九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
[04]農産物の遅延発光(DLE)とその品質評価・選別 への利用
中司, 敬
https://doi.org/10.15017/13930
出版情報:九州大学農学部農場報告. 4, pp.1-80, 1984-03-30. 九州大学農学部附属農場 バージョン:
権利関係:
第3章 トマトのDLE特性
1 緒
言一般にトマトのような果菜では,緑熟がら完熟に移行する段階でクロロフィルが減少し,リコピン およびカロチン等が出現して赤色系の着色が進行する。これらの色素に基づく着色度や熟度が的確に 判定できれば,品質の評価や熟度に応じた選別作業の機械化・自動化を推進する上に一つの方途が得 られそうである。この際に要求されることは,対象産物を非破壊のまま全数を迅速に判定することで ある。クロロフィルを含む大多数の果実・野菜について,熟度評価や選別作業を行う手段としてDLE の利用が考えられる。本章では,トマトにおけるDLEの諸特性を明らかにして,熟度品質による選別 の自動化のための基礎資料を得る。
2 実 験 方 法
2.1供試材料
供試品種は耐病宝冠2号で,1975年7月中旬から8月下旬にかけて福岡県宗像郡津屋崎町の栽培農 家の圃場(露地)で採取した。
2.2 DLE強度の測定
DLE測定装置には,前章で述べたものを用いた。試料のDLE測定部位は果頂の近接部分とし,照射 面積(測定面積)はマスクの穴の面積に等しく,特記する以外はすべて9.07c㎡とした。
2.3励起光強度の測定
照度計(東芝製5号型)を用いて試料受光面の励起照度を測定した。特記する場合を除いて励起照度 は5500藍xとし,減光フィルタは励起光強度とDLE強度との関係を求める場合のみに使用した。
2.4 クロロフィルの定量
クロロフィル含量は,トマトのDLE測定部位を2.8cmφのコルク抜きで打ち抜いて6mm厚さの円板状 切片(体積3.69cm3)をとりだし, Arnonの方法48)によって抽出,定量した。日立分光光度計101型を用い
て,80%アセトン抽出液の645nmおよび663 nmの波長における吸光度(凶645,五663)を測定し,次式でク ロロフィルa,クロロフィルbの含量コ。。,∬わ[mg/1]を算出した。
Chl. a; 」σα一12.72、4663− 2.59.A645 Chl. b; ⑳b−22.88〆1645 − 4.67/1663
よって,クロロフィル全量就mg/1]は
Chl.(a→一b) ; κ一20.29/1645 一ト 8.05/1663
本実験ではクロロフィル含量〆は,試料1c㎡中のクワロラィル全量をμ9で示しだ[μ9ん㎡]。これは抽 出液量をy[ml]とすると
ChL(・+b.)・⑳・一⑳・、詣。.・llll −0.271レ廊
2.5 着 色 度
トマトの着色度は,2名の観測者の目視によって,
トマトゐ大きさ・形状には無関係に緑色果から完熟 果までを4段階に分類した(第2表および第7図巻.
禾)・
Table 2. Color groups of tomatoes Color grgup E耳ternal color Number
1
9自3
4
Green,
Green t6 trace yellow Greenish yellow and light pink Orange and l ight red (no green)
Red,.
Deep red.
07∩VO 9臼129臼
3 結果および考察
3.1暗期回復(Dark recovery)
Pre−illumination Excitation Measurement
above 20 min l mln O−20 min 4 sec →Time
Fig.8. Procedure followed for determinati6n of dark recovery characteristics of DLE.
試験にあたって準備操作として,試料を20分以上 暗中に放置した後,55001xの白色光で1分間前照射 した。ついでこの光を遮断した後,0〜20分の暗期 を与え,再び同じ光源を用いて4秒間試料を励起し た。この一連の操作手順の模式図を第8図に示す。
本項の目的は,励起前の暗期の長短がDLE強度にど のような影響を及ぼすかを求めることにあるが,暗 期に先立っ準備操作 20分以上の(十分な)暗期+1 分の前照射 は,供試試料の,光励起に対する受容 状態を揃える意味をもつ。
70
6D
0 50
43
00
2︒
︵二〇こ﹀誕切⊆3三山﹂O
1.0
AB
C
Pre−mumirにtion time 60 sec Excitation time 4sec
!聴urpinance .55ρ0 I x IILuminatbn.area 9.07cm2 Temperature 31 C
Curve旦塑
A 20min
B 10min、
C Omln
0
0 Q5 1」0 1.5 20
Decay period (sec)
F童g.9. Decay curves of DLE intensity of green tomato.
第9図は得られたDLE強度ゐ減衰曲線である。すなわち,励起光照射の直前の暗期(Dark period)
15一
.はDLE強度に影響を与える。 DLEの初期強度は暗期を 短くすれば弱まり,長い暗期を与えると一定の強さまで 回復する現象49)が見られる。これを暗期回復と称する。
いま,Decay periodをパラメータとして,暗期とDLE強 度の関係を整理して第10図を得た。すなわち,Decay pe−
riod O.4〜0.5秒のときは暗期が短いほどDLE強度も小さ
くなるが,Decay period O.7〜0.9秒のときは,10,15分の
暗期におけるDLE強度は暗期20分の場合と一致し,ここに工期回復が見られる。また,Decay period 1.0秒の場合,
5分の暗期でDLE強度の回復が認められる。図中に示し
たa,b, c, d点を暗潮回復点(Point of dark recovery)と
仮称する。becay period 1.2秒以上では, DLE強度は暗期 の長短に関わらずほぼ安定した減衰曲線となる。このようにDecay periodが短いほど強いDLE信号を 得られるが,DLE強度の暗期回復を得るためには長い暗
︵む︒>︶﹀=oo⊆Φだ一山﹂Q
70
U.0
T.0
S.0
tDe
て、。(9caヨpe
p.島5eC
p.55eC
n.65ec
3.0
a
n.75ec
b
0.9sec
2.0 C 1.0
d 1.2
1.0
@0
0Fig.10.
fOr green tOmatO.
5 10 15 20
Dark period (min)
Dark recovery of DLE intensity
期を必要とする。以後の実験:においては,暗期を10分とし,Decay peri・d O.7秒以降についてDLE強度 を測定することにした。
3.2DLEスペクトル
タングステンランプ(白色光)で励起したときのトマトのDLEスペクトルを求めた。第11図は測定装 置光学系の補正を行った結果である。すなわち,DLEスペクトルは695 nm付近にピークをもち,長波 長側に肩をもつ曲線となった。これはクロロフィルのけい光スペクトル50)にほぼ一致することから,
トマトのDLEはクロロプラストのクロロフィルによるものであることが確かめられた。
3.3 励起光照長時間とDLE強度
虚心を10分として,励起光照射時間とDLE強度との関係を求め,第12図の結果を得た。すなわち,
︵①ξ歪ゆこ2雲2三国﹂o
Dark period 10min Excitation period 4 sec IUuminance 5500【x Temperature 13℃
Decay period O.7 sec Green tomato
400 500 600 700 800
Wave【ength (nm)
Fig.11. DLE spectrum of tomato when excited with incandescent light.
5 2
D
2
5 1
0
︹=oこ費石岳芒一国﹂O
α5
〔Decay period〕
0.7sec
O O
㌔■くレーr−r 一一〇一
〇.8sec 隔一 1.Osec 匿9曹十曹冒響 Dark period 10min I1【uminance 55001x 皿lumination area 9.07cm2 Temperature 3書●C
0 12345678910 32 60
Excitation time(sec)
Fig.12. Effect of excitation time on DLE intensity for green tomato.
DLE強度は照射時間3〜6秒の問では幅広いピークを呈したが,』 サの後は漸減して一定値に落ち着く。
初期の÷秒の照射で最大強度の約75%に達する。1分照射したときのDLEはそれぞれのDecay period について定常値を示したが,このことは,前々項の暗期回復の実験で準備操作として行った1分間の 前照射が,DLE強度を定常値に達せしめたことを示している。
3.4 励起光強度とDLE強度
励起照度を変化させてDLE強度との関係をしらべ,第13図を得た。図のように,励起照度1721x程 度の弱い白色光によっても,試料中のクロロフィルは励起されてDLEを放出する。さらに励起光が強
くなると,DLEには光飽和性が認められる。 DLE強度が一定値に到達するに必要な励起照度,いわゆ る光飽和点の励起照度は,Decay period O.7〜0.8秒で55001x,1.0秒で27501x,1.2〜1.5秒で13751xであ る。これらの関係は,選果ライン上でDLE測定値の安定を得るうえに参考となる。
3.5果温とDLE強度
DLE強度の温度依存性は以前から知られてお』り,クロレラ15)オレンジ15)などについて報告されてい る。そこで,トマトにつし・てDLE強度の温度依存性を検討した。果温は試料の励起光照射面の表皮下 1mmの深さに熱電対を挿入して測定した。第14図は果温とDLE強度との関係を表わしたものである。
すなわち,果温が8℃から13℃にかけてDLE強度は上昇し,13〜17℃では幅広いピーク状を呈した。
17℃以上では緩やかに減少し,41℃で最大値の約50%の強度となった。これは,他の対象物による実 験結果とは異なった結果となっている。すなわち,クロレラではDLE強度は37℃に鋭いピークをもつぎ)
オレンジでは1℃から38℃の間で断層が低いほど強度が大きいぎ5)温州ミカンでは31℃にピークを有し,
41℃ではほとんどDLEが放出されなかった茗2)
トマトのDLE強度のピークは,緑熟果最適貯蔵温度13〜21℃51)の範囲と一致するから, DLEを貯 蔵トマトの選別に利用することは好都合である。
3.0
D
2
︵=o︾︶ a砺⊆①↑≦口﹂O
1.0
Dark period l Omin E裏citation period 4sec IlLumination area 9.07cm乳 Temperature 33●C
〔Decay peri。d〕
0.7sec
O.8sec
1.Osec
レ/『 t25ec
t5sec
oO 1375 2750 5500「
Exciting 乳ight intensity(R乳uminance, lx)
Fig.1a Effct of exciting light intensity on DLE intens量ty of green tomato.
4.0
0 0 3. 2︒
︵ゴ︒こ︾︸砺岳ヴ三国ざ
0
o O oo o
O
Dark period 10min Excitation period 4 sec IUuminance 5500 乳x
!Uumination area 9.07cm2
o 。
▲▲。 ・ 〔Decay p・・i・d〕
凸 0
0.7sec
。.8sec;・0
10 20 30 40 Resh temperature (℃)
Fig.14. Effect of flesh temperature of green tamato on DLE intensity.
17一
3.6 クロロフィル含量とDLE強度
クロロフィル含量とDLE強度との関係を第15図に示し た。Decay periodは0.7,0.8,1.0秒である。これらの間 にはそれぞれ1次の関係が認められ,0.7秒のときは次式 で表わされる。
忽一〇.163∬ →一 〇.298
ただし,エ;クロロフィル含量(μg/cm3)
〃;DLE強度(出力値)
相関係数はγ一〇.916で0.1%水準で有意であった。
4.0
0 03 2
︵ゴ︒︾︶ ﹀=ω⊆Φ↑≦ 巴0
tO
Dark period 10min ピxcitation period 4sec IUuminance 5500 巴x IUumination area 9.0ツcm驚 Ternperature 13・C o O.7sec Decay period
0 0.8sec ・ 1.O sec
︒ ム旦
(
0 凸0凸
00▲ 00騒︵
00 ム▲
OO
.〆ダ
ロ ロ
贈諺蔚
A
▲
03691215182124
ChlorophyU content (♪篤9/cm3)
Fig.15. Relat三〇nship between chlorophyll content and DLE intens三ty for tomato.
***indicates statistical significance at O.1 percent Ieve1.
3.7 DLEによる着色度の分級精度
トマトが緑熟から完熟に進行するにつれてクロロフィル含量は減少する。トマトを着色の程度によ って緑熟果(着色度1)から完熟果(着色度4)の4段階に区分して,DLEによる分級を試みた。供試果 数および測定条件は以下の通りである。
供試果;77個 暗 期;10分 励起照度;55001x 励起光照射時間;4秒 Decay period;0.7秒
第3表は分級結果である。ここでは, 分級のしきい値を各級の過誤が小さくなるような点、のDLE強 度に設定した。分級精度は1区が100%,2区が94%で非常に高いが,3区と4区はそれぞれ70%,75
Table 3. Sorting accuracy of color groups of tomatoes by means of DLE intensity*
Color group
Range of DLE intensities,
volt
Sorting accuracy of color group,
percent
Error,
percent
129Q 4
1.50 and overO.68 up to 1.50 0.23 up to O.68
be韮ow O.23
100 94 70
75
6(to group 1)
5(to group 2)
25(to group 4)
25(to group 3)
*DLE intensity was measured after O.7 sec decay period.4sec excitation period,55001x iHuminance,9.07 cm2 excited area on tomato,10 min dark period before excitation, and 13℃flesh temperature.
%であった。しかし,着色度3区から隣接する2区への混入は僅か5%であり,2区と3区の間の分 級の精度は高い。一方,着色度3区から4区への混入,および4区から3区への混入は25%であった。
クロロフィル含量が比較的高く,民度の強いトマト(着色度1,2)の分級は概して精度が高いが,赤 味の強いトマト(着色度3,4)では精度がやや低下する。これは大部分のクロロフィルが消失しており,
DLEの強度レベルが低く,しかも次項に述べるように,クロロフィルが果実の内部に偏在して残って いるためである。
一般に生食用トマトの出荷には,催色期(Breaker)を含む着色度2の産物が最も適し,・着色度3と4 のものは適当でない。着色度3お』よび4の赤色トマトは,消費者の手に届く頃には過熟状態とな・るた め出荷が控えられる。したがって,DLEを利用しで着色度を区分けすることは,実用上有用である。
3.8 DLEに関与する果肉厚さ
照射光はトマトの表面と内部で散乱または吸収されるが,このうち吸収光量が真め励起光として DLE強度に直i接関与するものと考えられる。本項では, DLE強度に関与する果肉厚さの限界を,緑熟 瓜と完熟果について検討した。励起条件,トマトの表面状態は一定として実験を行った。
試料は,同一のトマトについて,
①完全な状態(W)』
②半球を切除した状態(H)
③果肉厚6mmを残してゲル状の部分を含めて切除した状態(F)
④果皮(緑熟果は平均0.58mm,完熟果は平均0.25mm)のみを残した状態(R)
の順に作為して,その都度にDLEを測定した。励起光は同一部位に照射した。
第16図は,トマトの各状態のDecay period O.7,0.8 秒におけるDLE強度である。すなわち,クロロフィル が高濃度で存在する一連果では,表皮側から測定して 果肉厚さ6mm以内で強いDLEが放出され,それより芯
に近い側は,DLE強度の増加にはほとんど関与してな いものと考察される。
一方,完熟果では,芯に近い内部においてDLEが放 出されている。これは芯の近辺にクロロフィルによる 緑色が明瞭に認められ,また種子の周辺にも緑色のゲ
ルが僅かながら残存したためである。既に述べたよう に,前項の実験で,着色度4のトマトから3の中へ25
%の混入があったのは,このような完熟果内部の残存 クロロフィルの偏在にも起因したものと考えられる。
1.6
う﹂ 8 α︵ご︒>︶︾ご22≦回﹂O
q4
Green tomato
〔Decay period〕
O.75ec
0.8sec
, ●、、
げ
Red tomato O.75ec O.8seδ
Dark period 10mh Excitation time 4se(:
IHuminance 5500【x lUumination area 7.07 cm2 Temperature 32℃
汽/±)一
!と)騨
!/赴:)繕繋
O
W H F R
Fig.16. Effct of the flesh_th量ck be翼ow the rind on DLE intensity for green and red tomatoes.
19一
4 摘
要トマトの熟度選別の機械化・自動化に資することを目標に,DLEに関与する諸条件を検討し,基礎 特性を明らかにした。
(1)励起光を照射する直前の暗期がDLE強度に及ぼす影響を求め, DLE強度の暗期回復現象を認 めた。すなわち,暗期はDLEの測定条件を揃える上で極めて重要な因子であり,トマトでは暗期 を10分以上,Decay periodを0.7秒以上とすることにした。
(2) トマトのDLEはその発光スペクトルからクロロプラストのクロロフィルによるものである。
(3)55001xの励起照度で緑熟トマトを3〜6秒間照射すれば, DLE強度は最大となる。
(4) トマトのDLEは励起光強度について光飽和を示す。光飽和点の励起照度はDecay periodが短い ほど大である。Decay period 1秒のときは27501xである。
(5)トマトのDLE強度は果温13〜17℃で最大となる。この温度は貯蔵温度とほぼ一致するので都合
が良い。
(6) トマトのクロロフィル含量とDLE強度との問に1次相関がある。
(7)緑熟から完熟にいたる着色度のトマトでDLEによる分級精度を検討したところ,緑熟果の分級 精度は高いが,赤色果はやや低下した。しかし,実用上は支障を伴わない。
(8)緑熟果が果肉厚さ6㎜以内の所で強いDLEを放出するのに対し,完熟果は内部に偏在して残存 するクロロフィルから微弱なDLEを放出するようである。