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2. 外観悉皆調査の概要 調査対象地区は 伝統構法による木造建築物が多く存在する地域として熊本県上益城郡益城町小谷 ( おやつ ) 地区 熊本県阿蘇郡西原村布田地区を選定した 小谷地区は 集落の中央を木山川の支流が縦断する谷あいの緩傾斜地で 比較的密集した住宅地 一方の布田地区は 周辺を田畑で囲まれ

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Academic year: 2021

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のであれば、礎石が崩れないことや土台が滑動しても礎石から落ちないように基礎の範囲を増やすなど土台 が滑動することを前提にした礎石や基礎の対応が必要であると考えられる。また、土台の滑動を抑制するた めに土台を基礎に緊結する場合には上部構造の応答変形が限界耐力計算で想定されている安全限界(1/30rad から 1/20rad)を超える可能性があるため、水平構面の補強、偏心率の改善、補強材の増加など上部構造の 対策が必要であると考えられる。 5.まとめ  本稿では熊本地震により被災した神社を対象として、地震被害調査ならびにフレームモデルによる地震応 答解析を行った。以下に得られた知見を示す。 ・本殿 1、本殿 2 ともに柱脚の滑動が確認され、いずれも部分的に土台が礎石から滑り落ちていた。特に本 殿 1 は、土台が礎石から落下したことにより大きく損傷したものと考えられる。また本殿 2 は上部構造に ついては目視で確認できる範囲で被害を確認することはできなかった。 ・解析結果では、柱脚をピン支点と固定した場合には、上部構造の最大層間変形角は 1/10rad を超える変形 が生じた。一方、この時の水平方向の支点反力は自重から求めた静止摩擦力を大きく上回り、また引張反 力も生じていたことから、被害状況通り土台が滑動する可能性が極めて高いことがわかった。これは、本 殿がいずれも屋根が薄板鉄板葺きと比較的軽量な仕様になっているにも関わらず、耐力の出る板壁構面が 多いことに起因する。建物の用途上、今回の調査対象建物に限らず本殿は板壁で覆われる可能性が高いた め、同様の被害が発生する可能性が考えられる。 ・修復においては、現状と同じ状態で復元するのであれば、礎石が崩れないことや土台が滑動しても礎石か ら落ちないように基礎の範囲を増やすなど土台が滑動することを前提にした礎石や基礎の対応が必要であ ると考えられる。また、土台の滑動を抑制するために土台を基礎に緊結する場合には上部構造の応答変形 が限界耐力計算で想定されている安全限界(1/30rad から 1/20rad)を超える可能性があるため、水平構面 の補強、偏心率の改善、補強材の増加など上部構造の対策が必要であると考えられる。 謝辞:被害調査の実施にあたり、日本建築学会近畿支部木造部会ならびに藤本和想建築の藤本誠一氏、木村 工務店の木村紀晃氏には多大なるご助力をいただきました。また、本研究は JSPS 科研費 15H05537 の助成 を受けたものです。さらに、解析においては、熊本県阿蘇郡西原村にて観測された地震波を用いました。こ こに深く感謝の意を示します。 参考文献 1)一般社団法人日本建築学会:木質構造設計規準・同解説-許容応力度・許容耐力設計法-,2006.12 2)一般社団法人日本建築学会:木質構造接合部設計マニュアル,2009.3 3)公益財団法人日本住宅・木材技術センター:土塗壁・面格子壁・落とし込み板壁の壁倍率に係る技術解説書,2004.2 4) ( 財 ) 日本住宅・木造技術センター:木造軸組工法住宅の許容応力度設計 (2008 年版 ),2008.12 5)向坊恭介・川上沢馬・鈴木祥之:礎石建て構法木造建物の地震時挙動に関する研究(その 1)振動台実験,日本建築 学会大会学術講演梗概集,C-1,pp.175-176、2008.7

悉皆調査に基づく2016年熊本地震における

伝統構法木造建築物の被害と柱脚移動の分析

Study on Damage and Column-base Movement of Traditional Timber Buildings

Based on Inventory Surveys on the 2016 Kumamoto Earthquake

向坊恭介

1

・佐藤英佑

2

・鈴木祥之

3

Kyosuke Mukaibo, Eisuke Sato and Yoshiyuki Suzuki

1鳥取大学助教 工学研究科(〒680-8550 鳥取市湖山町南4-101)

Assistant Professor, Tottori University, Graduate School of Engineering

2立命館大学客員研究員 衣笠総合研究機構(〒525-8577 滋賀県草津市野路東1-1-1)

Visiting Researcher, Ritsumeikan University, Kinugasa Research Organization

3立命館大学教授 衣笠総合研究機構(〒525-8577 滋賀県草津市野路東1-1-1)

Professor, Ritsumeikan University, Kinugasa Research Organization

In this paper, we analyze damage and column-base movement of traditional timber buildings on the 2016 Kumamoto Earthquake, based on inventory surveys. We chose two districts as inventory survey area. Most of the traditional timber buildings in the areas could be classified as either house or barn, and the damage of barn buildings were heavier than that of houses. Column-base movement were observed at many buildings, and it is found that the heavy damage of surrounding soil and foundation tended to increase the column-base movement.

Keywords: The 2016 Kumamoto Earthquake, Traditional timber building, Inventory Survey

1.はじめに 2016 年熊本地震では震度 7 を 2 度観測するなど強い地震動によって甚大な被害が生じた。被災地域には伝 統構法による木造建築物も多く存在しており、やはり大きな被害を受けている。わが国で歴史都市防災を考 える際には、伝統木造建築物の被害を整理、分析しておくことは重要と考える。 また、伝統木造建築物の特徴のひとつに石場建ての柱脚仕様が挙げられる。石場建て構法では、柱脚を基 礎に緊結せず、礎石上に設置するのみであるので、大地震時に柱脚が移動する可能性がある。振動による慣 性力が柱脚-礎石間の摩擦力を上回って水平方向に滑りを生じるケースや敷地地盤の変状・基礎の崩壊によ って柱脚が移動するケースなどが考えられる。柱脚の滑りに着目した既往の実験的研究 1)では、滑りが生じ ることで建築物に作用する慣性力が頭打ちになり、柱脚を固定した場合に比べて応答変形角が小さくなるこ とが確認されている。また、2 質点系モデルを用いた数値解析による検討 2)でも 2 層先行崩壊となるような ケースを除いて、同様に柱脚の滑りによる応答変形角の減少効果が見られている。ただし、実際の地震被害 において柱脚移動の状況や原因、上部構造の被害程度との関係について詳細な分析はなされていない。 そこで、本稿では日本建築学会近畿支部木造部会による外観悉皆調査のデータ 3)に基づいて、大地震時の 伝統木造建築物の被害と柱脚移動について分析を行う。

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2.外観悉皆調査の概要 調査対象地区は、伝統構法による木造建築物が多く存在する地域として熊本県上益城郡益城町小谷(おや つ)地区、熊本県阿蘇郡西原村布田地区を選定した。小谷地区は、集落の中央を木山川の支流が縦断する谷 あいの緩傾斜地で、比較的密集した住宅地、一方の布田地区は、周辺を田畑で囲まれた比較的平坦な住宅地 である。国土地理院地理院地図4)を基に作成した調査範囲を図1 に示す。 調査は、2~3 名を 1 チームとして行い、可能な場合は住民へのヒアリングを行った。調査期間は 2016 年 5 月 21~23 日である。外観目視で確認した各部の被害状況から、表 1 の判定表を参照して総合判定(無被害 ~倒壊)を調査者の判断により決定した。調査シートを論文末尾に付図1 として示す。 a) 小谷地区 b) 布田地区 図1 外観悉皆調査範囲 1 被害程度の判定表 軸組架構 屋根 外壁 基礎 総合判定 層崩壊 - - - 倒壊 傾斜大、一部崩壊 小屋組破損大 下地剥落 基礎崩壊 大破 傾斜中~小 屋根材ずれ・落下 仕上げ脱落 ひび割れ・ずれ 中破 傾斜小 亀裂・仕上げ剥落 亀裂 小破 傾斜なし 屋根材ずれ 軽微なひび割れ 軽微 外観上被害なし 無被害 3.熊本県上益城群益城町小谷地区の被害状況 (1) 建築物の概況 建築物の概況として、用途、構造形式の割合を図 2、3 に、調査棟数を表 2 に示す。用途の集計結果にも 表れているとおり、同一敷地内に専用住宅と倉庫・納屋を併存しているケースが多く、構造形式としては、 伝統木造と在来木造がほとんどを占めていた。ここで、「伝統木造」はいわゆる伝統構法による木造建築物 を指すものとし、「在来木造」はいわゆる建築基準法施行令第三章第三節木造および平成 12 年度建設省告 示第 1460 号などによる壁量計算や仕様規定に沿った木造建築物を指すものとする。伝統木造では石場建て 構法のように柱脚の移動を許容するものがある。一方、在来木造では柱脚および土台は基礎に緊結される。 用途の多くが専用住宅と倉庫・納屋(合わせて約 88%)であることを考慮して、用途別に各項目を整理し たものを図 4~6 に示す。専用住宅では、伝統木造が約 30%、在来木造が約 60%、車庫・納屋では、伝統木 造が約 65%、在来木造が約 20%であることが分かる。階数は、専用住宅では平屋 20%、総 2 階建て約 20%、 部分2 階建てが約 60%、倉庫・納屋では平屋約 30%、総 2 階建て約 50%であった。専用住宅は、桟瓦葺き入 母屋屋根を複雑に架けたものが多かった。一方、倉庫・納屋は、桟瓦葺き切妻屋根、正面が開放的で大断面 の梁を有することが特徴的であった。以降の分析においては、伝統木造の専用住宅および倉庫・納屋の調査 結果を主に対象とする。写真1~3 に専用住宅および倉庫・納屋の例、後述する柱脚移動の例を示す。

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2 建築物の用途 図3 建築物の構造形式 4 用途ごとの構造形式 図 5 用途ごとの階数 図 6 用途ごとの屋根葺き材 写真1 専用住宅の例 写真2 倉庫・納屋の例 写真3 柱脚移動の例(伝統・納屋) (2) 構造形式・用途ごとの被害状況 伝統木造の用途ごとの被害程度を図 7 に示す。専用住宅と倉庫・納屋を比べると、倉庫・納屋の方が倒壊 率、大破率が高いことが分かる。大破以上となった割合は、専用住宅で約15%、倉庫・納屋で約 40%であっ た。倉庫・納屋では、正面に大開口を有し、他の 3 面が全面壁となっている場合がほとんどであり、間口方 向の偏心が非常に大きかったことが要因のひとつと考えられる。 柱脚仕様ごとの被害程度を図 8 に示す。石場建て仕様で水平移動を拘束していないものを「石場建て(フ リー)」、拘束しているものを「石場建て(固定)」と分類し、柱脚仕様が不明であったものは除外してい る。専用住宅では、石場建て(フリー)の方が大破率がやや小さく、中破率は大きくなっている。一方、倉 庫・納屋では、石場建て(フリー)の方が倒壊・大破率が高く、被害が大きくなっている。 次に、建築年代ごとの伝統木造の被害程度を図 9 に示す。ただし、石場建てでないものも含んでいる。 「非常に古い」は築35 年以上、1981 以前、「古い」は築 15~35 年、1981~2000 年、「新しい」は築 15 年 以内、2000 年~という区分で調査者が判断している。建築年代が不明であったものは除外している。専用 住宅では、「非常に古い」もので倒壊が 1 棟あったものの、大破・中破率は建築年代によらないことが分か る。倉庫・納屋では、非常に古いものの大破率が大きくなっている一方で、倒壊・中破率は「非常に古い」 と「古い」でほとんど変わらない。 専用住宅 店舗 店舗併用住宅 土蔵 長屋住宅 倉庫・ 納屋 伝統木造 在来木造 プレハブ 0% 20% 40% 60% 80% 100% 専用住宅 倉庫・納屋 その他・不明 割合 その他 在来木造 伝統木造 0% 20% 40% 60% 80% 100% 専用住宅 倉庫・納屋 その他・不明 その他 部分2階建 総2階建 平屋 0% 20% 40% 60% 80% 100% 専用住宅 倉庫・納屋 その他・不明 その他・不明 スレート葺 金属瓦 セメント瓦 洋瓦 和瓦(土不明) 和瓦(土無し) 和瓦(土有り) 用途 構造形式 伝統 木造 在来 木造 その他 専用住宅 49 99 5 倉庫・納屋 67 23 11 その他 ・不明 9 16 8

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7 用途ごとの被害程度 a) 専用住宅 b) 倉庫・納屋 8 柱脚仕様ごとの被害程度(括弧内は母数、以下同様) 比較のため、同様に建築年代ごと の在来木造の被害程度を図10に示す。 専用住宅の結果を見ると、建築年代 が古いものほど被害が大きくなって いると言える。「非常に古い」もの を伝統木造と比較すると、大破以上 となった割合は同程度であるが、中 破を加えると在来木造の方が被害が 大きい。倉庫・納屋は母数が少ない が、「非常に古い」もので倒壊など 大きな被害があることが分かる。伝 統木造と比較すると、倒壊率は在来 木造の方が高いが大破や中破といっ た被害は伝統木造の方が多い。 (3) 石場建ての伝統木造の柱脚移 動の分析 石場建ての伝統木造における柱脚 の移動量を表 3 に示す。表中の「記 入無し」は、柱脚の移動は確認でき たものの調査シートに移動量の記入 が無いものである。後述の布田地区 に比べると柱脚が移動した棟数は少 なく、移動量も 20cm 以内に収まっ ている。特に専用住宅では 5cm 以内 が 1 棟のみであり、倉庫・納屋で多く移動していることが分かる。倉庫・納屋では、大開口を有する正面側 が偏心によって大きく変形し、柱脚が引きずられる形で移動したと考える。 表3 石場建て伝統木造の柱脚の移動量 用途 柱脚の移動量[cm] 移動無し ~5 ~10 ~15 ~20 ~25 ~30 記入無し 専用住宅 1 0 0 0 0 0 0 18 土蔵 1 0 0 1 0 0 0 0 倉庫・納屋 10 3 2 0 0 0 6 25 車庫・ガレージ 1 0 0 0 0 0 0 0 計 13 3 2 1 0 0 6 43 0% 20% 40% 60% 80% 100% 専用住宅 倉庫・納屋 割合 無被害 軽微 小破 中破 大破 倒壊 0% 20% 40% 60% 80% 100% 石場建て(フリー) 基礎+土台 割合 [19] [8] 0% 20% 40% 60% 80% 100% 石場建て(フリー) 石場建て(固定) 基礎+土台 無被害 軽微 小破 中破 大破 倒壊 [40] [6] [11] a) 専用住宅 b) 倉庫・納屋 図9 建築年代ごとの伝統木造の被害程度 a) 専用住宅 b) 倉庫・納屋 図10 建築年代ごとの在来木造の被害程度 0% 20% 40% 60% 80% 100% 非常に古い[40] 古い[8] 割合 0% 20% 40% 60% 80% 100% 非常に古い[57] 古い[9] 新しい[1] 無被害 軽微 小破 中破 大破 倒壊 0% 20% 40% 60% 80% 100% 非常に古い[50] 古い[32] 新しい[17] 割合 0% 20% 40% 60% 80% 100% 非常に古い[17] 古い[1] 新しい[4] 無被害 軽微 小破 中破 大破 倒壊

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ると考えられる。柱脚の移動が確認された25 棟における敷地擁壁および基礎の被害を図 11、12 に示す。い ずれも 6~7 割が無被害となっており、布田地区に比べて被害が小さい。敷地擁壁や基礎の被害が小さかっ たため、柱脚の移動量も小さかったと考えられる。 図11 柱脚移動があった建築物の敷地擁壁の被害 図 12 柱脚移動があった建築物の基礎の被害 4.熊本県阿蘇郡西原村布田地区の被害状況 (1) 建築物の概況 用途、構造形式の集計結果を図 13、14、調査棟数を表 4 に示す。益城町小谷地区と同様に、同一敷地内 に専用住宅と倉庫・納屋を併存しているケースが多かった。専用住宅と倉庫・納屋で全体の 89%を占めてい る。構造形式としては、伝統木造と在来木造がほとんどを占めている。 前章と同様に用途別に各項目を整理した結果を図 15~17 に示す。専用住宅では伝統木造が約 40%、在来 木造が約 50%、倉庫・納屋では伝統木造が約 70%、在来木造が約 20%であった。階数は、専用住宅では平 屋が約35%、総 2 階建てが約 15%、部分 2 階建てが約 50%、倉庫・納屋では平屋や約 20%、総 2 階建てが約 80%であった。屋根葺き材は、専用住宅の約 60%、倉庫・納屋の約 40%が桟瓦、残りがセメント瓦であった。 専用住宅は南側に縁側を有する、いわゆる田の字型平面と推察される平面形式の建築物が見られた。倉庫・ 納屋は益城町小谷地区と同様に正面開口に大断面の梁を有する形式のものが多く見られた。 図13 建築物の用途 図 14 建築物の構造形式 15 用途ごとの構造形式 図 16 用途ごとの階数 図 17 用途ごとの屋根葺き材 無被害 64% 亀裂 8% 崩壊 28% 無被害 76% 亀裂 12% 少し傾斜 4% 崩壊 8% 専用住宅 店舗 店舗併用住宅 土蔵 倉庫・ 納屋 車庫・ガレージ その他 伝統木造 在来木造 プレハブ 鉄骨造 その他 伝統+在来 0% 20% 40% 60% 80% 100% 専用住宅 倉庫・納屋 その他・不明 割合 その他 在来木造 伝統木造 0% 20% 40% 60% 80% 100% 専用住宅 倉庫・納屋 その他・不明 その他 部分2階建 総2階建 平屋 0% 20% 40% 60% 80% 100% 専用住宅 倉庫・納屋 その他・不明 その他・不明 スレート葺 金属瓦 セメント瓦 洋瓦 和瓦(土不明) 和瓦(土無し) 和瓦(土有り) 表4 用途と構造形式ごとの調査棟数 用途 構造形式 伝統 木造 在来 木造 その他 専用住宅 17 19 4 倉庫・納屋 23 5 4 その他 ・不明 3 5 1

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(2) 構造形式・用途ごとの被害状況 伝統木造の用途ごとの被害程度を図 18 に示す。倉庫・納屋の方が被害が大きくなっており、倒壊率が約 40%と非常に高い。やはり正面の大開口による偏心率の高さが被害の大きさにつながっていると考えられる。 専用住宅でも倒壊率は約 5%であるが、大破、中破がそれぞれ約 50%、約 40%と多くの建築物で被害が大き いことが分かる。 柱脚仕様ごとの被害程度を図 19 に示す。前章と同様に柱脚仕様が不明であったものは除外している。専 用住宅では母数が少ないため、柱脚仕様による比較は難しいが、倉庫・納屋では石場建て(フリー)の方が 被害が小さくなっていることが分かる。 図18 用途ごとの被害程度 a) 専用住宅 b) 倉庫・納屋 19 柱脚仕様ごとの被害程度 次に、建築年代ごとの伝統木造の被 害程度を図 20 に示す。前章と同様に 建築年代が不明であったものは除外し ている。ほとんどが「非常に古い」に 分類され、母数が少ないため建築年代 による比較は難しい。建築年代ごとの 在来工法の被害程度を図 21 に示す。 専用住宅の結果を見ると、建築年代が 古いものほど被害が大きくなっている と言える。「非常に古い」ものを伝統 木造と比較すると、伝統木造で倒壊が 1 棟あったが、大破以上あるいは中破 以上となった割合は同程度であると言 える。倉庫・納屋は母数が少ないが、 「非常に古い」もので倒壊など大きな 被害があることが分かる。「非常に古 い」ものを伝統木造と比較するとほぼ 同程度の被害となっていると言える。 (3) 石場建ての伝統木造の柱脚移 動の分析 石場建ての伝統木造における柱脚の 移動量を表5 に示す。前章の益城町小 谷地区と比べると、柱脚が移動した棟 数が多く、移動量も大きいことが分か る。柱脚の移動が確認された25 棟における敷地擁壁および基礎の被害を図 22、23 に示す。小谷地区の結果 と比べると、敷地擁壁や基礎の崩壊など大きな被害が出ており、これらの被害が大きな柱脚の移動量につな 0% 20% 40% 60% 80% 100% 専用住宅 倉庫・納屋 割合 無被害 軽微 小破 中破 大破 倒壊 0% 20% 40% 60% 80% 100% 石場建て(フリー) 基礎+土台 割合 [13] [1] 0% 20% 40% 60% 80% 100% 石場建て(フリー) 石場建て(固定) 無被害 軽微 小破 中破 大破 倒壊 [15] [3] a) 専用住宅 b) 倉庫・納屋 図20 建築年代ごとの伝統木造の被害程度 a) 専用住宅 b) 倉庫・納屋 図21 建築年代ごとの在来木造の被害程度 0% 20% 40% 60% 80% 100% 非常に古い[16] 新しい[1] 割合 0% 20% 40% 60% 80% 100% 非常に古い[22] 古い[1] 無被害 軽微 小破 中破 大破 倒壊 0% 20% 40% 60% 80% 100% 非常に古い[14] 古い[3] 新しい[2] 割合 0% 20% 40% 60% 80% 100% 非常に古い[3] 古い[1] 新しい[1] 無被害 軽微 小破 中破 大破 倒壊

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脚の移動量は5cm 以内が専用住宅 2 棟、10cm 以内が倉庫・納屋 2 棟、20cm 以内が倉庫・納屋 1 棟となって おり、移動量は比較的小さい。したがって、柱脚の滑りによる移動よりも、敷地擁壁や基礎の被害による強 制変位の方が卓越していたと考えられる。また、上部構造の被害が小谷地区よりも大きい要因のひとつとも 考えられる。 表5 石場建て伝統木造の柱脚の移動量 用途 柱脚の移動量[cm] 移動無し ~5 ~10 ~15 ~20 ~25 ~30 30+ 記入無し 専用住宅 2 0 1 1 1 1 0 0 7 倉庫・納屋 0 2 0 2 0 1 1 2 10 2 2 1 3 1 2 1 2 17 22 柱脚移動があった建築物の敷地擁壁の被害 図 23 柱脚移動があった建築物の基礎の被害 5.まとめ 対象地域の伝統木造建築物の多くは、専用住宅と倉庫・納屋に分類することができ、両者の被害傾向は異 なっていた。倉庫・納屋の方が被害が大きく、建築年代が非常に古いものに大きな被害が見られた。専用住 宅では、新しいものが少ないこともあり、被害程度は建築年代によらない結果となった。建築年代が非常に 古いもので、伝統木造と在来木造を比較したところ、被害はほぼ同程度であった。 石場建てで水平移動を拘束していない伝統木造で柱脚の移動が見られた。同じ石場建ての伝統構法でも専 用住宅と倉庫・納屋では、柱脚の移動量は異なり、倉庫・納屋の方が移動量が大きくなる傾向にあった。 敷地擁壁や基礎に崩壊などの大きな被害がある場合には、それに伴って柱脚も大きく移動しており、上部 の建築物の被害も大きくなっている。敷地擁壁や基礎に大きな被害が無ければ、柱脚の移動量は、専用住宅 では5cm 以内、農小屋・納屋では 20cm 以内に収まっていた。 謝辞:本調査の実施にあたって、現地でのコーディネータとして藤本和想建築・藤本誠一氏にお世話頂いた。 また、調査において木村工務店・木村紀晃氏、奈良女子大学生諸氏に多大なるご助力を頂いた。ここに記し て謝意を表する。 参考文献

1) Mukaibo, K., Kawakami, T. and Suzuki, Y.: Experimental and Analytical Study on Seismic Behavior of Traditional Wooden Frames Considering Horizontal Diaphragm Deformation and Column Slippage, Proc. of the 14th World Conference on Earthquake Engineering (14WCEE), CD-ROM, Oct. 2008.

2) 山田耕司, 鈴木祥之, 向坊恭介, 須田達: 伝統構法木造の告示波に対する最大変位応答, 歴史都市防災論文集, Vol. 7, pp. 89-96, Jul. 2013. 3) 日本建築学会近畿支部木造部会: 平成28年(2016年)熊本地震による木造建築物の被害調査報告会資料集, 2016年8月. 4) 国土地理院、地理院地図、http://www.gsi.go.jp/ 無被害 36% 亀裂 7% 沈下 7% 脱落・ 落下 14% 崩壊 36% 無被害 15% 亀裂 57% 崩壊 14% 不明 14%

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付図1 悉皆調査シート [ ] 1 平坦地 [ ] 2 山地 [ ] 3 崖 地 ( 上 ) [ ] 4 [ ] 1 無被 害 [ ] 2 亀 裂 [ ] 3 沈下 [ ] 5 造成地 (平坦地 ) [ ] 6 造 成地( 傾斜 ) [ ] 7 造成 地( 高 台上 ) [ ] 8 造成 地( 高台下 ) [ ] 4 傾斜 [ ] 5 噴砂 [ ] 6 地滑 り [ ] 9 [ ] 7 崩壊 [ ] 8 不 明 [ ] 9 そ の 他 (       ) [ ] 1 普 通 地盤 [ ] 2 埋 立 ・ 軟弱 地盤 [ ] 3 岩 盤 [ ] 4 不 明 [ ] 1 無被 害 [ ] 2 亀 裂 [ ] 3 沈下 [ ] 5 [ ] 4 脱落 ・ 落 下 [ ] 5 崩 壊 [ ] 6 そ の 他 [ ] 1 な し [ ] 2 河 川 近 く [ ] 3 池 近 く [ ] 4 用 水 路 近 く [ ] 1 無被 害 [ ] 2 亀 裂 [ ] 5 海岸近 く [ ] 6 [ ] 3 剥 落 [ ] 4 傾 斜 [ ] 1 専 用 住宅 [ ] 2 店 舗 [ ] 3 店 舗 併 用 住宅 [ ] 4 土 蔵 [ ] 5 転倒 ・ 崩 壊 [ ] 6 不 明 [ ] 5 共 用 住 宅 [ ] 6 長屋 住 宅 [ ] 7 倉 庫・ 納 屋 [ ] 8 車 庫・ ガレー ジ [ ] 7 [ ] 9 不 明 [ ] 1 0 [ ] 1 無被 害 [ ] 2 軽 微 な 被 害 建方 [ ] 1 戸建 [ ] 2 連 続建 [ ] 3 不 明 [ ] 4 [ ] 3 一部 損 傷 [ ] 4 全 体 的 損 傷 [ ] 1 伝 統 木 造 [ ] 2 在来 木 造 [ ] 3 プ レハ ブ [ ] 4 2 ×4 [ ] 5 1 階傾斜 [ ] 6 2 階傾斜 [ ] 5 R C 造 [ ] 6 鉄 骨造 [ ] 7 □ 不 明 [ ] 8 [ ] 7 1 階崩壊 [ ] 8 2 階崩壊 [ ] 1 平 屋 [ ] 2 総 2 階 建て [ ] 3 部 分 2 階 建て [ ] 4 3 階 建 て [ ] 9 3 階 以 上 傾斜 [ ] 1 0 3 階 以 上 崩 壊 [ ] 5 4 階 以上 [ ] 6 不 明 [ ] 7 [ ] 1 1 全 体 的 傾斜 [ ] 1 2 全 体的 崩壊 [ ] 1 [ ] 2 [ ] 1 無被 害 [ ] 2 一 部 蟻 害 [ ] 3 一部 腐食 [ ] 3 [ ] 4 不 明 [ ] 5 [ ] 4 一部断面欠損 [ ] 5 著し い 断面欠損 [ ] 6 全面 的被 害 増 改 築 [ ] 1 な し [ ] 2 [ ] 7 倒 壊危険 性 [ ] 8 不 明 [ ] 9 そ の 他 [ ] 1 独 立 基礎 ( 玉 石 ) [ ] 2 独立 基 礎( 切石 ) [ ] 3 ブ ロ ッ ク ・ 煉 瓦 [ ] 4 コ ン ク リ ー ト 基 礎 [ ] 1 無被 害 [ ] 2 ・ 亀 裂 [ ] 3 沈 下 [ ] 5 べ た基 礎 [ ] 6 その 他(               [ ] 7 不 明 [ ] 8 そ の 他 (             ) [ ] 4 少 し傾 斜 [ ] 5 大 きく 傾 斜 [ ] 6 崩壊 [ ] 1 石 場 建( フ リ ー ) [ ] 2 石 場 建 ( 固 定) [ ] 3 [ ] 1 無被 害 [ ] 2 亀 裂 [ ] 3 剥落 ・ 脱 落 [ ] 4 不 明 [ ] 5 [ ] 4 大損 傷 [ ] 5 移 動 (         c m ) [ ] 6 そ の他 [ ] 1 土 壁 [ ] 2 板 貼 [ ] 3 鉄 板 貼 [ ] 4 モ ル タル [ ] 1 無被 害 [ ] 2 亀 裂 [ ] 3 剥落 ・ 脱 落 [ ] 5 金 属 サイ デ ィ ン グ [ ] 6 窯 業 サ イ デ ィ ン グ [ ] 7 不 明 [ ] 8 そ の 他(             ) [ ] 4 傾斜 [ ] 5 大 損 傷 [ ] 6 そ の他 [ ] 1 和 瓦 ( 土 有り ) [ ] 2 和瓦 ( 土無 し) [ ] 3 和 瓦( 土 不明 ) [ ] 4 洋 瓦 [ ] 1 無被 害 [ ] 2 棟 瓦ず れ ・ 落 下 [ ] 3 瓦 ず れ・ 落下 [ ] 5 セ メ ン ト 瓦 [ ] 6 金 属 瓦 [ ] 7 ス レ ー ト 葺 [ ] 8 不 明 [ ] 4 全 体 的 落 下 [ ] 5 軒 の損 傷 [ ] 6 小 屋 組 損 傷 [ ] 9 [ ] 7 小屋 組 崩壊 [ ] 8 不 明 [ ] 9 そ の 他 [ ] 1 土 壁 系 [ ] 2 板壁 系 [ ] 3 筋 か い 系 [ ] 4 ボ ー ド 等 面 材 系 [ ] 1 無被 害 [ ] 2 亀 裂 [ ] 3 剥落 ・ 脱 落 [ ] 5 不 明 [ ] 6 [ ] 4 傾斜 [ ] 5 大 損 傷 [ ] 6 そ の 他 [ ] 1 [ ] 2 [ ] 3 [ ] 4 [ ] 5 [ ] 6 そ の 他 (                                         ) 古 い (築 1 5~ 35 年 、 1 98 1~ 20 0 0年 ) 基礎 蟻害 腐朽 建物 傾斜 崩壊 用途 そ の 他 (          ) 築年 数 区分 地形 地盤 そ の 他 (          ) そ の 他 (                                         ) 非常に 古 い ( 築3 5 年 以上、 1 9 8 1 年以前 ) 敷 地 環 境 そ の 他 (                                                                                                          ) そ の 他 (                                                                                                          ) 崖 地( 下) 海・ 池・ 河川 基礎 仕様 そ の 他 (                                                                         ) 在 来( ア ン カ ー   有   無) そ の 他 (                                                                      ) 柱脚 仕様 屋根 仕様 外壁 仕様 建物名 ( 表札等 ) 住所 調査 者 調 査 日 時     月     日   整理 番号 敷 地 環境 と 建物概 要 耐 力壁 仕様 耐力 壁 そ の 他 (                                                                 ) 新し い ( 築 1 5 年 以内 、 2 0 0 0 年~ ) 聞き 取り (           ) 階数 あ り ( 主 に :                                                                      ) 建 物 概 況 そ の 他 (                                                                          ) 構 造形 式 建物 被害の 感想 等メ モ そ の 他 (                                  ) 応急危 険度 判定 [   ] 危険     [   ] 要注 意     [   ] 安全 ( 検 査 済)     [   ] 不明   内容 建物被害状 況 周辺 地盤 敷地 擁壁 亀 裂・ 仕 上げ 剥落 -- 小 屋組破 損大 下地 剥落 門・ 塀 外壁 外装 屋根 柱脚 倒 壊 大 破 中 破 小 破 軽 微 屋根 材ず れ・ 落 下 無 被 害 軸 組 架 構 層 崩壊 傾斜大 一部 崩壊 傾斜 中~ 小 傾 斜な し 外観上 被害 な し 軽 微 な ひび割 れ 傾 斜小 判 定 基 準 無 被 害 屋 根 屋 根材ず れ 外 壁 基 礎 基礎崩 壊 ひ び 割 れ ・ ず れ 亀裂 仕 上げ 脱落 判 定 写 真メ モ 項  目 倒 壊 大 破 中 破 小 破 軽 微

図 2 建築物の用途                図3 建築物の構造形式  図 4 用途ごとの構造形式              図 5 用途ごとの階数              図 6 用途ごとの屋根葺き材        写真 1 専用住宅の例                   写真2 倉庫・納屋の例          写真3 柱脚移動の例(伝統・納屋)  (2) 構造形式・用途ごとの被害状況  伝統木造の用途ごとの被害程度を図 7 に示す。専用住宅と倉庫・納屋を比べると、倉庫・納屋の方が倒壊 率、大
図 7 用途ごとの被害程度                  a) 専用住宅                    b) 倉庫・納屋                                          図 8  柱脚仕様ごとの被害程度(括弧内は母数、以下同様)  比較のため、同様に建築年代ごと の在来木造の被害程度を図 10に示す。 専用住宅の結果を見ると、建築年代 が古いものほど被害が大きくなって いると言える。「非常に古い」もの を伝統木造と比較すると、大破以上 となった割合は同程度である

参照

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