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当院における転移性腎癌に対するイピリムマブ,ニボルマブ併用療法の初期経験

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Academic year: 2021

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−52− 松江市立病院医学雑誌 第 24 巻 第 1 号:52−57,2020 症 例

当院における転移性腎癌に対するイピリムマブ,

ニボルマブ併用療法の初期経験

弓岡 徹也,文田 昌平,山口 広司,瀬島 健裕

要 旨 本邦では化学療法未治療の根治切除不能または転移性腎細胞癌に対して 2018 年 8 月よりイピリ ムマブ・ニボルマブ併用療法が承認された.当院でイピリムマブ・ニボルマブ併用療法を経験した ので報告する. 症例 1:54 歳,男性,右腎癌 cT1bN0M0 の診断にて腹腔鏡下右腎摘除術を施行した.病理診断は 淡明細胞癌,pT1b であり,その後,経過観察の方針としていた.11 ヵ月後の定期画像検査にて局 所再発,肝浸潤を認め,イピリムマブ・ニボルマブ併用療法の適応と考えた.イピリムマブ・ニボ ルマブ併用療法 4 コース後の評価は Partial Response(PR)であり,その後ニボルマブ単独療法を継 続している.現在,ニボルマブ単独療法 28 コース施行している.有害事象は下痢 Grade 2,副腎機 能不全 Grade2 を認めた. 症例 2:68 歳,女性.左上腕骨骨折にて当院整形外科受診した.その際の CT にて右腎癌を指摘され, 左上腕骨骨接合術の骨組織病理で腎癌の骨転移の診断であった.右腎癌 cT3aN0M1 と診断し,同月, 開腹右腎摘除術(副腎合併摘除)を施行した.病理組織診断は淡明細胞癌,pT3a であった.その後, 左上腕骨に対して局所放射線 30Gy 照射し経過観察としていた.10 ヵ月後の CT,骨シンチにて新 規骨転移巣を認めたため,イピリムマブ・ニボルマブ併用療法の適応と考えた.イピリムマブ・ニ ボルマブ併用療法 4 コース後の評価は Stable Disease(SD)であり,その後ニボルマブ単独療法を 継続している.現在,単独療法に移行し 28 コース施行している.有害事象は甲状腺機能異常 Grade1 を認めた. 両症例とも大きな有害事象なく投与可能であった.現在,ニボルマブ単独療法を施行中であり病 勢の進行を認めていない. Keywords:腎細胞癌,免疫チェックポイント阻害薬,薬物療法 は じ め に 化学療法未治療の根治切除不能または転移性腎細胞 癌の International Metastatic Renal Cell Carcinoma Data-base Consrtium(IMDC)リスク分類の中,高リスクに 対して 2018 年 8 月よりイピリムマブ・ニボルマブ併 用療法が保険適応となった.今回,当院で転移性腎細 胞癌に対してイピリムマブ・ニボルマブ併用療法を 2 例経験したので報告する. 症 例 症例 1:54 歳,男性 主訴 なし 既往歴 高血圧 現病歴 近医より右腎腫瘍の治療目的に当院紹介受診 された.CT にて右腎に 6 cm 大の腫瘍を認めた(図 1). 腎細胞癌,cT1bN0M0 と診断し,同年 12 月に腹腔鏡下 右腎摘除術を施行した.病理結果は Clear cell carcinoma with sarcomatoid carcinoma component,pT1bN0M0, Fuhman grade 4 であった。以後,外来経過観察を行っ ていた.11 ヵ月後,定期受診の CT 検査において肝転 松江市立病院 泌尿器科

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−53− 移,局所再発を認めた. 検査所見  血算:WBC 4.9×103/μl,RBC 4.89×106/μl,Hb 12.6 g/ dl,Plt 28.4×104/μl. 生化,血清:TP 6.57 g/dl,Alb 4.21 g/dl,T-Bil 0.6 mg/ dl,AST 18 IU/l,ALT 19 IU/l,ALP 194 IU/l,LDH 189 IU/dl,γ GTP 33 IU/l,Na 141 mEq/l,K 4.4 mEq/l, Cl 107 mEq/l,Ca 9.2 mEq/l,BUN 18.7 mg/dl,Cr 1.31 mg/ dl,CRP 0.05 mg/dl.

CT 画像所見(図 2) 肝表面に造影効果を伴う結節, 肝転移,局所再発を認めた.

経過

Karnofsky PS 90 %,IMDC リスク分類は Intermediate risk であり,1 次治療としてイピリムマブ・ニボルマブ 併 用 療 法( イ ピ リ ム マ ブ 1 mg/kg, ニ ボ ル マ ブ  240 mg/body)を開始した.4 コース終了後の CT では転 移巣,局所再発巣ともに縮小しており Partial Response (PR)を認めた.以後,ニボルマブ単独療法(ニボルマ ブ 240 mg/body を 2 週間毎)を継続しているが再燃は 見られていない(図 3).有害事象として 2 コース終了 後に下痢 CTCAE Grade 2 が出現したため,3 コース目 の投与を延期したが,自然軽快し,投与再開した.ま た単独療法に移行し 8 コース終了した時点で ACTH 191 pg/ml と高値を認めた.内分泌内科紹介し,副腎機 能不全 Grade2 と診断され,ヒドロコルチゾン補充療法 開始となった.その後悪化は認めず,ニボルマブ単独 療法を継続している. 症例 2:68 歳,女性 主訴 左上腕痛 既往歴 高血圧,統合失調症 現病歴 左上腕骨骨折にて当院整形外科を受診した. CT 検査で右腎腫瘍を指摘され,当科紹介となった(図 4).左上腕骨骨折に対して左上腕骨骨接合術を施行さ れ,その際に採取した骨折部の血腫の病理検査から, 腎 細 胞 癌 の 骨 転 移 と 診 断 さ れ た. 腎 細 胞 癌, cT3aN0M1 と診断し,同月,開腹右腎摘除術を施行し た.病理組織診断は Clear cell carcinoma,pT3aN0M0, Fuhrman grade 2 > 3 であった.その後,左上腕骨に対 して局所放射線 30Gy 照射し経過観察とした.10 ヵ月 後の Xp にて左上腕骨骨破壊像の拡大,骨シンチにて 右第 1 肋骨,脊椎,胸骨,右大腿骨に新規病変を認めた. 検査所見  血算:WBC 6.3×103/μl,RBC 4.28×106/μl,Hb 12.5 g/dl, Plt 25.5×104/μl.

図1

図 1 右腎に 6cm 大の腎腫瘍を認めた.明らかな転 移所見は認めず.

図2

図 2 肝表面に造影を伴う結節性病変,肝転移,副腎摘除部の局所再発

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図4

図 4 左上腕骨病的骨折,右腎に 13cm の腎腫瘍を認めた.

図3

図 3 併用療法 4 コース後には病巣の造影効果がなくなり縮小,単独療法 6 コース施行後も再燃なし.RECIST 評価:PartialResponse 治療前 併用療法 4 コース後 単独療法 6 コース後

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生化,血清:TP 7.71 g/dl,Alb 3.87 g/dl,T-Bil 0.5 mg/ dl,AST 25 IU/l,ALT 69 IU/l,ALP 368 IU/l,LDH 211 IU/dl,γ GTP 27 IU/l,Na 139 mEq/l,K 4.1 mEq/l, Cl 103 mEq/l,Ca 9.0 mEq/l,BUN 14.4 mg/dl,Cr 0.95 mg/ dl,CRP 1.71 mg/dl. 上腕骨 Xp 骨破壊像の拡大を認めた(図 5). 骨シンチ 右第 1 肋骨,胸骨,Th5,L3,右大腿骨に 新規骨転移を認めた(図 6). 経過

Karnofsky PS 60 %,IMDC リスク分類は Intermedi-ate risk であり,1 次治療としてイピリムマブ・ニボル マブ併用療法(イピリムマブ 1 mg/kg,ニボルマブ  240 mg/body)を開始した.4 コース終了後の CT 検査 では転移巣は著変なく,新規転移巣を認めず,Stable Disease(SD)を認めた.以後,ニボルマブ単独療法(ニ ボルマブ 240 mg/body を 2 週間毎)を継続している が新規転移巣は見られていない.有害事象としてニボ ルマブ単独療法に移り,1 コース終了した時点で破壊 性甲状腺炎を認めた.無症状であり,TSH 0.09 μIU/

ml,free T3 4.49 pg/mL,free T4 1.72 ng/dL,TRAb < 0.8

IU/L,抗 Tg 抗体 < 0.8 IU/L,抗 TPO 抗体 < 9 IU/L, 図 6 左上腕骨に加えて,新たに右第 1 肋骨,胸骨,Th5,L3,右大腿骨に骨転移を認めた

図6

図5

図 5 左上腕骨の骨破壊が進み,ほぼ上腕骨が融解していた.

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−56− TSAb 101 %を認めた.内分泌内科に紹介し,破壊性 甲状腺炎と診断された.その後,潜在性機能低下とな りレボチロキシン内服開始された.その後は,悪化を 認めず,ニボルマブ単独療法を継続している. 考 察 イピリムマブ・ニボルマブ併用療法は,未治療転移 性腎細胞癌に対する国際共同第Ⅲ相試験(Checkmate 214 試験)において,スニチニブ群と比較して有意に全 生存率(Overall survival:OS)の延長を認めた1).18 ヵ 月全生存率はイピリムマブ・ニボルマブ併用療法群 75 %,スニチニブ群 60 %であった.客観的奏効率は 42 %に対し 27 %(P < 0.001),完全奏効率は 9 %に対 して 1 %であった.本邦では 2018 年に IMDC リスク分 類の中∼高リスク群でイピリムマブ・ニボルマブ併用 療法が保険適応となった.今回,当院での初期経験の 2 例として報告した. 転移性腎細胞癌は,抗癌剤や放射線療法に抵抗性と され,免疫療法薬 IFN- α,IL-2 が使用されていたが, 治療成績は十分ではなく,奏効率は 10 %前後,全生存 期間の中央値も 1 年と報告されていた2).その後,2006 年に血管新生阻害をターゲットとした分子標的薬が登場 し,転移性腎細胞癌の治療は分子標的薬を中心に実施さ れるようになった.これら分子標的薬は一定の治療効果 は得られるが,薬剤のみで Complete response(CR)が得 られる症例は少なく,また,効果は永続的ではなく,い ずれ腫瘍の再燃が出現する3).その後,2015 年に免疫 チェックポイント阻害薬であるニボルマブが登場し,二 次治療以後の転移性腎細胞癌に対する国際共同ランダム 化第Ⅲ相試験(Checkmate 025 試験)で,これまでの二 次治療であったエベロリムスより OS,奏効率ともに有意 にニボルマブ郡で高いと報告された4).さらに先程述べ た Checkmate 214 試験よりイピリムマブ・ニボルマブ併 用療法が出現し,さらなる治療成績の向上が期待される. 一方,免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連 副作用(immune-related adverse events: irAE)は,ニボ ルマブ単剤,イピリムマブ単剤での irAE の発生頻度 と比較して併用療法では上昇すると報告されている 5).症例 1 では下痢 Grade 2 が出現したが,ニボル マブ単剤で 20 %,イピリムマブでは 30 %に下痢が見 られると報告があり,イピリムマブ・ニボルマブ併用 療法では Grade 3 が 15 %と高頻度に出現し重篤化する 可能性があり注意が必要である6-8).原発性副腎機能不 全に関しては,発症頻度は低いが,副腎クリーゼなど に発展する場合もあり,早期発見と適切な対処が必要 である.症例 2 では甲状腺機能異常が出現したが,併 用療法では甲状腺機能低下が 13.6 %,甲状腺機能亢 進が 8.2 %と高頻度に認められると報告されている9) 定期的な甲状腺機能のチェックを行う必要があり,疑 われる場合には早急に内分泌内科に相談することが重 要である.その他,下垂体機能障害,1 型糖尿病等の 内分泌 irAE の頻度も併用療法では単剤よりも高頻度 で認めるため十分な注意が必要である9).一方で甲状 腺の免疫関連有害事象と治療効果は相関するとの報告 もあり,今後の治療効果が期待される10) 当院の症例では,併用療法終了後にニボルマブ単独 療法を継続しているが,症例 1 では現在ほぼ CR に近 い評価となっている.また症例 2 でも病勢の進行を認 めていない.現時点で投与期間は明らかになっておら ず,当院の方針としては副作用による中止や病勢の悪 化が認められない限り単独療法を継続する予定である. 結 語 イピリムマブ・ニボルマブ併用療法の 2 例を経験し た.重篤な副作用はなく,治療効果も認められた.今後, 適応症例があれば積極的に施行していく予定である. 文 献

1)Motzer RJ, Tannir NM, McDermott DF, et a1.: Nivolumab plus Ipilimumab versus Sunitinib in Ad-vanced Renal-Cell Carcinoma. N Engl J Med 2018; 378: 1277-1290.

2)Motzer RJ, Mazumdar M, Bacik J, et al.: Survival and prognostic stratification of 670 patients with advanced renal cell carcinoma,J Clin Oncol 1999; l7: 2530-2540. 3)Iacovelli R, Alesini D, Palazzo A, et al.: Targeted

thera-pies and complete responses in first line treatment of metastatic renal cell carcinoma. A meta-analysis of pub-lished trials. Cancer treat Rev 2014; 40: 271-275. 4)Motzer RJ, Escudier B, McDermott DF, et al.:

Nivolumab versus everolimus in advanced renal-cell carcinoma. N Eng J Med 2015; 373: 1803-1813. 5)Escudier B, Porta C, Schmidinger M, et al.: Renal cell

carcinoma: ESMO Clinical Practice Guidelines for di-agnosis, treatment and follow-up. Ann Oncol 2019; 30: 706-720.

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6)Arriola, E., Wheater M, Karydis I, et al.: Infliximab for IPLIMUMAB-Related colitis. Clin Cancer Res 2015; 21: 5642-5643.

7)Larkin, J, Chiarion-Sileni V, Gonzalez R, et al.: Com-bined Nivolumab and Ipilimumab or Monotherapy in Untreated Melanoma. N Engl J Med 2015; 373: 23-34. 8)Postow MA, Chesney J, Pavlick AC, et al.: Nivolumab

and ipilimumab versus ipilimumab in untreated mela-noma. N Engl J Med 2015; 372: 2006-2017.

9)Barroso-Sousa R, Barry WT, Garrido-Castro AC, et al.: Incidence of endocrine dysfunction following the use of different immune checkpoint inhibitor regimens: a sys-tematic review and meta-analysis. JAMA Oncol 2018; 4: 173-182.

10)Cousin S, Italiano A.: Molecular Pathways: Immune Checkpoint Antibodies and their Toxicities . Clin Can-cer Res 2016; 22: 4550-4555.

図 5 左上腕骨の骨破壊が進み,ほぼ上腕骨が融解していた.

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