一論 文 ‑ 高 岡短 期 大 学 紀 要 第
1 5
巻 平成1 2
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糊)鋳 掛 け法に よ る鋳 造 欠陥部 分補修の記録と考察
清 水 克 朗 ・ 橋 本 知 女
( 平成1 2年6 月15 日受理)
要 旨
明 治 時代まで青 銅 製 晶 など鋳 造 品の欠 陥部 分を 補 修 する方法と して鋳 掛 け法は ごく 当た り前に行 わ れて
い
た。 今日では, 熔 接 技 術がこれに替わ り, 鋳 掛 け 法は過 去のものとなっ た。 本 稿は, 鋳 掛 け 法 に よ る補 修の
工程 を 詳細に記 録し, その
有用性につい
て考 察を述べるもの
である。キ ー ワ ー ド
鋳 掛 け, 鋳 造 欠 陥, 補 修, 熔 融, 接合
1 . は じめに
鋳 掛け とは, 青銅*1や鋳鉄* 2等の鋳造品に生 じ た 穴 な どの欠陥 部分に熔融金 属 を流し込 み, 補修 する方法であ る。 この方 法は熔 接技 術が 導入 さ れ た 明治 時代まで, ご く 一 般 的に行わ れ た技 術で, 鋳造 時の失敗によ る欠 陥や使い 古した鍋や 釜に空いた 穴の補修な ど, 俵め金* 3 等の技 術で は間 に合わ ないような補修には 全
て行わ れていた。 現在, そ うした補修は 全て 熔 接* 4で行わ れ,鋳掛けの技術は昔話と なって いる。 し か し, 改めてこ の技法を 見直 すと,
状 況に よっては大 変有 用な方 法であ る といえ る。 本 稿で は, 第2 節で鋳掛け 法の概要 を述
べ
,第3 節で鋳物に空いた 大の補 修にあ た り,鋳掛 け 法 を選択した 理 由 を 説 明 し, 第4 節で 実 際に行 った工程の記録を 紹介し, 第5 節で 鋳 掛け 法の利点と欠点及 び その有 用性に
つ
いて の考 察を述
べ
る。2 . 鋳掛 け法概説
鋳掛け法は古代か ら近代まで鋳 物の補 修に 行わ れていた。古く は古代 中 国商代* 5 の青銅 器 にもその痕跡が 認 め られ る。 日本に おいても 奈 良東大 寺大仏* 6を は じ め多くの鋳造 遺物に 認
め ること ができる。
鋳 掛け に
つ
いて 「広辞 苑 岩 波 書店刊」 を 調べ
る と,「な
べ
・ かま な ど銅 ・ 鉄器の漏 れ を 止め る た め, しろ め, な ど を とか し込ん で穴 を ふ さ ぐこと」1)
と あ る。 こ こ で いう, しろ め, と は錫と鉛を 主体とした合金で, 融 点が低く
(2 0 0℃程 度) 溶 解しやすい金 属であ る。 古く から 「鋳 掛け 屋」 という職 業も存 在し, 天秤 棒に道具 一 式を担 ぎ, 家
々
を 回 り, 諸わ れ れ ば その軒 先でなべ
・ かまの修 繕を行っ た。 こ の場合は 漏 れ を止め るのが 目的であ り, 外 見の美観は関係な く, ま た, 設備 も限 ら れ るの で, しろ め な ど 低融合金 が 使 用 さ れ たのであ る。 し か し, 本 稿で取 り 上げる鋳 掛け とは,
産 業 造 形 学 科
原 則 的に鋳 物 本体と 同 一 成 分の金属を流し込 み, 仕上げること に よっ て完全に その痕跡を 消し去 る方 法である。
その方法は, 大の空いた場所‑ 本 体と同 一 成 分の熔融 金 属を流し込 む( 鋳 掛 ける), とい う極めて単 純 な ものである。 し か し, 実 際に 行うにあたっ ては周到 な計画性を必要とする。
鋳 物に使わ れ る青銅 や鋳 鉄は純 銅や 純 鉄 など
の半 金 属の製 品に 比
べ
て硬 く脆いの で, 製品の 一 部 分を極 度に熱 する と, 熱 膨 張や 冷めて
いくときの収 縮に よ る変形か ら 生 じ る応力を 他の部 分が吸収 出来 ず, 亀 裂や 割れ を起こし
て し まう。 熔 融し た青銅は1 0 0 0℃ を越え る。
これ を常温の青銅 製晶 に, 突然, 触れ さ せ る と, 先 ず, その瞬 間に湯 ( 熔 融金 属のこと) は破 裂する ように摸ねて しまう。 次いで湯と 接し た部 分の熱 膨 張に よっ て, 冷たい部分 に 応力が掛か り割れ が発生する。 熱 膨張 に よ る 変 形に耐え た と しても, 次に熱は製品全 体に 伝わ り, 次いで冷めていく 段 階で収縮を起こ
す。 これ に よっ て 一 番熱く, 一 番 脆い部 分,
つ
ま り湯と接し た部 分が引っ 頚ら叫て亀 裂が生 じて し まう。 こ のよう な鋳 物の性質を考慮 して作 業 を計 画しな ければ ならない。 即ち,
湯 を流し込 む前に 予 め製品全体を熱し, 流し 込 む時に 生ずる 温度 差を 小 さ くする。 流し込 ん だ後は全 体を徐 冷 すること に よっ て温度 分 布の差を和ちげる。 このこと は熔接 する場 合 にも 当ては ま り, 鋳 物の熔 接に は, 予 め本 体 全 体を熱しておき, 熔接 後, 保温材で覆い全 体 を徐 冷する等の通 常の熔 接と は違った特別
な配 慮 を必要とする。
鋳 掛け 法 に おいて, 補修 箇所 に湯を沫し込 む た め に は, 予 め鋳 型 土* 7を用いて仕 掛け を作 る必要が あ る。 単 純な 小 さ めの穴であれば,
先 ず, 内側 か ら鋳型 土で金属の厚み分を残し た状態で穴を塞 ぎ, 湯が製品の中に流れ 込 ま ないようにし て, その外側 部 分に漏 斗状の湯
口* 8を作る。 補 修 箇所の面積が広 く, 製品の持
つ
曲面や文様を 再現する場合は, 製品の原型* 9か ら補修 箇所に相当 する部 分を型取り,そ れ に湯口と 上 が り* 1 0 を付けて製品 に 固定 する。
当然, 製品の内側に は中子*11に相当 する型を 作る 必要がある。 次に, 仕 掛 けの鋳 型 土 を乾 燥 させ, さら に製品もろ とも加 熱する。 湯の 接 する部 分は8 0 0℃程 度まで温度を 上げ, 鋳 型 土 に含ま れ る分子的に結 合して いる結 晶水* 1 2
を脱 水させ る必要がある。 これ を怠る と, 港 と結 晶水が反応 して反 発しあい, 上 手くいか ないばか り か事故をも起こし か ね ない。
鋳掛 け 法は穴 などの空洞を単に充填 する だ けではなく, 空洞を充填し た後 も湯を流し続 けて製品の湯と接 する部 分を熔か し, 融合 さ せ る。 言 うなれば原初的な熔接技術である。
こ の こと を指し て
「
熔着」
という 言葉を使わ せて頂きたい。 この言葉は本来 存在 しない筆 者の造語である。 これ に よ り 以降の著 述の便 宜を図るものである。 この熔 着が 不完全であった とし ても, 湯が凝固 し た時に本 体と構造 的 に 固定され る よう製品側を加工 してお けば, 補 修の目的を果たすこと が出 来る。
つ
ま り, 穴の縁の部 分を, 断面がⅤ字型になる ように 切 削加工してお くこと に よ り, そこに充 填 さ れ た金 属はⅤ字の両面に支えられ 固定さ れ る。( 図2 7 を参 照) 補修し た箇所に隙間が 生 じ た 場合は蜜 柑等で肉 寄せし, か し めれば 良い。
以 上の 工程を ま と めると, ①補 修 箇所を切 削加工 し整形する。②鋳物 本体を設置固定し, 湯が 目的とする場所に溜ま り, 余 分 な金 属が
滞り無く流れ出る ように鋳 型土で仕 掛け を作 る。 ③仕掛 け を乾 燥 させ, 鋳 物本 体とも予熱 を掛け る。 ④更に 温度を 上げて いき, 補 修 箇 所と仕 掛けの湯が接する部分 を中心 に焼 成す る。 ⑤金属を熔 解し, 流し 込 む。 ⑥徐令した 後, 鋳 物本 体を取り出し, 仕上げ加工する。 という手順と な る。 ②の仕 掛け に
つ
いては,図2 6に今回記 録した鋳掛け法案の概 略 図を 示 したので参照さ れ たい。
鋳 掛 け法
に
よ る 鋳造欠 陥部分補修の
記 録 と考察 6 3粘土
の
蓋 注ぎ込み 口 ( 湯口)図2 6 鋳 掛 け法の仕掛 け概 略 図
鋳物の断 面 穴の縁
図2 7 穴の縁の加工
3 . 鋳掛 け法に よる補 修に 至 った経 緯 今回, 記録 した鋳掛け 法 は, 高岡 短期 大学 学生 の課 題制 作であ る 花 器に空いて しまっ た 穴 を補 修 する た め に行わ れ た ものであ る。 鋳 物に 空いた穴を補修 する に は, 侯め金, 熔 接, 鋳 掛けの3
つ
の方法 が あ り, そ れ ぞ れ, 状況 に応 じ て使い分 けている。 俵め金によ る補 修は紫 穴* 1 4や 宇 和, 型持ち* 1 6のた め に 生 じた穴 な ど 比較 的に 小 さ めの穴 に 対 し て為さ れ, 熔 接は, 巌め金では修 復不能な大きな 穴 や部品 同士の接 合な ど, 幅広 く 活 用 さ れ る。 鋳掛け も熔接と 同 じ く, 大き な 穴や部品の接 合, さ ら に鋳 継ぐこと に よっ て, 部品の形成と接 合 を 同時に行 う等, 応 用範囲 が 広い。 その中で, 今回,鋳 掛け法 を選択した経緯を 以 下 に述
べ
る。3 .1 3 つの補 修 方 法
鋳造 欠 陥に よ り, 課題 制件の込型 鋳造* 1 7に よ る 回転体 花 器
糊
に, 直径26m n
の楕 円形の穴 が開いてし まった。 さ ら に, この部 分は, 中 子 が僅か に片 寄った た め, 肉厚* w が2 .5mm
と薄 目である。 これ を補修 する にあた り, 以 下の3
つ
の方 法が挙 げられ る。(1) 俵め金という同 じ 地金の板を軟め 込 む こと に よ る補修。
(2) 熔 接に よ る補修。 (3) 鋳 掛け法に よ る補修。
以上 3
つ
の内いずれの方 法でも 補修 すること が 可能であっ た。 次に、 これ らの工程概 略を 以 下 に述べ
る。(1) 叔 め 金
①板を俵め 込 む た めの棚を, 切り聖* 2 0で彫っ て作る。 ②棚の形 に合わ せて花 器本 体と 同 じ 地 金で俵め板* 2 1を作る。③巌め板を棚に収め,
荒 らし聖* 2 2や均し聖* 2 3で本体との合わ せ 目 を 肉寄せしてか し め る。 ④余 分な盛り 上 が り を ヤスリで切 削し, 形を整え る。
(2) 熔 接
①大の縁を ヤスリで切 削し, 形を整え る。 ② 穴の形 に合わ せ た板を, 花 器本 体と 同 じ地金
で作る。 ③花 器 本体と同じ地 金で熔棒* 2 4を作 る。 ④本 体 全体を加 熱し, 熔接 する。 保温材
で覆い, 徐 冷する。 ⑤ガ ラス化した熔 剤* 2 5を
荒ら し聖等でPPき落と し, 余 分な盛り上 が り
を ヤスリで切 削する。 (3) 鋳 掛 け
①大の縁を ヤスリで切 削し, 形を整え る。 ② 鋳掛けのた めの仕 掛け を作る。 ③本体, 仕 掛 け と も に加熱し, 湯口近 辺 は特に結 晶水が脱 水さ れ る まで焼 成する。 ④花琴本 体と同じ地
金を熔 解し鋳 掛け, そのま ま徐冷 する。 ⑤余 分な盛り 上 が り を ヤスリで切削する。
そ れ ぞ れの工程が 同等の労 力とし て対 応す る と は言い難い。 しか し, こ の様に工程を 列
記する と効 率性の比較が しや すい。 飲め金が
一 番 簡便な方法であ ること が解るであろう。
通常,鋳 物に生じ た鋳紫* 2 6や弄, 型持ち に よっ
て空いた穴 など, 小さ な 穴は殆ど俵め金 法に よっ て修 復 する。 .= の場合, 巌め板は, 確 実 に 同 一 金 属 成 分の金 属である その鋳 物に付い
て いた湯口や湯道* 2 7か ら切り出し て作る。 こ
のた め, 湯口湯 遥か ら切り出せ る俵め板の大 きさ は自ずと 限 られ る。 この大 きさ を上 回 る 場合, 改めて, その鋳物と同 一 金 属を鋳 造し, 巌め板 を作らなければならない。 こ の こと は,
熔轡こおいて.も 同じ で,・ 穴に飲め 込 む板, 溶
棒を 可能 な 限 りは湯、口湯遥か ら切り出し, そ
の大き さを 上 回 れば鋳造に よっ て, そ れ らを 作らなけ ればな ら ない。 こうし た場 合, 上述
のような工程では納ま らず, 補修 部品の鋳 造 に よ る作 成, という工程が加 わ ること に な る。
する と, 鋳 造と 同時に接合 も 行え る鋳掛け法 が効 率性は高いこと に な る。
今回の場 合, 肉厚も薄目で技術 的に難しい 状況ではある が,俵め金に よ る補 修も可能だっ たので, その予定で大の縁 を加工 した。 しか
し, 俵め板 を 作る にあた って, 湯 道 等か らこ
の大の大き さに見合う板が切り出せ な かっ た。 上述のように俵め板 を鋳 造に よって作る 必要
があったの で, こ の時点で鋳 掛 け法に切り替 え ること に した。 これ に よって, 飲め板の鋳 型を作り, 鋳 造し て仕上げ, 俵め板を 穴 に俵 め 込 む とい った3
つ
の 工程が省か れ ること に な る。4 . 鋳掛 け法に よる補 修の記 録
4 .1 エ程の解 説
こ こに挙 げる鋳 掛け法の記 録は平 成1 2年
5 月1 0 日, 高岡 短期 大学 鋳 造室 にて行ったも
のであ る。 以 下 に図を追いな が ら工程 を解 説 する。
鋳 掛 け 法
に
よ る鋳 造 欠 陥部分補修の
記 録 と考察図1 鋳 掛 け をすること になっ た 込型 鋳 造 花器 鋳 造の後, ヤス リで表面 を 一 層, 研磨して
いる。 鋳 物の仕上げ方法 に は大き く分けて 2 通 り あ る。 1
つ
に は鋳 造し てそのま まの風合いを 生かす 「鋳ば なし」 という 方法 と, もう
1
つ
は鋳 物の表面 を ヤスリ等で研磨し, 磨き 上げる 「剥き仕上げ」 という方 法であ る。 こ の花器は後者の方 法で仕上げている。 鋳掛け 法 は ど ち らの仕上げ方法にも施 すこと ができ る。 問 題 と な る 穴の位 置は, こ の底に近い場 所にあ る。図2 補 修が 必要と なった箇所
最初は飲め金 法で補修 する 予定だっ たので, 整で板金 を俵め る た めの棚を作ってあ る。 第
2 節でも 触 れ た が, 鋳 掛けする場合, 穴の縁 を 断 面 がⅤ字型 に な る ように加工する。 これ
は先 ず鋳 物の表面 に 生じた酸化皮膜*28を削り 取 っ て湯との馴染み を よ くする た めであ る。 湯と接 する部分 が酸化皮膜に覆わ れて いると,
こ の酸化皮 膜が保 護膜と なっ て, 湯との融合
6 5
を 阻 んで しまうのであ る。 さ ら に, Ⅴ字 型の断 面構 造によ り, た と え熔 着しな くても構造 的 に噛み合っ て固定さ れ ること に な る。 今回 は 巌め 金のた めの棚 も同様の効果が得ら れ る と 考え たので, そのま ま流 用 するこ と にした。
図3 花 器の中に砂 を 詰め る
花 器の 口 の部 分を粘土で蓋をし, しっ か り と密 着さ せて穴の空いた部分から乾いた砂を 流し込 み充 填する。 砂は浜辺の比較 的細かい 砂を使用 した。 この砂は, 穴の内側の土 を支 え る た めのものであ る。
つ
ま り, 中子の役割 を果たす。図4 穴から砂 を詰め終 わっ た状 態 大の縁から約1 5m m奥に砂の上 面 が 見 え る。
こ こで乾いた 砂 を使用 したのは, 乾燥と焼 成