ファッションビジネスにおけるOEM生産
著者 古川 寛
雑誌名 東京家政大学研究紀要 1 人文社会科学
巻 48
ページ 131‑136
発行年 2008
出版者 東京家政大学
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00009247/
〔東京家政大学研究紀要 第48集(1).2008,pp.131〜136〕
ファッションビジネスにおけるOEM生産
古川 寛
(平成19年10月4日受理)
Original Equipment Manufacturing
in the Fashion Business
FuRuKAwA, Hiroshi
(Received on October 4,2007)
キーワード オーイーエム生産,ファッションビジネス
Key words:OEM Fashion Business(1)はじめに
80年代から始まったアパレル業界のSpecialty store retailer of Private label Apparel(製造小売業,以下 SPA)指向にはふたっの流れがある.アパレルメーカー が,その問屋的機能からその業態を変化させて企画・製 造・販売を一体化させてきた流れと,小売を本業とする 専門店が,企画・製造へと,そのテリトリーを拡大して 発展してきた流れのふたっである.その流れを生産・物
流面から下支えしてきたのが商社のOEMビジネスと,テキスタイル事業の沈滞化から,生産・物流の機能を新 たに加えることによって,ビジネスの転身と企業の延命
を図ってきたコンバーター(企画問屋)のOEMビジネ スである.90年代以降は,アパレル業界のSPA志向,生産の外部依託(アウトソーシング)によってOEMビ
ジネスが成長し,定着した10年であった.
(2)OEMビジネス
OEMとはOriginal Equipment Manufacturingの
略で,ファッションビジネスに先行して,家電,パソコ ン,自動車,航空機などの分野で広く行われてきた生産 形態である.「メーカーの依頼を受けて相手先のブラン ドで完成品を供給するシステムのこと.相手先商標製造 または相手先ブランド販売と訳され,最近ファッション 業界で行われるようになってきたもの」Dと記されてい る.ブランドカはあるが,特定の分野の製造力しか持た ないメーカー,または小売業者と,製造力はあるが販売
服飾美術学科ファッションデザイン研究室
のブランドカを持たないメーカーが提携し,双方にとっ て利益のある形態で製造・販売を行うためのシステムで 2)
ある.ファッションビジネス分野では,ネクタイや ハンカチなどのアクセサリーアイテムにおいて,80年
代以前から行われてきた.トータルファッションによる 差別化が一般化すると,自前の販売遡及力のあるブラン ドを持たないネクタイメーカーは,消費者に知名度の高 いブランドを持っアパレルメーカーと提携し,相手先の ブランドで生産することによって,その事業の継続化を 図ってきた.現在では,百貨店のネクタイ売場は縮小傾 向が続き,その売場でもアパレルメーカーのブランドで 販売されているのがほとんどである.
80年代以前から,アクセサリーアイテムに限らず,
アパレル製品にっいても, 国内仕入,国内生産ではあっ たがアパレルメーカーが生産機能を商社に依託する形態 があった.本来,アパレルメーカーの機能からいえば,
メーカーは素材を仕入し,提携する縫製工場に,工賃
(外注加工費)を支払うことによって縫製を外注し,そ の製品を小売店に卸売するという形態が一般的であった.
その場合,素材仕入がされてから製品となって店頭にな らび,販売されて,メーカーが現金化することができる まで,最短でも約3ケ月の時間差を要していた.そこで メーカーのキャッシュフローを支える形で,商社がその 金融機能と生産ネットワークを生かし,メーカーの仕入 から生産までを受託することによって,メーカーの生産 の省力化と財務の健全化を担う役割を果たしてきた,そ の際,メーカーへの納入製品価格に7%程度のコミッショ
ンを上乗せするという形態が一般的であった.
古川 寛
このような状況下で,ファッションビジネスに劇的な
構造変化を促したのが,90年代初頭のバブルの崩壊による価格破壊とその後のデフレの進行,そしてファッショ
ンビジネスのグローバル化であった.
(3)生産形態の変化
「我が国において,ファッション産業が成立して成長 軌道に乗り始めたのは,経済成長が高度成長に突入した 1960年代初め頃からである.その後ファッション(アパ
レル)市場は順調に成長し,80年代の初めには10兆円 を超える大市場になり,90年代の初めには20兆円を超えるまでになった」.3)その後の2003年時点では,繊維
産業の段階別の販売額をみると,16〜17兆円に縮小し4)
約10年の時を経て約20%の販売額が市場か
ている.
ら消失したと推定される.
「85年のプラザ合意以降の円高は,日本製品に価格
面での競争力を失わせ,輸入の増加を招くことになった.
国内市場の生産移転による輸入品の増加とともに,国外 ファッション企業の日本市場への進出も増えてきており,
現在では衣類の輸入浸透率は,数量べ一スで89%にま
5) でなっている」.
100%
80%
60%
40%
20%
衣類(数量)
70.8
繊維製品全体(金額)
0%
97年 98年 99年 00年 01年 02年
図i〈繊維製品輸入浸透率の推移〉
出所/産業構造審議会繊維産業分科会2003年7月
図1の90年代後半から00年代初めの繊維製品の輸入
浸透率の推移をみると,数量べ一スでは一貫として増加 しつづけており,一単価の下落によって,マーケットにお ける3〜4兆円の販売額が縮小したと思われる.6)
2006年度の全国商社ランキングの上位30社のデータ
をみると,繊維部門の売上高は約3兆4,700億円で,そ のうちの62.5%の2兆1,700億円が製品での売上7),っ
まり商社のOEMビジネスによって達成されたものである.
OEMビジネスの拡大は,アパレルメーカーにとって
製造や品質に関わる主導権を依託するという負の側面を もつが,その要因としては下記のようなことが考えられ
る.
①アウトソーシング化
社内に企画や生産に関わる人員を配置するよりも,外 部依託することによって経費の削減を図るとともに,企 画・生産の方向性を柔軟に変化させることができる.ま た商社のOEMビジネスに生産を依託するたけでなく,
企画会社や外部デザイナーを活用して,活性化を図ろう という傾向が強まってきていた.
②メーカーからSPAへ
80年代から,百貨店や古い体質の専門店の販売力に
陰りがみえると,アパレルメーカーは長年の商習慣に縛 られたマーケットとのビジネスに固執するよりも,製造 から販売まで一貫して管理することによって,消費者へ の直接的なイメージ遡及と,高い利益率の確保を目指し
た.
③リテーラーからSPAへ
80年代以降,百貨店や古い体質の専門店から,20才
台を中心とする若い消費者層が離反し始あ,セレクトショッ プという業態が生まれて,若い消費者層の受け皿となっ て成長してきた.そのセレクトショップがリテーラーの 枠組みを越えて,オリジナルブランドでの販売比率をあ げることで,利益率の向上を目指した.本来,企画や製
造にっいてのノウハウを持たないリテーラーがSPA化 する際に,商社や企画・生産会社のOEM生産形態が有効に作用した.現在では,セレクトショップの多くは定
番的商品にっいては,OEMでプライベイトブランド展開をして高い利益率を確保し,トレンド商品や高付加価 値商品に関しては,他社からセレクト仕入することでショッ プイメージを高めるとともに,リスクの回避を行ってい ると思われる.
④ファッションビジネスのグローバル化
デフレによる価格破壊は価格競争を起こし,必然の結 果として海外生産を増加させた.中国をはじめとする海 外生産の増加によって,アパレルメーカーが直接的に生 産管理することが困難になり,ア・xeレルメーカーは海外 にネットワークを持ち,資本力のある商社の生産能力に 依存するようになった.現在では,縫製のみに関わらず,
糸や主材料(表地),副材料(裏地,芯地),付属品の現
ファッションビジネスにおけるOEM生産
地化率も高まってきている.
⑤ファッションサイクルの短縮化
80年代の終わりころから,売場を起点とする情報管理 の重要性が高まると,ビジネスの主導権はメーカーサイ
ドから小売の現場へと移った.こうした現実に直面した アパレルメーカーは,企画力や製造ノウハウによる差別 化よりも,売場情報をいかに的確かっ迅速に企画・製造 に直結させるかにその力を注いだ.っまり,アパレルメー カーはその軸足を,企画による差別化から,売場情報を 企画・製造ヘフィードバックさせる情報管理能力に移し
ていった.このことは,素早く売筋を発見して,QR(クイックレスポンス)システムによって追加生産をす ることを可能にし,販売の精度を上昇させることを実現
させたが,一方では,マーケットにおける商品の同質化を招いてしまっているという面もある.
これらのことに関連することとして,注目すべき記事 が掲載されているので,その一部を引用する.「これま でファッション産業は,デザインの陳腐化による商品寿
命の短縮化を戦略としてきた.80年代の終わり頃から消費の低迷に直面し始めたファッション産業は,多品種 少量・短サイクルをキーワードに,ますます製品の小ロッ ト化と商品寿命の短縮化をすすめるようになっていった.
欧米のファッション産業の場合は,トレンド戦略はとる ものの,デザインの陳腐化による商品寿命の強制的短縮 化という考えはあまりない.シーズン毎に新しいデザイ ンを創作して市場に投入するが,商品ラインのすべてを シーズン終了とともに捨て去るということはなく,人気 のある差別化商品は定番化を図るのが普通だ⊥8)
(4)OEMビジネスの現実
「商社や,企画・生産会社などのOEM企業は,充実
してきた中国インフラをテコに,品質や納期の管理を徹 底することで,受注を増やしてきた.今,その中国イン
フラをベースとした従来型のOEMが事業として難しく
なっている.コストアップと,欧米や中国内需といった 新たな顧客の台頭によって,中国インフラが万能ではな 9) くなったからだ」.
また,ここ数年続く円安基調や原価の高騰は,マーケッ
トでの厳しい競争状態の中,アパレル企業やSPA企業の納入価格低減による利益確保への姿勢,また小売価格
転嫁への恐怖心もあって,OEM企業の収支をさらに圧迫する要因となっている.
80年代から始まった多品種少量・短サイクル生産は,
国内アパレル企業の収益を改善させた.しかし,中国内 需の高まりとクォータ制廃止によって,中国の生産基地 は,多品種少量・短サイクルでありながら厳しい品質・
納期管理を要求する日本企業を忌避し,その取引先を巨 大化しっっある中国マーケットを対象とする中国の国内 企業や,大量生産を前提とし,日本ほど短サイクルを要 求しない欧米企業へ移す流れも強まってきている。
前述したように,アパレル企業やSPA企業は,厳し
い競争下にあって,売上増による収益改善の困難な現実 に直面し,自らの利益確保のために,納入価格の低減を
OEM企業に求め始めている.従来は小売価格の25%が納入価格であるといわれていたが,ここにきて小売価格
の20%での納入を求めるようになってきた.商社の繊維事業は,かつて原料やテキスタイル取引が大きな割合 を占めていた,しかし,国内での原料,テキスタイル取 引が縮小するのにともなって,製品での取引,つまり OEMビジネスを拡大させてきた.2006年度のデータ10)
を見ると,OEMビジネスは商社の繊維部門売上の6割
を超すまでになっている.しかし,商社の収益構造を見 るとアパレル企業やSPA企業の原価低減要求を前に,
OEM形態での利益が低下し,取引全体でのシェアが低
い原料取引によって利益を確保しているという現実が出 始めている.「OEM取引では経費がかさむ.加工度の高 い分粗利は取れるが,素材調達,商品企画,生産管理,
物流など外部人員を含めた人手がかかり,最終利益段階 では経費が利益を圧迫する.逆に原料やテキスタイルは アパレルほど人手をかけずトレードに徹する分,収益が 残りやすい.丸紅は本社員のほかに業務依託など外部人
員520人を抱えるが,このうち半分がアパレルOEMに携わっている.住金物産も本社員と同等の250人の外部
人員を抱える.三菱商事はOEM機能を子会社化しており,中核のMCファッションだけで360人の人員を置く」n)
という声が出ている.商社やOEM企業は,自らデザイ
ナーやパターンナーを抱え,シーズン毎に展示会を開催 して,アパレル企業に企画提案を行っているところは少
なくない.もはや商社のOEM事業というより,アパレル企業に企画提案をし,素材調達,生産管理,物流まで
を取り扱うOEMアパレルメーカーの観を呈している.そのOEM形態が利益をもたらさない状況となって,国 外市場に取引先を求めたり,日本市場を対象とした OEM形態を中止するという選択肢も視野に入りっっあ
占川 寛
る.
(5)OEMからODMへ
OEMに対してODMとはOi・iginal Design Manu−
facturingの略で,「相王先ブランドで,製品の企画・
設計から製造まで行うこと」12)を意味し,企画・デザイ ンから生産まで,一貴して納入業者が請け負うシステム
である.
アパレル企業やSPA企業は,生産管理や物流をOEM
企業に外出しし,POSシステム(販売時点情報管理)に よって販売現場の情報管理を徹底させて,迅速かっ的確 な製品投入を行うシステムをっくりあげて利益を生み出
すということに力を注いできた.一方商社などのOEM企業は,その低収益構造を改善させるひとっの方法とし て,欧米のトレンド情報や,国内のストリートなどのファッ ション情報を自ら収集,分析して,新たな企画提案をア
パレル企業やSPA企業に対して行うという動きを強めている.っまりソフト機能を充実させたり,素材や加工 などの高付加価値製品の提案を行うことで,少しでも納 入価格をアップさせて,収益の改善を図ろうとしている.
しかし前述したように,これらの動きはOEM企業の経
費をヒ昇させて,収益を圧迫させかねないという要素も はらんでいる.
受け手であるアパレル企業やSPA企業の企画担当者
やデザイナーは,原料の段階から製品までの長い時間を 要する企画業務の経験が乏しく,原料やテキスタイル提 案のみでは,最終製品をイメージすることが難しいよう だ.トレンド情報や売場情報を見きわめながら,短サイ クルで投入商品を決定していくことによって利益を生み 出してきた企業姿勢からすれば,これも必然の結果であ
ろう.
今ではアパレル企業やSPA企業は,シーズン期初に
おいて,トレンドを見極めるため,ギリギリのタイミン
グでOEM企業に発注する流れが一般化してきている.月単位の売場の商品構成を見据えて期近なタイミングで
OEM企業の企画提案を選択して発注する,すなわち ODM形態の実態化が進行している.アパレル企業や SPA企業の企画力をOEM企業が補完するかたちで,お互いがそのビジネスを成立させているのだ,特に,原 料や糸,また編機などの生産背景や技術的面に関する知
識を要するニット分野などでは,ODM形態の実態化が先行しているように思われる.
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直買 OEM
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ODMへ
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〔:〉 撚 ⇔ 繋
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図2〈OEMの新段階〉
III所/繊研新聞2007年2月28日(筆者が一部アレンジ)
「量販店や大型専門店などは中間に立っOEM企業を
跳び越して,力をっけた中国メーカーとの 直貿 が増え ている.直貿では難しい,小ロット物やデザイン物素材
や加工に凝ったものをOEM企業に発注するケースも増えている.手間ヒマ掛かる割には収益性が低く,時には 採算割れもする,こうした状況では,工場側に立ってオー
ダーを取り,品質と納期の管理を担うOEM企業の負担
は重い.大ロットは工場がダイレクトに注文を受ける一 方で,多品種小ロットではr.場との安定した取り組みが
難しい.このため,OEM企業はいっせいに企画提案型にかじを切ってきた.売れる企画を提案し,その生産を 請け負う.中国の繊維メーカーとも提携して,彼らに旬 の情報を提供する.彼らの素材開発力や生産力を生かし ながら売れる商品を作ることで提携先の工場に安定した オーダーを出す.品質や納期の安定も確保できる,とい 13)
「商社のOEM事業は,もはやOEMとい
うわけだ」.うより,設計から製品開発を行うまでを担うODM事業
にその内実が変わりつつあるようだ⊥14)
(6)最後に
中国をはじめとする「輸入品と国産品との価格差は,
労賃等によるところよりも,むしろ最終製品で4割以ヒ にもヒがるといわれる国内の生産及び流通のロスと不効 15)
率によるところが大きい」
と指摘されている.
労賃や,日本から中国へと移転しつつある原料やテキ
スタイル分野のコスト差はいまだに極めて大きいが,最
終製品で4割以ヒのぼる在庫ロスは,日本のアパレル産
業の高コスト体質の大きな要因である.日本では長年に
わたって,返品や1直引き等の不透明な商習慣からロス分
を見込んだ価格設定がされてきた.前述したように,厳
しい価格競争に晒されているアパレル企業やSPA企業ファッションビジネスにおけるOEM生産
は,プロパー消化率の低下や在庫ロスを吸収するために,
製造原価率の低減を納入業者に要求してきている.アパ
レル企業やSPA企業は,デザインなどの企画力や,品 質のよる差別化よりも,情報管理能力を充実させて OEM企業の多品種少量・短サイクル生産によって収益を確保してきた.今その構図が,中国の国内内需,欧米
企業のOEM生産拡大,原料価格の上昇,中国内のコストアップ等によって危うくなってきている.
現在のOEM生産にっいて,「中国の工場が供給過剰,
日本側ではOEM企業が多すぎる状況が続いた.このた
め値下げ競争やサービス競争が激化したが,もう限界.
コスト高で採算が取れなくなった.倒産や撤退などによ
るOEM企業の淘汰・退場も始まった」16)とのOEM企業の声が紹介されている.
人口減によるマーケットの縮小が始まった中で,
2006年度のデータ17)をみると,百貨店は毎年のように 売上を微減させている.その一方で大手アパレルは,百
貨店マーケットから,そのベクトルをFB(ファッションビル),SC(ショッピングセンター)へと,新たな業 態に移すことで,その業績を拡大させている.専門店で
は大手SPA企業や有力セレクトショップなどに,その業績を躍進させているところが目立っ.全体としては,
アパレル企業やSPA企業において,上位企業と下位企
業との間で,業績格差が拡大してきているのが際立った 特徴となっている.
有力OEM企業は,中国の生産基地の円滑な活用がで
きるだけのロットを発注できる有力アパレル企業や有力
SPA企業との取組を強めている.その一方でアパレル 企業やSPA企業はその販売力を盾に,コスト競争力,企画力,供給力のあるOEM企業を選別していくものと
予想される.
アパレル企業やSPA企業の情報管理能力とOEM企 業の生産力という点に,ファッションビジネスの勝負の 趨勢が支配されるとすると,その結果は当然のこととし て大手企業に有利に作用する.資本力,ブランドカ,開 発力,人的組織力,どの面においても優位に立っ大手企 業が,そのシェアを今後さらに拡大する可能性が高い.
本来,ファッションビジネスの魅力は,中小の新興企業 の出現がマーケットに刺激を与え,それが業界全体を活 性化させるという点にあるが,現状ではどの街でも同じ シヨップ構成,同じブランド構成という,個性と魅力の 乏しいマーケットとなりかねない.現に,トレンドに影
響されやすい若者層やOL層を対象とするマーケットで は,情報管理とQRによって,売筋と効率の追求に走っ
た結果として,MDの同質化との指摘が常にされている。
また,個性的な商品は海外ブランドに依存するという図 式が,百貨店においても有力セレクトショップにも見ら れ,多様な個性を魅力とするファッションビジネスが,
かえって逼塞した状況となりかねない点が危惧される.
今後マーケットが縮小していく中で,新興アパレル企 業はその視野を海外に向けていくべきである.その際に は,海外のブランドと競争できるクリエイティビティと オリジナリティは基本的要件となってくる.「日本の繊 維産業の有する技術力,デザイン力等は世界有数であり,
生産や流通のロスを大幅に削減しっっ,技術,デザイン 等を活用したコストパフォーマンスの良い商品を開発・
製造・販売する構造となれば,日本の繊維産業は,国内 外で十分な国際競争力を発揮し得る.先進国の中で,日 本ほど衣類の輸出の少ない国はなく,これは裏を返せば,
大いなる可能性があることを意味している」18)と報告さ れているが,日本のファッション感性産業を輸出産業と して育成するためには,新興アパレル企業の努力ととも に,国レベルでの指導・助成が欠かせないであろう.
国内マーケットに目を向けれは,輸入浸透率の金額べ一
スでは未だ50%強であり,ベターゾーンから上のマーケットにおいては,まだまだ十分な可能性を有している.
その際には,短サイクルなトレンド変化に影響されやす く,価格競争に陥りがちで不透明な商慣習が残り,在庫 ロスを生みやすい既存のマーケットを避けて,消費者情 報を企画・生産にフィードバックできる形態で,オリジ ナリティのあるブランドコンセプトやビジネススタイル を追求して,新たな価値と魅力を発信することが必要な 要件となってくるであろう.現に,オリジナリティ溢れ るコンセプトでブランドを成立させて,消費者と価値観 を共有することで,その魅力を発信しているいくっかの 中小企業が存在している.
販売サイド,供給サイド,両者においてその環境が変
化する局面にあって,中国の低コスト生産力,海外ブラ
ンドの進出,日本のマーケットカという図式で成立して
きたファッションビジネスのグローバル化の第一幕は終
わり,日本のファッション感性産業が成長産業となりう
るかどうかを問われる段階に入ってきたのかもしれない.
古川 寛
追記
売上高で中位から下位のOEM企業が,本学卒業生の
就職先となっている.
注
1)新ファッションビジネス基礎用語辞典 (株)チャ ネラー
2)ビジネス用語辞典 wisdom 3)繊研新聞 2004年3月24日
4)産業構造審議会「新繊維ビジョン」2003年7月 5)繊研新聞 2004年3月24日
6)産業構造審議会「新繊維ビジョン」2003年7月 7)繊研新聞 2007年7月23日
8)繊研新聞 2004年3月25日「繊維・ファッション
産業の現状と展望」
9)繊研新聞2007年2月28日
10)繊研新聞 2007年7月23日11)繊研新聞 2006年12月18 日 12)ビジネス用語辞典 wis母om
l3)図2とも繊研新聞 2007年2月28日(図2は筆者が
一部アレンジ)
14)繊研新聞 2007年6月4日
15)産業構造審議会「新繊維ビジョン」2003年7月 16)繊研新聞2007年8月20日
17)繊研新聞 2007年7月24日