ソビエトにおける自然保護教育
山 路 裕 昭*
(昭和58年10月31日受理)
The Education of Nature Protection
in Soviet Schools
(npHp・八・・xpa朋Te調bH・enp・cBe皿eHHe BCoBeTcKo臼皿Ko諏e)
Hiroaki YAMAJI
(Received October31,1983)
1 はじめに
周知のように,1960年代の末頃から世界的に自然保護教育あるいは環境教育が注目され るようになり,さまざまな実践が試みられて今日に至っている。しかしながら,自然保護 教育や環境教育の必要性が多くの人々の認めるところではあっても,学校教育においてそ れをいかに取り扱うべきであるかということに関しては,必ずしも明快かつ確実な合意は 得られていないように思われる。
本来,自然保護教育や環境教育が取り扱う自然環境は,単に人間社会から独立して客観 的に存在している自然のみではなく,人間社会と密接に相互作用し合う自然をも含んだも のであり,そこではむしろそのような自然と人間社会との相互作用を解明することが重要 な課題の一つとされるべきであろう。このような立場に立つとき,ソビエトの学校教育に おける自然保護教育(npHpo八ooxpaHHTe諏bHoe npocBe皿eHHe)は極めて有利な立場にあるよ うに見える。というのは,総合技術教育としてのソビエトの学校教育においては,学校と 生活,とりわけ生産との結びつきを重視し,それを教育内容へ積極的に反映させていこう とする伝統があるからである。したがって,そのようなソビエトの学校教育における自然 保護教育の実態を明らかにし,自然保護教育における生産の取り扱いに関する特質や問題 点などを解明することは,我が国の自然保護教育あるいは環境教育の発達にとっても意味 あることであろう。本稿では,このような視点から,ソビエトにおいて自然保護がどのよ うに理解され,またその教育がどのように行われようとしているかについて,法令や決定,
自然保護教育に関する論文および会議報告などに基づいて考察する。
*長崎大学教育学部理科教室
II 法令や決定における自然保護(1960年代〜1970年代初期)
ソビエトにおいては,1950年代の終りから1960年代にかけて,自然保護に関する多くの 法令や決定が出されており,例えば各共和国は1957年から1963年にかけてそれぞれ自然保 護法を制定している。それら共和国自然保護法の一つ,ロシヤ共和国自然保護法は,1960 年10月に採択され,その他の共和国自然保護法の典型をなしていたとされている1)が,冒頭 に次のように述べている。
「ソビエト国家における自然とその資源は,国民経済発展の自然的基礎であり,物質的 および精神的な富の不断の増大の源泉として役だち,人民の労働と休息の最良の条件を保 障する。
ソビエト社会制度と経済の計画的運営は,ロシヤ連邦の天然資源の合理的利用の可能性 をつくりだしている。
ソビエト権力の時代に,ロシヤ共和国では,自然保護と天然資源の合理的利用を組織す る大きな仕事が行われてきた………。
0
自然保護の強化ならびに天然資源の合理的利用および再生産の保障のために,ロシヤ・
ソビエト連邦社会主義共和国最高ソビエトは,次のように決定する。」2)
法律は,これに続いて個々の自然の保護や資源の利用に関する具体的指示を行っている が,しかしながらこのような自然保護法にもかかわらず,ソビエトにおける自然環境の汚 染と破壊は十分に防止されず,1960年代には例えばバイカル湖の汚染問題などが出現し
た3)4)。
こうして1971年,ソ連邦共産党第24回大会において,ブレジネフは,
「科学技術進歩の促進のための対策をとるにあたっては,その進歩が天然資源をたいせ つにする態度と結びつくようにし,空気や水の危険な汚染とか地力の枯渇の原因にならな いよう,できるかぎりの努力を払わなければなりません。党は自然の保護という観点に立っ て,新しい企業の設計と建設および操業中の企業の活動の改善にたいして,計画機関,経 済機関,設計機関,すべての働き手への要求を高めています。われわれだけでなく,われ われのあとの世代もまた,わが祖国のうるわしい自然のすべての恵みを享有できるように しなければなりません。われわれは自然の保護とその資源の合理的利用にかんする集団的 国際対策にも参加する用意をもっています。」5)
と報告し,またこの報告に関する党大会の決議において,第9次5ヵ年計画(1971〜1975 年)中に行うべきものの一つとして,
「自然の保護を強化し,天然資源を合理的に利用する。」6)
が掲げられた。
さらに翌1972年9月,ソ連邦最高会議(第8次第4会期)は,ソ連邦共産党第24回大会 の決議を受けて,「自然保護の一層の改善と天然資源の合理的利用の方策について」の決定 を採択した。
この最高会議決定は,次のような文章で始まっている。
「自然の保護および天然資源の合理的利用は,工業,運輸および農業の急速な発展,科
学技術革命の展開ならびにソビエト人民の多面的な物質的および文化的な要求の成長とい
う条件のもとで,もっとも重要な全国家的課題の一つとなっている。国民経済計画の遂行 の成功ならびに現在および将来の世代の幸福は,この課題の解決にかかっている。」7)
決定の大要は次のようなものである8)。
①自然の保護および天然資源の合理的利用についてのたゆみない配慮,並びに土地,
地下資源,森林,水,動植物および大気の保護に関する法令の厳守を,最も重要な国 家的課題の一つとみなす。
②自然保護の一層の強化および天然資源の利用の改善に関する措置を作成することを,
ソ連邦閣僚会議に委任する。
③連邦構成共和国閣僚会議および関係の省庁は,天然資源の正しい利用および自然保 護に対する厳しい監視および監督を保障しなければならない。
地方勤労者代議員ソビエトは,農地,林地および水の合理的な利用,動植物の保護,
都市その他の住宅地域の衛生事情の改善並びに産業騒音との闘争のための措置の実施 に対する監督を強化しなければならない。
④連邦院および民族院の常任委員会は,ソ連邦および連邦構成共和国の基本森林法草 案並びにソ連邦および連邦構成共和国の基本地下資源法草案の完成にあたり,この会 期で述べられた提案および意見を考慮に入れなければならない。
以上に取り上げた法令や決定以外にも,ソビエトでは自然保護に関する多くの法令や決 定が出されており,ついには1977年に制定された新憲法(基本法)においても次のような 自然保護に関する条文が載せられた。
「第67条 ソ連邦の市民は自然を大切にし,その富を保護する義務を負う。」9)
これらの自然保護に関する法令や決定は,それぞれその内容においては異なるものの,
自然保護の取り扱い方においては同様の傾向を認めることができる。すなわちそれは,多 くの場合,自然が環境としてと同時に資源という面からもとらえられていることであり,
自然保護が単に自然環境を汚染や破壊から守ることのみでなく,その資源の合理的利用と 結びついた形で論じられていることである。
では,自然環境の保護と天然資源の合理的利用との関係は,ソビエトにおいて,どのよ うに考えられているのであろうか。
ソ連邦共産党第24回大会が第9次5ヵ年計画に関して行った指令においては,
「社会主義的生産の高い発達速度,その効率の向上,科学技術の進歩並びに労働生産性 の急速な向上を土台にして,国民の物質的および文化的生活水準の大幅な発展を保障す る。」10)という新5ヵ年計画の基本的課題に対する対策の一つとして,「基礎科学と応用科学 の研究を全面的に発達させ,その成果をもっとはやく国民経済に導入すること」11)が掲げら れ,その中で次のように指示されている。
「海洋資源を含めて天然資源のより広範で合理的な利用の問題を解決するために,海洋 学,大気物理学,地理学に関する科学的研究を発達させること。人間を取り巻く自然環境 を改善し,天然資源をよりよく利用するために,自然保護と自然改造の科学的基礎を作る
こと。」12)
またソ連邦共産党第25回大会(1976年)におけるブレジネフの報告の中では,
「………国が直面している多様な経済的・社会的課題を成功裏に解決するためには,労
働生産性の速やかな増大,全社会的生産の効率の著しい向上以外の道はない。…………。
これはまず第一に,労働資源の問題の先鋭化と結びついている。………。さらに,エ ネルギーと原料に対する国の要求は絶え問なく増大しており,その生産はますます高価に なっている。したがって,基本投資の過度の増大を避けるために,製品の原材料使用量の 減少,より安くかつ効果的な原材料の利用および原材料の節約による資源のより合理的な 利用に努めるべきである。」13)
「………我々共産主義の建設者は,さらにもう一つの観点,すなわち環境の保護という 観点からも農業を取り扱わなければならない。………。
・自然界はさまざまに利用することができる。人類の歴史に少なからざる例がある ように,不毛な,死んだ,人類に敵対する空間を残しておくこともできるが,しかし同志 諸君,自然を改良し,自然がその生命力をより完全に明かすことを助けることもできるし,
またそうする必要がある。」14)
と述べられており,さらにこの大会で承認された「1976−1980年度ソ連邦国民経済発展の 基本方向」においては,第10次5ヵ年計画の基本的課題に関連して,次のような課題が提 出されている。
「6.環境の保護と天然資源の合理的利用および再生産に関する方策を作成し,実施す
ること。
O
有用鉱物の地中からの抽出度を高め,鉱物原料のより完全かつ総合的な加工を保障し,
環境に対する廃棄物の有害な影響を著しく減少させることを考慮しながら,有用鉱物の産 地の新しい効果的な採掘方法とシステム,その採取,選鉱,加工の進んだ工程を導入する こと。廃棄物の減少とその最大限の利用を保障する工程,並びに水の閉鎖再生サイクルに よる利用システムを,より積極的に作り,導入すること。」15)
これらの共産党大会における指令や報告などから,自然環境の保護と天然資源の合理的 利用との関係の一面を見ることができる。すなわち,天然資源の合理的利用は,生産性や 生産効率を向上させるために要求されており,自然環境の保護は,その天然資源の合理的 利用の一環として取り上げられている。そこでは自然が環境としてよりはむしろ資源とし てとらえられており,自然の所有する資源を十二分に活用するために,自然を大切に取り 扱い,汚染や破壊によって自然の利用可能性を狭めないようにすること,そしてまた産業 廃棄物を減らすと同時に再利用することによる原材料の完全かつ総合的利用などが求めら れている。つまり,経済の一層の発展のための天然資源の合理的利用は,同時に自然環境 の保護をもたらし,また自然環境の保護がすなわち天然資源の合理的利用の基礎とされて いると言えよう。
結局,以上に見てきた法令,決定あるいは報告などからは,ソビエトにおける自然保護 を一応次のように特徴づけることができるであろう。
「自然保護とは,経済的発展の要求に基づく天然資源の合理的利用と,自然環境を汚染 や破壊から守るという環境保護とを統一的に実現しようとする活動である。」
Ill 学校における自然保護教育に関する主張(1970年代)
学校における自然保護教育の実施については,前出のロシヤ共和国自然保護法の中で既
に次のように指示されている。
「第18条 教育機関における自然保護の基礎知識の授業
天然資源を大切にする情緒および天然資源を正しく利用する習慣を青年に教育するた めに,学校のプログラムならびに理科,地理および化学の教科書の該当する編に,自然 保護の基礎知識の授業をふくめる。高等教育機関および中等専門教育機関において,そ の専門におうじた自然保護および天然資源の再生産にかんする必修科目を設ける。」16)
また,1972年のソ連邦最高会議決定「自然保護の一層の改善と天然資源の合理的利用の 方策について」においても,自然保護の一層の強化および天然資源の利用の改善に関する 措置として,次のように指示されている。
「学校,中等専門教育機関および高等専門教育機関における理科および自然環境保護の 分野における学生生徒の訓練の改善。この分野を専門とし,膨大な天然資源を経済的に取 扱うことができる高度の専門家の,より大規模な養成。」17)
さらにこの最高会議決定の直後に,ソ連邦教育省は「普通教育学校における自然保護的 活動の強化について」という通達を出し,通達の中ではさまざまな教科において生徒の実 践的活動を自然保護の科学的基礎の解明と結びつけることが強調された18)。
こうして共産党や政府の文書において自然保護教育についての指示がなされ,自然保護 教育が学校教育の重要な課題として提出されたのに対して,教育関係のいろいろな雑誌に おいては,学校における自然保護教育をいかに行うべきかについての一般的方針を述べた 教育学者の論文が発表されている。
例えばザフレブヌィとスラベギーナ(1975年)19)は,既に見た法令や決定における場合と 同じように,自然保護の2つの基本的概念 自然環境を汚染や破壊から守ることと天然 資源の合理的利用 を認めた上で,「自然保護は,天然資源の合理的利用と自然環境(生 物圏:6HocΦepa)の汚染・破壊からの守護に関する人間の科学的および実践的活動である」
と定義づけるとともに,現代における自然保護活動を「社会一自然」というシステムの調 和的発達の基本的条件であるとし,社会的生産の発達の本質的方向性の一つが生物圏の保 護と合理的な資源利用の活動であることから,社会的生産が生物圏に与える影響を最適化 するという考え方を学校教育の内容へ反映させることを主張している。ザフレブヌィらは,
従来の人問と自然との相互関係を,
①人間の組織および社会の存在と発達に対する自然環境の影響,
②社会やその経済活動の自然環境に対する影響,特に生物圏に対する影響,
という2つの観点から区別し,さらに最近の自然環境の汚染や破壊から,第3の観点とし
て,
③改造された自然環境が人間の健康や経済活動の順調な発達へ及ぼす影響,
を区別する必要性を指摘するとともに,これらを学校教育の内容へ反映させることが必要 であるとするのである。したがってまた,自然保護における自然は,人間から独立した存 在ではなく,そこにおいて生命が生まれ発達し,人間の社会が生じ,人間のすべての生産・
労働活動が行われる「生物圏」として把握されるべきであると彼らは主張している。
またズベレフ(1974年)20)も,自然保護の現代的理解の基礎に生物圏の考え方があること
を指摘し,自然と社会,生物圏と人間,そして人間と環境との相互関連の問題を研究する
新しい方向性を認めている。ズベレフは,自然保護教育において学校と教師が重要な位置
を占めることを明らかにし,自然保護教育の科学的基礎として次のような知識を挙げてい
る。
①生物圏の組織,エネルギー論および機能に関する知識。
②生物圏に対する人間的要素(aHTpoHoreHHbl両ΦaKTop),自然の相互関連を考慮する必 要性,生物園に対する人間の作用の発達に関する知識。
③④⑤⑥
生物圏における天然資源の合理的利用と自然現象の制御の方法に関する知識。
生物圏の変化に対する人間的要素の影響の結果の予測に関する知識。
自然保護の問題の解決における我々の社会の役割に関する知識。
いろいろな社会の間の協力に関する知識。
そしてズベレフは,これらの基礎的な科学的知識を関係するすべての教科の内容へ含め,
それらの教科の教科間結合の下で自然保護教育を行う必要性を指摘し,さらにそのような 自然保護教育の内容,方法並びに教授学習形態を決定する際に考慮すべき一般的条件,す なわち自然保護教育の教授学的原則として考慮すべきものとして,次のようなものを挙げ ている。
①自然環境に対する人間の活動を決定する基本的要件としての市民的責任・義務。ま た,その基礎としての愛国心。
将来の市民としての生徒たちを,自然に対する注意深くてまじめな態度へ向けるこ とは重要である。市民の義務と祖国愛の感情は,自然界における人間の行為を調整す る内的な動機でなければならない。
②自然や自然環境の保護という理念の世界観的意義。
自然保護教育は,狭い実利的な課題の解決に限定されてはならず,自然界の相互関 連の解明は,世界の弁証法的理解にとって本質的に重要である。また,自然保護の科 学的基礎は,世界観的意義を持つ。
③人間に対する自然の道徳的・美的な作用。
自然とのさまざまな形態の交際は,生徒たちの美的感情の発達を志向すべきである。
④社会主義的ヒューマニズム。
高潔な行為をともなった自然への感情は,自然の事物に対してだけでなく,他の人 間に対しても注がれなければならない。
⑤郷土研究。
自然を愛し,保護することを教えるのは,生徒たちの近くで貴重な自然の対象から 始めるべきであり,それは生徒たちと自然との直接的で親密な接触を可能とし,また 自然に対するレーニン的態度を生徒たちに形成するように組織されなければならない。
⑥ 積極的な実践活動。
自然保護に関する知識だけでは不十分であり,実践的な活動によってのみ自然保護 の能力と習熟が形成される。自然保護教育の成功は,全作業の系統性に依存する。
⑦科学的知識と自然保護思想の芸術的・情緒的解明との結合。
教師が自然保護に関する科学的知識,事実,実際的対策などを芸術的で情緒的に述 べることによって,それらは生徒たちの思考と感情に深く触れ,彼らに自然への愛を 育てるなど,大きな教育的効果を及ぽす。
これらの教育学者たちの論文は,既に見た自然保護に関する法令や決定の指示した方針
に基本的には立脚したものである。しかし,法令や決定において,自然保護が自然環境の
保護と天然資源の合理的利用としてとらえられ,生産や経済的な観点からの自然保護が強 く唱えられていたのに対して,ザフレブヌィやズベレフらは,自然保護を,それら生産や 経済的観点をも含めて,より広範な人間および社会と自然との相互関連の問題としてとら えている。このことは,自然保護における自然を生物圏としてとらえ直している点に特徴 的である。その結果,ザフレブヌィらは自然保護教育において人間と自然との相互関係を 取り上げる必要性を唱え,またズベレフは生物圏に関する科学的知識の中に人間的要素を も含めて自然保護教育の基礎的知識としている。さらにズベレフが示した自然保護教育の 教授学的原則によれば,自然保護教育は,単に自然(生物圏)の保護に関する知識を生徒 たちに与えるだけのものではなく,理論および実践の両面において生徒たちの知的,道徳 的並びに美的な発達を促し,またそれらの発達と深く結びついた多面的性格を有するもの
として理解されていることは明らかである。
IV 1980年代の自然保護教育
雑誌「ソビエト教育学」の1980年第11号において,ソ連邦教育科学アカデミー幹部会が 教育内容方法研究所自然保護教育研究室の活動について審議した様子が報告されている21)。
この幹部会においては,研究室長のズベレフが研究報告を行い,彼は研究室における研究 が青年の生態学的陶冶と訓育の理論と方法という教育学の新しい分野の基礎を築いたとし,
その目的や課題,生態学的問題の解明と関係する主要な概念,教育内容にそれらの概念を 導入する場合のさまざまな類型,そして教員養成における生態学教育に関する提案などを 明らかにするとともに,環境保護に関する教師の実践的活動の分析結果や,生徒の生態学 的陶冶と訓育を成功させるために研究すべき課題などを報告した。
ズベレフの報告を基にして行われた討議においては,研究室の研究対象が主として中等 教育段階の生徒に限定されていること,生態学的陶冶の問題が,他の観点も重要であるに もかかわらず,主として生物学的な方向において研究されていることなどが指摘され,学 校における実践のさまざまな現状や問題点なども明らかにされた。そして最後に,幹部会 は,教育内容方法研究所自然保護教育研究室の研究の基本的な結果と方向性を承認し,そ の提起した課題を考慮するよう各アカデミーに勧告した。
一方,ソ連邦教育科学アカデミー幹部会とは別に,1980年10月にエストニヤ共和国のタ リンにおいて,ソ連邦教育省,エストニヤ共和国教育省およびソ連邦教育科学アカデミー の共催による「中等学校における生態学的陶冶と訓育の問題に関する全ソ研究実践会議」
(組織委員会議長:ズベレフ)が開催された。この会議の様子は,雑誌「ソビエト教育学」
の1981年第4号において報告されており22),次にこの報告から会議の主な内容を示す。
総会においてズベレフは,生態学的陶冶と訓育が教育理論と学校実践の新しい分野であ り,生徒への明確な目的を持った働きかけを前提として,生徒たちが社会と自然との相互 作用の科学的基礎を獲得し,応用的知識と実践的能力や習熟を身につけ,共産主義的道徳 の規準に応じた環境に対する市民的責任を形成することを保障するような見解と確信の体 系を生徒に育成することを強調した。その他に,共産主義的訓育の生態学的観点,自然保 護における民族的伝統,地域における自然保護活動や郷土の自然を学習することなどが報 告され,特にその中で生態学的陶冶を教育現場へ導入・定着させる3つの段階として,
①各教科と教授要目へ生態学的陶冶の要素を含めること,
②生物学,地理学の課程に生態学的問題に関する独立した章を設けること,
③特別の統合された課程を作ること,
が示され,学校においては第一段階さえ実現されていないことなどが指摘された。
さらに会議は3つの分科会に分かれて行われ,最も参加者の多かった第一分科会のテー マは,「生態学的陶冶と訓育の理論と実践の諸問題」であった。この分科会では,社会と自 然との相互作用の問題が現代の最重要な問題の一つであることが指摘され,「社会一人間 一自然」システムにおける相互関連が問題化した原因,基本的な生態学的法則や自然保護 の原理,そして人間形成における生態学的陶冶の役割が示された。また,世界観的,社会 的,道徳的並びに心理学的側面など,生態学的陶冶の内容の性格が多角的に分析され,生 態学的陶冶がその性格において教科間的であることが明らかにされるとともに,生徒の生 態学的教養と倫理の育成における自然科学的知識と倫理的知識の相互関連の分析なども行 われた。特に用語に関しては,従来の「自然保護教育」の概念の持つ狭さを克服するため に「生態学的陶冶と訓育:3Ko汲o田qecKoe o6pa30BaHHe H BocnHTaHHe」を採用することが,
大多数の参加者によって認められた。
第二分科会のテーマは,「科学の基礎の学習過程における生態学的陶冶」で,ここでは多 くの独創的な方法論やその効果が示された。生徒の生態学的教育におけるさまざまな教科 の役割の解明,生態学的陶冶の内容の立案などが行われ,それら各教科の知識を統合する 必要性や教科間結合の利用なども示された。また,統合課程「自然と人間」「生物圏と人間」
の導入に関する問題や,生徒と自然との接触の多様な形態なども提起された。
第三分科会は「自然保護の分野における生徒の課外・校外活動」というテーマであった が,ここでは各地の実践が報告,分析され,課外・校外活動における生徒の自然保護活動 のさまざまな形態が明らかにされるとともに,自然保護に関する学校,家庭,企業,社会 の共同作業に参加者の興味が集まった。
これ以外にも,会議においては教員養成や現職教育の問題などが取り上げられ,最後に 生態学的陶冶と訓育の一層の改善へ向けた勧告が採択された。
以上に挙げた2っの会議の内容は,基本的には1970年代のザフレブヌィやズベレフらの 主張,すなわち自然保護を社会と自然との相互関連の問題としてとらえ,自然保護教育を 理論および実践における,また陶冶と訓育における多面的な教育活動としてとらえるとい う主張に沿ったものである。換言するならば,ソビエトにおいてザフレブヌィやズベレフ らの主張が一般的に承認されつつあるということになるであろう。とりわけ従来の「自然 保護教育」という用語の代りに「生態学的陶冶と訓育」という用語を使用することに多く の参加者が賛成し,ズベレフがそれを教育の理論と実践における新しい分野と述べたこと は,既に明らかにした法令や決定における生産や経済的観点を強調した,したがってまた 実用主義的色彩の強かった自然保護教育が,社会と自然との相互関連を取り扱う多面的な 教育活動として,より広範な意義を有するものへと拡大,発展されつつあることを意味す ると言えよう。さらに,全ソ会議総会において自然保護教育実現の3段階が明らかにされ,
将来の自然保護教育実践の方向性が示されているが,その最終段階は自然保護教育のため
の統合課程を予定している。また,分科会においても,自然保護教育の教科間的・総合的
性格が繰り返し述べられており,統合課程の導入についても報告されている。このような
ことから,これまで生物学,地理学,化学などの各教科で行われていた自然保護教育を,
欧米諸国における環境教育に見られるように,独立した総合教科においてより効果的に実 施しようとする動きもあるようである。そしてこのことは,また自然保護教育の多面的性 格,すなわち個別の教科の枠を越えて行われるべき統合的性格が,広く一般に認識されつ つあることを示すものであろう。
V おわりに
ソビエトの学校における自然保護教育は,その実践においては多くの課題が残されては いるものの,近年その性格を新たにし,一層の発展を目ざそうとしている。従来の生産や 経済的観点が大きな位置を占めていた自然保護教育は,より広範な意義を有する社会と自 然との相互関連を取り扱う教育活動としてとらえられてきている。しかし,いずれにして も,それらの自然保護教育においては,人間,あるいは社会,そしてそこにおける人間の 活動というものの取り扱いが重要な要素をなしていることに違いはない。このことは,ソ ビエトの学校教育を貫く基本的理念として総合技術教育の実施と無関係ではないであろう が,同時にまた自然保護教育自体が持つ本質的側面をも示しているように思われる。
VI引用文献および主要参考文献
1)M.Lゴールドマン著,都留重人監訳『ソ連における環境汚染一進歩が何を与えたか 』岩波書
店,1973,32頁。2)同上書(付録「ロシヤ共和国自然保護法」),337〜338頁。
3)同上書,195〜232頁。
4)ボリス・カマロフ著,西野健三訳『シベリアが死ぬ時』アンヴィエル,1979,7〜40頁。
5)ソ連大使館広報課編訳『ソ連共産党第24回大会報告・決議・指令』大月書店,1971,55頁。
6)同上書,187頁。
7)ゴールドマン,前掲書(付録「自然保護の一層の改善および天然資源の合理的利用のための措置に
ついてのソ連最高ソビエト決定」),380頁。8)同上書(付録),383〜385頁。
9)「ソビエト社会主義共和国憲法(基本法)」『今日のソ連邦』第20−21号付録,1977,23頁。
10)「Io双06u.エe赫peAaKuHe莇n.H.Φe八oceeBa H K.y.qepHeHKo,κノ7CC6ρθ30πκ)砺μπxμρθ昭θμαπx
oろθ3∂oθ,κo甜φερθ彫磯4彦απ認θμyκoθ∠鷹,Toκ∂θo∬〃zδ厩 1969−!971,no』目TM3双aT,1㌧〜ocKBa,1972,c.370.
11) TaM〉Ke,c.374.
12) TaM〉Ke,c.375.
13〉 no双06田le藺peムaK胆e益K.y・qepHeHKo H A・F・EropoBa,κノ7()Cθρθ30泥κ)切απxμ、ρθ膨θκμπκ
oろθ3∂06,κoμφβρθ月傷π彦4〃泥θκy踊oθ∠∠κ Toκ ∂θα形α∂砺α〃zδ 鵡 !975−19771 「Io朋TH3ムaT夕夙ocKBa,1978,c,126,
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