博 士 ( 農 学 ) 自
桑 好
学位論文題名
Raffinose Synthesis by Q
―Galactosidase from Absidia cory7nbiferaIF0 8084
ほbsidia corymbiferaIF0 8048由来Q一ガラクトシダーゼによる
ラフイノースの合成)
学位論文内容の要旨
糖 質 ,特 に 砂 糖は 従 来1次機 能のエ ネルギ一 源および2次機能の甘 味料とし て他の糖 質 に比ペ非常 に優れた 味質と物 性を用い ,多用さ れてきた 。しかし,近年になり糖質の過 剰 摂取による 肥満や成 人病の問 題の原因 物質とし て認識さ れ,砂糖の消費は滅少傾向が続 い てい る。その 流れから ,健康の 維持や回 復に寄与 する,即ち ,生理調 節機能を 有する3 次 機能として の機能性 糖質の要 求とそれ に応じた 新たな機 能性糖質の開発が重要視されて いる。
ラ フィノース は難消化 性オリゴ 糖の一種 類であり ,特にビ フアズス菌に選択的に資化 さ れやすく, これを顕 著に増殖 させる作 用があり ,腸内フ ローラの改善に有効であること が 明らかにな ってきた 。また, 最新の研 究報告に よるとア トピ一皮膚炎への影響が疑われ る カンジダ菌 を有意に 減少させ ,ラフア ノースの 経口投与 が有効な治療手段になりうるこ と が明 らかにな った。そ の他,ラ ットをモ デルとし た一連の研 究によっ て肝障害 (B型肝 炎 )を抑制す ることが 報告され ているし ,歯周病 と腸内フ ロ―ラによる免疫賦活との関連 を 研究した例 ではラフ アノース 投与が多 型核自血 球(好中 球)の貪食作用や,マイトジェ ン (PHA)の刺 激 に よる 非 特異 的Tリ ン パ球 幼 若化 反 応 を亢 進 する事 などが報 告されて い る。また,臓器移植の際,保存液として有効で有り,.即ち,,生理調節機能性糖質としての 役 割 だ け じ ゃ な く 多 方 面 で の ラ フ ア ノ ー ス の 利 用 価 値 が 増 加 し 続 け て い る 。 ラ フアノ―ス は現在, 工業的に は砂糖の 原料であ るビ―ト の糖蜜から抽出工程により 製 造されてい る(日本 甜菜製糖 株式会社 )。しか し,ビー トの中に含まれているラフィノ ー スの含量は0.1%程度 と極めて 微量であ り,比較 的高価な オリゴ糖である。そこで,酵 素 合成法によ って有用 なラフア ノースを より簡単 かつ低コ ストで生産することが望まれて い る 。ラ フ ア ノー ス の酵 素 合 成は 糖転移酵 素である ガラクトシ ルトラン スフェラ ーゼに よ って特異的 に合成す ることが 既に可能 であるが ,基質で あるUDP‑galact oseが非常に高 価 であり,ま たこの酵 素自体が 不安定な 性質を持 っている ためこの方法によるラフィノ―
ス の 合 成 は 現 実 的 に 不 可 能 で あ る 。 一 方 , 加 水 分 解 酵 素 で あ るa‑ガラ ク トシ ダ ・ ゼ
(EC3.2.1 .22)は砂糖の 結晶化に 悪影響を与える有害物質としてのラフアノースを除去す
るた め使われてきたが,この酵素の縮合反応,即ちラフアノースの分解産物である砂糖と ガラ クトスを基質とした逆反応を利用し,ラフィノースを合成出来る可能性がある。さら に, 最近消費が滅少し続いている安価の砂糖を利用し,経済的に付加価値が高いラフィノ
―ス を創出できるという有望な方法である。しかし,ー般的に逆反応でオリゴ糖を合成す る場 合,転移反応を利用して合成する時に比べて反応速度が遅いため,大量の酵素で長時 間反 応させる必要性が予想される。また,特異性が低下し,生成物は種々の結合様式のオ リゴ 糖の混合物になる可能性がある。従って,オリゴ糖の合成に逆反応を行うためにはよ り高 い特異性を持っている加水分解酵素の利用とその酵素を大量に得る必要が当面課題に なってくる。
我 々はこのような観点から有用なラフィノースをより経済的かつ高特異的に生産するた めに は,Absidia corymbifera IF0 8084のa‑ガラクトシダ‐ゼ(EC3.2.1.22)がこのよう な目 的に適したことを確認した。即ち,逆反応を引き起こすため受容体として高濃度の砂 糖 (70% ) と 特 異 性 を 高 め る た め に 供 与 体 とし て 低 い 濃 度 のa−D一 ガ ラ ク ト ス (10
% ) を 採 用 し た 反 応 系を 構 築 し , ラ フィ ノ― スの 合成 を試 み,10% 程度 の転 換率 を得 た。 この 転換 率はAjisakaら によ って報告された転換率よりやや少ないものであるが,本 酵素 の方 が高 い特 異性 を持 ち, より 立体 選択的 にラ フィ ノー スを合成することが分かっ た。
し かし,糸状菌であるAbsidia corymbifera IF0 8084が生産するa‑ガラクトシダ‐ゼの 分泌 量は非常に少ないため,安定したラフアノースの大量生産を実用化させるためにはよ り簡 単,且つ大量にこの酵素を得ることが必要である。さらに,分子レベルでの解析と改 変を 通し て一 層逆 反応 の機 能を 強化 した 新しい 酵素 の開 発が 期待される。この様な目的 で, 我々 はAbsidia corymbifera IF0 8084のa‑ガラ クト シダ ・ゼ遺伝子をcDNAクローニ ン グ よ っ て 取 得 し 、 その 塩 基 配 列 を 決定 した 。取 得し たcDNAは2,190bpか らな り、730 アミ ノ酸 残基 をコ ‐ド し、 その タンパク質の分子質量は82,712Daと決定された。推定ア ミノ酸配列の分析結果,Absidia corymb´艪厂aIF08084のロ‐ガラク卜シ彡′‐ゼの構造が4 量体であるこ・とが明らかになった。このa.ガラクトシダーゼ遺伝子の推定アミノ酸配列を 既知 のa‐ガ ラクト シダ ‐ゼ 遺伝 子と比較したところ,family36と高い相同性を示した。
近年 ,遺 伝子 組換 え技 術の 目覚 まし い進展 によ り, 種々 の宿主‐ベクタ―系を利用 し, 組換えタンバク質を大量に産生させることが可能になっている。その中でも,大腸菌 を宿 主とする発現系は菌体の増殖速度が早く,大量培養が簡単であり,何よりも組換えタ ンパ ク質を大量に産生するため,工業的にみても非常に魅力的なタンパク質生産システム である。従って,我々は大腸菌を宿主として選び,月6s耐艪c〇′ M6′お′aIF08084から 取得 したa‐ガラクトシダ‐ゼcDNAの大量発現を試みた。a・ガラクトシダ‐ゼcDNAを大腸 菌用 発現ベクタ‐pET21b(十)のファ―ジ由来の強カなT7プ口モー夕下流に挿入し宿主大 腸菌BL21(DE3)株 より 供給 され るT7RNAボリメ ラー ゼに より 転写させた。しかし,この 発現 プラスミドpE汀21(b十)/galaによるa‐ガラクトシダ・ゼの菌体タンパク質の20% にも 及ぶ大量発現が見られたが全ての発現タンバク質は細胞内で不溶性の封入体を形成し 酵素 活性 は見 られ なか った 。そ こで 不溶 性の封 入体 を回 収し ,8Mの尿素で可溶化後,段
階 的に透析の尿素濃度を低下させ,可溶化の再生を試みたが,a‑ガラクトシダ‐ゼの活性 は見られなっかた。
そ こ で我 々は 可溶 性発 現夕ン バク 質を 得る ため にcDNAを 大腸 菌用 発現 ベク タ‑pET32‑
EヨくノLICのthioredoxin配列の下流に挿入し、融合タンパク質発現系を構築した。構築した 発 現ベ ク夕 ‐pET32Trx/galゼ を大腸 菌に 形質 転換 した とこ ろ、融合タンパク質の大量発 現が確認された。さらにベクタ‐由来のhistidine tagを利用したアフィニテイークロマトグ ラ フ ィ ・ に よ り 一 段 階 で 単 ― 酵 素 と し て 精 製 さ れ た 。精 製 酵 素 の 融 合 夕 ン バ ク 質 を enterokinaseに よっ て切 断し 、本酵素のN末端配列を決定したところ、nat ive酵素のN末 端 配 列 と同 じで あっ た。 精製し た融 合タ ンパ ク質 のpHと温 度に 対す る挙 動は 、Absidia corymbifera IF0 8084からの精製酵素とほぼ同じであった。
さらにこれらの知見を基に,活性部位の解明と変異株の作成によるラフィノースの合成 をさらに効率よく行う優れた新しい酵素の開発が期待できる。
学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主 査 教授 冨田房男 副 査 教授 横田 篤 副査 助教授 浅野行蔵
学位 論文題名
Ra 伍 nOSeSyntheSiSby Q ― GalaCtOSidaSe from4 ぬ ¢ d 励 c 〇 ッ 絖 ろ め 朋 IF08084
は ぬ 耐 をcorymbiferaIF0 8048由来a― ガラ クトシ ダー ゼに よる ラ フ イ ノ ー ス の 合 成)
ラフアノ―スは難消化性オリゴ糖の一種であり,特にビフィズス菌に選択的に資 化されやすく,腸内フローラの改善に有効であることが明らかになってきた。また,
アトピ一皮膚炎への影響が疑われるカンジダ菌を有意に滅少させ,ラフアノ―スの経 口投与が有効な治療手段になりうることが明らかになった。その他,肝障害(B型肝 炎)の抑制,多型核自血球(好中球)の貪食作用や,マイトジェン(PHA)の刺激によ る非特異的Tリンバ球幼若化反応を亢進する事などが報告されている。また,臓器移植 の際の臓器保存液として有効である。このように,生理調節機能性糖質としての役割 だ け で な く 多 方 面 で の ラ フ ア ノ ― ス の 利 用 価 値 が 増 加 し 続 け て い る 。 ラフィノ―スは現在,工業的にはスクロースの原料であるビ―ト糖蜜からの抽出 により製造されているが,ビートの中に含まれているラフアノ―スの含量はO.1%程度 と極めて微量であり,比較的高価なオリゴ糖である。そこで,酵素合成法によって有 用なラフィノ―スをより簡単かつ低コストで生産することが望まれている。ラフアノ ースは糖転移酵素であるガラク卜シルトランスフェラ―ゼによって特異的に合成する ことが既に可能であるが,基質であるUDP‑galact oseが非常に高価であり,またこの 酵素自体が不安定な性質を持っているため,この方法によるラフィノ―スの合成は現 実的に不可能である。一方,加水分解酵素であるa‑ガラクトシダーゼはスクロースの 結晶化に悪影響を与える有害物質としてのラフィノ―スを除去するため使われてきた が,この酵素の縮合反応,即ちラフィノースの分解産物であるスクロ―スとガラクト ースを基質とした逆反応を利用し,ラフアノ―スを合成出来る可能性がある。さら に,最近消費が滅少し続けている安価なスクロ―スを利用し,経済的に付加価値が高 いラフアノースを創出できるという有望な方法である。しかし,―般的に逆反応でオ リゴ糖を合成する場合,転移反応を利用して合成する時に比べて反応速度が遅いた
め, 大量 の酵 素で 長時 間反 応さ せる必 要性 が予 想さ れる 。ま た, 特異性が低下し,生 成物 は種 々の 結合 様式 のオ リゴ 糖の混 合物 にな る可 能性 があ る。 従って,オリゴ糖の 合成 に逆 反応 を行 うた めに はよ り高い 特異 性を 持っ てい る加 水分 解酵素の利用とその 酵素を大量に得る必要が当面課題になってくる。
申 請者 はこ のよ うな 観点 から 有用な ラフ アノ ース をよ り経 済的 かつ高特異的に生産 するためには,Absi〔打・ac〇ヅm6´′eralF08084のa‐ガラクトシダーゼがこのような目 的に 適し たこ とを 確認 した 。即 ち,逆 反応 を引 き起 こす ため 受容 体として高濃度のス クロ ース (70%) と, 特異 性を 高める ため に供 与体 とし て低 い濃 度のa‐D.ガラクト ース (10%) を採 用し た反 応系 を構築 し, ラフ アノ ース の合 成を 試み,10%程度の転 換率 を得 た。 この 転換 率はAjisakaら によって報告された転換率よりやや少ないもので ある が, 本酵 素の 方が 高い 特異 性を持 ち, より 立体 選択 的に ラフ アノースを合成する ことが分かった。
しかし,糸状菌である4白s′〔ね∞ヅm6´′eraIF08084が生産するa‐ガラクトシダー ゼの 分泌 量は 非常 に少 ない ため ,安定 した ラフ アノ ース の大 量生 産を実用化させるた めに はよ り簡 単, 且つ 大量 にこ の酵素 を得 るこ とが 必要 であ る。 さらに,分子レベル で の 解 析 と 改 変 を通 し て 一 層 逆 反 応 の 機 能を 強化 した 新し い酵 素の 開発 が期 待され る。 この 様な目的で,申請者は46s′舶c〇ッm6/′e′alF08084のa‐ガラク卜シダーゼ 遺 伝 子 をcDNAク ロー ニ ン グ よ っ て 取 得 し 、そ の塩 基配 列を 決定 した 。取 得し たcDNA は2|190bpか ら な り 、730ア ミ ノ 酸 残 基 を コ ー ド し 、 そ の タ ン パク 質 の 分 子 量 は 82,712Daと決定された。推定アミノ酸配列を分析した結果,月6S刪・a c〇ヅm6´′era
|F08084のa‐ ガラ クト シダ ―ゼ の構 造は4量体 であ るこ とが 明ら かになった。そこで 可 溶 性 発 現 タ ン バク 質 を 得 る た め にcDNAを大 腸菌 用発 現ベ クタ .pET32゜EK/LICの thioredoxin配 列 の 下 流 に 挿 入 し 、 融 合 タ ン バク 質 発 現 系 を 構 築 し , 発 現ベ ク夕・
pET32Trx/galaを 大腸 菌に 形質 転換し たと ころ 、融 合タ ンバ ク質 の大量発現が確認さ れた 。さ らに べク 夕一 由来 のhistidinetagを利 用し たア フィ ニテ イークロマトグラフ イ ー に よ り 一 段 階 で 単 ― 酵 素 と し て 精 製 さ れ た 。 精 製 酵 素 の 融 合 タ ン パ ク 質 を enterokinaSeによ って 切断 し、 本酵素 のN末端 配列 を決 定し たとこ ろ、natiVe酵素のN 末 端 配 列 と 同 じ で あ っ た 。 精 製 し た 融 合 タ ン パ ク 質 のpHと 温 度 に対 す る 挙 動 は 、 月ぬ ´cねc〇ヅm6′′eraIF08084からの精製酵素とほぼ同じであった。今後はこれらの 知見 を基 に, 活性 部位 の解 明や 変異の 導入 によ るラ フィ ノ― スの 合成により適した新 しい 酵素 の開 発が 期待 でき る。 このよ うに 本論 文は ラフ アノ ―ス の工業的製法に新た な手法を提供する価値が有るものと評価される。
よ って 審査 員一 同は ,自 桑好 が博士 (農 学) の学 位を 受け るに 十分な資格を有する ものと認めた。