳幹部の循環調節中枢が 受 け取 って心臓や躯幹部 の血管へ の交感神経系の遠 心路は脊髄 内を下降するOしか し慢性脊髄 ラッ N こおい ては頚部で脊髄 を慢性的 に切断され ているので、脳幹 部か らの調節性 の信号 を脊髄 を介 して躯幹部 に送 るこ
とが 出来ない。そ こで脳幹か らの指令 を躯幹へ伝達で きる神経経路 として残 る唯一の可能性 は迷走神経の遠 心路であろうか。心臓 に分布 している迷走神経系の抑 制作用 の変化 によりこのような鮮やか血圧 と心拍数 の 鏡像関係の原因 となっていたのであろうか。 このような 記録は、たまたま得 られ たものであり珍 しい記録であっ た。従 ってこのような状態 を誘導するためには特別な条 件が あるのか も知れない。脊髄 レベルでの 自律神経の 調節活動 についての研究 は多数
(Slmonetal . ,1 970;
A
rdelletal.,1982;Tsuchiyaetal J987;
Osbom etal.,
1989;Trosteletal.,1991)ある。 これ らを文献的に検討 し
たが、 このような図 4 によって示 され るような事例の記
述 もまた説明のヒントも得 られなかった。 この謎 をとくに
は慢性脊髄 ラッ吊こおいて図
4の様な連続記録 をしな
が ら迷走神経 の遠心性 発射活 動 の誘導記録 をする必
要が あると考えている。
(mtntlg)
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図
4慢性脊髄ラットの血圧と心拍数の同時記録 Tre:直腸温,BP:血圧,Trail:尾部皮膚温 孤 :心拍数,Ta:室温D)ラット皮膚温度の波状変化について
従来,生理学の研究はその手法の発達 と相まって、
その主流は次第に微細な細胞 レベルか ら細胞下 レベル に移行 してきた。 しか し、いかに、研究対象 ・方法が 微細精微 になろうが、その生理学的意味を考察するに あたって、最終的には生体 における機能 において理解 し なくてはな らない。その意味で,生理学 における動物実 験は必須のものであると考える。生理学における動物実 験は従来主 としてとしてウサギ、ネコ、イヌなどが使わ れてきたが、正確な統計は知 らないが ほぼ 1970
年代
か らラットを使った生理学の動物実験が増加 したと思え る。実験動物 ラッNま実験動物 として確立する前は ドブネ ズミのあったと言われ る (石橋,1984)。冷たい水辺の 環境で生き抜 くために、その身体は保温性が重要であ ろう。そのためか全身は分厚 い体毛で覆われていて断 熱性が高い。 しかし鼻先、手足、陰嚢そして尾部皮膚 において体毛は疎 らである。 特に尾部皮膚の面積は 総体表面積のわずか10%程度である(Lyzak,&Hunter, 1987;Tsuchiya& Taimura,2006)が尾部皮膚には多数 の動静脈吻合 (AVA)が存在 L(Gemmell&Hales,1977)
これが交感神経性の血管収縮神経の支配下にあり、通 常は閉塞 しているD ラッ極言高体温になったとき突然 にAVAの開放が起 こり、尾部皮膚の血流が急激に上昇 し、その結果尾部皮膚温度が上昇する (Folkow,1955, Halesetal・,1978). このことによって尾部皮膚か ら多量 の熱放散が行われ ることが知 られている。皮膚のAVA の開放による熱放散反応は汗腺の発達 していないラッ
吊ことっての重要な放熱反応であるo AVAの開放は 極めて突然であり(Randetal.,1965;0'Learyetal., 1985)、ある臨界温度が存在 し視床下部の機能のよって 尾部皮膚全体のAVAがいわゆるOn‑0ff様式で制御 さ れ ていると温 熱 生理 学 の分 野 では信 じられ てい る (Yong皮 Dawson,1982)。ところが私達の実験室で高血 圧 自然発症 ラット(SHR)で、ラットを小型ケージに閉 じ
こめた状態で直腸温、尾部皮膚温、室温 をサ ーミスタ ー温度計で計測 し,室温を次第に上昇させていた時、
尾 部 皮 膚 温 が 何 段 階 に も波 状 的 上 昇 し た (Tsuchiya,2001)(図 5)O この ことは尾部皮膚の全域 の AVAが必ず しも全て同時に開閉をしていないことを意 味している。 視床下部の制御部分に段階性が存在す るのか、あるいは尾部皮膚の各部分のAVAに対応する 複数の制御装置が存在するものかは不明である。
図
5ラット尾部皮膚温の波状変化2匹の高血圧 自然発症 ラット(SHR)1
と
2について 環境温(Ta)を次第 に上昇 させ た場合 の直腸温(Tre)と
尾部皮膚温(Tt
ai
1)の変化 を同時記録 した。D)魚類の体色変化にまつわる研究について
脊椎動物のなかで魚類,両生類,帽虫類においては 多 くの種 においてその体色が変化することはよく知 られ ている。とくの魚類は身近な存在であるのでこれ を実際 に観察される機会 も多いし、その生理学的なメカニズム も詳細に研究されている
( P
arker,1948;Waring,1963)。フナ,コイの硬骨魚類は全身皮膚に微細な色素額粒 を含んだ色素胞が無数 に分布する.色素胞に含 まれ る 色素によって黒色素胞,黄色素胞 (赤色素胞)などと分 類され る (小比賀,1982)。例えば 色素胞の自身の大き さは変化 しないが、色素胞内の色素頼粒が各細胞の中 心に凝集 (色素凝集状態)すれば 各色素胞は見かけ上
A 色素 血
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■(色 兼 拡 lR) (】鞘 下 丑 体 中 兼 )
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魚 類 黒 色 素 胞 に 対 す る 様 々 の イヒ学 物 質 の 作 用
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A
Yln),p・3ユ9,F ig.光一18く1973) よ り戦 ¥ )色 # 細胞 .及 JIr 沖 ら . 耕 供社 .1982
図 6魚類黒色素胞の支配の説明図 A:黒色素胞 の細胞周辺 の支配 図、
B:魚類 の眼に入 った光刺激か ら皮膚黒色素胞 までの支配
説明図
は点 とな り全身皮膚の色調は色素胞の存在 に影響され ないOしか し色素胞内で色素拡散が起 これば色素頼粒 は色素胞 いっぱ いに広が り色素胞全体が見えるように なる。その結果、皮膚の色調が色素胞 によって彩 られ る面積は増大する。 この色素胞拡散反応が黒色素胞 について起 これば 全身の色調は暗化する。
陽光の下の浅瀬で泳いでいる魚類の黒色素胞を例に とれば ,川底が 白い色調である場合 (白背地)、頭上 か らの入射光は眼の網膜の底部を刺激 し、白い川底面 による反射光は網膜の上部 を刺激する。他方、底面が 黒い場合 (黒背地)は入射光 については白背地の場合 と 同様であるが、頭上か らの入射光は黒い川底面で吸収 されて反射せず網膜には至 らない。 この様な事情 に よって、黒背地においては魚類の背部は黒っぽ い色調 を帯び(暗化)、白背地においては白っぽ い色調を帯び る (明化)。その結果、魚は上空か ら襲 う鳥などの天敵 とって目立たな くなるO この背地反応 を実験的に試 して みると、この反応が大方終了するに要する時間はある種
図7硬骨魚類にノルアドレナリンまたはアセチル コリンを投与した場合体色変化
A:メダカの場合、左 の個体 にノル ア ドレナリン、右 の個 体 に塩化 アセチル コリンの溶液 を腹腔 に授与 し、
B:ナマズの場合、背部皮下 にアセチル コリン溶液 を 授与 した。
の硬骨魚 においては3分程度である。
図 6は この反応のメカニズムについての説明してい る。図 6‑Aは魚類黒色素胞の興奮に直接関与 している 神経系及び液性的な要素を示 したものであるO この分 野 には交感神経性の色素凝集神経のみの存在 しない と考える 「SingleInnervation説」 と、色素凝集神経の 他 に色 素 拡 散 神 経 の 存 在 を考 えて い る 「Double l
r
mervation説」 も提案 されていたO この ことはは晴乳 動物の皮膚血管 において交感神経性血管拡張神経の 存在の可能性について論議されている (土屋,1986)ことに類似 しているO
図 6‑Bはフナについて眼の網膜 に入った光 により刺 激 され た黒色素胞凝集神経系が経路 とその作動のしく みが示されている。 この場合は黒色素胞凝集神経系 のみによる 「Single
I
nnervationSystem」によって説明されている
(IwataandF血 da,1973;小比賀,1982)。 ち なみに
、SingleInnervationSystemは晴乳類の皮膚血管 の支配様式 と同様である。晴乳動物の一般の末梢血管 においては、交感神経性血管収縮神経のみの支配が認 め られてお り、この支配神経の活動増加 により血管平滑 筋は収縮 し、活動減少によって血管平滑筋は弛緩する
と理解 され ている。
そ こで次 のような疑 問が残 った。1 .魚類の色素胞調 節神経 ( 凝集) 神経 と晴乳類の皮膚末梢血管の交感神 経性血管収縮神経 との類似性は ?
2.魚類の色素胞 調節神経 と魚類 の皮膚 の血管調節神経 はいかなる関 係 をもっているのだろうか ?
3.魚類 の色素胞 にはそ の魚 種 によって、 または 体 の部 位 によって
DoubleI r
mervationSystemは存在 しないであろうかO
その他、晴乳動物の交感神経の節後神経か ら色素胞 への伝達物質は ノルアドレナリンであるが、ヒト な どにお いて主 として温熱性発汗 を司るエクリン腺 を支配する交
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図
8ア オ サ ギ の 開 翼 姿 勢 に つ い て の 説 明
(Cady&Hume,1992)と開翼姿勢をしながら浅速呼吸 している写真
感神経 に限 ってその伝達物質は例外的 にアセチル コリ ン ( コリン作動性、小
川,1981)である。これ に関連 して, 硬骨魚類 の黒色素凝集神経の色素胞へ の伝達物質 は ノルアドレナリンと考えられているが、ナマズにおいては それ が例外的にアセチル コリンであることが紹介 され て いる( 藤井,1
976)。 長崎大学環境科学部のコース基 礎科 目の 「 環境保全設計基礎実験
B」においての供覧 実験で この実演 を行 った。図
7‑Aでは、メダカの腹腔 にノル ア ドレナリンとアセチル コリン溶液 を投与 しところ、
前者 の体色は明化 し後者は暗化 したく図
7lB)。そして ナマズの皮下 にアセチル コリン溶液 を注射 した場合,注 射点 を中心 として円形の範囲において皮膚 の明化が観 察 され たく 図
7‑B)。 ヒト な どの汗腺のエクリン腺は交感 神経系における伝達物質の例外であるが、ナマズの色 素胞 は硬 骨魚 における色素胞 の支配神経及び色素胞 の薬物感受性 に関する例外である。
E)
アオサギの開翼姿勢について
鳥類 は汗腺 を持 たない
(Henseletal . , 1 973; 井上,
1981,1987;Rautenberg,1995)O鳥類の熱放散は浅速呼 吸による口腔及び気道粘膜か らのに蒸発性熱放散が主 である
(Dawson皮 Hudson,1970;井上,1981)。 もし 鳥類が汗腺を備えていたら、飛期のような激 しい運動 を する場合、発汗で体温の上昇 を抑制 しなければ な らな いとすれば 、汗 の原料 と言うべき水分 をあらか じめ余分 に蓄えていな くてはな らいない。 この ことは体重 を増加 させ、飛期するのに不利な ことが らであることは想像 に 難 くない。 現在、河川、湖沼及び海浜な どでごく普 通 に見 られ るアオサギの奇妙な 「 開翼姿勢
」を観察 し た(図
8lB).ほぼ 体軸 を地面 に直角に直立 し、両翼 を 大 きく開いて静止 している姿である。 この この姿勢の意 義 を文献的に調べたところ、雑誌アニマにアオサギの 日 光浴 として紹介 してあった
(Terui,1
993)。 また、英 国 の本 にアオサギは暖を取 るためにこのように開巽姿勢 を して日光浴
(Sunbathing)を行 うと記述 してあった
(Cady 皮 Hume,1992)( 図
8‑A)。 ところが長崎で観察 され たア オサギの開翼行動は同時に口を半開きにして浅速呼吸 を行 っているO図
8lBの写真撮影 日時は
2002年9月
1日であり、その時の気温は長崎海洋気象台の記録で は長崎市の午後の気温 は
29. 2 ℃であった。この ことか ら、
この場合 のアオサギの開翼行動は浅速呼吸を伴 った熱
放散のための行動性体温調節調節 ( 村上恵,1
987;描
哲郎,1
989)であると考 えると理解 し易 い。胴体 を覆 っ
表
3文教 キャンパス、浦上川及び浦上川周辺で見られ る野鳥
長崎大学文数キャンパスで観察 された野鳥
ツル ( マナズルまたはナベズル) ,ジョウピタキ,マ ミチャジイナ,アカハラ,シロハラ,ツグミ, シジュウカラ,エナガ,ヤマガラ,メジロ,ヒヨ ド1 ),ハシボソカラス,ハシブ トカラス‑ ,キジバ ト, カワラヒワ,イソヒヨドリ,キセキレイ,ハクセキレイ,コゲラ,モズ,スズメ,メジロ,ウグイス, アオサギ,ゴイサギ, トビ
以上 26 種
浦上川及び浦上永源池周辺で観察された野鳥
ジョウピタキ,シロハ ラ, ツグミ,シジュウカラ,エナガ,ヤマガラ,メジロ,ヒヨドリ,ハシボソカラス, ハシブ トカラス,キジバ ト,カワラヒワ,イソヒヨ ドリ,キセキレイ,ハ クセキレイ,セグロセキレイ,
イソシギ,コチ ドリ,バ ン,コゲラ,モズ,スズメ,メジロ,ウグイス,アオサギ,ゴイサギ, ササゴィ, トビ,ホオジロ,オシ ドリ,マガモ,コガモ,ホシハジロ,ダイサギ,コサギ,カワセ ミ,ミサゴ,カイツ
ブリ, カンム リカツブリ,ホオジロ,アオジ,アマサギ,アオバ 上 ウ
以上
44種
ている巽 を離 して、胴体 を直接 に外気 に露 出することに よる熱放散 の促進 と考 えたほ うが妥 当 と考える。 しか し 文献 にあるように寒冷環 境 で集 熱行 動 として同様 な 開 翼姿勢 をとることもあるのだ ろうか。ことを実験的 に証 明 す るには、 アオサギ個体 を捕獲 して室温 を人工 的 に変 化 させ、室温 ・体温 と開翼行 動 の発現 との関係 を見 な
ぐでな らな い。
3.
見果てぬ夢
最 近 の 自然科 学研 究 の多 くの部 分 が 屋 内 の実験 設 備 を駆使 したものである。私 の研究 ・教育 生活 の大分 部分 も実験 室 にお けるものであった。環境科学部 に着 任 してか ら趣 味及び 教育 を通 じて野外 の 自然環境 を主 として環境科学部 の学生 と観察する機会 を得 た。趣 味 と しては野鳥 の観察 であり、教育 ・研 究 としては環境科学 部 の集 中講義、野外生物調査 、文理融合学部長裁定 プ ロジェクドごあった. また長崎大学公 開講座 において野 鳥 の生態等 を市民 に紹介 する機会 を得 た。これ らを通 じ て、強 く印象付 け られたことは、多 くの人 々が 自然環境 及び 動植物 の生態 系 に強 い興 味 を持 っているが 、実 際 の野外での観察 は得意 でな いという人 々が大多数 であ った ことである.野鳥観察 ( バ ー ドウオ ッチの は人々の 野外 生物 へ の興 味 を喚起 し、かつ野鳥観察 を通 して自 然環境や生態 系へ の理解 を深 め、合わせ て自然 に対す る豊 かな感性 を醸成す るもの と考 えられ る。 す くな く とも長崎大 学環境科学部 は学部 の教育 にお いてより積 極 的 にこの ようなカ リキュラムを維持 強化 す ることが望
第冒二十f段
i.̲っな.‑ち麓か陶ふものには、馬・牛。繋ぎ昔しむるこそいたましけれi・J.
言lまもふ廿な‑てかなはぬものなれば'いか・Jはせん。犬は'守ら防ぐつとめ、
人にも防具れば,磐や)あるペLo毘ど,蟹,とにあるものな 生ty
8.㍍呈と
か
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め編
はやともあもなんか(・Jヱ(・JiEtC)..1.ft・/浅rt<.くTJその外の鳥・歓'すべて用なきものな‑。走る歓捻鑑にこめへ幼‑九(I)・は五斗こをさ、れ、飛(ぶ)鹿は海を切‑
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か、野お一(l<()0山を恩ふ愁'止れむ)時なLoその息(ひ)、我が身にあた・なで温(Y3)二二がたエーたの丁右ヱ主雪l線‑ほ'心あらん人、これを津しまんやC生を薯しめて日を寄ほし≡こ
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H畑し⁝正志<,富は・(撃
離)窓な‑。王子歓が鳥を愛せし、林に鍵しぶを李‑I蓑.".くち禦
欝友としき各輔(苦しめ写O11あらず心lfつ.(..'こ....EtL空rJ‑入l「九号).珍らしき禽rあやしき鮮r拓に育はやしとこそ'文にも侍るなれO
図
9徒然草 第121段(西尾 1957)まれ る。
野鳥観 察の思想 は既 に
13 世紀、徒然草 において兼 行法師が見事 に言 い表 している(図
9)。この趣 旨は 「 不 必 要 に野 鳥 などを捉 えて龍 にいれ て飼 うよりも、鳥 が 自 由 に飛 び 交 うのを見 る方 がよい」である。野鳥 の観 察 の 意義 につ いては次 の様 に考 えられる.1.野鳥 の多くは 食物連鎖 の上位 に位 置するので環境 汚染 に敏感 である.
2.
渡 り鳥 は地球上を長距離移動して,ウイルス等の微 生
物を運搬する可能性 がある
.3.木の実等を食料 とする野
鳥 は植物種の分布 に貢献している
。4.ある種の野鳥は 蜜を採取する時に植物の交配に関与する。
長崎大学環境科学部の所在する文教キャンパスは浦 上川の本流 に隣接 している.長崎湾へ注 いでいるその 河 口部か ら源流 までの距離は比較的短 く、河 口部、中 流部、源流部の様相 をわずかの距離で体験できる。 ま た浦上川 にはオイカワ等 の小魚が多数生息 し、サギや カワセミな どに豊富な食物な どの水鳥 にとっての豊富な 食料 を提供 している。中流域では川幅 も20‑30m 程度 で狭 く、川幅の範囲内で、水鳥の観察が可能であるの で、野鳥観察 の トレーニングにも便利である。文教キャ ンパス及び 浦上川及び 浦上水源池で観察 され た野鳥 種 を表
3に示す。 文教キャンパス及びその周辺で26 種、
浦上川 ・浦上水源池では
44種の野鳥観察の記録があ る。 この記録は数年 にわた り記録 され たものであるが 、 市街地 の存在する文教キャンパス、及び市内を流れ る 浦上川および長崎市住 吉地 区に隣接す る浦上水源池 における観察記録 としては多種である( 土屋,
2006;土屋 他,2006) 。野鳥種の同定 には図鑑類 ( 小林,1
969;日本野鳥の会,
1997,1998;叶内,2000;福 田,200
2;本山, 2006)を参考 にした。
浦上水源池 の周辺周 囲約
4kmは 長崎市水道局 によって厳重 な金網 の フェンスで防備 され ていて一般 の人々が簡単 に水辺 に近づけない。 この ことが野鳥 に は幸 いして、オシドリ、カワセミ、ウ、 アオサギ、ゴイ サギ、コサギ、ダイサギ等の絶好 の聖域 となっている。
水源池周辺 の水辺の森 は一部が鷺 山 とな り、アオサギ な どの営巣活動が路線バスの通 る道路か ら容易に観察 できるO浦上水源池の南西の岸は長崎市住吉地 区 と深 い帯状の森 によって隔て られている。この森は幾多の野 生の動植物種 を育む生態系を構成 していて、長崎大学 環境科学部 の集 中講義、 「 野外生物調査」の実習地 と
してまたは小中学生の野外観察 に絶好 の場所 を提供 し ていた。 ところが平成
17年ごろか ら市街地側か ら宅地開発が始 まり、森の伐採、整地、そ してマンション用 のビル の建設が始 まった。市街地 に隣接 した水源地 に 周辺の森 が この様 に奇跡的 に自然のままの状態 してい るだけで、非常 に貴 いと考えていたのにこの ことは極 め て残念である。 このような事態に対 し、市民及び大学 関係者 とうが ほ とんど現状 の推移 を知 らなかったことを 非常 に残念 に思 える。 これ は 自然環境 の大切 さに対す る認識 ・価値観 を市民が共有する世 の中でありたい と 思 うのは私 の希望であり、夢である。
4
. 謝辞
永 きにわたる、教育 ・ 研究生活 を大過な く過 ごされ た ことは長崎大学環境科学部 の同僚 をは じめ、長崎大学 及び他大学 ・研究所の多 くの人々のお力添えが あって の事 と思 います。 ここに心より感謝 申し上げ ます。
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