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中級日本語作文における学習者の相互支援活動
— 言語能力の差はピア・レスポンスにとって負の要因か —
原 田 三 千 代*
キーワード: 相互支援活動,ピア・レスポンス,協働学習,対話,双方向
要 旨
日本語作文教育において,教師主導型の添削に対し,最近ピア・レスポンスが注目を集めて いる.ピア・レスポンスとは,学習者同士で進める推敲活動のことであり,学習者が協働で互 いの作文を推敲することから,相互支援的な活動として評価することができる.本研究では,
そのような協働作文活動にとって,学習者の組み合わせにおける言語能力の差が負の要因とな るかどうかを問題とする.
本研究では,ピア・レスポンスが日本語能力に差のある組み合わせにおいて,対等で相互支 援的な活動として展開されているかを探ることを目的とし,研究1, 2を行った.研究1は,言 語能力の差が読み手,書き手という役割の遂行の仕方に影響を及ぼすかどうか,研究2は,役 割の遂行の仕方に違いがあるとすれば,それが活動の積み重ねによって変化するかどうかを検 討する.
発話機能と会話例の分析の結果,研究1では,初期のピア・レスポンスにおいて,日本語能 力にかかわらず読み手,書き手という役割意識があり,両者にはアドバイスの伝達・受容とい う一方向的な関係が観察される.しかし,話し合いの場の調整や社会的関係性の構築に向けて の努力が行われ,日本語能力の低い読み手が書き手に対して発言を繰り返すことによって,書 き手にもそれを受け止める兆しが表れている.
研究2では,活動の積み重ねによる変化に焦点を当てた.その結果,活動の推移とともに,
読み手と書き手の発話機能がアドバイスの授受から ‘意見’ ‘反論’ ‘説明’ ‘補足’ などへと変 化した.このことは会話例によっても裏付けられ,学習者の間には対等な立場で問題解決に取 り組もうとする,相互支援的な活動が生じていると考える.活動の積み重ねによって,支援の 方向は一方向から双方向へと変化し,読み手の日本語能力が書き手より低い場合であっても,
対等で相互支援的な関係に基づく対話生成の過程が展開されていると考える.
——————————————————
* HARATA Michiyo: お茶の水女子大学大学院博士後期課程.
1.
は じ め に作文課題を与えられた学習者が,習った文型や表現を使って文を書き,教師の添削を経て清書 するというクラスの一連の流れは,きわめて教師主導的で受身的な個別作業の中で行われている のではないだろうか.そこには,本来書くという行為に備わっているはずの思考の深まりや ‘だ れに向かって書くのか’ ‘何のために書くのか’ という読者意識や目的,あるいは課題に対して主 体的に取り組もうとする態度が感じられない.
こうした疑問は,第二言語としての英語教育(以下
ESL
) において提起され,80
年代のプロ セスアプローチ1の台頭の一要因ともなった.ただし,このアプローチは,書き手が創造的な思考 力を深めていく過程や文章の内容を重視するものであるが,読み手の存在が希薄であるという指 摘もなされている(岡崎・岡崎2001
).読み手がどのように読んだのか,内容が読み手にどう理 解されているのかなどについては,追究されないままである.他方,書き手の書く過程に具体的 な読み手を位置づけ,書き手に読み手の視点を意識化させるための活動として,最近ピア・レス ポンスが注目されるようになってきた.ピア・レスポンスとは1970
年代に第一言語としての英 語教育に,そして1980
年代に入ってからはESL
に導入された作文の学習方法で,学習者同士 の相互作用2による作文の推敲活動を指す.この活動は従来の教師主導型の添削に対し,学習者が 互いの作文に助言しあうという互恵的な目的をもつことから,相互支援的な活動としても評価す ることができる.しかしながら,ピア・レスポンスが双方に意義ある活動として成立するには,いくつかの要因 が作用すると考えられる.その一つに学習者の組み合わせの要因がある.特に中級レベルの学習 者の場合能力差の幅は極めて大きい.一般的に考えれば,言語能力の高い者 (
expert
) が低い者(
novice
) の作文に対して助言できるということは容易に想像できる.しかし,言語能力の低い者が高い者に対して助言できるかという点については,誰しも疑問に思うところであろう.この ような懸念は,当事者である学習者ばかりでなく学習活動を設定する側の教師にも生じるはずで ある.そこで,本研究では学習者間の言語能力の差に焦点をあて,作文推敲過程にピア・レスポ ンスを導入する場合に,言語能力に差があるグループにおいても学習者間の推敲活動が活性化さ れ,相互支援的な活動となりうるかどうかについて探り,日本語作文教育におけるピア・レスポ ンスへの応用の可能性を考えたい.
——————————————————
1 1980年代の後半から ESL の作文教育で注目されるようになったアプローチ.作文の完成までのプロ セスである ‘考えを練る’ ‘アウトライン’ ‘文章にする’ ‘書き直し’ などが非線状的に進むという考え 方に基づいている(岡崎・岡崎 2001).
2 Interaction の訳.本稿では相互作用を ‘言葉のやり取り’ とする.
2.
ピア・レスポンスの研究 2–1. 理論的背景ピア・レスポンスは,協働学習に依拠していると言われている(
Ferris 1998
).協働学習とは‘言語を媒介として他者との関係性を構築する学習活動’ (
Nunan 1992
) とされ,作文における協働学習としての協働作文は,プロセスアプローチの方法と学習者同士の相互作用を通して行わ れるとされる (
Murray 1992
).作文は,書く過程の中に書き手だけが存在する個別作業として 扱われることが多いが,ピア・レスポンスを導入することによって書く過程に読み手を位置づけ,読み手の視点を意識させる学習状況を設定することができる.ピア・レスポンスが協働学習とし てその意義が十二分に発揮されるためには,読み手と書き手の間に,言語を媒介にした社会的関 係性が構築されることが必要である.それは,言い換えるなら,対話を生成していく過程とみな すことができる.対話とは人間相互間の水平的関係を基軸において,人々が相互に伝えあう集団 的な創造の過程であり,そこには一方向的な受容や伝達ではなく,批判的探求を伴った双方向の 活動が展開される(フレイレ
1982
).ここに,対話の場において行われる,協働学習としてのピ ア・レスポンスの意義があると考える.2–2. 先 行 研 究
本研究では,協働学習の観点から,ピア・レスポンスにおける学習者の組み合わせの問題を考 えるために,まず学習者の言語能力に言及した先行研究を取り上げる.
ESL
において,ピア・レスポンスによる支援活動を分析した研究に
Villamil & Guerrero
(2000
)がある.Villamil
らは,
40
名のESL
の中級学習者を無作為に組み合わせ,そのうち広範囲な行動観察が可能な1
ペア (
novice–novice
) の支援活動を,時間軸に沿って詳細に記述している.支援活動は16
のエ ピソード3からなっており,ペアの一方である書き手のテクストを推敲する過程で,様々な足場作 り4が展開されていく.エピソード1
では,読み手が書き手に対してチューターの役割を果たし,書き手はそれを受け入れるだけであったが,読み手の介入によって,書き手は次第に自分のテク ストの修正や問題点の解消に積極的役割を果たすようになる.改善のための提案が両者から提出 され,エピソード
12
〜16
では協働で新たな産出を行うようになる.ここには,言語能力の差を 考慮しない組み合わせにおける,双方向の支援の可能性が示されている.日本語を第二言語とする学習者の言語能力の差に関する研究として,
Ohta
(2001
) が注目さ——————————————————
3 ‘書き手のテクストに関する問題や課題および課題の手続きについて議論した談話の単位’ (筆者訳)とす る.
4 scaffolding の訳.Wood, K. J. らによって提唱された概念で,能力の高い者から低い者への支援,大 人の主導的な支援を表す.
れる.
Ohta
は1
年に及ぶ日本語初級クラスの学習者7
人の授業観察を通して,言語能力の低い 者から高い者への働きかけが支援になるかどうかを探っている.そこからは,言語能力の高い者 であっても,自分では気がつかない言語または自分の不完全な言語が,言語能力の低い者との相 互作用によって変化し,新たな言語が創造されていく過程が示されている.Ohta
の研究は,言 語能力の低い者との相互作用によっても言語発達が促されることを示した点に意義がある.ただ し,その教室活動では,作文学習であるピア・レスポンスは扱われていない.日本語教育においてピア・レスポンスによる相互作用を分析した研究は,管見の限りごくわず かである.その中で,中級レベルの学習者
2
名を対象にした池田(1999
)の研究は,ピア・レス ポンスと教師・学習者カンファレンス5を比較した点で特筆される.結果は,ピア・レスポンスで は,教師・学習者カンファレンスで行われていなかった意味交渉が,文章中の語彙だけでなく,ピア・レスポンスにおいて使用された語彙についても行われ,自発的な文法練習が起きていたこ とを示している.池田の研究は,従来の指導法である教師・学習者カンファレンスとの比較によっ て,ピア・レスポンスの言語的な相互作用の特徴を顕在化させた点に意義があると考える.しか しながら,そういった特徴の基盤となる,読み手と書き手の社会的関係性の構築という点につい ては不明である.また,学習者間の言語能力の差に焦点を当てた記述もない.したがって,ここ での活動を有効にした要因が明確に特定できないという点が課題として残る.学習者同士の社会 的関係性の構築が,言語能力の差にどう関係してくるのかを探ることは,今後日本語教育でのピ ア・レスポンスの可能性を追求する上で重要な課題ではないだろうか.そのために,活動プロセ スをさらに詳細に分析する必要がある.
2–3. 研 究 目 的
本研究では,ピア・レスポンスが日本語能力に差のある組み合わせにおいて,対等で相互支援 的な活動として展開されているか,活動プロセスの面から探ることを目的とし,研究
1, 2
を設定 した.ピア・レスポンスは,一方が読み手,他方が書き手という役割を担って始められる.研究1
では,言語能力の差は,学習者(読み手・書き手)の役割の遂行の仕方に影響を及ぼすかどうか を検討する.遂行の仕方に違いがあるとすれば,それは時間的推移,あるいは活動の積み重ねに よって変化するのか.先述したVillamil
の研究は,1
回のピア・レスポンスの様相を時間軸に そって詳細に記述したものであり,先行研究において縦断的な経過による変化を観察した研究は 見当たらない.そこで,研究2
では,推敲の仕方に違いがあるとすれば,その違いがピア・レス ポンスの積み重ねによって変化するかどうかを検討する.——————————————————
5 教師による学習者に対する個人的指導法のことを指す.
3. 研究1: 学習者の役割(読み手・書き手)の遂行の仕方 3–1. 研 究 方 法
3–1–1. データの概要
本研究は,名古屋の某日本語学校において,
6
ヶ月間(2001
年10
月〜2002
年3
月)実施された 中級コースの作文クラス(4
時間を週1
回)活動を対象とした.対象者は,表1
に示すとおり,中 級日本語学習者5
名,18
〜25
歳の中国語母語話者である.表1 対象者のプロフィール 2001.10月現在 学習者 母 語 年齢 性別 在日期間 学習経験 学習目的 プレースメント 能力試験
B さん 中国語 20歳 女 6ヶ月 10ヶ月 大学進学 61点 2級レベル
H さん 中国語 25歳 女 0ヶ月 2年 大学進学 81点 2級レベル
K さん 中国語 19歳 男 6ヶ月 6ヶ月 大学進学 47点 2級レベル
M さん 中国語 19歳 男 10ヶ月 10ヶ月 大学進学 – 1級レベル
Z さん 中国語 18歳 女 6ヶ月 6ヶ月 大学進学 41点 2級レベル
3–1–2. 作文課題と学習活動
作文課題は “表現テーマ別 日本語作文の方法” (佐藤
1994
) を参考にした(表2
参照).一課 に2
週間(8
時間)かけ,一週目は課題の導入,二週目は課題として書いてきた第一作文をもとに,推敲を行った(課題
1, 6
は自己推敲,課題2
〜5
はピア・レスポンスによる推敲.本研究ではピ ア・レスポンスによる推敲のみを扱う).推敲後,第二作文を書き,6
ヶ月のコース中に六つの作 文を完成させた.作文量の指定は600
〜800
字である.表2 作文課題
課 テーマ 内 容 手続き
1 クラスメートの紹介 インタビュー後,紹介する 第一作文—自己推敲—第二作文
2 子どものころの家 位置関係を表す 第一作文—ピア・レスポンス—第二作文 3 環境問題 因果関係を表す 第一作文—ピア・レスポンス—第二作文 4 日本と中国の違い 比較する 第一作文—ピア・レスポンス—第二作文 5 意見を言う 意見をのべる 第一作文—ピア・レスポンス—第二作文 6 スピーチ スピーチを書いて発表する 第一作文—自己推敲—第二作文
少人数のクラスであったため,ピア・レスポンスはペアで行った.まず,それぞれの学習者が 相手の作文を
2
回黙読して書きいれ6をし,それに基づいてピア・レスポンスを行った(40
〜60
分).教師(筆者)は求められれば質問に応じたが,なるべくペアの話し合いを優先させ,誤りを正 すだけの推敲にならないように学習者を促した.活動はほとんど日本語で行ったが,日本語に行 き詰った場合には,部分的に中国語を使用した例もある(会話例4
参照).ピア・レスポンスは学 習経験の有無や導入の仕方,練習期間の影響を受けやすいとされるので (Stanley 1992
),作文 の最初の時間7に,以前の中級クラスの学習者が書いた作文をもとに,ピア・レスポンスによる推 敲の練習(4
時間)を行った.3–1–3. データの収集と分析方法
4
回の作文課題(課題2
〜5
)8に対するピア・レスポンスを録音した音声テープ(24
の組み合わ せのうち,録音が可能であった12
組9のテープ120
分で,1
回5
〜20
分程度のもの)をデータと した.本研究の対象者は,学習目的,母語,年齢などにおいて均質な中級クラスの学習者であったが,
日本語能力に関してはばらつきが見られた.そこで,学習経験,該当校のプレースメントテスト,
日本語能力試験から,
5
人の学習者のうちM
とH
を,このクラスの日本語能力の高い者と判 断した.M
はクラスの中で唯一の日本語能力試験一級合格者(2
ヶ月後)であり,H
は他の学習 者に比べて学習経験が長く(2
年間),プレースメントテストが最高点であったことを参考にした.クラスメートは一様に
H
とM
の日本語能力が自分達より上だと認識していた.日本語能力の——————————————————
6 相手の作文のいいところ,自分の考えと同じ・違うところ,わかりにくいところ,直すとよくなると思 うところを,相手の作文のコピーにマークし,書き込むように指示した.
7 あらかじめ中級クラスが始まった時点で,作文クラスに対するアンケートをとった.それに基づき,作 文の最初の時間に ‘相手にわかりやすい作文を書くにはどうしたらいいか’ についてクラスで話し合い,
ピア・レスポンスについても説明した.
8 4回の課題作文(課題2〜5)において,ピア・レスポンスを実質的に行った期間は3ヶ月である.その間 には,学校行事や長期休暇も含む.各学習者は,1回の課題作文で2〜3回のピア・レスポンスを行った.
9 データとして使用したのは,学習者に承諾を受けて録音した音声テープである.実際の教室活動の録音 のため,録音状態の悪いものはデータから除外した.
表3 学習者の組み合わせ 回数 読み手(左)・書き手(右)
1 K<H B=Z
2 M>B B<M Z<H
3 M>B B<M H>Z Z=K 4 M>B Z=K Z<H
*M>B は,読み手 M の日本語能力が書き手 B より高いことを表す.
異なる組み合わせにおいて,役割を交替した場合の役割の遂行の仕方の違いを考察するため,
12
の組み合わせのうち,初期のピア・レスポンス(2
回目)におけるB
とM
,M
とB
の組み合わ せを取り上げる.分析の手順は,まず量的に全体的な発話の傾向をつかむために,発話文10(総発話文
: 1235
)ご とに18
の発話機能(参考資料1
参照)にカテゴリー化し,各々の頻度数の比率11を出した.発話機 能の分類基準は,池田(1999
)の枠組みを参考にして筆者が修正したものである.池田との違い は,第一に,以下のようなカテゴリーの追加である.‘立場を述べる’ は ‘自分は作文を書いたこ とがないから,助詞も弱いから. . .
’ ‘中国語でいいます’ のように弁解や自分の方略を述べる,‘説明する’ は理由や例をあげて詳細に述べる,‘意見を言う’ は ‘知識のほうが範囲が広いと思 います’ のように自分の考えを述べることとし,‘句読点の使い方,注意してください’ などの
‘アドバイスする’ とは区別した.また ‘関係作り’ とは人間関係の構築に関わると考えられる感
謝,謝罪,冗談,和らげ(強い否定を避けた表現
:
‘はい,わかりましたけど. . .
’)などとし,初 期の活動で比較的頻繁に出現した ‘教師に助言を求める’ をつけ加えた.第二に,分析対象から 除外したものは,直接発話機能との結びつきが弱いと考えられる ‘文を読む’ ‘繰り返し’ ‘うな ずき’ などである.また,‘明確化要求’ ‘内容確認要求’ ‘評価の要求’ は内容に対する確認要求 としてまとめられると考え ‘確認を求める’ とした.全発話文の
20%
に対して,2
人の5
年以上の日本語教育経験者(筆者を含む)が分類を行い (86%
の一致率),残り80%
のデータは筆者が分類した.3–2. 結果と考察
発話機能の分析をもとに,会話例をあげながら質的な考察を行う.
研究
1
では,役割の交替によって言語能力に差のある学習者の遂行の仕方に,違いが見られる かどうかを考える.そのために,初期のピア・レスポンス(2
回目)において,読み手 (M
) の日 本語能力が書き手 (B
) より高い場合と,読み手(B
)の日本語能力が書き手(M
) より低い場合 を取り上げる.3–2–1. 読み手(M)の日本語能力が書き手(B)より高い場合: 日本語能力 M>B (2回目)
推敲活動は相手の作文をよくすることを目標にして始まったことから,当初より学習者には読 み手,書き手という明確な役割意識があったと考える.そこで,発話機能の特徴から日本語能力 に差のある組み合わせにおいて,こうした役割意識にどのような違いがあるかを推察し,両者の
——————————————————
10 宇佐美(2003)に基づき,発話文を ‘会話という相互作用の中における文’ とする.一発話文ごとにコー ディングしたが,同一話者の発話をまとめて記述した.
11 各々の発話機能における読み手,書き手ごとの発話文/該当回における総発話文.
関係性を考察する.図
1
は,初期のピア・レスポンス(2
回目)の記録から読み手 (M
) の言語能 力が書き手 (B
) より高い場合の発話機能の割合を示したものである.図1 読み手(M)と書き手(B) の発話機能の割合:日本語能力M>B(2回目)
図
1
によると,読み手の ‘アドバイスする’ の比率が突出していることがわかる.また,書き 手に比べて ‘不明点を指摘’ ‘意見提供’ ‘補足する’ ‘進行’ が多いことから,読み手は話し合い の進行を図り,アドバイスの与え手としての役割を担っていることがわかる.これに対して,書 き手は,読み手と比較して発話量(19
発話文)が少なく ‘確認を求める’ ‘同意する’ など受身的 な反応を示している.書き手に比べて読み手の発話量(39
発話文)や種類が多いことからも,読み 手主導型のやり取りが遂行されていると言える.読み手主導のやり取りの特徴が,具体的な会話にはどのように表れているだろうか.次に,そ の会話例を示す.
【例1】(→は注目する発話を指す)
→1 M 大きい問題はないです.ちいさいところ.
2 B たくさん?
→3 M ううん,たくさんじゃないよ.全体から見ると,いいと思います.
→4 B わからないところ,ありますか.
5 M これは,生活するにしたがって車ふえてきたほうがいいと思います.
6 B ああ,きたのほうが.
M
(読み手)は,最初に全体的な印象を述べ,修正したほうがいいと思うところを作文を見な がら指摘し始める.これに対して,B
(書き手)はM
に ‘わからないところ,ありますか’ と 尋ね,読み手に自分の意図したことが伝わっているかどうかを確認している.M
は ‘大きい問 題はない,小さいところ’ ‘たくさんじゃないよ.全体から見るといいと思う’ のように,B
(書 き手)に対し,否定的な指摘を緩和するような配慮をしながら対応している.【例2】—例1の続き
→7 M うん,これ,主語,何が.
18 16 14 12 10 8 6 4 2 0
教師に助言を求める 関係作り 進行 話題提示
不明点を指摘 質問に答える 確認を求める
同意する 否定する 意見を言う
アドバイスする 反論する
立場を述べる アドバイス要求
説明する 補足する 自己評価 他者評価
(%)
M B
8 B 主語?
→9 M 主語,何か.
10 B 昔と比べると. . ..
11 M 何が比べるか,昔と比べるか,あのうわかりにくいので,
12 B うーん,主語はない?
→13 M とても便利になった.何がとても便利になった.
→14 B あとここから,生活. . .,何がとても便利になったとかはっきり言って,わからない? 15 M 読めませんでした.何ですか,今の生活,とても便利になった,昔と比べると.
16 B 昔と比べるととても便利になった.とても便利になったは,昔とくらべると,とても 便利になった.車ももてるようになった.
17 M これ,ここに,現在とか書いたほうがいい.
18 B うんうん.
M
は,B
に対して ‘主語が何か’ と繰り返し明確化要求をするが,B
は主語を明確にできない.そこで,
M
はそれが文章のわかりにくさにつながっていると考え,B
に対して文法用語で はなく,具体的な質問の仕方で ‘何がとても便利になったのか’ と繰り返し説明を求めている.これに対し,
B
は14
で ‘生活’ という言葉で応答しようとするが,2
人の議論は十分かみあっ ているとは言えない.しかし,M
は,何がわかりにくさの原因になっているのか,自分なりの 解釈をして,書き手に対峙している.これまで述べてきた
B
とM
の相互作用は,この後の推敲の際に書き手のプロダクトを変化 させるだろうか.プロダクトがどのように変化したのかを見るために,B
の第一作文と第二作文 の該当箇所を比較してみる.第一作文: 私たちにとって,昔と比べると,とても便利になった.
第二作文: 私たちにとって,生活は昔と比べると,とても便利になった.
B
は,第二作文に ‘何が’ にあたる部分,すなわち ‘生活は’ を書き加えることによって,実 際にM
(読み手)に示唆された ‘アドバイス’ を受け入れている.つまり,M
とB
の相互作用 は日本語能力の高い読み手から低い書き手への一方向的な流れになっていると考えられる.しか し,相手の作文を丁寧に読み,相手に配慮しながら助言するという読み手の態度が,活動を円滑 に進める足場作りになっていることが推察される.では,逆に読み手 (
B
) の日本語能力が書き手 (M
) より低い場合にはどうだろうか.上述の ペアの役割が交替した場合について見てみる.3–2–2. 読み手(B)の言語能力が書き手 (M)より低い場合:日本語能力B<M(2回目) 図
2
はB
とM
の役割が交替した場合の発話機能の割合を示している.全体的に読み手の発話量(読み手
: 45
発話文,書き手: 22
発話文)や種類が多く,両者にはばら つきがみられる.特徴的なのは,読み手が書き手に ‘アドバイスする’ よりも ‘不明点を指摘’‘立場を述べる’ ‘説明する’ ‘関係作り’ が多いことである.日本語能力の低い読み手 (
B
) は,アドバイスによる貢献には至らず,事情説明や ‘関係作り’ に時間を費やしている.一方,書き 手は読み手の ‘質問に答える’ よりも ‘補足’ によって,不完全な読み手の発言(あるいは自分の 発言)を完成させたり言い換えたりしていることがわかる.次の会話例
3
では,‘アドバイス’ よ りも自分の ‘立場の説明’ をする読み手の発話の特徴をよく表している.【例3】
1 B (人の名前)の3回,4回ぐらい読んだ.だけど わたし,上手じゃない,へた,あま りわからない.助詞使うことば. . ..だから,それに,それでもとかわからない.
→2 M できるだけ教えてください.
3 B あと,ここ,‘問題の社会に生きているわたしは’ ‘問題の社会’ って今の社会?
4 M うん.
5 B 問題?
6 M うん.
7 B ‘問題がよく起きるの社会’ のほうが.
8 M えっ,あ,ああ./沈黙3秒/
9 B 自分で決めた,社会問題,今,問題の社会自分で思った,‘問題よく起きるの社会で 生きている’.
10 M 納得しました.
B
(読み手)は,自分自身の日本語力がM
(書き手)より未熟だということを過剰に意識しており,
B
の発話は自己弁明から始まる.しかし,自分の日本語力に自信のない態度をとるB
に対 し,M
が ‘できるだけ教えてください’ (2
) と謙虚な発話をしたことによって,2
人の相互作 用は円滑に進んでいく.ここでB
が問題として取り上げたかったのは ‘問題の社会’ というフ レーズである.B
は,それを ‘自分で問題だと決めた社会’ と解釈し,M
に対し ‘問題がよく 起きる社会’ のほうがいいと助言している.‘納得しました’ というM
の反応を得たことによっ て,次の発話(会話例4
)へと発展している.会話例4
では,B
が自己弁明しながらも少しずつ‘不明点を指摘’ し ‘アドバイス’ を試みようとしている.
図2 読み手(B)と書き手(M)の発話機能の割合:日本語能力B<M(2回目) 18
16 14 12 10 8 6 4 2 0
教師に助言を求める 関係作り 進行 話題提示
不明点を指摘 質問に答える 確認を求める
同意する 否定する 意見を言う
アドバイスする 反論する
立場を述べる アドバイス要求
説明する 補足する 自己評価 他者評価
(%)
B M
【例4】—例3の続き
11 B あと,何に何を考えているのか,何にじゃなくて. . .. 12 M うんうん,あ,そうそう,何を.
13 B それに,こういう言葉ね,わたしもわからない.〈2人とも笑う〉
14 B 助詞一番弱いから ‘を’ とか ‘に’ とかいう. . .できない. それに, こういうできな い.あと,これ,家族の,
15 M 養う.
16 B ああ /沈黙6秒/ これ,なに? 養.
→17 M 学生 的. . . 我也不\ .
それにどういう意味,わたしも忘れました.〈2人とも笑う〉
→18 B あと,こっちのほう,‘生きぬ’ で ‘生きない’.否定のほうね.‘生きぬ’ だから ‘死 ぬ’.否定になるから?
→19 M 最後まで,最後まで.
→20 B これだったら ‘生きぬ,生きぬ’ で ‘死ぬ’ ことになった,じゃない? 21 M /沈黙3秒/
22 B 大きいのまちがいない,ない.それにとか,あと,それでとか接続がよくわからない.
23 M ふん.ありがとうございました.
→24 B たぶん,ここの意味,反対の意味になる.
25 M ふうん.
→26 B ここ,たぶんちゃんと生きているほう,いいんじゃないかな.こうしたら. . ..
→27 M あとで,先生に聞きます.
→28 B うん.作文,書いたこと,今まで,これで2回目,3回目だから,前は書いたことな いから.助詞も弱くて,わからない,ありがとうございます.
29 M はい,どうも.
B
(読み手)は自分の日本語力に自信がなく,頻繁に自己弁明を繰り返している(13, 14, 22, 28
).しかしながら,
B
は読み手の役割をできるだけ果たそうとして,アドバイスを行っている様子が 窺える.これに対してM
(書き手)は,日本語力では優位な立場に立ちながらも,自分が書いた 言葉に対して ‘自分もどういう意味,忘れました’ (17
) と自分の不足を表明する.これは,明 確なアドバイスができずに ‘わたしもわからない’ ‘こういうできない’ と述べたB
に対して,‘筆者である私自身もどういう意味か忘れてしまったのだから,気にしなくてもいい’ という意味
を含めたのではないか.
M
は自信のないB
に対して,読み手としての責任を軽減するような配 慮をしていると考えられる.しかし,
2
人の会話はそれぞれ文章の理解につながる発話をしていても,十分絡み合っている とは言えない.それは18
以下の2
人の発話に端的に表されている.B
には,M
の文章の中に 納得がいかない箇所があった.それは18, 20
で示されているが,B
が ‘生きぬく’ という語の 区切りを間違えて ‘生きぬ’ つまり ‘死ぬ’ と解釈したことに起因している.B
は文脈から判断 して ‘死ぬ’ という意味にはならないので,M
が間違ったのだと確信している.18, 20
でB
は それを指摘し,一旦22
で話題を変えても,24, 26
では再び ‘否定にはならないこと’ に話を戻 した.このことからも,B
の中ではこれがM
に対して指摘すべきこととして意識されている.その間,‘最後まで最後まで(生きる)’ (
19
) というM
の言葉はB
の耳には入っていない.日 本語能力の高いM
はB
のアドバイスを積極的に受け入れようとしているわけではないが,そ うかといって受け入れない理由づけや反論もなく,この場面では聞き流しているようにも見受け られる.ここでは,M
が内容に関するやり取りよりもB
との関係性の維持を優先しようとして いたのだと考えられる.しかし,
M
の発話によって,それまで積極的に発話していたB
が再び自信のない態度にも どってしまう.M
が ‘あとで,先生に聞きます’ (27
)と教師にアドバイスを託してしまったか らである.それを受けて,B
は28
で再び自己弁明を繰り返し,読み手としての責任が十分果た せなかったという自信のなさを露呈している.さらに,アドバイスをした側であるにもかかわらず ‘ありがとうございます’ と謝辞を述べている.読み手としての役割が十分果たせなかったに
もかかわらず,自分の発言に耳を傾けてくれたことに対する感謝とも受け取れる.活動後,
M
は 教師にこの箇所について質問し,プロダクトは次のように変化した.第一作文: 家族とかのために,生きぬけれよかったではないのか.
第二作文: 家族とかのために,生きぬけばよかったのではないか.
B
の指摘は相互作用の中で結実したとは言い難く,直接プロダクトに反映されてはいない.し かし,それが,M
にとっては自分自身に対する問題提起となり,教師の助力を経て修正に結び ついている.B
の貢献度は両者に意識されていないものの,言語能力の低い読み手から投げかけ られた疑問が修正への足がかりとなっていると言える.以上のことから,初期のピア・レスポンスにおいては,学習者の意識の中に潜在的に読み手が アドバイスの与え手,書き手がアドバイスの受け手という役割分担の構図があると推測される.
それは,読み手の頻繁な ‘アドバイス’ に端的に示されている.書き手は読み手にその能力があ ると認めれば,読み手からのアドバイスを受け入れるが,認めなければ,他にアドバイスを受け るに足る存在,すなわち教師に助言を求めることになる.また,読み手が自分自身にその能力が ないと自覚している場合は,自己弁明が行われ ‘関係作り’ や ‘進行’ を促すなど,話し合いの 場を調節することによって,読み手の役割を果たそうとしていることが窺われる.いずれの場合 も読み手から書き手への働きかけは一方向的であり,指摘されたことを受容するかどうかの選択 権は書き手に委ねられている.そこに成立している両者の関係は伝達・受容の関係である.すな わち,ピア・レスポンスの初期の段階では,対等で双方向の支援活動に熟成するまでには至って いないと言えるであろう.しかし,両者には少なくとも相手の話に耳を傾け,できる限り自分の 言葉で説明しようとする態度が見られ,それが両者の信頼関係を構築する基盤となっていること が注目される.また,日本語能力の低い読み手の指摘であっても,それを書き手にぶつけること によって,書き手の中に疑問を生み出した.つまり,書き手は,それを自分の作文の問題として
受け止めることができたと言える.
4.
研究2:
ピア・レスポンスの積み重ねによる変化研究
1
では,読み手,書き手という役割意識から読み手主導の活動が生じていることが観察さ れた.また,日本語能力の低い読み手であっても,書き手に対する指摘を繰り返すことで,書き 手にはそれを受け止める兆しが表れていることが示された.この兆候は活動の推移によってどの ように変化していくのだろうか.研究2
ではピア・レスポンスの積み重ねによる変化に焦点をあ てる.4–1. 研 究 方 法
研究
1
と同様の研究方法を用い,言語能力の低い読み手 (Z
) と高い書き手 (H
) の初期(2
回 目)と後期(4
回目)のピア・レスポンスを取り上げる.表4 学習者の組み合わせ 回数 読み手(左)・書き手(右)
1 K<H B=Z
2 M>B B<M Z<H
3 M>B B<M H>Z Z=K 4 M>B Z=K Z<H
4–2. 結果と考察
4–2–1. 読み手(Z)の言語能力が書き手 (H)より低い場合:日本語能力: Z<H(2回目)
図
3
は,日本語能力の低い読み手(Z
) と高い書き手(H
)の初期のピア・レスポンス(2
回目) の発話機能の割合を表している.読み手の発話量,種類ともに書き手を上回り(読み手: 30
発話 文,書き手: 13
発話文),アドバイスの占める比率が高いことから,読み手主導の相互作用が行 われていたことがわかる.図
3
を見ると,読み手 (Z
) はアドバイスの与え手として読み手の役割を忠実に果たそうとし ていることが示唆される.しかし,Z
のアドバイスに対して書き手(H
)は ‘Z
さんの言うこと がわからない’ という感想を時々教師に漏らしていた.その部分の会話を以下に示す.【例5】
1 Z ええっと,前から.これ,この文,わけもわからないので,どうして,会うたびに言 うの挨拶言葉ですか.この文が(ああ,ああ)わからない.
2 H はい,はい.
3 Z あうたびに挨拶の言葉を言うのほうがいいと思います./沈黙12秒/ 4-a Z 挨拶言葉,
5 H うんうんうん.
4-b Z これはちょっとおかしいと思います.
6 H 挨拶. . ..
7-a Z うん,挨拶の言葉をいう,
8 H /沈黙3秒/
7-b Z のほうがいいと思います.
Z
は,H
に対して ‘挨拶言葉’ ではなく ‘挨拶の言葉’ にするようにアドバイスしているが,H
はただ相槌を打つのみで,沈黙を保つことが多かった.Z
のアドバイスに対して,H
は反応 に窮し,意思表示をしない選択をしていたと考えられる.両者のやり取りはあまりかみ合ってい ないように見える.ところが,このようなやり取りも回を重ねることで何らかの変化が見られる ようになる.次に後期のピア・レスポンス(4
回目)について述べる.4–2–2. 読み手(Z)の言語能力が書き手 (H)より低い場合: Z<H (4回目)
後期のピア・レスポンス(
4
回目)は前期(2
回目)に比較すると大きく変化していることがわか る.図
4
は,後期(4
回目)における発話機能の割合を示したものである.両者の発話機能の比率が 拮抗し,種類,量(読み手: 112
発話文,書き手: 97
発話文)ともバランスよく配列されている.このことから,読み手がアドバイスの与え手,書き手が受け手という役割の境界が曖昧になって きたのではないかと考えられる.両者の間にはアドバイスの授受という単純なやり取りではなく
‘意見’ ‘反論’ ‘説明’ ‘補足’ の比率が高くなり,‘話題提示’ ‘進行’ が減少している.つまり,
‘意見’ ‘反論’ などが増加することで学習者間には,対等な立場で問題解決に当たろうとする姿
勢が見られるようになったことが窺われる.一方 ‘話題提示’ ‘進行’ の減少は,話し合いの進行 図3 読み手(Z)と書き手(H)の発話機能の割合: 日本語能力Z<H (2回目)
18 16 14 12 10 8 6 4 2 0
教師に助言を求める 関係作り 進行 話題提示
不明点を指摘 質問に答える 確認を求める
同意する 否定する 意見を言う
アドバイスする 反論する
立場を述べる アドバイス要求
説明する 補足する 自己評価 他者評価
(%)
Z H
や調整に時間をかけなくても,自律的に話し合いを遂行する環境作りが行われていたことが示唆 される.
次に,会話例
6
において,4
回目のピア・レスポンスでは,相槌や沈黙が多かった書き手(H
) が,不明点や自分の意図と異なる点について明示的に言語化するようになったという変化がある.それと同時に,
Z
とH
の間には相手の不完全な表現をお互いに補足しあったり,相手の誤りに 対して同時に声を合わせて修正するといった相互補完的な相互作用も見られる.【例6】
→1 Z 私たちのいいですか.
2 H はい,はい.
3 Z ええっと,前から.この文,‘何度も言うと変だと思われる’,ええっと,受身形だっ たら ‘思われる’,でも ‘思う’ のほうがいいと思う.
4 H /沈黙3秒/
5 Z でも ‘思われる’,ええっと,私がそう思うでしょ.ええっと人々じゃなく.
6 H ちがう,ちがう.私の国,私の国,あまり言わない.何回も言う,変だなと思われる.
7 Z あ,そうですか.でも私の国じゃなくて,私の国の人々,人々と思います.
8 H うんうんうんうん.
9 Z あ,そうですね,‘思われる’.
10 H ‘私の国は’ じゃなくて ‘私の国では’.
11 Z はい.
12 H 相手に変だと思う.
→13 HZ れ,れ,れ,(H,Z 同時に) 14 H 間違えた.
→15 HZ 変だと(H,Z 同時に)思われる.〈笑い〉
→16 H はい,わかりました.
推敲活動に入る前に
Z
(読み手)が ‘わたしたちのいいですか’ (1
)と切り出しているように,H
(書き手)の作文を共有のものとして話し合いを開始している.ここでの2
人の話題は ‘受身を使うか’ ‘主語が何か’ ということである.
Z
は ‘私が思う’ のだから ‘思われる’ ではなく 図4 読み手(Z)と書き手(H)の発話機能の割合: 日本語能力Z<H(4回目)18 16 14 12 10 8 6 4 2 0
教師に助言を求める 関係作り 進行 話題提示
不明点を指摘 質問に答える 確認を求める
同意する 否定する 意見を言う
アドバイスする 反論する
立場を述べる アドバイス要求
説明する 補足する 自己評価 他者評価
(%)
Z H
‘思う’ がいいとアドバイスしたが,
H
は納得していない.H
が ‘わたし’ ではなく ‘私の国’ のことを言いたかったのだと持ち出すことによって,Z
は ‘不特定多数の人’ が ‘思う’,つま りどうして受身を使ったのかを理解する.H
はZ
によって ‘思われる’ の背後にある ‘人々’を意識し,‘私の国は’ ではなく ‘私の国では’ にすることを自ら提案している.
Z
はそれに同 意し受身の形を二人で同時に訂正し合っている(13, 15
).16
でH
自身が納得しているように,Z
との相互作用によって,H
は自らの表現意図を確認できたのではないかと考える.【例7—例6の続き】
17 Z 試験のために塾へ行くのは,これは,塾の本当の意味がなくなります.この文,おか しいと思います.は何々です.行くのは. . ..
18 H 行くのは.
19 Z 行くのは,これ,主語でしょ.は何々です,何々じゃありません.でも,一つの文で 二つの主語がありました.
20 H 二つの主語?
21 Z はい.
22 H そんなことない.二つの主語あることないよ.一つよ.行くのでは. . ..
23 Z でもわたしの意見は,試験のために塾に行くのは,塾の本当の意味ではありませんと 思います.本当の意味ではありません.
24 H 試験のために塾行く,行くのは,塾の本当の意味ではありません.
25 Z はありません.
26 H (人の名前)直してくれるの意味,わたしいいたいの意味,ちょっとちがう.
27 Z はい.
28 H わたし言いたいの意味は,試験のために塾行くのは,あのう,塾,本当の意味でなく なります.
29 Z はい.
30 H なくなる.塾はちゃんと知識,何かいろいろ教えてくれるところ.
31 Z はい.
32 H ただ試験,試験のために塾に行くのは,塾,本当の意味なくなる.
33 Z はい,はい,わかりましたけど. . ..
34 H (人の名前)言ったの,試験のために塾行くのは,塾の本当の本当の意味ではありませ ん.本当の意味じゃない.
35 Z じゃないの意味.でも試験のために塾に行くの塾行くのは,塾の本当の意味がなくな ります.
→36 H この中で言いたいのは,この意味がなくなる ‘試験のためにだけ塾に行くと塾の,本 当,本当の意味がなくなる’ の意味.
Z
とH
は,各々 ‘塾の本当の意味ではない’ と ‘塾の本当の意味がなくなる’ の違いを説明 しようとしている.Z
は二文の構文のずれを指摘しているが,‘〜は〜が’ 構文に影響されて‘一つの文で二つの主語がありました’ と述べている.これを見ると,