生活文化産業の発展とキャリアデザイン
-マーケティング・キャリアを中心として-
法政大学キャリアデザイン学部教授福田敏彦
サービス自体の価値に付加される価値一を有する 生活産業である。例えば、ファッション、食文化 関連、住宅、生活用品、生活支援サービス、流通、
医療・福祉、教育、環境関連、スポーツ、芸術、
情報・通信、マスコミ、コンテンツ、人材関連ほ かが含まれる。多くの産業が成熟期に入っている 111で、これらは今後成長が見込まれる分野である といってよい。
福川伸次が生活文化産業について詳しく述べて いるので、ここでは福川の考え方に沿って説lリ]し ておきたい(1)。
生活文化産業概念の登場は1970年代に始まって いる。1970年ころから通産省では「生活産業」と いう言葉が使用されるようになり、これが基盤と なって生活文化産業概念が徐々に定着してきた。
生活文化産業は消費者需要の高度化、多様化を 背蛾にしている。物としての効用(ユーティリテ ィ)だけでなく、精神的な充足感を供与していく ものである。
経済水準が豊かになる中で新しい生活価値観が
形成されてきている。文化価値の重視、時間{iii値 の尊重、空間価値の拡大、健康志向、自然環境へ
の関心などである。この新しい生活価値観を反映 する市場の特色としては、生活の質を追求しよう という傾|可、市場の顧客へのパワーシフト、文化 の多様性の市場への影響、ハードからソフトヘな どが挙げられる。今後は産業と文化が融合していく可能性があ る。かつて文化は産業の添え物的な位置づけであ 1はじめに
近年、生活と文化が融合した産業である「生活 文化産業」という概念が定着してきた。今後わが 国の産業の中核のひとつを形成していくことが予 想されている。そしてこの産業の発展を担う新し いタイプの人材が求められている。
本稿は、このような環境下での大学生のキャリ アデザイン、特にマーケティングと関連したキャ リアデザインについて考察し、いくつかの提言を 行なうことを目的として書かれている。なお、こ こではキャリアデザインを、「個々人の生き方に 従って生涯を通して関わっていく職業・仕事を設 計すること」と定義している。
なお、ここでのキャリアデザイン論は「産業界 の要諦に応える」を基本にすえたものではなく、
大学生個々人の視点から行なうものである。
文化、産業、マーケティング、キャリアデザイ ンは別個に論じられることが多いが、実は密接に 関連している。これらを学際的アプローチにより 統合的に論じていくことが重要と考える。本稿を そのための一歩としたい。
2生活文化産業の発展一今後の成長が見込
まれる分里子生活文化廠業とは生活と文化が融合した産業で ある。衣・食・住・遊・学などの人々の生活と密 接に関連した産業を生活産業と呼ぶが、本研究の 対象となる生活文化産業とは、文化的価値一物.
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り、経済や産業から恩恵を受けるものとみなされ ていた。しかし、今、商品やサービスの持つ文化 性が、売れ行きの決め手となってきている。
生活文化産業の時代は「装置産業」から「創知 産業」(知識を創造する産業)への移行が進むで あろう。以上力桶川の考えの要約である。
ちなみに岐近の行政の施策では、政府が示した
.骨太方針”第二弾のなかで芸術・文化にかかわ る部分が、生活文化産業と関連する。この中の
「産業発掘戦略」として「文化・スポーツ・健康等 の産業化」という項目が設けられているが、ここ で「健康、スポーツ、ファッション、娯楽、音楽 といった分野は今後世界規模で市場が拡大する」
と見込まれ、その産業化を推進するとされている。
そして、「日本の文化の産業化の推進」や、「ゲー ムソフト、アニメーション、放送ソフト等コンテ
ンツ産業の育成」が掲げられている。
3職業・仕事の変化一求められる新タイプの 人材一
生活文化産業の発展は、職業・仕事に大きな変 化をもたらそうとしており、新しいタイプの人材 が求められるようになっている。
これに関連して注目されるのは、今進行してい る産業の文化化と文化の産業化であり、これに伴 う仕事の変化である。
産業の文化化では、例えば家電、自動車などに おいても、物としての価値よりは情報的価値への 欲求が強まっている。素材・品質がよい、便宜性 がよい、役にたつなどについては各社の差はなく なってきており、感じがよい、美しい、かっこい い、考え方がよい、世のためによい、納得できる などが評iiiされるようになってきている。各企業 とも、製品のデザイン、ネーミング、ロゴ、プロ モーション、ウエプサイトなどに工夫を凝らすよ うになってきた。
特に第二次産業で文化化が目立つが、最近では 第一次産業でも文化の比重が高まってきている。
各地域で農水産物のブランド化への関心が高ま り、各地域で行政と産業界とが共同で推進する動
きが|]立つ。
文化の産業化として近年注目を集めているの が、第三次産業の中での情報関連のジャンル、例 えばアニメ、ゲーム、キャラクター、パソコンや ケータイのコンテンツなどで構成されるコンテン ツ産業の発展である。コンテンツ産業の市場規模 は11兆円といわれ、特に海外市場の拡大が期待さ れている。
このような産業の発展を担うための人材として 以下の2点を指摘できる。
第1は自律的人材である。有形の経済資産より も無形の知識資産が価値を生む可能性が高くなっ ている。この産業において求められるのは、付加 価値の高い製品・サービスである。これは従来型 の、組織に依存し指示に従うことを任務とする定 型作業からは産み出すことができない。指示に従 うのではなく自ら学習し考え判断し行動するタイ プの人材が新しい産業を担っていくことになるで あろう。
第2に文化を理解し、これをビジネスに結びつ けることのできる人材である。知識を創造する産 業においては、文化の本質、特徴、変化などを理 解し、自らも文化を愛することができて、しかも 企業や利益についての考え方も持つ、創造的実践 的人材が求められるだろう。
4文化、マーケティング、キャリアデザイ ンの関係
1)基本的な考え方
生活文化産業の発展を踏まえてマーケティン グ・キャリアの設計について提言するのが本稿の 目的であるが、ここで基本としているのが個々人 の視点に立脚したキャリアデザインである。産業 界が求めている人材については当然考慮するが、
それに応えるにはどうすればよいかという問題の 立て方とは異なる。
本稿では、生活文化を含む文化への理解が重要 になってくるであろうとの認識を出発点としなが ら、文化と産業・マーケティング、キャリアデザ インとの基本的な関係性を考察し、その上で大学
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生活文化産業の発展とキャリアデザイン けること)をあげることができる。我らと彼ら、
内と外、こちら側とあちら側、日常と非日常、聖 と俗、老と若、男と女、流行とそうでないもの、
さらには善悪、美醜、好悪、正誤、苦楽、,決不'決、
用不用、有能無能など。われわれは対立するもの を持つことで文化的アイデンティティを確立して いるのだといってもよい。
留意したいのは、分けて排除する一方で、分け た向こう側へのひそかな`憧慌も存在するという、
文化独特の構造である。たとえばわれわれはH常 の世界に住み、非日常を対立きせ排除しているが、
実は排除した非日常を希求する気持ちもどこかに 持っている。それは文化をつくった人間が無意識 にもつ全体性への希求として説明されることが多
い。
この二分.二項対立と両者の相互関係が文イヒ理 解の基礎となる。分けて排除する一方で、分けた 世界を往復するという独特の行動様式をとるの が、文化を持つ動物である人間の特徴である。
生のキャリア設計について提言するという手順を とりたい。この際に、今後も変化しないであろう 基底的共時的な部分と、変化するであろう表層的 通時的な部分の両面から見ていきたい。
2)文化にどのようにアプローチするのか
産業、マーケティングとの関連、さらにはキャ リアデザインとの関連を考えた場合、文化にどの ようにアプローチしたらいいのだろうか。
人間が自然に手を加えて形成してきた物心両面
の成果が文化である。文化にはいろいろな定義が
あるが、ここでは「共有され伝承される生活様式」としておく。生活様式とは、生活の一定の型であ って、考え方.感じ方・行動の仕方(思考・感 情・行動の型)およびそれによって形成されるも のを含む。例えば衣食住、芸術、遊び、学問、技 術、道徳、宗教などの様式であり、各国の文化、
民族文化、地域文化、世代文化、各時代の文化な どが含まれてくる。
文化に優劣高低はない。しかしマーケティング などの企業活動では、製品やサービスなどで高い
価値を実現した場合に文化と呼ぶことが多い。何
が高価値かは時代によって、また社会によって異 なる。現代では一般に、例えば物としての素材・機能などの価値に加えて感覚、観念などの情報的
価値が付加された場合、それを(狭義の)文化と 呼ぶ。学問の世界では広義の定義が、マーケティング をはじめ世の中では狭義の定義が使われることが 多い。本稿では基本的に広義に解釈し、必要な場 合は狭義か広義かを示している。
マーケティングやキャリアデザインと結びつけ るためには、文化を動的に(変化を考慮に入れて)
理解することが重要であろう。
榊造言語学、文化記号論では、文化の基本原理 として二分、二項対立に着目する。この考え方を 基礎に、文化を動的にとらえてみよう。
自然という連続したものを再編成してつくった ものが文化であるが、文化の基底的構造として、
「分節」「二項対立」(分けること、特に2つに分
3)文化のタイプ
以上の考え方をもとに文化の特徴を見ていくこ とができるであろう。どのように分けているか、
分けたもの同士をどのような関係に置いている か。分け方についてもはっきり分ける.あいまい に分ける、自分たちの考え方を広げる.広げない、
反対側を理解する・しない、一方通行・双方向…
とさまざまな分けかたと関係のしかたが考えられ る。これが、文化のタイプとなって表れ、文化に 影響された価値観、美意識、行動、ライフスタイ ルのタイプとなって表れることになる。
二項対立と関係によって文化をとらえる考え方 を前提にして、文化のタイプを分類してみよう。
文化は人間が自然に何らかの加工を与えて形成 したものであって、自然と文化の分け方、および 両者の関係のとりかたに着目することで「制御型」
と「共存型」に分類できる。
文化同士の関係の関係に着目すれば、異文化に 対する制御型と共存型に分類することもできる。
大雑把に分類すれば西洋系の文化は制御型、日
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本など東洋系の文化は共存型と言えるだろう。
また、文化はその構成要素から、「リド物系」と
「情報系」に分類することもできる。ql:物系の世 界はモノで櫛成され、自然から受け継ぐ要素が多 く、重さと手触りを感じられる世界である。一方
情報系の世界は、サービス・ソフト・デザイン・活字・絵・写真・映像・動画などで柵成され、’二|
然から受け継ぐ要素が少なく、顛さと手触りがな
い世界である。事物系の文化は、自然、身体、アクチャル、空 間などの性質と関連する。情報系の文化は、人]:、
精神、バーチャル、時間などの性質とlllj連する。
両者は別々に存在するのではなく一体となってい る。どちらがより影響力を持って{|}てくる力、の違 いだけである。たとえばテレビという文化は、ブ ラウン管・液晶・プラズマなどに蒲l]すれば事物 系であり、ニュースやドラマなどの番組に満目す
れば情報系である。
文化が向かう方向性に着目すれば、「内的充実 志向」と「外的発展志向」に分類することができ る。内的充実志向の文化は、基本、共同性、受動 的、安定的、H常などの志向と関連する。外的発 展志向の文化は、応1M、個性、能動的、冒険的、
非日常などの志向と関連する。
以上の分類は完全に対立するものではなく、あ る文化およびそれを構成する個々人がiiIi方とも持 っている相補的なものであるcどちらが強く表れ
るかによって文化のタイプが形成されるが、それ は変化するものでもある。世代、地域などの文化も関連してくる。マーケテ ィングはマーケティング主体とマーケティング対 象を結びつける仕事である。異なる存在をつなぐ ということは、異文化をつなぐことでもある。マ
ーケティングとは実は異文化交流の問題でもある のだ。マーケティングは文化の影響下、支配下にある。
自然に手を加えて文化が形成され、文化を土台と してマーケティングが展開されている。そして展 開したマーケティングは文化の-領域を形成する
ことになる。マーケティングと文化の関連の起源をたどれ
ば、人類という種が登場した時代にまで遡ること ができる。マーケティングを「市場と関連するあ
らゆる活、11」と広義にとらえれば、近代に限らず プレ近代、さらにはもっとさかのぼって人類が何 らかの交換を始めたあたりに起源を求めることが
できる。フィリップ・コトラーも同様の見解を表明して いる。コトラーは、マーケティングは人類の最も 新しい行動原理のひとつであるとしながら、一方 で「矛盾しているようだが、マーケティングはま た、iiiも古い歴史を有しているもののひとつであ る。物物交換の時代から貨幣経済時代、そして現 代の複雑なマーケティング・システムの時代を通 じて、交換は常に行われてきたし、マーケティン グはその交換の過程と諸関係を研究するものだか
らである」としている(2)。マーケティングと文化の関連も古い時代から存 在するものである。広義の文化は人類の誕生以来 存在する。というより文化をもつことが人間を他 の動物と区別する尺度でもある。こう考えてみる と、(広義の)文化とマーケティングとの、時代 が変わっても変わらない深い関連性が浮かび上が
る。
そして、(狭義の)文化とマーケティングは、
生耐文化産業の発展という現代の潮流の中で新し い関係として浮上してきている。これまでは商品 の物的機能が前面に出ており、それを効率的に流
通ざせ伝達するために文化や情報を活用すること4)文化とマーケティングの関連
文化とマーケティングは別々に研究されている
ことが多いが、実は密接な関連がある。マーケティングはマーケティング主体とマーケ
ティング対象(客体)(例:生産者とiililH者、企 業と顧客、光り手と買い手)の価値の交換である
と考えることができる。主体と客体は異なる存在であって、それぞれの 文化の影騨下にある。企業と消費者の例で考えれ ば企業文化、生活文化があげられる。民族、性別、
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11k滴文化産業の発展とキャリアデザイン
味を判断する「ローコンテクスト文化」と文脈、
状況に依存して意味を判断する「ハイコンテクス ト文化」の2つがある。ローコンテクスト文化の
地域としてはアメリカ、ドイツ、スイス、スカン ジナビア諸脚、ハイコンテクスト文化の地域としては日本、アラブ、地中海人種(フランスほかを
含む)があげられる。ローコンテクスト文化地域での仕事に際しては 詳しい背lilJl9な情報を必要とし、モノクロニック (一度に一つのことしかしない)が特徴である。
ハイコンテクスト文化地域での仕事に際しては詳 しい背蹴的な情報を必要とせず、ポリクロニック (一度に複数のことをする)が特徴である。
キャリアデザインにおいては、以上のような文
化理解が1K要になってくるであろう。
5生活文化産業の発展とマーケティング・
キャリアの設計
1)自己理解のプロセスー文化理解を基礎に キャリア・アンカーを考える
生活文化産業発展時代のマーケティング・キャ リアのデザインについての考察に移りたい。ここ では、キャリアデザインを、自己理解、職業・仕
轆II解、キャリアビジョン、キャリアプランとい う各プロセスから構成される総体としてとらえて
いる。
自己理解ないしは自己概念の明確化はキャリア
デザインの出発点となるc主に心理学の知見を踏まえた方法論が成果をあげているが、これに加え て文化論の知兄を活用することを提案したい。
’二|己理解のプロセスと関連してよく知られてい るのが、シャインによる「キャリア・アンカー」
の概念である。これは、「人の自己概念の一要素
であって、ある人がどんなに難しい選択を迫られ たときでも放棄することのないもの」であるとさ れる。自己概念の中には変化するものと変化しな いものとがあるが、キャリア・アンカーは、後者ということになる。
キャリア・アンカーには8つのカテゴリーがあ るとされている。すなわち、「専門・職能別コン がマーケティングの役割と認識されてきた。いわ
ば物が主、文化が従だったのである。しかし現代 では、情報そのものあるいは物の情報mを活用し て文化価値を形成することが市場関連の愈要な仕
事になってきている。5)文化とキャリアデザインの関係
次は文化とキャリアデザインの関係である。キャリアは、「個々人の働き方・生き方の経
歴・軌跡」ととらえることができる。もともと過 去をとらえる概念であるが、これをデザインとい う視点からとらえなおせば、「働き方・生き方の 過程全体」と定義できる。デザインは、識iil.、も しくは(ある|]的のための、入念な)計画・企画 である。キャリアデザインとは、働き方・生き方 の過程全体を長期的視点のもとに設計することで
あると考えられる。キャリアもキャリアデザインも文化(共有ざれ 伝承される生活様式)の土台の上に展開している ものであって、意識無意識を問わず文化という枠 組みの制約の範囲内で行なわれている。これを意
識化することがわれわれの出発点となる。キャリアデザインにおいては、文化の逆いを考 慮した生き方働き方の設計が必要となる。欧米と 日本を比較すれば、欧米の文化は個人主義、意思 伝達、濃い主体意識、ヨコ社会を特徴とするのに 対して日本の文化は集団主義、情獄描写、薄い主 体意識、タテ社会を特徴とする。キャリアデザイ
ンのキーワードとなっている「自分らしさ」や「自律性」についても、文化が異なればそれが意 味するところは異なる。たとえば欧米ではこれを 個人主義、ヨコ社会と関連づけるであろうが、日 本では集団主義、タテ社会と関連づけるであろう。
文化のタイプと仕事のやりかたには帝接な関係
がある。エドワード.T・ホールは世界の諭文化をコンテクスト皮(文脈や状況で意味を判断する かどうか)の刊低で比較し、仕事のやりかたとの 関連を指摘している(3)。論旨は以下のようなも
のである。
文化には大別して文脈、状況に依存しないで意
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ピタンス」「全般管理コンピタンス」「自律・独立」
「保障・安定」「起業家的創造性」「奉仕・社会貢 献」「純粋な挑戦」「生活様式」である(4)。
キャリア・アンカー概念は特に実際に職業を持 ち仕事をしている人にとってキャリアデザインを 行なううえで重要な枠組みとなるだろうcただし、
大学生、特に低学年の学生にとっては実感をもっ て接すること力離しいという声も聞く。
筆者は、生活文化産業時代を意識し文化理解を 基礎に置いた上でのキャリア・アンカーを考える ことを提案したい。例えば8つのカテゴリーにあ げられている「自律・独立」「保障・安定」につ いても、異なる文化下にある欧米と日本では意味
合いが異なるであろう。本稿では、先に、文化の分類として、「制御志 向」と「共存志向」、「事物系」と「情報系」、「内 的充実志向」と「外的発展志向」、さらに「ロー コンテクスト」と「ハイコンテクスト」をあげた。
このような文化のタイプを理解し、自己の相対化、
自己の位置づけを行ないつつキャリア・アンカー を検討していくことをここでは提案したい。
業・仕事の多くは、主に事物系に立脚している。
第三次産業の職業・仕事の多くは、主に情報系に
立脚している。
マーケターは、事物系と情報系と両方に関与す る職業である。これまでのマーケターは事物系に 立脚して情報系とも関わった。そして、これから のマーケターは、情報系に立脚して事物系とも関
わることになると考えられる。どのようなマーケターが求められるかは、時代 状況によって異なる。ある時は事物系が、ある時 は情報系が必要とされるだろう。現在の状況を見 ると、全体として情報系が求められる傾向が出て
きている。
②文化重視型のマーケティングについて学ぶ 生活文化産業の発展に対応しうるマーケティン グについて学ぶことは職業・仕事理解プロセスに
おいて重要である。近年、従来のマネジリアル・マーケティングと は発想を別にする新しいマーケティングが登場し ている。プランディング、関係性マーケティング、
経験価値マーケティング、ソーシャル・マーケテ ィングなどである。いずれも文化重視型であるこ とが特徴である。これらについての基礎知識を得 ておくことが生活文化産業の発展に対応する職業 観・勤労観を養う上で有効であろう。
(プランディング)
市場での識別性、持続性重視、非物的価値重視 がブランディングへの関心の背景にある。ブラン ドとは銘柄、商標がもともとの意味で、名前、マ ークと関連した概念である。ただし、現代では意 味が拡大している。アメリカ・マーケティング協 会の定義では「ある売り手あるいは売り手の集団 の製品およびサービスを識別し、競合他社の製品 およびサービスと差別化することを意図した名 称、言葉、シンボル、デザイン、あるいはその組 み合わせ」となっている。ブランデイングにおい てはネーミング、ロゴマーク、シンボルマーク、
パッケージデザイン、スローガン、キャッチフレ
ーズ、広告、さらにはその背後にあるマーケティ
ング、マネジメント全体が関連してくることにな 2)職業・仕事理解のプロセスー文化と産業・
マーケティングが重なる領域に留意一 自己理解と並行して行なわれるキャリアデザイ ンのプロセスである職業・仕事理解は、勤労観を 身につけ能力・スキルを磨く上で必要なものであ る。ここでは、本稿のテーマとも関連するが、文 化と産業・マーケティングが重なる領域に留意し
て実行したい。
①文化から職業を考える
広義の文化から職業を考えてみよう。ここでは 先にあげた「事物系」「情報系」の分類をとりあ
げる。
職業は二つの仕事を統合して成立している。事 物系と関わる仕事と情報系と関わる仕事である。
これが具体的な職種となって現れることになる。
どちらにより関わりをもつかによって職業の基本 的な2タイプが分類できる。事物系関与型職業と 情報系関与型職業である。第-.次第二次産業の職
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生活文化産業の発展とキャリアデザイン
る。プランディングは文化重視型マーケティング の典型であると言ってもよい。
(関係性マーケティング)
企業と消費者との良好な関係づくりを重視した マーケティングである。企業と消費者の関係づく
りのほか、消費者と消費者の関係づくり、企業内 部・企業同士の関係づくりも課題となる。シェア 拡大よりも関係の維持と強化を重視する。一般消 費者→見込み客-.顧客→サポーター→パートナー と進化させていく戦略がとられることが多い。
関係づくりには消費者の文化、企業の文化、両 者を取り巻く文化への理解が不可欠である。情報 の活用も重要である。4P関連をはじめとして企 業から発信されるあらゆる情報が関連する。
(経験価値マーケティング)
消費者は製品・サービスの機能や便益以外のプ ラスαの魅力を求めているという認識にたって、
さまざまな「経験」を作り出し、消費者に提供す ることを重視するマーケティングである。ショッ ピング時の楽しさ、使用しているときの快適さ、
使い終わったあとでの余韻など多様な経験につい ての理解が重視される。経験は文化と関連する概 念である。
(ソーシャル・マーケティング)
社会とのかかわりを重視するマーケティングの 考え方であり、社会責任、社会貢献を重視する。
社会的価値マーケティング、戦略的社会責任型マ ーケティングという言い方もある。戦略的に社会 的公共的価値を形成し、これを市場価値、企業価 値とつなげることを目指すマーケティングであ る。地球規模の課題、地域社会の課題、具体的に は環境、人権、健康、児童などがあげられる。文 化との関わりも深いものがある。
文化産業の発展を意識した上で、夢を描いてそれ をマーケティング・キャリアのビジョンとして具 体化していく際の参考として、ひとつの提案を行 ないたい。それは「文化メディエーターとしての マーケター」というキーワードで表現され る(5)。
文化メディエーターとしてのマーケターとは、
異なる存在の間を媒介して文化価値の創造、文化 の活性化にかかわり、同時に市場価値を形成する マーケターである。情報を扱って異なる存在間の 関係づくりを主な仕事とする。「文化と市場」、
「情報と関係」のプロフェッショナルである。
メデイエーターmediatorとは、メディアmedia と語源を同じくする言葉で、「媒介者、仲介者」
を意味する。以前から文化人類学、文化記号論、
カルチュラルスタディーズなどで使われていた が、近年情報化、成熟化、文化化が進む状況の中 でビジネスや地域づくりなどでも注目されるよう になってきた。
異なる存在間の媒介の典型は生産者と消費者を つなぐことであるが、この仕事はこれまでのマー ケターも行ってきたことである。メデイエーター 型マーケターとこれまでのマーケターの違いの第 一は、両者をつなぐ際に文化と関わるかどうかに ある。
マーケターである限り市場と関わることになる が、市場を従来のマーケターの場合は近代産業社 会における経済的交換ととらえるが、メディエー ター型マーケターの場合は象徴的交換をも含む広 い意味で理解する。
このマーケターは、主に企業で活動するが、そ れ以外の広い領域、例えば行政、地域、病院、学 校、文化施設、非営利事業などでの活動もありう る。
このタイプのマーケターを生涯追求するに足る キャリアとして提案する理由は、①人類が交換と いう行為を始めて以来続けてきた「媒介による (広義の)文化的市場的価値の創造」という仕事 を意識化すべきだと考えるからであり、②生活文 化産業発展時代のマーケティングにおいて(狭義
3)キャリアビジョン構築のプロセスー「文
化メデイエーターとしてのマーケター」
を目指す-
夢を描きそれに向かって考え行動することによ りキャリアは推進される。夢をどう描くかはそれ ぞれの個人により異なってくる。本稿では、生活
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の)文化の意味が蝋大すると考えるからである。
メデイエーター型マーケターは、文化的IiIli他と 市場的価値を両立させる。もともと市場利益とい うものは媒介から生まれるものであった。lIrい時 代には空間的距離を克服した媒介(交易)が利益 をもたらした。続いて技術革新を背景とした媒介 が利益をもたらした。そして今後利益をもたらす
と思われるのは文化的媒介である。
メデイエーター型マーケターの主要な仕リドは先 述のように生産者と消費者の媒介でありその典型 は企業と消費者の媒介である。そしてそれ以外に もさまざまな媒介が想定できる。例えば行政と住 民、団体と生活者、病院と患者、学校と生徒、劇 場と観客、社会貢献事業と市民などである。
そしてメディエーターのもうひとつの重要な役 割は、文化および文化産業の活性化である。文化 は知らず知らずにその構成員を呪縛する。いつの まにか文化が均質化固定化し企業も消費者も停滞 の中に置かれ喜びと活力を失っていくというIji態 も起こりうる。文化産業の役剖が拡大していると き、文化の停滞は大きな問題である。そのような 状況に陥った時、メディエーター型のマーケター が二つの世界を媒介して、新しいトレンドやライ フスタイルを作り」三げ、これをきっかけに片方、
あるいは両方のIlt界に活性化をもたらすことも期 待される。
一見特殊な存在のように思えるかも知れない が、笑は社会的役ilMは大きく広い領域で活動する マーケターであって、ロングレンジで個人の41意 力・働き方を設計する際の亜要概念であると考え
られる。
このタイプのマーケターを実際に将来のキャリ アとして描くべきかどうかは、その個人が媒介、
文化、市場、情報、関係という、この職業・仕事 と関述するキーワードに輿1床と共感を持って反応 するかどうかで分かれてくるだろう。
特に強調したいのは、異なる文化への態度であ る。別の文化を持つ世界と出会った時に、いつぽ うの11上界をまとめあげていくこと、他方の11t界へ 影響力を行使すること、両方の111:界につながりを
つけることのうちどれに関心が強いか。メディエ ーター型マーケターの適性は、つながりをつける ことに関心があるタイプということになる。
6大学生のキャリアプランー異なるものを 結びつける学び方.生きかた-
自己理解、職業・仕事理解、キャリアビジョン を踏まえて、将来のキャリアをプランニングして いくのがキャリアプランである。大学生のキャリ アプランを考えるときに本稿で提案したいのは、
文化メディエーターとして異なるものを結びつけ ていく学び方.生きかたである。その際に以下が 愈要な視点となってくるだろう。「柔らかいアイ デンティティ」「四季としてのライフサイクル」
「学際的かつ」(v門的な学習」「際に.創造的に.自 律的に生きる」である。このキーワードに沿って 生活文化産業発展時代のマーケティング・キャリ アのプランニングについて考えたい。
1)柔らかいアイデンティティの構築
アイデンティティの問題が大学生のキャリアデ ザインにおいて欠かせないのは、青年期という時 期がアイデンティティを雌も強く意識する時期だ からであり、自分の存在証明を求めて動揺する時 )91でもあるからである。そのような時期に将来の '二|分のありかたについて考えることは困難を伴う が、同時に意1床のあることである。
E、H・エリクソンはアイデンティティの問題を単 に心理的問題に限定せず、パーソナリティと社会 と歴史を含めて総合的にとらえようとしている ''6>・働く場のアイデンティティ、組織のアイデ ンティティほかも含めて、アイデンティティを社 会的文化的役;|}Iと関連させながら考えていくこと が大切だろう。
青年期はアイデンティティ確立が猶予される
「モラトリアム」の時期でもある。そして青年期 を過ぎてもアイデンティティを確立することなく モラトリアムのままでいる人たちが増えているの が現代の特徴である。ここで、確固としたアイデ ンティティを強調し、アイデンティティを確立ざ
42
L121ii1i文化産業の発腱とキャリアデザイン
せるために何をなすべきか、と考えていくような 問題のたてかたは亜要なものを見失うことになる だろう。モラトリアム状態を続けることこそが時 代への適応であるという考え方も可能なのであ
る。
文化と関連したマーケティング・キャリアのア イデンティティについて考えてみよう。
われわれは先に「文化メデイエーターとしての マーケター」というキャリアを提案した。
このタイプの人間は異なるものをつなげようと いう志向が強く、必ずしも組織や社会の中心に位 侭することを目指さない。異なる世界.異なる文 化の境目に関心を持つ特性のゆえんもあってしっ かりしたアイデンティティというより柔らかいア イデンティティを持っていることが多い。多義的 な言動もあって「何を考えているかわからない」
といわれることが多い。また、どちらにつくとい う立場が明確でないことが多いので、境界の両側 のどちらからも評Ⅲiされないことも多い。
このような特性から考えると、確固としたアイ デンティティという一般的な理想像とは別の生き 方が浮かび上がってくる。それは「柔らかいアイ デンティティ」「多元的なアイデンティティ」を
もって生きることである。
80年代に言われたような「大人になってもモラ トリアムのまま突っ切れ」は極端であろうが、生 活文化産業時代のマーケター像としてキャリアプ ランを描くときに、「柔らかいアイデンティティ」
を考慮することは現実的であると考えている。
置くものだったが、これを基礎としながら成人の 発達について深く研究したのがレビンソンのライ フサイクル論である(8)。
レビンソンは人間の発達段階を「児童期と背イド 期」「成人前IIjl」「巾年期」「老年期」に分けて、
これを表現する際に春夏秋冬のIILI季のメタファー を用いている。
大学生がキャリアプランを描く際に、このllu季 メタファーによるライフサイクル論は有効である と考える。ただ、文化からライフサイクルを考え たとき、検討すべき問題点もいくつかある。レビ ンソンがたとえた人生の四季は、春→夏→秋→冬 と階段を上るように上昇していくモデルである。
キャリアをこのように上昇のみでとらえることに IHI題点はないだろうか。四季モデルを採用する意 義はあるが、それを上昇のみでなく下降も含んだ 循環としてとらえることでもっと豊かな発想を広 げることができるのではないだろうか。
ここでは」芝昇をプラス、 ̄ド降をマイナスと考え るのでなくiiIij力で全体を形成する相補的関係とし て考えてみたい。ライフサイクルを循環モデルで 見たとき、それはキャリアデザインにも、マーケ ティングにも成果をもたらすことが予測される。
たとえば-
・春夏にたとえられる上昇・好調時代のキャリア だけでなく、秋冬にたとえられる下降・不調時代 の生き方働き方も含んだキャリアのモデルを考え ることができる
・冬の時代を、終わりの時代と位置づけるだけで なく、次にやってくる春を迎えるための準備の時 代として意味を持った時期として位置づけること ができる
.先に述べた文化のタイプのうち、内的充実と外 的発展の2タイプと四季モデルを対応させること の可能性が考えられる。春夏を外的発展期、秋冬 を内的充実期ととらえ、これを基本として大小の 循環でライフサイクルをとらえなおしてみると、
キャリアデザインに関する問題点、課題、対応の ヒントを発見できるのではないか。
・キャリアのモデルとマーケティングのモデルを
2)四季としてライフサイクルをとらえる
キャリアプランのプロセスでの留意点として は、キャリアを職業キャリアだけでなくそれを含 んだライフキャリアとして考えることである。こ の際に、欠くことができないのはキャリアの生涯 発達的な視点であろう。EH・エリクソンは、人間の発達を8つの段階に 分け、それぞれの段階へ移行する際の危機を指摘
した(7)。
エリクソンの研究は幼児期の発達段階に重点を
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共通モデルとして設定する可能性が出てくる。人 生の発達段階、ライフサイクルを四季メタファー の循環論で考えることは、生活者を理解しニーズ をとらえようとするマーケティングにとっても有 効であるはずである。
などの方法論,キャリアデザインにおけるキャリ ア.アンカー、アイデンティティ論、ライフサイ クル論、生涯学習論、人材育成論などを同時並行 で学んで相互の結合を図る試みは将来へ向けての 意義が大きいと考えている.
この際の留意点として以下の7点をあげておき たい。
①文化と市場の動的理解
文化と市場を結びつけるためには、iilii方を静的 固定的に理解するのでなく変化を含んだものとし て動的に理解すること、そのための能力とスキル を開発することが重要である。そのための方法論 の出発点として本稿では文化における二分(二項 対立)と二分されたものI司士の関係に注目するこ
とを提起しておいた。
②価値創造
文化価値、市場価値の創造はメデイエーター型 マーケターの役割であるが、価値が生まれるのは ヒト.モノ●コトの交換.結合からである。どの ような交換・結合がどのような価値を生むのかを 理解しその技術を持つ必要がある。
③媒介する両側の活性化
消費文化の活性化についてはこれまでのマーケ ティングでも一部で行われてきたが、今後期待さ れるのは媒介した両側を活性化するという視点で あり方法論であろう。片方の側に立って片方を操 作するという方法でなく両側を停滞から救い活力 をもたらす方法が求められる.企業と消費者の媒
介に限らず非営利事業と生活者などにも適用でき
るだろう。④文化コード/コンテクスト
メデイエーションを行う際には、媒介する両側 の潜在的共通項の発見・創造が課題となる。その ヒントを提供するのは言語学、コミュニケーショ ン論で言われるコード/コンテクストの概念であ ろう。これを研究することでメディエーション型 マーケティングの方法につなげることができるだ ろう。
⑤文化の周期
文化は変化する。その変化には一定の法則性が
3)学びは学際的かつ専門的に
キャリア設計のうち、個人が大学で何をどう学 ぶかについて考えてみよう。留意したいのが、異 なるものをつないでいくという視点であり姿勢で ある。文化、産業・マーケティング、キャリアデ ザインという異なる領域をどうつないで融合させ ていくのかという問題意識を持つことがまずあげ られる。多様な領域を行き来しながら柔軟に繋ぎ 合わせていく学び方が重要だろう。
科目としては文化、マーケティング、情報、メ ディア、産業、地域社会、IT、グローバリゼー ション、キャリアデザインなどに関連したさまざ まな関連科目の学習が必要であろう。学びのスタ イルとしては、授業だけでなく、ゼミ、インター ンシップ、ケーススタディ、フィールドワーク、
セカンドスクールなど多様な方法を組み合わせる ことが望ましい。
生活文化産業が発展する時代は、物財の生産か ら知識、楽しみ、教養の生産への移行が進む時代 である。学ぶ素材にしても発想を広げて考えても いいのではないだろうか。たとえば、映画、テレ ビ、インターネットなどのメディア&コンテンツ からの学習も考えたい(9)。
学際的に学ぶ一方で、高学年からは専門領域を 深く掘り下げていく研究も必要である。
これに関連してわれわれが提案したいのは、言 語学、文化記号論、物語論、文化人類学などの文 化に関する研究について学び、これをマーケティ
ング、キャリアデザインと結合する方法論である。
なぜなら、これらの学は独立した学問領域をかた ちづくるというだけでなく、多様な専門領域を結 合しうる可能性を持っているからである。
これらの学とマーケティングにおけるSWOT分 析、ターゲテイング、ポジショニング、4P1iih略
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生活文化産業の発展とキャリアデザイン 観察される。そのひとつが文化の周期である。文
化トレンド、消費動向、流行などにはそれぞれに 周期が観察されることがある。これを理解するこ とによってメディエーション型マーケティングの 仕事に生かすことができるだろう。
⑥レトリック
言語学のレトリック(修辞)の方法論を、マー ケティングにおけるネーミング、コンテンツ開発、
広告などに応用することができるだろう。代表的 なレトリックには換噛(メトニミー)隠嶮(メタ ファー)がある。
⑦物語
文化の一形式として物語がある。近年の物語論 (ナラトロジー)によれば、物語(話と語り)は 小説や映画の世界だけでなく、新聞記事、歴史譜、
口コミなどさまざまなところで展開している。商 品や広告などの世界にも物語が見出せる。物語の 構造、意味、物語とオーディエンスとの関係など の研究をマーケティングに生かすことができるの ではないかと考える。
のの結合である。地域、民族、世代、職業などの 異なる文化の間を往復して結びつけることは文化 の創造につながる。ある文化の活性化のためには、
その文化と異なるものを持ち込んで小さな混沌を 導入し、それをきっかけにした新しい秩序の形成 が有効と言われる。予定調和的発想ではなく、何 らかの文化的な波をたてて、そこから何かを創り 出そうとすることが生き方のスタイルとなる。
自律的に生きることは基本的なキャリア論でも 常に強調されることであるが、ここでもそれを確 認することになる。製品の素材や機能が売り物で あり規格大量生産が行われていた場合のマーケテ ィングの仕事は定型的定量的であって、他律的で あっても何とかなったかも知れない。しかし文化 が重要な意味をもつ時代には、自ら考え自ら企画 し自ら実践する創造的マーケティングが必要であ る。文化産業の時代とは「装置産業」から「創知 産業」への転換だとも言われる。ここで求められ るのは付加価値の高い、創造的な製品・サービス であって、これを担うのは自律性をもったマーケ ターである。
このように見てくると、上昇志向、勝利、自己 主張など世に流布しているキャリア本が奨励する
タイプとは別の生き方が見えてくる。
生き方働き方は多様であっていいだろう。ここ で提案したものも、多数ある中のひとつのタイプ に過ぎない。
もしキャリア・ビジョンとしてこのようなマー ケターを描くとするならば、学生生活を送る際に
も、以上と関連する生き方を意識したい。
際に生きることは、主流でなく非主流に身を置 くことでもある。常に主流に身を置こうとしてい ると別の世界の主流からはるかに遠くなり、媒介 のアクションは起こしにくい。学生時代のキャリ アプランで、非主流を志向する視点、必ずしも勝 ち組、流行、キング、スター、上昇を目指さない という考えがあってもよい。
創造的に生きることと学生生活との関連につい て述べれば、これは苦しくかつ楽しい生き方であ る。勉強にしても遊びにしても創造的に生きるこ
4)際に生きる.創造的に生きる.自律的に
生きる
最後に大学生活をどう生きるかについて述べた
い。
まず、先に提案したキャリア・ビジョンとして
「文化メディエーターとしてのマーケター」を想 定した場合の生き方を述べれば、「際に生きる」
「創造的に生きる」「自律的に生きる」をあげるこ とができる。
媒介する人間としての役割を果たすためには、
際(他の世界と接する境目)に生きることができ るということが基本となる。ある文化の影響下に ある世界の中心的位置にいるものに媒介の仕事は 難しい。組織やグループに所属していたとしても マージナルマン(境界人)でいることができるか
どうかはひとつのポイントである。
メデイエーター型マーケターは新しい文化的価 値を創造することが役割であり、生き方も創造的 であることが望ましい。創造の原動力は異なるも
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とはある意味で苦しいことであるが、何かを生み 出す喜びを感じることのできる生き方でもある。
創造は結合から生まれる。創造のためにも異な るものを結び付けようとする生き方は意義がある だろうcこれと関連して、自分の属する文化(地 域・年代・国など)を絶対視せず、相対的批判的 に見る視点、向こう側の文化への寛容さ、liiIこう 側への想像力なども大切であろう。
自律性をもった学生生活を送れるかどうかもポ イントである。学習、スポーツ、遊び、アルバイ ト、インターンシップ、就職活動などにおいて自 律性を発揮できるかどうか。人間関係においても 他律でなく自律を韮調とした柔らかく広がりのあ る関係が築けるかどうか。
なお、ここで留意しておきたいのは、「際に生 きる」「創造的に41主きる」「自律的に生きる」と言 ってもそれぞれの文化の影響下で意味が異なるこ とである。欧米では文字通り個人を基盤としたも のだが、日本のような集団主義的な文化のドでは、
それは実際には相互依存的システムのもとでの方 向性を意味することになる。各111代の文化、各コ ミュニティの文化によっても意味は違ってくるだ ろう。それぞれの文化の中で朴|対化の視点を持ち ながら、自分らしさを模索しつつ生きることにな る。
結びつけることのできる人材である。
本稿では、生活文化を含む文化への理解が重要 になってくるであろうとの認識を基礎として、ま ず、文化と産業・マーケティング、キャリアデザ
インとの関係性を考察した。ここでは文化を動的 に理解することに重点を価いた。
以上を踏まえて、生活文化産業の発展時代にお いて、マーケティング・キャリアに関心を持つ大 学生の自己エ1'1解、職業・仕事理解、キャリアビジ ョン、キャリアプランについて、以下を提言して いる。
l)自己理解のプロセスについては、文化とキャ リア・アンカーの関係'性に留意する。シャインの キャリア・アンカー概念は人の自己概念の-要素 として注目ざれ広<活用されているが、これを文 化理解と組み合わせて学び、自己に適用する。
2)職業・仕事理解のプロセスとしては、文化と
産業・マーケティングが重なる領域に留意する。近年、従来のマニジリアル・マーケティングとは 発想と方法を別にする新しいマーケティングが 次々と登場しているcブランディング、関係性マ ーケティング、経験価値マーケティング、ソーシ ャル・マーケティングなどである。いずれも文化 放視型であることが特徴である。これらについて 学ぶことは、生活文化産業時代に即応するという 点で意義があると考える。
3)キャリアビジョン榊築については、ひとつの 提案として「文化メディエーターとしてのマーケ ター」を目指す、をあげる。文化メディエーター
としてのマーケターとは、異なる存在の間を媒介
して文化価値の創造、文化の活性化にかかわり、同時に市場価値を形成するマーケターである。そ の主な仕事は情報を扱って異なる存在間の関係づ
くりを行なうことである。
4)大学生のキャリアプランについては、異なる ものを結びつける学び方.生きかたを提唱する。
これに関連して、柔らかいアイデンティティの構
築、四季としてのライフサイクルの把握、学際的
かつ専門的な学び、そして際に.創造的に.自律 的に生きる、をあげる。7結論
本稿は生活文化産業が発展する時代を見据える 中で、特にマーケティング・キャリアに関心を持 つ大学生のキャリアデザインについて考察した。
生活文化産業とは、生活と文化が融合した砿業 である。衣・食・住・遊・学などの人々の生活と 密接に'14連した産業を生活潅業と呼ぶが、lMiiili文 化瀧業とは、文化的価値一物・サービス'二1体の|illi 値に付力11される価値一を有する生活産業である。
多くの産業が成熟期に入っている中で、これらは 今後成長が見込まれる分野であるといってよい。
この産業の発展により新しいタイプの人材の需 要が商まることが予想される。第一は自律的人材 である。第二に文化を理解し、これをビジネスに
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生活文化産業の発展とキャリアデザイン 映画を素材にキャリアについて学習しようという提 本jimは、特に文化とlILI連したマーケテイング・
キャリアの設計について考察し提言した。ひとつ の領域に焦点をあてたキャリアデザイン論として 参考にしていただければ幸いである。ただし、文 化の榊造、変化、特徴などとキャリアとの関連に ついては踏み込んだ考察に至っていない。特に欧 米とは異なる文化を持つ日本という国におけるマ ーケティング・キャリアのデザインについては、
重要な論点であるにも関わらず1-分な分析を行な うことができなかった。次の機会に論じたい。こ れと関連して、キャリアデザインに東洋の知恵を どう生かすか一本稿では「相補性」「循環論」と して少しだけ触れた-についてもさらに考察を進 めていきたい。
案である
注
(1)桶川伸次「21世紀における生活文化雌業」、偏 州大学経済学部産業社会交流科I]述営委貝会編「21 世紀を創造する生活文化産業」所収(税務経理協会 刊、2002)
(2)フイリップ・コトラー「マーケティング・マネ ジメント」(小坂恕他訳、プレジデント社、1983)
p4
(3)エドワード.T・ホール、ミルドレッド.T・
ホールア摩擦を乗り切る-日本のビジネス、アメ リカのビジネスー」(國弘正雄訳、文芸春秋、1987)
(4)エドガーH・シヤイン「キャリア・アンカー』
(金井癖宏訳、白桃書房、2003)p26
(5)これについては以下の論文に記した。福田敏彦
「文化メデイエーターとしてのマーケターーマーケ ティング分野のキャリア没計にIlUする--考察一」「法 政大学キャリアデザイン学部紀要第2号2005J (6)EH、エリクソン「アイデンテイティ」(岩瀬lili 理訳、金沢文庫、1973)
(7)EILエリクソン「幼児期と社会1」(仁科弥 生訳、みすず香房、1977)p317~p353
(8)ダニエル・レビンソン『ライフサイクルの心耶 学」上下(南博訳、識談社学術文庫、1992)
(9)金井涛宏、|】1柳恵美子箸「踊る大捜査線に学ぶ 組織論入門」(かんき出版、2005)は、ヒットした
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