No. 9 1984 Bull. E, P. C. Lab., Niigata 1
オキシダント計ダストカットフィルター 付着粉じんの分析
イオンクロマトグラフ法による水溶性成分の分析 市川義夫・福崎 紀夫
2.2試 薬
1・は じ め に 塩化物イオン,硝酸イオン,硫酸イオンの各標準液 新潟県内の28大気汚染測定局にはオキシダントの自動 (1000μg/ml):和光純薬社製塩化ナトリウム,硝酸ナ 測定装置(以下オキシダント計)が設置され,内蔵されてい トリウム,無水硫酸ナトリウム(それぞれ特級)を110 るダストカットフィルターは週1回の頻度で交換されて ℃で2時間乾燥後,それぞれ1,648g,1β71 g,1,479 g いる.このフィルターは通常は廃棄されてしまうが,こ を水にとかして11とした.
れを活用することにより,多地点でかつ長期的な浮遊粉 炭酸ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,エタノール:
じんめ測定が可能と考えられる.しかしながら,これま 和光純薬社製特級試薬を用いた.
で自動測定装置のダストカットフィルターを活用して, 標準試料:炉紙への浮遊粉じんの付着回収実験にNB 浮遊粉じんの含有成分の季節変動等を調査した報告は無 S標準試料SRM 1648 Urban particulate matter.(水 い。 溶性硝酸イオン,硫酸イオン保証値はそれぞれ1D7±0.06,
オキシダント計のダストカットフィルターにはポリフ 15.42±0.14%)を用いた.
ロンフィルター(東洋PF−2)が用いられており,吸湿 2.3捕 集 材
性が少なく,ガス状物質の吸着が少ないところからガス ポリフロン炉紙:東洋科学産業社製PF−3, PF−2 . 状物質の測定の際のダストカットフィルターとしては優 (直径47m及びHi−vo1用には8in×10 in)をそのまま れた特性を有している.しかしながら,吸湿性が少ない 使用した.
ことは同時に付着粉じんの分析において,水になじみに 石英繊維炉紙:Gelman Instrument社製Gelman くいことにもなり,特に水溶性成分の分析では工夫を要 micro−quartz(8in×10 in)をそのまま使用した.
するところである.この点に関して岡1)はテフロンフィ 2.4浮遊粉じんの採取条件
ルター採取粉じん中の硝酸塩の分析で,エタノール1田1 オキシダント計(電気化学計器社製GX−6型)におけ でフィルターを湿潤化,親水性とすることにより,超音 る通気流量は31/min,7日間ごとにフィルターを交換 波水抽出法によりほぼ100%硝酸塩を抽出できることを するので通気量は約30㎡(31×24×60×7=302401)
報告している. である.
本報告では,ポリフロンフィルターによる浮遊粉じん 2.5イオンクロマトグラフの運転条件 の捕集効率,水成性成分の抽出法についての検討とイオ 溶離液:0.002M Na2CO3−0.003M NaHCO3 ンクロマトグラフ法(以下IC法)による塩化物イオン プレカラム:ファーストラン アニオン プレ/濃縮 の分析上の問題点についての検討,さらに黒埼町立仏測 カラム 4×50m
定局における実試料の分析結果について報告する. 分離カラム:ファーストラン アニオン 分離カラム
4×250皿皿
2 実 験 除去カラム:陽イオン除去用 9×100㎜
2.1装 置 溶離液流量:200ml/h
イオンクロマトグラフ:Dionex社製Mode114 検出器:電気伝導度計 3あるいは10μmhoレンジで 超音波洗浄槽:Branson社製Bransonic 92 使用
振とう器:イワキKMシェーカー 記録計:日立056型記録計,1V,5㎜/min ハイボリュームエアサンプラー(以下Hi−vo1):紀
本電子工業社製120A型 3 結果と考察 流量計:草野科学社製KG−2 3.1炉紙のブランク値
ポリフロンフィルター(直径47㎜)をよく洗浄したハ
2 新潟公害研報告 No.9 1984
サミで4〜5枚に裁断し,50皿1共栓付試験管に入れ,岡 の塩化物,硫酸塩が数μg/㎡であり,サンプリング空気 1)の方法に従ってエタノール1m1であらかじめ炉紙を湿 量は30㎡であることから,これらを差し引くことにより 潤化したのち水20mlを加え室温で振とう器を用いて1時 定量上支障はないと考えられる.
問振とうした.5回の試験の結果,炉紙ユ枚あたり硝酸 3.2添加回収実験
イオンは検出されず,硫酸イオンは2.3〜3.2μg(平均2.9 NBS標準試料(Urban particulate matter)をポリフ ぜ
μg)のブランク値が得られたが,塩化物イオンは検出さ ロンフイルタに付着させ(ピペットー炉紙ホルダー一流 れないこともあり,44μg検出されたこともありバラツ 量計一ポンプの装置を使用》aエと同様な常温振とう法 キが大きかった.塩化物イオンのバラツキは後に述べる と超音波抽出法の2法による抽出率試験を行った.結果 ようにイオンクロマトグラフ法による定量の際のエタノ を表一1に示した.塩化物については保証値がないので 一ルの影響と考えられる.得られたブランク値は大気中 回収量及び含有率を示した.
表一1 NBS標準試料(Urban particulate matter)を用いた添加回収実験結果
抽 出 法 じ
t着量 硝 酸 塩 硫 酸 塩 塩 化 物
(m) 添加量(μg)回収量(Pt 91回収率(%) 添加量(μ9)回収量(μ9)回収率(%) 回収量(μg)含有率(%)
常温振とう法 8.9 95.2 99.5 105 1372 1215 89 一 一
(60分) 9.7 103 104 100 1496 13ヱ1 88 一 一
4.5 48.2 59.5 124 694 601 87 一 一
4.1 43.9 45.8 104 632 600 95 一 一
5.0 53.5 57.7 108 771 702 91 18.9 0.38
5.2 55.6 51.8 93 802 686 86 18.3 0.35
5.9 63.1 63,4 100 910 821 90 20.8 0.35
5.6 59.9 57.7 96 864 723 84 20.2 0.36
4.0 42.8 42.3 99 617 532 86 8.2 0.20 4.6 49.2 48.9 99 709 601 85 12.9 0.28
2.1 22.5 21.4 95 324 319 99 12.8 一
2.8 30.0 29.6 99 432 401 93 9.7 0.35 2.0 21.4 − 一 308 272 88 9.3 0.46
平 均 一 一 一 102 一 一 89.3 一 〇.34ユ
変動係数 一 一 一 7.7 一 一 4.6 一 20.7
超音波抽出法 2.0 21.4 23.3 109 308 234 76
一一
(30分) 2.5 26.8 27.1 101 386 307 80
一一
2.8 30.0 33.4 111 432 337 78
一一
2.2 23.5 29.4 125 339 346 102 一 一
平 均 一 一 一 112 一 } 84.0
『一
変動係数 一 一 一 7,7 一 一 12.5 一 一
回収率実験結果のうち60分間の常温振とう法では,硝 にエタノールが妨害することを確認するために,塩化物 酸塩で平均回収率102%,変動係数7.7%,硫酸塩で平 イオン濃度を一定(2μg/ml)として,エタノール濃度 均回収率89.3%,変動係数4.6%と良好な結果が得られ を1から5%まで変化させたときの塩化物イオン濃度の たが,超音波抽出法(30分)では,硫酸塩の抽出率がや 定量値を求めた.結果を表一2に示した.常温振とう抽 や低い(84%)ことがわかった.したがって,以下の検 出時のエタノール濃度は約5%であるが,エタノール1 討には常温振とう法を用いることとした.塩化物の含有 %でベースラインが不安定となり,再現性も悪化するこ 率の変動係数は2α7%と高いが,これは田中ら2)が粒子
状水溶性塩化物の定量の際プロパノールが存在するとク 表一2塩化物イオン定量時のエタノールの影響 ロマトグラフ上で相対ピークの減少が見られることを報
エタノ 塩化物イオ 塩化物定量 告していることから,塩化物の常法振とう抽出において 一ル濃
x%
ン既知濃度
@ω9/ml) 磯覧鼎 ⑬/⑥ 備 考
は問題はないもののイオンクロマトグラフ法で定量する 一
1 2.0 1.41 0.71 ベース
際に,エタノールの存在によってバラツキが生ずるもの 不安定
2 2.0 2.00 1.00 〃
と考えられた.
3 2.0 1.20 0.60 〃
3.3エタノールによる影響の除去
5 2.0 1.54 0.77 〃
イオンクロマトグラフ法による塩化物イオンの定量時
No. 9 1984 Bull. E. P. C. Lab., Niigata 3
表一3 加熱濃縮によるエタノールの妨害の除去
加熱濃縮前 加 熱 濃 縮 後
Nα エタノー
渠Z度(%)
液 量
imi)
塩化物重
ハ(μ9)
液 量
im1)
濃縮率
i%)
メスアップ
@(m1)
塩化物重
ハ(μ9)
回収率
i%)
ベースライ 唐フ状況妾
1 5 25 50 20 20 25 52.4 105 不安定
2 5 25 50 12 52 25 48.3 97 安 定
3 5 25 50 10 60 25 50.8 ユ02 安 定
4 5 25 50 7 72 25 51.3 103 安 定
5 5 25 50 5 80 25 50.5 101 安 定
芸イオンクロマトグラフ法におけるベースライン
とがわかった. 試料はHi−vo1を用いて8in×10 inのポリフロンフィル 次に,分析試料溶液からエタノールを除去する方法に ター(PF−2)に大気中の浮遊粉じんを15㎡/minで24 っいて検討した.除去する方法として加熱処理が比較的 時間引吸して付着ざせ,付着部分を12等分したものであ 簡単であることから,この方法を用いることとし,どの る.結果を表一4に示したが,塩化物,硝酸塩,硫酸塩 程度濃縮することによってそめ間にエタノールが揮散し, ともにエタール添加の方がやや高値を示し,湿潤化する 妨害が除去できるかを調べた.分析用試料液25m1を20〜 ことの効果がやはりあることが確認された.従ってエタ 5mlまで濃縮後,水で25mlにメスアップし,塩化物イオ ノール添加の操作は省略することができないと考えられ ンを定量した.結果を表一3に示した. る.
表一3からわかるように20%程度の濃縮ではエタノー 3.5炉紙を変えた並列捕集実験・
ルの影響は認められるものの半量程度にまで加熱濃縮す オキシダント計ダストカットフィルターPF−2の問 るとエタノールによる妨害を除去することができ,ベー 題点としては,粒子状物質の捕集効率が比較的悪いこと スラィンも良好となった.以上のことからエタノールを (0.3μmのDOP標準粒子の捕集効率75%)である.環 含む抽出液を1/2〜1/3程度に濃縮したのち25mlにメス 境大気中の浮遊粉じんの捕集においてどの程度の捕集効 アップし,イオンクロマトグラフ法により迅速に,かつ 率をもつかを調べるため,同じくポリフロンを材質とす 精度よく定量することができることがわかった. る補集効率の良いPF−3(0.3μmのDOP標準粒子の
3.4水抽出時におけるエタノールの効果 捕集効率999%)を用いた並列実験により比較検討した.
以上の検討からポリフロンフィルターから水溶性成分 オキシダント計に接続されているものと同一の空気マニ を抽出する際にエタノールで湿潤化することにより定量 ホールドから,オキシダント計と同じ吸引流速(31/
的に塩化物,硝酸塩,硫酸塩を溶出しうることがわかる min)でPF−3炉紙を介して空気を吸引し,両者による が,エタノールの除去のためにやや操作がはん雑となっ 浮遊粉じんの重量を測定するとともに水溶性成分を分析 た.エタノールを使用せずに水溶性成分を抽出できれば した.結果を表一5に示した.
操作がより簡単になる鋤4)ことから,抽出時における工 表一5からわかるように,塩化物の測定値はPF−3に タノールの有無による抽出率の差異を調べた.エタノー 比べてPF−2の方がやや低値を示したものの,浮遊粉 ルを添加した群は前述の操作によりその影響を除去し, じんの重量濃度,硝酸塩,硫酸塩ではほぼ一致した値が 両者とも最終的に25m1として分析用試料とした.なお, 得られた.塩化物の測定値の差異の原因は現在のところ 不明であるが実験時(8〜9月)における大気中の塩化
表一4ポリフロンフィルー採取浮遊粉じん中の水溶 物の粒径分布がPF−2の捕集効率の悪い微粒子側に多 性成分の抽出におけるエタノールの添加効果
かったためとも考えられるが実験回数が2回と少なく,
エタノール添加に エタノール無添加に
Nα よる定量値(μ9) よる定量値(μg)
Cr NO♂ 2−rO4 C1一 NOゴ 2−rO4 表一5 炉紙を変えた並列捕集実験
1 211 ユ44 252 200 129 233
炉紙の 柴
ハ気量 大気中濃度(μ9/㎡)
り6 0Q
195 P69
135 P24
244 Q27
199 P79
131
P2ユ
230 Q15
実験 種 類 (㎡) 浮遊イじん C「 NOゴ 2−rO4
4 182 130 233 174 117 208 PF−2 30.13 30 0.39 0.88 6.4
5 174 ユ23 228 170 116 205 1
PF−3 29.94 33 0.79 0.98 5.7
6 173 122 224 169 117 207
万 184 130 235 182 122 216 2 PF−2 29.44 17 0.58 0.60 3.7
砺 14.7 7.85 10.1 12.9 6.01 ユ1.2 PF−3 29.64 20 α86 0.85 3.1 CV% 8.0 6.0 4.3 7.ユ 4.9 5.2 苦31/minで約7日間吸引
4 新潟公害研報告 No.9 1984
今後さらにデータの集積が必要である.塩化物の捕集で 後,ウォーターバス上で約1/3量になるまで濃縮して,
はやや問題があるが,硫酸塩,硝酸塩の測定にはオキシダ 水で再度25mlにメスアップし,イオンクロマトグラフ法 ント計ダストカットフィルタ(PF−2)は十分利用可能 により定量する.
と考えられる. 硝酸塩,硫酸塩の測定結果を図一1に,塩化物の測定 3.6実測測定例 . 結果を図一2に示した.これらから,硝酸塩の季節変動 ユ983年8月末から1984年6月中旬において,黒埼町立 は小さく,おおむね1μg/㎡の値を示すこと,硫酸塩は 仏測定局に設置されているオキシダント計のダストカッ 時おり高い値を示し,変動が大きく,今回の測定期間中
トフィルターを実際に分析してみた.分析法は,これま では9月,4月及び5月に高値が見られること,また,
での検討結果から次に述べる方法に従った.回収したダ 塩化物は晩秋から冬期に高値を示すことなどがわかった.
ストカットフィルターをまずハサミで4〜5枚に裁断し, 塩化物は北西季節風による海塩粒子の影響,硫酸塩につ 50m1の共栓的試験管に入れ,エタノール1mlでこれをぬ いては光化学反応による生成のためと考えられる.
らしたのち,水25皿1を加える.振とう機で60分間振とう
7
魔Uユ 55遡 4鱒 3叢2翌 1
(。一・:硫酸塩△一△:硝酸塩)
@ な
5
9 10 ,83 11 12 1 2 3 ・84 4 5 6 月
@ 図一1 立仏測定局における粒子状水溶性硫酸塩,硝酸塩の測定結果
9 1°鴇11 12 1 2 3秘4 5 角 図一2 立仏測定局における粒子状水溶性塩化物の測定結果
月間の浮遊粉じん中の水溶性成分の変動を調べた.以上 4 ま と め の結果から,オキシダント計のダストカットフィルタ_
オキシダント計に用いられているダストカットフィル を活用して水溶性成分の多地点同時測定あるいは同一地 ターを利用して,多地点でかつ連続的な大気浮遊粉じん 点におけるさらに長期的な測定を行うことができるもの 中の水溶性成分の測定をするための基礎的検討を行なっ と思われる.
た.ダストカットフィルターとして用いられているポリ
フロンフィルター(PF−2)から水溶性成分はエタノー 参 考 文 献
ルを添加することによって定量的に回収でき,加熱操作 1)岡 憲司,田口圭介,第21回大気汚染学会講演要旨 を行うことにより,以後のイオンクロマトグラフ法によ 集,p.358(1980).
る定量の際の妨害をとりのぞくことができる.PF−2の 2)田中 茂,吉森孝幸,橋本芳一:分析化学,32,735 使用は塩化物の測定では,その捕集効率にやや問題が見 (1983).
られたが,硝酸塩,硫酸塩の捕集には満足できるものと 3)坂本和彦,高橋圭一,他:第21回大気汚染学会講演 考えられた.得られた分析法を立仏測定局に設置されて 要旨集,p.360(1980),
いるオキシダント計のダストカットフィルターの分析に 4)井上香織,他:第23回大気汚染学会講演要旨集,p.
応用し,1983年8月末から1984年6月中旬までの約10ケ 544(1982).