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『目 連 救 母 』 訳 鹿 田 律 子

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(1)

資 料 紹 介 育 仙 戯 『目 連 救 母 』

訳 鹿 田 律 子

中国で伝承 されている地獄巡 りの話の中で、民衆 に広 く知 られているのはやは り 『目連救母』の話であろ う。 目連 の地獄巡 りは古 くか ら唱われ、唐 中期、八世 紀半ばに盛んに仏事 に際 して絵解 きを しなが ら唱われた とされ る、変文 に も 『目 連変文』 が存在す る (注1)。変文 は明 ・清代 に宝巻 に受け継 がれ (注2)、現代 の 日蓮劇 に至 る。 この 目連 の地獄巡 りは、その他 の地獄巡 りの話 や芸能 に多大 な 影響 を与 えてい る。

現在、福建省 に伝承 されている、代表的な 目連劇 を取 り上げ翻訳す ることは、

地獄巡 りの内容 を比較す る際に有用であると考 える。

テキス トと しては、劉禎校訂 『育仙戯 目連救母』 (財団法人施合鄭民俗文化 基金会 ・民俗曲芸叢書 1994年) を使用す る。今回は地獄巡 りの段である、第三 夜下本の一幕か ら六幕途中 までの翻訳 を行 う。

(注1)王重民編 『敦塩変文集』人民文学 出版社 一九五九年 (注2) 『日蓮三世宝巻』宣統元年 蘇城喝璃経房刊本等

第一幕 第一殿で審問、押送 され る

(粛明王登場、鬼卒一緒 に登場) (粛明王歌 う)冥土のあ りとあ らゆ るさまは立 派 な ものだ。第‑殿 を司 る職 を疏 かにす ることはで きよ うか。我 は二つの地獄 を 司 り、両側 に剣の樹 と刀の山の並ぶ ところにい る。

(台詞)我は秦広斎明王である。第‑ と第二 の地獄 を司 ってい る。左の方 は刀 の山と言い、右 の方は剣の樹 と言 う。世間で悪事 を働 いた人は、死ぬ とすべて こ の地獄の苦 しみを受ける。鬼卒、札 をかけておけ。

(鬼卒の台詞)は〜い。

(札を掛ける)一つは 自分の夫 を謀殺 した事件 で、罪人 の婦人は李丁香である。

一つは他人の財産 を奪お うとた くらんで殺害 した事件で、罪人は孫丙である。 も

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う一つは誓 いに背いて精進落 しを した事件で、罪人の婦人 は劉四真である。

(斎 明王の台詞)孫丙、上がって来 い。 (孫丙登場)

(粛 明王の台詞) おい、孫丙、お前 は他人 の財産 を奪 お うと人 を謀殺 した。な んと心のむ ごい奴だ。有体 に白状せ よ。

(孫丙の台詞)殿 さま、小人は本当にそんな事 を してお りません。実は、あの 日は出かけて、一人 の金持 ちと宿星で一緒 に宿泊 しま した。私は彼の開けた財布 にた くさんの銀 があるのを見たので、彼か ら少 し金 を借 りたかったのですが、彼 に断 られ ま した。翌朝起 きてか ら、私 はひそかに彼の後 について、山の奥 に到 る と、 まわ りに誰 もいない隙を見て彼の後頭部 に向かって石 を投げ ま した。案外に 彼 は弱 くて、直ちに地面 に倒れて死んで しまいま した。実 は誤穀で、謀殺ではあ

りません。

(粛 明王の台詞) ここに来た以上、 まだ強情 を張 るのか。殴 ってやれ

(鬼卒の台詞)殴 ってや る。 (殴 る)

(粛 明王 の台詞)李丁香 、上 がって来 い。 (李丁香登場)

(粛明王の台詞)お前 は姦通 を し、 自分の夫を謀殺 した。何の罪 に当るべ きか。

(李丁香 の台詞)殿様、私 の夫 は気違 いになったので、お金をかせいで私 を養 うことがで きな くな りま した。隣の叔 さんは私 を哀れに思 って度々救済 して くれ ま した。私 はす まない と思 って、彼 とひそかにつ き合 うようにな りま した。一包 みの鼠薬 を食物 に入れて鼠 を毒殺 しよ うと思 って家に買 っておきま したが、あい に く私 の夫が誤 まってそれを食 べて死んで しまいました。実は姦通 は しま したが、

夫 を謀殺 した ことはあ りません。

(粛 明王の台詞)鬼卒、彼女 の背 を殴 ってやれ

(鬼卒の台詞)殴 ってや る。殴 ってや る。 (殴 る) (粛 明王の台詞)劉氏、上が って来 い。 (劉氏上登場)

(粛明王の台詞) おい、劉氏、お前 は誓 いに背いて、精進落 しをす るために家 畜 を殺 してその命 を奪 った。何 の罪 に当 るべ きか。

(劉氏歌 う)平伏 して殿 さまに訴 えさせていただ くよ うに願 います。私 を無罪 に赦免なさるを乞 います。私 は生前 に孤 鬼やや もめを哀れみ助け、急 な用のある 人や貧乏な人を救済 し、危険 にさらされた者 や苦 しんでい る者を助 けま した。確 かに精進落 と しを して、家畜 を殺す ことを しま した。 これは食べたいためであ り

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ま したが、婦女の浅薄な考 えで、一時の過 ちであ りま した。平伏 して、殿 さまに 恩恵 を施 して活路を開いて下 さるよ うに願 います。

(粛明王の台詞)劉氏は家畜 を殺 して精進落 と しを した ことで誓 いに背いた。

もとより、 この罪で処罰 され るべ きだが、博 とい う一家が精進 を し、三代 も善 を な したために、刑 を赦免 してや る。鬼卒 、劉氏 を次 の殿 に押送 して行 け。 (鬼卒 は劉氏を押送 して退場。鬼卒 は、孫丙、李丁香 に長 い首伽 をはめて、第五殿 に押 送す る。)

(粛明王の台詞)半分は法 を慎み、半分はゆ るすべ き事情 があるか ら、劉氏を まず極めて重 い刑罰か ら免赦 してや ろ う。 (退場) (目連登場)

(日蓮歌 う)や って来た。地獄 に来て涙 がほろほろこぼれ、 こぼれてい る。刀 の山や剣 の樹 が両側 に並んである。哀れ、哀れかな、私の母 は この内に落 ちて、

この内で、責め苛 まれて、いろいろの苦 しみをなめてい る。 (敵 く)六 つの輪 の つけた錫の杖で献 くと、地獄 の扉 が 自ら開いた。亡者 は嬉 しくな るで あろ う。合 掌 して如来仏 に礼拝す る。南無偶諦般若菩薩摩詞薩摩詞般若波羅蜜。 (圃場)

(鬼卒登場) (鬼卒の台詞) あなたはどこのお坊 さんか. ど うして勝手 に地獄 の扉 を開いたか。

(目連 の台詞)拙僧は西方の 目連である。母 の劉四真 をさがすために来た。 ご 面倒 をかけるが、長官 に案内 して頂 きたい。

(鬼卒の台詞)おや、劉四真はお母 さんか。今朝 に審問 され、 もう次の殿‑押 送 された。禅僧 さんがさが したいな ら、次の殿 に行 く方が よい。 ど うぞ。 (退場)

(目連歌 う)意外 にも、お母 さんは次の殿 に押送 された。せ っか く来たのに、

あいに く会 えない。 ぐず ぐずせず、 まず まっす ぐに次の殿 に行 こ う。 (退場) (獄官登場) (獄官歌 う)世間の人は冥土 が遠 い ものだ とい うが、地獄 に来て み ると、空 しく悲 しみ うらむ と誰 が知 ろ うか。神 の 目は光の よ うに明 るい。世間 で悪事を働けば、刑罰を免れ られない。

(台詞)我は宋殿下司獄である。刑罰 を司 って、真面 目で務 めを疎かに しない0 左 に鉄のベ ッ ドがあ り、右 に血 の湖 がある。鉄 のベ ッ ドでは罪人の肉や骨 をあぶ

り、血の湖 にはその死骸 を浸す。世間の人 に悪事 を働 かない よ うに勧 め、水 と火 は無情 な ものだ と知 るべ きだ。鬼卒 、罪人 を全部押送 して来 い。 (鬼卒 は罪人の 劉氏等を押送 して登場)

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(獄官の台詞)おい、悪 い婦人、お前 らは生 きていた間に、血水で 日、月、星 の三光 を汚 した ことがあ る。何 の罪 に処罰 され るべ きか。

(罪人 の婦人歌 う)婦人は無実 の罪 を受けています。 お産の時に血 の水 を流 し ただけの ことで、誰 が知 りま しょうか、冥土で脊 め られ るとは。殿 さまには手加 減 して頂 き、済度 して下 さいます よ うに。

(獄官の台詞)多 くしゃべ るには及ばない。 これ らの罪人 を皆 さす またでつい て血 の湖 に投 げてやれ。 (鬼卒 は罪人 の婦女 を押送 して退場)劉 氏 を押送 して来 い。劉氏、お前 は誓 いに背 いて精進落 と しを し、血 の水で三光を汚 した。何の罪 に当 るべ きか。

(劉氏の台詞) はい、殿 さま、誓 いに背 いて精進落 と しを したのは私の過 ちで あ りま した。血 の水で三光 を汚 したのは婦女 と して止むを得 ない ことです。 ど う ぞ手加減 して頂 き、済度 して下 さいます よ うに。

(獄官の台詞)婦女 には止むを得 ない ことで も、止む ことがで きるのに止 まな か ったか ら、 これ も罪 に処 され るべ きだ。鬼卒、 さす またでついて血 の湖 に投げ てやれ。

(劉氏の台詞)殿 さま、 しば ら く寛忍 して下 さ 。私 がはっき り訴 えさせて頂 いた上で、刑罰 を受け るよ うに願 います。

(獄官 の台詞) まあ、 よかろ う。 しば らくお前 を容赦 してや る。 もし、訴 える ことが理 にかな うな ら、お前の刑罰 を容赦 してや る。鬼卒、劉氏をさす またでつ いて血の湖の浅 いところに置いて、彼女 に訴 えさせ よ う。

(劉氏歌 う)婦人 の身 に生 まれてはいけない。婦人 になれば苦 しみをなめ るだ けだ。子 のない うちに、毎 日子 を欲 しがって、毎 日欲 しが って、妊娠 したかどう か よ く分 か らない。‑ か月の胎児は琴の水の よ うで、露の水、二 か月の胎児は桃 の花 の形 になる。三 か月の胎児は筋骨 が成長 し、筋骨。四か月の胎児は形貌 がと との う。五 か月の胎児は男女が区別 され、男女。六か月の胎児は髪の毛が生える。

七 か月の胎児は左手 が動 く。八 か月の胎児 は右手 を伸ばす。九か月の胎児は三回 廻 る、三 回廻 る。十 か月の胎児は子 にな る。腹 が痛 くなって分娩の 日に、冷汗が 水の よ うに流れ るほど痛む。汚れた着物 を洗 うと、血 の水 が地面 に満 ち、地面 に 満 ちる。産 んだ男の子 は千金の価値 がある。三 日か五 日立つ と乳が足 りない、乳 が足 りない。乳母 を雇 うのは難 しい。一 日に母の乳 を十回飲 んで、十回の乳。十

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日間で百回以上になる。子 を包んだ着物 が糞で汚れ、糞 で汚れた ら、随時 きれい に洗 う。昼間の苦 しみを忍んだ ら、夜の苦 しみはいっそ うひ ど くなる。子 が よ く 眠 る時に、母は眠れない。眠れない。子 が良 く眠 ったかを心配す るか らだ。左側 が湿 った ら母がそ こで寝て、そ こで寝 る。右側 の乾 いた処 に子 を置 く。 もし両方 ともびっ しょり湿 った ら、びっ しょ り湿 った ら、夜 あけ まで子 を腹 の上 に寝 か し てお く。 これは三年の授乳の苦 しみ、三年の苦 しみだ。子 を持 って知 る父母 の恩。

千万の苦 しみは言い尽せず、尽せず。人 と しては婦人の身 に生 まれてはいけない。

(獄官歌 う)子 を養 うのがこんなに苦 しい ことと聞けば、感激す る。感激 して 心が動かされた。父母の恩 は重 い。息子 と しては孝行 の心 を持たなければな らな い。

(劉氏歌 う)平伏 して願 います。恩官は哀 れに思召 し、賎 しい私 の罪名 を容赦 して、二つの地獄の刑罰 を赦免 して下 さい。

(獄官の台詞)訴 えた ことには道理 がある。刑罰 を赦免 してや ろ う。鬼卒、劉 氏を次の殿 に押送 して行け。

(劉氏の台詞) ど うして私 を何回 も押送 してい くか。

(獄官の台詞)お前 は現世で冥土の法制 を信 じなか ったので、お前 に知 らせた いのだO安心 して行 って よい. お前 q)息子 がお前 をさが Lに来れば、 自ら済度 さ れ る日が来 る。二つの地獄 の刑罰 を容赦 してや る。

(劉氏の台詞)恩官が哀れんで下 さることに感謝 申上げ ます。千年万年 も境の 立たないように心 をきれいに致 します。 (鬼卒 は劉氏 を押送 して退場) (日蓮登場)

(日蓮歌 う)母のために色々の苦 しみをなめて、何 つ もの地獄 に来て さがす。

息子が一つの殿 に到れば、母 はすでに押送 されていて、同 じ道 をた どった。 いつ 済度で きるかはわか らない。血の湖 に来て、 よ く調べ よ う

(獄官の台詞)禅僧 は何の用で ここに来たのか。

(日蓮の台詞)拙僧 は西方の 日蓮である。母 の劉四真 を さがすために ここに来 て、お邪魔 をす る。

(獄官の台詞) まさか劉四真はお母 さんなのか。小官は先 ほど彼女 を審問 し、

特別 に刑罰 を赦免 して、次の殿 へ押送 した。

(目連の台詞) お世話 になってあ りがたい。

(歌 う)可哀相 に、母は もう年寄 りで、 ど うして各殿 でい じめ られ ることに堪

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え られ よ うか。仏様 に、哀れに思召 し、罪 を容赦 して下 さるよ うに願 お う。

(台詞) ここに血 の湖 があると聞いたが、拙僧 を ご案内頂 きたい。

(獄官 の台詞)願 いの通 りに しよ う。 (一緒 に退場 、更に登場) (鬼卒 は罪人 たちを押送 して登場)

(目連歌 う) ここに来て、 ここに来て涙 がほろほろと流れ る。人間 として、人 間 と しては婦人の身 になるなかれ。分娩の時 に非常 に苦 しみ、 さらに血の湖で苦

しみを受け る。

(台詞)獄主 におたずね申 したいが、血の湖 の中で、多 くの婦人は非常 に苦 し んでいるが、男は この罰 を受 け るのか。

(獄官 の台詞)夫 は関係 ない。婦人 は分娩 の時 に、血の水が神 を汚 し、 さらに 汚れた着物 を川で洗濯す るか ら、善男善女 は こ うい う事を知 らず、誤 まって川の 水で入れたお茶 を諸聖人 に供 えることになる。命の終 わる時になると、 この よ う な苦 しい応報 を受け ることになるのだ。

(目連 の台詞)先 ほど母 が ここに来て、やは りこの苦 しい応報 を受けたのか。

(獄官 の台詞)小官は彼女の訴 えには道理 があるので、だた湖の浅 い処で しば らく立たせたが、大変 な苦 しみを受 け させ ることはなかった。

(目連歌 う) ここに来て、ただ天 に叫ぶだけだ。幸 いに も、幸いにも、母 は分 娩、授乳 して子 を養育 した。 ああ、母は苦 しかっただろ う。 この血の湖を見れば、

その広 さは8万4千余 ある。 あの看守 は無情 に罪人 を拷問 している。息子 と して 恩返 しで きない。 ああ、 ど うして人間 として生 きられ ようか。 あの血の湖 にい る 人々が しき りに悲鳴をあげ、涙 をほろほろ流 してい るのを見 ると、鋼鉄の よ うな 好漢で もここに来れば悲 しくな る。仏 さまの大慈悲で、 この婦人たちが早 く冥土 か ら解脱 で きるよ うに、その苦 しい罰 を容赦 して下 さい。

(獄官歌 う)禅僧 さんの孝行 は本当に無頬だ.天上か ら冥土 まで、いつ もお母 さんの ことを心 にかけてい る。婦人 が仏や経文 を信 じなかったため、血の湖 に来 て しまった。

(目連の台詞)獄官 さまにお聞 き したいが、母 の養育の恩 に報 い るには、ど う すれば よいのか。

(獄官の台詞)世の中の善男善女は、三年十か月の問血盆の精進 をよくすれば、

解賓盆の中か ら五 つの蓮 の花 が出現 し、 さらに般若船 が彼 らを奈彼岸 まで渡 し、

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罪人を済度 してや ることがで きる。

(目連の台詞)世間の人たちはあ くせ くしていて、誰 が改心で きよ うか。拙僧 は、母 を救 って昇天 させ る日に、南闇浮投 に教 えを乞 い、善男善女 に早 く覚悟 し て うや うや しく血盆の精進潔斎 をす るよ うに勧 め よ う。

(歌 う)母を冥土か ら救い出 し、必ず南閣浮投 に教 えを請 うために、早速旅立 つ。

(獄官歌 う)感服すべ きだ、感服すべ き。大慈大孝、万古まで誉め られ よう

(目連の台詞)獄主にお聞 きしたいが、血 の湖 の内に大勢 の罪人 がい る。拙僧 は彼 らを再 び人間の身 として生 まれ変 わ らせたいが、獄主の慈悲で便宜 を与 えて 下 さい。

(獄官の台詞)彼 らは生前 に禅僧 と縁 があるか ら、今 日よ うや く苦 しみか ら解 脱で きよう。

(目連の台詞)仏 さまに感謝す る。弟子 は この大勢 の罪人 を済度 したいので、

仏 さま引導 して下 さい。罪人は生 きていた問に修行 しなか ったので、 ここに至 っ た。今私 は助けたい。私 の言 うことを聞 くべ きだ。すべての婦人 は、男姑 に孝行 し、夫 に従 い、兄嫁 と弟嫁 に親切 に し、奴僕 を家の者 の よ うに見 な し、専心 して 善 に向かわなければな らない。そ うしない と、永遠 に生 まれかわ ることがで きな い。

(大勢の罪人の台詞)禅僧 さんの ご好意 に感謝す る。私達 は深 く感謝す る。

(目連歌 う)種 々な悪事をせず、 よ く慎 まなければな らない。すべての善事を 真心で行 うべきだ。皆 は早 く貴欲 を断 って、輪廻 に入 って人間の身 に生 まれ変わ

ることがで きよう。

(台詞)阿弥陀仏、阿弥陀仏。

(歌 う)私は今彼 らを血 の湖の苦 しみか ら解脱 させて、再三わけを説 く。男姑 に孝行 し、主人を敬 うべ きだ。主人。再 び人間の身 を失 えば、苦 しみは もっと深

くなる。

(台詞)阿弥陀仏、阿弥陀仏。

(歌 う)血の湖は蓮池 の水 となる。蓮池 の水 に五 つの蓮 の花 が現れて くる。仏 さまの法力に頼 って生死 を超越す る。生死。 よ く修行 して、でた らめな事 をす る ことなかれ。 (衆は退場)

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(台詞)阿弥陀仏、阿弥陀仏。 あーあ、苦 しい。

(獄官の台詞)禅僧 さんは今 日大勢 の罪人 を救 ってや った。 よい ことを して、

ど うして涙 を流 しているか。

(目連 の台詞)拙僧は大勢 の人 を済度 したが、母 を解脱 させ ることがで きず、

涙 を流 さずにはお られない。

(獄官 の台詞) これは天上 か らの勅 旨による。禅僧が息子 と して一つの殿 を通 れば、お母 さんが一 つの殿 に押送 され、息子 が一つの関を通れば、お母 さんが一 つの関に押送 され る。

(目連の台詞) なるほど。

(獄官の台詞)そ うだ。大慈大孝 を行 って仏教 を読経す る。

(目連の台詞)何時私 の母 を済度で きよ うか。

(獄官の台詞) ど うぞ。 (一緒 に退場)

第二幕 五殿の合同審判

(四王、六王登場) (六王歌 う)下 に冥土があ り、上に天 がある。頭を上げて 仰 ぎ見れば、法 は無辺 な ものだ。

(六王歌 う)有罪 か、無罪かを知 るのは、その人間が賢いか、賢 くないかによ るだけだ。

(四王の台詞)今 日は勅命 を奉 じて、第五殿の閲魔王 と合同審判 をす る。法 に よ り判決すべ きで、私情 にとらわれて軽々 しく悪 い罪人を赦免 してはいけない。

(六王の台詞)世間に善 をなす ものは少 な く、悪事 を働 くものは多い。当然法 によ り、ひど くこらしめてや ることで こそ、冥土の応報 には誤 りのないことを現 す ことがで きる。

(舞台内の台詞)報告致す。第五殿 の閣魔王 さまがお見 えになった。

(四王、六王の台詞) ど うぞ。 (五王登場)

(五王歌 う)天上か ら職 を授 け られて霊威 を顕 わ し、冥土の神 々に尊敬 されて いる。良い ことをすれば、いつかは良い報 いがあ り、悪い ことをすれば、いつか は悪 い報 いがあるものだ。業鏡台の上 には っき り映 しだ されてい る。

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(四王、六王の台詞)闇魔王 さまの ご出座 を迎 えず に、お許 しを乞 う。

(五王の台詞) ど う致 しま して。今 日は天上 か ら勅命 を奉 じて、皆 さん と一緒 に悪い罪人を審判す るよ うに命 じられた。すべて世間で悪事 を働 いた ものを冥土 の律でひど くこらしめて、私情 にとらわれてはいけない。

(四王、六王の台詞)天上 よ り勅命 を奉 じて、 ど うして私情 にとらわれ ること がで きよ うか。出廷の札 を掛 けておけ。 (鬼卒 は罪人達 を押送 して登場)

(鬼卒の台詞)一つは、富を築 くためにず るい ことばか りした停天瞳の ことだ。

(四王、五王、六王の台詞)停天瞳、上 がって来い。 おい、停天瞳、お前 は富 を築 くのにず るい ことばか りを し、禁令 に違反 して利 を求め、人 に財産 を蕩尽 さ せた。軽 い秤で出 し、重 い秤で入れ、小 さな斗で出 し、大 きな斗で入れた。 お前 の食欲 さは虎や狼の ようで、心 は蛇や嶋の よ うだ。何 の罪 に当 るべ きか。

(停天瞳の台詞)殿 さま、小人は本当に この よ うな ことはなかったのです。

(歌 う)平素利 を取 るには公平 に した。軽重、大小 の異 なる秤 を使 うことはな かった。

(四王、五王、六王の台詞)鬼卒、停天瞳 を業鏡台に押送 して映 させ、調 べて 来 い。

(歌 う)業鏡 には、はっき り映 って、はた して富を築 くのにず るい ことはか り を していた。

(四王、六王の台詞)闇魔君 に伺 いたいが、 どの よ うなに処理すれば よかろ う か。

(五王の台詞)鉄錐の苦 しみを受 け るべ きだ。

(四王、六王の台詞)そ うだ、鬼卒、博天瞳 を鉄錐 の極刑 の苦 しみを受け ると ころ‑押送 して行 け。 (押送 して退場)

(鬼卒の台詞) もうーつは父母 を殴 った り、罵 った りした罪人、趨 甲の ことだ。

(四王、六王の台詞)趨 甲上 がって来い。 おい、題 甲、人間は天地の間に生 き ている限 り、父母 を尊敬すべ きだ。 お前はなぜ父母 に逆 らい、親不孝 な者 になっ て、父母 を殴 った り、罵 った りしたのか。

(趨 甲の台詞) おや、殿 さまよ、小人は親不孝 なことなどなかったのです。 た だ平素賭博 が好 きだか ら、私 は よ く親 に責め られた。一言、二言 な ら、小人 も我 慢で きるが、親 はどなった り、罵 った りして止 まない。小人は乱暴 にな らず には

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おれなか った。親 が よけいなことに ロを出 したのだか ら、小人の騒いだ ことを冬 めない よ うにお願 いす る

(四王、六王の台詞) この逆 らう者 は、逆 らった理屈 を言 っている。閣魔君 に お伺 い したいが、 どの よ うなに始末 しよ うか。

(五王の台詞) この よ うな悪逆非道 の罪人 は油鍋 の苦 しみを受け るべ きだ。

(四王、六王 の台詞)鬼卒、趨 甲を油鍋 の ところに押送 して苦 しみを受け させ ろ。 (趨 甲を押送 して退場)

(鬼卒 の台詞) もう一つは誓 いに背 いて精進落 と しを した女囚の劉四真の こと だ

(五王 の台詞)劉 四其上がって来 い。 おい、劉四真、お前 は自業 自得で、地獄 の苦 しみを受け るべ きだ。更に何 か言 いたい ことがあるのか。

(劉氏歌 う) お許 しを乞 います、訴 えさせていただ きたい。私 の ことをお考 え になって、私が生前 に善心を持 っていた ことをお考え下 さい。殿 さま、不偶に思 っ て下 さい。 かつて三宝 につかえま した。 かつて神明を敬 いま した。殿 さまよ不偶 に思 って下 さい。 かつて精進や布施 を行 いま した。 かつて貧民を救済 しま した

殿 さまよ不偶 に思 って下 さい。殿 さま、殿 さまの ご譲葉 を乞います。済度、私の よ うな老婆 を済度 して下 さい。

(五王の台詞)おい、劉氏、お前の夫は善行 を積 んで天上 に昇 った。 お前の息 子は修行 して得道 した。独 りお前 は悪性が変わ らず、罪つ くりを した。修行 した のはお前、修行 をやめたの もお前、以前誓 いを立 てたのはお前、今 日幾重の地獄 で苦 しみを受け るの もお前だ。

(劉氏の台詞)殿 さまが この老婆 の夫 と息子の ことを言及 なさらないな ら、 も うそれでいいのですが、私 の夫 と息子 の ことをご存 じである以上、私 も仏 さまの 言われ ることを聞いたのです。一人の息子 が得道すれば、九族 も天上に昇れます。

夫婦、母子、すべて五倫 の近親 に属 し、そのお陰でお赦 し頂 けないで しょうか。

(五王の台詞)甚 だず るい言いわけをす る。菅災里の殺人 に対 して、皐陶は舜 のために法 を曲げ ることがで きなか った。 明 らかにお前 は夫 と息子の善行 にもか かわ らず、敢 えて誓 いに背 いて精進落 と しを した。 もしお前が誓 いの通 りに しな ければ、それは法律 を知 らない ことになる。地獄 の罪はど うして も赦免で きない

ものだ。

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(劉氏 の台詞)殿 さま、私 自身 の功過 も相匹敵 で きるで あ りま しょう。

(五王 の台詞) いや、小善 は大罪 に相匹敵 で きない。応報 を明 らかに しないで いい ものか。

(劉氏 の台詞)済度 させて、容赦 を賜 るよ うに乞 い ます。

(五王 の台詞)劉氏 よ、強情 に言 いはってはいけない。言 いは っては。

(劉氏歌 う)私 は頭 を低 く下 げて お とな くし、服従 しないのではないのです

お とな しく服従 します。私 は敢 えて強情 に言 いは って、分別 しないので もないの です。

(台詞)冥土では闇魔天子 だけが尊 い と私 は聞いた ことがあ る。今 日ここに来 て、 ど うして公平 に処理 して頂 けないのだ ろ うか。

(歌 う)可哀相 に、私 は死後 に永遠 に生 まれ変 わ ることがで きない。平生 を顧 みれば、妻 と して夫 の賢 明 さを助 け、夫 の賢 明 さ。母 と して息子 の善行 をな しと げ させた。山や海 の よ うに、高 く且深 い ものだ。

(五王 の台詞)善行 を高 く積 んで も、 この心 を固 く持 つ ことはで きなか った。

いつ も仏経 を読経す るもので も、 ロを喫む と、強盗 になる者 があ り、毎 日刀を持 っ て屠殺す る者で も、刀を捨 てれば、悟 りの境地 に進 む者 もあ ることを聞いた こと はないか。

(劉氏の台詞)殿 さまのお っ しゃ るよ うな らば、私 は一生善 を積 んで きて も、

一時破成 したために、かえって代 々悪事 を働 いたが、一旦改心す る者 に及 ばない ので しょうか。

(歌 う)善行 をなすべ きだが、庇 を求 め られ る。庇 を求 め られ る。悪事 を働 い てはいけないが、かえって庇 われ る。 これはま さに善悪 の応報 は さか さまに され て頼 りがない。私 は 自己を讃ず るのではな く、 自分 の ことを ごまかすので もない。

物 は平 らかな らざれはす なわち鳴 る。今ただ業鏡 には っき り映 ることを望 む。

(台詞)私 は こんな ことを聞いた。聖人 の経 には、聖人 は間違 いをす ることを 許 さないが、人の改心す ることを許す とい う

(歌)今はただ高 くかかげ られてい る業鏡 が私 の心 を映 し、私 の心。肝胆 を咲 して私の罪 を赦免 し、夫 と息子 について過 ちを改めて気分一新 させ ることを望む。

(五王 の台詞) おい、劉氏、 こ うい うことを聞いた ことはないか。上帝 は北方 の玄武の精であ りなが ら、なお九世 の修行 を経験 すれば こそ、本 当の悟 りを得 ら

(38) 76

(12)

れた。 呂洞賓は低 い仙人であって も、十世 の災難 を経験 したか ら、功を完成 した。

ま して、お前の前身は聖母で、代々焼香 し、悪人の頬ではな く、賎 しい人の頬で もない。一旦食 わんがため、多 くの功 を失 い、 自ら罪 に落 ち入 った。何 の怨みが あろ うか。何の怨みがあろ うか。

(劉氏の台詞)公正無私 の ことは法 と言われ、殺生 を好 まないことは徳 と言わ れ るで しょう。殿 さまは公正無私 の法 を司 る以上、 さらに殺生 を好 まない心 を体 現 な さるであ りま しょう。

(五王 の台詞)上帝は もとか ら殺生を好 まない。それで も秋の死刑を廃 さない。

私 は天罰の命 を奉 じて施行す るのみ。

(劉氏 の台詞) ああ、神 さまよ、劉氏は生前 によい ことをた くさん行 ったのに、

ど うして末 日が この よ うに惨めになったので しょうか。

(五王 の台詞) ます ますでた らめを言 うものだ。 お前 は こうい うことを見て見 ろ。世 の中には初 めに富貴であった者 が後 に貧賎 になった者 もある。 お前 が先 に 修行 し、後 に精進落 と しを した ことは これ と何の差異があろ うか。

(台詞)た とえば、今お前 が地獄 の苦 しみに遭 ったのは、上帝 さまのお考 えに よるものでは く、全 くお前独 りでや ったのだ。

(歌 う)お前 の夫 は天上の極楽浄土 にいて、お前 の息子 は西方の天上 にい る。

お前一人が地獄 に落 ち入 り、改心 して猛省 しなければな らない。 ど うして過失を おおいか くし、家の名声 をだめにす ることが出来 よ うか。

(劉氏歌 う)天上の極楽浄土 にい る夫 には会 えず、地獄で息子 に会 うことも無 理 だ。私 は修行 して も何 のためになったのか。業鏡 の前で映 ってみ ると悲 しい。

(五王 の台詞)鬼卒 、劉 氏を杖刑 に処 してや ろ う。 (殴 り終わ る)長 い首伽 を はめてや ろ う。

(歌 う)す ぐ第六殿 まで押送 してや る。第六殿で公正 な法 をあきらかに し、で きるだけ恩 を施 し、お前 ら母子 に しば し心 か らの話合いをさせてや ろ う。

(台詞)鬼卒、劉氏 を鼎の湯 に押送 して、衆人 に示 してや る。

(四王、六王 の台詞)止め よ う。劉氏はかつて精進や布施 を行 ったので、彼女 に鼎の湯 の苦 しみを免除 してや ろ う。

(五王 の台詞)功 は過 ちを補 うことがで きるが、過 ちは功 を補 うことはで きな い。やは り鼎の湯で衆 に示 してや ろ う。

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(四王、六王の台詞)彼女の夫が善行 を積み、息子 が孝行 を したために、 この 刑罰 を免除 してや ろ う。

(五王の台詞)皆 さまのお勧 めのおかげで、彼女 の鼎 の湯 の苦 しみは免除 して や る。鬼卒、劉氏 に長 い首伽 をはめて、阿鼻地獄 に押送 して行 け。 (鬼卒 は劉氏 を押送 して退場す る)

(四王、五王、六王の台詞)十殿 の闇魔王は私情 にとらわれない。金は要 らな い、人間だけが要 る。冥土で金の ことを気にす るとすれば、貧者 は皆亡 くな り、

富者 は生存で きるであろ う。 (一緒 に退場) (目連登場)

(目連歌 う)急 いで闇魔殿の前 まで来て、囚人が見 え、囚人があた り一面 にい る。首伽 をかけ られ、 くさりでつながれて、千鳥足で動いてい る様子 は 目に触れ ると人を悲 しませ る。

(台詞)お母 さん、お母 さんよ。

(歌 う) まわ りをさが して も、私の母は見えない。門外‑行 って詳 しく聞 こ う

(台詞)長官の皆 さまにおたずねす る。今朝第五殿 か ら一人の劉 四真 を押送 し て釆たが、 もう文章 が届 いたか。

(舞台内からの台詞)劉四真は今朝殿 さまに審問 されてか ら、杖刑四十 に処 さ れた。 もう次の殿 に押送 された。

(目連の台詞) ど うして さらに次の殿 に押送 されたのか。 ああ、苦 しいかな。

(歌 う) この話 しを聞 くと、涙 がほろほろ流れ る。早 くついて行 こ う。 ついて 行 って、 ぐず ぐず してはいけない。見 る処では、鉄の城 は相連 な って、険 しい断 崖絶壁 のようで天に も接す るほど高い。罪人 が ここに来れば、大変苦 しめ られ る であろ う。

第三幕 仏は黒いご飯を賜わる。

(張祐大、李純元登場) (張祐大、李純元歌 う)我 が仏 さまの御 旨を奉 じて、

わ ざわざこの冥土 に来た。 目連が孝行 を行 ったために、 と くに黒 い ご飯 を もた ら した。黒い ご飯は彼の母の腹の足 にな る。前途 を指図す る。彼の母 を救 うことは 容易だ。

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(舞台内の台詞) ああ、苦 しい。

(張祐大、李純元の台詞)前 の方か ら目連 お兄 さんが来た。私たち二人で彼を 迎 えに行 こ う。 (目連歌 いなが ら登場)

(目連歌 う)一心 に母のために、苦 しみが尽 きない。尽 きない。冥土をかけま わ っている。

(台詞)お二人のお弟 さんは何の用で ここに来たのか。

(張祐大、李純元歌 う)我 が仏 さまの御 旨を奉 じてお兄 さんに会いに来た、お 兄 さん。近頃の消息は如何.

(自適歌 う)母 を さが して も会 えない。むだ骨折 りを した。骨折 り。

(張祐大、李純元歌 う)兄 さんは安心 して心配 しな くて もいい。心配。仏 さま か らご指示 があ る。 お母 さんは阿鼻地獄 に陥 ったが、賜 った黒 い ご飯がある。黒 い ご飯。 お母 さんの腹 の足 しにな る。四月八 日、 この時にお会いで きる。 この時 に。

(日蓮 の台詞)仏 さまは、 ど うして私の母 に黒 い ご飯 を賜 ったか。

(張祐大、李純元の台詞)仏 さまの言付けを伺 った。阿鼻地獄 には餓鬼が甚だ 多い。 白い ご飯 な ら、餓鬼たちに奪取 られ るであろ う。黒 い ご飯 は餓鬼たちに鉄 の層だと思われて奪 われない。 この ご飯は法 を入れた水で洗われた もので、見た めは よ くないが、食 べ るとおい しい。

(目連歌 う)仏 さまに感謝す る。 ご恩は海の よ うに深い。 日蓮は終始心 に考 え て、高山を仰 ぐよ うに。 ただちに阿鼻地獄 に行 って、母 を救 ってか ら天上に登 っ て、如来 さまに謁見 し、お礼を申 し上げ る。

(張祐大、 日蓮 、李純元歌 う)兄弟は しば ら く東西へ別れてい く。今度 は順調 にお母 さんに会 えるであろ う。人間は不運 の極 に達すれば幸運 がまわ って くる。

(左右 に別れて退場) (班頭登場)

(班頭歌 う)阿鼻地獄 では、俺 は旗頭 と して この牢獄中の餓鬼囚人 を管理 して いる。善行 を為す人間な ら誰 が ここに来 るものか。悪事を働 くものは長 くここに 留 まる。

(台詞)おれは阿鼻地獄の旗頭だ。今 日は四月八 日、我 が仏 さまのお誕生 日だ0 大王、獄官、獄吏 は皆竜華大会 に赴 いて、俺 に牢獄 の門を守 るよ うに命 じた。囚 人たちよ、大王は会 に赴 いて、 まだ帰 らない。 お前たちは しば らく出て 自由に跳

(15)

びまわ った りして もい。

(劉氏登場) (劉氏の台詞)両 目は荘然 と して 自分 を哀れむだけだ。頭の上 に 青空のあることもわか らな くなった。

(歌 う)荘々た る場所、向側 さえも見 えない。地獄 に陥 って、千万の苦 しみを 受けた。空 しく顧みて、涙 がほろほろ流れて くる。私 はは じめに精進落 と しを し て殺生 した ことを悔 いる。婦人 と して一時の見識の浅薄 さのせいで、夫の言 うこ とを聞 き入れず、私 は神 さまか ら罪 を得た。私 の息子 が再三極力勧告 したのに、

わた しはどこ吹 く風 と聞 き流 した。今つ ぎつ ぎの地獄 の苦 しみを経験 し尽 くした。

往事を追想す ると、地団太 をふみ、胸 をバ クバ タたたいて、 くや しが って もだめ だ。 ああ、我が仏 さまよ哀れんで下 さ り、彼岸 に助 けて下 さい。我 が仏 さまよ慈 悲を施 し、劉四真を許 して済度 させて下 さい。済度。 (退場) (班頭 も退場)

(目連登場) (目連歌 う)弥陀仏 さまは仏事の会合に降臨なさる。仏事の会合。

母のために哀れみを乞 い、彼女の改心 をお許 し下 さるよ うに願 う。我 が仏 さまに 謁見す ると、衣鉢 を賜 った。衣鉢。天上の宮殿 を離れて冥土 に下 って母 を救 い出 す。 (火が燃 え上が る)冥土で火が盛 んに燃 えてい るのを見た。 火が盛 んに燃 え ている。地獄中のすべての闇を照 らして明る くした。鉄 の壁 が万丈の高 さで も、

万丈の高 さで も、錫 の杖 を持 ち上げて、弥陀 を唱 え、飛込 み姿勢で、 まっす ぐに 急 いで来た。 さが Lにここに来た。 ここに来た。阿鼻地獄 とはまさに ここだ。

(台詞)おや、牢獄の門はなぜ開いてい るか。そ うだ。今 日は四月八 日、我 が 仏 さまのお誕生 日だ。大王、獄官、獄吏 は皆竜華大会 に赴 いたか ら、牢獄 の門が 開いている。 (獄吏登場)

(歌 う)急 に牢獄 の門が開いてい るのを見 ると、心か ら嬉 しくなる。歩 き出 し、

入 って行 く。歩 き出 し、入 って行 く。

(班頭の台詞) あなたはどこのお坊 さんか。妄 りに牢獄 の門に入 って、なんと 大胆 な者であろ う。

(目連歌)長官 に申 し上げさせて下 さい。西方 の 目連、 目連 とは拙僧の名前だ。

(班頭の台詞)何の用で ここに来たか。

(日蓮歌 う)母 を さがすために、わ ざわ ざここに来た。

(班頭の台詞)お母 さんの名 は何 と言 うか。

(日蓮歌 う)母は劉 と言 う姓で、四真 とは彼女の名前だ。

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(班頭 の台詞)何 の罪で冥土 に陥 ったか。

(日蓮歌 う)誓 いに背 いて精進落 と しを したので、、冥土 に陥 った。

(班頭 の台詞)劉 四真 はお母 さんか。禅僧 さんち ょっとお待 ち、私 はす ぐ彼女 を呼 んで くる。 (内に向か って)餓鬼 たち、劉 四真 を呼び出 して くれ。

(舞台内の台詞)劉 四真、班頭 がおまえを呼 んでい るよ。

(劉氏の台詞)来 た よ。 (登場) (班頭 の台詞)劉 四其 よ

(歌 う)劉四真、良 く聞いて くれ。 お前 には一人 の息子 がい るね。西方の 目連、

日蓮 とは彼の法名 だ。 お前 は彼の母親 だろ う。母親。 そ うで あるか、 ど うか。 そ うであ るか、 ど うか。

(劉氏歌 う) そのわけを聞 くと心 の中で うそか本 当か と思 う。私 の息子 の名前 は羅 トだが。

(台詞) ああ。

(歌 う)他人 の息子 な ら、 ど うして お互 いに認 め られ よ うか。

(台詞) おや、班頭 よ、私 の息子 の苗字 は侍 と言 い、名前 は羅 トと言 うが、 ま だ世間にい る。 そ して出家 した ことはない。ああ。

(歌 う)他人 な ら、認 めて もだめだ。

(班頭 の台詞 ) お前 の息子 では ないか。入 っていけ。 (劉氏退場)禅僧 さん、

私 は調 べた処 で、劉 四真 とい う人 がい る。彼女 の息子 は苗字 が侍 、名前 が羅 トだ が、 まだ世間 にいて、出家 した ことはない とい うか ら、敢 えて認 め られない。

(目連 の台詞) おや、苦 しい こと。

(歌 う) このわけを聞 くと、い っそ う悲 しくな る。 い っそ う悲 しい。詳 しい こ とを申上 げ よ う。 目連 とは僧 とな った号で、停羅 トは俗名 だ った。やは りご案 内 をお願 いす る。私母子 が会 え るよ うに、会 え るよ うに。

(班頭 の台詞)君 の言 うよ うに劉 四真は本当にお母 さんだ。私 は禅僧 さんの孝 行 のために、お会 いで きるよ うに、 さらにお母 さんを呼び出そ う。

(目連 の台詞) あ りが と う。

(班頭 の台詞) (舞台内に向 って)劉 四真 よ、 目連 は確 かに君 の息子 だ。彼は 西方 の仏 さまに参詣 して、本当の悟 りを得 たので、 目連 とい う法名 を得 た。

(劉氏の台詞 、舞台内で) おや、 日蓮 は本 当に私 の息子 か。班頭 の ご案内で母

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子 が会 えるよ うになって、あ りがたい。 (登場)

(班頭の台詞) この道 か ら来て。 (園上) (班頭 は退場) (目連の台詞)お母 さん、お母 さん、苦 しいかな。 (脆 く)

(劉氏の台詞)私 の子 は どこにい るか。 (手探 りす る)私 の子 よ、お前 は ど う して これほどの高 さか。

(目連の台詞)お母 さん、あなたの子 は ここで脆 いてい る。

(劉氏の台詞) ああ、お前 は ここで脆 いているのね。 (さらに手探 りす る) お 前の髪はど うしたの。

(目連の台詞) あなたの子 は観音仏 さまのお指 図で 白梅嶺 まで行 くと、俗 の身 か ら解脱 して、西方 の仏 さまに参詣 したので、髪 の毛 を剃 って しまった。

(劉氏の台詞) ああ、私の子 は本当の悟 りになった。 お母 さんは 目がまっ くら で、何 も見 えない。

(目連の台詞)お母 さんの 目がまっ くらなのか。 あなたの子 は光文 を唱 えて、

お母 さんの 目を明 る くして上げ よ う。

(歌 う)仏法は無量で、 もとか ら霊妙 な物 だ。世 の中の億万の人 を遍 く照す。

私が法 を入れた水で 目を洗 って上げれば、年寄 りのお母 さんは以前通 りには っき り見えるよ うになる。

(台詞)お母 さんよ、お母 さん よ。

(劉氏の台詞)私の子 よ、私 の子 よ。

(歌 う)今朝、母子は会 って、会 って、思わず、思わず涙 をほろほろと流す。

子 と別れてから、冥土に陥 った。冥土。 どれほどの道程 を経 ったか、苦 しかった。

地獄 の何重 かの門を通 って、何重 かの門。その苦 しみは言い尽せない。私 の子 は 世間の人で、世間の人、 ど うい う道 を通 って母 を さが Lに冥土 に来たのか。

(台詞)ああ、母の宝の子 よ。

(目連歌 う)お母 さんの前で平伏 して申 し上げ る。 申 し上げる。観音 さまにはっ きり指図 され、お母 さんが冥土で、冥土の地獄 の中で何度 も刑罰 を受けた ことが 分 った。 このために私は家 を捨てて、家、一方 に仏教 をかつ ぎ、一方 にお母 さん をかついで西方へ行 きたい。釈迦 さまか ら、あ りがた く仏法 を授 け られ、仏法。

お母 さんに会 うために、地獄 にさが Lにきた。

(劉氏の台詞)私の子 よ、お母 さんは腹 が空 いてい る。

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(目連 の台詞)私 は ご飯 を持 って来た。 お母 さんに食 べて もらお う。

(劉氏の台詞)母 には首伽 がはめ られていて、 ど うして食 べ られ ようか。

(日蓮 の台詞)お母 さん私は兄文 を唱 えて、お母 さんの首伽 をはず して上げよ う

(歌 う)仏法 は無辺で、 もとか ら金剛の よ うだ。仏法は無量で、その大なるこ とが量れない。今、私 が錫 の杖 をち ょっと振 れば、首伽 は直ちに落 ちる。

(餓鬼 の衆登場) (餓鬼の衆の台詞)君たちよ、外 に一人の西方か ら来た仏の 弟子 が法 を入れた水で 目を洗 っている。俺 たちは一緒 に出て行 き、彼に水 をもら お う。 (一緒 に登場)仏 さまよ、仏 さまよ、 目を洗 う水 を もらいたい。

(目連 の台詞)原来牢獄 に囚われて、両 目が見 えな くなった者 は多い。私の こ の一鉢 の法 を入れた水でお前たちの 目を開けてや ろ う。

(歌 う)仏法は無量で もとか ら光 明な ものだ。世の中の億万の人間を遍 く照 ら す。私 が法 を入れた水で 目を洗 ってやれば、お前たちは以前のよ うには っきり見 えるよ うになろ う。

(餓鬼の衆 の台詞) よかった。 よかった。すべて明る くなった。私は君が見 え、

君 も私 が見 えるよ うにな った。あそ こにご飯 がある。一緒 に奪 い取 って食べ よ う。

(劉氏の台詞)私 の子 よ、ご飯は餓鬼 に奪 い取 られた

(日蓮 の台詞) かまわない。 あの ご飯 は私 自身の食物 だ。仏 さまは、お母 さん のために別の黒 い ご飯 を賜 った。 (劉氏の台詞)黒 い ご飯 は食 べ られ るのか。

(目連 の台詞)黒 い ご飯 は法 を入れた水で洗 った ものだか ら、見た 目は よ くな いが、食 べ るとおい しい。

(劉氏の台詞) な るほどね。 (ご飯 を食 べ る) (班頭登場) (班頭の台詞) お前 たちはど うして皆出て釆たか。

(餓鬼の衆の台詞)出て来てち ょっと散歩 してい る。

(班頭 の台詞)皆入れ。 (餓鬼 の衆退場) おや、禅僧 さん よ、君 はなんと法 を 知 らないのだろか。 ど うして勝手 に首伽 を、勝手 に下 してや ったか。

(目連 の台詞)拙僧 は一膳 の ご飯 を母 に食 べ させたいので、便宜的に首軌 を下 ろ した。:旺頭は この過 ちをお許 し下 さるよ うに。

(班頭 の台詞) ご飯 を持 って来てお母 さんに食べ させ るのはいい ことだが、勝 手 に首伽 を下 ろ してはいけない。 もし、押送 の官 が来て、見 られ ると、私 を連行

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す るではないか。早 く首伽 をはめておけ。

(目連 の台詞)阿弥陀仏。 (鬼卒 が押送 の官 を案 内 して登場)

(押送 の官 の台詞)上 か ら遣 わ されて、皆不 自由だ。大王 の厳 しい命令 を奉 じ て、劉四真 を押送す るよ うに。鬼卒 、班頭 を俺 の処 に呼んで来 い。

(鬼卒 の台詞) はい、班頭 よ。 お爺 さんが呼 んでい る。

(班頭 の台詞)旦那 が来たぞ。 (出て会 う) (押送 の官の台詞)鬼卒、 この人 は誰 か。

(鬼卒 の台詞)班頭だ。

(押送 の官の台詞)おい、班頭 か。 この悪 い奴 、お爺 さんが来 ると、お前 は出 迎 えるはずだ。 なんで威張 って、 自ら 「旦那 が来 た よ」 とい うのか。憎 ら しい。

(班頭 の台詞) お爺 さん、あなたか らの大書 もな く、お知 らせの札 も来 ないか ら、班頭 はど うしてわか ろ うか。

(押送 の官の台詞)知 らなか ったのな ら、許 してや る。俺 は劉 四真 を押送す る ために来た。 あの囚人は どこにい るか。

(班頭 の台詞) お爺 さん、劉 四真 はそ こにい る。

(押送 の官 の台詞) こいつは法 を知 らない。 お前 は俺 と話す場合 に行儀 よ くす るべ きなのに、 ど うして 「劉 四真 はそ こにい る」 と指 さす のか。 この様子 で班頭 と しての資格 などあ るものか。餓鬼 になって もお前 に とっては上等 だ。 おい、鬼 卒 、班頭 は賄賂 を受 け取 って、勝手 に首伽 を下 ろ したか ら、お前 はやつを大王 の 前 にひっは っていけ。

(班頭 の台詞) お爺 さん、班頭 が勝手 に首伽 を下 ろ したのではない。

(押送 の官 の台詞) お前 でなか った ら、誰 か。

(班頭 の台詞)劉 四真 の側 に立 ってい る者 を ごらん

(押送 の官 の台詞) あれは誰 だ。

(班頭 の台詞)四真の息子 だ。西方 か ら仏法 を伝 えてや って来 た。

(鬼卒 の台詞)仏法 は何 の役 に立 つか。

(押送 の官 の台詞)仏法 とは冗談で はない。班頭、彼 は何 のために ここに来 た のか。

(班頭 の台詞)彼は母 に食 べ させ るご飯 を持 って来 た。勝手 に首伽 を下 ろ した の も彼だ。班頭 とは全然関係 が無 い。

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(押送 の官の台詞)お前 は彼が勝手 に首伽 を下 ろ したのを見た以上、それを元 通 りにはめてや り、役人 に見 られない よ うにすればいいのに。

(班頭の台詞)班頭 は元通 りに首伽 をはめてや ろ うと思 ったが、彼が阿弥陀仏 と一言 を唱えるな り、私 の頭 が米の ざるの よ うに大 き くなった。

(鬼卒 の台詞) もし、二回唱 えれば、おまえの頭は山の よ うに大 き くなるだろ う。

(押送 の官の台詞) もし、 もう一度唱 えて三回になれば、おまえの頭は天のよ うに大 き くなるであろ うか。俺 は信 じられない。今首伽 をはめてや るのを見せて くれ。

(班頭 の台詞)信 じないな ら、す ぐはめてや る

(日蓮 の台詞)阿弥陀仏。

(班頭 の台詞) お‑い、おーい、おーい. (頭 を抱 えて逃げ る)

(押送 の官の台詞)鬼卒、鉄 の釘 を四つ持 って来て、班頭 をあの広間の柱 に釘 で打 ちつけて くれ。 これは班頭 が悪 だ くみを したせいだ。鬼卒、お前があの首伽 をはめてやれ。 もし、お前 がはめ られた ら、俺 はやつをひど くや っつけてや る。

(鬼卒 の台詞) ごもっともだ。私 にはめ られた ら、班頭 よ、班頭 よ、あなたは お爺 さん とかたをつけ るよ うにな る。 はめてや る、はめてや る、はめてや る。

(目連 の台詞)阿弥陀仏。

(鬼卒 の台詞) おーい、お‑い、おーい。

(押送 の官の台詞)分 った。鬼卒 は卑 しい もので権力が無 い。班頭は威勢がな い。俺 は役人で、大小 に拘わ らず役人 と しての しる Lを持 ってい るか ら、彼をお さえつけ ることが出来 よ う。

(鬼卒 の台詞) お爺 さんは役人の しる Lを持 ってい るか ら、阿弥陀仏 を恐れな い。

(押送 の官の台詞) こっちに来い、 しっか り立 って首伽 をはめ させ よ。

(目連 の台詞)阿弥陀仏

(押送 の官の台詞)大変だ。 これはすべて班頭のや った ことが私 を困 らせた。

鬼卒、班頭 を大王の ところにひっぼ って行 け。

(班頭 の台詞) ち ょっと待 って、ち ょっと待 って、お爺 さんよ、班頭 を大王の ところに引 っ張 って行 って も、 この任務 を果 たす ことがで きない。やは り相談 し

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てみ る方がいいと思 う。

(押送の官の台詞) どの ように相談す るのか。

(班頭の台詞) 目連 は出家の人で、慈悲の真の持 ち主だか ら、あなたは丁寧 な 言葉で彼に勧告すれば、 自らあなたに押送 され ることを東知す るであろ う。

(押送の官の台詞)おまえか ら勧 めてみ ろ。彼が承知すれば、おまえを大王の ところにひっぼ って行 きは しない。

(班頭の台詞)私 が行 く、私 が行 く。 (目連 に向かって)禅僧 さん よ、 この方 は押送の官だ。

(日蓮の台詞) ああ、 この方は押送 の官だ。

(押送 の官の台詞)そ うだ、そ うだ。

(目達の台詞)押送の官、拙僧は年寄 りの母 をつれて西方の天上 へ帰 りたいが、

長官に便宜 を与 えて くれ るように願 う。

(押送の官の台詞) これは班頭の仕事だ、小官 とは関係 が無 い。

(目連の台詞)班頭 に便宜 を与 えて くれ るよ うに願 う。

(班頭の台詞)私 は便宜 を与 えた くないでのはない。ただお母 さんの生前 に立 てた誓いによって、十八重の地獄 の苦 しみを甘 ん じて うけてい るのだ。 ま して十 殿の闇魔王は禅僧 さんの孝行 を知 り、,重刑 を貸す ことは無 か った。禅僧 さんが勝 手にお母 さんをつれて西方の天上‑戻れば、必ず私 たちを困 らせ ることになる。

禅僧 さんはお母 さんを救 う孝行の心 を持 ってはい るが、私 たちを救 う慈悲 を持 っ てはいない。三思、三思 なさる方がいい。

(目連の台詞)拙僧は母 をさがすために冥土 に来て、第‑殿か ら十殿 まで来て、

や っと母 に会 えた。急 いで一緒 に西方の天上 に行 きたいのに、ど うして別れ るこ とを忍べよ うか。

(劉氏の台詞) 目連、私の子、班頭の話 しには間違 いが無 い。私 は昔 に願 をか け、十八重の地獄の苦 しみを甘ん じて うけ る。 お前 が今私 を西方の天上‑連れて 行けば、 きっと班頭たちを困 らせ ることになる。私 の心 は忍びない。 お前が西方 の天上へ戻 って、我 が仏 さまの哀れみを乞 うな ら、私 たち母子 は最後 に逢 う日が 来 るであろ う。

(押送の官、班頭の台詞)すぼ らしい。立派 なお母 さんだ。 あなたに首伽 をは めて上げ よう。

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(目連の台詞)阿弥陀仏。

(押送の官の台詞)禅僧 さんは、ど うぞおかえ り。

(目連の台詞)お母 さん、お母 さんよ。

(劉氏、 目連歌 う)捨てがたい、捨てがたい母子 はさらに別れる、別れ る。鉄 のように強い好漢 もこの様子 を見れば悲 しくなる、悲 しい。

(劉氏の台詞) ああ、私の子 よ。

(歌 う)お前は西方の天上‑戻 って、お母 さんはさらに前‑行 く。はて しがな い。いつまた会 えるか分 らない。

(目連の台詞)ああ、お母 さんよ。

(歌 う)十か月の妊娠 の恩 に報いず、報 いず、母子 は会 ったばか りで、 さらに 別れて行 く

(台詞)ああ、お母 さんよ。

(劉氏歌 う)今、十か月の妊娠 を言わないで、言わないで、三年の授乳の思い を憶 えて もらいたい。

(台詞)私の子 よ。

(劉氏、 目連歌 う) まさに涙の流れ る目を、涙の流れ る目を見 る。涙の流れる 目。断腸の人は断腸の人 を送 る。断腸の人。 (押送の官、鬼卒 は劉氏を押送 して 退場) (班頭 も退場)

(目連の台詞) お母 さんよ。 (歌 う) まさに、 まさに断腸の人は断腸 の人を送 る。

(台詞)ああ、私のお母 さんは、苦 しいかな。 (目連退場)

第四幕 法を受け、灯を賜 う

(諸仏は世尊 を守護 して登場) (世等歌 う)仏座 にすわって西方の浄土の境 に 臨み、晴れ渡 った大空に浮 き雲 も清い。(目連登場)

(目連歌 う)道中で矢の如 く気があせって、西方浄土の境につ くと嬉 しくなる。

お指図を賜 った我が仏 さまに感謝 申 し上げ、阿鼻地獄で母 に会 った。 ご飯を差 し 上げ、飢えを癒 し、法を入れた水で 目を洗 って上げると、明るくなった。鬼卒に

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押送 されて、母子 はさらに別れた。 このために、再 び我 が仏 さまに参詣 して救い を乞い申 し上げ る。

(世尊歌 う)人間はすべて天地 の間 に生 きてい るが、お前 のよ うに孝行す るの は実 に稀だ。お前 の母は生前 に誓 いを立てたので、地獄で苦 しめ られ ることが、

天上の宮殿で定 め られたのだ。

(台詞)我は もとか らお母 さんを済度で きるよ うに考 えたが、ただ 「天 は将 に この人 に大任を与 えるな ら、必ず先 にその志 を苦 しめ、その筋骨 を苦労 させ、そ の体を飢餓 させ るとい う」 のだ。お前 に地獄 を遍歴 させてか らこそ、大孝 にな ら せ ることになる。今、お前 に与 える一つの仏灯 は、十八重 の地獄 を照 らす ことが で きる。法恭、仏灯 を持 って こい。

(法恭の台詞)はい。 (退場 してか ら灯 を もって登場す る)

(世尊歌 う)お前 に与 える仏灯 は、並でない。暗 い地獄 を照 らす と、 きらきら と輝 く。今度お母 さんを救 いに行 くのは、難 しくない と思 う。

(目連の台詞)我が仏 さまにお伺 い申 したいが、 この よ うな灯 は どこにあ るの で しょうか。

(世尊の台詞) 明州の天堂山、簡州の元光観、成都 の成丁 山には、皆 この よう な仏灯 がある。風 に吹かれて も消 えず、雨 に濡 って も消 えない。 この灯 を身 にか けておけば、十八重の地獄 を破 ることがで きる。 お前 が第十殿の転輪王の処 に行 けば、す ぐお母 さんの行方 がわかる。息子 と しての百年 の願 いが遂げ られ る。

(目連の台詞)全 く仏前の一つの灯 をよ りどころとす る。 (世尊 と諸仏退場) (目連歌 う)仏灯 を身にかけて、仏灯。地獄 を照 らす と、 きらきらとなる。仏 灯 にた よって、たよって地獄を破 り、お母 さんを救 って早 く済度 して さしあげ る.

(鬼の衆登場)餓鬼は万千、万千の餓鬼は互 いに擦 れあった り、ぶつかった り、

つながった りしている。仏灯が現われ ると、現われ ると、地獄 を破 って開け る。

お母 さんが見つかれば嬉 しい。第八殿 に来た。第八殿 の大王殿 さま、母 はどこ‑坐 まれかわ ったかを調べたい。冥土 を遍歴 して、遍歴 して も母 が見 つか らない。涙 が ほろほろ流れ る。いつお母 さんを済度 して天上‑昇 らせ ることがで きよ うか。 (獄 官登場、鬼の衆は皆逃げて退場)

(獄官の台詞) どこの禅僧 さんか。何 のために ここに来たか。

(日蓮 の台詞)拙僧 は西方の 日連 だ。母 の劉 四真 を さが Lに ここに来 た。お邪

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魔 した。

(獄官の台詞) な るほど劉四真 はお母 さんか。先 ほど大王 が審判 した。杖刑四 十 を施 してか ら、次の殿‑押送 した。

(目連の台詞)おや、失礼す る。 (向を変 えて退場)

(獄官の台詞)おや、おや、罪人の鬼 は仏灯 に照 らされて皆逃げて しまった。

これは大 した ことだ。大王 に申上げなければな らない。 (退場)

第五幕 第十殿の輪廻

(転輪王登場、鬼卒 が先導す る) (転輪王歌 う)冥土では、刑罰 と奨励 が偏 ら ない。悪人は畜生 に生 まれかわ り、善人は天上 に昇 る。

(台詞)俺 は第十殿の転輪大王だ。今 日は一群 の悪 い罪人 が押送 されて きた。

俺 は軽重 を区別 して、それぞれ生 まれ変わ らせてや るべ きだ。鬼卒、悪い罪人を 皆押送 して こい。

(鬼卒 の台詞)悪 い罪人 を皆押送 して きた。 (劉氏、劉償、金奴登場)

(劉償 、劉氏、金奴歌 う)道中急 いでかけまわ り、苦 しめ られて も仕方がない。

(転輪王の台詞)劉償 、上 がって来 い。 おい、割 、お前 は人 を編 して、いろい ろの悪事 を働 いた。 さらに劉氏に精進落 と しを させた。何 の罪 に当るべ きか。

(劉慣歌 う)大王 よ訴 えをお許 し下 さい。劉仮 は 自分の過 ちがわか りま した。

地獄で何回かの拷問を経 て来 ま した。平伏 して大王 に今回赦免 して下 さるよ うに 乞 います。

(転輪王歌)お前の行為 によれば、刑法 か らまぬがれ られない。輪廻 したいな ら、盤馬 か馬 に生 まれかわ らなければな らない。

(台詞)鬼卒 、劉仮 を駿馬 に生 まれかわ らせ るよ うに押送 して行け。

(劉候 の台詞)大王 よ、小人は駿馬 にな りた くないです。同 じ畜生で も虎か麟 餅 にな りたいです。

(転輪王の台詞) よけいなことを言 うな。鬼卒、劉仮 の背中に炭で 「劉慣変駈」

の四つの字 をつけてか ら、精河橋の李仰 向の家で雌 の駿馬 に生 まれかわ らせてや れ る。押送 して行け。

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(鬼卒 は劉仮 を押送 し退場)金奴、上が って来 い。 おい、金奴、お前はなぜ女 主人に犬 を殺 して肉鰻頭 を作 るよ うに唆 したのか。仏教 に逆 らった ことで何 の罪

に当 るべ きか。

(金奴歌 う)大王 よ訴 えを許 して下 さい。金奴 が唆 したのではな く、実 は食べ たいだけで、応報 を知 らなかったのです。 ど うか大王 は私 のわず かな過失 を赦免

して下 さい。

(輪転王歌 う)お前はそ うい う考 えを起 こ して、女主人 をまきぞえに した。生 臭 い ものが好 きだか ら、猫 に生 まれかわ らせ るよ うに押送 して行 け。 (押送 して 退場)

(台詞)劉四真、上がって来い。 おい、劉 四真、お前 は夫 と息子 に背 き、誓 い に背いて精進落 と しを した。何 の罪 に当るべ きか。

(劉氏歌 う)覆水盆に返 らず、後悔 して涙 がほろほろ流れ る。大王 よ是非私の 息子 に免 じて、 この老婆 を赦免 し、罪を帳消 しに して下 さい。

(転輪王歌 う)罪はあま りに重 いか ら、 ど うしてて赦免で きよ うか。 しば ら く 輪廻 を許 して犬 に生 まれかわ るように行け。

(台詞)劉氏、お前の息子 目連禅僧の大孝 のために、お前 を善 い処 に生 まれか わ らせてや りたかったが、お前の戸体 が焼 かれて魂 が傷 め られたか ら、仕方 がな い。畜頬の体 にた よって こそ済度で きる。鬼卒、劉氏 を犬 に生 まれかわ らせ るよ

うに連れて行け。

(劉氏の台詞)大王がお許 し下 さった以上、 ど うして私 を犬 になるよ うに罰 さ れ るのか。

(転輪王の台詞)お前 は安心 して行け。お前の息子がお前 をさが Lに来 る時に、

自ら済度 され る。行け。 (劉氏退場)

(鬼卒 の舞台内の台詞)報告 申上げ ます。 (登場)一人の禅僧 が大王 に会 が っ て る。

(輪転王の台詞) 日蓮 が来たに違 いない。 ど うぞ。

(鬼卒の台詞)禅僧 さん、ど うぞ。 (退場) (目連登場)

(目連歌 う)ただお母 さんを救 って、西方 の天上 につれて行 きたい。輪転殿で 懇願す る。

(輪転王の台詞)禅僧 さんは何 の ご用で ここに来 られたか。

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(日蓮 の台詞)拙僧 は西方の 目連だ。母 の劉四真 を さがすためにここに来た。

お邪魔致 した。

(輪転王 の台詞) お母 さんの ことをすでに軽 く処分 して、彼女 を犬 に生 まれか わ らせた。

(目連 の台詞)世の中に生 まれかわ らせ る以上、ど うして犬にかわ らせたのか。

(輪転王の台詞)禅僧 さんは孝行で天地 を感動 させた。 もとよ りお母 さんを善 い処‑生 まれかわ らせ るべ きだが、彼女の戸体が焼 かれて魂 が傷 め られたので、

畜頬 の肉体 にた よって こそ済度で きるo母子 の会 う日は遠 くない。禅僧 さんは心 配 しな くて もいい。

(目連 の台詞)そ うか。失礼致す。 (退場)

(転輪王の台詞)一度 しくじると永遠 に後悔す ることになる。再び顧みればす でに百年の身 になった。 (退場)

第六幕 観音 さまのご指示

(日蓮歌 う)苦 しみが心 に染み、 ど うして よいかわか らない。 しょうがな く、

天 に訴 えるだけだ。地獄 をすべて遍歴 したが、お母 さんを救 うことがで きない。

苦 しい、苦 しい ことには冥土の律 は私情 にとらわれない。私のお母 さんをひど く 苦 しめた。生 まれかわ らせたが、生 まれかわ った場所は どこであろ う。お もいめ ぐらして も思案 に尽 きる。 ただ観世音 さまにた よる。悲 しく悲鳴 をあげ る。声 を あげて観世音様 を呼ぶ。 (苦 しみの至 りで気絶 して倒 れ る)

(観音登場) (観音 の台詞) 日蓮弟子,早 く目をさま して。

(目連の台詞)我 が仏 さまが降臨 した。弟子は参拝す る。 ああ、苦 しい。

(観音の台詞) 目連弟子、母 を救 うために、孝子 と してはいろいろ苦心 したが、

昇天 させ るの も世間の難事だ。 お母 さんはすでに鄭公子 の宅で犬 に生 まれかわっ た。 お前 の未婚の妻菅のお嬢 さんはいま尼 の寺 にい る。 お前 はその寺 に行 き、彼 女 をつれて家 に帰 るべ きだ。八月十五 日に、孟蘭盆大会 が催 され る時、我 と世尊 は俗世間 に下 り、お母 さんを済度 し、菅のお嬢 さんと一緒 に昇天 させ よ う。

(日蓮 の台詞)我 が仏 さまの ご指示 に感謝 を申す。

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(観音歌 う)お母 さんは今すでに生 まれかわ り、猟犬 になって清漢で猟 を して いる。お前は今す ぐそこ‑さが Lに行 って、初志 を遂げる。それか ら尼の寺に行 っ て、妻 を連れて帰 る。一家団 らんは この時だ。

(目連歌 う)我 が仏 さまの ご恩徳 に感謝 を申す。弟子 は心 に刻み込み、平伏 し て最敬礼 を申す。お母 さんが苦 しめ られてい るのを思 えば涙 が流れ る。ただ精進 落 としした一つの過ちのために、前の事 を持 ち出すには、持 ち出す には堪 えない。

(観音 の台詞)母子の団 らんは もう遠 くない。

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