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思春期青年期以降における自閉スペクトラム症者の 強みに着目した支援に関する臨床心理学的研究

古長, 治基

http://hdl.handle.net/2324/4474918

出版情報:Kyushu University, 2020, 博士(心理学), 課程博士 バージョン:

権利関係:Public access to the fulltext file is restricted for unavoidable reason (2)

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氏 名 古長 治基

論 文 名 思春期青年期以降における自閉スペクトラム症者の強みに 着目した支援に関する臨床心理学的研究

論文調査委員 主 査 九州大学大学院人間環境学研究院 教授 黒木俊秀 副 査 九州大学大学院人間環境学研究院 教授 田中真理 副 査 九州大学大学院人間環境学研究院 准教授 小澤永治 副 査 九州大学大学院人間環境学研究院 教授 大場信惠

論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨

本研究は,思春期青年期以降の自閉スペクトラム症(以下,ASD)者が有する強みの特徴を明らか にし,強みに着目した支援について検討を行うことを目的としている。

第1章では,ASDの概念の変遷から,ASD者の二次障害,機能的転帰,社会適応に焦点を当てて 先行研究の整理を行った。ASD 者は成人期に近づいていく過程で,精神的な問題及び行動的問題 を二次障害として抱えやすく,機能的転帰が悪化しやすいことが明らかになり,思春期,青年期,

そして成人期に至るまでの生涯発達的支援が必要であることが示された。その中で,ASD 者が自 分らしさを大切にしながら社会に適応していくためには,強みに着目することが重要であると考 えられた。

そこで,第2章では,ASD者の強みと考えられる側面について概観した。その結果,ASD者の個 人的特徴については,先行研究においては能力面に関する研究が多い一方で,臨床的経験の中か ら指摘されているASD者の関心や,ASD者の強みに対する自己理解については検討されておらず,

ASD 者が自己の個人的特徴を強みとして認識していくためにどのような環境が必要かについて検 討することが重要な課題であると考えられた。

第 3 章では,ASD 者の強みとして考えられている関心について,関心の広がりと深まりという 視点から尺度作成を行い検討した。その結果「探索的関心」と「追究的関心」の 2 因子からなる

「関心スタイル尺度」について,一定の妥当性が得られた。また,ASD 群と定型発達群とで尺度 得点の比較を行ったところ,「探索的関心」については ASD 群が定型発達群よりも低く,「追究的 関心」は反対に ASD 群の方が定型発達群よりも高いことが示された。本研究の結果より,ASD 者 は,少ない対象に集中的に向かう,追究的な関心スタイルを持っていることが明らかになった。

また,関心の広がりは,特にASD群においてwell-beingに寄与することが明らかとなり,ASD者 が自身の関心を広げていくことの重要性が示唆された。一方で,「追究的関心」自体は精神的健康 とも結びつくと想定される特性であるにもかかわらず,今回の研究においては関連が見られなか った。このことから,ASD 者が追究的な関心を持っていたとしても,それを生活の中でうまく生 かせていないことが考えられた。

第 3章で検討した関心については,第三者的視点から考えられた強みであったため,第 4章で は,ASD 者が自己の強みをどのように理解するかという自己理解に焦点を当てた。強みを測定す る尺度である VIA-IS を用いて,ASD 群と定型発達群における得点の比較を行ったところ,定型 発達群のほうが ASD 群より得点が高く,ASD 群は自己の強みを低く認識していると考えられた。

また,下位因子に着目して検討を行ったところ,ASD者の中では,「感謝」,「謙虚」,「思慮深さ・

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慎重」といった強みが比較的当てはまると捉えられやすく,ASD 者が自覚しやすい強みであると 考えられた。さらに,ASD 者の自己理解の特徴として,ソーシャルスキルを軸に対応していかな ければいけない文脈においては自己評価が低下するものの,そうではない情緒的で温かい関係性 が軸になるような文脈においては,適切にそれを認知し,自己評価に反映させていると考えられ た。加えて,対人面と結びつかない強みについても定型発達群と差が見られないことが示された。

第 3章および第 4章の結果を踏まえ,第 5章では,ASD者の強みを活用するための支援者とし ての視点と,ASD 者が自己の特性を強みとして理解していくプロセスについて事例を通して検討 を行った。第1節では,ASDの中学生との個別面接の経過を報告した。その中で,ASD者の関心が コミュニケーションツールやコーピングスキルに結び付くこと,支援者が,ASD 者が持っている 特徴の肯定的機能に気づき,強みとして発揮していけるような支援を提供することで,ASD 者の 個人的強みを支える環境的強みとして機能することが明らかになった。次に,第 2 節では,ASD の高校生に対するグループセラピーの経過を報告した。その結果,ASD 者の関心をグループの展 開の中に取り入れることで,自己の視点と他者の視点を統合させ,他者意識を高め,相互交流に 結び付けることが可能となると考えられた。また,「クライエント企画」というプログラムの枠組 みの中で,のびのびと自己表現することにより,自身の特性を強みとして肯定的に受け止めるこ とが出来るようになると考えられた。さらに,そのような自己理解は,特に同年代の他者とのや り取りの中で形成していくことが重要であると考えられた。

最後に第 6 章において,研究全体の総括を行った。今後の課題として,自己理解に加え他者か らの評価も統合させる必要があること,臨床場面における工夫についても検討していく必要があ ることについて論じ,環境的強みと個人的強みから構成される ASD 者の強みに着目した心理的支 援のためのモデルを提示した。

以上のように,本研究は,これまで研究対象とされてこなかった ASD 者の強みに注目し,特に その思春期青年期以降の ASD 者における特徴について多面的に検討した。強みという多義的で曖 昧な概念の定義をめぐっては,なお検証の余地があるとはいえ,ASD 者の強みに着目した心理的 支援のためのモデルを提示した点は,臨床心理学的意義が大きい。

よって,本論文は博士(心理学)の学位に値するものと認める。

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