前立腺癌骨転移に対するデノスマブの 初期治療経験
古谷 洋介,関根 芳岳,小池 秀和,松井 博 柴田 康博,伊藤 一人,鈴木 和浩
群馬大学大学院医学系研究科泌尿器科学*
デノスマブは RANKL に対するモノクローナル抗体で破骨細胞の分化,活性化を抑制し骨転移による 骨関連事象の発症リスクを低下させる。今回,2012 年 6 月〜 2013 年 12 月に当科でデノスマブを 投与開始した前立腺癌骨転移症例 20 例を対象に治療効果と有害事象について検討した。骨代謝マー カーの尿中 NTx はデノスマブ投与 1 ヵ月後に低下,1CTP は 3 ヵ月後に低下を示した。骨痛を認め た 8 例中,3 例で疼痛の改善を認めた。低カルシウム血症を 3 例で認め,いずれも Grade 2 以下で あった。下顎骨骨髄炎を 1 例発症したが,保存的加療で改善した。デノスマブは強力な骨吸収抑制作 用を有し,ゾレドロン酸からの切り替え例でも有効である可能性が示唆された。また低カルシウム血 症,顎骨壊死に注意することで比較的安全に投与可能である。
前立腺癌,骨転移,デノスマブ
はじめに
前立腺癌は高率に骨転移を起こす癌の 1 つであ る。前立腺癌の診断時に骨転移を有する症例がい まだに 10%程度1)存在し,去勢抵抗性前立腺癌
(Castration-resistant prostate cancer:CRPC)
となった時点では 80%以上に骨転移を認める2)。 骨転移による骨痛・病的骨折・脊髄圧迫症状など の骨関連事象(Skeletal-Related Event:SRE)の 存在は患者の QOL 低下を招くだけでなく,予後 にも悪影響を与える3)。また前立腺癌の治療とし てアンドロゲン除去療法やステロイドが用いら れ,これらは治療に伴う骨塩量の減少を招く。そ のため治療中の前立腺癌においてはさらに SRE を引き起こしやすい骨環境にあり,前立腺癌の骨 転移症例に対しては SRE の予防,治療が非常に 重要である。
骨転移に対する治療薬として,第 3 世代ビスホ スホネート製剤(BP 製剤)であるゾレドロン酸 に加えて,デノスマブが使用可能となった。デノ スマブは NFκB 活性化受容体リガンド(receptor
activator of nuclear factor-kappa B ligand:
RANKL)に対するヒト型モノクローナル IgG2 抗体であり,破骨細胞の分化,活性化に必要な RANK-RANKL シグナルを阻害し強力な骨吸収 抑制作用を有する。デノスマブはゾレドロン酸と 比較して SRE 出現までの期間を延長し,初回お よび初回以降の SRE 発現リスクを低下させる4)。 その一方で,デノスマブは低カルシウム血症の副 作用頻度がゾレドロン酸と比べ多く,本邦でも死 亡例を含む重篤な低カルシウム血症の報告があり 注意を要する。今回,当科にて前立腺癌骨転移に 対してデノスマブを投与した症例について,治療 効果および副作用について検討した。
Ⅰ.対象・方法
群馬大学医学部附属病院泌尿器科において,
2012 年 6 月から 2013 年 12 月までに前立腺癌骨 転移に対する治療としてデノスマブ投与を開始し た 20 例を対象とした。デノスマブ 120mg を 4 週 ごとに皮下注射にて投与し,高カルシウム血症を 認めない症例はすべてデノスマブ投与開始時から ビタミン D 製剤±カルシウム製剤の内服を行っ た。とくに腎機能障害を有する症例では活性型ビ Prostate Journal 1(1), 2014, 159〜164
要旨
*前橋市昭和町 3-39-22(027-220-8306)〒 371-8511
タミン D の内服を行った。全例でデノスマブ投 与前に歯科で口腔内スクリーニングを行い侵襲的 な歯科処置を要する症例では事前に治療を行っ た。デノスマブ投与開始前と 4 週間毎に骨吸収 マーカーとして,尿中Ⅰ型コラーゲン架橋 N- テ ロペプチド(NTx),Ⅰ型コラーゲン C 末端テロ ペプチド(1CTP),骨形成マーカーとして骨型 アルカリフォスファターゼ(BAP)を測定した。
血清補正カルシウム,推算糸球体濾過量(esti- mate glomerular filtration rate:eGFR)の変化 をデノスマブ投与前,2 週間後および 4 週ごとに 測定した。データは平均値±標準偏差(mean±
SD)で表記した。有意差検定には t 検定を用い,
p<0.05 を有意差ありとした。有害事象について は有害事象共通用語基準(Common Terminolo- gy Criteria for Adverse Events:CTCAE) ver.
4.0 に基づいて評価した。
Ⅱ.結 果 1.患者背景
対象症例は 58 〜 87 歳(中央値 72 歳)の男性 20 例で観察期間は平均 27 週間であった。対象症 例の患者背景を表 1に示す。経過観察期間中,5 例が原疾患の進行による全身状態悪化で,および 1 例が低カルシウム血症で治療を中止した。
デノスマブ投与前に骨痛を自覚していた症例は 8 例であったが,3 例(37.5%)でデノスマブ開
始後 1 〜 2 ヵ月後に疼痛の改善を認めた。そのう ちの 2 例は内服していたオピオイド鎮痛薬を中止 可能であった。
2.骨代謝マーカーの変化
全症例の尿中 NTx/Cr の 1 ヵ月後の変化(図 1A),
6 ヵ月以上の経過観察が可能であった 9 例の骨代 謝マーカー:尿中 NTx/Cr,1CTP,BAP の変化 をそれぞれ図 1B,C,Dに示す。NTx/Cr はデ ノスマブ投与後 1 ヵ月から低下し,その後低下作 用が維持された。1CTP は 3 ヵ月目から有意に低 下を認めた。BAP は明らかな変動を認めなかっ た。またゾレドロン酸投与歴のある症例について もデノスマブ投与後 1 ヵ月で尿中 NTx は低下し,
その後 5 ヵ月間の観察期間中は低下作用を維持し た(図 2)。
3.腎機能への影響
各症例の腎機能について eGFR の変化を図 3 に示す。血液透析中の症例を含むさまざまな腎機 能レベルの患者にデノスマブを投与したが,腎機 能に対する明らかな悪影響を認めなかった。ま た,腎機能障害を有する症例においてとくに副作 用が強くでる傾向は認めなかった。
4.血清補正カルシウムの変化
経過観察中に低カルシウム血症を 3 例で認めた
(表 2)。Grade 1 の 2 症例はビタミン D 製剤とカ ルシウム製剤の内服で速やかに血清補正カルシウ ム 値 は 正 常 化 し デ ノ ス マ ブ 投 与 を 継 続 し た。
Gleason score 7 89
1 例 (5%)
4 例 (20%)
15 例(75%)
投与時 PSA (中央値) ng/ml 0.14 〜 481.92 (39.415)
EOD score 1
23
2 例 (10%)
10 例(50%)
8 例 (40%)
CRPC 16 例(80%)
ゾレドロン酸投与歴あり
投与期間(平均)週 12 例(60%)
4 〜 96(51.0)
eGFR (ml/min/m2) ≧60 30 〜 59 15 〜 29
<15
13(65%)
4 (20%)
2 (10%)
1 (5%) 血液透析中
Prostate Journal 1(1), 2014 前立腺癌骨転移に対するデノスマブの初期治療経験
Grade 2 の 1 例はアルファカルシドール 1μg/day と乳酸カルシウム 3g/day の内服を行ったが低カ ルシウム血症が遷延したためデノスマブ投与を中 止したところ 1 ヵ月後に血清カルシウム値は正常 化した。
入院でデノスマブ投与を開始した 16 症例につ いてデノスマブ投与 2 日後,5 日後,1 週間後の 短期間の血清補正カルシウム値の変化を調べた
(図 4)。血清補正カルシウム値はデノスマブ投与 2 日後〜 1 週間の間に有意に低下し,2 週間後に は投与前のレベルまで改善を認めた。
5.その他の有害事象
1 例でデノスマブ投与開始 4 ヵ月後に下顎骨骨 髄炎を発症した。3 ヵ月間のデノスマブ休薬と口 腔ケア,抗生剤内服による保存的治療により下顎 骨骨髄炎は改善しデノスマブ投与を再開可能であ った。
全症例でデノスマブ投与後に発熱などの急性期 反応を認めなかった。
Ⅲ.考 察
今回,前立腺癌骨転移 20 症例に対してデノス マブによる治療の効果と有害事象を検討した。ゾ レドロン酸治療で十分な効果を得られなかった症 例を含む全症例で,骨吸収マーカーである尿中 NTx の低下を認めた。重篤な低 Ca カルシウム血 症や顎骨壊死などのデノスマブに特徴的な有害事 象もみられなかった。そして,発熱などの急性期 反応や腎機能障害といったゾレドロン酸に特徴的 とされている有害事象は認めず,大規模臨床試験 で報告されていたデノスマブの特徴を実臨床の場 で確認することができた。
骨代謝マーカーについて,骨形成マーカーであ る BAP や骨吸収マーカーの NTx,1CTP などが 前立腺癌骨転移において高値を示すことが多く,
図 1 デノスマブ投与後の骨代謝マーカーの変化
A:全症例における 1 ヵ月後の尿中 NTx/Cr の変化,B:6 ヵ月間の尿中 NTx/Cr の変化,C:6 ヵ月 間の血清 1CTP の変化(基準値:<4.5 ng/ml),D:6 ヵ月間の BAP の変化(基準値:3.7 〜 20.9μg/l)
*:p<0.05 vs 0M, **:p<0.01 vs 0M 0
0 2 4 6 8 10 12 14
デノスマブ開始後期間(月)0M
デノスマブ開始後期間(月) デノスマブ開始後期間(月)
デノスマブ開始後期間(月)
0M 1M 2M 3M 4M 5M 6M
0M 1M 2M 3M 4M 5M 6M 0M 1M 2M 3M 4M 5M 6M
(n=20)
(n=9) (n=9)
(n=9)
**
* * * *
** ** ** **
** **
1M 20
尿中NTx/Cr (nmol/mmol) 1CTP(ng/ml) BAP(μg/l)尿中NTx/Cr (nmol/mmol)406080100120140160180A B
C D
0
0 20 40 60 80 100 120
−20 2040 6080 100120 140160 180
図 2 ゾレドロン酸からデノスマブ切り替え例の尿 中 NTx/Cr の変化
**:p<0.01 vs 0M 70 60 50 40 30 20 10
0 0M 1M 2M
デノスマブ開始後期間(月)3M 4M 5M 尿中NTx/Cr (nmol/mol)
(n=8)
**
**
** **
**
さらに SRE 発症率や死亡率とも関連することが 報告されている5 〜 7)。Coleman ら8)は骨転移を 有する前立腺癌を含む固形癌患者においてゾレド ロン酸投与を受けても尿中 NTx 値が高値である 群では正常化した群と比較して SRE の発症や病 勢の進行,死亡の頻度が高いと報告している。デ ノスマブはゾレドロン酸と作用機序が異なり,ゾ レドロン酸無効例に対してデノスマブへの切り替 えが奏効する可能性がある。Fizazi ら9)による と前立腺癌を含む癌の骨転移症例について,静注 ビスホスホネート製剤で尿中 NTx が正常化しな かった 111 例を,デノスマブ 180mg 移行群とビ スホスホネート製剤継続群の 2 群に分け比較し,
デノスマブ移行群で尿中 NTx が有意に低下する ことを報告した。今回の検討でもゾレドロン酸か らデノスマブに切り替えた症例において骨吸収 マーカーの低下を認めた。デノスマブがゾレドロ
ン酸より強い骨吸収抑制作用を有し,ゾレドロン 酸無効例に対してデノスマブへの切り替えが有効 である可能性が示唆された。一方で BAP は明ら かな変動を認めず,短期間では骨形成マーカーに 変化を及ぼさない可能性が考えられる。
デノスマブは強力な骨吸収抑制作用のため,低 カルシウム血症の発症率が高く4),死亡例を含む 重篤な低カルシウム血症の報告もあり注意が必要 である。デノスマブ投与時には天然型あるいは活 性型ビタミン D,カルシウム製剤の経口投与が必 要である。今回の検討では適切にビタミン D,カ ルシウムの投与を行うことで Grade 3 以上の低カ ルシウム血症は認めなかったが,1 例で Grade 2 の低カルシウム血症が遷延しデノスマブ投与を中 止した。この症例では腎機能障害などを認めなか ったが,経口による食事摂取や内服が困難であり カルシウム摂取量が不足した可能性が考えられ
投与前 0 20 eGFR(ml/min/m2)
40 60 80 100 120
2 week 1M
デノスマブ開始後の期間
2M 3M 4M 5M 6M
症例 4症例 5 症例 6症例 7 症例 8症例 9 症例 10 症例 11 症例 12 症例 13 症例 14 症例 15 症例 16 症例 17 症例 18 症例 19 症例 20
表 2 低カルシウム血症の発現例
Grade 年齢 PSA(ng/ml) EOD eGFR(ml/min) ゾレドロン酸投与歴
1 1 74 41.19 2 36.5 あり(5 ヵ月)
2 1 71 24.37 2 58.4 なし
3 2 71 183.89 3 103.6 あり(14 ヵ月)
低カルシウム血症の発現時期
1:3 ヵ月目 (1 ヵ月後に改善),2:5 日目,7 日目 (1 週間後に改善)
3:2 日目 Grade 1,2 週間目〜 1 ヵ月後 Grade 2 (1 ヵ月後に改善)
Prostate Journal 1(1), 2014 前立腺癌骨転移に対するデノスマブの初期治療経験
参考文献
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of skeletal morbidities on longitudinal patient-re- ported outcomes and survival in patients with metastatic prostate cancer. Suppor Care Cancer 15:869-876, 2007
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9) Fizazi K, Bosserman L, Gao G, et al:Denosum- ab treatment of prostate cancer with bone me- tastases and increased urine N-telopeptide levels た。今回の検討によるとデノスマブ投与開始後の
血清カルシウム低下は 2 日後〜 1 週間の間に起こ ることが多く,初回投与時は 1 週間以内の間に 1 度は血清補正カルシウム値のモニタリングを行う ことが必要と考えられた。Okada ら10)の報告に よるとデノスマブによる低カルシウム血症のリス クファクターとして腎機能障害(クレアチニンク リアランス<50.0ml/min)とゾレドロン酸による 前治療歴のない症例があげられている。とくに広 範囲に骨転移を有する症例の初期治療ではデノス マブ投与により急激に骨吸収が抑制されることか ら低カルシウム血症のリスクが高いと考えられ る。その他,副甲状腺機能の低下あるいは亢進状 態には注意が必要で,腎機能障害によるビタミン D 活性化障害が疑われる症例では活性型ビタミン D 製剤の内服を行うことが必要である。
顎骨壊死の副作用について,デノスマブはゾレ ドロン酸と比べ有意差はないがやや多い傾向にあ り11),BP 製剤と同様に注意が必要である。顎骨 壊死は BP 製剤やデノスマブなどの Bone Modi- fying Agent(BMA)投与中に抜歯などの侵襲的 歯科治療を行った場合に発症リスクが高く,可能 な限りこれらの薬剤の投与前に口腔内のスクリー ニングを行い侵襲的歯科治療は事前に済ませてお くべきである。BMA 投与中に歯科治療が必要と なった際,BP 製剤は休薬により顎骨壊死の発生 を予防するというエビデンスはない。デノスマブ に関しては血中半減期が 1 ヵ月前後と比較的短く 歯科治療前の休薬が効果的な可能性がある。今回,
図 4 デノスマブ投与後の血清補正カルシウムの短 期変化
**:p<0.01 vs 投与前
投与前 2 日後 5 日後
デノスマブ開始後期間
1 週間後 2 週間後 1 ヵ月後 10
9.5 9 8.5 8 7.5
血清補正カルシウム(mg/dl) ** ** **
(n=16)
デノスマブ投与中の顎骨骨髄炎を 1 例経験した が,3 ヵ月のデノスマブ休薬と保存的歯科治療に よって改善した。顎骨骨髄炎が早期に改善したの はデノスマブの骨への蓄積効果が少ないことが関 連していると考えられる。
今回の検討よりデノスマブは強力な骨吸収抑制 作用を有し,前立腺癌骨転移症例に対する SRE 予防,予後改善の効果が期待される。また低カル シウム血症,顎骨壊死などの有害事象に注意する ことで比較的安全に投与可能であると考えられた。
calcemia induced by denosumab. Biol Pharm
Bull 36:1622-1626, 2013 1341-1347, 2012
Abstract
Initial Experience of Denosumab Treatment for Prostate Cancer with Bone Metastases
Yosuke Furuya, Yoshitaka Sekine, Hidekazu Koike, Hiroshi Matsui,Yasuhiro Shibata, Kazuto Ito and Kazuhiro Suzuki Department of Urology, Gunma University Graduate School of Medicine
Denosumab is a monoclonal antibody against RANKL, and inhibits differentiation and activation of osteoclasts. That leads to reduction of skeletal related events in patients with bone metastasis. Here, we report the initial experience of denosumab treatment to patients with bone metastasis in the Gunma University Hospital. During June, 2012 to December, 2013, 20 patients were treated with denosumab. Urinary levels of NTx and serum levels of 1CTP were decreased at 1 month and 3 months after the initiation of treatment, respectively. 8 patients complained skeletal pain, and 3 out of 8 were relieved. The efficacy of denosumab was observed in patients with previously treated zole- dronic acid. Hypocalcemia was observed in 3 patients, grade 1 in 2 and grade 2 in 1. Mandibular osteomyelitis was observed in one patient, and successfully treated with a non-invasive manner. Denosumab has a potential to inhibit bone absorption and seems to be effective in patients with previous treatment history of zoledronic acid. We need to have a special attention to hypocalcemia and osteonecrosis of the jaw.
key words:Prostate cancer, Bone metastasis, Denosumab