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Vol.40 , No.1(1991)092岡田 真美子「Mahajjatakamala 第8章 Soma 本生-薬施捨身説話」

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Academic year: 2021

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(1)

印度學佛教學研究第40巻第1號

平成 言年12月

Mahajjatakamala第8章Soma本

-薬

施 捨 身 説 話

真美子

§1. Mahajjatakamala(以 下MJM)に つ い て MJMは, 現 在 ドイ ツ マ ー ル ブ ル ク 大 学 イ ン ド学 研 究 室 主 任 教 授 で あ るMichael HAHN教 授 に よ っ て, 1985年 世 界 初 の 校 訂 出 版 を み た 仏 教 説 話 集 で あ る1)。 こ の 刊 本 は50章 か ら成 っ て お り, 偶 の 総 数9277, 縮 小 印 刷 さ れ て い る に も か 玉わ ら ず721頁 に の ぼ る 大 部 の 作 品 で あ る。(元 来52章 あ った と推 測 され て い る。) こ の 説 話 集 は 所 謂 「書 き 下 ろ し 」 の 文 学 で は な く, そ れ ま で 知 ら れ て い た そ の 種 の 文 献 の 集 大 成 ・編 纂 され た も の で あ る。Hahn教 授 は 「一 種 の 仏 教 的Pu-rana」 と形 容 し て い る。 そ の うち 根 幹 部 と い え る 第10-42章 はKarupapupqa・ 五kasutra『 悲 華 経 』 の 翻 案 で あ り, そ れ が55%を 占 め て い る こ と がHahn教 授 に よ っ て 報 告 さ れ て い る。 ま た 第1-3章 と50章 は 枠 物 語 で あ る。 の こ りの う ち 9章 はMJMに 先 行 す る3つ のJatakamala類, 即 ちAryaura(3或 い は4世 紀), Haribhatta(4-5世 紀)及 びGopadatta(Haribhata以 降9世 紀 以 前)か ら の 借 用 で あ り, こ こ で 取 りあ げ る 第8章 も こ れ に 属 す る も の で あ る2)。Hahnは こ の 第8章 がJatakamalavadanasutra(未 公 刊)中 のSvajatakaの 引 用 で あ り, そ の 作 者 がGopadattaで あ る こ と を 発 見 し, 既 に そ の こ とを1980年 に 発 表 し て い る3)。 §2. Hahn教 授 の 疑 問 Somaと い う の はMJM第8章 の 主 人 公 の 名 で あ る。 第8章 は は じ め 主 人 公 と し てSakra帝 釈 が 登 場 す る が, 終 段 の 第87, 90, 96偶 に な っ て 唐 突 に, Somaと い う名 が こ の 帝 釈 に 付 さ れ る の で あ る4)。 そ の た めHahnは 第8章 の 題 名Soma-jatakavadanaを 「未 解 決 の 謎 」 とか,「 人 を 惑 わ す 題 」 と か 形 容 し た。 イ ン ド神 話 で は 有 名 なSomaと い う名 も, 捨 身 諦 の 主 人 公 と し て は 無 名 で, 仏 教 説 話 研 究 者 の 間 で 問 題 に な っ た こ と は 殆 ど な い と 言 っ て よ い。 筆 者 は 幸 運 な こ と にSoma本 生 の 複 数 の パ ラ レ ル を 見 つ け る こ と が 出 来 た。 そ の 結 果MJMの 第 8章 にSomaと い う題 の つ け られ て い る の は 不 思 議 な こ と で は な い こ と が 明 ら か

(2)

-452-(66)

Mahajjatakamala 8章Soma本

生一薬施捨 身説話 (岡 田)

にな った の であ る。

§3. MJM第8章Soma本

生 因 縁 の あ らす じ

パ ラ レル の説 明 に入 る前 に, まずMJMのSoma本

生 の 内 容 を 明 らか に して お く。

0(1-4偶)。

枠 物 語。Asoka王

が説 法 を た の み, Upagupta師

が 以 下 の 物 語

を す る。

1 (5-9偶)。

世 尊 はそ の時 三 十 三 天 の長Sakra天

帝 で功 徳 に富 ん で いた。

2 (10-17偶)。

地 上 を 観 察 して いた 彼 は, 疫 病 中劫(rogantarakalpa)の

如 き病

禍 に人 々が 苦 しめ られ て い る のを 知 る。

3 (18・19偶)。 大 災 害 を み て 父 が子 を 憐 れ む よ うに彼 は憐 慰 の情 を 起 こ し, 考

え た:

4 (20-24偶)。

病 に 苦 しむ 衆 生 を 救 うた め の最 高 の 保護 所(parayana)に

な ろ

う, 天 帝 の 栄 光 も身 命 も捨 て よ う, と。

*5 (25-28偶)。

そ の 決 心 を 知 った 神 々は 見 捨 て て 行 か な い で くれ とた のむ。

*6 (29-37)。

神 々 を な だ め つ つ 彼 が神 の位 に あ る こ との終 わ る時 が あ る と諭 す。

7 (38-48偶)。Sakraは

生 類 を救 うた め, 畜 生 の姿 を とる こ とを決 意 し, 神 の

姿 をす て て*犬5)に 変 身 し下 向 した。

8 (49偶)。 彼 が 生 まれ かわ る や 世 間 に 声 が ひ び きわ た る: <姿 は> 悪 い が, う

や ま って 血 肉 を使 い, 安 寧 を 享 受 せ よ(sivap bhajadhvam)6)。

9 (50偶)。 そ れ を きい て 人 々 は そ の場 所 へ 行 き山 の よ うに 大 きい 身 体 の 彼 に 刀

を ふ りか ざ して 突 進 す る。

*10 (51-56偶)。

神 々は な げ くが 彼 は 動 じな い。

11 (57-66偶)。

人 々は 彼 を 切 りき ざむ が 彼 の 心 に は 疲 倦 もい か りも生 じな か っ

た。 身 肉 を 取 られ る程 に身 体 は大 き くな る。

*12 (67-71偶)。

彼 の 血 を塗 った り飲 ん だ りした もの た ち は 病 が 去 った。 彼 は 血

ま み れ で ズ タ ズ タに な る が 苦 しみ を 払 う。

13 (72偶)。 彼 の 肉 を 食 べ た も の は皆 病 を 除 く。

14 (73偶)。 病 か ら解 放 され た 人 々は 尊 敬(atigaurava)を も って 彼 に話 しか け た。

15 (74-78偶)。Somaを

讃 え る。 彼 の利 他 行, 善 業 な どを ほ め た た え る。

16 (79-83偶)。

そ れ を 聞 い た 彼 は よろ こび, 彼 らに, 悪 業 を 避 け報 恩 の た め に

は善 業 を 積 む よ うに 勧 め る。

17 (84-85偶)。

変 身 した 姿 を 捨 て天 に昇 る。

18 (86偶)。 人 々 は彼 の教 え を よろ こび 言 葉 通 りに常 に善 業 を した。

(3)

Mahajjatakamala 8章Soma本 生 一 薬 施 捨 身 説 話 (岡 田) (67) *19(87-92偶)。 こ の よ う に 世 尊 はSomaと い う名 の 天 主 で あ っ た。 Somaと い う 名 の 天 帝 は 世 の 利 を 願 う釈 迦 族 の 獅 子 で あ っ た。 *20(93-96)。 枠 物 語。UpaguptaがAsokaに 布 施 善 業 を 勧 め る。 こ の(世 尊 が)Somaの 生 ま れ で あ っ た 因 縁 謳 を 聞 い て 人 々 は 喜 び 信 心 を お こ し, 一 切 の 菩 薩 た ち は 十 力 に 達 した。 以 上 の う ち*を つ け た 段 落 は 他 の 並 行 話 に な い 独 得 の も の で あ る。 段 落0と18 -20はJMASに も な いMJMの オ リ ジ ナ ル で あ る とHahnは 記 し て い る が そ の う ち 段 落18に は 実 は 他 話 に パ ラ レル が あ る(後 述 『密 』 及 び 『菩 薩 藏 會 』)。 次 に は 愈 々 他 の 並 行 話 を み て ゆ く こ と に し ょ う。 §4. Soma本 生 グ ル ー プ §2で 語 っ た パ ラ レル 発 見 の 幸 運 は, 筆 者 が 『大 寳 積 経 』 中 の, 説 話 を 研 究 し て い た と き に 得 られ た も の で あ る。 『寳 積 』 巻 八 十 護 國 菩 薩 會(梵 文Rasrapala-pariprccha以 下RP)中 に あ る 釈 尊 前 生 話 に つ い て は 既 に, 知 り う る 限 り の パ ラ レ ル を 発 表 した6)。 こ の 話 中 第43話 はSaumya虫 を 主 人 公 と し, 他 で も な い MJM第8章Soma本 生 因 縁 の パ ラ レル で あ っ た の で あ る。RP自 体 は, 90年 前 に 梵 文 刊 本 が 出7), 蔵 訳 の 出 版 と 英 訳 が 出 た の も 既 に40年 近 く前 の こ と で8)よ く ら れ た 文 献 で あ る。 前 生50話 は 梵 文 公 刊 の 時 点 で 既 に60%に, 部 分 的 で あ る に せ 知 よ, 何 らか の パ ラ レ ル 比 定 が な さ れ て い た。Saumya虫 前 生 話 は 現 在 ま で 全 く 未 比 定 で あ っ た30%に 属 し て い る。 更 に 『寳 積 』 中 に は 別 の も っ とMJMに 近 い パ ラ レル が2話 見 出 さ れ た。RPが 一 話 一 偶 の 簡 略 な も の でSakraも 登 場 し な い の に 対 し, こ の2話 は 詳 し く語 られ 先 に §3で 記 し たMJMの*の つ い て い な い 段 落 の 大 筋 が 一 致 し て い る(多 少 の 内 容 の 違 い は あ る)ば か りか と 暫 々 細 か な 点 ま で 一 致 し, 重 要 な も の で あ る。 そ の1は 竺 法 護 の 訳 に な る 『密 金 剛 力 士 會 』(『寳 積 』 巻 八。No. 310大11巻44 b27-45b9. 280年 訳)で あ る。 これ は 筆 者 の 見 つ け た パ ラ レル 中 最 古 の も の で あ る。 既 に 形 式 は 整 っ て い て, 宋 代 の 異 訳 『如 来 不 思 議 秘 密 大 乗 経 』(No. 312大 11巻707b28-708a29。1004-1058年 法 護 訳)と 分 量 も殆 ど 変 わ ら な い。 第2の 『寳 積 』 中 の パ ラ レル は 玄 奨 訳 の 『菩 薩 藏 會 』(大11巻281b18-282c13, 645年 訳)で あ る。 こ れ はMJM第8章 に と っ て は 最 重 要 な パ ラ レル で あ る。 と い うの は, 両 者 に の み あ る 並 行 句 が4つ 見 出 さ れ る の で あ る:

便 隠 帝 繹 高 廣 之 形-atimanusam apy apasya citralp mahimapalp krpaya vikrsyama 蘇摩 菩薩 大 身 之 所-alokya kSitidhara-Pvaratmabhava

(4)

-450-(68) Mahajjatakara 8章Soma本 生 一薬 施 捨 身 説 話 (岡 田) 競 以利 刀 或 割 或 裁-vicchinne parasu-tikspa-dharayasya 極 有重 恩 atigaUraVe輿 ま た, 玄 奨 訳 はGopadattaに 年 代 も 近 い と 考 え ら れ る。 玄 奨 は 何 と 「烏 侯 那 ・國 」 でSomaを 記 念 す る 「宰 堵 波 」 を 見 て い る の で あ る。 『西 域 記 』 に そ れ は 記 さ れ て い る(大51巻883a18-26646年)。 こ れ ら 以 外 に も ま だ パ ラ レル は あ る:同 じ竺 法 護 訳 の 『賢 劫 経 』 中 に2ケ 所 (N. 425大14巻23h16-17; 33a8-99)300年 訳)の 短 い 記 述 が あ り, r菩 薩 藏 會 』 の 異 訳、で あ るr大 乗 菩 薩 正 法 経 』 中 の も の(N. 316大11巻85ga24-860a20法 護 訳), 『護 國 菩 薩 會 』 の 異 訳 で あ る 『護 國 奪 者 所 問 大 乗 経 』(No. 321大12巻6b5-6施 護 980以 降 訳)な ど が 今 ま で に 筆 者 の み つ け た も の で あ る。 §5. Somaと は 何 か? 上 記 パ ラ レノセの 詳 し い 対 照 表 を 掲 げ る ス ペ ー ス は と て も こ こ に は 無 い の で, 次 に はSomaと い う名 が 各 話 で ど の よ う に 現 わ れ る の か, そ れ は ど の よ う な 生 き 物 と され て い る か を み て い く こ と に し ょ う。 (○ ×は帝 釈 天 の記 述 の有 無 を示 す) 『蜜 迩 』 竺 法 護280(288)仁 良 巌 〇 『秘 密 』 法 護1004-58善 寂 男 子 相 ○ 『賢 劫 経 』1竺 法 護300仁 賢-× 同2同 同 蘇 摩 菩 薩 × RP43?585以 前Saumya pranaku× 『護 國 菩 薩 』 閣 那 蠣 多585-600月 轟 ×

RP Tib. Jinamitra/ye 6es sdes9世 紀 des pa srog chags ×

『護 國 尊 者 』施 護980一 〔倶 〕蘇摩 轟 ×

『菩 薩 藏 會 』 玄 装645蘇 摩 大 身 〇

『正 法 経 』 法 護1004-58蘇 牟 有 情 相 〇

『西 域 記 』1玄 奨646-大 衆 生 身 ○

同2同 同 蘇摩 蛇 ○

MJM, JMAS Gopadatta Soma-was○

こ れ を 見 る とMJMのsvas(犬)と い う記 述 は 全 く特 異 で あ る。 しか も 本 文

中svoと い う形 で た っ た 一 度 出 る だ け な の で あ る。 JMASでSvajatakaと 銘 打 た れ て い る に もか か わ ら ず, 筆 者 は 「犬 」 に 疑 問 を 覚 え る。prakrtilu svaは *prakilps ca(m. c. )で あ っ た と も 推 測 さ れ る(cとvの 交 替 は 非 常 に 容 易 で あ る)。 他 の 箇 所 で は 常 にtiryak(畜 生)の 変 化 形 で 出 て き て い て 二 度 と 犬 と は 記

(5)

Mahajjatakamala 8章Soma本 生 一 薬 施 捨 身説 話 (岡 田) (69) さ れ て い な い。

玄 奨 の こ ろ に は 「蛇 」 が 定 着 して い た う で あ る。 『西 域 記 』 に はSomaを 1記念 す る 寺 の 名 がSarpausdhi(蛇 薬)と さ れ て い る。 漢 訳 の 「轟 」, チ ベ ッ ト

訳 のSrog chagsな ど はworm(這 虫)を 指 し て い る と考 え られ る。 そ し て 大 き な 這 虫 と い う こ と に な れ ぽ 大 蟻 も 同 じ よ うな も の で あ る。 本 生 話 の 切 っ て も切 っ て も 肉 が な く な ら ず に 大 き く な る イ メ ー ジ に は, これ ら は 「犬 」 よ りず っ とふ さ 1わし い と 考 え る。

さ て, Hahn教 授 の 疑 問 は, Sakra天 帝 が 急 にsomaと い う名 を 与 え られ た こ と か ら 起 っ た。MJM以 外 の 文 献 で はSomaは 帝 釈 天 の 名 で は な く, 帝 釈 天 の 変 身 し た も の の 名 前 で あ る。 つ ま り図 示 す れ ぽ こ うな る:

世 尊 の 前 生=帝 釈 天-(変 身)→Soma(Saumya)薬 身

MJMは, 世 尊=帝 釈 天Soma→ 畜 生 薬 身

と な っ て い る わ け で あ る。

こ の よ うにSomaは, Hahn教 授 自 ら が 可 能 性 を 否 定 し た *Sa-umaな ど で は な く, 『寳 積 」 を 受 持 す る グル ー プ や, 「烏 侯 那 国 」 で は, よ く知 ら れ たSo-maな い し はSaumyaと い う名 の, 薬 施 捨 身 を 行 な った 菩 薩 で あ り, MJM第8

章(=JMAS)の 原 作 者Gopodattaも そ の 圏 内 に い て, よ く 原 話 を 承 知 し て い

た も の と思 わ れ る。 従 っ て, MJMの 第8章 がSoma本 生 因 縁 よ ば れ る こ と に

は 充 分 な 理 由 が 存 在 し て い た の で あ る。(文 中 敬 称 略)

1)Michael HAHN, Der GroBe Legendenkranz(Mahajjatakamala). Eine mittelal-terlische buddhistische Legendensammlung aus Nepal. Wiesbaden 1985.

2)以 上 詳 し くはibid, Einleitung S.3-4を 参 照

3)Michael HAHN,,, On the Identification of Gopadatta's:Legends"JNRC 1980. 4)[87]bsomabhidah suradhipa;〔90]ab:somabhidho devaraja[96]a Somajan・

mavada

5)こ の 「犬 」[44]dに つ い て は §5参 照

弓)『 前 田専 学 博 士 還 暦 記 念 論 集 』(春 秋 社1991)所 収, 拙 稿 「Rastrapalapariprccha中 の釈 尊 前 生50話 」p.581-596

7) L[ouis]FINOT, Rasrapalapariprccha, Bibliotheca Buddhica II, [St.-Pters-bourg]1901. Repr. Tokyo 1977

8) Jacob ENSINK, The guestion of Rasrapala[Utrecht 1952]

<キ ー ワー ド> Mahaljatakamala, Gopadatta, So:ma本 生, 薬 施 捨 身 説 話, 『大寳 積

経 』(神 戸 女 子 大学 講 師)

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