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酸性環境における黄鉄鉱の溶解とその抑制に関する研究

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Academic year: 2021

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博 士 ( 工 学 ) 笹 木 圭 子

学 位 論 文 題 名

A Study on the Dissolution of Pyrite

and Its Suppression in Acidic Environments

( 酸性環境 における 黄鉄鉱の 溶解とその 抑制に関 する研究)

学位論文内容の要旨

黄鉄鉱は 硫化物鉱床中に多く含まれ ているほか、地殻表層部の各 種岩石中に広く存在し ている。資 源開発や地殻利用の進展に 伴い、黄鉄鉱が空気、水と接 触するようになると、 その酸化溶 解(風化)が進行し、重金 属を含む硫酸酸性水が生成す る。休廃止鉱山におけ る酸性坑水 、海岸耕地・干拓地の土壌 酸性化などの問題は、このよ うな黄鉄鉱の溶解に主 として起因 するものであり、そこには 鉄酸化細菌Thiobacillus. ferrooxidansと硫黄酸化 細菌Thiobacillus thiooxidansが密接 に関与している。しかし、こ れらの地殻環境におけ る黄鉄鉱の 溶解機構については不明な 点が多く、その機構の解明が 環境保全技術を確立す るうえで重 要な課題となっている。本 論文は、黄鉄鉱の溶解に起因 する酸性汚濁水の発生 を防止する ため、種々の酸性環境下で の黄鉄鉱の溶解挙動を系統的 に研究した結果をまと め たもので あり、pH2付近における溶解 機構と各種要因の影響を明ら かにし、新しい溶解 抑制物質を 見出している。 本論文は 、8章で構成した。以下に各 章の概略を述べる。 第1章は 序論であり、本研究の背景と 目的、既往の関連する研究の概要と当面する課題、 本論文の構 成について述べた。 第2章で は、 Thiobacillus ferrooxidansによる黄鉄鉱の溶解実験 と溶液分析、鉱物表 面分析を行 い、黄鉄鉱の酸化溶解にお ける鉄酸化細菌の役割を調べた。溶解はFe( UI)イオ ンを酸化剤とする間接浸出機構により主に進行し、細菌はFe( II)イオンをFe( DI)イオンに 酸化するこ とで黄鉄鉱溶解を促進した 。また、細菌の鉄酸化活性は 溶液の酸化還元電位に より把握で きること、溶解過程で鉱物 表面には初期に元素硫黄、後 期にジャロサイトが生 成されるこ とを明らかにした。 第3章では 、黄鉄鉱の溶解における化 学量論性を厳密に評価するた め、清浄で化学量論 比を満たす 表面を有する試料の調製法 について検討し、新しい適切 な試料の前処理法を見 出 した。こ の前処理をした試料を以後の 溶解実験には用いた。次に 、pH2付近においてFe (m)イオ ンによる黄鉄鉱の酸化溶解実 験を行い、溶液分析、表面分析の結果から、Feに優 先 的な不定 比的溶解が起こること、その ため鉱物表面にS化学種に富 んだ層が生成してく ることを示 した。また、X線光電子分光 法(XPS)とラマン分光法によ り、この表面層の主成 分が元素硫 黄であることを確かめた。 第4章で は、Fe( UI)イオンによる黄 鉄鉱の酸化溶解に及ぼす種々 の陰イオンの影響をpH 2付 近で調べ た結果について述べた。各 陰イオンの添加濃度の増加に 伴い、黄鉄鉱の溶解 - 217―

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は抑制されるが、そ の抑制効果の大きさはシュ ウ酸イオン、燐酸イオン冫冫 硫酸イオン冫 塩化物イオンの順で あった。また、Fe(m)がFe(m)-CDTA、[Fe(CN)6]°―の錯体として存 在するとき、黄鉄鉱 は溶解しなかった。後者の 錯体については、分子軌道論 からその酸化 能カの低さを説明で きることを示した。燐酸イ オンを除く他の陰イオンの場 合、関連する Fe(m)錯体の酸化還 元対についての標準酸化還 元電位とその溶解抑制の効果 との間によい 相関が認められ、電 位の低いものほど抑制効果 が大きくなることを明らかに した。燐酸イ オンについては、Fe(m)イオンとの間で多核化 反応,コロイドの形成などが 生じ、これら も溶解を抑制する一 因であることを指摘した。また、これらの結果から、S042・/pyrite−S の 系 の 標 準 酸 化 還 元 電 位 が 0. 27− 0. 34Vに . あ る こ と を 推 定 し た 。 第 5章 では 、種 々 のアル カリ金属イオン、アルカリ 土類金属イオン、遷移金属イ オンを 用い て 、Fe(m) イオ ンに よる黄鉄鉱の酸化溶解に及ぼ す陽イオンの影響をpH2付近 で調べ た結果について述べ た。多くの陽イオンはほと んど溶解に影響を及ぼさない が、Pb(n)、 Ba(u)イオンは黄鉄 鉱から溶出したS042―と沈 澱を生成するため、見かけ上S化学種の溶出 量が低下した。一方 、Fe( II)およびCu(u)イ オンは、SおよびFe化学種の両者の溶出を抑 制した。この溶解抑 制の効果は、Fe(皿)イオン よりも優先的にFe(H)、Cu(u)イオンが黄 鉄鉱のSサイトの活 性部位に吸着することに起因 し、XPSの結果からCu(H)イ オンは黄鉄鉱 表面でCu(I)の状態 に還元され安定化している ことを示した。また、上記の 溶解反応に及 ぱ す 陽 イ オ ン の 影 響 は HSAB理 論 に よ っ て 説 明 で き な い こ と を 指 摘 し た 。 第 6章 では 、腐 植 物質 がThiobacillus ferrooxidansとThiobacillus thiooxidansの細 胞増殖および鉄、硫 黄酸化能に及ぽす影響を調 べるため、腐植物質としてフ ルボ酸、タン ニン 酸 を、 対照 物質 とし てシュウ酸をそれぞれ用いて pH2付近で培養試験と溶液分 析を行 った 結 果を 述べ た。 夕ン ニン酸は両細菌の増殖および 鉄、硫黄酸化能を少量の添 加で2週 間以上にわたり阻害 することを見出し、この阻 害作用はタンニン酸のフェノ ール基により 生ずることを推察し た。フルボ酸も阻害作用を 有するが、その効果はタンニ ン酸より小さ く、 2日 間程 度し か 有効に 作用しなかった。しかし、 両腐植物質は従来から阻害効 果の知 られ て いる シュ ウ酸 より も効果的な阻害作用を有する ことを明らかにした。これ ら3種の 有機酸は黄鉄鉱の両 細菌の関与する酸化溶解を 抑制することが期待できるの で、次章でこ れらの点を検討した 。

第 7章 では 、Thiobacillus ferrooxidansと Thiobacillus thiooxidansの共存す る系で 黄鉄鉱の溶解実験と 溶液分析、鉱物表面分析を 行い、フルボ酸、タンニン酸 、シュウ酸に よる 溶 解抑 制の 効果 を調 べた結果を述べた。いずれの 物質によっても黄鉄鉱から のSおよ びFe化学種の溶出は 抑制され、その抑制の効果 はタンニン酸冫冫フルボ酸冫 シュウ酸の順 であった。各有機酸 は前章に述べたように両細菌の増殖および鉄、硫黄酸化能を阻害する。 この 阻 害作 用と 、有 機酸 のFe(m)に対する還元能や錯 体形成能、黄鉄鉱表面にあ るSサイ ト活性部位への有機 酸の優先的吸着などが、微 生物が関与する系での黄鉄鉱 の溶解抑制を もたらすことを報告 した。また、これらの知見 に基づき、鉱山における酸性 坑水の発生防 止 や 酸 性 汚 染 土 壌 の 復 元 に 腐 植 物 質 を 活 用 し 得 る こ と を 指 摘 し た 。 第8章は結論であ り、本研究で得られた成果を 総括した。 - 218ー

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

A Study on the Dissolution of Pyrite

and Its Suppression in Acidic Environments

( 酸 性 環 境 に お け る 黄 鉄 鉱 の 溶 解 と そ の 抑 制 に 関 す る 研 究 ) 黄鉄鉱は硫化物鉱床中に多量に含まれているほか、地殻表層部の各種岩石中に広く存 在している。資源開発や地殻利用の進展に伴い、黄鉄鉱が空気、水と接触するようにな ると、その酸化溶解(風化)が進行し、重金属を含む硫酸酸性水が生成される。休廃止 鉱山における酸性坑水、海岸耕地・干拓地の土壌酸性化などの問題は、このような黄鉄 鉱の溶解に主として起因するものであり、そこには鉄酸化細菌Thiobacillus ferrooxid ansと硫黄酸化細菌Thiobacillus thiooxidansが密接に関与している。しかし、これら の地殻環境における黄鉄鉱の溶解機構については不明な点が多く、その機構の解明が環 境保全技術を確立するうえで重要な課題となっている。本論文は、黄鉄鉱の溶解に起因 する酸性汚濁水の発生を防止するため、種々の酸性環境下での黄鉄鉱の溶解挙動を系統 的に究明した結果をまとめたものであり、pH2付近における溶解機構と各種要因の影響 を明らかにし、新しい溶解抑制物質を見出している。 本 論 文 は 、 8章 で 構 成 さ れ て い る 。 以 下 に 各 章 の 概 略 を 述 べ る 。 第1章は序論であり、本研究の背景と目的、既往の関連する研究の概要と当面する課 題、本論文の構成について述べている。 第2章では、Thiobacillus ferrooxidansによる黄鉄鉱の溶解実験と溶液分析、鉱物 表面分析を行い、黄鉄鉱の酸化溶解における鉄酸化細菌の役割を調べている。溶解はFe (m)イオンを酸化剤とする間接浸出機構により主に進行し、細菌はFe( II)イオンをFe (m)イオンに酸化することで黄鉄鉱の溶解を促進することを見出している。また、細菌 の鉄酸化活性は溶液の酸化還元電位により把握できること、溶解過程で鉱物表面には初 期 に 元 素 硫 黄 、 後 期 に ジ ャ ロ サ イ ト が 生 成 さ れ る こと を明 らか にし てい る。 第3章では、黄鉄鉱の溶解における化学量論性を厳密に評価するため、清浄で化学量 諭比を満たす表面を有する試料の調製法について検討し、新しい適切な試料の前処理法 を確立している。この前処理をした試料が以後の溶解実験には用いられている。次に、 pH2付近においてFe(皿)イオンによる黄鉄鉱の酸化溶解実験を行い、溶液分析、表面分 析の結果から、Feに優先的な不定比的溶解が起こること、そのため鉱物表面にS化学種 に富んだ層が生成されてくることを示している。また、X線光電子分光法(XPS)とラマン 分 光 法 に よ り 、 こ の 表 面 層 の 主 成 分 が 元 素 硫 黄 で ある こと を確 認し てい る。 一 219−

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第4章では、Fe(m)イオンによる黄鉄鉱の酸化溶解に及ぱす種々の陰イオンの影響を pH2付近で調べた結果について述べている。各陰イオンの添加濃度の増加に伴い、黄鉄 鉱の溶解は抑制されるが、その抑制効果の大きさはシュウ酸イオン、燐酸イオン冫硫酸 イオン冫塩化物イオンの順である。また、Fe(m)がFe(m)-CDTA、[Fe(CN)6]°ーの錯体 として存在するとき、黄鉄鉱は溶解しない。後者の錯体については、分子軌道論からそ の酸化能カの低さを説明できることを示している。燐酸イオンを除く他の陰イオンの場 合、関連するFe(m)錯体の酸化還元対についての標準酸化還元電位とその溶解抑制の効 果との間によい相関が認められ、電位の低いものほど抑制効果が大きくなる。燐酸イオ ンについては、Fe(m)イオンとの間で多核化反応,コ口イドの形成などが生じ、これら も溶解を抑制する一因であることを指摘、している。また、これらの結果から、S042←/py rite― Sの 系の標準 酸化還元 電位が 0.27― 0. 34V間に あること を推定 している。 第5章では、種々のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン を用いて、Fe(m)イオンによる黄鉄鉱の酸化溶解に及ぼす陽イオンの影響をpH2付近で 調べた結果について述べている。多くの陽イオンはほとんど溶解に影響を及ぱさないが、 Pb( ri)、Ba(u)イオンは黄鉄鉱から溶出したS042―と沈澱を生成するため、見かけ上S化 学種の溶出量を低下させる。一方、Fe(u)およびCu(n)イオンは、SおよびFe化学種の 両者の溶出を抑制する。この溶解抑制の効果は、Fe(m)イオンよりも優先的にFe( II)、 Cu(n)イオンが黄鉄鉱のSサイトの活性部位に吸着することに起因し、XPSの結果からCu (u)イオンは黄鉄鉱表面でCu(I)の状態に還元され、安定化していることを示している。 また、上記の溶解反応に及ぼす陽イオンの影響はHSAB理論によって説明できないことを 指摘している。

第6章では、腐植物質がThiobacillus ferrooxidansとThiobacillus thiooxidansの 細胞増殖および鉄、硫黄酸化能に及ぼす影響を調べるため、腐植物質と・してフルボ酸、 タンニン酸を、対照物質としてシュウ酸をそれぞれ用いてpH2付近で培養試験と溶液分 析を行った結果を述べている。タンニン酸は両細菌の増殖および鉄、硫黄酸化能を少量 の添加で2週間以上にわたり阻害することを見出し、この阻害作用はタンニン酸のフェ ノール基により生ずることを推察している。フルボ酸も阻害作用を有するが、その効果 はタンニン酸より小さく、2日間程度しか有効に作用しない。しかし、両腐植物質は従 来から阻害効果の知られているシュウ酸よりも効果的な阻害作用を有することを明らか にしている。これら3種の有機酸は両細菌の関与する黄鉄鉱の酸化溶解を抑制すること が期待できるので、次章でこれらの点を検討している。

第7章では、Thiobacillus ferrooxidansとThiobacillus thiooxidansの共存する系 で黄鉄鉱の溶解実験と溶液分析、鉱物表面分析を行い、フルボ酸、タンニン酸、シュウ 酸による溶解抑制の効果を調べた結果を述べている。いずれの物質によっても黄鉄鉱か らのSおよびFe化学種の溶出ほ抑制され、その抑制の効果はタンニン酸冫フルボ酸冫シ ユウ酸の順である。各有機酸は前章に述べたように両細菌の増殖および鉄、硫黄酸化能 を阻害する。この阻害作用と、有機酸のFe(m)に対する還元能や錯体形成能、黄鉄鉱表 面にあるSサイト活性部位への有機酸の優先的吸着などが、微生物が関与する系での黄 鉄鉱の溶解抑制をもたらすことを報告している。また、これらの知見に基づき、鉱山に おける酸性坑水の発生防止や酸性汚染土壌の復元に腐植物質を活用し得ることを指摘し ている。 第8章は結諭であり、本研究で得られた成果を総括している。 これを要するに、著者は種々の酸性環境下における黄鉄鉱の溶解機構と溶解抑制の要 因を明らかにし、鉱山における酸性坑水の発生防止や酸性汚染土壌の復元に腐植物質を 活用し得ることを示しており、資源開発工学の発展に寄与するところ大なるものがある。 よって、著者は、北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認める。 ― 220ー

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